説明

末端変性アクリル重合体及び末端変性アクリル重合体の製造方法

【課題】低温での熱分解性に優れる末端変性アクリル重合体、該末端変性アクリル重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物及び該末端変性アクリル重合体の製造方法を提供する。
【解決手段】特定の(メタ)アクリル酸エステル繰り返し単位からなる主鎖の両末端又は片末端に不飽和二重結合を有する特定の末端変性アクリル重合体であり、該末端変性アクリル重合体と、有機溶剤と、無機微粒子とを含有することを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温での熱分解性に優れる末端変性アクリル重合体、該末端変性アクリル重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物及び該末端変性アクリル重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、導電性粉末、セラミック粉末等の無機微粒子をバインダー樹脂に分散させたペースト組成物が、様々な形状の焼結体を得るために用いられている。特に、微粒子として蛍光体を樹脂バインダーに分散させたペースト組成物は、例えば、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED、SED)等に用いられ、近年需要が高まりつつある。ガラスフリットを樹脂バインダーに分散させたペースト組成物についても、従来のハンドリングを損なうことなく、従来の鉛フリットガラスよりも無鉛フリットガラスに対して、より分解温度の低い樹脂が求められつつある。また、焼結温度の低い銀粉を用いた配線用導電ペースト用途に対する需要も高まっている。
【0003】
このような無機微粒子分散ペースト組成物に用いるバインダー樹脂としては、スクリーン印刷性に優れるペーストが得られるエチルセルロース等のセルロース系樹脂を用いることが一般的である。しかし、無機微粒子を分散させ、スクリーン印刷でパターンを印刷後、脱脂、焼成を行い、無機微粒子層を得るというプロセスを考慮した場合、セルロース系樹脂は熱分解性が悪いため、より高温で脱脂しなければならず、生産工程で大きなエネルギーが必要となったり、焼成時間がかかったりする等の問題があった。また、ガラスフリットを分散させたペーストのバインダー樹脂としてセルロース系樹脂を用いた場合、ガラスフリットの焼結工程において、樹脂が分解して除去される前に、ガラスフリットの焼結が開始してしまうため、焼結体の中に樹脂に由来するカーボンが残留するといった問題があった。
【0004】
これに対して、特許文献1には、熱分解性に優れるアクリル樹脂を用いたペースト組成物が開示されている。このようなアクリル樹脂を含有する無機微粒子分散ペースト組成物は、バインダー樹脂の熱分解性が良好なため、低温、短時間で焼成することができる。
しかしながら、このような場合であっても、軟化点が400℃以下の低融点ガラス類や、焼結により酸化されやすい銅や銀等の導電微粒子等の無機微粒子を用いる場合は、より低温での分解性が必要とされていた。
【特許文献1】特開平11−71132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑み、低温での熱分解性に優れる末端変性アクリル重合体、該末端変性アクリル重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物及び該末端変性アクリル重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記式(1)に示す繰り返し単位からなる主鎖の両末端又は片末端に下記式(2)に示す基を有する末端変性アクリル重合体である。
【0007】
【化1】

【0008】
式中、Rは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、Rは炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、R及びRは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表す。また、nは正の整数を表す。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明の末端変性アクリル重合体は、上記式(1)に示す繰り返し単位からなる主鎖を有する。
【0010】
上記式(1)中のRは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体である。
上記Rに用いられる炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基等、並びに、これらの誘導体が挙げられる。なかでも、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましい。
そのなかでも、上記Rがメチル基であり、式(1)がメタアクリル酸エステルに由来するセグメントであることが好ましい。
【0011】
上記式(1)中のRは炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体である。上記炭素数が0であると、末端変性アクリル重合体は、ポリカルボン酸である(メタ)アクリル酸重合体となるため、溶解するのが困難となったり、溶解させる溶剤が限られたりするといった問題がある。
上記Rに用いられる炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−ドデシル基、ベヘニル基、ステアリル基、イソミリスチル基、イソボロニル基、フェニル基、ベンジル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2、3−ジヒドロプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシメチル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−アセトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基等、並びに、これらの誘導体が挙げられる。
【0012】
上記Rに用いられる炭素数1以上のアルキル基又は炭素数1以上のアルキル基の誘導体としては、上記Rに用いられるものと同様のものを用いてもよい。なお、RとRとは同一であってもよく、異なるものであってもよい。
【0013】
本発明の末端変性アクリル重合体を無機微粒子分散ペースト組成物に用いる場合は、Rが炭素数1〜8のアルキル基である末端変性アクリル重合体を用いることが好ましい。これにより、樹脂の主鎖構造に由来する熱分解が期待でき、バインダーの分解性に優れた無機微粒子分散ペースト組成物を調製することができる。上記炭素数が8を超えると、側鎖アルキル基の熱分解性の影響により、バインダーの分解性が悪くなることがある。
【0014】
本発明の末端変性アクリル重合体は、主鎖の両末端又は片末端に上記式(2)に示す基を有する。上記式(2)に示す基を両末端又は片末端に有することで、本発明の末端変性アクリル重合体を加熱した場合、分子の末端から熱分解が開始するため、低温かつ速やかに分解し、熱分解性に極めて優れる樹脂とすることができる。
【0015】
上記式(2)中のR及びRは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体である。
上記R、Rとしては、例えば、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−ドデシル基、ベヘニル基、ステアリル基、イソミリスチル基、イソボロニル基、フェニル基、ベンジル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2、3−ジヒドロプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシメチル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−アセトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基等を挙げることができる。末端変性のし易さから、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基等の置換基を好適に用いることができる。これらのなかでは、水素原子が特に好ましい。
上記R、Rとしては、同じ官能基を用いても良いし、異なる置換基を用いてもよい。
【0016】
本発明の末端変性アクリル重合体のポリスチレン換算による数平均分子量の好ましい下限は2000、好ましい上限は100万である。上記数平均分子量が2000未満であると、例えば、ペースト組成物のバインダー樹脂として使用する場合に充分な粘度が得られないことがあり、上記数平均分子量が100万を超えると、例えば、ペースト組成物のバインダー樹脂として使用する場合に、粘着力が高くなりすぎたり、著しく粘度が上がり、塗布することが困難になったりすることがある。上記数平均分子量のより好ましい上限は500000である。
なお、本明細書において、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定を行い、ポリメタクリル酸メチル換算により求められる値である。
【0017】
本発明の末端変性アクリル重合体を無機微粒子分散ペースト組成物に用いる場合は、上記数平均分子量を2000〜500000とすることが好ましい。これにより、ハンドリングの良好な無機微粒子分散ペースト組成物を調製することが容易になる。上記数平均分子量が2000未満であると、調製したペーストの粘度が著しく低くなり、無機微粒子の分散安定性が損なわれることがある。上記数平均分子量が500000を超えると、得られる無機微粒子分散ペースト組成物の粘度が著しく高くなることがあり、印刷や塗工といったプロセスに適用することが困難になることがある。
【0018】
本発明の末端変性アクリル重合体の分子量分布(PDI=Mw/Mn)の好ましい上限は2.0である。上記分子量分布が2.0を超えると、ペースト化したときに糸曳きしやすくなり、取り扱いにくくなることがある。
【0019】
本発明の末端変性アクリル重合体を製造する方法としては、例えば、下記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、下記式(4)に示すアクリルモノマーとを反応させ、アクリル重合体を作製する工程、及び、前記アクリル重合体に、下記式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルを反応させることで、α位のアルキル基から水素を引き抜いてオレフィン化させ、前記アクリル重合体の両末端又は片末端を変性させる工程を有する方法、ニトロキシルラジカルの代わりにジフェニルジセレニド等のジセレニドを作用させて末端セレン重合体を得た後、過酸化水素等の酸化剤を作用させる工程を有する方法等が挙げられる。
なかでも、下記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、下記式(4)に示すアクリルモノマーとを反応させ、アクリル重合体を作製する工程、及び、前記アクリル重合体と、下記式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルとを反応させ、前記アクリル重合体の両末端又は片末端を変性させる工程を有する方法が好ましい。このような末端変性アクリル重合体の製造方法もまた、本発明の1つである。
【0020】
【化2】

【0021】
式中、R〜R12は水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、R13は炭素数3以上の2価の有機基の誘導体を表し、XはBi、Te、Sb又はヨウ素を表す。なお、Xがヨウ素の場合、Rは置換しない。
上記R〜R12の炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−ドデシル基、ベヘニル基、ステアリル基、イソミリスチル基、イソボロニル基、フェニル基、ベンジル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2、3−ジヒドロプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシメチル基、フェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、4−アセトキシフェニル基、4−tert−ブトキシフェニル基を挙げることができる。R〜R12は、異なるものを用いても良いし、同じものを組み合わせて用いてもよい。
【0022】
上記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、式(4)に示すアクリルモノマーとを反応させ、アクリル重合体を作製する工程では、例えば、不活性ガスで置換した容器で、式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、式(4)に示すアクリルモノマーとを混合する。上記不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。なかでも、アルゴン、窒素が好ましい。
なお、この工程については、高分子論文集、64巻、329頁(2007)及びその引用文献に詳しく記載されている。
【0023】
上記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、式(4)に示すアクリルモノマーとの比率については、得られるアクリル重合体の分子量や分子量分布により適宜調節すればよいが、式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤1molに対して、式(4)に示すアクリルモノマーを20〜100000mol添加することが好ましい。
【0024】
上記アクリル重合体の作製は、通常、無溶媒で行うが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒を使用してもよい。上記有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリフルオロメチルベンゼン、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、テキサノール、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサノン、ジオクチルフタレート等が挙げられる。また、水性溶媒も使用でき、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。
【0025】
次に、上記アクリル重合体の作製工程では、上記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、式(4)に示すアクリルモノマーとからなる混合物を撹拌する。反応温度、反応時間は、得られるアクリル重合体の分子量や分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、60〜150℃で、5〜100時間撹拌することが好ましく、80〜120℃で、10〜30時間撹拌することが好ましい。この場合、反応時の圧力は、通常、常圧であるが、加圧や減圧としてもよい。
反応終了後、常法により使用溶媒や残存モノマーを減圧下除去して、得られた樹脂を取り出したり、樹脂が不溶の溶媒を使用して再沈澱処理を行ったりすることで樹脂を単離する。
【0026】
本発明の末端変性アクリル重合体の製造方法では、複数種のアクリルモノマーを使用してもよい。例えば、2種以上のアクリルモノマーを同時に反応させるとランダム共重合体を得ることができる。また、種類の異なるアクリルモノマーを逐次反応させてブロック共重合体を得ることができる。
【0027】
上記式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤としては、例えば、2−メチル−2−ジメチルビスムタニルプロピオン酸メチルエステル、2−メチル−2−ジフェニルビスムタニルプロピオニトリル、2−メチル−2−ジメチルフェニルビスムタニルプロピオニトリル、2−メチル−2−ジメチルスチバニルプロピオン酸メチルエステル、2−メチル−2−ジメチルスチバニルプロピオニトリル、1−ジメチルスチバニル−1−フェニルエタン、2−メチル−2−メチルテラニルプロピオン酸エチルエステル、2−n−ブチル−2−フェニルテラニルプロピオン酸エチルエステル、2−メチル−2−フェニルテラニルプロピオン酸エチルエステル、2−メチル2−メチルテラニルプロピオニトリル、1−メチルテラニル−1−フェニルエタン、1−フェニルテラニル−1−フェニルエタン等が挙げられる。
【0028】
上記式(4)に示すアクリルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸シクロプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ベヘニル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソミリスチル、(メタ)アクリル酸イソボロニル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2、3−ジヒドロプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−メチルフェニル、(メタ)アクリル酸3−メチルフェニル、(メタ)アクリル酸2−メチルフェニル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシフェニル、(メタ)アクリル酸4−アセトキシフェニル、(メタ)アクリル酸4−tert−ブトキシフェニル、末端(メタ)アクリロイルポリメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリジメチルシロキサンモノ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。なかでも、メタクリル酸アルキル、特に、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルが好ましい。また、これらアクリルモノマーを複数種用いてランダム共重合、ブロック共重合、マルチブロック共重合、交互共重合させてもよい。その際は、熱分解性に優れたアクリルモノマーを選択することが好ましい。
更に、その他の性質を付与する目的でビニルモノマーを共重合させてもよい。上記ビニルモノマーとして、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、無水マレイン酸、マレイミド、(メタ)アクリルアミド、N−(メタ)アクリロイルモルフォリン、(メタ)アクリロニトリル、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0029】
本発明の末端変性アクリル重合体の製造方法では、次いで、得られたアクリル重合体と、上記式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルとを反応させることで、α位のアルキル基から水素を引き抜いてオレフィン化させ、前記アクリル重合体の両末端又は片末端を変性させる工程を行う。
【0030】
上記末端変性工程において、アクリル重合体の両末端又は片末端を変性させる方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ベンゼン等の有機溶媒中に、所定量のアクリル重合体及び式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルを添加し、反応させる方法等が挙げられる。
【0031】
上記式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルとしては、例えば、N,N−ジ−tert−ブチルアミン−N−オキシ、N−アミル−N−tert−ブチルアミン−N−オキシ、N−tert−ブチル−N−[1−ジエチルホスホノ−(2,2−ジメチルプロピル)]−アミン−N−オキシ、N−tert−ブチル−N−(1−フェニル−2−メチル)プロピルアミン−N−オキシ、N−tert−ブチル−N−(1−tert−ブチル−2−エチルスルフィニル)プロピルアミン−N−オキシ、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシ、2,2,6,6−テトラエチル−4−オキソ−ピペリジン−1−オキシ、2,6−ビス(tert−ブチルジメチル)シロキシ−2,6−ジエチルピペリジン−1−オキシ、2,2,10,10−テトラエチルイソインドリン−N−オキシ等が挙られる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
上記式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルの添加量については、得られる末端変性アクリル重合体の性質により適宜調節すればよいが、アクリル重合体1molに対して、式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルを0.8〜3.0mol添加することが好ましい。
【0033】
本発明の末端変性アクリル重合体と、有機溶剤と、無機微粒子とを含有する無機微粒子分散ペースト組成物もまた本発明の1つである。
【0034】
上記有機溶剤としては、特に限定されず、例えば、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、イソホロン、蟻酸ブチル、乳酸ブチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−tert−ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸エチル、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルアジペート、ジブチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、テルピネオール、テルピノーレン、ジヒドロテルピネオール、α−ピネン、β−ピネン、リモネン、トルエン、キシレン、メシチレン、クレゾール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、2,4−ペンタンジオン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、シクロヘキサノール、アミルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、1−オクチルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコル、1,4−ブタンジオール、グリセリン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、2−エチルヘキサン、ノナン、デカン、デカリン、等が挙げられる。
なかでも、(メタ)アクリル樹脂等からなるバインダー樹脂の溶解性と粘度制御に優れているため、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオール等が好適に用いられる。これらの有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記有機溶剤としては、ペースト組成物を低温で焼成し得るように、1気圧における沸点が400℃未満であるものが好ましく用いられ、より好ましくは1気圧における沸点が350℃未満、さらに好ましくは1気圧における沸点が300℃未満である。また、ペースト使用時、保管時における溶剤揮発による固形分変化、粘度変化を抑える為には、少なくとも、1気圧における沸点が100℃以上の溶剤が好ましい。より好ましくは150℃以上である。特に、1気圧における沸点が100〜290℃であることが好ましい。上記沸点が100℃未満であると、ペースト組成物を保管中に溶剤が揮発して粘度が安定しなかったり、表面が革張りしたりするといった不具合が生じることがある。上記沸点が290℃を超えると、オーブン等の乾燥機で充分乾燥させることが困難であるという問題や、乾燥を充分にするために、乾燥温度を高くすると被塗物が熱劣化するといった問題がある。
【0036】
上記無機微粒子としては、例えば、金粉、銀粉、銅粉、ニッケル粉、プラチナ粉、パラジウム粉等の金属粉、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、マグネシア、フェライト、ITO等の金属酸化物粉、ソーダガラス、無アルカリガラス、硼珪酸鉛ガラス、硼珪酸ビスマス、硼珪酸亜鉛ガラス等のガラスフリット、窒化アルミ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物紛、蛍光体粉、シリコンカーバイド粉、チタン酸バリウム粉、カーボン粉等を挙げられる。なかでも、ガラスフリット、蛍光体粉、銀粉、銅粉、ITO粉、酸化亜鉛粉又はカーボン粉が好ましい。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、低温での熱分解性に優れる末端変性アクリル重合体、該末端変性アクリル重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物及び該末端変性アクリル重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH1molに対して、モノマーとしてのメチルメタクリレート(和光純薬社製)30molを添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO、アルドリッチ社製)0.2gを更に加え、80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端変性アクリル重合体を得た(転化率97%)。
得られた末端変性アクリル重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
また、得られた末端変性アクリル重合体のNMRスペクトルを図2に示す。図2に示すNMRスペクトルから、末端オレフィンを有する重合体が得られたことがわかる。
なお、リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物は以下文献により調製した。S.Yamago,E.Kayahara,M.Kotani,B.Ray,Y.Kwak,A.Goto and T.Fukuda,Angew.Chem.Int.Ed.,46,1304−1306(2007).
【0040】
(実施例2)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH1molに対して、モノマーとしてのイソブチルメタクリレート(和光純薬社製)30molを添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO、アルドリッチ社製)0.2gを更に加え、80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端変性アクリル重合体を得た(転化率95%)。
また、得られた末端変性アクリル重合体について、NMR測定を行ったところ、末端に式(2)に示す官能基を有することが確認できた。
得られた末端変性アクリル重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0041】
(実施例3)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH1molに対して、モノマーとしてのイソブチルメタクリレート(和光純薬社製)15molとイソブチルメタクリレート(和光純薬社製)15molの混合液を添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO、アルドリッチ社製)0.2gを更に加え、80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端変性アクリル重合体を得た(転化率96%)。
また、得られた末端変性アクリル重合体について、NMR測定を行ったところ、末端に式(2)に示す官能基を有することが確認できた。
得られた末端変性アクリル重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例4)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH0.05molに対して、モノマーとしてのイソブチルメタクリレート(和光純薬社製)30molの混合液を添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO、アルドリッチ社製)0.2gを更に加え、80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端変性アクリル重合体を得た(転化率97%)。
また、得られた末端変性アクリル重合体について、NMR測定を行ったところ、末端に式(2)に示す官能基を有することが確認できた。
得られた末端変性アクリル重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0043】
(実施例5)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH0.001molに対して、モノマーとしてのイソブチルメタクリレート(和光純薬社製)30molの混合液を添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1−オキシル(TEMPO、アルドリッチ社製)0.2gを更に加え、80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端変性アクリル重合体を得た(転化率93%)。
また、得られた末端変性アクリル重合体について、NMR測定を行ったところ、末端に式(2)に示す官能基を有することが確認できた。
得られた末端変性アクリル重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0044】
(比較例1)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH1molに対して、モノマーとしてのメチルメタクリレート(和光純薬社製)30molを添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、トリブチルスズヒドリド1.2molとAIBN0.1molとを加えて80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端が水素変性体のアクリル重合体を得た(転化率97%)。
得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
(比較例2)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)COOCH1molに対して、モノマーとしてのメチルメタクリレート(和光純薬社製)30molを添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、トリブチルスズデューテリド1.2molとAIBN0.1molとを加えて80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、末端が重水素変性体のアクリル重合体を得た(転化率97%)。
得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例3)
(アクリル重合体の製造)
リビングラジカル重合開始剤としての有機ビスマス化合物CHC(CH)(Bi(CH)CN1molに対して、モノマーとしてのメチルメタクリレート(和光純薬社製)30molを添加した後、スターラーで攪拌しながら100℃に昇温して、3時間保った。反応終了後、反応溶液をα,α,α−トリフルオロトルエン15mLに溶解させた後、トリブチルスズデューテリド1.2molとAIBN0.1molとを加えて80℃で1時間反応させた。反応終了後、得られた溶液を攪拌中のヘキサン(和光純薬社製)250mLに投入した。その後、沈殿したポリマーを吸引濾過、乾燥することにより、α末端に2−シアノプロピル−2−イルを有し、ω末端が重水素変性体のアクリル重合体を得た(転化率97%)。
得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例4)
(アクリル重合体の製造)
還流管を備えた1Lの三口フラスコに、モノマーとしてメチルメタクリレート50gと溶剤としてトルエン350gを攪拌、混合した後、還流するまで昇温させた。還流後、AIBN(アゾビスイソブチロニトリル)10gをトルエン20gに溶解させた溶液を加え、重合を開始した。重合開始3時間後、室温まで冷却することでフリーラジカル重合法により、重合末端が不明なアクリル重合体を得た。
得られた重合体について、カラムとしてSHOKO社製カラムLF−804を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行うことにより、ポリメタクリル酸メチル換算による数平均分子量及び分子量分布(PDI=Mw/Mn)を求めた。結果を表1に示す。
【0048】
<評価>
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたアクリル重合体について、以下の方法により評価を行った。
【0049】
(分解特性評価(TG−DTA評価))
実施例1〜5及び比較例1〜4で得られたアクリル重合体について、熱分解装置(TAインスツルメンツ社製「simultaneousSDT2960」)を用いて、空気雰囲気下にて昇温速度10℃/minで500℃まで加熱し、アクリル重合体の初期重量の50重量%が熱分解した温度、及び、300℃到達時に残率を測定し、表1に示した。
また、実施例1及び比較例1〜4については、このときの熱分解挙動を図1に示した。
【0050】
【表1】

【0051】
図1に示すように、実施例1で得られた末端変性アクリル重合体は、樹脂の大部分が分解する温度が、比較例で得られた末端変性アクリル重合体と比較して低く、特に300℃付近での熱分解性が極めて高いものとなっていた。これに対して、比較例1〜4で得られたアクリル重合体は熱分解性が悪く、300℃付近では樹脂の大半が未分解となっていることがわかる。
【0052】
(実施例6)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例1で得られた末端変性アクリル重合体5gをトルエン(和光純薬社製、沸点110℃)10gに溶解させた。得られた溶液に銀粉(三井金属社製、平均粒子径2μm)を80g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、銀ペーストを得た。
【0053】
(焼結性評価)
得られた銀ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。
得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、450℃で10分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、銀を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、32ppmであった(結果を表2に示す)。
【0054】
(実施例7)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例1で得られた末端変性アクリル重合体5gをテルピネオール(ヤスハラケミカル社製、沸点215℃)10gに溶解させた。得られた溶液に銀粉(三井金属社製、平均粒子径2μm)を80g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、銀ペーストを得た。
【0055】
(焼結性評価)
得られた銀ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。
得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、450℃で10分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、銀を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、41ppmであった(結果を表2に示す)。
【0056】
(実施例8)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例1で得られた末端変性アクリル重合体5gをトルエン(和光純薬社製、沸点110℃)10gに溶解させた。得られた溶液に銀粉(三井金属社製、平均粒子径2μm)を80g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、銀ペーストを得た。
【0057】
(焼結性評価)
得られた銀ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。
得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、銀を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、68ppmであった(結果を表2に示す)。
【0058】
(実施例9)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例2で得られた末端変性アクリル重合体5gをテルピネオール(ヤスハラケミカル社製、沸点215℃)10gに溶解させた。得られた溶液に蛍光体粉(日亜化学社製、粒径3μm)を20g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、蛍光体ペーストを得た。
【0059】
(焼結性評価)
得られた蛍光体ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、蛍光体粉を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、56ppmであった(結果を表2に示す)。
【0060】
(実施例10)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例4で得られた末端変性アクリル重合体5gをテルピネオール(ヤスハラケミカル社製、沸点215℃)10gに溶解させた。得られた溶液に緑蛍光体粉(日亜化学社製、粒径3μm)を20g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、蛍光体ペーストを得た。
【0061】
(焼結性評価)
得られた蛍光体ペーストを、ラインアンドスペース50μm/100μm、長さ5cmのパターンを備えた製版及びスクリーン印刷機を用いて、ガラス板上に印刷した。印刷の結果、ラインアンドスペース63μm/88μmのラインパターンが得られた。得られた印刷物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、緑蛍光体粉を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、68ppmであった(結果を表2に示す)。
【0062】
(実施例11)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
実施例4で得られた末端変性アクリル重合体5gをテルピネオール(ヤスハラケミカル社製、沸点215℃)10gに溶解させた。得られた溶液にガラスフリット(東罐マテリアルテクノロジー社製「ABX169F」、融点464℃、粒子径2.5μm)を20g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、ガラスペーストを得た。
【0063】
(焼結性評価)
得られたガラスペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、ガラスフリットを回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、71ppmであった(結果を表2に示す)。
【0064】
(実施例12)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
ガラスフリット20gに替えてITO粉(アルドリッチ社製、平均粒径0.03μm)20gを用いた以外は実施例11と同様にして、金属酸化物ペーストを得た。
【0065】
(焼結性評価)
得られた金属酸化物ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、ITOを回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、59ppmppmであった(結果を表2に示す)。
【0066】
(実施例13)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
ガラスフリット20gに替えてZnO粉(アルドリッチ社製、平均粒径1μm)20gを用いた以外は実施例11と同様にして、金属酸化物ペーストを得た。
【0067】
(焼結性評価)
得られた金属酸化物ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、末端変性アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、ZnOを回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、67ppmであった(結果を表2に示す)。
【0068】
(比較例5)
(無機微粒子分散ペースト組成物の製造)
比較例1で得られたアクリル重合体5gをトルエン(和光純薬社製、沸点110℃)10gに溶解させた。得られた溶液に銀粉(三井金属社製、平均粒子径2μm)を80g加えた後、遊星式攪拌脱法装置により均一になるまで混合攪拌して、銀ペーストを得た。
【0069】
(焼結性評価)
得られた銀ペーストをアプリケーターで厚み10μmになるようにガラス板に塗布した。得られた被塗物についてオーブンを用いて120℃で10分間溶剤乾燥を行った後、ワッフル炉中で、300℃で30分間、アクリル重合体の分解、焼成を行った。その後、銀を回収して、全炭素硫黄測定装置にて残留炭素分を測定したところ、1400ppmであった(結果を表2に示す)。
【0070】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、低温での熱分解性に優れる末端変性アクリル重合体、該末端変性アクリル重合体を用いた無機微粒子分散ペースト組成物及び該末端変性アクリル重合体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1及び比較例1〜4で得られたアクリル重合体について、熱分解装置を用いて熱分解挙動を測定したグラフである。
【図2】実施例1で得られた末端変性アクリル重合体のNMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)に示す繰り返し単位からなる主鎖の両末端又は片末端に下記式(2)に示す基を有することを特徴とする末端変性アクリル重合体。
【化1】

式中、Rは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、Rは炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、R及びRは水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表す。また、nは正の整数を表す。
【請求項2】
メタアクリル酸エステルに由来するセグメントを有することを特徴とする請求項1記載の末端変性アクリル重合体。
【請求項3】
が炭素数1〜8のアルキル基であることを特徴とする請求項1又は2記載の末端変性アクリル重合体。
【請求項4】
及びRが、水素原子であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の末端変性アクリル重合体。
【請求項5】
数平均分子量が2000〜500000であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の末端変性アクリル重合体。
【請求項6】
請求項1、2、3、4又は5記載の末端変性アクリル重合体と、有機溶剤と、無機微粒子とを含有することを特徴とする無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項7】
有機溶剤は、1気圧における沸点が100〜290℃であることを特徴とする請求項6記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項8】
無機微粒子が、ガラスフリット、蛍光体粉、銀粉、銅粉、ITO粉、酸化亜鉛粉又はカーボン粉であることを特徴とする請求項6又は7記載の無機微粒子分散ペースト組成物。
【請求項9】
式(3−1)又は式(3−2)に示すリビングラジカル重合開始剤と、式(4)に示すアクリルモノマーとを反応させ、アクリル重合体を作製する工程、及び、
前記アクリル重合体と、式(5)又は式(6)に示すニトロキシルラジカルとを反応させ、前記アクリル重合体の両末端又は片末端を変性させる工程を有する
ことを特徴とする末端変性アクリル重合体の製造方法。
【化2】

式中、R〜R12は水素原子、炭素数1以上の有機基又は炭素数1以上の有機基の誘導体を表し、R13は炭素数3以上の2価の有機基の誘導体を表し、XはBi、Te、Sb又はヨウ素を表す。なお、Xがヨウ素の場合、Rは置換しない。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−149877(P2009−149877A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−304397(P2008−304397)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】