説明

末端変性ポリカーボネートおよびその製造方法

【課題】高い生物起源物質含有率を有し、耐熱性、熱安定性、成形加工性および耐吸湿性に優れ、表面エネルギー性の高いポリカーボネートを提供する。
【解決手段】主鎖が下記式(1)


で表される繰り返し単位を50モル%以上95モル%未満含んでなるポリカーボネートであって、塩化メチレン溶液の20℃における比粘度が0.2〜0.5であり、末端基は下記式(2)または(3)。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、末端変性ポリカーボネートに関する。さらに詳しくは生物起源物質である糖質から誘導される繰り返し単位を含有し、熱安定性、耐熱性、成形加工性、耐吸湿性に優れたポリカーボネートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、芳香族もしくは脂肪族ジオキシ化合物を炭酸エステルにより連結させたポリマーであり、その中でも2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)より得られるポリカーボネート(以下「PC−A」と称することがある)は、透明性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、多くの分野に用いられている。
【0003】
一般的にポリカーボネートは石油資源からの原料を用いて製造されるが、石油資源の枯渇が懸念されており、植物などの生物起源物質からの原料を用いたポリカーボネートが求められている。そこで、糖質から製造可能なエーテルジオールを用いたポリカーボネートが検討されている。
【0004】
例えば、下記式(5)
【化1】

で表されるエーテルジオールは、生物起源物質、例えば、糖類、でんぷんなどから容易に作られる。このエーテルジオールには3種の立体異性体があることが知られている。具体的には下記式(9)
【化2】

に示す、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール(以下「イソソルビド」と呼称する)、下記式(10)
【化3】

に示す、1,4:3,6−ジアンヒドロ−D−マンニトール(以下「イソマンニド」と呼称する)、下記式(11)
【化4】

に示す、1,4:3,6−ジアンヒドロ−L−イジトール(以下「イソイディッド」と呼称する)である。
【0005】
イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドは、それぞれD−グルコース、D−マンノース、L−イドースから得られる。例えばイソソルビドの場合、D−グルコースを水添した後、酸触媒を用いて脱水することにより得ることができる。
【0006】
これまで式(5)で表されるエーテルジオールの中でも、特に、イソソルビドをポリカーボネートに組み込むことが検討されてきた(特許文献1〜5)。
しかしながら、イソソルビド含有ポリカーボネートは、酸素原子を多く含み、PC−Aなどのエーテル部分を持たないジオールから得られるポリカーボネートに比べて極性が高い。そのため、イソソルビド含有ポリカーボネートはPC−Aに比べて吸湿性が高く、吸湿による成形品の寸法安定性の低下および湿熱時における耐熱性低下を引き起こし易いという欠点を有する。またイソソルビド含有ポリカーボネートは、表面エネルギーが低く、成形品が汚れ易く、磨耗に弱いという欠点を有する。この表面エネルギーは水に対する接触角で評価できる。
【0007】
以上のように、イソソルビド含有ポリカーボネートは、熱安定性および成形加工性をさらに改良する余地がある。またイソソルビド含有ポリカーボネートは、表面エネルギーが低いことに伴う欠点や耐吸湿性を改良する余地がある。
【0008】
【特許文献1】特開昭56−055425号公報
【特許文献2】特開昭56−110723号公報
【特許文献3】特開2003−292603号公報
【特許文献4】国際公開第2004/111106号パンフレット
【特許文献5】特開2006−232897号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の目的は、生物起源物質の含有率が高く、耐熱性、熱安定性、成形加工性および耐吸湿性に優れ、表面エネルギーの高いポリカーボネートを提供することにある。また本発明の目的は、光弾性定数が低く、位相差の発現性および位相差制御性が良好で、視野角特性に優れ、かつ耐熱性および熱安定性に優れたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、主鎖が下記式(1)で表される繰り返し単位を含んでなるポリカーボネートにおいて、特定の末端基を導入したポリカーボネートが、高い生物起源物質含有率を有し、耐熱性、熱安定性、成形加工性および耐吸湿性に優れ、高い表面エネルギーを有することを見出し、本発明を完成した。
【0011】
即ち本発明は、主鎖が下記式(1)
【化5】

で表される繰り返し単位を全繰り返し単位中50モル%以上95モル%未満含んでなり、0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.2〜0.5であり、下記式(2)または(3)
【化6】

【化7】

{上記式(2)、(3)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化8】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}
で表される末端基を主鎖に対して0.01〜7モル%含有する末端変性ポリカーボネートである。
【0012】
また本発明は、下記式(5)
【化9】

で表されるエーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)、炭酸ジエステル(C成分)およびA成分及びB成分の合計モルに対して0.01〜7モル%の下記式(6)または(7)
【化10】

【化11】

{上記式(6)、(7)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化12】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}
で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を反応させることを特徴とする末端変性ポリカーボネートの製造方法である。
【0013】
さらに本発明は、下記式(5)
【化13】

で表されるエーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)とホスゲン(E成分)とを、不活性溶媒中で、酸結合剤の存在下に反応させるポリカーボネートの製造方法であって、末端停止剤として下記式(6)または(7)
【化14】

【化15】

{上記式(6)、(7)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化16】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}で表されるヒドロキシ化合物(C成分)を反応させることを特徴とする末端変性ポリカーボネートの製造方法である。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
〈末端変性ポリカーボネート〉
(主鎖)
本発明の末端変性ポリカーボネートは、主鎖が下記式(1)で表される繰り返し単位を含んで成る。即ち、主鎖中の下記式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、50モル%以上95モル%未満、好ましくは55モル%以上90モル%以下である。
【0015】
【化17】

【0016】
式(1)で表される繰り返し単位は、イソソルビド、イソマンニド、イソイディッド由来の単位であることが好ましい。特に、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)由来の単位であることが好ましい。
【0017】
(比粘度)
本発明の末端変性ポリカーボネートは、0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.2〜0.5、好ましくは0.2〜0.45、より好ましくは0.22〜0.4である。比粘度が0.2より低くなると得られた成形品に充分な機械強度を持たせることが困難となる。また比粘度が0.5より高くなると末端基の割合が必然的に下がり、充分な末端変性効果が発現できないばかりでなく、溶融流動性が高くなりすぎて、成形に必要な融解温度が分解温度より高くなり好ましくない。
【0018】
(末端基)
本発明の末端変性ポリカーボネートは、下記式(2)または(3)で表される末端基を含有する。
【0019】
【化18】

【化19】

【0020】
式(2)、(3)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化20】

で表される基である。
【0021】
のアルキル基の炭素原子数は、好ましくは4〜22、より好ましくは8〜22である。アルキル基として、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0022】
のアラルキル基の炭素原子数は、好ましくは8〜20、より好ましくは10〜20である。アラルキル基として、ベンジル基、フェネチル基、メチルベンジル基、2−フェニルプロパン−2−イル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0023】
のパーフルオロアルキル基の炭素原子数は好ましくは2〜20である。パーフルオロアルキル基として4,4,5,5,6,6,7,7,7−ノナフルオロヘプチル基、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−トリデカフルオロノニル基、4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシル基などが挙げられる。
【0024】
式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立して、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表す。
【0025】
式(4)中の炭素原子数1〜10のアルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘプチル基等が挙げられる。炭素原子数6〜20のシクロアルキル基として、シクロへキシル基、シクロオクチル基、シクロへキシル基、シクロデシル基等が挙げられる。炭素原子数2〜10のアルケニル基として、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘプテニル基等が挙げられる。炭素原子数6〜10のアリール基として、フェニル基、トリル基、ジメチルフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素原子数7〜20のアラルキル基として、ベンジル基、フェネチル基、メチルベンジル基、2−フェニルプロパン−2−イル基、ジフェニルメチル基等が挙げられる。
【0026】
式(4)中、R、R、R、RおよびRは、夫々独立して炭素原子数1〜10のアルキル基および炭素原子数6〜10のアリール基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。特に夫々独立してメチル基およびフェニル基からなる群から選ばれる少なくとも一種の基であることが好ましい。
【0027】
bは0〜3の整数、好ましくは1〜3の整数、より好ましくは2〜3の整数である。cは4〜100の整数、より好ましくは4〜50の整数、さらに好ましくは8〜50の整数である。
【0028】
式(3)のXは、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わす。Xは、好ましくは単結合、エーテル結合およびエステル結合からなる群より選ばれる少なくとも一種の結合である。なかでも単結合、エステル結合が好ましい。
【0029】
aは1〜5の整数、より好ましくは1〜3の整数、さらに好ましくは1である。
【0030】
上記式(2)または(3)で表される末端基は、生物起源物質由来であることが好ましい。生物起源物質として、炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール、例えばセタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールが挙げられる。
【0031】
式(2)または(3)で表される末端基の含有量は、ポリマー主鎖に対して0.01〜7モル%、好ましくは0.05〜7モル%、より好ましくは0.1〜6.8モル%である。式(2)または(3)で表される末端基が上記範囲内にある場合、末端変性による効果(成形加工性、高接触角および耐吸湿性)が好適に発現する。
【0032】
(水に対する接触角)
本発明の末端変性ポリカーボネートの水に対する接触角は、好ましくは70〜180°、より好ましくは72〜180°の範囲である。水に対する接触角が上記範囲であると、防汚性、摩耗耐性、離型性という点で好ましい。
【0033】
(吸水率)
本発明の末端変性ポリカーボネートの23℃、24時間後の吸水率は、好ましくは0.75%以下、より好ましくは0.7%以下である。吸水率が上記範囲であると、耐湿熱性、低寸法変化率という点で好ましい。
【0034】
〈末端変性ポリカーボネートの製造方法(I)〉
本発明の末端変性ポリカーボネートは、下記式(5)
【化21】

で表されるエーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)、炭酸ジエステル(C成分)およびA成分とB成分の合計に対して0.01〜7モル%の下記式(6)または(7)
【化22】

【化23】

で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を反応させ製造することができる(製造方法(I))。
【0035】
(エーテルジオール:A成分)
エーテルジオール(A成分)は、イソソルビド、イソマンニド、イソイディッドであることが好ましい。これら糖質由来のエーテルジオールは、自然界のバイオマスからも得られる物質で、再生可能資源と呼ばれるものの1つである。イソソルビドは、でんぷんから得られるD−グルコースを水添した後、脱水して製造することができる。その他のエーテルジオールについても、出発物質を除いて同様の反応により得られる。A成分は、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)であることが特に好ましい。イソソルビドはでんぷんなどから簡単に作ることができるエーテルジオールであり資源として豊富に入手することができる上、イソマンニドやイソイディッドと比べても製造の容易さ、性質、用途の幅広さの全てにおいて優れている。
【0036】
(該エーテルジオール以外のジオール、ジフェノール化合物(B成分))
本発明の末端変性ポリカーボネートは、上記式(1)で表されるエーテルジオール(A成分)から形成されるカーボネート構成単位以外に、該A成分以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)から形成されるカーボネート構成単位を5モル%以上50モル%以下含有する。好ましくは10モル%以上45モル%以下含有する。
【0037】
該エーテルジオール以外のジオールとしては、炭素数2〜20の脂肪族ジオールが好ましく、炭素数3〜15の脂肪族ジオールがより好ましい。具体的には1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどの直鎖状ジオール類や、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式アルキレン類などが挙げられ、中でも1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ヘキサンジオール、スピログリコール、およびシクロヘキサンジメタノールが好ましい。
これらのエーテルジオールは単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
ジフェノール化合物としては、具体的には下記式(12)で表されるカーボネート構成単位を形成するビスフェノール類が好ましい。
【0039】
【化24】

【0040】
上記式(12)において、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基およびカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良い基である。
【0041】
なかでも、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基および炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を表し、それぞれ複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良い基であることが好ましい。
aおよびbはそれぞれ1〜4の整数である。
【0042】
Wは単結合および下記式(13)で表される結合基からなる群より選ばれる少なくとも一つの結合基である。
【0043】
【化25】

【0044】
(上記式(13)においてR,R,R,R,R,R,RおよびR10はそれぞれ独立して水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、R11及びR12は夫々独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数1〜10のアルコキシ基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルコキシ基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数6〜10のアリールオキシ基、炭素原子数7〜20のアラルキル基、炭素原子数7〜20のアラルキルオキシ基、ニトロ基、アルデヒド基、シアノ基及びカルボキシル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を表し、R13,R14,R15およびR16はそれぞれ独立して炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群から選ばれる少なくとも1つの基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、cは1〜10の整数、dは4〜7の整数、eは1〜3の整数、fは1〜100の整数である。)
【0045】
なかでも、Wは単結合もしくは下記式(14)で表される結合基からなる群より選ばれる少なくとも一つの結合基であることが好ましい。
【0046】
【化26】

【0047】
(上記式(14)においてR17およびR18は同一または異なり、水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基を表し、R19およびR20はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表し、複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、R21及びR22はそれぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜3のアルキル基を表し複数ある場合はそれらは同一でも異なっていても良く、dは4〜7の整数である。)
【0048】
特に、Wは下記式(15)で表される結合基からなる群より選ばれる少なくとも一つの結合基であることが好ましい。
【0049】
【化27】

(上記式(15)において、R17,R18,R19,R20,R21,R22およびdは、式(14)の定義と同じである。)
【0050】
ビスフェノール類として、具体的には4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ビフェノール、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン(通常“ビスフェノールM”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ビス(1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−トリフルオロメチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロシクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジメチルジフェニルエ−テル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジフェニルスルホン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールA”と称される)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(通常“ビスフェノールC”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3−フェニルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、4,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(2,3−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)デカン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(通常“ビスフェノールAF”と称される)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、および2,2−ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチルー4−ヒドロキシフェニル)プロパン、および2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパンが挙げられる。
【0051】
上記の中でも、ビスフェノールM、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールAF、および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカンが好ましい。
これらのビスフェノール類は単独または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0052】
(炭酸ジエステル:C成分)
炭酸ジエステル(C成分)として、置換されていてもよい炭素数6〜12のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などの炭酸ジエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられる。なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0053】
炭酸ジエステル(C成分)の量は、炭酸ジエステル(C成分)と、エーテルジオール(A成分)と該エーテルジオール以外のジオール及びジフェノール化合物(B成分)の合計量とのモル比(C成分/(A成分+B成分))で、好ましくは1.05〜0.97、より好ましくは1.03〜0.97、さらに好ましくは1.03〜0.99である。C成分が1.05モルより多くなると、充分な重合度が得られなくなる。C成分が0.97モルより少ないと、重合が進行しないばかりでなく、未反応のエーテルジオールやヒドロキシ化合物が残存する。
【0054】
(ヒドロキシ化合物:D成分)
下記式(6)または(7)で表されるヒドロキシ化合物(D成分)において、R、X、a、R、R、R、R、R、b、cは、式(2)および(3)と同じである。ヒドロキシ化合物(D成分)は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。2種類以上使用する場合は、式(6)または(7)で表されるヒドロキシ化合物(D成分)とそれ以外のヒドロキシ化合物とを組み合わせて使用してもよい。ヒドロキシ化合物(D成分)により、ポリカーボネートの耐熱性、熱安定性、成形加工性、耐吸水性が向上する。
【0055】
【化28】

【化29】

【0056】
本発明の末端変性ポリカーボネートは、植物などの再生可能資源から得られる原料を用いた繰り返し単位を主鎖構造に持つことから、末端構造を構成するこれらのヒドロキシ化合物(D成分)もまた植物などの生物起源物質由来のものであることが好ましい。植物から得られるヒドロキシ化合物としては、植物油から得られる炭素数14以上の長鎖アルキルアルコール(セタノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール)などが挙げられる。
【0057】
ヒドロキシ化合物(D成分)の量は、エーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオール及びジフェノール化合物(B成分)の合計量に対して、好ましくは0.01〜7モル%、より好ましくは0.05〜7モル%、さらに好ましくは0.1〜6.8モル%である。ヒドロキシ化合物が0.01モル%より少なくなると、末端変性の効果が得られない。ヒドロキシ化合物が7モル%より多くなると、末端停止剤の量が多すぎて、成形加工に充分な重合度を持つ末端変性ポリカーボネートが得られない。ヒドロキシ化合物(D成分)を添加する時期は、反応初期、反応後期いずれでも良い。
【0058】
反応は、溶融重合によって行なうことができる。溶融重合は、A成分〜D成分のエステル交換反応によって生成するアルコールまたはフェノールを高温減圧下にて留出させ行なうことができる。
【0059】
(反応温度)
反応温度は、エーテルジオールの分解を抑え、着色が少なく高粘度の樹脂を得るために、できるだけ低温の条件を用いることが好ましいが、重合反応を適切に進める為には重合温度は180〜280℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは180〜270℃の範囲である。
【0060】
また、反応初期にはエーテルジオールと炭酸ジエステルとを常圧で加熱し、予備反応させた後、徐々に減圧にして反応後期には系を1.3×10−3〜1.3×10−5MPa程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる方法が好ましい。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0061】
(重合触媒)
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができる。重合触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、二価フェノールのナトリウム塩、二価フェノールのカリウム塩等のアルカリ金属化合物が挙げられる。また水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物が挙げられる。
【0062】
またテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物が挙げられる。
【0063】
またアルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0064】
重合触媒として、含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を使用することが好ましい。なかでも、含窒素塩基性化合物とアルカリ金属化合物とを併用して使用することが好ましい。
【0065】
これらの重合触媒の使用量は、それぞれ炭酸ジエステル(C成分)1モルに対し、好ましくは1×10−9〜1×10−3当量、より好ましくは1×10−8〜5×10−4当量の範囲で選ばれる。
【0066】
反応系は、原料、反応混合物、反応生成物に対し不活性な窒素などのガスの雰囲気に保つことが好ましい。窒素以外の不活性ガスとしては、アルゴンなどを挙げることができる。さらに、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えてもよい。
【0067】
(触媒失活剤)
本発明の末端変性ポリカーボネートには、触媒失活剤を添加することもできる。触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤を用いることができる。なかでもスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。さらにドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。パラトルエンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩等のパラトルエンスルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましい。またスルホン酸のエステルとしてベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸エチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が好ましく用いられる。なかでもドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が最も好ましく使用される。これらの触媒失活剤の使用量は、アルカリ金属化合物および/またはアルカリ土類金属化合物より選ばれた重合触媒1モル当たり、好ましくは0.5〜50モル、より好ましくは0.5〜10モル、さらに好ましくは0.8〜5モルの割合である。
【0068】
従って、重合触媒の存在下、エーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオール、ジフェノール化合物(B成分)、炭酸ジエステル(C成分)およびヒドロキシ化合物(D成分)を、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180〜280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させることが好ましい。
【0069】
〈末端変性ポリカーボネートの製造方法(II)〉
本発明の末端変性ポリカーボネートは、不活性溶媒中で、ピリジン等の酸結合剤の存在下にエーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)とホスゲン(E成分)とを反応させ製造することができる。即ち本発明の末端変性ポリカーボネートは、下記式(5)
【化30】

で表されるエーテルジオール(A成分)と該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)とホスゲン(E成分)とを、不活性溶媒中で、酸結合剤の存在下に反応させ、末端停止剤として下記式(6)または(7)
【化31】

【化32】

で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を用いることにより製造することができる(製造方法(II))。
【0070】
A成分、B成分およびD成分は製造方法(I)と同じである。エーテルジオール(A成分)は、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)であることが好ましい。ヒドロキシ化合物(D成分)は、生物起源物質由来であることが好ましい。末端停止剤として式(6)または(7)で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を用いることにより熱安定性が向上する。
【0071】
(酸結合剤)
酸結合剤は、ピリジン、キノリンおよびジメチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。酸結合剤として特にピリジンが好適である。酸結合剤の使用量は、ホスゲン(E成分)1モルに対して、好ましくは2〜100モル、より好ましくは2〜50モルである。
【0072】
(不活性溶媒)
不活性溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が挙げられる。なかでも塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が好ましい。塩化メチレンが最も好ましい。反応温度は、好ましくは0〜40℃、より好ましくは5〜30℃である。反応時間は、通常数分〜数日間、好ましくは10分間〜5時間である。
【0073】
〈成形品〉
本発明は、上記末端変性ポリカーボネートからなるフィルムなどの成形品を包含する。フィルムは光学用に用いることができる。
本発明のフィルムは、本発明の末端変性ポリカーボネートを溶媒に溶解させた溶液を流延する溶液キャスト法、本発明の末端変性ポリカーボネートをそのまま溶融させて流延する溶融製膜法で製造することができる。
【0074】
溶液キャスト法によりフィルムを作成する場合には、使用する溶媒としては、汎用性、製造コスト面からハロゲン系溶媒、中でも塩化メチレンを用いることが好ましい。溶液組成物(ドープ)として、塩化メチレンを60重量%以上含有する溶媒15〜90重量部に対して本発明の末端変性ポリカーボネート10重量部を溶解させたものが好ましい。溶媒量が90重量部より多いと膜厚が厚く、かつ表面平滑性に優れたキャストフィルムが得られにくいことがあり、また溶媒量が15重量部未満と少ない場合は溶液粘度が高すぎてフィルム製造が困難となることがある。
【0075】
溶媒として塩化メチレン以外にも必要に応じて製膜性を妨げない範囲で他の溶媒を加えてもよく、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールなどのアルコール類、クロロホルム、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル系溶媒が挙げられる。
【0076】
本発明では、ドープを支持基板上に流延した後、加熱して溶媒を蒸発させることによりフィルムを得ることが出来る。支持基板としてガラス基板、ステンレスやフェロタイプなどの金属基板、PETなどのプラスチック基板などを使用し、ドクターブレードなどでドープを均一に支持基板上に流延させる。工業的にはダイからドープをベルト状もしくはドラム状の支持基板上に連続して押し出す方法が一般的である。
【0077】
支持基板上に流延したドープは発泡が起きないよう低温から徐々に加熱乾燥していくことが好ましく、加熱して大部分の溶媒を除去して自立性のあるフィルムとしてから支持基板から剥離し、さらにフィルム両面から加熱乾燥して残りの溶媒を除去することが好ましい。基板から剥離した後の乾燥工程では、熱収縮による寸法変化によりフィルムに応力がかかる可能性が高いため、液晶表示装置に用いる光学用フィルムのように精密な光学特性のコントロールが必要とされる製膜においては、乾燥温度、フィルムの固定条件などに留意して行うことが必要である。一般には剥離後の乾燥においては用いるポリカーボネートの(Tg−100℃)〜Tgの範囲で段階的に昇温しながら乾燥する方法をとることが好ましい。Tg以上で乾燥するとフィルムの熱変形が起こり好ましくなく、(Tg−100℃)以下では乾燥温度が著しく遅くなるため好ましくない。
【0078】
溶液キャスト法で得るフィルム中の残留溶媒量は2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。2重量%以上と残留溶媒量が多いとフィルムのガラス転移点の低下が著しくなり好ましくない。
【0079】
溶融製膜法によりフィルムを作成する場合には、一般にTダイから融液を押し出して製膜する。製膜温度は、ポリカーボネートの分子量、Tg、溶融流動特性などから決められるが、通常180〜350℃の範囲であり、200〜320℃の範囲がより好ましい。温度が低すぎると粘度が高くなりポリマーの配向、応力歪みが残りやすいことがあり、逆に温度が高すぎるのも熱劣化、着色、Tダイからのダイライン(筋)などの問題がおきやすくなることがある。
【0080】
かくして得られる未延伸フィルムの膜厚は特に制限はなく目的に応じて決められるが、フィルムの製造面、靭性などの物性、コスト面などから10〜300μmが好ましく、より好ましくは20〜200μmである。
【0081】
フィルムを構成する本発明の末端変性ポリカーボネートは、光弾性定数が60×10−12Pa−1以下であることが好ましく、より好ましくは50×10−12Pa−1以下である。光弾性定数が60×10−12Pa−1より高い場合には、光学用フィルムを張り合わせる際の張力によって位相差が発現したり、他の材料との寸法安定性の違いから生じる応力により位相差が生じやすく、その結果光漏れ、コントラストの低下などの現象が生じて長期的な安定性に劣る場合がある。
【0082】
また、本発明のフィルムは、その位相差値の波長分散が下記式(i)
1.010<R(450)/R(550)<1.070 (i)
を満足することが好ましく、下記式(ii)
1.010<R(450)/R(550)<1.060 (ii)
を満足することがより好ましい。
【0083】
ここでR(450)、R(550)はそれぞれ波長450nm、550nmにおけるフィルム面内の位相差値である。このような位相差値の波長分散が小さい位相差フィルムを用いると、特に液晶表示装置のVA(垂直配向)モードにおいて、視野角特性、コントラストに優れたものが得られる。
【0084】
また、本発明のフィルムは、その位相差を膜厚で割った値(Δn=R(550)/フィルム膜厚(μm))が、未延伸の状態で下記式(iii)
Δn<0.3 (iii)
を満足することが好ましく、下記式(iv)
Δn<0.25 (iv)
を満足することがより好ましい。下限は特に限定されず0(零)より大きい範囲であればよい。
【0085】
本発明のフィルムとしては、未延伸フィルムを1軸延伸または2軸延伸など公知の延伸方法によりポリマーを配向させたものも好適である。かかる延伸により例えば液晶表示装置の位相差フィルムとして用いることが出来る。延伸温度はポリマーのTg近傍の、通常(Tg−20℃)〜(Tg+20℃)の範囲で行われ、延伸倍率は縦一軸延伸の場合、通常1.02倍〜3倍である。延伸フィルムの膜厚としては20〜200μmの範囲であることが好ましい。
【0086】
本発明で得られる好ましい位相差フィルムの一つとして、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)が下記式(1)の範囲にあって、
100nm<R(550)<2000nm ・・・(1)
かつ膜厚が10〜150μmである位相差フィルムが挙げられる。ここで位相差Rとは下記式(5)で定義されるものであり、フィルムに垂直方向に透過する光の位相の遅れを表す特性である。
R=(n−n)×d ・・・(5)
[式中、nはフィルム面内の遅相軸(最も屈折率が高い軸)の屈折率のことであり、nはフィルム面内でnと垂直方向の屈折率であり、dは膜厚である。]
【0087】
ここでR(550)は100〜600nmがより好ましい。また膜厚は30〜120μmがより好ましく、さらに好ましくは30〜100μmである。かかる位相差フィルムは一軸延伸または二軸延伸により作成することが出来、1/4λ板、1/2λ板、λ板等に好適に用いられる。
【0088】
また別の好ましい位相差フィルムとして、波長550nmにおけるフィルム面内の位相差R(550)および膜厚方向の位相差K(550)が下記式(2)、(3)の範囲にあり、
0nm<R(550)<150nm ・・・(2)
100nm<Rth(550)<400nm ・・・(3)
(式中、Rth(550)は波長550nmにおける膜厚方向の位相差値であり、下記式(4)によって定義されるものである。
Rth={(n+n)/2−n}×d ・・・(4)
(式中、n、nはフィルム面内のx軸、y軸の、nはx軸およびy軸に垂直な厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの膜厚である。)
かつ膜厚が10〜150μmである請求項1に記載の位相差フィルムも挙げられる。
【0089】
かかるフィルムは2軸延伸によって作製することができる。
上述したΔnの範囲を満足する特性を持つ本発明の樹脂を用いたフィルムは、延伸後の位相差が発現し易く、位相差制御性が良好であり工業的にも好適である。
【0090】
本発明のフィルムは、全光線透過率は80%以上が好ましく、85%以上であることがより好ましい。また、ヘイズ値は5%以下が好ましく、より好ましくは3%以下である。本発明のフィルムは、透明性に優れることから光学用フィルムとして好適である。
【0091】
本発明のフィルムは1枚単独で用いてもよいし、2枚以上積層して用いてもよい。また他の素材からなる光学用フィルムと組み合わせて用いてもよい。偏光板の保護膜として用いてもよいし、また液晶表示装置の透明基板として用いてもよい。
【発明の効果】
【0092】
本発明の末端変性ポリカーボネートは、主鎖が生物起源物質由来の繰り返し単位を含んでなり、生物起源物質の含有率が高い。また本発明の末端変性ポリカーボネートは、耐熱性および熱安定性に優れる。また本発明の末端変性ポリカーボネートは、生物起源物質の含有率が高い割に溶融粘度が低く、成形加工性に優れる。また本発明の末端変性ポリカーボネートは、極性の高いエーテルジオール成分を含有するが耐吸湿性に優れ、成形品の寸法安定性、湿熱安定性に優れる。また本発明の末端変性ポリカーボネートは、表面エネルギーが高く、汚れ難く、耐摩耗性に優れる。
【0093】
本発明の製造方法によれば、生物起源物質から誘導される部分を含有し、且つ耐熱性、熱安定性、成形加工性および耐吸湿性に優れ、高い表面エネルギーを有する末端変性ポリカーボネートを得ることができる。
本発明の光学用フィルムは、光弾性定数が低く、位相差の発現性および位相差制御性が良好で、視野角特性に優れ、かつ耐熱性および熱安定性に優れる。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに説明する。但し、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。なお実施例中の部は重量部であり、%は重量%である。なお、評価は下記の方法によった。
【0095】
(1)比粘度(ηsp
ペレットを塩化メチレンに溶解、濃度を0.7g/dLとして、温度20℃にて、オストワルド粘度計(装置名:RIGO AUTO VISCOSIMETER TYPE VMR−0525・PC)を使用して測定した。なお、比粘度ηspは下記式から求めた。
ηsp=t/t−1
t :試料溶液のフロータイム
:溶媒のみのフロータイム
【0096】
(2)末端変性基含有率
JEOL製JNM−AL400を用いてペレットの重クロロホルム溶液中におけるH−NMRを測定し、主鎖カーボネート構成単位由来の特定プロトンと末端ヒドロキシ化合物由来の特定プロトンとの積分比から末端変性基含有率を求めた。なお末端変性基含有率は主鎖カーボネート構成単位に対する末端ヒドロキシ化合物の割合(モル%)である。
【0097】
(3)ガラス転移温度(Tg)
ペレットを用いてTA Instruments社製 DSC (型式 DSC2910)により測定した。
【0098】
(4)5%重量減少温度(Td)
ペレットを用いてTA Instruments社製 TGA (型式 TGA2950)により測定した。

【0099】
(5)成形加工性
ペレットを日本製鋼所(株)製 JSWJ−75EIIIを用いて射出成形を行い、厚み2mmの成形板の形状を目視にて評価した(金型温度:70〜90℃、成形温度:220〜260℃)。
成形加工性
○;濁り、割れ、ヒケ、分解によるシルバーなどが見られない。
×;濁り、割れ、ヒケ、分解によるシルバーなどが見られる。
【0100】
(6)接触角
2mm厚の成形板を協和界面科学(株)製 滴下式接触角計を用いて純水に対する接触角を測定した。
【0101】
(7)吸水率
予め100℃で24時間乾燥した2mm厚の成形板を25℃の水中に浸し、24時間後の重量を測定し、吸水率を下記式から計算した。
【数1】

【0102】
(8)フィルムの膜厚
フィルムの膜厚は、(株)ミツトヨ製の膜厚測定計で測定した。
【0103】
(9)光弾性定数
幅1cm、長さ6cmのフィルムを準備し、このフィルムの無荷重状態の位相差、1N、2N、3N荷重時の波長550nmの光の位相差を日本分光(株)製分光エリプソメーター「M220」で測定し(位相差)×(フィルム幅)/(荷重)を計算することにより求めた。
【0104】
(10)フィルムの全光線透過率およびヘイズ値
日本電色工業(株)製濁度計NDH−2000型を用いて測定した。
【0105】
(11)位相差値(R(450)、R(550))およびその波長分散(R(450)/R(550))
日本分光(株)製分光エリプソメーター「M220」により、波長450nmおよび波長550nmで測定した。位相差値はフィルム面に対して垂直入射光線に対する位相差値を測定した。
【0106】
(12)膜厚方向の位相差値Rth
日本分光(株)製分光エリプソメーターM220を使用し、光線波長550nmで測定した。面内位相差値Rは、入射光線がフィルム面に垂直な状態で測定したものである。膜厚方向位相差値Rthは、入射光線とフィルム面との角度を少しずつ変えそれぞれの角度での位相差値を測定し、公知の屈折率楕円体の式でカーブフィッティングすることにより三次元屈折率であるn、n、nを求め、Rth={(n+n)/2−n}×d に代入することにより求めた。なおその際、フィルムの平均屈折率が必要となるが、別にアッベ屈折計((株)アタゴ社製商品名「アッベ屈折計2−T」を用いて測定した。
【0107】
実施例1
イソソルビド731重量部(5.00モル)とジフェニルカーボネート2206重量部(10.30モル)と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン1141重量部(5.00モル)とステアリルアルコール81重量部(0.30モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および水酸化ナトリウムを0.9×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.2×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
【0108】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0109】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に250℃まで昇温し、最終的に250℃,6.66×10−5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.26であるペレットを得た。このペレットのその他の評価結果については表1に示した。
【0110】
実施例2
イソソルビド906重量部(6.20モル)と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン868重量部(3.80モル)とペンタデシルフェノール122重量部(0.40モル)とを温度計、撹拌機付き反応器に仕込み、窒素置換した後、あらかじめよく乾燥したピリジン8900重量部、塩化メチレン32700重量部を加え溶解した。撹拌下20℃でホスゲン1420重量部(14.30モル)を100分要して吹込んだ。ホスゲン吹込み終了後、約20分間そのまま撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈し、ピリジンを塩酸で中和除去後、導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで繰り返し水洗し、その後塩化メチレンを蒸発してパウダーを得た。得られたパウダーを溶融押出してストランドを切断しペレットを得た。このペレットは比粘度が0.27であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0111】
実施例3
イソソルビド1242重量部(8.50モル)と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン402重量部(1.5モル)とジフェニルカーボネート2185重量部(10.20モル)と1−ヘキサノール61重量部(0.60モル)とを使用した以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。得られたペレットは比粘度が0.32であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0112】
実施例4
イソソルビド1374重量部(9.4モル)と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン196重量部(0.6モル)とジフェニルカーボネート2164重量部(10.10モル)と下記式(16)
【化33】

(式中、n=9)で表わされる片末端反応性ポリジメチルシロキサン11重量部(0.01モル)とを使用した以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。このペレットは比粘度が0.34であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0113】
実施例5
イソソルビド1242重量部(8.50モル)と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン405重量部(1.5モル)とジフェニルカーボネート2164重量部(10.10モル)と4−ヒドロキシ安息香酸−4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,11,11,11−ヘプタデカフルオロウンデシルエステル(下記式(17))
【化34】

19重量部(0.03モル)とを使用した以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。このペレットは比粘度が0.39であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0114】
実施例6
イソソルビド1023重量部(7.00モル)と1,3−プロパンジオール228重量部(3.00モル)とジフェニルカーボネート2185重量部(10.20モル)とステアリルアルコール81重量部(0.30モル)とした以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。このペレットは比粘度が0.31であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0115】
実施例7
イソソルビド1374重量部(9.40モル)と1,4−シクロヘキサンジメタノール85重量部(0.60モル)とジフェニルカーボネート2185重量部(10.20モル)とペンタデシルフェノール122重量部(0.4モル)とを使用した以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。このペレットは比粘度が0.31であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0116】
比較例1
イソソルビド1461重量部(10モル)とジフェニルカーボネート2142重量部(10モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を5.4×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.2×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
【0117】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。
【0118】
次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に260℃まで昇温し、最終的に260℃,6.66×10−5MPaで2時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.36のペレットを得た。なお、この場合、末端変性になりうるヒドロキシ化合物を加えていないために末端変性基含有率は0重量%となる。その他の評価結果については表1に示した。
【0119】
比較例2
イソソルビド1608重量部(11モル)とジフェニルカーボネート2474重量部(11.55モル)と3―ペンタデシルフェノール268重量部(0.88モル)とした以外は実施例1と同様に重合させてペレットを得た。このペレットは比粘度が0.16、末端変性基含有率は9.1重量%であった。その他の評価結果については表1に示した。
【0120】
比較例3
イソソルビド1366重量部(9.35モル)と1,6−ヘキサンジオール195重量部(1.65モル)とジフェニルカーボネート2356重量部(11モル)とを反応器に入れ、重合触媒としてテトラメチルアンモニウムヒドロキシドを1.0重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して1×10−4モル)、および2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン二ナトリウム塩を5.4×10−3重量部(ジフェニルカーボネート成分1モルに対して0.2×10−6モル)仕込んで窒素雰囲気下180℃で溶融した。
【0121】
撹拌下、反応槽内を30分かけて徐々に減圧し、生成するフェノールを留去しながら13.3×10−3MPaまで減圧した。この状態で20分反応させた後に200℃に昇温した後、20分かけて徐々に減圧し、フェノールを留去しながら4.00×10−3MPaで20分間反応させ、さらに、220℃に昇温し30分間、250℃に昇温し30分間反応させた。次いで、徐々に減圧し、2.67×10−3MPaで10分間、1.33×10−3MPaで10分間反応を続行し、さらに減圧し、4.00×10−5MPaに到達したら、徐々に240℃まで昇温し、最終的に240℃,6.66×10−5MPaで1時間反応せしめた。反応後のポリマーをペレット化し、比粘度が0.26のペレットを得た。なお、この場合、末端変性になりうるヒドロキシ化合物を加えていないために末端変性基含有率は0重量%となる。その他の評価結果については表1に示した。
【0122】
【表1】

【0123】
実施例8
実施例7で得られた末端変性ポリカーボネート樹脂をKZW15−30MGフィルム成形装置((株)テクノベル製)およびKYA−2H−6 ロール温調機((株)加藤理機製作所製)を用いて溶融製膜フィルムを得た。押出し機シリンダー温度は220℃〜260℃の範囲内に保持し、ロール温度は140〜160℃にて行った。得られたフィルムの物性を表2に示した。
【0124】
比較例4
ビスフェノールAからなるポリカーボネート樹脂である帝人化成(株)製パンライト(登録商標)L1225を用いて、KZW15−30MGフィルム成形装置((株)テクノベル製)およびKYA−2H−6 ロール温調機((株)加藤理機製作所製)を用いて溶融製膜フィルムを得た。押出し機シリンダー温度は260℃〜300℃の範囲内に保持し、ロール温度は140〜160℃にて行った。得られたフィルムの物性を表2に示した。実施例7のポリカーボネートフィルムと比べて光弾性定数が高く、また位相差値の波長分散が大きいことが分かる。
【0125】
【表2】

【0126】
実施例9〜11
実施例8で得た未延伸の末端変性ポリカーボネートフィルムを、延伸機を用いて延伸温度150〜160℃で3通りの延伸倍率にて1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表3に示した。
【0127】
実施例12
実施例8で得た未延伸の末端変性ポリカーボネートフィルムを、バッチ式同時2軸延伸機を用いて、同時2軸延伸を行った。倍率は一方向が1.3倍、もう一方向が1.4倍、延伸温度は140℃で行った。得られた2軸配向フィルムについて、物性を表4に示した。
【0128】
比較例5および6
比較例4で得たポリカーボネートフィルムを、延伸機を用いて延伸温度120℃で2通りの延伸倍率にて1軸延伸を行い、延伸フィルムを得た。これらの延伸フィルムの位相差値およびその波長分散の物性を表3に示した。実施例9〜11の末端変性ポリカーボネートフィルムと比べて、延伸後の位相差が発現し難く、また位相差値の波長分散が大きく、位相差制御性に劣ることが分かる。
【0129】
【表3】

【0130】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖が下記式(1)
【化1】

で表されるカーボネート構成単位を全カーボネート構成単位中、50モル%以上95モル%未満含んでなるポリカーボネートであって、0.7gを塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度が0.2〜0.5であり、下記式(2)または(3)
【化2】

【化3】

{上記式(2)、(3)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化4】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}
で表される末端基を主鎖に対して0.01〜7モル%含有する末端変性ポリカーボネート。
【請求項2】
式(2)または(3)で表される末端基を主鎖に対して0.05〜7モル%含有する請求項1記載の末端変性ポリカーボネート。
【請求項3】
23℃、24時間後の吸水率が、0.75%以下である請求項1記載の末端変性ポリカーボネート。
【請求項4】
式(1)で表される繰り返し単位が、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)由来の単位である請求項1記載の末端変性ポリカーボネート。
【請求項5】
式(2)または(3)で表される末端基が、生物起源物質由来である請求項1記載の末端変性ポリカーボネート。
【請求項6】
下記式(5)
【化5】

で表されるエーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)、炭酸ジエステル(C成分)およびA成分とB成分の合計に対して0.01〜7モル%の下記式(6)または(7)
【化6】

【化7】

{上記式(6)、(7)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化8】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}
で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を反応させることを特徴とする末端変性ポリカーボネートの製造方法。
【請求項7】
炭酸ジエステル(C成分)の量が、該エーテルジオール(A成分)と該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)との合計に対して、モル比率(C成分/(A成分+B成分))で1.05〜0.97である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
重合触媒の存在下、エーテルジオール(A成分)、該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)、炭酸ジエステル(C成分)およびヒドロキシ化合物(D成分)を、常圧で加熱反応させ、次いで減圧下、180℃〜280℃の温度で加熱しながら溶融重縮合させる請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
重合触媒として、含窒素塩基性化合物、アルカリ金属化合物およびアルカリ土類金属化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物を使用する、請求項6記載の製造方法。
【請求項10】
エーテルジオール(C成分)が、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)である請求項6記載の製造方法。
【請求項11】
ヒドロキシ化合物(D成分)が、生物起源物質由来である請求項6記載の製造方法。
【請求項12】
下記式(5)
【化9】

で表されるエーテルジオール(A成分)該エーテルジオール以外のジオールおよび/またはジフェノール化合物(B成分)とホスゲン(E成分)とを、不活性溶媒中で、酸結合剤の存在下に反応させるポリカーボネートの製造方法であって、末端停止剤として下記式(6)または(7)
【化10】

【化11】

{上記式(6)、(7)において、Rは炭素原子数4〜30のアルキル基、炭素原子数7〜30のアラルキル基、炭素原子数4〜30のパーフルオロアルキル基、フェニル基、または下記式(4)
【化12】

(上記式(4)中、R、R、R、RおよびRは夫々独立に、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数6〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜10のアルケニル基、炭素原子数6〜10のアリール基および炭素原子数7〜20のアラルキル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、bは0〜3の整数、cは4〜100の整数である)で表される基であり、Xは単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、エステル結合、アミノ結合およびアミド結合からなる群より選ばれる少なくとも1種の結合を表わし、aは1〜5の整数である。}
で表されるヒドロキシ化合物(D成分)を反応させることを特徴とする末端変性ポリカーボネートの製造方法。
【請求項13】
酸結合剤が、ピリジン、キノリンおよびジメチルアニリンからなる群より選ばれる少なくとも一種である請求項12記載の製造方法。
【請求項14】
エーテルジオール(A成分)が、イソソルビド(1,4;3,6−ジアンヒドロ−D−ソルビトール)である請求項12記載の製造方法。
【請求項15】
ヒドロキシ化合物(D成分)が、生物起源物質由来である請求項12記載の製造方法。
【請求項16】
請求項1記載の末端変性ポリカーボネートからなる成形品。
【請求項17】
フィルムである請求項16記載の成形品。

【公開番号】特開2010−43225(P2010−43225A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−209797(P2008−209797)
【出願日】平成20年8月18日(2008.8.18)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】