説明

末端変性可溶性多官能ビニル芳香族共重合体、硬化性樹脂組成物及び硬化物

【課題】成形時に金型からの離型性に優れることに由来して、離型時に変形、浮き、剥がれや割れといった不具合を出さず、離型性に優れた硬化性樹脂組成物に使用される多官能ビニル芳香族共重合体、硬化性樹脂組成物、その硬化物及び光学物品を提供する。
【解決手段】ジビニル芳香族化合物(a)、モノビニル芳香族化合物(b)を共重合して得られ、有機溶媒に可溶である多官能ビニル芳香族共重合体あって、その共重合体の末端に下記式(1)で表される芳香族系エーテル化合物(c)由来の末端を有し、モノビニル芳香族化合物(b)としてビニルナフタレン又はビニルビフェニルを50%以上含むビニル芳香族化合物を使用して得られる共重合体、及びこの共重合体と(メタ)アクリレート化合物を含む硬化性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、相溶性、耐熱変色性及び離型性が改善された(メタ)アクリレート構造を有する末端変性可溶性多官能ビニル芳香族共重合体に関する。また、この共重合体を含有する耐熱性、屈折率、離型性の改善された硬化性樹脂組成物、及びこれから得られる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
反応活性のある不飽和結合を有する単量体の多くは、不飽和結合が開裂して、連鎖反応を起こす触媒と適切な反応条件を選択することにより多量体を生成することができる。このような不飽和結合を有する単量体を代表する汎用的な単量体としてスチレン、アルキルスチレン及びアルコキシスチレン等のビニル芳香族化合物を挙げることができる。そして、このようなビニル芳香族化合物を単独で又はこれらを共重合させることにより多種多様な樹脂が合成されている。
【0003】
しかし、このようなビニル芳香族化合物から得られる重合体の用途は主に、比較的安価な民生機器の分野に限られており、電気・電子分野におけるプリント配線基板のような高機能で高度の熱的・機械的特性が要求される先端技術への適用はほとんどない。その理由としては、耐熱性あるいは耐熱分解性といった熱的特性と溶剤可溶性あるいはフィルム成形性といった加工性を同時に満足させることができないことが挙げられる。また特に賦型後に離型が必要な硬化形式においては、離型性が優れることが要求されている。
【0004】
この様な従来のビニル芳香族系重合体の欠点を解決する方法として、特許文献1にはジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物を有機溶媒中、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤の存在下、20〜100℃の温度で重合させることによって得られる可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。また、特許文献2には4級アンモニウム塩の存在下で、ルイス酸触媒及び特定構造の開始剤により、ジビニル芳香族化合物を20〜100モル%含有してなる単量体成分を20〜120℃の温度でカチオン重合させることにより制御された分子量分布を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の製造方法が開示されている。これらの文献で開示されている技術によって得られる多官能ビニル芳香族共重合体は溶剤可溶性及び加工性に優れ、これを使用することによってガラス転移温度の高い耐熱性に優れた硬化物を得ることができる。
【0005】
これらの技術によって得られる多官能ビニル芳香族共重合体は、それ自体が重合性の2重結合を有するため、これを硬化させることにより高いガラス転移温度を持つ硬化物を与える。そのため、この硬化物又は多官能ビニル芳香族共重合体は、耐熱性に優れた重合体又はその前駆体であると言うことができる。そして、この多官能ビニル芳香族共重合体は他のラジカル重合性モノマーと共重合して硬化物を与えるが、この硬化物も耐熱性に優れた重合体となる。
【0006】
多官能ビニル芳香族共重合体と他のラジカル重合性モノマーの共重合時の相溶性や、硬化後の耐熱変色性という観点から見ると、汎用性の高い(メタ)アクリレート化合物との間の相溶性又は溶解性が十分でなく、また、高いプロセス温度に対する耐熱分解性は十分ではない。従って、(メタ)アクリレート化合物の種類によっては不透明な組成物を与えるケースが多く、(メタ)アクリレート化合物と多官能ビニル芳香族共重合体との均一な共重合が困難となる。これは、配合処方設計の自由度が小さいという欠点を生じる他、更に280〜300℃近傍の高い熱履歴によって、フクレや変色などの不良が生ずるケースがあった。
【0007】
一方、特許文献3には、イソブチレンを含有するカチオン重合性モノマーを開始剤兼連鎖移動剤として作用する特定構造のハロゲン含有有機化合物、及びルイス酸の存在下で、低温でリビングカチオン重合を行うことにより、末端にイソブチリル基を有するイソブチレン系重合体を合成し、更にルイス酸存在下で、この末端にイソブチレン基を有するイソブチレン系重合体と特定構造のフェノール系化合物とのフリーデルクラフツ型反応を行うことによって、停止末端に水酸基を有するイソブチレン系重合体の製造方法が開示されている。しかしながら、このような方法によって合成され共重合体は、多官能ビニル芳香族化合物を使用していないことに起因して、ペンダントビニル基を有しておらず、このため成形品のガラス転移温度が低く、電気・電子分野のような高機能で高度の熱的・機械的特性が要求される先端技術分野に適用できないという問題点があった。
【0008】
更に、特許文献4にはジビニル芳香族化合物及びモノビニル芳香族化合物を共重合して得られる共重合体であって、その末端基の一部にエーテル結合又はチオエーテル結合を介した鎖状炭化水素基又は芳香族炭化水素基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が開示されている。しかしながら、このようして末端が変性された多官能ビニル芳香族共重合体であっても、相溶性又は耐熱性等が十分ではない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−123873号公報
【特許文献2】特開2005−213443号公報
【特許文献3】特開平4−20501号公報
【特許文献4】特開2007−332273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、高い熱履歴に対しても優れた耐熱性と耐熱変色性とを有し、(メタ)アクリレート化合物との相溶性に優れ、なおかつ成形加工性、特に賦型後の離型性が優れる溶剤可溶性を兼ね備えた多官能ビニル芳香族共重合体を提供することを目的とする。また、この共重合体を配合した硬化性組成物及び硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a)及びモノビニル芳香族化合物由来の構造単位(b)を含む共重合体であって、その末端に平均して1分子あたり1個以上の下記式(1)
【化1】

(ここで、R2は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基であり、R3は水素又はメチル基を表す)
で表される芳香族系エーテル化合物由来の末端基を有し、構造単位(a)及び構造単位(b)の存在モル分率をそれぞれa及びbとしたとき、a/(a+b)=0.2〜0.7を満足し、構造単位(b)が下記式(4)及び(5)、
【化2】

(ここで、R4及びR5は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表す)
【化3】

(ここで、R6及びR7は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表す)
で表わされる化合物からなる群から選ばれる1種以上のビニル芳香族化合物を50モル%以上含むモノビニル芳香族化合物に由来し、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エタノール又はイソプロパノールに可溶であることを特徴とする多官能ビニル芳香族共重合体である。
【0012】
また、本発明は上記多官能ビニル芳香族共重合体に、低分子の(メタ)アクリレート系化合物を配合したことを特徴とする硬化性樹脂組成物である。この硬化性樹脂組成物はラジカル重合開始剤を含有することで重合速度が向上する。
【0013】
更に、本発明は上記硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物である。この硬化物はレンズ又はプリズムとして優れる。また、本発明はこの硬化物の層を有するフィルムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の末端が変性された多官能ビニル芳香族共重合体は、耐熱性、相溶性及び接着性が改善される。本発明の多官能ビニル芳香族共重合体又はこれを含む硬化性樹脂組成物は、成形材、シート又はフィルムに加工することができ、高耐熱性等の特性を満足できる光学用材料への適用が可能であり、また、賦型後に離型が必要な硬化形式において、離型性が優れることから、成形物の歪を小さくできる。そのため携帯電話用レンズ、CD、DVD用ピックアップレンズ、Fax用レンズ、フレネルレンズあるいはプリズム等の材料として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】レンズ金型の部分拡大斜視図を示す。
【図2】樹脂組成物を注入したレンズ金型と被覆フィルムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の多官能ビニル芳香族共重合体は、ジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a)及びモノビニル芳香族化合物由来の構造単位(b)を含む共重合体であって、その末端に平均して1分子あたり1個以上の式(1)で表される芳香族系エーテル化合物由来の末端基を有し、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エタノール又はイソプロパノールに可溶である。本発明の多官能ビニル芳香族共重合体は、上記のように末端が変性され、有機溶媒に可溶性であるので、末端変性可溶性多官能ビニル芳香族共重合体ともいうが、誤解を生じない場合は共重合体又は本発明の共重合体と略称する。
【0017】
本発明の共重合体は、ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)及びモノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)の他、芳香族系エーテル化合物に由来する上記式(1)で表される構造単位(以下、構造単位(c)という)を有する。そして、上記式(1)で表される末端基を末端基(c)という。そして、概ね共重合体の重合鎖(主鎖及び側鎖)はジビニル芳香族化合物及びモノビニル芳香族化合物から生じ、末端の一部は芳香族系エーテル化合物から生じることが望ましい。
【0018】
それぞれの構造単位の存在モル分率をa、b及びcとすれば、a/(a+b)は0.2〜0.7、好ましくは0.3〜0.6、より好ましくは0.3〜0.5の範囲である。なお、b/(a+b)は上記式から計算される。別の観点からは、構造単位(A)を全ての構造単位の合計100モル%に対して、10〜30モル%含むことが好ましい。ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(A)は、耐熱性を発現させるための架橋成分としてのビニル基を含み、一方、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(B)は、硬化反応に関与するビニル基を有しないため成形性が向上される。したがって、a/(a+b)が0.2未満では硬化物の耐熱性が不足し、0.7を超える場合は成形加工性、特に離型性が低下する。
【0019】
共重合体中では、ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)は、一部は架橋して分岐構造を与え、一部は末端ビニル基として残存し、この末端ビニル基の一部は前記末端構造単位(c)と結合し、一部は重合鎖中に不飽和基として残る。したがって、ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)は、共重合体を分岐して末端を増やすと共に、重合硬化性を与える。しかし、ジビニル芳香族化合物の多くが架橋すると硬化して溶剤可溶性を示さなくなるので、溶剤可溶性を示すように重合させる。好ましくは、末端ビニル基が全構造単位の0.5〜50モル%、好ましくは5〜40モル%となるようにする。
【0020】
また、共重合体の末端には、上記式(1)で表される末端基(c)を有する。末端基(c)は末端構造単位(c)を与える。末端基(c)又は末端構造単位(c)は1分子あたり平均して1個以上有する。好ましくは2〜5個を有する。別の観点からは、末端構造単位(c)の存在モル分率cは、c/(a+b+c)=0.05〜0.6、より好ましくは0.1〜0.5、更に好ましくは0.1〜0.4を満足することがよい。
【0021】
本発明の共重合体の末端に末端基(c)を上記の関係を満足するように導入することによって、高い熱履歴に対しても優れた耐熱性と高接着性を有し、(メタ)アクリレート化合物との相溶性に優れ、成形加工性にも優れた樹脂組成物とすることができる。末端基(c)の量が少ないと(メタ)アクリレート化合物との相溶性と成形加工性が低下し、多すぎるとポリマーとしての機械物性が維持できず、更に耐熱性が低下する。
【0022】
構造単位(c)又は末端基(c)を与える芳香族系エーテル化合物としては、2−フェノキシエチルメタクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、アルコキシ化2−フェノキシエチルメタクリレート、又はアルコキシ化2−フェノキシエチルアクリレートが好ましく例示される。しかし、これらに限定されない。反応性、硬化物の耐熱性、入手の容易さの観点から、2−フェノキシエチルメタクリレート又はび2−フェノキシエチルアクリレートがより好ましい。
【0023】
上記式(1)において、R2は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基であが、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。R3は水素又はメチル基であるが、これらは使用する芳香族系エーテル化合物によって決まる。好ましいR2は-CnH2n-で表わされる基である。ここで、nは1〜6の範囲が好ましい。
【0024】
構造単位(b)を与えるモノビニル芳香族化合物としては上記式(3)及び(4)で表わされる化合物からなる群から選ばれる1種以上のビニル芳香族化合物を50モル%以上、好ましくは70%以上、更に好ましくは85%以上含むモノビニル芳香族化合物が使用される。
【0025】
式(3)及び(4)において、R4、R5、R6及びR7は独立に酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表す。好ましくは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基である。
【0026】
また、モノビニル芳香族化合物は上記(3)及び(4)で表わされる化合物以外のモノビニル芳香族化合物を50モル未満の少量を含んでいても良い。その他のモノビニル芳香族化合物の例としては、スチレン、核アルキル置換モノビニル芳香族化合物、α−アルキル置換モノビニル芳香族化合物、β−アルキル置換スチレン、アルコキシ置換スチレン等がある。重合体のゲル化を防ぎ、溶媒への溶解性、加工性を改善するために、特にスチレン、エチルビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)、エチルビニルビフェニル(各異性体を含む)がコスト及び入手の容易さの観点から適する。
【0027】
構造単位(a)を与えるジビニル芳香族化合物の例としては、ジビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)、ジビニルナフタレン(各異性体を含む)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)等を用いることができるが、これらに限定されない。また、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特に、コスト及び入手の容易さの観点からはジビニルベンゼン(m−及びp−両方の異性体)が、より高度の耐熱性が求められる場合は、ジビニルナフタレン(各異性体を含む)、ジビニルビフェニル(各異性体を含む)が好ましく使用される。
【0028】
また、共重合体は構造単位(a)、(b)及び(c)の他に、必要により本発明の効果を損なわない範囲で、他の構造単位(d)を含むことができる。他の構造単位(d)を与える単量体としては、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物やジビニル脂肪族化合物及びモノビニル脂肪族化合物等がある。具体例としては、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、1,2,4−トリビニルシクロへキサン、エチレングリコールジアクリレート、ブタジエン等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。構造単位(d)を含む場合、構造単位(a)及び(b)の合計100モルに対し、30モル未満、好ましくは10モル未満とすることがよい。
【0029】
本発明の共重合体のMn(ここで、Mnはゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量である)は500〜10,000であり、好ましくは700〜5,000、更に好ましくは1,000〜4,000である。Mnが500未満であると共重合体の粘度が低すぎるため、厚膜の形成が困難になるなど、加工性が低下し、また、Mnが10,000を超えると、ゲルが生成しやすくなり、フィルム等に成形した場合、外観の低下を招くとともに、末端官能基の数が低下するため、相溶性や屈折率の向上が望めない。分子量分布(Mw/Mn)の値は50.0以下、好ましくは20.0以下、より好ましくは1.5〜3.0である。Mw/Mnが50.0を超えると、共重合体の加工特性の悪化、ゲルの発生といった問題点を生ずる。
【0030】
本発明の共重合体は、末端が(メタ)アクリレートで変性されているため(メタ)アクリレート化合物との共重合化が可能であり、(メタ)アクリレート化合物及び樹脂に対し相溶性が非常に高い。したがって、(メタ)アクリレート化合物と共重合させて硬化させた場合、均一硬化性や透明性に優れるものとなる。また、モノビニル芳香族化合物成分として上記式(4)、(5)で表わされる多環モノビニル化合物を使用することで離型性に優れたものとなる。
【0031】
本発明の共重合体は、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エタノール及びイソプロパノールから選ばれるいずれか1以上の有機溶媒に可溶であり、有利には上記有機溶媒のいずれにも可溶である。有機溶媒及びアルカリ溶液に可溶な共重合体であるためには、ジビニル芳香族化合物のビニル基の一部は架橋せずに残存し適度な架橋度とすることにより可能である。ここで、可溶であるとは有機溶媒及びアルカリ溶液等の溶媒100mlに、25℃で、1g以上が溶解することをいう。
【0032】
本発明の共重合体は上記特許文献等に示される方法に準じて得ることができる。具体的には、ジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物と上記芳香族エーテル系化合物を使用し、共重合させて、芳香族エーテル系化合物由来の末端基を有する共重合体を得ることができる。
【0033】
共重合体の製造方法としては、例えば、ジビニル芳香族化合物、モノビニル芳香族化合物及び芳香族エーテル系化合物を、ルイス酸触媒、エステル化合物から選ばれる助触媒の存在下でカチオン共重合させることにより得ることができる。
【0034】
ジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物と芳香族エーテル系化合物の使用量は、本発明の共重合体の組成を与えるように決められる。
【0035】
共重合体の製造で用いられるルイス酸触媒としては、金属イオン(酸)と配位子(塩基)からなる化合物であって、電子対を受け取ることのできるものであれば特に制限なく使用できる。分子量及び分子量分布の制御及び重合活性の観点から、三フッ化ホウ素のエーテル(ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等)錯体が最も好ましく使用される。ルイス酸触媒は芳香族エーテル系化合物1モルに対して、0.001〜10モルの範囲内で用いるが、より好ましくは0.001〜0.01モルである。ルイス酸触媒の使用量が過大であると、重合速度が大きくなりすぎるため、分子量分布の制御が困難となるばかりでなく、式(1)で表わされる末端基の導入量が減少する。
【0036】
助触媒としてはエステル化合物から選ばれる1種以上が挙げられる。その中で、重合速度及び共重合体の分子量分布制御の観点から炭素数4〜30のエステル化合物が好適に使用される。入手の容易さの観点から、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルが好適に使用される。助触媒はカテコール系化合物1モルに対して0.001〜10モルの範囲内で使用するが、より好ましくは0.01〜1モルである。助触媒の使用量が過大であると、重合速度が減少し、共重合体の収率が低下し、フェノール性水酸基の導入量が減少する。一方、助触媒の使用量が過少であると、重合反応の選択性が低下し、分子量分布の増大、ゲルの生成等が生じる他、重合反応の制御が困難となる。
【0037】
重合反応は、生成する多官能ビニル芳香族共重合体を溶解し、誘電率が2〜15である1種以上の溶媒中で行うことがよい。溶媒としては、トルエン、キシレン、n−へキサン、シクロへキサン、メチルシクロへキサン及びエチルシクロへキサンが特に好ましい。また、溶媒の使用量は、得られる重合溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合終了時において重合溶液中の共重合体の濃度が1〜80wt%、好ましくは5〜60wt%、特に好ましくは7〜50wt%となるように決定される。重合温度は20〜120℃の範囲であるが、好ましくは40〜100℃である。
【0038】
本発明の硬化性組成物は、本発明の共重合体と、(メタ)アクリレート系化合物を含む。メタアクリレート系化合物は、粘度調整や硬化成分として用いられる分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイル基を有するアクリレートであり、粘度調整が必要な場合は粘度調整成分として単官能の(メタ)アクリレート系化合物を含むことがよい。硬化成分として用いられる場合は多官能アクリレートを使用し、本発明の共重合体と併用することによって相乗的に、耐熱性、耐擦傷性や接着性といった性質が同時に向上する。ここで、(メタ)アクリレート系化合物は、本発明の共重合体より低分子量又は低粘度であるものが好ましい。より好ましくは重合体ではない化合物である。
【0039】
本発明の硬化性組成物における本発明の共重合体の配合量は1.0〜90wt%であることがよく、好ましくは2.0〜50wt%である。より好ましくは、5.0〜30wt%である。共重合体の配合量が1.0wt%未満であると共重合体による改質効果の程度が不十分であり、90wt%を越える場合は、硬化反応性が著しく低下するので好ましくない。
【0040】
(メタ)アクリレート化合物は分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する1種以上のアクリレート化合物であれば特に限定されない。例えばエチレンオキサイド変性フェノールの(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノールの(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノールの(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノールの(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレートやポリエステル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールのジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性水添ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンアリルエーテルジ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート、2−アクリロイロキシエチルフタル酸、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸等からなる群から選ばれる1種以上の単官能及び多官能(メタ)アクリレート化合物が使用される。
【0041】
本発明の硬化性樹脂組成物は後述するように加熱や活性エネルギー線光の照射等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を低くしたり、不飽和基の架橋反応を促進する目的でラジカル重合開始剤を含有させて使用してもよい。この目的で用いられる重合開始剤の量は硬化性組成物成分のすべての和を基準として0.01〜15wt%、好ましくは0.05〜10wt%である。重合開始剤の量が前述の範囲内であると、離型性、耐熱性及び機械的特性に優れた硬化物が得られることから好ましい。
【0042】
重合開始剤として使用することのできる化合物としては、加熱や活性エネルギー線光の照射等の手段により、ラジカルを発生させるものであれば特に限定せずに使用することができる。より具体的に例示すれば、加熱により硬化させる場合には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル等のアゾ系、過酸化物系開始剤等の通常のラジカル熱重合に使用できるものはいずれも使用することができる。
【0043】
ラジカル重合を光ラジカル重合により行う場合、ラジカル重合開始剤として、上記アゾ系開始剤や過酸化物開始剤等のラジカル熱重合開始剤の替わりに光ラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、ベンゾイン類、アセトフェノン類、アントラキノン類、チオキサントン類、ケタール類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキサイド類等の光開始剤が挙げられる。
【0044】
これらは、単独又は2種以上の混合物として使用でき、更には、光ラジカル重合開始剤に対しては、第3級アミン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル等の促進剤などと組み合わせて使用することができる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物は、上記成分以外に必要に応じて各種添加剤として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、塗面改良剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、着色剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、溶媒、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤等を必要に応じて配合することができる。
【0046】
本発明の硬化性光学樹脂組成物は、その使用目的、用途、製品形状に応じて、熱又は紫外線により硬化させることができる。
【0047】
熱により硬化させる場合は、組成物の保存安定性、硬化物の着色抑制の観点から好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜180℃のオーブンで1分〜20時間加熱処理することが望ましい。溶剤を含んでいる場合は硬化する前に、溶剤を完全に除去することが望ましい。除去方法は特に限定されないが、好ましくは50〜100℃の熱風を15分〜2時間塗布面に当てて除去する。
【0048】
本発明の硬化性樹脂組成物は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより硬化物を得ることができる。ここで本発明の硬化性光学樹脂組成物に紫外線等の活性エネルギー線を照射して硬化する場合に用いられる光源の具体例としては、例えば、キセノンランプ、カーボンアーク、高圧水銀灯等を挙げることができる。
【0049】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化、成形することによりレンズ、プリズム等の光学材料を得ることができる。例えば、本発明の硬化性樹脂組成物を用いたプラスチックレンズの作製法としては、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体等からなるガスケットと所望の形状の2枚のガラス鋳型によって造られた型を作り、これに本発明の硬化性光学樹脂組成物を注入した後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して本発明で得られた硬化性光学樹脂組成物を硬化し、硬化物を型より剥離する方法等がある。
【0050】
また、本発明の硬化性樹脂組成物を、例えば、プリズム、フレネルレンズ又はレンチキュラーレンズの形状を有するスタンパー上に塗布し、該樹脂組成物の層を設け、その層の上に硬質透明基板であるバックシート(例えば、ポリメタクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、或いはこれらポリマーのブレンド品等からなる基板あるいはフィルム)を接着させ、次いで該硬質透明基板側から高圧水銀灯などにより、紫外線を照射して該樹脂組成物を硬化させた後、該スタンパーから硬化物を剥離することもできる。この方法により、プリズム、フレネルレンズ又はレンチキュラーレンズ等の光学材料が得られる。
【0051】
樹脂フィルムに、本発明の硬化性樹脂組成物の層を塗布法等で設け、これを上記と同様にして硬化させることにより、硬化物の層を有するフィルムが得られる。この硬化物の層を有するフィルムは、例えば、バックライトディスプレイ用途の輝度向上フィルムに適する。
【実施例】
【0052】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。なお、各例中の部はいずれも重量部である。また、実施例中の軟化温度等の測定は以下に示す方法により試料調製及び測定を行った。
【0053】
1)ポリマーの分子量及び分子量分布
可溶性多官能芳香族共重合体の分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度38℃、単分散ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
【0054】
2)ポリマーの構造
日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、13C−NMR及び1H−NMR分析により決定した。溶媒としてクロロホルム−d1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。
3)末端基の解析
末端基の算出は、上記のGPC測定より得られる数平均分子量と1H−NMR測定と元素分析の結果より得られるモノマー総量に対する末端基を導入するために使用した誘導体量とから、末端基を有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体1分子中に含まれる末端基数を算出した。
【0055】
4)硬化物のガラス転移温度(Tg)及び軟化温度測定の試料調製及び測定
乾燥後の厚さが20μmになるように、ガラス基板に可溶性多官能ビニル芳香族共重合体溶液を均一に塗布し、ホットプレートを用いて90分で30分間加熱し、乾燥させた。ガラス基板とともに得られた樹脂膜はTMA(熱機械分析装置)にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に220℃で20分間加熱処理することにより残存する溶媒を除去するとともに可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を硬化した。ガラス基板を室温まで放冷した後、TMA測定装置中の試料に分析用プローブを接触させ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャン測定を行い、接線法で軟化温度を求めた。
【0056】
5)耐熱性評価及び耐熱変色性の測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱性評価は、試料をTGA(熱天秤)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から320℃までスキャンさせることにより測定を行い、300℃における重量減少を耐熱性として求めた。一方、耐熱変色性の測定は、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体5.0g、2−フェノキシエチルメタクリレート5.0g、及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日本油脂(株)製、パーブチルO)0.02gを混合し、窒素気流下で150℃、1時間加熱し、硬化物を得た。そして、得られた硬化物の変色量を目視にて確認し、○:熱変色なし、△:淡黄色、×:黄色に分類することにより耐熱変色性の評価を行った。
【0057】
6)相溶性の測定
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体のアクリレート化合物との相溶性の測定は、試料2gをアクリレート類(ペンタエリスリトールテトラアクリレート(PETA)、トリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA))10gに溶解させ、溶解後の試料の透明性を目視にて確認し、○:透明、△:半透明、×:不透明もしくは溶解せず、に分類することにより相溶性の評価を行った。
7)有機溶媒への溶解試験
25℃の各種有機溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エタノール及びイソプロパノール)100mlに対し、共重合体1gを加え、マグネチックスターラーを用いて30分攪拌した後に目視で溶解性を確認した。完全に溶解した場合を可溶性とした。
【0058】
実施例1
ジビニルベンゼン175.8g(1.35モル)、エチルビニルベンゼン41.3g(0.317モル)、2−ビニルナフタレン436.9g(2.833モル)、酢酸ブチル44g(0.379モル)、2−フェノキシエチルメタクリレート278.4g(1.35モル)、トルエン1038.0gを3.0Lの反応器内に投入し、50℃で10.64gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、6時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Aを486.23g(収率:74.4wt%)得た。
【0059】
得られた共重合体AのMnは1660、Mwは6360、Mw/Mnは3.84であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Aは2−フェノキシエチルメタクリレート末端に由来する共鳴線が観察された。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の構造単位の導入量(a)は2.7(個/分子)で、全構造単位の34.1モル%であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を32.0モル%及びエチルビニルベンゼンと2−ビニルナフタレン由来の構造単位を合計68.0モル%含有していた。共重合体A中に含まれるビニル基含有量は、18.2モル%であった。なお、ジビニルベンゼン由来の構造単位、エチルビニルベンゼンと2−ビニルナフタレン由来の構造単位及びビニル基含有量のモル%は、ジビニル芳香族化合物の構造単位(a)及びモノビニル芳香族化合物の構造単位(b)の合計を100モル%として計算した値である。
また、TMA測定の結果、明確なTgはされなかった。一方、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は0.25wt%、耐熱変色性はBであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は90%であった。共重合体Aはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0060】
実施例2
ジビニルベンゼン117.16g(0.900モル)、エチルビニルベンゼン27.48g(0.211モル)、4−ビニルビフェニル340.49g(1.889モル)、酢酸ブチル29.04g(0.250モル)、2−フェノキシエチルメタクリレート185.62g(0.900モル)、トルエン692.00gを3.0Lの反応器内に投入し、50℃で14.19gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、2時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Bを324.56g(収率:66.9wt%)得た。
【0061】
得られた共重合体BのMnは3610、Mwは9340、Mw/Mnは2.59であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Bは2−フェノキシエチルメタクリレート末端に由来する共鳴線が観察された。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の構造単位の導入量(a)は2.4(個/分子)で、全構造単位の13.9モル%であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を31.7モル%及びエチルビニルベンゼンと4−ビニルビフェニル由来の構造単位を合計68.3モル%含有していた。共重合体B中に含まれるビニル基含有量は、16.9モル%であった。
また、TMA測定の結果、明確なTgはされなかった。一方、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は0.25wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は90%であった。共重合体Bはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0062】
合成例1
ジビニルベンゼン1874.7g(14.4モル)、エチルビニルベンゼン867.8g(8.4モル)、スチレン749.9g(7.2モル)、酢酸ブチル264.0g(2.3モル)、2−フェノキシエチルメタクリレート4640.4g(22.5モル)、トルエン8410gを30Lの反応器内に投入し、50℃で354.8g(2.5モル)の三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、7.5時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Cを3640g(収率:99.9wt%)得た。
【0063】
得られた共重合体CのMnは1970、Mwは6230、Mw/Mnは3.16であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Cは2−フェノキシエチルメタクリレート末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Cの元素分析結果を行った結果、C:84.8wt%、H:7.3wt%、O:7.9wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の構造単位の導入量(a)は3.2(個/分子)で、全構造単位の34.0モル%であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を54.7モル%及びスチレンとエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計45.3モル%含有していた。共重合体C中に含まれるビニル基含有量は、20.8モル%であった。また、TMA測定の結果、Tgは275℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.5wt%、耐熱変色性はAであった。共重合体Aはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0064】
合成例2
ジビニルベンゼン264.2g(2.0モル)、エチルビニルベンゼン11.1g(0.08モル)、スチレン219.0g(2.1モル)、酢酸ブチル88g(0.8モル)、2−フェノキシエチルメタクリレート565.5g(2.7モル)、トルエン997.1gを30Lの反応器内に投入し、50℃で42.6gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、3時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Dを241.8g(収率:48.9wt%)得た。
【0065】
得られた共重合体DのMnは2690、Mwは5160、Mw/Mnは1.92であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Dは2−フェノキシエチルメタクリレート末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Dの元素分析結果を行った結果、C:86.9wt%、H:7.4wt%、O:5.7wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の構造単位の導入量(a)は3.2(個/分子)で、全構造単位の24.9モル%であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を60.0モル%及びスチレンとエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計40.0モル%含有していた。共重合体D中に含まれるビニル基含有量は、37モル%であった。
また、TMA測定の結果、Tgは272℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.5wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は88%であった。共重合体Dはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0066】
合成例3
ジビニルベンゼン264.2g(2.0モル)、エチルビニルベンゼン11.1g(0.08モル)、スチレン219.0g(2.1モル)、酢酸ブチル88g(0.8モル)、2−フェノキシエチルメタクリレート464.0g(2.3モル)、トルエン997.1gを30Lの反応器内に投入し、50℃で42.6gの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、4時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、室温で反応混合液を大量のメタノールに投入し、重合体を析出させた。得られた重合体をメタノールで洗浄し、濾別、乾燥、秤量して、共重合体Eを532.5g(収率:107.7wt%)得た。
【0067】
得られた共重合体EのMnは2370、Mwは11900、Mw/Mnは5.04であった。13C‐NMR及び1H‐NMR分析を行うことにより、重合体Eは2−フェノキシエチルメタクリレート末端に由来する共鳴線が観察された。共重合体Bの元素分析結果を行った結果、C:85.8wt%、H:7.3wt%、O:6.8wt%であった。元素分析結果と標準ポリスチレン換算の数平均分子量から算出される可溶性多官能ビニル芳香族重合体の2−フェノキシエチルメタクリレート由来の構造単位の導入量(a)は3.4(個/分子)で、全構造単位の30.1モル%であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を59.0モル%及びスチレンとエチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計41.0モル%含有していた。共重合体E中に含まれるビニル基含有量は、20.0モル%であった。
また、TMA測定の結果、Tgは272℃、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、300℃における重量減少は1.5wt%、耐熱変色性はAであった。濁度計による全光線透過率の測定の結果は88%であった。共重合体Eはトルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムに可溶であり、ゲルの生成は認められなかった。
【0068】
実施例3〜4及び比較例1〜4
表1に示す成分を配合し(数字は重量部)、本発明のプリズムシート用の硬化性樹脂組成物(感光性樹脂組成物)を得た。
【0069】
次に、図1に示すレンズ金型4の上に、この感光性樹脂組成物5を、注入、塗布した。レンズ金型4は、レンズピッチ1が50μm、頂角(α)2が95°の断面二等辺三角形のプリズム列を多数連接して形成した黄銅製の概略A4サイズの金型である。次いで、図2に示したように、概略同サイズの、両面に密着性向上処理を施したPETフィルム3(東洋紡社製A4300、厚さ188μm)を、処理面を組成物に接するように重ね合わせた。その後、PETフィルムの上部30cmのところに設置した6.4kW(80W/cm)の高圧水銀ランプにより、照射量が200mJ/cm2となるように数秒間紫外線を照射し、混合液を硬化・賦型した後、金型から剥離してプリズムシートを得た。
<UV硬化性樹脂組成物およびプリズムシートの評価>
このようにして得たUV硬化性樹脂組成物およびプリズムシートを、次のような方法で評価した。その結果は表1に示した。
【0070】
(1)粘度
樹脂組成物の25℃での粘度を、E型粘度計を用いて測定した。
【0071】
(2)硬化照射量
樹脂組成物を硬化するのに用いた高圧水銀ランプからの光を、フュージョンUVシステムズ・ジャパン社製、UV Power Puckで測定し、UVA領域の光量を硬化照射量として求めた。
【0072】
(3)硬化性
プリズムシートの表面を人差し指で触れ、タックの有無から硬化性を判断し、タックが認められないものを硬化性良(○)、タックが認められるものを硬化不良(×)
とした。
【0073】
(4)透明性
プリズムシートの透明性を目視判定し、透明なものを良(○)、濁りがあり白濁しているものを不良(×)とした。
【0074】
(5)密着性
プリズム列面側に、カミソリで基材フィルムに達する傷を2.0mmの問隔で縦、横それぞれ11本入れ、100個のます目を作り、セロハンテープ(幅25mm、ニチバン(株)製)をプリズム面に密着させて急激に剥がした後、剥がれたプリズム層のます目の数で判定し、剥がれが0〜5/100未満のものを良(○)、剥がれが5/100以上のものを不良(×)とした。
【0075】
(6)曲げ性
プリズムシートを半径5cmの円筒に巻き付け、プリズム層のクラックなどの破損状況から曲げ性を判定し、クラック等の破損が発生しなかったものを良(○)、クラック等の破損が発生したものを不良(×)とした。
【0076】
(7)組成物の離型性
組成物のプリズム金型からの離型作業性、および、離型に伴うプリズムシートの外観形状を判定し、離型作業し易く、離型に伴う外観形状にキズ・ワレ・ハガレなどの外観形状に不良のないものを良(○)、離型作業し難く状況により外観形状に不具合が発生するものを難(△)、離型に伴う外観形状に不具合を生じたものを不良(×)とした。
【0077】
(8)プリズムの屈折率の測定
プリズム部の屈折率測定のため、幅50mm、長さ50mm、厚み2mmの2枚のガラス板の間を0.2mmの隙問を開けて外周をポリエステルテープで巻き固定したガラス金型に、組成物を注入し、このガラス金型の片面から前述の高圧水銀ランプにより、数秒問紫外線を照射して硬化させ、ガラス金型から硬化した樹脂板を脱型して、アッベ屈折率計で20℃にてナトリウムD線光源による屈折率を測定した。
【0078】
(9)鉛筆硬度
JIS K 5400に従い、鉛筆引っかき試験機を用いて、上記組成物の塗工フィルムの鉛筆硬度を測定した。即ち、プリズムシート用感光性樹脂組成物を両面に密着性向上処理を施したPETフィルム(東洋紡社製A4300、厚さ188μm)上に塗布した。次いで、概略同サイズの、無処理のPETフィルム(東レ社製ルミラーT60、厚さ250μm)を、処理面を組成物に接するように重ね合わせた。その後、450mW/cm2の高圧水銀ランプにより、照射量が500mJ/cm2となるように数秒間紫外線を照射し、混合液を硬化・賦型した後、保護フィルムを基材である易接着処理PETフィルムから剥離して、プリズムシート用感光性樹脂組成物層(厚さ:12〜17μm)を有するシートを得た。平坦な塗膜層(厚さ:12〜17μm)を有する易接着処理PETフィルム基材上に、鉛筆を45度の角度で、上から1kgの荷重を掛け5mm程度引っかき、傷の付き具合を確認した。5回測定を行い、5回中2回以上の傷発生が見られた1ランク下の鉛筆硬度を鉛筆硬度試験結果として記載した。
【0079】
(10)Haze(濁り度)及び全光線透過率
0.2mm厚のテストピースを作製し、サンプルのHaze(濁り度)と全光線透過率を、積分球式光線透過率測定装置(日本電色社製、SZ−Σ90)を用い測定した。
【0080】
各実施例及び各比較例で得られたプリズムシート用UV硬化樹脂層付きフィルムについて、次の試験方法によりそれらの性能評価を行った。
【0081】
表中の記号の説明。
TMPTA;ダイセル・サイテック株式会社製、TMPTA(トリメチロールプロパントリアクリレート)
BZA;日立化成工業株式会社製、FA−BZA(ベンジルアクリレート)
ライトアクリレートPO−A:共栄社化学株式会社製、ライトアクリレートPO−A(フェノキシエチルアクリレート)
イルガキュア184;チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製、イルガキュア184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)
アデカスタブAO−60:株式会社アデカ製、アデカスタブAO−60(ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])
アデカスタブAO−412S:株式会社アデカ製、アデカスタブAO−412S(チオエーテル系安定剤)
【0082】
【表1】

【0083】
実施例5〜6及び比較例5〜6
表2に示す成分を配合し(数字は重量部)、本発明のプリズムシート用の感光性樹脂組成物を得た。次に、この感光性樹脂組成物を、レンズ金型の上に膜厚が100〜150μmになるように塗布し、その上に1.5mm厚のプライマー処理を行ったガラス基板を接着させ、さらにその上から高圧水銀ランプで600mJ/cm2の照射量の紫外線を照射して硬化させ球面レンズを得た。樹脂組成物及び得られたそれぞれのレンズ、硬化膜、成形品について、前述の評価試験の他に、以下の性能評価を行った。それらの結果も併せて表2に示す。
【0084】
(1)型再現性
硬化したUV硬化性樹脂層の表面形状と金型の表面形状を観察した。
○ ・・・・再現性良好
△ ・・・・わずかに不良が観察される(2%程度)
× ・・・・再現性が不良
【0085】
(2)吸水率
60℃で24時間真空乾燥したテストサンプルの重さをWoとし、23℃の水浴中に完全に浸漬した。24時間後、テストサンプルについた水気をふき取った後、サンプルを±0.1mgまで測定可能な秤で秤量し、Wとし、Wo/W×100で吸水率を計算した。
【0086】
【表2】

【符号の説明】
【0087】
1:レンズ金型のレンズピッチ、2:頂角(α)、3:PETフィルム、4:レンズ金型、5:感光性樹脂組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジビニル芳香族化合物由来の構造単位(a)及びモノビニル芳香族化合物由来の構造単位(b)を含む共重合体であって、その末端に平均して1分子あたり1個以上の下記式(1)
【化1】

(ここで、R2は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基であり、R3は水素又はメチル基を表す)
で表される芳香族系エーテル化合物由来の末端基を有し、構造単位(a)及び構造単位(b)の存在モル分率をそれぞれa及びbとしたとき、a/(a+b)=0.2〜0.7を満足し、構造単位(b)が下記式(4)及び(5)、
【化2】

(ここで、R4及びR5は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表す)
【化3】

(ここで、R6及びR7は酸素原子及び硫黄原子を含んでもよい炭素数1〜18の炭化水素基又は水素原子を表す)
で表わされる化合物からなる群から選ばれる1種以上のビニル芳香族化合物を50モル%以上含むモノビニル芳香族化合物に由来し、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、エタノール又はイソプロパノールに可溶であることを特徴とする多官能ビニル芳香族共重合体。
【請求項2】
請求項1に記載の多官能ビニル芳香族共重合体に、(メタ)アクリレート系化合物を配合したことを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
ラジカル重合開始剤を含有する請求項2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物。
【請求項5】
請求項4に記載の硬化物からなるレンズ又はプリズムから選ばれる光学材料。
【請求項6】
請求項4に記載の硬化物の層を有するフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−229263(P2010−229263A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77374(P2009−77374)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】