説明

本質的に塩化物を含まないスルホン酸カルシウムの製造方法

【課題】低粘度生成物も製造可能な連続式反応器を使用するのに好適な方法により、残存塩素を含まず、容易に濃縮できる低塩基価スルホン酸カルシウムを製造する。
【解決手段】本発明は本質的に塩化物を含まない低塩基価スルホン酸カルシウムの製造法に関し、該方法は、スルホン酸に溶剤を添加し、溶解又は同伴するSO又はSOを任意に除去して、スルホン酸溶液を調製する工程、該溶液を特定量の水及び水酸化カルシウムと混合する工程、該混合物を加熱する工程、該混合物から過剰の水酸化カルシウムを分離する工程、該溶剤を除去する工程、及びスルホン酸カルシウム生成物を油中に回収する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的に塩化物を含まない低塩基価スルホン酸カルシウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低塩基価のスルホン酸カルシウムは、一般にアルカノールのような促進剤を用いて、スルホン酸と水酸化カルシウム又は酸化カルシウムとの反応により製造される。この種のスルホン酸カルシウムは、水酸化又は酸化カルシウム及び塩化カルシウムを用いて、スルホン酸ナトリウムから作ることもできる。このようなスルホネートは、乗用車、ディーゼルエンジン、船舶エンジン等の潤滑油に高価値添加剤として使用できる。このスルホネートは、更に高塩基価を有する過剰塩基(overbased)スルホネートに加工でき、特殊潤滑油の添加剤としても使用される。
【0003】
スルホン酸カルシウムをスルホン酸から誘導する場合、塩化物は必要ないが、スルホン酸の濃度により最終生成物の濃度が限定される。天然の石油スルホン酸の場合、濃度は通常、市場で所望される濃度よりも低い。スルホン酸自体を濃縮することは、高腐蝕性の点から困難である。
【0004】
スルホン酸カルシウムをスルホン酸ナトリウムから作る場合、反応を進行させるため塩化物が必要である。これにより、最終生成物中に汚染性塩化物が残存する。スルホン酸ナトリウムに比べてスルホン酸カルシウムを溶剤抽出法で濃縮するのは困難なため、スルホン酸ナトリウムは、カルシウム生成物に転化する前にこの方法を用いて所望濃度に濃縮される。
【0005】
低塩基価スルホン酸カルシウムの製造法については多くの方法が開示されている。
USP 5,804,094は、カルボン酸及び高塩基価スルホン酸カルシウムを用いて、分子量が500よりも大きい低塩基価スルホン酸カルシウムを製造する方法を教示している。
【0006】
USP 5,789,615は、促進剤、特に塩化物を用いることなく、スルホン酸に段階的に水酸化カルシウムを添加して、低粘度、高曇り度の生成物を製造する方法を教示している。水酸化カルシウムは、2以上の段階で添加し、各段階後、30〜180分熱浸透させる。
【0007】
USP 4,615,841には、アルカノールの存在下でスルホン酸カルシウムを製造する方法が記載されている。
USP 4,279,837は、促進剤としてオキシアルキレートを用いたアルキルベンゼンスルホン酸の中和により、該スルホン酸のアルカリ金属塩を製造し、またこうして塩化物を含まないスルホン酸カルシウムを製造する方法を教示している。
【0008】
USP 3,719,596には、反応混合物を酸性にした後、アルカノールアミンを用いて再び塩基性にするスルホン酸カルシウムの製造法が記載されている。
USP 2,779,784は、スルホン酸を、水酸化カルシウム1部当り水0.5〜10部の存在下、220〜390°F(104〜199℃)で、水酸化カルシウムによって中和するスルホン酸カルシウムの製造法を教示している。水の量は、水酸化カルシウム1モル当り0.12〜2.4モルに相当する。
【特許文献1】USP 5,804,094
【特許文献2】USP 5,789,615
【特許文献3】USP 4,615,841
【特許文献4】USP 4,279,837
【特許文献5】USP 3,719,596
【特許文献6】USP 2,779,784
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
低粘度生成物も製造可能な連続式反応器を使用するのに好適な方法により、残存塩素を含まず、容易に濃縮できる低塩基価スルホン酸カルシウムを製造するのは有利である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は
a.スルホン酸−油供給原料に混和性溶剤を1〜20容量加え、溶解又は同伴するSO又はSOが存在すれば、これらを任意に除去して、スルホン酸−油溶液を調製する工程、
b.該スルホン酸−油溶液を、スルホン酸1モル当り水1〜5モル及びスルホン酸1モル当り水酸化カルシウム1〜10モルと混合して、反応混合物を得る工程、
c.該反応混合物を40〜200℃に加熱する工程、
d.該反応混合物から過剰の水酸化カルシウムを分離して、溶剤、油及びスルホン酸カルシウムを含む反応生成物を得る工程、
e.該溶液から溶剤を除去して、油及びスルホン酸カルシウムを含む中間生成物を得る工程、
f.任意に、該油の少なくとも一部を除去することにより該中間生成物を濃縮して、濃縮生成物を得る工程、及び
g.本質的に塩化物を含まないスルホン酸カルシウムが油中に存在する、該中間生成物及び/又は濃縮生成物を回収する工程、
を含む、低塩基価スルホン酸カルシウムの製造方法を提供する。
【0011】
特に本発明は、スルホン酸−油溶液に混和性溶剤1〜20容量加え、溶解又は同伴するSO又はSOが存在すれば、これらを除去して、スルホン酸溶液を調製する工程、得られたスルホン酸溶液を、スルホン酸1モル当り水1〜5モル及びスルホン酸1モル当り水酸化カルシウム1〜10モルと混合して、反応混合物を調製する工程、該反応混合物を撹拌しながら、40〜200℃で60分以下加熱する工程、このような反応混合物から過剰の水酸化カルシウム及び鉱酸のカルシウム塩を分離する工程、及び溶剤及び油を回収して、最終の本質的に塩化物を含まないスルホン酸カルシウム生成物を得る工程を含む、スルホン酸カルシウムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本質的に残存塩素を含まず、容易に濃縮される低塩基価スルホン酸カルシウムが得られることが発見された。この方法は低粘度生成物を製造することもできる。この方法は連続方式で実施してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、スルホン酸カルシウムの連続的製造法についてのフローチャートである。
図2は、本発明で製造したスルホン酸カルシウム溶液の強塩基価と溶剤ストリッピング後の該生成物の強塩基価との関係を示す。
図3は、生成物の粘度と溶剤ストリッピング後の該生成物の強塩基価との関係を示す。
【0014】
本出願に関連して、低塩基価スルホン酸カルシウムは塩基価0〜50のものである。“本質的に塩化物を含まない”とは、最大塩素含有量が1000ppmのことである。
油/溶剤溶液又は分散液中のスルホン酸は、特定量の水の存在下、水酸化カルシウムで中和される。過剰の水酸化物及び無機塩が存在すれば、溶剤の除去前に、これらを引き続き遠心又はろ過のような好適な手段で反応混合物から除去する。一実施態様では、溶剤の除去後、油中のスルホン酸カルシウムは、真空フラッシング又は真空蒸留のような好適な手段で濃縮して、塩基価が0〜50で、かつ所望の濃度を有する最終生成物を作ってよい。
【0015】
使用する油中のスルホン酸は、石油から誘導してよい。本方法で使用される油は、好適に精製した、いずれの粗蒸留物でもよい。好適な供給原料の一例は、溶剤抽出及び/又は水素化処理により多核芳香族含有量を低減して、精製した適当な分子量の真空蒸留物である。本方法で使用されるスルホン酸溶液は、このような精製粗蒸留物を発煙硫酸(27〜33%;オリウム)又はガス状SOと反応させて作られる。この供給原料を発煙硫酸と接触させると、モノ芳香族はモノスルホン酸に転化され、一方、残りの多核芳香族はポリスルホン酸に転化される。ポリスルホン酸+SOの欠乏した(depleted)硫酸はスラッジを形成する。この反応混合物は、粘度を低下させるため、好適には混和性溶剤1〜20容量で希釈し、またスラッジは重力沈降により分離して、溶剤/油溶液中にスルホン酸を残す。油とSOとの副反応の副生成物として生成した溶解又は同伴するSO及び/又はSOが存在すれば、これらを溶液から除去する。一除去方法は、窒素又はその他の不活性ガスでストリップ処理することである。溶液は、溶解又は同伴するSO又はSOの除去前に、痕跡量のスラッジを除去するため、遠心分離することも可能である。
【0016】
好適な溶剤は、C〜C10アルカンのいずれでも、トルエン、或いは低粘度混和性溶剤のいずれでもよい。最も好ましいものは、ヘプタン又は市販のヘプタン異性体混合物である。
この浄化スルホン酸/溶剤/油溶液に、スルホン酸1モル当り水1〜5モル及びスルホン酸1モル当り水酸化カルシウム1〜10モルと混合して、反応混合物を形成する。
この反応混合物は、撹拌のように混合しながら、40〜200℃、好ましくは80〜120℃の温度に加熱する。混合物は60分以下、好ましくは30分以下撹拌する。
【0017】
次いで、得られた混合物は分離して、過剰の水酸化カルシウム及び存在すれば残りのスラッジ又はSOにより形成された塩を除去する。混合物の一分離法は遠心である。遠心は、過剰の過剰の水酸化カルシウム及びあれば塩を除去するのに十分な時間行うべきである。この時間は、いずれの十分な時間も、例えば20分が可能である。溶剤が存在すると、分離速度が大幅に改善される。溶剤は、溶剤ストリッパーのようないずれかの便利な手段によって透明な遠心分離液(centrate)から再循環用に回収される。生成物は蒸留又は真空フラッシングにより更に濃縮して、未反応油の一部又は全部を除去してよい。油中の最終スルホン酸カルシウム生成物の粘度は、好ましくは10〜100cSt/100℃である。溶解又は同伴するSO又はSOが存在すれば、これらをスルホン酸溶液から除去して、このような粘度にすることが好ましい。
【0018】
本方法は、図に示すような方法で連続式に操作してよい。スルホン酸1を反応器7に添加した後、水3及び石灰5を加える。次に、得られた混合物は分離9を受け、石灰及び水が除去される。次の工程は、溶剤回収11であり、これに続いて濃縮13を行い、基油中にスルホン酸カルシウム15が生成する。
以下の実施例は本発明を更に説明するもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0019】
比較例−第一セット
石油スルホン酸(8重量%、平均分子量440g/モル)と工業用ヘプタン(60重量%)と潤滑油(32重量%)との混合物を含むスルホン酸溶液(75g)を以下の例で使用した。この混合物は、各例で使用する前に、更に遠心及び窒素ストリッピングにより処理した。
【0020】
スルホン酸75gに水、水酸化カルシウム、促進剤としてtert−ブチルアルコール(TBA)を加えた。得られた反応混合物を還流冷却器を備えたエルレンマイヤーフラスコ中で特定時間撹拌しながら、加熱した。混合物の沸点よりも高温の場合は、圧力下で混合物を含有させるため、ステンレス鋼製反応容器を使用した。撹拌後、混合物を遠心管に移し、10〜20分遠心分離した。第I表に、得られた遠心分離液の強塩基価(SBNC;ASTM D974に従って測定)を、予備処理、TBA含有量、水含有量、石灰含有量、反応時間、反応温度及び遠心分離時間の種々の値の場合について示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表記のように、TBA量、水量及び温度を最適化することにより、3.2以下の塩基価が得られる。
【0023】
比較例−第二セット
スルホン酸を反応前に遠心分離及び窒素ストリッピングにより処理せず、またTBAを添加しなかった他は、第一セットの比較例と同様にして、第二セットの比較例を行った。これら例の結果を第II表に示す。酸性の結果は、負のSBNC値で示す。
【0024】
【表2】

【0025】
これらの比較例は、スルホン酸を予備処理せずに得られた結果を示す。
【0026】
比較例−第三セット
スルホン酸を反応前に遠心分離及び窒素ストリッピングにより処理しなかった他は、第一セットの比較例と同様にして、第三セットの比較例を行った。これら例の結果を第IV表に示す。酸性の結果は、負のSBNC値で示す。
【0027】
【表3】

【0028】
これらの例は、予備処理しなかったが、反応混合物にTBAを添加して得られた結果を示す。最大SBNC値2.5が得られた。
【0029】
実施例
石油スルホン酸(8重量%、平均分子量440g/モル)と工業用ヘプタン(60重量%)と潤滑油(32重量%)との混合物を含むスルホン酸溶液(75g)を以下の例で使用した。この混合物は、各例で使用する前に、更に遠心及び窒素ストリッピングにより処理した。
【0030】
処理済みスルホン酸溶液75gに水及び水酸化カルシウムを加えた。得られた反応混合物を還流冷却器を備えたエルレンマイヤーフラスコ中で所定反応時間撹拌しながら、加熱した。混合物の沸点が82℃を超える場合は、圧力下で混合物を含有させるため、ステンレス鋼製反応容器を使用した。撹拌後、混合物を遠心管に移し、10〜20分遠心分離した。第IV表に、得られた遠心分離液の強塩基価(SBNC;ASTM D974に従って測定)を、水含有量モル/スルホン酸1モル、石灰含有量モル/スルホン酸1モル、反応温度(℃)、反応時間(分)及び遠心分離時間(分)の種々の値の場合について示す。図2に遠心分離液のSBNCと濃縮生成物との相関を示す。
【0031】
【表4】

【0032】
これらの実施例から、本発明方法により3.6の塩基価が達成できることが判る。第V表及びこれに相当する図2に遠心分離液のSBNCとストリップ処理した遠心分離液(即ち、溶剤除去後)のSBNC及びTBNとの関係(ストリップ処理した生成物の値は図2から外挿法により推定できるようにした)を示す。
【0033】
【表5】

【0034】
生成物の粘度を改善するには、生成物を低塩基価生成物の範囲に維持しながら、高塩基価生成物を製造するのが有利である。図2から判るように、塩基価3.6は、ストリップ処理した遠心分離液のSBNC約9.1と相関する。図3に本発明のストリップ処理した生成物の塩基価と該生成物の粘度との関係を示す。第VI表及び図3から判るように、100℃での粘度 約15cStは、ストリップ処理した遠心分離液のSBNC約9.1と相関する。
【0035】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】スルホン酸カルシウムの連続的製造法についてのフローチャートである。
【図2】本発明で製造したスルホン酸カルシウム溶液の強塩基価と溶剤ストリッピング後の該生成物の強塩基価との関係を示す。
【図3】生成物の粘度と溶剤ストリッピング後の該生成物の強塩基価との関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.スルホン酸−油供給原料に混和性溶剤を1〜20容量加え、溶解又は同伴するSO又はSOが存在すれば、これらを任意に除去して、スルホン酸−油溶液を調製する工程、
b.該スルホン酸−油溶液を、スルホン酸1モル当り水1〜5モル及びスルホン酸1モル当り水酸化カルシウム1〜10モルと混合して、反応混合物を得る工程、
c.該反応混合物を40〜200℃に加熱する工程、
d.該反応混合物から過剰の水酸化カルシウムを分離して、溶剤、油及びスルホン酸カルシウムを含む反応生成物を得る工程、
e.該溶液から溶剤を除去して、油及びスルホン酸カルシウムを含む中間生成物を得る工程、
f.任意に、該油の少なくとも一部を除去することにより該中間生成物を濃縮して、濃縮生成物を得る工程、及び
g.本質的に塩化物を含まないスルホン酸カルシウムが油中に存在する、該中間生成物及び/又は濃縮生成物を回収する工程、
を含む、低塩基価スルホン酸カルシウムの製造方法。
【請求項2】
前記溶剤がヘプタンである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記溶解又は同伴するSO又はSOが窒素によるストリッピングで除去される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記水の量が1〜3モル/スルホン酸1モルである請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記水酸化カルシウムの量が1〜5モル/スルホン酸1モルである請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応の温度が80〜140℃の範囲である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応混合物から過剰の水酸化カルシウムが遠心により分離される請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(e)の溶剤除去が蒸留又は真空フラッシングにより行われる請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記方法が連続法である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(f)の油溶液が蒸留により濃縮される請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−523768(P2006−523768A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510090(P2006−510090)
【出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/011684
【国際公開番号】WO2004/094366
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】