説明

材料の加工方法

燃料などの有用な産物を生産するために、バイオマス(例えば、植物バイオマス、動物バイオマス、および都市廃棄物バイオマス)が加工される。例えば、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料および/またはデンプン質材料などの供給材料を用いて、例えば、発酵によって、エタノールおよび/またはブタノールを産生することができるシステムが記載される。供給材料として炭化水素含有材料も用いられる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年10月28日に出願された米国特許仮出願第61/109,159号に係る優先権を主張する。本仮出願の全開示は参照として本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
背景
バイオマス、特に、バイオマス廃棄物は大量に利用することができる。バイオマスおよび他の材料からエタノールなどの材料および燃料を得ることは有用なことであろう。
【発明の概要】
【0003】
概要
もう1つの段階で材料の構造を変えるように、材料を加工することができる。次いで、加工された材料を、他の材料および燃料の供給源として使用することができる。
【0004】
本願の多くの態様はNatural Force(商標)Chemistry(NFC)を用いる。Natural Force(商標)Chemistry法は、意図した構造的分子変化および化学的分子変化を生じさせるために、粒子線、重力、光などの物理的な力の制御された適用および操作を用いる。Nature法を適用することによって、環境に害を与えることなく、有用な新物質を作り出すことができる。本願は、バイオマスに対する様々な物理的な力、例えば、粒子線および他の種類の放射線の作用を調節、例えば、強化するために、無機添加物と、バイオマス、炭化水素、または石炭などの材料を組み合わせる工程を含む、新たな供給材料調製法について述べる。
【0005】
任意のバイオマス材料の分子構造および/または超分子構造を変えるための本明細書に記載の方法は、1種類もしくは複数の種類のセラミック、および/または1種類もしくは複数の種類の金属、および/または1種類もしくは複数の種類の耐火(refractive)材料、および/または1種類もしくは複数の種類のクレー、および/または1種類もしくは複数の種類の無機質などの無機添加物を添加した後に、バイオマス材料を放射線で処理する工程を含む。特に、放射線は、粒子線、特に、荷電粒子線、例えば、電子線を含んでもよい。荷電粒子は、正に荷電したイオン、例えば、プロトン、炭素イオン、または酸素イオンなどのイオンを含む。場合によっては、荷電粒子は電子より重くてもよく、または電子と異なる電荷を有してもよい(例えば、陽電子)。バイオマス材料の分子構造および/または超分子構造を変えるのに十分な量の放射線を加えることができる。
【0006】
炭化水素含有材料、例えば、炭化水素および石炭などの他の材料も同様に加工することができる。石炭が用いられる場合、固体の形、例えば、微粉炭でもよく、または液化した形でもよい。石炭は、ベルギウス法、SRC-IおよびSRC-II(溶剤精製炭)法、ならびにNUS Corporation水素化法などの多くの技法によって液化することができる。石炭が用いられる場合、褐炭、火炎炭、ガス炎炭(gas flame coal)、脂肪炭(fat coal)、鍛造炭(forge coal)、非焼成炭(non-baking coal)、無煙炭、またはこれらのタイプの石炭のいずれか1つまたは複数の混合物でもよい。
【0007】
例えば、プロトン、ヘリウム核、アルゴンイオン、ケイ素イオン、ネオンイオン、炭素イオン、リン(phoshorus)イオン、酸素イオン、または窒素イオンを利用して、バイオマスの構造を改変する、例えば、バイオマスの分子量を減らす、またはバイオマスの分子量を増やすことができる。いくつかの態様において、電子または光子と比較して重い粒子が、多量の鎖の切断を誘導することができる。さらに、場合によっては、正に荷電した粒子が、その酸性度により、負に荷電した粒子より多量の鎖の切断を誘導することができる。
【0008】
組み合わせを放射線照射することによって得られた材料は、任意の適切な用途で、例えば、本明細書に記載のいずれかの用途で、例えば、燃料、食料のために、または複合材料に使用することができる。例えば、本明細書に記載の方法の一部は、無機材料を除去し、次いで、糖質含有材料をエタノールまたはブタノール(例えば、n-ブタノール)などの燃料に変換するのに十分な時間および条件の下で、得られた材料と酵素および/または微生物(mircroorganism)とを接触させる工程をさらに含む。他の態様において、前記方法は、糖質含有材料をエタノールまたはブタノールなどの燃料に変換するのに十分な時間および条件の下で、組み合わせと酵素および/または微生物を接触させる工程をさらに含む。いくつかの態様において、前記方法は、処理されたバイオマス材料(無機材料を含む、または含まない)と酵素を接触させて、材料を糖化する工程、次いで、糖化された材料を微生物に接種して、有用な産物、例えば、エタノール、ブタノール、または炭化水素などの燃料を作る工程を含む。所望であれば、無機材料は分離され、放射線照射プロセスにおいて再度、使用することができる。
【0009】
ある局面では、本発明は、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料と、無機材料、例えば、金属もしくは金属化合物、耐火材料、セラミック、またはこれらのいずれかの混合物を組み合わせて、組み合わせを得る工程;および組み合わせを放射線照射する工程を含む、糖質含有材料を作る方法を特徴とする。放射線照射は、例えば、電子などの加速粒子、例えば、光速の75パーセントを超える速度の加速粒子によるものでもよい。
【0010】
ある実施では、セルロース材料またはリグノセルロース材料は、紙、紙製品、木材、木材関連材料、例えば、おがくずおよびパーティクルボード、草、例えば、ワラおよびスイッチグラス、もみ殻、バガス、アルファルファ、乾草、綿、ジュート、アサ、アマ、タケ、サイザル、アバカ;農業廃棄物、例えば、コーンコブ、コーンストーバー、バガス、およびヤシ毛;藻類、海藻、下水、サイレージ、合成セルロース、押し出されたヤーンの切れ端、織物材料、布きれ、ならびにその混合物からなる群より選択されてもよい。
【0011】
セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料は、例えば、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料を一緒に乾式混合または共粉砕(co-comminuting)することによって組み合わせることができる。それぞれの材料を、例えば、25℃より低い温度、0℃、ドライアイスの正常大気昇華温度、さらには、液体窒素の正常大気沸点でまたは液体窒素の正常大気沸点より低い温度まで冷却しながら、共粉砕を行うことができる。
【0012】
ある特定の態様では、無機材料は、金属または金属合金、例えば、卑金属、例えば、鉄、ニッケル、鉛、銅、もしくは亜鉛、または鉄金属、例えば、錬鉄もしくは銑鉄、または貴金属、例えば、タンタル、金、白金、もしくはロジウムでもよく、これを含んでもよい。金属または金属合金はまた、貴金属、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、もしくは白金、または遷移金属でもよく、これを含んでもよい。金属合金は、例えば、鋼、黄銅、青銅、ジュラルミン、またはハスタロイ(hastaloy)でもよい。金属はアルミニウムでもよい。ある特定の態様では、無機材料は、金属化合物、例えば、鉄またはコバルトの無機化合物でもよく、これを含んでもよく、無機化合物は2+または3+の酸化状態にあってもよい。
【0013】
他の態様において、無機材料は、耐火材料、例えば、酸性、中性、または塩基性の耐火材料でもよく、これを含んでもよい。酸耐火材料は、ジルコン、耐火粘土、またはシリカでもよい。中性耐火材料は、アルミナ、クロマイト、炭化ケイ素、炭素、またはマリタイト(mulitite)でもよい。塩基性耐火材料はドロマイトまたはマグネサイトでもよく、これを含んでもよい。
【0014】
いくつかの態様において、無機材料は、セラミック、例えば、酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物、またはカオリンでもよく、これを含んでもよく、酸化物は、酸化アルミニウム、例えば、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、または酸化チタン、例えば、二酸化チタンでもよく、これを含んでもよい。
【0015】
ある特定の態様では、無機材料は、無機材料を高温で維持することができる水、例えば、アルミナ水和物を含む。いくつかの態様において、無機材料は融点を有さない。他の態様において、無機材料は、約400℃を超える融点、例えば、約500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃、1,400℃、1600℃、1800℃、2000℃、2200℃、2400℃、2600℃、さらには2800℃を超える融点を有する。
【0016】
本明細書に記載の方法において有用な無機材料は、約1.5未満の比熱容量Cp、例えば、約1.25、1.0、0.75、0.50、0.25、さらには約0.1J/gK未満の比熱容量Cpを有してもよい。例えば、無機材料は、約1.25〜約0.2J/gK、例えば、約1.15〜約0.25、または約0.85〜0.30J/gKの比熱容量Cpを有してもよい。さらに、無機材料は、約0.004〜約450W/mK、約0.04〜約250W/mK、約0.1〜約1500W/mK、または約0.25〜約50W/mKの伝導率、および約1.5g/cm3を超える密度、例えば、約2.0、2.5、3.0、5.0、7.0、8.0、9.0、12.0、15.0、18.0、さらには20.0g/cm3を超える密度を有してもよい。他の態様において、無機材料は、約3.5g/cm3〜約20.0g/cm3、約4.0g/cm3〜約18g/cm3、または約4.5g/cm3〜約13g/cm3の密度を有する。
【0017】
ある特定の態様では、無機材料は、形が実質的に球形の粒子の形をとってもよく、平均粒径は、約0.1ミクロン〜約100ミクロン、約0.25ミクロン〜約75ミクロン、または約0.5ミクロン〜約50ミクロンでもよい。
【0018】
組み合わせへの放射線照射は、組み合わせを、加速された電子、例えば、約2MeV、4MeV、6MeV、さらには約8MeVを超えるエネルギーを有する電子に供する工程を含んでもよい。
【0019】
いくつかの態様において、組み合わせは、約0.05〜約35重量パーセント、約0.1〜約20重量パーセント、または約0.5〜約10重量パーセントの無機材料を含む。
【0020】
一部の方法は、最初に無機材料を除去して、または除去することなく、糖質含有材料を、エタノールまたはブタノールなどの燃料に変換するのに十分な時間および条件の下で、放射線照射されたセルロース材料および/またはリグノセルロース材料と酵素および/または微生物を接触させる工程をさらに含む。
【0021】
別の局面において、本発明は、組み合わせ、例えば、均質な組み合わせ、粒子状の糖質含有材料および粒子状の無機材料、例えば、金属もしくは金属化合物、耐火材料、セラミック、またはこれらのいずれかの混合物の中に含む、組成物(composition of matter)を特徴とする。
【0022】
一般的に、無機材料は、糖質含有材料の外部にあるものである。組成物は、例えば、少なくとも約0.5重量パーセントの無機材料、例えば、少なくとも約1、3、5、10、もしくは25重量パーセントの無機材料、または約0.5〜約25重量パーセントの無機材料、または約1〜約15重量パーセントの無機材料を含んでもよい。
【0023】
バイオマスから材料を作る方法およびバイオマスから材料を加工する方法は、バイオマスを官能基化する工程を含んでもよい。場合によっては、官能基化バイオマスは、官能基化されていないバイオマスと比較して溶解度が高く、微生物が容易に利用することができる。さらに、本明細書に記載の官能基化材料の多くは酸化しにくく、高い長期安定性を有し得る(例えば、周囲条件下で空気中で酸化しにくい)。
【0024】
ある実施では、バイオマス供給材料は、バイオマス繊維源を剪断して繊維材料を得ることによって調製される。例えば、剪断は、回転ナイフカッターを用いて行うことができる。繊維材料の繊維は、例えば、5/1を超える平均長さ対直径比を有してもよい。繊維材料は、例えば、0.25m2/gを超えるBET表面積を有してもよい。場合によっては、バイオマスは、約0.35g/cm3未満の嵩密度を有してもよい。低嵩密度の材料には、荷電粒子が深く透過することができる。例えば、平均エネルギーが5MeVの電子および嵩密度が0.35g/cm3の材料については、電子の透過の深さは5〜7インチまたはそれ以上であり得る。
【0025】
別の局面において、本発明は、炭化水素含有材料と無機材料を組み合わせることによって形成された組み合わせを放射線照射する工程を含む、炭化水素含有材料を加工する方法を特徴とする。
【0026】
ある局面では、炭化水素含有材料は、タールまたはオイルサンド、オイルシェール、原油、ビチューメン、石炭、石油ガス、液化天然ガスおよび/または合成ガス、ならびにアスファルトからなる群より選択される。
【0027】
炭化水素含有材料、例えば、炭化水素および石炭、ならびにバイオマスの組み合わせ(例えば、ブレンド)も同様に加工することができる。
【0028】
本明細書に記載のプロセスにおいて微生物が用いられる場合、天然微生物または操作された微生物でもよい。例えば、微生物は、細菌、例えば、セルロース分解細菌、菌類、例えば、酵母、植物、または原生生物、例えば、藻類、原生動物、もしくは菌類様原生生物、例えば、粘菌でもよい。生物が適合する場合、混合物を利用することができる。一般的に、様々な微生物が、材料を操作することによって、例えば、材料を発酵させることによって、燃料などの多くの有用な産物を産生することができる。例えば、発酵または他のプロセスを用いて、アルコール、有機酸、炭化水素、水素、タンパク質、またはこれらのいずれかの材料の混合物を産生することができる。
【0029】
産生することができる産物の例には、単官能性および多官能性のC1-C6アルキルアルコール、単官能性および多官能性のカルボン酸、C1-C6炭化水素、ならびにその組み合わせが含まれる。適切なアルコールの具体例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、およびその組み合わせが含まれる。適切なカルボン酸の具体例には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、オレイン酸、リノール酸、グリコール酸、乳酸、γ-ヒドロキシ酪酸、およびその組み合わせが含まれる。適切な炭化水素の例には、メタン、エタン、プロパン、ペンタン、n-ヘキサン、およびその組み合わせが含まれる。これらの産物の多くは燃料として使用することができる。
【0030】
本明細書で使用する、バイオマス供給材料の分子構造の変化とは、官能基のタイプおよび量または構造のコンホメーションなどの化学結合配置の変化を意味する。例えば、分子構造の変化は、材料の超分子構造の変化、材料の酸化、平均分子量の変化、平均結晶化度の変化、表面積の変化、重合度の変化、多孔度の変化、分枝度の変化、他の材料へのグラフト、結晶ドメインサイズの変化、またはドメインの全サイズの変化を含んでもよい。
【0031】
特に定義のない限り、本明細書で使用する全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般的に理解されているものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様のまたは等価な方法および材料を本発明の実施または試験において使用することができるが、適切な方法および材料を以下で説明する。本明細書で述べた全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全てが参照として組み入れられる。矛盾する場合、定義を含む本明細書が優先される。さらに、材料、方法、および実施例は例示にしかすぎず、限定することが意図されない。
【0032】
本願は、2007年10月26日に出願された国際特許出願第PCT/US2007/022719号;前記の優先権主張に係る出願; それぞれ2008年4月30日に出願された、米国特許出願第61/049,391号、同第61/049,395号、同第61/049,419号、同第61/049,415号、同第61/049,413号、同第61/049,407号、同第61/049,404号、同第61/049,394号、および同第61/049,405号の全内容を参照として本明細書に組み入れる。本願はまた、以下の出願番号:12,486,436、12,429,045、12/417,904、12/417,900、12/417,880、12/417,840、12/417,786、12/417,731、12/417,723、12/417,720、12/417,707、12/417,699、および12/374,549を有する米国特許出願の開示を全て本明細書に組み入れる。
【0033】
以下の各刊行物の全内容は参照として本明細書に組み入れられる。


本明細書において引用された他の全ての特許、特許出願、および参考文献も参照として組み入れられる。
【0034】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】バイオマスから産物および副産物への変換を示したブロック図である。
【図2】繊維源から第一の繊維材料および第二の繊維材料への変換を示したブロック図である。
【図3】回転ナイフカッターの断面図である。
【図4】繊維源から第一の繊維材料、第二の繊維材料、および第三の繊維材料への変換を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
様々なバイオマス材料を用いて有用な産物を形成することができるシステムおよびプロセスが説明される。バイオマス材料は、1種類または複数の種類の無機材料、例えば、セラミック、金属、クレー、および/または無機質と組み合わされ、組み合わせに放射線が照射される。無機材料が添加されることで、無機材料が存在しない状態で同じエネルギーを加えた時と比較して、バイオマスに対する放射線の作用が調節(増加/強化または減少)される。例えば、無機材料が存在すると、放射線照射によって生じる熱が増えることで、バイオマス材料に対する放射線の作用を強化することができる。
【0037】
例えば、放射線照射中に無機材料が存在する場合、構造変化に対するセルロース材料またはリグノセルロース材料の抵抗性の程度を、ある特定の放射線線量については、放射線処理中に無機材料が存在しない場合と比較して大きな程度で下げることができる。例えば、どのような線量でも、バイオマスと無機材料の組み合わせが放射線照射された場合には、無機材料が放射線照射中に存在しない場合のバイオマス放射線処理と比較してさらに大きな程度で、例えば、10、20、30、40、50、60さらには75パーセント、平均分子量および/または平均結晶化度を下げることができる。例えば、どのような線量でも、バイオマスと無機材料の組み合わせが放射線照射された場合には、無機添加物が放射線照射中に存在しない場合と比較してさらに大きな程度で、例えば、10、20、30、40、50、60さらには75パーセント、バイオマスの表面積および/または多孔度を増やすことができる。
【0038】
特定の理論に拘束されるものではないが、無機添加物は、熱作用、活性化作用(例えば、反応型無機材料の形成)、および二次的な放射線作用(例えば、制動放射X線)を含む多くの潜在的な機構を介して、バイオマスに対する放射線の作用を調節することができると考えられている。熱作用は、粒子の運動エネルギーが熱に変換される時に、放射線場において加熱された無機材料によるバイオマスの加熱から生じると考えられている。分子活性化作用は、無機材料が、より化学活性のある種に変換して、より化学活性のある種がバイオマスまたは放射線場にある空気などの気体と直接反応することから生じると考えられている。例えば、無機材料に二酸化チタンが存在する態様では、放射線場において、二酸化チタンを、電子的に励起された形の二酸化チタンに活性化して、電子的に励起された形の二酸化チタンが空気中の酸素と反応して、バイオマスの周りにオゾンを発生することができる。オゾンは、バイオマス、特に、バイオマスのリグニン部分を攻撃することができる。
【0039】
電子線内での無機材料に対する熱作用に関して、物質における差分電子線吸収(differential electron beam absorption)(dE/dx)は、式(1):
dE/dx=-S(V)ρ(MeV/cm)(1)
で表される。
【0040】
式中、S(V)(MeV・cm2/g)は、エネルギーVの電子に対する材料の阻止能であり、ρは、材料の質量密度(g/cm3)である。
【0041】
同じパラメータを用いて、材料へのエネルギーV0の電子の最大透過距離である、電子範囲(R)は、式(2):
R=V0/S(V0)ρ(cm)(2)
で概算される。
【0042】
熱伝導が無いと仮定して、エネルギーの高い電子が照射されている材料の温度上昇(ΔT(K))は、式(3):
ΔT=ε/Cpρad (K)(3)
に示したように、材料の比熱容量(Cp)、材料密度(ρ)、単位面積(a)、および厚さ(d)に反比例し、蓄積したエネルギー密度(ε)に正比例する。
【0043】
熱伝導が考慮に入れられる場合、熱は加熱領域から離れて伝導し、材料の熱伝導率に反比例する時間尺度(τ)で平衡に達する。(τ)より短い時間尺度でエネルギーが材料に注がれれば、材料の温度が上昇する。電子線を用いると、25,000℃またはそれ以上まで、放射線照射されている材料の温度を局所的に上昇させることが可能である。
【0044】
適切な無機材料の例を下記の材料セクションにおいて考察する。
【0045】
ある実施では、まず最初に、加工のためにバイオマス材料が、物理的に、多くの場合、未加工の供給材料のサイズを小さくすることによって調製される。場合によっては、バイオマス材料および/または組み合わせは、1つまたは複数のさらなる加工工程、例えば、超音波処理、酸化、熱分解、または水蒸気爆砕を用いて処理される。
【0046】
放射線照射された、バイオマスと無機材料の組み合わせは、それ自体が産物として用いられてもよく、下記で考察するように、1種類または複数の種類の産物、場合によっては副産物を形成するようにさらに加工されてもよい。無機材料は、さらなる加工の前、間、または後に除去されてもよく、最終産物中に残ってもよい。
【0047】
バイオマスを処理するためのシステム
図1は、バイオマス、特に、多量のセルロース成分およびリグノセルロース成分および/またはデンプン質成分を含むバイオマスを、有用な産物および副産物に変換するためのシステム100を示す。システム100は、供給調製サブシステム110、組み合わせユニット113、加工サブシステム114、一次プロセスサブシステム118、および後処理サブシステム122を備える。供給調製サブシステム110は、未加工の形をしたバイオマスを受け取り、バイオマスを下流プロセスによる供給材料として使用するために物理的に調製し(例えば、バイオマスのサイズを小さくする、バイオマスをホモジナイズする)、未加工の形をしたバイオマスおよび供給材料の形をしたバイオマスの両方を保管する。組み合わせユニット113において、バイオマスは、概して粒子の形をした無機材料と組み合わされる。
【0048】
処理サブシステム114は、組み合わせユニット113から組み合わせを受け取り、供給材料を、一次製造プロセス、例えば、発酵において使用するために、例えば、供給材料の平均分子量および結晶化度を小さくすることによって調製する。処理サブシステム114では、組み合わせは放射線照射され、クエンチング、熱分解、または酸化などの他の処理にも供されてよい。
【0049】
一次プロセスサブシステム118は、処理された供給材料を前処理サブシステム114から受け取り、有用な産物(例えば、エタノール、他のアルコール、薬、および/または食品)を産生するための供給材料として用いる。
【0050】
供給調製システム、組み合わせユニット、処理サブシステム、および一次プロセスサブシステム118は同じ製造施設にあってもよく、2種類またはそれ以上の製造施設にあってもよい。例えば、バイオマス材料は第一の施設で物理的に調製され、無機材料と組み合わされ、第二の施設で放射線照射され、第二の施設または第三の施設で一次プロセスにおいて加工されてもよい。
【0051】
場合によっては、一次プロセスサブシステム118のアウトプットは直接的に有用であるが、他の場合では、アウトプットの全てまたは一部が、後処理サブシステム122によって提供される、さらなる加工、例えば、蒸留を必要とする場合がある。後処理サブシステム122はまた、他のサブシステムからの廃棄物の流れの処理を提供することもできる。場合によっては、サブシステム114、118、122の副産物も直接もしくは間接的に二次産物として、および/またはシステム100の全効率の増大において有用な場合がある。例えば、後処理サブシステム122は、他のサブシステムにおけるプロセス水として使用するためにリサイクルされる処理水を産生することができ、ならびに/または蒸気および/もしくは電気を発生するボイラーの燃料として使用可能な可燃性廃棄物を産生することができる。
【0052】
無機材料は、場合によっては、分離ユニット120によって、処理された供給材料から分離されてもよい。分離ユニット120は、示したように一次プロセスサブシステム118の前にあってもよく、一次プロセスサブシステムまたは後処理サブシステムの後にあってもよく、これらのサブシステムのいずれかと統合してもよい。場合によっては、無機材料は、例えば、このプロセスにおいて再利用するために、または副産物として用いられるために回収される。他の場合において、無機材料は廃棄される。ある実施では、無機材料はバイオマスから分離されず、代わりに最終段物の一部となる。
【0053】
バイオマス供給材料の調製
場合によっては、供給調製システム110は、切断、粗砕、剪断、細断、機械的な切り離しもしくは引き裂き、ピン研削、空気粉砕ミリング、またはチョッピングによって、供給材料を調製する。所望であれば、スクリーンおよび/または磁石を用いて、供給材料の流れから、大き過ぎる物体または望ましくない物体、例えば、岩または釘を除去することができる。このような物理的調製、例えば、剪断による物理的調製は繊維材料を「開放(open up)」し、力を加えることによって、材料のセルロースの鎖が切断しやすくなり、および/または結晶化度が小さくなる。開放された材料はまた、放射線照射時に酸化しやすくなっている場合がある。物理的調製によって、例えば、バイオマス材料のサイズが小さくなり、サイズおよび形状が均一になることで、バイオマス材料と無機材料との組み合わせが容易になる。
【0054】
図2に示した例では、第一の繊維材料212を得るために、バイオマス繊維源210が、例えば、回転ナイフカッター内で剪断される。第一の繊維材料212を、平均目開き(opening size)が1.59mmまたはそれ以下(1/16インチ、0.0625インチ)の第一のスクリーン214に通して、第二の繊維材料216を得る。所望であれば、剪断の前に、例えば、シュレッダー、例えば、二重反転スクリューシュレッダー、例えば、Munson(Utica, N.Y.)製の二重反転スクリューシュレッダー、またはギロチンカッターを用いて、バイオマス繊維源を切断することができる。
【0055】
ある実施では、繊維源の剪断と第一の繊維材料の選別を同時に行うために、回転ナイフカッターが用いられる。図3を見ると、回転ナイフカッター220は、繊維源を裁断することによって調製された、細断された繊維源224を充填できるホッパー222を備える。細断された繊維源を、固定ブレード230と回転ブレード232との間で剪断して、第一の繊維材料240を得る。第一の繊維材料240はスクリーン242を通り、得られた第二の繊維材料244をビン250に取り込む。第二の繊維材料の収集を助けるためには、ビンは、公称大気圧より低い圧力、例えば、公称大気圧より少なくとも10パーセント低い圧力、例えば、公称大気圧より少なくとも25パーセント低い圧力、公称大気圧より少なくとも50パーセント低い圧力、または公称大気圧より少なくとも75パーセント低い圧力を有してもよい。いくつかの態様において、真空源252を利用して、ビンを公称大気圧より低い圧力に維持する。スクリーンの適切な特徴は、例えば、米国特許出願第12/429,045号に記載されている。
【0056】
繊維源は、乾燥した状態、水和した状態(例えば、10重量パーセントまでの吸収した水を有する)、または例えば、約10重量パーセント〜約75重量パーセントの水を有する湿潤状態で剪断することができる。繊維源は、水、エタノール、イソプロパノールなどの液体下に部分的にまたは完全に浸した状態で剪断することもできる。繊維源は、(空気以外の気体の流れもしくは雰囲気などの) 気体、例えば、酸素もしくは窒素、または蒸気の中で剪断することもできる。
【0057】
所望であれば、繊維材料は、例えば、それらの長さ、幅、密度、材料のタイプ、またはこれらの属性のいくつかの組み合わせに従って、連続的に、またはバッチ方式で分離して分画することができる。例えば、複合体を形成するためには、繊維長さの比較的狭い分布を有することが往々にして望ましい。
【0058】
繊維材料は、その調製の直後に放射線照射されてもよく、含水量が、例えば、使用前に約0.5%未満になるように、例えば、約105℃で4〜18時間、乾燥されてもよい。
【0059】
いくつかの態様において、第二の繊維材料を剪断し、第一のスクリーンまたはサイズの異なるスクリーンに通す。いくつかの態様において、第二の繊維材料を、平均目開きが第一のスクリーンに等しい、または第一のスクリーンより小さい第二のスクリーンに通す。図4を見ると、第二の繊維材料216を剪断し、得られた材料を、平均目開きが第一のスクリーン214より小さい第二のスクリーン222に通すことによって、第二の繊維材料216から第三の繊維材料220を調製することができる。剪断およびスクリーニングのシーケンスは、特定の繊維特性を得るように所望の回数で繰り返すことができる。
【0060】
一般的に、繊維材料の繊維は2回以上剪断されても、比較的大きな(例えば、20:1を超える)平均長さ対直径比にすることができる。さらに、本明細書に記載の繊維材料の繊維は、比較的狭い、長さおよび/または長さ対直径比の分布を有してもよい。
【0061】
本明細書で使用する平均繊維幅(すなわち、直径)とは、約5,000本の繊維を無作為に選択することによって光学的に決定されたものである。平均繊維長さは、修正された長さ加重長さ(length-weighted length)である。BET(Brunauer、Emmet、およびTeller)表面積は多点表面積であり、多孔度は、水銀ポロシメトリーによって決定されたものである。
【0062】
第二の繊維材料14の平均長さ対直径比は、例えば、8/1を超えてもよく、例えば、10/1を超えてもよく、15/1を超えてもよく、20/1を超えてもよく、25/1を超えてもよく、または50/1を超えてもよい。第二の繊維材料14の平均長さは、例えば、約0.5mm〜2.5mm、例えば、約0.75mm〜1.0mmでもよく、第二の繊維材料14の平均幅(すなわち直径)は、例えば、約5μm〜50μm、例えば、約10μm〜30μmでもよい。
【0063】
いくつかの態様において、第二の繊維材料14の長さの標準偏差は、第二の繊維材料14の平均長さの60パーセント未満であり、例えば、平均長さの50パーセント未満、平均長さの40パーセント未満、平均長さの25パーセント未満、平均長さの10パーセント未満、平均長さの5パーセント未満、さらには平均長さの1パーセント未満である。
【0064】
いくつかの態様において、材料は、0.25g/cm3未満の嵩密度、例えば、0.20g/cm3、0.15g/cm3、0.10g/cm3、0.05g/cm3またはそれ以下の嵩密度、例えば、0.025g/cm3の嵩密度を有する。嵩密度は、ASTM D1895Bを用いて決定される。簡単に述べると、前記方法は、既知体積のメスシリンダーに試料を満たし、試料の重量を得る工程を含む。嵩密度は、試料の重量、グラムを、メスシリンダーの既知体積、立方センチメートルで割ることによって計算される。
【0065】
いくつかの態様において、第二の繊維材料のBET表面積は、0.1m2/gを超える、例えば、0.25m2/gを超える、0.5m2/gを超える、1.0m2/gを超える、1.5m2/gを超える、1.75m2/gを超える、5.0m2/gを超える、10m2/gを超える、25m2/gを超える、35m2/gを超える、50m2/gを超える、60m2/gを超える、75m2/gを超える、100m2/gを超える、150m2/gを超える、200m2/gを超える、さらには250m2/gを超える。第二の繊維材料14の多孔度は、例えば、20パーセントを超えてもよく、25パーセントを超えてもよく、35パーセントを超えてもよく、50パーセントを超えてもよく、60パーセントを超えてもよく、70パーセントを超えてもよく、例えば、80パーセントを超えてもよく、85パーセントを超えてもよく、90パーセントを超えてもよく、92パーセントを超えてもよく、94パーセントを超えてもよく、95パーセントを超えてもよく、97.5パーセントを超えてもよく、99パーセントを超えてもよく、さらには99.5パーセントを超えてもよい。
【0066】
いくつかの態様において、第一の繊維材料の平均長さ対直径比と、第二の繊維材料の平均長さ対直径比の比は、例えば、1.5未満、例えば、1.4未満、1.25未満、1.1未満、1.075未満、1.05未満、1.025未満であり、さらには実質的に1に等しい。
【0067】
例えば、輸送または保管のために、放射線照射前または放射線照射後に、本明細書に記載の任意の繊維材料、または繊維材料と無機材料の任意の混合物を高密度化し、次いで、本明細書に記載の1つまたは複数の任意の方法によって、さらなる加工のために「開放」することができる。高密度化は、例えば、米国特許出願第12/429,045号に記載されている。
【0068】
バイオマス材料と無機材料との組み合わせ
いくつかの態様では、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料は、放射線照射前に乾式混合によって、例えば、ドラム内で組み合わされる。他の態様では、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料は共粉砕される。例えば、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料は、混合物の放射線照射前にミルに入れて、一緒に粉砕することができる。特定の態様では、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料ならびに無機材料は、25℃より低い温度、例えば、0℃もしくは0℃より低い温度、例えば、ドライアイスの正常大気昇華温度もしくはドライアイスの正常大気昇華温度より低い温度、または液体窒素の正常大気沸点もしくは液体窒素の正常大気沸点より低い温度まで冷却されるように、フリーザーミルに入れて共粉砕される。フリーザーミル内でのバイオマスの粉砕は、全体が参照として本明細書に組み入れられる、発明の名称が「Cooling and Processing Materials」である米国特許仮出願第61/081,709号に記載されている。
【0069】
処理
処理は、物理的に調製されたバイオマス材料および無機材料の組み合わせを放射線処理する工程を含む。場合によっては、処理は、超音波処理、酸化、熱分解、および水蒸気爆砕の1つまたは複数をさらに含んでもよく、これらはいずれも、本明細書に記載のように無機添加物を用いることによって調整、例えば、強化することができる。
【0070】
放射線処理
組み合わせを放射線照射する工程は、組み合わせを、加速電子、例えば、約2MeV、4MeV、6MeV、さらには約8MeVを超えるエネルギーを有する電子に供する工程を含んでもよい。従って、範囲、例えば、2.0〜8.0MeVおよび4.0〜6.0MeVの範囲が意図される。いくつかの態様において、電子は、例えば、光速の75パーセント超の速度、例えば、光速の85パーセント、90パーセント、95パーセント、または99パーセントを超える速度まで加速される。
【0071】
場合によっては、放射線照射は、約0.25Mrad/秒を超える線量率、例えば、約0.5Mrad/秒、0.75Mrad/秒、1.0Mrad/秒、1.5Mrad/秒、2.0Mrad/秒、さらには約2.5Mrad/秒を超える線量率で行われる。いくつかの態様において、放射線照射は、5.0〜1500.0キロラド/時、例えば、10.0〜750.0キロラド/時、または50.0〜350.0キロラド/時の線量率で行われる。
【0072】
いくつかの態様において、少なくとも0.25Mrad、例えば、少なくとも1.0Mrad、少なくとも2.5Mrad、少なくとも5.0Mrad、または少なくとも10.0Mradの線量が材料に与えられるまで、(任意の放射線源または放射線源の組み合わせによる)放射線照射が行われる。いくつかの態様において、1.0Mrad〜6.0Mrad、例えば、1.5Mrad〜4.0Mradの線量が材料に与えられるまで、放射線照射が行われる。
【0073】
適用される線量は、望ましい効果および特定の供給材料によって決まる。例えば、高線量の放射線は、供給材料成分内の化学結合を破壊することができ、低線量の放射線は、供給材料成分内の化学結合(例えば、架橋結合)を増やすことができる。
【0074】
乾燥した、または湿った、さらには水などの液体に分散した任意の試料に放射線を適用することができる。例えば、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料に対して放射線照射を行うことができ、ここで、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料の約25重量パーセント未満が水などの液体で表面湿潤されている。いくつかの態様において、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料に対して放射線照射が行われ、ここで、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料は実質的にどれも水などの液体で湿潤されていない。
【0075】
いくつかの態様では、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料が得られたように乾燥したままになっている状態で、または例えば、熱および/もしくは減圧を用いて乾燥された後に、本明細書に記載の任意の加工が行われる。例えば、いくつかの態様において、セルロース材料および/またはリグノセルロース材料は、25℃および50パーセント相対湿度で測定された時に、約5重量パーセント未満の保留水を有する。
【0076】
セルロースおよび/またはリグノセルロースを、空気、酸素に富む空気、さらには酸素それ自体に曝露しながら、または窒素、アルゴン、またはヘリウムなどの希ガスで覆いながら、放射線を適用することができる。最大酸化が望ましい場合、空気または酸素などの酸化環境が用いられ、反応性ガス形成、例えば、オゾンおよび/または窒素酸化物を最大にするように、放射線源からの距離が最適化される。
【0077】
放射線は、約2.5気圧を超える圧力の下で、例えば、5気圧、10気圧、15気圧、20気圧、さらには約50気圧を超える圧力の下で適用することができる。
【0078】
放射線照射は、電離放射線、例えば、γ線、X線、エネルギーの高い紫外線、例えば、約100nm〜約280nmの波長を有する紫外線C放射線、粒子線、例えば、電子線、低速中性子、またはα粒子を用いて行うことができる。いくつかの態様において、放射線照射は、2種類またはそれ以上の放射線源、例えば、γ線および電子線を含み、どちらの順でも、または同時に適用することができる。
【0079】
いくつかの態様において、材料を放射線照射するために、原子軌道から電子を放出する、材料に蓄積するエネルギーが用いられる。放射線は、1)重い荷電粒子、例えば、α粒子もしくはプロトン、2)電子、例えば、β崩壊もしくは電子線加速器において生じる電子、または3)電磁放射線、例えば、γ線、X線、もしくは紫外線によって供給されてもよい。1つのアプローチでは、放射性物質によって生じる放射線を用いて、供給材料を放射線照射することができる。いくつかの態様では、(1)〜(3)の任意の組み合わせを任意の順番でまたは同時に利用することができる。
【0080】
場合によっては、鎖の切断が望ましい場合および/またはポリマー鎖官能基化が望ましい場合、電子より重い粒子、例えば、プロトン、ヘリウム核、アルゴンイオン、ケイ素イオン、ネオンイオン、炭素イオン、リンイオン、酸素イオン、または窒素イオンを利用することができる。鎖の開環切断が望ましい場合、鎖の開環切断を高めるために、正に荷電した粒子を、そのルイス酸特性のために利用することができる。
【0081】
いくつかの態様において、放射線照射されたバイオマスの数平均分子量(MN2)は、放射線照射前のバイオマスの数平均分子量(TMN1)より、約10パーセント超少なく、例えば、15パーセント、20パーセント、25パーセント、30パーセント、35パーセント、40パーセント、50パーセントパーセント、60パーセントパーセント、さらには約75パーセント超少ない。
【0082】
いくつかの態様において、開始数平均分子量(放射線照射前)は、約200,000〜約3,200,000、例えば、約250,000〜約1,000,000、または約250,000〜約700,000であり、放射線照射後の数平均分子量は、約50,000〜約200,000、例えば、約60,000〜約150,000、または約70,000〜約125,000である。しかしながら、いくつかの態様において、例えば、大規模な放射線照射後には、約10,000未満さらには約5,000未満の数平均分子量となる可能性がある。
【0083】
場合によっては、放射線照射されたバイオマスのセルロースの結晶化度(TC2)は、放射線照射前のバイオマスのセルロースの結晶化度(TC1)より低い。例えば、(TC2)は、(TC1)より約10パーセント超少なく、例えば、15パーセント、20パーセント、25パーセント、30パーセント、35パーセント、40パーセント、さらには約50パーセント超少なくてもよい。
【0084】
いくつかの態様において、開始結晶化度指数(放射線照射前)は、約40〜約87.5パーセント、例えば、約50〜約75パーセント、または約60〜約70パーセントであり、放射線照射後の結晶化度指数は、約10〜約50パーセント、例えば、約15〜約45パーセント、または約20〜約40パーセントである。しかしながら、いくつかの態様において、例えば、大規模な放射線照射後には、5パーセント未満の結晶化度指数となる可能性がある。いくつかの態様において、放射線照射後の材料は実質的に非晶質である。
【0085】
いくつかの態様において、放射線照射されたバイオマスの酸化レベル(TO2)は、放射線照射前のバイオマスの酸化レベル(TO1)より高くてもよい。材料の酸化レベルが高ければ、分散、膨張、および/または溶解の助けとなり、さらには、化学的、酵素的、または生物学的な攻撃に対する材料の感受性が強化され得る。放射線照射されたバイオマス材料はまた、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エステル基またはカルボン酸基の数が増えていてもよく、これらはバイオマス材料の親水性を高めることができる。
【0086】
電離放射線
各種類の放射線は、放射線のエネルギーにより決まる特定の相互作用を介してバイオマスをイオン化する。重い荷電粒子は、主に、クーロン散乱を介して物質をイオン化する。さらに、これらの相互作用によって、物質をさらにイオン化し得る高エネルギー電子が発生する。α粒子はヘリウム原子の核と同一であり、様々な放射性核種(radioactive nuclei)、例えば、ビスマス、ポロニウム、アスタチン、ラドン、フランシウム、ラジウム、いくつかのアクチニド、例えば、アクチニウム、トリウム、ウラン、ネプツニウム、キュリウム、カリホルニウム、アメリシウム、およびプルトニウムの同位体のα崩壊によって発生する。
【0087】
粒子が用いられる場合、中性(無電荷)でもよく、正に荷電してもよく、または負に荷電してもよい。荷電している場合、荷電粒子は単一の正電荷もしくは負電荷を有してもよく、または多重電荷、例えば、1、2、3、4もしくはそれ以上の電荷を有してもよい。鎖の切断が望ましい場合、正に荷電した粒子が、その酸性が一因で望ましい場合がある。粒子が用いられる場合、粒子は、静止している電子の質量、またはそれ以上の質量、例えば、静止している電子の質量の500倍、1000倍、1500倍、もしくは2000倍またはそれ以上、例えば、10,000倍、さらには100,000倍の質量を有してもよい。例えば、粒子は、約1原子単位〜約150原子単位、例えば、約1原子単位〜約50原子単位、または約1〜約25、例えば、1amu、2amu、3amu、4amu、5amu、10amu、12amu、または15amuの質量を有してもよい。粒子を加速するのに用いられる加速器は、静電気学的DC、電気力学的DC、RF線形、磁気誘導線形(magnetic induction linear)、または連続波でもよい。例えば、サイクロトロン型加速器は、IBA, Belgium、例えば、Rhodatron(登録商標)システムから入手可能であるのに対して、DC型加速器はRDI、現在、IBA Industrial、例えば、Dynamitron(登録商標)から入手可能である。例示的なイオンおよびイオン加速器は、Introductory Nuclear Physics, Kenneth S. Krane, John Wiley & Sons, Inc. (1988), Krsto Prelec, FIZIKA B 6 (1997) 4, 177-206, Chu, William T., 「Overview of Light-Ion Beam Therapy」, Columbus-Ohio, ICRU-IAEA Meeting, 18-20 March 2006, Iwata, Y. et al., 「Alternating-Phase-Focused IH-DTL for Heavy-Ion Medical Accelerators」, Proceedings of EPAC 2006, Edinburgh, Scotland, and Leitner, CM. et al., 「Status of the Superconducting ECR Ion Source Venus」, Proceedings of EPAC 2000, Vienna, Austriaにおいて考察されている。
【0088】
電子はクーロン散乱を介して相互作用し、電子の速度の変化によって制動放射放射線が生じる。電子は、β崩壊を受ける放射性核種、例えば、ヨウ素、セシウム、テクネチウム、およびイリジウムの同位体によって生じてもよい。または、熱電子放出を介した電子源として電子銃を使用することができる。
【0089】
3つのプロセス:光電吸収、コンプトン散乱、および対生成を介して、電磁放射線は相互作用する。優勢な相互作用は、入射放射線のエネルギーおよび材料の原子番号によって決まる。セルロース材料に吸収される放射線に寄与する相互作用の総和は質量吸収係数によって表すことができる(PCT/US2007/022719の「Ionization Radiation」を参照されたい)。
【0090】
電磁放射線は、波長に応じて、γ線、X線、紫外線、赤外線、マイクロ波、または電波としてさらに分類することができる。
【0091】
γ線には、試料中の様々な材料への透過の深さが大きいという利点がある。γ線源には、放射性核種、例えば、コバルト、カルシウム、テクニシウム(technicium)、クロム、ガリウム、インジウム、ヨウ素、鉄、クリプトン、サマリウム、セレン、ナトリウム、タリウム、およびキセノンの同位体が含まれる。
【0092】
X線源には、金属標的、例えば、タングステンもしくはモリブデンまたは合金を用いた電子線衝突、または小型光源、例えば、Lynceanによって商業生産されている小型光源が含まれる。
【0093】
紫外線源には、重水素ランプまたはカドミウムランプが含まれる。
【0094】
赤外線源には、サファイア、亜鉛、またはセレン化物ウィンドウセラミックランプが含まれる。
【0095】
マイクロ波源には、クライストロン、Slevin型RF源、または水素ガス、酸素ガス、もしくは窒素ガスを用いた原子線源が含まれる。
【0096】
電子線
いくつかの態様では、電子線が放射線源として用いられる。電子線には、線量率が高い(例えば、1Mrad/秒、5Mrad/秒、さらには10Mrad/秒)、高処理、封じ込めが少ない、閉じ込め装置が小さいという利点がある。電子はまた、鎖の切断において効率が高いこともある。さらに、4〜10MeVのエネルギーを有する電子は、5〜30mmまたはそれ以上、例えば、40mmの透過の深さを有し得る。
【0097】
電子線は、例えば、静電発電機、カスケードジェネレータ、変圧発電機(transformer generator)、低エネルギー加速器とスキャニングシステム、低エネルギー加速器とリニアカソード、直線加速器、およびパルス加速器によって発生させることができる。電離放射線源としての電子は、例えば、積み重なりが比較的薄い、例えば、0.5インチ未満、例えば、0.4インチ未満、0.3インチ未満、0.2インチ未満、または0.1インチ未満の材料に有用な場合がある。いくつかの態様において、電子線の各電子のエネルギーは、約0.3MeV〜約2.0MeV(百万電子ボルト)、例えば、約0.5MeV〜約1.5MeV、または約0.7MeV〜約1.25MeVである。
【0098】
いくつかの態様では、バイオマス材料の処理に用いられる電子の平均エネルギーは、0.05cまたはそれ以上(例えば、0.10cまたはそれ以上、0.2cまたはそれ以上、0.3cまたはそれ以上、0.4cまたはそれ以上、0.5cまたはそれ以上、0.6cまたはそれ以上、0.7cまたはそれ以上、0.8cまたはそれ以上、0.9cまたはそれ以上、0.99cまたはそれ以上、0.9999cまたはそれ以上)でもよい。ここで、cは、真空中の光の速度に対応する。
【0099】
電子線照射装置は、Ion Beam Applications, Louvain-la-Neuve, BelgiumまたはTitan Corporation, San Diego, CAから商業的に入手することができる。代表的な電子エネルギーは、1MeV、2MeV、4.5MeV、7.5MeV、または10MeVでもよい。代表的な電子線照射装置の出力は、1kW、5kW、10kW、20kW、50kW、100kW、250kW、または500kWでもよい。供給材料スラリーの解重合の有効性は、使用される電子エネルギーおよび適用される線量によって決まるのに対して、曝露時間は出力および線量によって決まる。代表的な線量は、1kGy、5kGy、10kGy、20kGy、50kGy、100kGy、または200kGyの値をとってもよい。
【0100】
電子線照射装置の出力仕様の検討において折り合いをつけなければならないものには、運転コスト、資本コスト、減価償却、装置の設置面積が含まれる。電子線照射の曝露線量レベルの検討において折り合いをつけなければならないものは、エネルギーコスト、ならびに環境、安全、衛生(ESH)の問題であろう。電子エネルギーの検討において折り合いをつけなければならないものには、エネルギーコストが含まれる。この場合、ある特定の供給材料スラリーの解重合の促進には低電子エネルギーが有利であるかもしれない(例えば、Bouchard, et al, Cellulose(2006)13:601-610を参照されたい)。
【0101】
より効果的な解重合プロセスを提供するためには、二重に電子線を照射することが有利な場合がある。例えば、供給材料移送装置は、(乾燥した、またはスラリーの形をした)供給材料を下部に、または最初の移送方向とは逆の方向に向けることができる。二重通過システムを用いると、厚い供給材料スラリーを加工することが可能になり、供給材料スラリーの厚みを通して、より均一な解重合をもたらすことが可能になる。
【0102】
電子線照射装置は、固定ビームまたはスキャニングビームを発生させることができる。スキャニングビームは、スキャンスィープ長が大きく、スキャンスピードが速く、有利な場合があるので、効果的に、大きな固定ビーム幅の代わりとなるだろう。さらに、0.5m、1m、2m、またはそれ以上の有効なスィープ幅を利用することができる。
【0103】
イオン粒子線
糖質、または糖質、例えば、セルロース材料、リグノセルロース材料、デンプン質材料、もしくはこれらのいずれかと本明細書に記載の他の材料の混合物を含む材料を放射線照射するために、電子より重い粒子を使用することができる。例えば、プロトン、ヘリウム核、アルゴンイオン、ケイ素イオン、ネオンイオン、炭素イオン、リンイオン、酸素イオン、または窒素イオンを利用することができる。いくつかの態様において、電子より重い粒子は多量の鎖の切断を誘導することができる。場合によっては、正に荷電した粒子が、その酸性度により、負に荷電した粒子より多量の鎖の切断を誘導することができる。
【0104】
より重い粒子の線は、例えば、直線加速器またはサイクロトロンを用いて発生させることができる。いくつかの態様において、粒子線の各粒子のエネルギーは、約1.0MeV/原子単位〜約6,000MeV/原子単位、例えば、約3MeV/原子単位〜約4,800MeV/原子単位、または約10MeV/原子単位〜約1,000MeV/原子単位である。
【0105】
イオンビーム処理は、米国特許出願第12/417,699号に詳細に考察されている。
【0106】
電磁放射線
電磁放射線の照射が行われる態様では、電磁放射線は、例えば、102eVを超えるエネルギー/光子(電子ボルト)、例えば、103eV、104eV、105eV、106eV、さらには107eVを超えるエネルギー/光子(電子ボルト)を有してもよい。いくつかの態様において、電磁放射線は、104〜107eV、例えば、105〜106eVのエネルギー/光子を有する。電磁放射線は、例えば、1016hz、1017hz、1018hz、1019hz、1020hz、さらには1021hzを超える周波数を有してもよい。いくつかの態様において、電磁放射線は、1018〜1022hz、例えば、1019〜1021hzの周波数を有する。
【0107】
放射線処理の組み合わせ
いくつかの態様では、2種類またはそれ以上の放射線源、例えば、2種類またはそれ以上の電離放射線が用いられる。例えば、試料は、電子線の次に、γ線および約100nm〜約280nmの波長を有するUV光によって任意の順番で処理することができる。いくつかの態様では、試料は、電離放射線源、例えば、電子線、γ線、およびエネルギーの高いUV光によって処理される。
【0108】
バイオマスのクエンチングおよび制御された官能基化
1種類または複数の種類の電離放射線、例えば、光量子放射線(photonic radiation)(例えば、X線もしくはγ線)、eビーム放射線、または正もしくは負に荷電した、電子より重い粒子(例えば、プロトンもしくは炭素イオン)による処理後に、本明細書に記載の糖質含有材料および無機材料の混合物は全てイオン化している。すなわち、混合物は、電子スピン共鳴分光計で検出可能なレベルでラジカルを含む。現行の実際のラジカル検出限界は、室温で約1014スピンである。イオン化後に、イオン化された任意のバイオマス材料をクエンチングして、例えば、ラジカルが電子スピン共鳴分光計によって検出できなくなるように、イオン化されたバイオマスの中のラジカルのレベルを下げることができる。例えば、十分な圧力をバイオマスに加えることによって、および/またはラジカルと相互作用する(クエンチングする)、イオン化されたバイオマスと接触する流体、例えば、気体または液体を利用することによって、ラジカルをクエンチングすることができる。少なくともラジカルのクエンチングの助けとなる気体または液体を用いると、操作者は、望ましい量および種類の官能基、例えば、カルボン酸基、エノール基、アルデヒド基、ニトロ基、ニトリル基、アミノ基、アルキルアミノ基、アルキル基、クロロアルキル基、またはクロロフルオロアルキル基による、イオン化されたバイオマスの官能基化を制御することもできる。場合によっては、このようなクエンチングによって、イオン化されたバイオマス材料の一部の安定性を改善することができる。例えば、クエンチングによって、バイオマスの耐酸化性を改善することができる。クエンチングによる官能基化によって、本明細書に記載の任意のバイオマスの溶解度を改善することもでき、複合体の製造において重要であり得る熱安定性を改善することができ、様々な微生物による材料利用を改善することができる。例えば、クエンチングによりバイオマス材料に付与される官能基は、微生物が取り付くための受容部位として、例えば、様々な微生物によるセルロース加水分解を強化するように働くことができる。
【0109】
イオン化されたバイオマスが大気中に残る場合、例えば、大気酸素との反応によってカルボン酸基が生じる程度まで酸化される。場合によっては、一部の材料では、このような酸化は糖質含有バイオマスの分子量がさらに破壊されるのを助け、カルボン酸基などの酸化基が、場合によっては溶解および微生物利用に役立つ場合があるので望ましい。しかしながら、放射線照射後しばらくの間、例えば、1日以上、5日以上、30日以上、3ヶ月以上、6ヶ月以上、さらには1年以上、ラジカルが「残っている(live)」場合があるので、材料特性が経時変化し続ける可能性があり、望ましくない場合がある。
【0110】
電子スピン共鳴分光法による放射線照射試料中のラジカルの検出、およびこのような試料中のラジカルの寿命は、Bartolotta et al., Physics in Medicine and Biology, 46(2001), 461-471、およびBartolotta et al., Radiation Protection Dosimetry, Vol. 84, Nos. 1-4, pp.293-296(1999)において考察されている。これらのそれぞれの内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0111】
超音波処理、熱分解、酸化
多種多様な供給源に由来する未加工の供給材料を加工して、供給材料から有用な物質を抽出するために、ならびにさらなる加工工程および/またはシーケンスへのインプットとして機能する、部分的に分解された有機材料を得るために、1つまたは複数の超音波処理、熱分解、および/または酸化加工シーケンスを使用することができる。このような加工は、供給材料およびバイオマス、例えば、セルロース材料もしくはリグノセルロース材料またはデンプン質材料などの1種類または複数の種類の糖質供給源の分子量および/または結晶化度を小さくすることができる。これらのプロセスは、米国特許出願第12/429,045号に詳述されている。
【0112】
他のプロセス
水蒸気爆砕を、本明細書に記載のどのプロセスも用いることなく単独で、本明細書に記載の任意のプロセスと組み合わせて使用することができる。
【0113】
本明細書に記載のどの加工技法も、正常な、地球に限定された大気圧より高い圧力、または正常な、地球に限定された大気圧より低い圧力で使用することができる。放射線照射、超音波処理、酸化、熱分解、水蒸気爆砕、またはこれらのプロセスのいずれかの組み合わせを利用して、糖質を含む材料を得るどのプロセスも高圧下で行うことができ、これにより反応速度を速めることができる。例えば、どのプロセスまたはプロセスの組み合わせも、25MPa超の圧力で、例えば、50MPa、75MPa、100MPa、150MPa、200MPa、250MPa、350MPa、500MPa、750MPa、1,000MPa、または1,500MPaを超える圧力で行うことができる。
【0114】
一次プロセスおよび後処理
次いで、本明細書に記載の任意のプロセスを用いて処理された材料は、他のプロセス、例えば、発酵およびガス化などの一次プロセス、ならびに/または蒸留、廃水処理、廃棄物燃焼などの後処理工程に供することができる。このようなプロセスは、参照として本明細書に組み入れられている特許出願、例えば、12/429,045に詳述されている。
【0115】
産物/副産物
このような一次プロセスおよび/または後処理を用いると、処理されたバイオマスは、1種類または複数の種類の産物、例えば、アルコール、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、例えば、n-、sec-、もしくはt-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、グリセリン、またはこれらのアルコールの混合物;有機酸、例えば、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、オレイン酸、リノール酸、グリコール酸、乳酸、γ-ヒドロキシ酪酸、もしくはこれらの酸の混合物;食品;動物用飼料;薬;あるいは栄養補助食品(nutriceutical)に変換することができる。産生され得る副産物には、リグニン残基が含まれる。
【0116】
材料
無機材料
いくつかの態様において、無機材料は金属もしくは金属合金であるか、または金属もしくは金属合金を含む。例えば、金属は、卑金属、例えば、鉄、ニッケル、鉛、銅、もしくは亜鉛、鉄金属、例えば、錬鉄もしくは銑鉄、貴金属(noble metal)、例えば、タンタル、金、白金、もしくはロジウム、貴金属(precious metal)、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、もしくは白金、または遷移金属、例えば、元素周期表の元素21から30まで(両端を含む)、39から48まで(両端を含む)、71から80まで(両端を含む)、および103から112までを含んでもよい。
【0117】
特定の態様において、無機材料は、金属合金、例えば、二元合金または三元合金であるか、これを含む。特定の態様において、合金は、鋼、黄銅、青銅、ジュラルミン、ハスタロイ、Al-Li合金、アルニコ合金、ナンベ(nambe)合金、シルミン(silumin)合金、AA-8000、およびマグナリウム合金であるか、これを含む。
【0118】
1つの態様において、無機材料は、アルミニウム層を備える廃棄物包装材料などのアルミニウムであるか、これを含む。
【0119】
他の態様において、無機材料は、金属化合物、例えば、鉄またはコバルトの無機化合物、例えば、鉄またはコバルトが2+または3+の酸化状態にある、鉄またはコバルトの無機化合物であるか、これを含む。このような鉄化合物の例は、硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物、硫酸アンモニウム鉄(II)溶液、硫酸アンモニウム鉄(III)十二水和物、硫酸アンモニウム鉄(III)、硫酸鉄(II)七水和物、硫酸鉄(II)水和物、硫酸鉄(II)溶液、および硫酸鉄(III)水和物である。
【0120】
さらに他の態様において、無機材料は、耐火材料、例えば、酸性、中性、または塩基性の耐火材料であるか、これを含む。酸性耐火材料の例には、ジルコン、耐火粘土、およびシリカが含まれる。中性耐火材料の例には、アルミナ、クロマイト、炭化ケイ素、炭素、およびマリタイトが含まれる。塩基性耐火材料の例には、ドロマイトまたはマグネサイトが含まれる。
【0121】
さらに他の態様では、無機材料は、セラミック、例えば、酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物、またはカオリン(例えば、天然、中性、酸性、塩基性、または漂白)を含む。例えば、酸化物は、酸化アルミニウム、例えば、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、酸化亜鉛、または酸化チタン、例えば、二酸化チタンでもよい。
【0122】
いくつかの態様において、無機添加物の中には、および/または無機添加物の上には、約0.25〜約25重量パーセントの水が含まれる。特定の態様において、無機材料は、無機材料を高温で維持することができる水和水、例えば、アルミナ水和物を含む。
【0123】
有用な無機材料の他の例には、炭酸カルシウム、アラレ石クレー、斜方晶(orthorhombic)クレー、方解石クレー、菱面体晶(rhombohedral)クレー、ベントナイトクレー、リン酸二カルシウム、無水リン酸二カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、リン酸三カルシウム、ピロリン酸カルシウム、不溶性メタリン酸ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、オルトリン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、ヒドロキシアパタイト、合成アパタイト、ケイ酸セロゲル、アルミノケイ酸金属錯体、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸ジルコニウム、砂、ガラス、石、岩、モンモリロナイト、および頁岩が含まれる。
【0124】
いくつかの態様において、無機材料は、約400℃を超える融点、例えば、約500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃、1200℃、1,400℃、1600℃、1800℃、2000℃、2200℃、2400℃、2600℃、さらには2800℃を超える融点を有する。他の場合において、無機材料は融点を有さない、または融点を有する材料を含まない。
【0125】
場合によっては、無機材料は、約1.5J/gK未満の比熱容量Cp、例えば、約1.25J/gK、1.0J/gK、0.75J/gK、0.50J/gK、0.25J/gK、さらには約0.1J/gK未満の比熱容量Cpを有する。様々な例において、無機材料は、約1.25〜約0.2J/gK、例えば、約1.15〜約0.25J/gK、または約0.85〜0.30J/gKの比熱容量Cpを有してもよい。
【0126】
無機材料は、約0.004〜約450W/mK、約0.04〜約250W/mK、約0.1〜約150W/mK、または約0.25〜約50W/mKの熱伝導率を有してもよい。
【0127】
無機材料は、約1.5g/cm3を超える密度、例えば、約2.0g/cm3、2.5g/cm3、3.0g/cm3、5.0g/cm3、7.0g/cm3、8.0g/cm3、9.0g/cm3、12.0g/cm3、15.0g/cm3、18.0g/cm3、さらには20.0g/cm3を超える密度を有してもよい。無機材料は、約3.5g/cm3〜約20.0g/cm3、約4.0g/cm3〜約18g/cm3、または約4.5g/cm3〜約13g/cm3の密度を有してもよい。
【0128】
場合によっては、無機材料は、形が実質的に球形であり、平均粒径、例えば、約0.1ミクロン〜約100ミクロン、約0.25ミクロン〜約75ミクロン、または約0.5ミクロン〜約50ミクロンの直径を有する粒子であるか、これを含む。場合によっては、粒径は約10mm〜約1000mmでもよい。粒子は繊維、板の形でもよく、他の形態を有してもよい。粒子は、例えば、約0.5〜500m2/gの表面積を有してもよい。
【0129】
無機添加物の効果を最大限にするために、組み合わせは、約0.05〜約35重量パーセントの無機材料、例えば、約0.1〜約20重量パーセントの無機材料、または約0.5〜約10重量パーセントの無機材料を有してもよい。
【0130】
バイオマス材料
一般的に、1つもしくは複数の糖単位から完全になる糖質である、または1つもしくは複数の糖単位から完全になる糖質を含む、あるいは1つもしくは複数の糖単位を含む、任意のバイオマス材料を、本明細書に記載の任意の方法によって加工することができる。例えば、バイオマス材料は、セルロース、リグノセルロース、デンプン、または糖でもよい。
【0131】
例えば、このような材料は、繊維材料、例えば、紙、紙製品、木材、木材関連材料、パーティクルボード、草、もみ殻、バガス、綿、ジュート、アサ、アマ、タケ、サイザル、アバカ、ワラ、コーンコブ、もみ殻、ヤシ毛、藻類、海藻、綿、合成セルロース、またはこれらのいずれかの混合物を含んでもよい。
【0132】
場合によっては、バイオマスは微生物材料である。微生物供給源には、糖質供給源(例えば、セルロース)を含有する、または糖質供給源を供給することができる、任意の天然のまたは遺伝子組換えされた微生物または生物、例えば、原生生物(例えば、動物(例えば、鞭毛虫、アモエボイド(amoeboid)、繊毛虫、および胞子虫などの原生動物)、ならびに植物(例えば、アルベオラテ(alveolate)、クロララクニオン植物、クリプト藻類、ユーグレナ類(euglenid)、灰色植物、ハプトファイト(haptophyte)、赤色藻類、黄色植物、および緑色植物(viridaeplantae)などの藻類)、海藻、プランクトン(例えば、マクロプランクトン、メソプランクトン、ミクロプランクトン、微小プランクトン、ピコプランクトン、およびフェムトプランクトン)、植物プランクトン、細菌(例えば、グラム陽性細菌、グラム陰性細菌、および好極限性細菌)、酵母、ならびに/またはこれらの混合物が含まれるが、これに限定されない。場合によっては、微生物バイオマスは、天然供給源、例えば、海、湖、複数の水域、例えば、海水または淡水から得られてもよく、陸から得られてもよい。代わりに、またはさらに、微生物バイオマスは、培養システム、例えば、大規模な乾式培養システムおよび湿式培養システムから得られてもよい。
【0133】
他のバイオマス材料は、本明細書前記に参照として組み入れられる米国特許出願において考察されている。
【0134】
他の態様
低線量照射および複合体
主に、バイオマスの分子量および結晶化度の低下に関して放射線照射が考察されたが、いくつかの態様では、比較的低い線量の放射線によって、糖質含有材料を架橋、グラフトすることができ、他の方法で糖質含有材料の分子量を増やすことができる。分子量が増えた、このような材料は、例えば、耐摩耗性、圧縮強さ、破壊応力、衝撃強さ、曲げ強さ、引張弾性率、曲げ弾性率、および破断点伸びなどの機械的特性が改善した複合体の作製において有用であり得る。分子量が増えた、このような材料は、組成物の作製において有用であり得る。複合体の形成は、WO2006/102543ならびに米国特許出願第12/417,720号および同第12/429,045号に記載されている。
【0135】
または、無機材料との混合物中にある材料、例えば、第一の分子量を有する第一のセルロース材料および/またはリグノセルロース材料を含む繊維材料を樹脂と組み合わせて、複合体を得、次いで、複合体に比較的低い線量の放射線照射して、第一の分子量より大きな第二の分子量を有する第二のセルロース材料および/またはリグノセルロース材料を得ることができる。例えば、放射線源としてγ線が用いられる場合、約1Mrad〜約10Mradの線量を適用することができる。このアプローチを用いると、材料が樹脂マトリックス内にありながら、材料の分子量を増やすことができる。いくつかの態様において、樹脂は、架橋可能な樹脂であり、従って、架橋するにつれて糖質含有材料の分子量が増えるので、有利な機械的特性を複合体に付与する相乗効果が生まれる。
【0136】
炭化水素含有材料の処理
いくつかの態様では、本明細書において開示される方法およびシステムは、炭化水素含有材料、例えば、タールまたはオイルサンド、オイルシェール、原油(例えば、重原油および/または軽原油)、ビチューメン、石炭、例えば、泥炭、褐炭、亜瀝青炭、瀝青炭および無煙炭、石油ガス(例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン)、液化天然ガスおよび/または合成ガス、アスファルト、ならびに様々なタイプの炭化水素を含む他の天然の材料を加工するのに使用することができる。例えば、炭化水素含有材料の加工施設が原材料の供給品を受け取る。原材料は、鉱山から、例えば、コンベヤーベルトおよび/または鉄道車両システムによって直接送られてもよく、ある特定の態様では、加工施設は、鉱山の比較的近くに、さらには鉱山の頂上に建設することができる。いくつかの態様において、原材料は、鉄道貨物列車を介して、もしくは別の電動式輸送システムを介して加工施設に輸送されてもよく、および/またはパイプラインを介して加工施設にポンプで送られてもよい。
【0137】
原材料が加工施設に入ったら、原材料を機械的および/または化学的に破壊して、出発物質を得ることができる。一例として、原材料は、オイルサンドに由来する材料、および粗ビチューメンを含有する材料を含んでもよい。次いで、本明細書において開示される方法を用いて、例えば、本明細書に記載のようにビチューメンと無機材料を混合し、混合物を放射線照射することによって、ビチューメンを1種類または複数の種類の炭化水素産物に加工することができる。いくつかの態様では、露天掘りの鉱山などの地表面の鉱山からオイルサンド材料を抽出することができる。ある特定の態様では、砂粒子から油を取り出し、次いで、ナフサを添加して油を加工施設にポンプで送る温水浮選プロセスを用いて、地表下のオイルサンド材料を抽出することができる。
【0138】
例えば、オイルサンドからビチューメンを加工するために、任意の機械的破壊工程の前に、1回もしくは複数回の機械的破壊工程の後に、分解の前に、分解の後に、ならびに/または水素化処理(hydrotreatment)の前に、および水素化処理後に、本明細書において開示される1種類または複数の種類の技法を使用することができる。別の例として、オイルシェールを加工するために、前記で考察された蒸発工程および精製工程のいずれかまたは両方の前に、本明細書において開示される1種類または複数の種類の技法を使用することができる。(例えば、電動式輸送を介して、またはパイプラインを介して)加工施設から産物を輸送する前に、技法の任意の組み合わせを用いて、炭化水素をベースとする原材料に由来する産物を再処理することができる。
【0139】
本明細書において開示される技法を適用して、乾燥した形、溶液もしくはスラリー、または気体の形をした原材料または中間材料を加工することができる(例えば、高温で炭化水素蒸気を加工することができる)。溶液およびスラリーの状態の未加工産物または中間産物の溶解度は、酸、塩基、酸化剤、還元剤、および塩などの1種類または複数の種類の薬剤を選択的に添加することによって制御することができる。一般的に、本明細書において開示される方法を用いて、未加工および/または中間の炭化水素含有材料の反応、原材料からの中間材料の抽出(例えば、他の固体成分または液体成分からの炭化水素成分の抽出)、原材料および/または中間材料の配分、ならびに原材料からの中間材料の分離(例えば、炭化水素成分の濃度および/または純度および/または均一性を高めるための、他の固体マトリックス成分からの炭化水素含有成分の分離)を開始および/または維持することができる。
【0140】
さらに、原材料または中間材料の加工のために、放射線照射前または放射線照射後に微生物を使用することができる。適切な微生物には、以前に開示されたような様々なタイプの細菌、酵母、およびその混合物が含まれる。ヒト操作者に有害なガス産物を含む、原材料または中間材料の加工に起因する有害な副産物、ならびにヒトおよび/または様々な微生物に有害な化学副産物を除去するように、加工施設を整備することができる。
【0141】
いくつかの態様において、本明細書において開示される1つまたは複数の技法を用いると、加工される原材料または中間材料の1つまたは複数の成分の分子量が小さくなる。結果として、1種類または複数の種類の重量の大きな炭化水素物質から、重量の小さな様々な炭化水素物質を産生することができる。ある特定の態様では、本明細書において開示される1つまたは複数の技法を用いると、加工される原材料または中間材料の1つまたは複数の成分の分子量が大きくなる。例えば、本明細書において開示される様々な技法は、成分の分子間の結合形成を誘導して、多量のある特定の産物を形成し、さらには重量がさらに大きな新たな産物を形成することができる。炭化水素産物に加えて、窒素をベースとする化合物(例えば、アンモニア)、硫黄をベースとする化合物、ならびにケイ酸塩および他のケイ素をベースとする化合物を含む原材料から、様々な他の化合物を抽出することができる。ある特定の態様では、原材料から抽出された1種類または複数の種類の産物を燃焼させて、水、原材料、もしくは中間材料を加熱するための、発電のための、または他の用途のためのプロセス熱を発生させることができる。
【0142】
いくつかの態様において、無機材料と混合し、混合物を放射線照射することによって原材料または中間材料を加工すると、他の加工工程の効率を改善することができる(さらには排除することができる)。例えば、本明細書において開示される1つまたは複数の技法を用いてオイルサンド材料(ビチューメンを含む)を加工すると、ビチューメンをより効率的に分解および/または水素化処理することができる。別の例として、オイルシェールを加工すると、オイルシェールから、シェールオイルおよび/またはシェールガスを含む様々な産物をより効率的に抽出することができる。ある特定の態様では、原材料を処理するために本明細書において開示される技法が最初に用いられれば、分解または蒸発などの工程は不要になる場合がある。さらに、いくつかの態様において、原材料または中間材料を処理することによって、溶液中での後の加工工程(例えば、蒸気噴射、超音波処理)のための調製の際に、産物をある特定の溶媒に溶けやすくすることができる。産物の溶解度を改善すると、溶液をベースとする後の処理工程の効率を改善することができる。他の加工工程(例えば、ビチューメンの分解および/または水素化処理、オイルシェールの蒸発)の効率が改善されることで、原材料の加工において消費する全エネルギーが減り、原材料の抽出および加工が経済的に実現可能になる。
【0143】
ある特定の態様では、未加工の炭化水素含有材料の加工においてイオンビームが特に効率的であり得る。例えば、イオンビームは重合反応および解重合反応を開始し、放射線照射された材料に熱を蓄積させ、放射線照射された材料の原子をスパッタリングする、または他の方法で置換することができるので、炭化水素材料、例えば、オイルサンド、オイルシェール、原油、アスファルト、および他の材料のさらなる加工工程を改善するように、ならびに/またはこれらの材料から有用な産物を抽出するように、これらの材料を処理することができる。
【0144】
炭化水素含有材料の加工から得られた産物には、燃料として使用するのに適した1種類または複数の種類の化合物が含まれ得る。燃料化合物は現場で用いられてもよく(例えば、発電のために燃焼されてもよく)、ならびに/または保管および/もしくは使用のために別の施設に輸送されてもよい。
【0145】
原油の加工
原油を加工するために、従来の製油技術に加えて、または従来の製油技術の代わりとして、本明細書において開示される方法およびシステムを使用することができる。特に、低温油分解、改質、官能基化、および他のプロセスのために、イオンビーム処理法を単独で、または本明細書において開示される他の任意の方法と組み合わせて使用することができる。
【0146】
一般的に、本明細書において開示される方法(例えば、イオンビーム処理のみ、またはイオンビーム処理と1つもしくは複数の他の方法との組み合わせを含む)を用いた、原油および/またはその成分の処理を用いて、処理された材料の分子量、化学構造、粘度、溶解度、密度、蒸気圧、および他の物理的性質を改変することができる。原油および/またはその成分の処理に使用することができる代表的なイオンには、プロトン、炭素イオン、酸素イオン、および本明細書において開示される他の任意のタイプのイオンが含まれ得る。さらに、原油および/またはその成分を処理するのに用いられるイオンには金属イオンが含まれ得る。特に、ある製油所プロセス(例えば、接触分解)を触媒する金属イオンを用いて、原油および/またはその成分を処理することができる。例示的な金属イオンには、白金イオン、パラジウムイオン、イリジウムイオン、ロジウムイオン、ルテニウムイオン、アルミニウムイオン、レニウムイオン、タングステンイオン、およびオスミウムイオンが含まれるが、これに限定されない。
【0147】
いくつかの態様において、複数回のイオン曝露工程を使用することができる。分子量、化学構造、粘度、密度、蒸気圧、溶解度、および他の特性の1つまたは複数の第一の変化をもたらすように原油(またはその成分)を処理するために、第一のイオン曝露を使用することができる。次いで、さらなる特性変化をもたらすように、1回または複数回のさらなるイオン曝露を使用することができる。一例として、第一のイオン曝露を用いて、かなりの割合の1種類または複数の種類の高沸点の重い成分を、沸点の低い低分子量化合物に変換することができる。次いで、1回または複数回のさらなるイオン曝露を用いて、成分混合物から、残りの量の重い成分を沈殿させることができる。
【0148】
一般的に、供給材料の組成および物理的性質に応じて、多くの異なる加工プロトコールを実施することができる。ある特定の態様では、複数回のイオン曝露は、1種類のみのイオンへの曝露を含んでもよい。いくつかの態様において、複数回のイオン曝露は、複数の種類のイオンへの曝露を含んでもよい。イオンは、同じ電荷を有してもよく、または異なる電荷の大きさおよび/もしくは符号を有してもよい。
【0149】
いくつかの態様では、イオンビームへの曝露中に、原油および/またはその成分を官能基化することができる。例えば、原油供給材料のある特定の成分(または全ての成分)への特定の官能基の付加を促進するように、1つまたは複数のイオンビームの組成を選択することができる。1つまたは複数の官能基化剤(例えば、アンモニア)を供給材料に添加して、特定の官能基を導入することができる。原油および/またはその成分を官能基化することによって、官能基化化合物内でのイオン移動度を高めることができ(曝露中のさらに大きく有効なイオン浸透につながる)、原油および/またはその成分の物理的性質、例えば、粘度、密度、および溶解度を変えることができる。原油および/または原油成分の1つまたは複数の物理的性質を変えることによって、後の精製工程の効率および選択性を調節することができ、入手可能な産物の流れを制御することができる。さらに、原油および/または原油成分の官能基化によって、後の精製工程に用いられる触媒の活性化効率を改善することができる。
【0150】
一般的に、本明細書において開示される方法は、原油および原油成分のイオンビーム曝露を含めて、本明細書において開示される他の任意の精製工程の前、間、もしくは後に、および/または原油精製に用いられる他の任意の精製工程の前、間、もしくは後に行うことができる。本明細書において開示される方法はまた、精製が完了した後に、および/または精製が開始する前に用いられてもよい。ある特定の態様では、本明細書において開示される方法は、イオンビーム曝露を含めて、油田から原油が抽出されている間でも原油の加工に使用することができる。
【0151】
いくつかの態様において、原油および/またはその成分が1つまたは複数のイオンビームに曝露される場合、曝露される材料を、イオンビーム曝露と同時に発生する1つまたは複数のガスにも曝露することができる。ある特定の原油成分、例えば、芳香環を含む成分は、イオンビーム曝露に対して、非芳香族成分より比較的安定性が高い場合がある。典型的には、例えば、イオンビーム曝露によって、反応中間体、例えば、炭化水素に由来するラジカルが形成する。次いで、この炭化水素は、反応性の低い他の炭化水素と反応することができる。曝露される材料の平均分子量を小さくするために、反応性産物と反応性の低い炭化水素とが反応することによって分子結合切断事象が起こり、長い鎖の分子から重量の小さい断片が生成される。しかしながら、安定性の高い反応中間体(例えば、芳香族炭化水素中間体)は他の炭化水素と反応しない場合があり、重合さえせず、重量がさらに大きな化合物が形成することもある。イオンビームに曝露された原油および/または原油成分における重合の程度を小さくするために、イオンビーム曝露中に、1種類または複数の種類のラジカルクエンチャーを導入することができる。ラジカルクエンチャーは反応中間体に蓋をして、入射イオンによって破壊された化学結合の再形成を阻止することができる。適切なラジカルクエンチャーには、水素ドナー、例えば、水素ガスが含まれる。
【0152】
ある特定の態様では、原油および/または原油成分の分解をさらに促進するために、イオンビーム曝露中に、反応性化合物を導入することができる。反応性化合物は様々な分解(例えば、結合破壊)反応を助けて、曝露された材料の分子量を小さくすることができる。例示的な反応性化合物はオゾンであり、ガスとして直接導入されてもよく、酸素を含有する供給ガス(例えば、酸素ガス、空気)に高電圧を印加することによって、または酸素を含有する供給ガスをイオンビームおよび/もしくは電子線に曝露することによってインサイチューで発生されてもよい。いくつかの態様において、酸素ガスまたは空気などの流体の存在下での原油および/または原油成分をイオンビームに曝露するとオゾンガスが形成され、これも、曝露された材料の分解を助けることができる。
【0153】
製油所における蒸留の前および/または後に、原油および/またはその成分は、成分を精製するために、および/または成分を他の産物に変換するために、様々な他の製油所プロセス、例えば、接触分解、アルキル化、触媒改質、および異性化、ならびに触媒水素化分解を経ることがある。所望であれば、このような製油所プロセスと、本明細書に記載の方法を統合することができる。
【0154】
例えば、原油成分を処理する接触分解の前、間、および/または後に、本明細書において開示される方法を使用することができる。特に、イオンビーム曝露(のみ、または他の方法との組み合わせ)を用いて、供給材料をライザーに注入する前に前処理することができる、分解の間に炭化水素(炭化水素蒸気を含む)を処理することができる、および/または接触分解プロセスの産物を処理することができる。
【0155】
分解触媒には、典型的には、酸処理された天然アルミノケイ酸塩、非晶質合成シリカ-アルミナの組み合わせ、および結晶性合成シリカ-アルミナ触媒(例えば、ゼオライト)などの材料が含まれる。接触分解プロセスの間に、これらの触媒の効率を高めるために、1つまたは複数のイオンビームからのイオンに原油成分を曝露することができる。例えば、触媒反応に関与することによって触媒活性を改善する1種類または複数の種類の金属イオンに、原油成分を曝露することができる。代わりに、またはさらに、触媒効率を高い状態に維持するために、窒素化合物、鉄、ニッケル、バナジウム、および銅などの代表的な触媒毒を除去するイオンに、原油成分を曝露することができる。さらに、分解または触媒再生の間に、(例えば、スパッタリングなどのプロセスによって、および/または化学反応を介して)触媒表面上に形成するコークスを除去するために、コークスとイオンを反応させることができる。
【0156】
原油成分を処理するアルキル化の前、間、および/または後に、本明細書において開示される方法を使用することができる。特に、アルキル化中のイオンビーム曝露(のみ、または他の方法との組み合わせ)によって、オレフィンとイソパラフィンとの間の付加反応を助けることができる。いくつかの態様において、原油成分のイオンビーム曝露によって、硫酸および/またはフッ化水素酸触媒の必要性が小さくなり、さらには不要になるので、アルキル化プロセスのコストおよび危険性が低下する。オレフィンとイソパラフィンとの間の1+1付加反応を優先的に促進するために、および重合反応の延長が起こらないようにするために、イオンの種類、イオンビーム曝露の回数、曝露期間、およびイオンビームの流れを調節することができる。
【0157】
触媒改質プロセスでは、ガソリン製造のために高オクタン芳香族を形成するように、炭化水素分子構造が再編成される。比較的微量の分解が起こる。改質の間に、芳香族形成につながる主反応はナフテンの脱水素およびパラフィンの脱水素環化である。原油成分を処理する触媒改質の前、間、および/または後に、本明細書において開示される方法を使用することができる。特に、イオンビーム曝露(のみ、または他の方法との組み合わせ)を用いて、ナフテンの脱水素反応および/またはパラフィンの脱水素環化反応を開始および維持して、芳香族炭化水素を形成することができる。1種類または複数の種類のイオンへの原油成分の1回または複数回の曝露を用いて、触媒改質プロセスの収率を改善することができる。例えば、ある特定の態様では、脱水素反応および/または脱水素環化反応は、最初に水素が引き抜かれることで進行する。負に荷電した塩基性イオンへの曝露は、このような引き抜きが起こる速度を速めて、より効率的な脱水素反応および/または脱水素環化反応を促進することができる。いくつかの態様において、異性化反応は酸性環境において効果的に進行することができ、正に荷電した酸性イオン(例えば、プロトン)への曝露は異性化反応速度を速めることができる。
【0158】
触媒改質に用いられる触媒には、一般的に、アルミナ基部上に支持された白金が含まれる。レニウムと白金を組み合わせると、改質プロセスの低圧操作を可能にする安定性の高い触媒を形成することができる。理論に拘束されるものではないが、白金は水素化反応および脱水素反応の触媒部位として役立ち、塩素化アルミナは、異性化反応、環化反応、および水素化分解反応の酸部位を提供すると考えられている。一般的に、触媒活性は、コークスの付着および/またはアルミナ支持体からの塩化物の消失によって低下する。触媒活性の回復は、付着したコークスを高温で酸化した後に支持体を塩素化することによって行うことができる。
【0159】
いくつかの態様において、イオンビーム曝露は、改質反応の間および/または後に触媒材料を処理することによって、触媒改質プロセスの効率を改善することができる。例えば、触媒表面上に付着したコークスと反応し、酸化するイオンに触媒粒子を曝露して、コークスを取り除き、触媒を活性状態に維持する/戻すことができる。イオンはまた、改質反応器内にある、付着しなかったコークスと直接反応して、触媒粒子への付着を妨げることもできる。さらに、適切に選択されたイオン(例えば、塩素イオン)にアルミナ支持体を曝露して、支持体表面を再塩素化することができる。イオンビーム曝露は、触媒を活性状態に長期間、維持することによって、および/または改質副産物を除去することによって、触媒改質プロセスの処理量を改善する、および/または運転コストを下げることができる。
【0160】
本明細書において開示される方法は、原油の成分を処理する触媒水素化分解の前、間、および/または後に使用することができる。特に、イオンビーム曝露(のみ、または他の方法との組み合わせ)を用いて、水素化および/または分解プロセスを開始することができる。1種類または複数の種類のイオンへの原油成分の1回または複数回曝露を用いると、特定の曝露条件を様々なプロセス工程に合わせることによって、水素化分解の収率を改善することができる。例えば、いくつかの態様では、原油成分を水素化物イオンに曝露して、水素化プロセスを助けることができる。分解プロセスは、プロトンおよび/または炭素イオンなどの反応性イオンに成分を曝露することによって促進することができる。
【0161】
ある特定の態様では、イオンビーム曝露は、触媒材料を分解の間および/または後に処理することによって、水素化分解プロセスの効率を改善することができる。例えば、触媒表面上の付着物と反応し、酸化するイオンに触媒粒子を曝露して、付着物を取り除き、触媒を活性状態に維持する/戻すことができる。原油成分はまた、白金、パラジウム、タングステン、およびニッケルを含む、水素化分解に用いられる金属の一部または全てに対応するイオンに曝露することもできる。このように触媒イオンへの曝露によって、水素化分解プロセスの全体の速度を速めることができる。
【0162】
原油精製中に行われる様々な他のプロセスもまた、本明細書において開示される方法によって改善することができ、または本明細書において開示される方法で代替することができる。例えば、コーキング、熱処理(熱分解を含む)、ハイドロプロセシング(hydroprocessing)、および重合などの製油所プロセスの前、間、および/または後に、原油成分のイオンビーム処理を含む本明細書において開示される方法を用いて、効率および全収率を改善し、このようなプロセスから生じる廃棄物を減らすことができる。
【0163】
他の態様は添付の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖質含有材料と無機材料を組み合わせることによって形成された組み合わせを放射線照射する工程を含む、糖質含有材料を加工する方法。
【請求項2】
加速粒子を用いて放射線照射が行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記粒子が、光速の75パーセント超の速度まで加速された電子を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
糖質含有材料がセルロース材料またはリグノセルロース材料を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
糖質含有材料と無機材料を組み合わせる工程が乾式混合または共粉砕(co-comminuting)を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
糖質含有材料と無機材料を組み合わせる工程が、各材料を25℃より低い温度まで冷却しながら、両材料を共粉砕する工程を含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記材料が0℃または0℃より低い温度まで冷却される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
無機材料が金属または金属合金を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
金属または金属合金が、鉄金属、卑金属、貴金属(noble metal)、貴金属(precious metal)、および遷移金属からなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
無機材料がアルミニウム金属を含む、請求項8記載の方法。
【請求項11】
無機材料が金属化合物を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
金属化合物が、2+または3+の酸化状態の鉄またはコバルトを含む、請求項11記載の方法。
【請求項13】
無機材料が耐火材料を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項14】
耐火材料が、ジルコン、耐火粘土、シリカ、アルミナ、クロマイト、炭化ケイ素、炭素、マリタイト(mulitite)、ドロマイト、およびマグネサイトからなる群より選択される、請求項13記載の方法。
【請求項15】
無機材料がセラミックを含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項16】
セラミックが、酸化物、炭化物、ホウ化物、窒化物、ケイ化物、およびカオリンからなる群より選択される、請求項15記載の方法。
【請求項17】
無機材料が、無機材料を高温で維持することができる水を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項18】
無機材料が融点を有さない、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
無機材料が約400℃を超える融点を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
無機材料が約1.5未満の比熱容量Cpを有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
無機材料が約0.004〜約450W/mKの伝導率を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
無機材料が約1.5g/cm3を超える密度を有する、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項23】
無機材料が、約0.1ミクロン〜約100ミクロンの平均粒径を有する粒子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
組み合わせが、約0.05〜約35重量パーセントの無機材料を含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
放射線照射する工程の後に、
無機材料を除去する工程、ならびに
放射線照射された糖質含有材料を、酵素および/または微生物を用いて産物に変換する工程
をさらに含む、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記産物がエタノールを含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
変換する工程の後に除去する工程が行われる、請求項25または25記載の方法。
【請求項28】
微生物が酵母を含む、請求項25〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
炭化水素含有材料と無機材料を組み合わせることによって形成された組み合わせを放射線照射する工程を含む、炭化水素含有材料を加工する方法。
【請求項30】
炭化水素含有材料が、タールまたはオイルサンド、オイルシェール、原油、ビチューメン、石炭、石油ガス、液化天然ガスおよび/または合成ガス、ならびにアスファルトからなる群より選択される、請求項29記載の方法。
【請求項31】
炭化水素含有材料が、固体、粒子、粉末、液体、気体、またはその組み合わせを含む、請求項29または30記載の方法。
【請求項32】
固体が石炭を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
液体が石炭を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
無機材料が、金属、金属合金、金属化合物、耐火材料、またはセラミックを含む、請求項29〜33のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−506943(P2012−506943A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−534659(P2011−534659)
【出願日】平成21年10月26日(2009.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2009/062050
【国際公開番号】WO2010/062551
【国際公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(509284598)キシレコ インコーポレイテッド (13)
【Fターム(参考)】