説明

材料ガス制御システム

【課題】調整バルブが全開又は全閉である場合の材料ガスの濃度値や流量値が、設定値と略一致する場合であっても、濃度や流量の制御状態が異常であるかを診断できる材料ガス制御システムを提供する。
【解決手段】収容室10と、キャリアガスを導入する導入管20と、材料ガス及びキャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管30と、第1調整バルブ45と、材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、第1調整バルブ45に開度制御信号を出力する第1バルブ制御部46と、収容室10内の圧力を測定する圧力計44と、開度制御信号の値の時間変化量及び圧力計44で測定した測定圧力値の時間変化量が、所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部47とを具備するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体製造プロセスにおいて、材料ガスを供給する材料ガス制御システムに関し、より詳しくは、液体又は固体の材料に対してキャリアガスを導入し、当該材料を気化させて材料ガスとし、前記材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを供給する材料ガス制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の材料ガス制御システムには、特許文献1に示すように、前記混合ガス中の材料ガスの濃度を測定し、その測定濃度値が予め定められた設定濃度値となるように、材料を収容する収容室内の圧力を制御するようにしたものがある。具体的には、前記収容室から前記混合ガスを導出する導出管に、調整バルブを設け、例えば、測定濃度値が設定濃度値よりも低い場合には、前記調整バルブを開いて、前記収容室内の圧力を下げ、材料ガスの濃度を上昇させて、測定濃度値と設定濃度値との差分を小さくするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−109305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
材料ガスの供給を開始すると、材料は気化して次第に減少していくので、前記調整バルブの開度がそのままであれば、材料ガスの濃度が低下してしまう。従って、材料ガスの濃度を設定濃度値に保つためには、調整バルブを開いていく必要がある。
【0005】
しかしながら、調整バルブを開いていくと、調整バルブが最も開いた状態(フルオープン)となってしまい、それ以上開くことができないので、材料ガスの濃度が上昇しなくなってしまうことがある。従って、材料ガスの濃度が設定濃度値よりも若干低いままになってしまい、正常に制御されなくなってしまう。
【0006】
また、従来の材料ガス制御システムでは、測定濃度値と設定濃度値との差分を監視して、その差分が所定範囲内であれば、材料ガス濃度が正常に制御されていると判断している。しかしながら、上述した異常な制御状態において、測定濃度値と設定濃度値との差分は比較的小さい値であるので、前記所定範囲内に収まってしまい、制御状態が正常であるように見えてしまい、制御状態が異常であることを見抜くことができないという恐れがある。
【0007】
また、調整バルブを閉じていくときにも、同様の問題が起こりうる。例えば、収容室の温度が上昇した場合、調整バルブを閉じていくことで、材料ガスの濃度を制御するのであるが、調整バルブが最も閉じた状態(フルクローズ)となってしまい、上述したような異常な制御状態に陥ってしまう。さらに、材料ガスの流量を制御するシステムにおいても、同様の問題が生じ得る。
【0008】
そこで、本発明は、上記の問題を解決すべく図ったものであり、調整バルブがフルオープン又はフルクローズである場合における材料ガスの測定濃度値や測定流量値が、設定値と略一致する場合であっても、材料ガスの濃度や流量の制御状態が異常であるか否かを診断できる材料ガス制御システムを提供することをその主たる所期課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明に係る材料ガス制御システムは、材料を収容する収容室と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、前記導出管に設けられた第1調整バルブと、前記導出管を流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、前記測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御部とを具備する材料ガス制御システムであって、前記収容室内の圧力を測定する圧力計と、前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力計で測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部とを具備することを特徴とするものである。
【0010】
なお、「前記開度制御信号の値」には、第1バルブ制御部が生成した信号の値だけではなく、その信号を増幅した信号の値や、第1調整バルブに印加された電圧又は電流を測定した測定電圧値又は測定電流値のように、開度制御信号に直接的に対応づけられる値を含む。
【0011】
このようなものであれば、前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記制御状態が異常であると前記診断部が診断するので、例えば前記第1調整バルブがフルオープン又はフルクローズとなってしまい、前記収容室内の圧力が制御できなくなり、前記材料ガスの濃度や流量が制御できなくなっているのにもかかわらず、前記第1バルブ制御部が、前記第1調整バルブを更に開閉させようとしている場合に、制御状態が異常であると診断することができる。しかも、従来では制御状態の可否の判断が困難である、バルブがフルオープン又はフルクローズである場合における材料ガスの測定濃度値や測定流量値が、設定値と略一致する場合であっても、材料ガスの濃度や流量の制御状態が異常であるか否かを診断できる。結果として、材料ガスの濃度や流量を設定値に保つことができ、例えば材料ガスを用いて製造される半導体ウェハの歩留まりを向上できる。
【0012】
前記制御状態が異常であると診断する具体的な前記所定条件の例としては、前記診断部が、前記開度制御信号の値が単位時間あたりで実質的に変化しており、かつ、前記測定圧力値の時間変化量が実質的に0である場合が挙げられる。
【0013】
前記制御状態が異常である場合に、その制御状態を正常にするためには、前記診断部が、前記制御状態が異常であると診断した場合に、前記収容室内を加熱又は冷却する温度制御部を具備するものや、前記導入管に設けられた第2調整バルブと、前記診断部が、前記制御状態が異常であると判断した場合に、第2調整バルブの開度を制御して、前記収容室内に導入されるキャリアガスの流量を増加又は減少させる第2バルブ制御部とを具備するようにしたものが望ましい。
【0014】
この材料ガス制御システムの制御方法もまた、本発明の1つである。すなわち、本発明に係る材料ガス制御方法は、材料を収容する収容室と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、前記導出管に設けられた第1調整バルブとを具備する材料ガス制御システムの制御方法であって、前記導出管に流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する材料ガス測定ステップと、前記材料ガス測定ステップで測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御ステップと、前記収容室内の圧力を測定する圧力測定ステップと、前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力測定ステップで測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断ステップとを具備することを特徴とするものである。
【0015】
この材料ガス制御システムに用いられるプログラムもまた、本発明の1つである。具体的にこのプログラムは、材料を収容する収容室と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、前記導出管に設けられた第1調整バルブと、前記導出管を流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、前記測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御部と、前記収容室内の圧力を測定する圧力計とを具備する材料ガス制御システムに用いられるプログラムであって、前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力計で測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
従って、本発明によれば、バルブがフルオープン又はフルクローズである場合における材料ガスの測定濃度値や測定流量値が、設定値と略一致する場合であっても、材料ガスの濃度や流量の制御状態が異常であるか否かを診断できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態における材料ガス制御システムの模式的機器構成図。
【図2】同実施形態における材料ガス濃度の制御手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態における材料ガス濃度の制御状態の診断手順を示すフローチャート。
【図4】同実施形態における材料ガス制御システムの制御状態を示すグラフ。
【図5】本発明の他の実施形態における材料ガス制御システムの模式的機器構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態に係る材料ガス制御システム100について、図面を参照して説明する。本実施形態に係る材料ガス制御システム100は、例えば半導体製造装置の一部を構成して、MOCVD装置(有機金属気相成長装置)の成膜室に材料ガスを供給するものであり、より詳しくは、固体の材料MであるTMIn(トリメチルインジウム)に対してキャリアガスであるNを導入し、当該材料Mを気化させて材料ガスとし、前記材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを供給するものである。
【0019】
図1に示すように、前記材料ガス制御システム100は、材料Mを収容する収容室10と、前記収容室10に一端が開口して、前記収容室10にキャリアガスを導入する導入管20と、前記収容室10に一端が開口して、前記収容室10から前記材料Mが気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管30と、前記収容室10内の温度を測定する温度計60と、前記収容室10を所定温度に保つ恒温槽61とを具備している。前記導入管20の他端は、キャリアガス供給機構(図示しない)に接続してあり、前記導出管30の他端は前記MOCVD装置の成膜室(図示しない)に接続してある。さらに、前記導出管30には濃度制御器40(請求項でいう材料ガス制御器に相当する)が設けられ、前記導入管20には流量制御器50が設けてある。
【0020】
前記濃度制御器40は、前記収容室10から導出される混合ガス中の材料ガスの濃度を制御するものであり、大きくは機器部41及びその機器部41に係る演算処理を行う演算部42からなる。機器部41は、前記収容室10内の材料ガスの分圧を測定する分圧計43と、前記収容室10内の圧力(全圧)を測定する圧力計44と、前記導出管30における前記分圧計43及び前記圧力計44よりも下流側に設けられ、開度を調整して前記収容室10の圧力を調整し、前記収容室10から導出される混合ガスの濃度を調整する第1調整バルブ45とを具備している。
【0021】
また、前記分圧計43及び前記圧力計44は、導出管30を流通する混合ガス中の材料ガスの濃度を測定する濃度計49(請求項でいう測定計に相当する)としても機能する。前記濃度計49は、前記分圧計43で測定した測定分圧値と、前記圧力計44で測定した測定圧力値とを用いて、材料ガスの濃度を式(1)によって算出する。
C=Pz/Pt ・・・(1)
但し、Cは材料ガスの濃度、Pzは材料ガスの分圧、Ptは収容室10の全圧である。
【0022】
演算部42は、汎用又は専用のコンピュータであり、メモリに所定のプログラムを格納し、当該プログラムに従ってCPUやその周辺機器を協働動作させることによって、第1バルブ制御部46及び診断部47としての機能を発揮する。
【0023】
第1バルブ制御部46は、前記濃度計49で測定した測定濃度値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブ45に開度制御信号(ここでは第1調整バルブ45に印加される電圧信号)を出力するものである。
【0024】
診断部47は、前記開度制御信号の値の時間変化量(以下、第1時間変化量ともいう)と、前記圧力計44で測定した測定圧力値の時間変化量(以下、第2時間変化量ともいう)とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度の制御状態が異常であると診断するものであり、より具体的には、前記診断部47は、前記開度制御信号の値が単位時間あたりで実質的に変化しており、かつ、前記測定圧力値の時間変化量が実質的に0である場合に、前記制御状態が異常であると診断するものである。
【0025】
さらに、この実施形態では、演算部42が温度制御部48を具備している。前記温度制御部48は、前記診断部47が、前記制御状態が異常であると診断した場合に、前記収容室10内を加熱又は冷却する温度制御信号を前記恒温槽61に出力するものである。
【0026】
前記流量制御器50は、前記収容室10に導入されるキャリアガスの流量を制御するものであり、ここではMFC(マスフローコントローラ)である。流量制御器50は、前記導入管20を流通するキャリアガスの流量を測定する流量計51と、開度を調整して前記収容室10に導入されるキャリアガスの流量を調整する第2調整バルブ52とを具備している。
【0027】
次に、前記材料ガス制御システム100の動作手順について説明する。まず、図2のフローチャートを参照して、材料ガスの濃度を制御する手順について説明する。はじめに、第1バルブ制御部46は、設定濃度値を受け付けるとともに、温度計60で測定された測定温度値から、材料ガスの飽和蒸気圧を算出し、その飽和蒸気圧を材料ガスの測定分圧値として格納する。なお、分圧計43で直接分圧値を測定してもよい。さらに、式(2)によって、設定濃度値及び測定分圧値から、目標圧力値を算出する(ステップS1)。
Pt=Pz/C ・・・(2)
但し、Cは材料ガスの濃度、Pzは材料ガスの分圧、Ptは収容室10の全圧である。
【0028】
次に、第1バルブ制御部46は、前記圧力計44で測定された測定圧力値を受け付け、その測定圧力値と前記目標圧力値とを比較する(ステップS2)。測定圧力値が目標圧力値よりも大きければ、前記第1調整バルブ45を開ける開度制御信号を出力し(ステップS3)、収容室10の圧力を下げ、材料ガスの濃度値を上げる。測定圧力値が目標圧力値よりも小さければ、前記第1調整バルブ45を閉める開度制御信号を出力して(ステップS4)、収容室10の圧力を上げ、材料ガスの濃度値を下げる。
【0029】
次に、第1バルブ制御部46は、分圧計43で測定した測定分圧値を受け付け、式(2)によって目標圧力値を算出する(ステップS5)。ステップS2〜S4と同様に、測定圧力値及び目標圧力値を比較し(ステップS6)、比較結果に応じて、第1調整バルブ45を開閉する開度制御信号を出力して(ステップS7、S8)、材料ガスの濃度値を設定濃度値に近づける。
【0030】
上述した材料ガス濃度制御フローと並行して、材料ガス濃度制御状態診断フローが進行する。図3のフローチャートに示すように、まず、前記診断部47は、前記第1制御バルブに出力される開度制御信号の値から第1時間変化量を算出するとともに、圧力計44で測定した測定圧力値から第2時間変化量を算出する(ステップS9)。なお、ここでは、開度制御信号の値と、測定圧力値とを1秒間隔で取得し、直前の10個の値を直線近似して、前記各時間変化量を算出している。
【0031】
次に、診断部47は、前記開度制御信号の値が単位時間あたりで実質的に変化しており、かつ、第2時間変化量が実質的に0であるという条件を満たすか否かを判定し(ステップS10)、前記条件を満たす場合に、材料ガス濃度の制御状態が異常であると判断して、アラーム信号を温度制御部48に出力する(ステップS11)。
【0032】
温度制御部48は、第1時間変化量が正負のいずれであるか判定する(ステップS12)。正であれば、前記第1調整バルブ45がフルオープン状態であると判定し、前記収容室10内を所定温度加熱する温度制御信号を、前記恒温槽61に出力して(ステップS13)、材料ガスの分圧を上げ、材料ガスの濃度を上げる。負であれば、前記第1調整バルブ45がフルクローズ状態であると判定し、前記収容室10内を所定温度冷却する温度制御信号を、前記恒温槽61に出力して(ステップS14)、材料ガスの分圧を下げ、材料ガスの濃度を下げる。
【0033】
本実施形態に係る材料ガス制御システム100を用いて材料ガス濃度を制御した一例を示すグラフを図4に示す。図4(a)に示すように、収容室10が28度に保たれている間は、測定濃度値は設定濃度値に略一致している。しかしながら、図4(b)に示すように、その間、開度制御信号に相当するバルブ電圧値は上昇し続けており、第1調整バルブ45を開いて圧力を下げようとしているが、測定圧力値はほとんど下がっておらず、材料ガス濃度の制御状態が異常であることが分かる。
【0034】
従って、診断部47が制御状態は異常であると判断し、温度制御部48が収容室10の温度を上昇させる。その結果、図4(c)に示すように、収容室10が28度に保たれている場合よりも、収容室が32度に保たれている場合の方が、より正確に測定圧力値が設定濃度値に略一致している。また、図4(d)に示すように、測定圧力値の時間変化量は、バルブ電圧値の時間変化量に対応しており、制御状態が正常であることが分かる。
【0035】
このようなものであれば、前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記制御状態が異常であると前記診断部47が診断するので、例えば前記第1調整バルブ45がフルオープン又はフルクローズとなっており、前記収容室10内の圧力が制御できなくなり、前記材料ガスの濃度が制御できなくなっているのにもかかわらず、前記第1バルブ制御部46が、前記第1調整バルブ45を更に開閉させようとしている場合に、制御状態が異常であると診断することができる。しかも、従来では制御状態の可否の判断が困難である、第1調整バルブ45がフルオープン又はフルクローズである場合における材料ガスの測定濃度値や測定流量値が、設定値と略一致する場合であっても、材料ガスの濃度や流量の制御状態が異常であるか否かを診断できる。結果として、材料ガスの濃度や流量を設定値に保つことができ、例えば材料ガスを用いて製造される半導体ウェハの歩留まりを向上できる。
【0036】
また、前記診断部47は、前記濃度制御器40の第1調整バルブ45に出力される開度制御信号の値と、前記濃度制御器40の圧力計44で測定した測定圧力値を用いて、前記制御状態を診断するとともに、前記診断部47は前記濃度制御器40の一部を構成するので、前記濃度制御器40単体で、材料ガス濃度の制御状態を自己診断することができる。従って、システム全体を交換することなく、従来の材料ガス制御システム100の導出管30に前記濃度制御器40を取り付けるだけで、前記制御状態を診断することができる。
【0037】
なお、本発明はこれらの実施形態に限られるものではない。例えば、本実施形態では、材料ガス制御器は、材料ガスの濃度を制御する濃度制御器としたが、材料ガスの流量を制御するものとしてもよい。具体的に説明する。図5に示すように、材料ガス制御器40の第1バルブ制御部46が、流量制御器50の流量計51で測定したキャリアガスの測定流量値を受け付けるとともに、本実施形態と同様に材料ガスの濃度を算出する。
【0038】
ここで、材料ガスの流量には、式(3)及び式(3)を変形した式(4)で示す関係が成り立つ。
C=Pz/Pt=Qz/(Qc+Qz) ・・・(3)
Qz=QcC/(1−C) ・・・(4)
但し、Cは材料ガスの濃度、Pzは材料ガスの分圧、Ptは収容室の全圧、Qzは材料ガスの流量、Qcはキャリアガスの流量である。
【0039】
第1バルブ制御部46は、式(4)によって、キャリアガスの測定流量値及び材料ガスの測定濃度値から、材料ガスの測定流量値を算出し、その測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブ45に開度制御信号を出力する。
【0040】
また、キャリアガスの測定流量値を及び測定濃度値を用いて材料ガスの流量を算出するのではなく、前記材料ガス制御器に、前記導出管に流通する混合ガスの流量を測定し、混合ガスの測定流量値及びキャリアガスの測定流量値の差分から、前記混合ガス中の前記材料ガスの流量を測定する測定計を設けてもよい。
【0041】
加えて言えば、材料ガスの濃度又は流量のいずれか一方ではなく、材料ガスの濃度及び流量の両方を制御するようにしてもよい。例えば、導出管に設けられた材料ガス制御器は、本実施形態と同様に材料ガスの濃度を制御する濃度制御器とし、導入管に設けられた流量制御器は、材料ガスの流量を制御するものとすればよい。
【0042】
具体的には、流量制御器が第2バルブ制御部を具備し、その第2バルブ制御部が、式(4)によって、キャリアガスの測定流量値及び材料ガスの測定濃度値から材料ガスの測定流量値を算出するとともに、材料ガスの設定流量値を受け付ける。さらに、第2バルブ制御部は、材料ガスの測定流量値が設定流量値となるように、前記第2調整バルブに開度制御信号を出力する。
【0043】
さらに、本実施形態では、前記診断部が、前記制御状態が異常であると診断した場合に、前記収容室の温度を変化させる温度制御部を設けるようにしたが、前記収容室内に導入されるキャリアガスの流量を増加又は減少させる第2バルブ制御部を設けてもよいし、診断部が出力したアラーム信号を受け付け、音や光等を発してオペレータに報知する報知部を設けてもよい。
【0044】
前記診断部が、第1時間変化量及び第2時間変化量の差分が予め定められた所定値を超えた場合に、前記制御状態が異常であると診断するようにしてもよい。
【0045】
前記温度制御部は、所定温度に達するまで、段階的に温度を変化させるものとしたが、連続的に温度を変化させるものとしてもよい。また、前記温度制御部が、収容室を所定温度加熱又は冷却するのではなく、前記各時間変化量が前記所定条件を満たさなくなり、前記制御状態が正常であると診断されるまで、収容室を加熱又は冷却するようにしてもよいし、正常と診断された時点での温度から所定値高い又は低い温度まで、収容室を加熱又は冷却するようにしてもよい。第1時間変化量及び第2時間変化量、又は各時間変化量の差分に基づいて、加熱又は冷却する温度の値を算出するようにしてもよい。
【0046】
また、キャリアガスはNであるとしたが、これに限られるものではなく、H等の不活性化ガスを用いてもよい。また、前記材料は固体としたが、液体(材料液)としてもよい。その場合、図5に示すように、前記導入管20の一端が収容室10内の液相空間Mに開口し、前記導出管30の一端が収容室10内の気相空間Aに開口するものが望ましい。
【0047】
また、圧力計及び測定計(濃度計)は導出管に設けられるものとしたが、収容室に設けるものとしてもよい。また、本発明は、半導体の製造プロセスだけではなく、半導体の洗浄プロセスにおいて用いてもよいし、FPD(フラットパネルディスプレイ)、光デバイス、MEMS(微小電気機械素子)等の製造プロセスにおいて用いてもよい。その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0048】
100・・・材料ガス制御システム
10・・・収容室
20・・・導入管
30・・・導出管
40・・・材料ガス制御器(濃度制御器)
44・・・圧力計
45・・・第1調整バルブ
46・・・第1バルブ制御部
47・・・診断部
49・・・測定計(濃度計)
M・・・材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料を収容する収容室と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、
前記導出管に設けられた第1調整バルブと、
前記導出管を流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、
前記測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御部とを具備する材料ガス制御システムであって、
前記収容室内の圧力を測定する圧力計と、
前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力計で測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部とを具備することを特徴とする材料ガス制御システム。
【請求項2】
前記診断部が、前記開度制御信号の値が単位時間あたりで実質的に変化しており、かつ、前記測定圧力値の時間変化量が実質的に0である場合に、前記制御状態が異常であると診断する請求項1記載の材料ガス制御システム。
【請求項3】
前記診断部が、前記制御状態が異常であると診断した場合に、前記収容室内を加熱又は冷却する温度制御部を具備する請求項1又は2記載の材料ガス制御システム。
【請求項4】
前記導入管に設けられた第2調整バルブと、
前記診断部が、前記制御状態が異常であると診断した場合に、第2調整バルブの開度を制御して、前記収容室内に導入されるキャリアガスの流量を増加又は減少させる第2バルブ制御部とを具備する請求項1乃至3いずれかに記載の材料ガス制御システム。
【請求項5】
材料を収容する収容室と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管とを具備する材料ガス制御システムに用いられて、材料ガスの濃度又は流量を制御する材料ガス制御器であって、
前記導出管に設けられた第1調整バルブと、
前記導出管を流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、
前記測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御部と、
前記収容室内の圧力を測定する圧力計と、
前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力計で測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部とを具備することを特徴とする材料ガス制御器。
【請求項6】
材料を収容する収容室と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、
前記導出管に設けられた第1調整バルブとを具備する材料ガス制御システムの制御方法であって、
前記導出管に流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する材料ガス測定ステップと、
前記材料ガス測定ステップで測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御ステップと、
前記収容室内の圧力を測定する圧力測定ステップと、
前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力測定ステップで測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断ステップとを具備することを特徴とする材料ガス制御方法。
【請求項7】
材料を収容する収容室と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室にキャリアガスを導入する導入管と、
前記収容室に一端が開口して、前記収容室から前記材料が気化した材料ガス及び前記キャリアガスからなる混合ガスを導出する導出管と、
前記導出管に設けられた第1調整バルブと、
前記導出管を流通する前記混合ガス中の前記材料ガスの濃度又は流量を測定する測定計と、
前記測定計で測定した測定濃度値又は測定流量値が、予め定められた設定値となるように、前記第1調整バルブに開度制御信号を出力する第1バルブ制御部と、
前記収容室内の圧力を測定する圧力計とを具備する材料ガス制御システムに用いられるプログラムであって、
前記開度制御信号の値の時間変化量と、前記圧力計で測定した測定圧力値の時間変化量とが、予め定められた所定条件を満たす場合に、前記材料ガスの濃度又は流量の制御状態が異常であると診断する診断部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−138406(P2012−138406A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288183(P2010−288183)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000127961)株式会社堀場エステック (88)
【Fターム(参考)】