説明

材料健全性評価装置

【課題】超音波及びAE検出を利用した検出感度のすぐれたファイバを超音波伝搬路として利用する材料健全性評価装置を実現する。
【解決手段】圧電超音波発振子4と、圧電超音波発振子4に一端が取り付けられた超音波ガイド光ファイバ2と、被検体5に伝達された超音波の伝搬状況を測定する測定手段とから成る材料健全性評価装置であり、圧電超音波発振子4は、発生した超音波を上記超音波ガイド光ファイバ2に伝達させ、超音波ガイド光ファイバ2は、その一部が健全性評価対象となる被検体5の内部または表面に取り付けられ、超音波は被検体5に伝達するものであり、 測定手段は、超音波の伝搬状況により被検体5中の欠陥の存在の有無を検査可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバを超音波伝搬路として利用する材料健全性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造物の欠陥検出、損傷発生監視などに超音波を利用した非破壊検査が行われている。従来、超音波を利用した構造体の非破壊検査は超音波を被検体に発生させる手段として次の三つの手段が用いられている。
【0003】
(1)圧電超音波発振子
この圧電超音波発振子は、超音波発振子には圧電素子が用いられているものであり、被検体内部、または表面に取り付けられて用いられるものである(特許文献1参照)。この手段は、圧電超音波発振子に電気信号を与えた場合、圧電効果によりその信号に対応した変位が発生し、圧電素子を取り付けた被検体に超音波が発生する。
【0004】
超音波発振子には任意の超音波励起信号を入力することができることから、発振超音波の周波数、波形を制御することができる。このため圧電素子を用いる超音波励起方式では多様な波形の超音波を発生させることができる。
【0005】
(2)レーザを用いる超音波発生手段
この超音波発生手段は、レーザなどを用いて被検体にスポット状の熱源を発生させ、それによって超音波を発生させる手段である(特許文献2参照)。レーザを用いる超音波発生手段では、被検体と非接触で超音波を励起することができるため高温環境下において、かつ被検体の形状に関係なく超音波を発生することができる。
【0006】
(3)EMAT(ElectroMagnetic Acoustic Transducer)
EMATは、電磁誘導を利用して被検体に超音波を発生させるを用いる手段である(特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2005−241611号公報
【特許文献2】特開2001−165643号公報
【特許文献3】特開2005−214686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記圧電超音波素子は、圧電機能を有さなくなる限界温度(キュリー温度の半分程度で、大半の圧電素子の限界温度は180℃程度)があり、被検体が限界温度を越える高温環境下においては超音波を発振することができない。また圧電素子は形状の柔軟性が乏しいことから圧電素子を取り付けることが困難な複雑形状の被検体への超音波発振はできない。
【0008】
上記レーザを用いる超音波発生手段ではパルスレーザを照射して超音波を発生させるため、パルス信号で励起された超音波しか発生することができない。このため発振させる超音波の周波数や波形を制御することができず、欠陥がもたらす超音波応答の周波数依存性を利用した非破壊検査手法を適用することができない。
【0009】
EMATを利用した超音波発振手段は、非接触、かつ発振させる超音波の周波数や波形を制御できる利点があるが、超音波を発振させる被検体が磁性材料のみに限られる。近年、比剛性・比強度が高いことから航空・宇宙構造物への適用が拡がっている繊維強化プラスティックスへの超音波発振にEMATを利用することはできない。
【0010】
以上、従来の超音波発振手段に関する問題点を述べたが、超音波受信においても接触型の場合、圧電素子の使用限界温度では超音波の受信が出来ない。非接触の場合、レーザ干渉法を利用して超音波を受信することができるが装置が高価なことや振動を最小限に抑える必要があること、被検体の表面が鏡面であることなどの制限があり、実用的には多くの制限がある。またEMATにおいては超音波発振と同様に被検体が磁性材料である制限を受ける。
【0011】
近年、電磁波障害を受けない光ファイバセンサを利用して構造体の健全性を評価する技術が注目されている。中でもFBG(ファイバ・ブラッグ・グレーティング)センサは高感度に超音波検出が可能なことから超音波を利用した健全性評価システムに適用するセンサとして期待されている。
【0012】
FBGセンサは、光ファイバ軸方向に強い超音波検出指向性があり、光ファイバ軸方向に対して垂直方向から伝搬してくる超音波に対しての検出感度は低い。またFBGの反射率は500℃を超える高温で時間とともに低下し、センサとしての機能を果たさなくなる問題がある。
【0013】
また、FBGを用いた超音波及びAE検出において、FBGを被検体内部に埋め込む、または表面に貼り付けた場合、被検体が受けるひずみ、または温度変化に応じてFBGの反射波長が変動する。FBGを用いた超音波検出においては検出感度を高めるため、超音波及びAE検出システムとしてレーザ光源を用いた場合、レーザ発振波長を常にFBGの反射率が半減する波長に設定する必要がある。
【0014】
また、広帯域光源とフィルタとの組合せによる超音波及びAE検出システムを用いた場合はFBGのブラッグ波長に合わせて常に検出感度が最大になるようにフィルタ動作点を変動させる必要がある。
【0015】
本発明は、上記従来の超音波を利用した構造体の非破壊検査の問題点を解決することを目的とする光ファイバを超音波伝搬路として利用する材料健全性評価装置を実現するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は上記課題を解決するために、圧電超音波発振子と、該圧電超音波発振子に一端が取り付けられた超音波ガイド光ファイバと、被検体に伝達された超音波の伝搬状況を測定する測定手段とから成る材料健全性評価装置であって、前記圧電超音波発振子は、発生した超音波を上記超音波ガイド光ファイバに伝達させ、該超音波ガイド光ファイバは、その一部が健全性評価対象となる被検体の内部または表面に取り付けられ、前記超音波は被検体に伝達するものであり、前記測定手段は、前記超音波の伝搬状況により被検体中の欠陥の存在の有無を検査可能とすることを特徴とする材料健全性評価装置を提供する。
【0017】
前記超音波ガイド光ファイバは、前記した被検体への超音波送信に加えて被検体からの超音波、またはAEを受信する機能を有し、前記被検体を伝搬する超音波、またはAEを超音波ガイド光ファイバに伝搬させ、前記測定手段は、前記被検体への超音波送信に加えて、被検体の超音波、またはAEの伝搬状況により被検体中の欠陥の存在の有無を検査可能とすることが好ましい。
【0018】
前記超音波ガイド光ファイバには、圧電超音波センサが取り付けられている構成とすることが好ましい。
【0019】
前記超音波ガイド光ファイバは、その一部にFBGが形成され、該FBGは、前記超音波で生じる反射波長変動を生じさせる構成とすることが好ましい。
【0020】
前記超音波ガイド光ファイバにおけるFBGを設けた領域は、中空容器で囲まれており、該中空容器を密閉するために用いるカップラントを介して、前記被検体を伝搬する超音波及びAEが前記超音波ガイド光ファイバに伝えられる構成とすることが好ましい。
【0021】
前記超音波ガイド光ファイバにおけるFBGが形成された領域が前記被検体と同じ雰囲気内に配置されてブラッグ波長を計測することで、該被検体の置かれた雰囲気温度を測定可能とする構成とすることが好ましい。
【0022】
前記超音波ガイド光ファイバは複数本設けられており、該複数本の超音波ガイド光ファイバは、被検体に複数の異なる方向で被検体に取り付けられ、超音波及びAEの検出の指向性を広げる構成とされており、前記圧電超音波センサ又は前記FBGは、複数本の超音波ガイド光ファイバにそれぞれ取り付ける、または設けられている構成、若しくは複数本の超音波ガイド光ファイバの他端がカップラントにより一つにまとめられ取り付ける、または設けられている構成とすることが好ましい。
【0023】
前記超音波ガイド光ファイバは、被検体よりも超音波音速の低い材質からなる取付け具に超音波ガイド光ファイバを円形状に取り付けることにより、超音波及びAE検出の指向性を全方位に広げる構成とすることが好ましい。
【0024】
前記被検体に取り付けられた複数の超音波ガイド光ファイバは、それぞれAE到達時間を検出し、該AE到達時間差から欠陥発生箇所を標定される構成とすることが好ましい。
【0025】
前記超音波ガイド光ファイバに加えて、前記被検体に取り付けられる超音波送受信ガイド光ファイバが設けられており、該超音波送受信ガイド光ファイバの超音波伝搬状況を前記測定手段で測定することにより、被検体の健全性を評価する構成とすることが好ましい。
【0026】
前記超音波は、レーザまたはEMATを超音波励起源として発生させられる構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は上記解決手段から成る本発明によれば、次のような効果が生じる。
(1)本発明では、光ファイバを超音波ガイド(伝送路)として利用し、圧電素子から発振させた超音波を光ファイバを介して被検体に伝搬させ、また、被検体を伝搬する超音波及びAEを被検体に取り付けた光ファイバに伝搬させる。
【0028】
このように、光ファイバを超音波ガイドとして利用することにより、被検体の材質、温度、形状に関わらず被検体に超音波を発生させることが出来る、または被検体を伝搬する超音波及びAEを検出することができる。この技術は超音波及びAEを利用した被検体の健全性評価に利用することができる。
【0029】
(2)複数の方向の異なる超音波ガイド光ファイバを被検体に取り付けることにより超音波及びAE検出の指向性を広げることができる。そのとき超音波ガイド光ファイバを接着剤、接着テープ、またはグリースをカップラントとして用い、接触させることによりそれぞれの超音波ガイド光ファイバに伝搬する超音波及びAEを合成させることができ、一個の超音波センサにより指向性を広げて超音波及びAEを検出することができる。
【0030】
(3)また、被検体よりも超音波音速の低い材質からなる取付け具に超音波ガイド光ファイバをループ状に取り付けて、その取付け具を被検体に接触させると被検体を伝搬する全方向の超音波及びAEを超音波ガイド光ファイバに伝達させることができる。
【0031】
(4)また、被検体に直接FBGを接触させないことからFBGのセンサとしての機能を失うような高温においても被検体を伝搬する超音波及びAEを検出することができる。
【0032】
(5)また、FBGを被検体に接触させずに超音波及びAE検出が可能なことから、FBGの反射特性が被検体の温度、ひずみに影響されない。このため、FBG超音波検出システムのレーザ発振波長やフィルタ動作点補正を行うことなく、超音波及びAE検出感度を最大に保った状態で超音波及びAEを検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明に係る材料健全性評価装置の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して、以下に説明する。
【実施例1】
【0034】
超音波ガイド光ファイバ2を利用した超音波送受信装置1の実施例1を図1に示す。超音波ガイド光ファイバ2は接着剤、接着テープ、またはグリースなどをカップラント3として圧電超音波発振子4と被検体5に取り付けられている。このとき超音波ガイド光ファイバ2は被検体5の内部に埋め込まれていても同様の機能を果たすことができる。
【0035】
圧電超音波発振子4には、信号発生器6から超音波励起信号が入力され、励起信号に対応した超音波振動が生じる。圧電超音波発振子4に取り付けられた光ファイバ2は超音波振動を他端である被検体5に伝達する。そして被検体5中を伝搬した超音波は圧電超音波センサ7により検出される。
【0036】
圧電超音波センサ7の圧電素子は検出した超音波応答を電圧信号に変換することからオシロスコープなど電気信号収録装置8を用いて被検体5を伝搬した超音波を収録することができる。また圧電超音波センサ7の圧電素子の出力は信号増幅器9を介し、増幅することによりS/N比の高い超音波応答信号を得ることができる。
【0037】
図2には、図1に示す装置において被検体5として大きさ300mm×300mm、厚さ1mmのアルミ板を用い、超音波ガイド光ファイバ2の長さを80、90、105mmとした場合の実験から得られた超音波応答結果を示す。このとき超音波ガイドとしてポリイミドコーティングを施した外径135μmの1550nm帯シングルモード光ファイバを用い、カップラント3としてひずみゲージ用接着剤を用いた。
【0038】
370kHzの5周期トーン・バースト信号を超音波励起信号とし、圧電超音波センサ7は超音波ガイド光ファイバ2軸上に取り付けた。超音波ガイド光ファイバ2が長くなるに従い、応答開始時間が遅れていることが観察され、光ファイバ2による超音波ガイドが機能していることが確認できる。
【0039】
図3(a)は、図1に示した超音波送受信装置の要部を説明する図である。この図において、圧電超音波発振子4から発生した超音波は光ファイバ2を通して被検体5に伝わり、それを圧電超音波センサ7により検出することになる。
【0040】
圧電超音波センサ7の圧電素子は超音波発振とセンサの二つの機能を併せ持つことから、この装置は図3(b)に示すように二つの圧電素子の超音波発振子とセンサの役割を逆にすることができる。つまり被検体5に取り付けた圧電超音波発振子4から超音波を発振させ、被検体5に取り付けた光ファイバ2を通して圧電超音波センサ7で超音波を受信することができる。つまり図3(a)、および図3(b)の二つの構成において光ファイバ2はそれぞれ超音波送信ガイド、および受信ガイドとしての機能を果たす。
【0041】
図4に図3に示した二つの構成から検出された超音波応答信号を示す。この図から超音波ガイド光ファイバ2は超音波送信、受信ガイドとしての両方の機能を持つことが確認できる。つまり図1に示した信号発生側と信号収録側の装置を逆に配置することにより、光ファイバ2を超音波送信、および受信ガイドの機能に切り替えることができる。
【0042】
以上、超音波ガイド光ファイバ2を介して伝達された超音波を圧電超音波センサ7により検出した例を示した。光ファイバ2を伝搬する超音波は光ファイバ2にFBG10を設け、特開2005−009937号公報(広帯域光源と光学フィルタを組み合わせた装置)、または特願2005−326326号公報(波長可変レーザ光源を用いた装置)に記載したFBG超音波検出装置を用いて検出できることができる。
【0043】
FBG10はブラッグ波長を中心に狭帯域の光を反射する性質を持つ。この反射帯域はFBG10のグレーティング長さに依存するが、グレーティング長さ1mm、および10mmのとき、それぞれ約2nm、および0.2nmの反射帯域を有する。FBG10のブラッグ波長はFBG10が受ける温度、およびひずみに応じて変化することが知られている。超音波やAEはkHzオーダを超える高速で微小なひずみ変化を与えることから、超音波ガイド光ファイバ2を伝搬する超音波やAEがFBG10を通過した際、FBG10のブラッグ波長はそれに応じて変動する。
【0044】
波長可変レーザ光源11を用いた場合、ブラッグ波長を中心とした狭帯域光の反射分布の中で反射率が半減する波長のレーザをFBG10に入射する。超音波及びAEがもたらすひずみによりレーザ発振波長における反射率が変動することから、FBG10からの反射光強度はFBG10を通過する超音波及びAEに応じて変化することになる。
【実施例2】
【0045】
図5(a)は、本発明の実施例2の材料健全性評価装置12を説明する図である。この装置では、光源として狭帯域光を放射するレーザを利用している。この装置は、被検体5として用いた大きさ300×300mm、厚さ1mmのアルミ板に図に示すように圧電超音波発振子4と超音波ガイド光ファイバ2を取り付けFBG超音波検出装置の構成とした。超音波ガイド光ファイバ2にはFBG10が書き込まれており、その他端は光サーキュレータ13に接続されている。
【0046】
FBG10の反射率が半減する波長に設定されたレーザ光は光サーキュレータ13を介してFBG10に入射される。FBG10からの反射光は光サーキュレータ13を通して光電変換器14に入射され、光強度は電圧信号に変換され信号収録装置15に記録される。
【0047】
図5(b)に、図5(a)の装置(超音波ガイド光ファイバ2の被検体5とFBG10との距離は120mm)から検出された超音波応答信号を示す。このようにFBG超音波検出装置と超音波ガイド光ファイバ2を組み合わせた装置を用いて超音波を検出することができる。
【0048】
ここでは、レーザを光源とした場合を挙げたが、広帯域光源とFBG反射光をフィルタ処理する装置(特開2005−009937号参照)との組合せにおいても同様に超音波検出ができる。
【0049】
被検体5に直接FBG10を取り付けた場合、その反射率が低下しFBG10のセンサとしての機能が消失するような高温であっても、図5(a)のように超音波ガイド光ファイバ2を利用したときFBG10は高温にならないため、被検体5を伝搬する超音波及びAEを検出することができる。また被検体5が受ける温度・ひずみがFBG10のブラッグ波長変動に及ぼす影響を抑えることができ、超音波検出感度を最大に保持した状態で超音波及びAE検出することが可能になる。
【実施例3】
【0050】
図6は、本発明の実施例3の材料健全性評価装置を説明する図である。図5(a)ではFBG10の位置が超音波ガイド光ファイバ2の被検体5への取り付け部と光サーキュレータ13の間にあるが、図6のように、この実施例3では、被検体5の取り付け位置から超音波ガイド光ファイバ2の終端部の間にFBG10を設けても同様に超音波及びAE検出機能を有する。またこのように被検体5が置かれた雰囲気と同じ場所にFBG10を設けることにより、温度センサとしての機能を追加することができる。つまりFBG10のブラッグ波長は被検体5に伝搬する超音波及びAE、および温度に応じて変化することになる。
【0051】
超音波及びAEによるブラッグ波長変化は1pm以下と非常に微小なため、その検出には超音波検出装置が必要になるが、温度によるブラッグ波長変化はブラッグ波長が1550nmの場合、1℃あたり約10pmと大きいことから波長計などのブラッグ波長を測定する計測器を用いて被検体5の置かれた雰囲気の温度を計測することができる。
【実施例4】
【0052】
また、図7のように中空容器の中にFBG10を書き込んだ光ファイバ17を接着剤、接着テープやグリースなどのカップラント3を用いて封入することにより、FBG10を保護した超音波及びAE、および温度センサになる。このような構成にした場合、中空容器16内部の光ファイバが超音波ガイド光ファイバ2として機能する。したがって、中空容器16以外の光ファイバ17は超音波送受信に利用されないことから、破断などを保護するための丈夫なジャケットをつけることができ、取り扱いを非常に便利にすることができる。
【実施例5】
【0053】
図8は、実施例5を説明する図である。この実施例5は、光ファイバ2の超音波ガイド機能におけるファイバ軸方向に強い超音波受信指向性を考慮した構成である。図8(a)に示すように圧電超音波発振子4を厚さ1mmのアルミ板上に取り付け、圧電超音波発振子4から150mm離れた箇所に超音波ガイド光ファイバ2を取り付けた。このとき矩形状圧電超音波発振子4長手方向と一致する超音波伝搬方向に対して0°、45°、90°方向の三方向に光ファイバ2をアルミ板に取り付けた。
【0054】
超音波ガイド光ファイバ2の他端には圧電超音波センサ7を貼り付けて、超音波受信感度の指向性を調べた。図中、接着剤を用いて被検体5に貼り付けた超音波ガイド光ファイバ2の箇所を実線で、被検体5に貼り付けていない部分を点線で表した。
【0055】
図8図(b)にそれぞれの方向の超音波ガイド光ファイバ2から検出された超音波応答信号を示す。このように超音波伝搬方向と光ファイバ2の軸方向が一致した0°方向の光ファイバ2から検出された応答強度がもっとも高く、続いて45°方向の感度が高く、超音波伝搬方向と垂直に貼り付けた90°方向の光ファイバ2から検出された超音波応答強度は最も低い。
【0056】
また0°、45°、90°方向の光ファイバ2と接触させた圧電超音波センサ7の応答信号を加算して得られる信号は超音波検出の指向性を広げた応答信号に対応する。
【実施例6】
【0057】
図9(a)は、実施例6を説明する図である。この実施例6は、この図9(a)に示すように、図8(a)における0°、45°、90°方向の光ファイバ2の端部をカップラント3を用いて接触させ、一つの圧電超音波センサ7に取り付ける。この圧電超音波センサ7から検出された応答信号を図8(b)の一番上に示す。
【0058】
このときカップラント3としてはひずみゲージ用接着剤を用いた。このように異なる方向に取り付けた複数の超音波ガイド光ファイバ2を伝搬してきた超音波をまとめて一つの圧電センサで検出することにより広い指向性を有する超音波ガイド光ファイバ2としての機能を持たせることができる。
【0059】
これは、超音波検出の指向性を広げる手段としては、前記0°、45°、90°方向の光ファイバ2と接触させた圧電超音波センサ7の応答信号を加算して得られる信号は超音波検出の指向性を広げた応答信号に対応する例よりも圧電超音波素子の数を少なくすることができる。
【0060】
この場合、超音波検出センサ7としてFBG10を用いる場合、図9(b)のようにそれぞれの超音波ガイド光ファイバ2の一部をカップラント3で接触させることにより、それぞれの超音波ガイド光ファイバ2に伝搬する超音波を合成することができる。
【0061】
そして、一本の超音波ガイド光ファイバ2に設けたFBG10を用いて合成された超音波を検出することができる。またそれぞれの超音波ガイド光ファイバ2にFBG10を書き込み、それぞれのFBG10センサから得られる応答を加算しても同様な機能を得ることができる。
【0062】
以上の例では超音波検出のみを取り上げているが、材料の欠陥発生時に生じるAEも同様にして検出することができる。
【実施例7】
【0063】
図10は、実施例7を説明する図である。この実施例7は、超音波ガイド光ファイバを、被検体5よりも超音波音速の低い材質の超音波ガイド光ファイバ取り付具18に取り付けるようにしたものである。被検体5を伝搬する超音波及びAEは音速の低い物質に流入することから、超音波ガイド光ファイバ2に到達する。超音波ガイド光ファイバ2をループ状に取付け具に取り付けた場合、全方位から伝搬してくる超音波及びAEを超音波ガイド光ファイバ2が受信することが出来ると考えられる。
【0064】
もし超音波ガイド光ファイバ取付け具18を用いずに直接、超音波ガイド光ファイバ2を被検体5にループ状に貼り付けた場合は、被検体5に接触している箇所から超音波及びAEは光ファイバ2に流入してくるが、同時に流出することが考えられる。このため全方位指向性を有さない超音波及びAE検出超音波ガイド光ファイバになると考えられる。
【0065】
(実験例)
本発明の材料健全性評価装置の健全性評価に関する実験例を図11に示す。この実験例では、大きさ300×300mm、厚さ1mmのアルミ板に圧電超音波発振子4と超音波ガイド光ファイバ2を取り付け、圧電超音波発振子4と超音波ガイド光ファイバ2を結ぶ直線上に欠陥がない場合(図11(a))、長さ18mm、幅2mmのスリット19による欠陥(スリット欠陥)を導入した場合(図11(b))の超音波ガイド光ファイバ2の他端に取り付けた圧電超音波センサ(図示せず。)から検出された超音波を比較した。
【0066】
図11(c)に示すようにスリット19がない場合と比較して、スリット19を導入後の応答は超音波がスリット19を迂回することによる応答時間遅れと超音波応答減衰が観察される。このように超音波ガイド光ファイバ2を用いて超音波を利用した構造体の欠陥検出を行うことができる。
【実施例8】
【0067】
図12は、実施例8を説明する図である。この実施例8の材料健全性評価装置は、超音波ガイド光ファイバ2を用いた欠陥発生箇所20の位置標定可能とするものである。被検体5の複数個所に超音波ガイド光ファイバ2を取り付け、被検体5に発生するAEを光ファイバ2で受信できるようにする。超音波ガイド光ファイバ2のもう一方の端部に超音波センサに取り付ける。
【0068】
センサの応答波形を収録し、応答波形の到達時間差を調べることにより、AE発生源となった欠陥発生箇所20の位置標定を行うことができる。なお、この実施例8では、図11(a)に示す圧電超音波センサ7を用いてAE検出を行っているが、FBG超音波検出装置を用いても同様の機能を果たすことができる。
【実施例9】
【0069】
図13は、実施例9を説明する図である。この実施例9の材料健全性評価装置は、被検体5には超音波ガイド光ファイバ2のみを取り付け、光ファイバ2のみにより超音波送受信を行い健全性評価装置とすることもできるものである。この場合、被検体5の温度・形状・材質に関わらず超音波送受信を行うことができる。
【0070】
図13で示す実施例9では、超音波送受信ガイドは一対のみであるが、複数対の超音波ガイド光ファイバ2を超音波送受信ガイドとして設けることにより広域な範囲を検査する健全性評価装置を構築することができる。また図13中、圧電超音波センサ7を用いて超音波検出を行っているが、FBG超音波検出装置を用いても同様の機能を果たすことができる。
【実施例10】
【0071】
図14は、実施例10を説明する図である。この実施例10は、レーザを超音波励起源に用いた超音波発振方式と超音波ガイド光ファイバ2の組合せによる健全性評価装置の例を示す。超音波励起レーザ光源21からレーザを発振させることにより被検体5に超音波を発生させ、被検体5を伝搬する超音波を超音波ガイド光ファイバ2により受信し、後段に設けた圧電超音波センサ7で検出する。このとき被検体5が磁性材料であるならばEMATを用いて超音波励起してもよい。
【0072】
この実施例10の材料健全性評価装置では、レーザ、およびEMATによる超音波励起は、超音波ガイド光ファイバ2による超音波送信よりもより強力な超音波を発生することができる利点がある。また図14中、圧電超音波センサ7を用いて超音波検出を行っているが、FBG超音波検出装置を用いても同様の機能を果たすことができる。
【0073】
以上、本発明に係る材料健全性評価装置の最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されることなく、特許請求の範囲記載の技術的事項の範囲内で、いろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、以上のような構成であるから、建築構造物、橋梁や道路などのインフラストラクチャー、輸送機、エネルギープラントなど、その信頼性確保のためにその健全性が定期的に、または常時監視するべき構造物の非破壊検査手段としての利用が最適である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施例1を説明する図であり、超音波ガイド光ファイバ2を利用した超音波送受信装置を示す図である。
【図2】図1の超音波送受信装置において、超音波ガイド光ファイバ2の長さを変化させた場合の応答信号を示す図である。
【図3】図1の要部を示す図であり、超音波送信ガイドおよび受信ガイドとして光ファイバ2の使用できることを説明する図である。
【図4】光ファイバ2を、図3に示すように、超音波送信ガイドおよび受信ガイドとして利用した場合の超音波応答信号を示す図である。
【図5】本発明の実施例2のFBG10と超音波ガイド光ファイバ2の組合せによる超音波・AE検出を説明する図である。
【図6】本発明の実施例3のFBG10と超音波ガイド光ファイバ2の組合せによる超音波・AE検出を説明する図である。
【図7】本発明の実施例4のFBG10と超音波ガイド光ファイバ2の組合せによる超音波・AE検出装置を説明する図である。
【図8】本発明の実施例5を説明する図であり、超音波ガイド光ファイバ2による超音波検出の指向性について説明する図である。
【図9】本発明の実施例6を説明する図であり、複数の超音波ガイド光ファイバ2を伝搬する超音波を一つのセンサで検出する仕組みを説明する図である。
【図10】本発明の実施例7を説明する図であり、超音波ガイド光ファイバ2による超音波検出の指向性を拡大するための仕組みを説明する図である。
【図11】本発明の実験例を説明する図である
【図12】本発明の実施例8を説明する図であり、超音波ガイド光ファイバ2を利用した欠陥発生箇所の位置標定することを説明する図である。
【図13】本発明の実施例9を説明する図であり、超音波ガイド光ファイバ2を超音波送受信ガイドに用いた健全性評価装置を説明する図である。
【図14】本発明の実施例10を説明する図であり、レーザを超音波励起源とした健全性評価装置を説明する図である。
【符号の説明】
【0076】
1 超音波送受信装置
2 超音波ガイド光ファイバ
3 カップラント
4 圧電超音波発振子
5 被検体
6 信号発生器
7 圧電超音波センサ
8 信号収録装置
9 信号増幅器
10 FBG
11 波長可変レーザ光源
12 材料健全性評価装置
13 光サーキュレータ
14 光電変換器
15 信号収録装置
16 中空容器
17 光ファイバ
18 超音波ガイド光ファイバ取り付具
19 スリット
20 欠陥発生箇所
21 超音波励起レーザ光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電超音波発振子と、該圧電超音波発振子に一端が取り付けられた超音波ガイド光ファイバと、被検体に伝達された超音波の伝搬状況を測定する測定手段とから成る材料健全性評価装置であって、
前記圧電超音波発振子は、発生した超音波を上記超音波ガイド光ファイバに伝達させ、
該超音波ガイド光ファイバは、その一部が健全性評価対象となる被検体の内部または表面に取り付けられ、前記超音波は被検体に伝達するものであり、
前記測定手段は、前記超音波の伝搬状況により被検体中の欠陥の存在の有無を検査可能とすることを特徴とする材料健全性評価装置。
【請求項2】
前記超音波ガイド光ファイバは、前記した被検体への超音波送信に加えて被検体からの超音波、またはAEを受信する機能を有し、前記被検体を伝搬する超音波、またはAEを超音波ガイド光ファイバに伝搬させ、
前記測定手段は、前記被検体への超音波送信に加えて、被検体の超音波、またはAEの伝搬状況により被検体中の欠陥の存在の有無を検査可能とすることを特徴とする請求項1記載の材料健全性評価装置。
【請求項3】
前記超音波ガイド光ファイバには、圧電超音波センサが取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の材料健全性評価装置。
【請求項4】
前記超音波ガイド光ファイバは、その一部にFBGが形成され、該FBGは、前記超音波で生じる反射波長変動を生じさせることを特徴とする請求項1又は2記載の材料健全性評価装置。
【請求項5】
前記超音波ガイド光ファイバにおけるFBGを設けた領域は、中空容器で囲まれており、該中空容器を密閉するために用いるカップラントを介して、前記被検体を伝搬する超音波及びAEが前記超音波ガイド光ファイバに伝えられることを特徴とする請求項4記載の材料健全性評価装置。
【請求項6】
前記超音波ガイド光ファイバにおけるFBGが形成された領域が前記被検体と同じ雰囲気内に配置されてブラッグ波長を計測することで、該被検体の置かれた雰囲気温度を測定可能とすること特徴とする請求項4又は5記載の材料健全性評価装置。
【請求項7】
前記超音波ガイド光ファイバは複数本設けられており、該複数本の超音波ガイド光ファイバは、被検体に複数の異なる方向で被検体に取り付けられ、超音波及びAEの検出の指向性を広げる構成とされており、
前記圧電超音波センサ又は前記FBGは、複数本の超音波ガイド光ファイバにそれぞれ設けられている構成、若しくは複数本の超音波ガイド光ファイバの他端がカップラントにより一つにまとめられて設けられている構成であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の材料健全性評価装置。
【請求項8】
前記超音波ガイド光ファイバは、被検体よりも超音波音速の低い材質からなる取付け具に超音波ガイド光ファイバを円形状に取り付けることにより、超音波及びAE検出の指向性を全方位に広げる構成としたことを特徴とする請求項2〜7のいずれかに記載の材料健全性評価装置。
【請求項9】
前記被検体に取り付けられた複数の超音波ガイド光ファイバは、それぞれAE到達時間を検出し、該AE到達時間差から欠陥発生箇所を標定されることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の材料健全性評価装置。
【請求項10】
前記超音波ガイド光ファイバに加えて、前記被検体に取り付けられる超音波送受信ガイド光ファイバが設けられており、該超音波送受信ガイド光ファイバの超音波伝搬状況を前記測定手段で測定することにより、被検体の健全性を評価することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の材料健全性評価装置。
【請求項11】
前記超音波は、レーザまたはEMATを超音波励起源として発生させられることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の材料健全性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−240447(P2007−240447A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−66290(P2006−66290)
【出願日】平成18年3月10日(2006.3.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省委託研究「戦略的技術開発(構造物長寿命化高度メンテナンス技術開発)受託者:財団法人エンジニアリング振興協会」からの再委託による「鉄鋼構造物のFBGマルチセンシング非破壊検査技術の開発」に基づく産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】