説明

材料試験機

【課題】 試験片の破断ショックによるピニオン軸両端部への負荷に耐えることが可能なピニオン軸固定構造を備えた材料試験機を提供する。
【解決手段】 ピニオン軸41を中心に向かって互いに付勢する一対の皿ばね46を押さえる押さえ部材70は、上クロスヘッド23にボルト71により固定される。押さえ部材70には、ピニオン軸41の端部の太さに対応する孔部が形成され、この孔部にピニオン軸41の端部が挿入される。このため、押さえ部材70で、ピニオン軸41の端部の周りに配設された皿ばね46を押さえるだけでなく、ピニオン軸41を回転自在な状態で上クロスヘッド23に固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、試験片のつかみ具にチャック機構を備える材料試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、試験片の引張試験や疲労試験等を行う材料試験機では、上クロスヘッドと下クロスヘッドに配設されたつかみ具に試験片を挟持させた状態で、試験片に種々の負荷を与える試験が行われている(特許文献1参照)。このようなつかみ具としては、つかみ歯(チャック)を有するチャックホルダーを備えたくさび式つかみ具と呼称されるつかみ具が使用されている。このつかみ具では、一対のつかみ歯間の間隔が狭くなる試験片の挟持位置で試験片を挟持し、つかみ歯間の間隔が広くなる開放位置で試験片を開放する構成となっている。そして、つかみ歯の挟持位置および開放位置への移動は、チャックを支持するチャックホルダーを上下に移動させることにより行っている(特許文献1および特許文献2参照)。
【0003】
さらに図3および図4を参照して、従来の材料試験機におけるつかみ具について、上クロスヘッドのつかみ具を例に説明する。図3は、従来の材料試験機の上クロスヘッド123の断面図である。従来のつかみ具は、上クロスヘッド123内に形成された孔部53に、それぞれつかみ歯51を配設した一対のくさび型のチャックホルダー52を備え、上クロスヘッド123とチャックホルダー52との間にはライナー54が配設された構成となっている。チャックホルダー52の側面には、ラック57が形成されており、ピニオン軸41にはラック57の歯型に対応するピニオン58が形成されている。このようなラックアンドピニオン構造によりチャックホルダー52は、上クロスヘッド123を貫通するピニオン軸41の回転と同期して、上下移動する。そして、上クロスヘッド123における孔部53はチャックホルダー52のくさび型に対応するテーパー面を有し、ライナー54もテーパー面に沿って傾斜した状態で備えられる。このため、チャックホルダー52の傾斜に沿った上下移動に伴って、つかみ歯51間の間隔が狭くなり試験片を挟持する挟持位置と、つかみ歯51間の間隔が広くなる試験片の開放位置とに移動可能となっている。
【0004】
ピニオン軸41は、上クロスヘッド123に固定された一対の軸受け42に軸支されるとともに、その両端には一対のナットからなるロックナット43が締結される。これにより、ピニオン軸41の軸方向の移動が規制され、ピニオン軸41の上クロスヘッド123からの抜けや、ラック57とピニオン58との噛み合わせ位置のズレが防止される。なお、ロックナット43と軸受け42との間には皿ばね46と菊座金60(ベアリングワッシャー)が介挿されており、ピニオン軸41の一端にはピニオン軸41を回転させるためのハンドル30が配設される。また、クロスヘッド123の上部から軸受け42の摺動部(ブッシュ)に向かって潤滑油を供給するための油穴48が形成されている。
【0005】
図4は、従来の材料試験機における菊座金60を示す説明図である。この菊座金60は、その内側に形成された歯61をピニオン軸41に形成されたキー溝44に噛み合わせるように挿入される。そして、菊座金60を介挿したピニオン軸41の両端をロックナット43で締めた後、ロックナット43側に向かって菊座金60の外側の歯62を変形させる。このようにして、ロックナット43の回転を防止してピニオン軸41の位置を固定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−232710号公報
【特許文献2】特開平7−218406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなつかみ具に試験片を挟持させた状態で試験片に負荷を付与する材料試験では、その試験実行中に試験片が破断した場合には、試験片に加えられていた力が急激に開放される。このため、試験片が、特に上クロスヘッド123に向かって押し上げられる。このときの試験片を上方に移動させる力は、つかみ歯51を介してチャックホルダー52に伝達され、チャックホルダー52が上方に移動し、さらに、このチャックホルダー52の動きに同期してピニオン軸41が回転する。しかしながら、試験力の大きさによっては、チャックホルダー52の動きに同期したピニオン軸41の回転に、ピニオン軸41の両端部まで同期しきれない場合がある。そうすると、ピニオン軸41の両端に締結されたロックナット43およびその付近に回転負荷がかかることになり、菊座金60を破損したり、ロックナット43に緩みが生じる恐れがある。
【0008】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験片の破断ショックによるピニオン軸両端部への負荷に耐えることが可能なピニオン軸固定構造を備えた材料試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は、各々チャック歯を有する一対のチャック部材と、ピニオン軸と、前記チャック部材と前記ピニオン軸の軸受けとを支持する支持部材とを備え、前記チャック部材には前記ピニオン軸の回転と共働して前記チャック部材を移動させるラックが形成され、前記チャック部材を前記チャック部材間の間隔が広くなる試験片の開放位置と、前記チャック部材間の間隔が狭くなる試験片の挟持位置とに移動させて、試験片のつかみ具を開閉させる材料試験機において、前記ピニオン軸の両端部に、当該ピニオン軸を中心に向かって互いに付勢する一対のバネ部材と、前記一対のバネ部材を押さえるための、前記支持部材に固定された押さえ部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記チャック部材に形成されたラックと前記ピニオン軸のピニオンは、はす歯である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1および請求項2に記載の発明によれば、支持部材に固定された押さえ部材を備え、この押さえ部材でピニオン軸の両端の位置を固定することにより、ピニオン軸の両端への回転負荷に対して、ピニオン軸の軸方向のズレを防止することが可能となる。
【0012】
請求項2に記載の発明によれば、はす歯のラックアンドピニオン構造を備えることにより、チャックホルダーの移動を滑らかに行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明に係る材料試験機の平面図および正面図である。
【図2】この発明に係る材料試験機の上クロスヘッド23の断面図である。
【図3】従来の材料試験機の上クロスヘッド123の断面図である。
【図4】従来の材料試験機における菊座金60を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1はこの発明に係る材料試験機の平面図および正面図である。図2は、この発明に係る材料試験機の上クロスヘッド23の断面図である。なお、先に図3を参照して説明した従来の材料試験機と同様の部材については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0015】
この材料試験機は、試験片10に負荷を与えるラムシリンダ18と、ラムシリンダ18により昇降されるテーブル16と、このテーブル16上の対角線位置に立設された一対の支柱15と、一対の支柱15の上端に設けられた上クロスヘッド23と、テーブル15を貫通して支柱15とは異なる対角線位置に立設された一対のねじ棹17と、一対のねじ棹17と螺合するナットを備え、ねじ棹17に対して昇降する下クロスヘッド24とを備える。上クロスヘッド23と下クロスヘッド24には、それぞれつかみ具が内設されおり、試験片10は、その両端をこれらのつかみ具により挟持される。
【0016】
上クロスヘッド23には、後述する上クロスヘッド23を貫通するピニオン軸41が配設され、ピニオン軸41の一端にはピニオン軸41を回転させるためのハンドル30が配設される。なお、このハンドル30は、下クロスヘッド24を貫通するピニオン軸41の一端にも配設されるが、図1においては、下クロスヘッド24のハンドルの図示を省略している。
【0017】
また、一対のねじ棹17は図示しない回転機構に接続されている。回転機構により一対のねじ棹17が同期して回転することにより、下クロスヘッド24は、一対のねじ棹17の軸心方向に昇降する。
【0018】
次に、上クロスヘッド23におけるピニオン軸41の固定構造について説明する。なお、下クロスヘッド24のつかみ具としての構造は、チャックホルダー52を収容するくさび型の孔部が上下反転して形成されている以外はほぼ同様である。
【0019】
図2に示すように、この材料試験機では、従来の材料試験機の上クロスヘッド123のピニオン軸41における菊座金60とロックナット43に換えて、ピニオン軸41を中心に向かって互いに付勢する一対の皿ばね46を押さえる押さえ部材70を備える。
【0020】
この押さえ部材70は、その内部においてチャックホルダー52およびピニオン軸41を支持する支持部材である上クロスヘッド23にボルト71により固定されている。また、押さえ部材70には、ピニオン軸41の端部の太さに対応する孔部が形成され、この孔部にピニオン軸41の端部が挿入される。このため、押さえ部材70で、ピニオン軸41の端部の周りに配設された皿ばね46を押さえるだけでなく、ピニオン軸41を回転自在な状態で上クロスヘッド23に固定することができる。
【0021】
このように、この発明に係る材料試験機では、上クロスヘッド23に固定された押さえ部材70にピニオン軸41の両端を挿入することで、ピニオン軸41の軸方向の動きを規制している。試験片10が試験実行中に破断し、試験片10に加えられていた力が急激解放されたときに、試験片10を上方に移動させる力は、チャックホルダー52からピニオン軸41へと伝達され、ピニオン軸41を回転させる。ここでの試験力が大きく、ピニオン軸41の両端部までチャックホルダー52の動きに同期することができず、ピニオン軸41の両端部に回転負荷がかかったとしても、押さえ部材70は上クロスヘッド23に固定されているため、従来の材料試験機のロックナット43のように破断ショックの回転負荷に耐えられず押さえ部材70が回転することはない。すなわち、このピニオン軸固定構造により、試験片10の破断ショックに起因したピニオン軸41の両端部への回転負荷に耐えることができ、ピニオン軸41の軸方向の位置がズレることを防止できる。
【0022】
また、この材料試験機において、チャックホルダー52の側面に形成されたラック57は、はす歯であり、ピニオン軸41のピニオン58の歯形もこのはす歯に対応する形状となっている。このため、チャックホルダー52を試験片の挟持位置と開放位置とに滑らかに移動させることが可能となる。
【符号の説明】
【0023】
10 試験片
15 支柱
16 テーブル
17 ねじ棹
18 ラムシリンダ
23 上クロスヘッド
24 下クロスヘッド
30 ハンドル
41 ピニオン軸
42 軸受け
43 ロックナット
46 皿ばね
48 油穴
51 つかみ歯
52 チャックホルダー
53 孔部
54 ライナー
57 ラック
58 ピニオン
60 菊座金
70 押さえ部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々チャック歯を有する一対のチャック部材と、ピニオン軸と、前記チャック部材と前記ピニオン軸の軸受けとを支持する支持部材とを備え、前記チャック部材には前記ピニオン軸の回転と共働して前記チャック部材を移動させるラックが形成され、前記チャック部材を前記チャック部材間の間隔が広くなる試験片の開放位置と、前記チャック部材間の間隔が狭くなる試験片の挟持位置とに移動させて、試験片のつかみ具を開閉させる材料試験機において、
前記ピニオン軸の両端部に、当該ピニオン軸を中心に向かって互いに付勢する一対のバネ部材と、前記一対のバネ部材を押さえるための、前記支持部材に固定された押さえ部材と、を備えることを特徴とする材料試験機。
【請求項2】
請求項1に記載の材料試験機において、
前記チャック部材に形成されたラックと前記ピニオン軸のピニオンは、はす歯である材料試験機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−33070(P2013−33070A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−256004(P2012−256004)
【出願日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【基礎とした実用新案登録】実用新案登録第3159932号
【原出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】