説明

材料試験装置及び材料試験方法

【課題】試験片に付与した応力を保持した状態の試験治具を試料室外へ容易に移動し、他の材料試験を可能にした材料試験装置及び材料試験方法を提供する。
【解決手段】試料室内に設置された試料台5に載置される基台部21と、基台部21に設けた可動部22と、基台部21及び可動部の各々に設けた試験片固定部24とを有する試験治具7、及び可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、可動部22を駆動機構から分離し、試験片6を取り付けた状態で試験治具7を試料室内外へ移送する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料室内の試験片に対して材料試験を行う材料試験装置及び材料試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料材料の変形に伴う組織変化を観察することができる走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」)は、特許文献1及び特許文献2等により知られている。これらは、SEMに設置した引張装置に試験片を装着し引張荷重を加えて応力を付与し、試験片の材料変形挙動や歪み状態等をSEM内で観察するものである。
【0003】
上記従来の技術においては、SEMに設置した引張装置は、試料室内の試験片に対し引張荷重を加える駆動機構を備え、試験片を変形させた場合に発生する局所的な組織の変化等を観察している。すなわち、特許文献1の引張装置では、試験片の両端を試験片掴みで掴み、ロードセルにより試験片に引張荷重を加えている。特許文献2の引張装置では、試験片を固定すると共に試料を引張する引張・圧縮機構と、引張・圧縮機構と直交あるいは平行に、引張・圧縮機構に接続して電気駆動可能な駆動源とを配置して固定したベースを備え、ベースは試料室内のステージから取り外され予備排気室に移動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−191120号公報
【特許文献2】特開2008−305679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような従来の引張装置を用いた材料試験では、組織観察後に試験片に腐食試験等のその他の材料試験に供する場合、試験片を装置から外す必要があるため試料室内で付与した応力を保持したままその他の材料試験に供することができなかった。特許文献2の引張装置では、ベースを試料室外の予備排気室へ移動可能であるが、ベースは駆動原が配置された大型のものでそのまま試験片に他の材料試験を実施することは困難である。
【0006】
本発明の目的は、試験片に付与した応力を保持した状態の試験治具を試料室外へ容易に移動し、他の材料試験を可能にした材料試験装置及び材料試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の材料試験装置は、試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に設けた可動部と、前記基台部及び前記可動部の各々に設けた試験片固定部とを有する試験治具、及び前記可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする。
【0008】
また、本発明の材料試験装置は、試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に設けた一対の可動部と、前記一対の可動部に設けた試験片固定部とを有する試験治具、及び前記一対の可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明の材料試験装置は、試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に所定の間隔をあけて設けた一対の試験片支持部と、前記基台部に設けた可動部とを有する試験治具、及び前記可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、試験治具は小型になり、試験片に付与した応力を保持した状態で試料室外へ容易に移動して他の材料試験が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明が適用されるSEMの模式図。
【図2】本発明の実施形態1に係る試験片の形状を示す図、(a)は平行部、(b)はくびれ部を形成した試験片の形状を示す図。
【図3】本発明の実施形態1に係る試験片を固定した試験治具の構造図、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は側面図。
【図4】本発明の実施形態1に係るネジを用いた試験片固定部を示す図、(a)は正面図、(b)は上面図。
【図5】本発明の実施形態1に係るネジを用いた他の試験片固定部を示す図、(a)は正面図、(b)は上面図。
【図6】本発明の実施形態1に係る溝による試験片固定部を示す図、(a)は正面図、(b)は上面図。
【図7】本発明の実施形態2に係る試験片を固定した試験治具の構造図、(a)は正面図、(b)は上面図。
【図8】本発明の実施形態2に係る他の例における試験片を固定した試験治具の構造図、(a)は平板ネジを備えた試験治具の正面図、(b)は平板ネジと歯車を備えた試験治具の正面図。
【図9】本発明の実施形態3に係る試験片を固定した試験治具の構造図、(a)は正面図、(b)は上面図。
【図10】本発明の実施形態4に係る試験片を固定した試験治具の構造図、(a)は3点曲げ用の試験治具の正面図、(b)は4点曲げ用の試験治具の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る材料試験装置及び材料試験方法を、図面を参照して説明する。各実施形態においては、SEMにおいて試料に材料試験を行い観察する電子顕微鏡用の材料試験装置及び材料試験方法について説明する。なお、実施形態2以降においては実施形態1と共通する点については説明を省略する。
【0013】
(実施形態1)
図1は本発明が適用されるSEMの模式図である。図2は試験片形状を示す図であり、(a)は平行部、(b)はくびれ部を形成した試験片形状を示している。図3は本発明の実施形態1に係る試験治具の構造図であり、(a)は正面図、(b)は上面図、(c)は側面図である。
【0014】
図1において、SEMは、鏡筒1、電子銃2、及び試料室3を備えている。試料室3は、試料入り口4を有し、内部に設置された試料台5上には試験片6を装着した試験治具7が載置される。試料室内には駆動機構8が設けられている。
【0015】
図2(a)に示される試料である試験片6は、中央に平行部11を、両端にピン穴13を設けたチャック部12を有する。図2(b)に示される試験片6の中央は、くびれ部14となっている。
【0016】
図3において、試験治具7は、基台部21と、基台部21上の切り欠き部上に設置された変位部材22と、変位部材22に形成したネジ穴27に係合するネジ23を有する。変位部材22とネジ23は、可動部を構成する。基台部21及び変位部材22の各々には、試験片固定部24を設けている。基台部21の中央の切り欠き部側面には軸受け部25が形成され、ネジ23の基台部21に対する左右の移動は拘束されている。変位部材22は、基台部21に対し溝同士の係合部であるスライド部26により摺動する。ネジ23を回転させることで変位部材22が基台部21に対して変位する。
【0017】
可動部のネジ23は、試料室3の内側に設けた駆動機構8に分離可能に接続されている。駆動機構8によりネジ23の回転制御が可能となる。なお、試験治具7は、上面からみて略円形であるが、他の形状としてもよい。また、駆動機構8の本体を試料室3の外側に設け、一部が試料室3の壁を貫通するようにしてもよい。
【0018】
スライド部26を複数列設けることにより、基台部21と変位部材22のずれが発生し難いため精度よく試験が実施できる。また、スライド部26が1列の単純化した構造とすれば治具製作を容易にすることができる。ネジ23と軸受け部25には耐食性の高い高強度材料を用い、基台部21と試験片固定部24には耐食性の高い非磁性材料を用いている。非磁性材料を用いるのは磁気吸引の発生を防ぐためである。
【0019】
試料室外において、試験片6を、ピン穴13を介して試験片固定部24により基台部21と変位部材22に固定して、試験治具7に取り付ける。試験治具7を試料室内に移送し、ネジ23に駆動機構8を接続する。ネジ23を回転することにより変位部材22が変位し、試験片6に引張又は圧縮荷重が加えられ、引張又は圧縮応力が付与される。これにより、変形によって生じた材料の組織の局所的な変化をSEMにてその場観察が可能となる。
【0020】
観察が終了した後、試験片6を取り付けた状態で試験治具7を電子顕微鏡の試料室外へ移送するとき、基台部21と試料台5の固定が解除されるような構造となっている。可動部のネジ23は、駆動機構8から分離される。なお、試験治具7を電子顕微鏡の試料室外へ移送するとき、試験片6に荷重を加えた状態でもよいし、荷重を加えない状態でもよい。試料室外では、他の材料試験例えば海水中の腐食試験等を実施する。その後、再度試験治具7を電子顕微鏡の試料室内へ移送し、試験片6を観察する。
駆動機構8として、ネジによる駆動方式を挙げたが、他に液圧による駆動方式、圧電アクチュエータを採用してもよい。
【0021】
試験治具7は、試料入り口4の口径より小さく試料入り口4を通過可能で、試料台5と同等かそれよりも小さくその上に設置可能であり、SEMで観察する際にワーキングディスタンスWDを阻害しない大きさで構成されている。
【0022】
このように本実施形態では、観察後に試験片6を試験治具7より外すことなく、材料に付与した応力状態を保持したまま、他の材料試験例えば海水中の腐食試験等に供することができる。更に他の材料試験が終了した後の組織の観察についても、試験片6を試験治具7より外すことなく実施が可能となる。これにより、従来のSEMに設置した装置では実施できなかった、他の材料試験が実施可能となる。
【0023】
図4は、本実施形態に係るネジを用いた試験片固定部を示す図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
変位部材22は図示していないが、基台部21と変位部材22の上面にネジ穴31を形成し、試験片6のピン穴13にボルト32を通して試験片6を固定する構造であり、試験片6を精度よく固定することができる。
【0024】
図5は、ネジを用いた他の試験片固定部を示す図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
変位部材22は図示していないが、基台部21と変位部材22の上面にボルト33を植設し、試験片6のピン穴13にボルト33を通して試験片6をナット34で固定する構造であり、同様に試験片6を精度よく固定することができる。
【0025】
図6は、溝による試験片固定部を示す図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
変位部材22は図示していないが、基台部21と変位部材22の上面に試験片6のチャック部12を嵌合する溝35を形成しており、試験片6を容易に精度よく固定することができる。この例では、試験片6のチャック部12にピン穴を設ける必要がない。
【0026】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る試験片を固定した試験治具の構造図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
【0027】
図7において、試験治具7は、基台部21と、基台部上の中央凸部28の両側に設置された2つの変位部材22と、変位部材22に形成したネジ穴27に係合するネジ23を有する。2つの変位部材22とネジ23は、一対の可動部を構成する。2つの変位部材22の各々には、試験片固定部24を設けている。2つの変位部材22は、基台部21に対しスライド部26により摺動する。ネジ23とネジ穴27は、ネジ山が左右の変位部材22では逆となっており、ネジ23の回転により2つの変位部材22が離れたり、近づいたりする構造となっている。一対の可動部のネジ23は、駆動機構8に分離可能に接続されている。
これにより、試験片6が両方向に同じ量だけ引っ張られたり圧縮されたりするため、試験片6の中心位置がずれることなく、効率的な試験が可能となる。
【0028】
図8は、本発明の実施形態2に係る他の例における試験治具の構造図、(a)は平板ネジを備えた試験治具の正面図、(b)は平板ネジと歯車を備えた試験治具の正面図である。
図8(a)では、2つの変位部材22においてネジ穴の代わりに底部に平板ネジ42を形成した場合である。基台部21の貫通孔41にネジ23を配置し、変位部材22の平板ネジ42と係合させる。図8(b)では、更にネジ23の中央に歯車43を設け駆動ネジ44と係合させる。
【0029】
一対の可動部のネジ23又は駆動ネジ44は、それを回転させる駆動機構8に分離可能に接続されている。
【0030】
(実施形態3)
図9は、本発明の実施形態3に係る試験片を固定した試験治具の構造図であり、(a)は正面図、(b)は上面図である。
【0031】
実施形態2においては、基台部21に中央凸部28を設け、両側に2つの変位部材22を配した構造となっている。本実施形態では、更に、中央凸部28の上部に試験片6の長手方向とは直角方向に延びる押さえ具53を配置している。中央凸部28に係合するボルト54が押さえ具53を貫通している。試験片6は試験片固定部24により変位部材22に固定され、組織観察後にボルト54の回転により押さえ具53を押して試験片6の表面に接近させる。
これにより、応力腐食割れが発生する際のすきま環境が付与可能となり、効率的な試験が可能となる。
【0032】
(実施形態4)
本実施形態は、実施形態1−3のように試験片6に引張又は圧縮荷重を加える代わりに、曲げ荷重を加える例である。
【0033】
図10は、本発明の実施形態3に係る試験片を固定した試験治具の構造図であり、(a)は3点曲げ用の試験治具の正面図、(b)は4点曲げ用の試験治具の正面図である。
図10(a)では、試験治具7の基台部21に所定の間隔をあけて逆L字状の一対の試験片支持部61を設ける。一対の試験片支持部61の対向した水平部の内側に支持ピン62を取り付ける。一対の試験片支持部間の中央で、基台部21に可動部である変位部材22が上下移動自在に設けられている。一対の試験片支持部61の支持ピン62と変位部材22の先端に形成した1個所の凸部で試験片6を長手方向に挟む。変位部材22を上方に変位させ、試験片6の中央を上方に押すことにより、試験片6に3点曲げによる曲げ荷重を加えることができる。
【0034】
可動部である変位部材22は、駆動機構8に分離可能に接続されている。駆動機構8として、例えば、ネジによる駆動方式、液圧による駆動方式、圧電アクチュエータを採用することができる。
このように観察位置がずれることなく試験片6に曲げ荷重を加え、試験片表面に引張応力を発生することが可能となる。
【0035】
図10(b)は、変位部材22の他の例として、先端に2個所の凸部を形成し、変位部材22と試験片6が2個所で接触する場合を示しており、試験片6に4点曲げによる曲げ荷重を加えることができる。
【符号の説明】
【0036】
1…鏡筒、2…電子銃、3…試料室、4…試料入り口、5…試料台、6…試験片、7…試験治具、8…駆動機構、21…基台部、22…変位部材、23…ネジ、24…試験片固定部、25…軸受け部、26…スライド部、27…ネジ穴、28…中央凸部、42…平板ネジ、53…押さえ具、61…試験片支持部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に設けた可動部と、前記基台部及び前記可動部の各々に設けた試験片固定部とを有する試験治具、及び前記可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、
前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする材料試験装置。
【請求項2】
試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に設けた一対の可動部と、前記一対の可動部に設けた試験片固定部とを有する試験治具、及び前記一対の可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、
前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする材料試験装置。
【請求項3】
前記試験片固定部は、前記試験片のチャック部に設けたピン穴にネジを通して固定した構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の材料試験装置。
【請求項4】
前記試験片固定部は、上面に形成した溝に前記試験片のチャック部を嵌合して固定した構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の材料試験装置。
【請求項5】
前記基台部の中央凸部に試験片表面にすき間を付与する押さえ具を設けたことを特徴とする請求項2に記載の材料試験装置。
【請求項6】
試料室内に設置された試料台に載置される基台部と、前記基台部に所定の間隔をあけて設けた一対の試験片支持部と、前記基台部に設けた可動部とを有する試験治具、及び前記可動部を変位させる駆動機構を備えた材料試験装置において、
前記可動部を前記駆動機構から分離し、試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室内外へ移送することを特徴とする材料試験装置。
【請求項7】
前記可動部の先端は1つ又は2つの凸部を有し、前記試験片に3点又は4点で曲げ荷重を加えることを特徴とする請求項6に記載の材料試験装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の材料試験装置における試験治具に試験片を取り付け、試料室内に移送する工程と、前記試験片に荷重を加え観察する工程と、前記試験片を取り付けた状態で前記試験治具を試料室外に移送する工程と、を有することを特徴とする材料試験方法。
【請求項9】
請求項8に記載の材料試験方法において、更に、前記試験片に他の材料試験を実施する工程と、前記試験片を取り付けた状態で前記試験治具を前記試料室内に移送し、前記試験片を観察する工程と、を有することを特徴とする材料試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−3929(P2012−3929A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−137422(P2010−137422)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】