説明

条件的に不死化された長期幹細胞ならびにそのような細胞を作製する方法および使用する方法。

【課題】適切な条件下におくと、通常生じる全ての細胞系統を生み出せる、安定した細胞株を作製し、維持し、操作することを可能にする方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態は、条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法に関する。方法には、(a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、(b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログを含む核酸分子により、幹細胞をトランスフェクションするステップであり、プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、(c)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子により、幹細胞をトランスフェクションするステップと、(d)条件的に不死化された成人幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、プロトオンコジーンが活性である条件下でトランスフェクション細胞を増殖させるステップが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、一般に、条件的に不死化された長期幹細胞、かかる細胞を作製する方法、および、治療方法と薬物発見方法とを含むかかる細胞の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
骨髄でつくられる様々な血液細胞を操作する能力は、いくつかの病気の管理において重要な手段となっている。血液癌の最善の新しい療法のいくつかは、白血病細胞を、その形質転換事象以前から決定されている系統に分化させる化合物の開発にもとづく。そのような例の一つは、急性前骨髄球性白血病のケースである。亜砒酸により患者を治療すると、悪性細胞は骨髄単球の系路に沿って誘導され、腫瘍の寛解がもたらされる。別の例は、放射線治療をうけた個人における、移植された骨髄幹細胞(長期再構築能をもつ造血幹細胞またはlt−HSC)の良好な生着の促進である。赤血球の発生(エリスロポエチンまたはEpo)、または骨髄性細胞の発生(顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子またはGM−CSF)を特に促すことが知られているサイトカイン類の全身投与により、分化した血液細胞の出現を加速できる。最後に、G−CSFと呼ばれるサイトカインの全身投与により、lt−HSCが通常属する骨髄部位から末梢血への移動を誘発する「動員」のプロセスにより、ドナーからのlt−HSCの採取が非常に簡単になった。その結果、痛みを伴う複雑な骨髄穿刺の採集を必要とせずに、末梢血から幹細胞を採取できる。これらのプロセスは全て、lt−HSCの生物学的挙動をプログラムおよび制御する能力に依存する。
【0003】
したがって、骨髄(幹細胞)移植は、放射線および/または化学療法を受けた人(たとえば癌患者、または高レベルの放射線を浴びた人)の血液および免疫を再構築する、非常に有用な治療手段であるとともに、免疫不全および血液癌の治療の重要な様式でもある。さらに、骨髄移植は、老化による、免疫系ならびに他の細胞および組織への負の効果を防止するための、非常に有用な療法である。幹細胞移植により、一年に35,000人以上の子供および成人に利益を与えうると推定される。
【0004】
骨髄移植の背後にある作用原理は、全ての血液細胞型を生み出す、放射線感受性の高いlt−HSCの置き換えである。最近の研究は、骨髄移植が、心疾患の治療に価値を有しうることを示している。この影響の原理は未知であるが、この研究やその他の知見によって、造血幹細胞(lt−HSC)を、他の組織を生み出すように再プログラムできる可能性が高まる。そうであるならば、lt−HSCは、はるかに広汎な有用性を有し、批判のある胚幹細胞による療法に代わる選択肢を提供できる。
【0005】
骨髄移植の臨床応用への主な障壁は、第一に、適切な組織適合性の骨髄ドナーの識別にある。これは通常、600万人以上のドナー候補が登録されたレジストリを用いて行われる。選択されたドナーは、血液に幹細胞を導き出した後、4〜5日間の白血球分離により、わずかなlt−HSCを分離するという、厳しい試練を経なければならない。移入リンパ球により生じる移植片対宿主反応を極力抑えるために、これらの細胞の移植後は、レシピエントを慎重にモニタリングおよび治療しなければならない。
【0006】
造血系統の発生は、関連する細胞集団が少ないために、シグナル伝達および下流レスポンスの生化学的分析が妨げられ、その障害の分子基礎の解明がこれまで困難であった。実際にこれが、全ての造血研究にとって主な制限要素となっている。さらに、長期造血幹細胞(LT−HSC)の入手可能量が限られていることも、多くの種類の癌ならびに数種類のヒトの免疫不全の治療において、大きな障害となっている。本願発明者の知る限りでは、自発的に発生し、lt−HSCに類似し、かつ、in vitroで通常の系統に分化でき、または、致死量の放射線を照射したマウス、または致死量以下の放射線を照射した人間を再構築できる細胞株は、現在のところ存在せず、かかる細胞株を意図的に生み出すための方法も記載されていない。さらに、lt−HSCを連続的に増殖させる実行可能な技術が現在のところ存在しないため、これらの細胞は、必要になる度にドナーから得なければならない。
【0007】
血液癌および免疫不全を治療するための新たな様式、および、移植されたlt−HSCの産出を増加させる新しいサイトカインも強く必要とされる。さらに、標的の同定および薬物発見のための適切なプラットフォームが、現在のところ存在しない。欠けている要素は、造血系統における様々な発生段階の細胞株である。かかる細胞が、特定の系統においてさらに分化する能力を維持しているのが最適である。そのような細胞株は、遺伝子産物の特定、したがって細胞発生、増殖および生存の調節に関わる新たな薬物標的の同定に必須である。さらに、そのような細胞株は、新薬をさがすための、機能喪失研究のための小分子およびshRNAライブラリのスクリーニング、ならびに機能獲得研究のためのcDNAライブラリのスクリーニングに必須である。
【0008】
現在のこの領域における薬物発見に障害となっているのは、(a)特定の発生段階にある、十分な数の細胞の分離;(b)in vitroにおける十分な時間にわたる細胞増殖;および、(c)条件的癌遺伝子を用いて、正常なHSCまたは前駆体ではなく、白血病細胞に作用しうる薬物をスクリーニングする能力などである。
【0009】
したがって、当技術分野においては、大量に増殖させることができ、冷凍でき、その後ドナーから採取を行わなくても、必要な時にいつでも再利用できるlt−HSC細胞株を生み出す方法が、強く必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要旨
本発明の一実施形態は、条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法に関する。方法には、(a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、(b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログを含む核酸分子により、幹細胞をトランスフェクションするステップであり、プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、(c)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子により、幹細胞をトランスフェクションするステップと、(d)条件的に不死化された成人幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、プロトオンコジーンが活性である条件下でトランスフェクション細胞を増殖させるステップが含まれる。この実施形態の一態様においては、(b)および/または(c)の核酸分子は、組み込みベクターに含まれる。一態様では、(b)および/または(c)の核酸分子は、レトロウィルスベクター、レンチウィルスベクター、パルボウィルス、ワクシニアウィルス、コロナウィルス、カリシウィルス、パピローマウィルス、フラビウィルス、オルソミクソウィルス、トガウィルス、ピコルナウィルス、アデノウィルスベクター、変性および弱毒化ヘルペスウィルスより選択される、ウィルスまたはウィルスベクターを用いて、細胞にトランスフェクションされる。一態様では、(b)および/または(c)の核酸分子は、直接的なエレクトロポレーションを用いて、細胞にトランスフェクションされる。一態様では、(b)および/または(c)の核酸分子は、薬物感受性タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターに含まれる。一態様では、(b)および/または(c)の核酸分子は、(b)または(c)の核酸分子に隣接するリコンビナーゼの基質認識配列をコードする核酸配列を含むベクターに含まれる。
【0011】
一態様では、この実施形態には、(e)プロトオンコジーンが活性である(d)の条件を除去するステップと、(f)細胞の分化を誘発する成長因子を含む培地で、(e)の細胞を培養するステップが、さらに含まれる。この方法には、(g)細胞分化の中間段階にある、条件的に不死化された細胞を作製するために、(f)の細胞に、プロトオンコジーンが活性である(d)の条件を加えるステップが、さらに含まれうる。
【0012】
本発明の別の実施形態は、条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法に関し、該方法には、(a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、(b)(1)幹細胞成長因子の組み合わせ、(2)Tatが、細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログにコードされたタンパク質と融合した、第一Tat融合タンパク質、および(3)Tatが、幹細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質と融合した、第二Tat融合タンパク質の存在下で、幹細胞を培養するステップが含まれる。
【0013】
本発明のさらに別の実施形態は、条件的に不死化された胚幹細胞を作製する方法に関し、該方法には、(a)増殖させた胚幹細胞集団を得るステップと、(b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログを含む核酸分子で、幹細胞をトランスフェクションするステップであり、プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、(c)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子で、幹細胞をトランスフェクションするステップと、(d)条件的に不死化された胚幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、プロトオンコジーンが活性である条件下でトランスフェクション細胞を増殖させるステップが含まれる。
【0014】
本発明の別の実施形態は、条件的に不死化された幹細胞を作製する方法に関し、該方法には、(a)増殖させた幹細胞集団を得るステップと、(b)(1)幹細胞成長因子の組み合わせ、(2)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログによりコードされたタンパク質、および(3)幹細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質の存在下で、幹細胞を培養するステップが含まれる。(2)および(3)のタンパク質は、Tat融合、アプタマー技術、またはCHARIOT(商標)技術を含む、任意の適切な送達システムを用いて幹細胞内に送達される。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態は、条件的に不死化された幹細胞を作製する方法に関し、該方法には、(a)増殖させた幹細胞集団を得るステップと、(b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログによりコードされたタンパク質、または、同をコードする核酸分子を、細胞内に送達するステップであり、プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、(c)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質、細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子、または、細胞内のプロアポトーシスタンパク質を阻害する核酸分子またはタンパク質を、細胞内に送達することにより、幹細胞のアポトーシスを阻害するステップと、d)条件的に不死化された成人幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、プロトオンコジーンが活性である条件下で細胞を増殖させるステップが含まれる。
【0016】
上述の実施形態のいずれにおいても、プロトオンコジーンは、MYC−ERおよびICN−1−ERから選択されうるが、これに限られない。上述の実施形態のいずれにおいても、アポトーシスを阻害するタンパク質は、Bcl−2、Bcl−X、Bcl−w、BclXL、Mcl−1、Dad−1、またはhTERT等の、Bcl−2ファミリーのアポトーシスを阻害するメンバーから選択できるが、これに限られない。プロトオンコジーンがMYC−ERまたはICN−1−ERである場合には、プロトオンコジーンが活性である条件には、タモキシフェンまたはそのアゴニストの存在が含まれうる。一態様では、細胞に、MYC−ERおよびBcl−2;MYC−ERおよびhTERT;ICN−1−ERおよびBcl−2;ICN−1−ERおよびhTERT;または、MYC−ERおよびICN−1−ERが、トランスフェクションまたは(タンパク質として)送達される。
【0017】
上述の実施形態のいずれにおいても、増殖のステップは、(1)インターロイキン6(IL−6)、IL−3、および幹細胞因子(SCF)、(2)幹細胞因子(SCF)、トロンボポイエチン(TPO)、インスリン様増殖因子2(IGF−2)、および線維芽細胞成長因子1(FGF−I)を含む無血清培地を含むが、これに限られない培地で行われうる。
【0018】
上述の実施形態のいずれにおいても、成人幹細胞には、造血幹細胞、腸幹細胞、造骨幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞、骨格筋幹細胞、および、肝臓幹細胞が含まれうるが、これに限られない。一態様では、間葉系幹細胞は、肺間葉系幹細胞および骨髄間質細胞から選択される。一態様では、上皮幹細胞は、肺上皮幹細胞、乳腺上皮幹細胞、血管上皮幹細胞、および腸上皮幹細胞からなる群より選択される。一態様では、皮膚幹細胞は、表皮幹細胞および濾胞幹細胞(毛嚢幹細胞)からなる群より選択される。一態様では、神経細胞は、ドーパミンニューロン幹細胞、および運動ニューロン幹細胞から選択される。一態様では、幹細胞は、新鮮な臍帯血または低温保存された臍帯血からのものである。一態様では、幹細胞は、正常患者または顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)で処置された患者の末梢血液から得られた、造血前駆細胞である。
【0019】
上述の実施形態のいずれにおいても、方法には、細胞の遺伝子欠損を修正するために、幹細胞を遺伝的に改変するステップ、遺伝子の発現を沈黙させるために、幹細胞を遺伝的に改変するステップ、および/または遺伝子を過剰発現させるために、幹細胞を遺伝的に改変するステップが、さらに含まれうる。
【0020】
上述の実施形態のいずれにおいても、方法には、細胞を貯蔵するステップが、さらに含まれうる。一態様では、方法には、細胞を貯蔵から回収し、細胞を培養するステップが、さらに含まれる。
【0021】
本発明の別の実施形態は、上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製される細胞に関する。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態は、成人幹細胞、またはそこから分化した細胞を個人に提供する方法に関し、該方法には、(a)上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製された、条件的に不死化された成人幹細胞のソースを提供するステップと、(b)(a)の幹細胞が条件的に不死化される条件を除去するステップと、(c)幹細胞またはそこから分化した細胞を、個人に投与するステップが含まれる。一態様では、細胞は、前もって(c)の個人から得られたものである。一態様では、細胞は、前もって冷凍された当該細胞のストックから得られたものである。一態様では、細胞は、個人から新たに得られ、上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により、条件的に不死化される。一態様では、個人は、癌である。別の態様では、個人は、白血病である。別の態様では、個人は、免疫不全症である。別の態様では、個人は、貧血症である。別の態様では、個人は、再建手術を受ける。別の態様では、個人は、人工美容手術を受ける。別の態様では、個人は、移植手術を受ける。一態様では、個人は、造血幹細胞、腸幹細胞、造骨幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞、骨格筋幹細胞、および肝臓幹細胞より選択される幹細胞、またはそこから分化した細胞を必要とする。別の態様では、個人は、免疫細胞機能の改善を必要とする。別の態様では、個人は、幹細胞により修正される遺伝子欠損を有する。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態は、系統決定および/または細胞分化および発生を制御する化合物を同定する方法に関し、該方法には、(a)上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製された成人幹細胞を、接触させるステップと、(b)化合物の非存在下の幹細胞との比較において、(a)の幹細胞の、少なくとも一つの遺伝子型または表現型の特徴を検出するステップであり、化合物の存在下における特徴の差の検出によって、化合物が幹細胞の特徴に影響することが示されるステップが含まれる。
【0024】
本発明の別の実施形態は、系統決定および/または細胞分化および発生を研究する方法に関し、該方法には、細胞の少なくとも一つの遺伝子型または表現型の特徴を検出するために、上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製された成人幹細胞、またはそこから分化した細胞を評価するステップが含まれる。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態は、幹細胞の移植が有益である状態または病気を治療する薬における、上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製された細胞の使用に関する。
【0026】
本発明の別の実施形態は、急性骨髄性白血病(AML)のマウスモデルに関し、該マウスモデルには、(a)マウスに致死量の放射線を照射するステップと、(b)上述または本明細書の他所に記載の任意の方法により作製された、条件的に不死化された長期幹細胞、およびRag−/−マウスからの全骨髄細胞を、該マウスに移入するステップと、(c)マウスがAMLの臨床徴候を示すまで、マウスにタモキシフェンまたはそのアゴニストを周期的に注入するステップを含む方法により作製されるマウスが含まれる。一態様では、細胞に、MYC−ERおよびBcl−2が、トランスフェクションまたは(タンパク質として)送達される。
【0027】
本発明の別の実施形態は、上述のAMLのマウスモデルから得られた、腫瘍細胞に関する。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態は、AMLの診断、研究、または治療に使用する化合物を同定、開発、および/またはテストするため;または、AMLの診断、研究、または治療に使用する標的を同定、開発、および/またはテストするための、ヒトタンパク質に特異的な候補薬の前臨床試験における、AMLのマウスモデルの使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】図1は、形質導入細胞の骨髄移植およびin vivoでの4OHTによるMYC機能の活性化後の、死亡率曲線を示すグラフである。
【図2】図2は、若年および高齢マウスから得られたHSCの、in vitro形質導入後の、散乱特性およびGFP発現量を示す散布図である。ドットプロットは、IL−3、IL−6、およびSCFとともに3日間培養した後の、HSCの前方(FSC)および側方(SSC)散乱特性の、フローサイトメトリデータである。これらの二つの判定基準は、細胞サイズ(FSC)および粒状度(SSC)と相関する。
【図3】図3は、BCL−2、MYC−ERおよびEGFPを形質導入した、高齢(>60%IDレパートリ)および若年3−83μδ遺伝子導入マウス由来の造血幹細胞を用いて再構築された、放射線を照射したレシピエントから得られた細胞株の、表現型の比較を示す散布図である。培養開始から3ヶ月後(若年)および3ヶ月後(高齢)の、代表的なクローンの表現型が示される。
【図4】図4は、タモキシフェンの除去後の、in vitroの高齢LT−HSC株(ABM46)の自発的分化を示す散布図である(フローサイトメトリにより、幹細胞およびB系統マーカーの発現が分析される)。
【図5】図5は、放射線を照射した若年レシピエントに養子移入してから6週間後の、LT−HSC株に由来する造血細胞コンパートメントの分析を示す散布図である。この図には、三匹のマウスからのデータが示され、一匹のマウスは、高齢HSC株ABM42を受け、二匹のマウスは、高齢HSC株ABM46を受けた。
【図6】図6は、ABM42およびABM46細胞株により再構築されたマウスにおいて、B細胞コンパートメントの発達が損なわれていることを示す散布図である。この図には、三匹のマウスからのデータが示され、一匹のマウスは、高齢HSC株ABM42を受け、二匹のマウスは、高齢HSC株ABM46を受けた。
【図7】図7は、ABM42およびABM46細胞株により再構築されたマウスにおける、T細胞の発生を示す散布図である。三匹のマウスからのデータが示され、一匹のマウスは、高齢HSC株ABM42を受け、二匹のマウスは、高齢HSC株ABM46を受けた。
【図8】図8は、レトロウィルスによりBCL−2およびMYC−ERを形質導入し、>90日間連続in vitro培養で維持した、若年C57/BL6マウスから得られたHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す散布図およびグラフである。パネルは、ウィルス発現マーカー(GFPおよびThy1.1)、ならびにマウスの長期HSCを特徴づける四つのマーカー(Sca−1、c−kit、CD34およびFlk−2)の発現の、フローサイトメトリ解析の結果である。四つの細胞株には、一部にlt−HSCの表現型(Sca−1+、c−kit+、CD34−、flk−2−)を維持する集団が含まれていた。
【図9】図9は、レトロウィルスにより異なる組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、>90日間連続in vitro培養で維持した、若年C57/BL6マウスから得られたHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す散布図およびグラフである(pMIG−MYCおよびpMIT−Bcl−2(上パネル)、pMIG−MYC.ERおよびpMIG−hTERT(中パネル)、またはpMIG−ICN.1.ERおよびpMIT−Bcl−2(下パネル))。
【図10】図10は、レトロウィルスにより異なる組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、>90日間連続in vitro培養で維持した、若年C57/BL6マウスから得られたHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す散布図およびグラフである(pMIG−ICN.1.ERおよびpMIT−Bcl−2(上パネル)、pMIG−ICN.1およびpMIT−Bcl−2(第二列パネル)、またはpMIG−ICN.1およびpMIG−Bcl−2(第三列パネル)、またはpMIG−hTERTおよびpMIT−Bcl−2(下パネル))。
【図11】図11は、レトロウィルスにより異なる組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、>90日間連続in vitro培養で維持した、若年C57/BL6マウスから得られたHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す散布図およびグラフである(pMIG−MYCおよびpMIG−ICN.1(上パネル)、pMIG−MYC.ERおよびpMIG−ICN.1(中パネル)、またはpMIG−ICN.1.ERおよびpMIG−MYC(下パネル))。
【図12】図12は、レトロウィルスにより異なる組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、>90日間連続in vitro培養で維持した、若年C57/BL6マウスから得られたHSCに由来する細胞株の、T細胞およびB細胞コンパートメントのin vivo再構築を示す散布図である。
【図13】図13は、移植の前に、本発明の条件的に不死化された長期幹細胞から組換えDNAを確実に切断するための、リコンビナーゼの基質認識配列(RSS’s)の利用を示す略図である。
【図14】図14は、本発明の条件的に不死化された長期幹細胞から分化した、NKおよび赤血球系の細胞の検出を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
発明の詳細な説明
本発明は、長期幹細胞、特に長期造血幹細胞(lt−HSC)に由来し、適切な条件下におくと、かかる幹細胞から通常生じる全ての細胞系統を生み出せる、安定した細胞株を作製し、維持し、操作することを可能にするという課題への解決法を提供する。本発明は一般に、条件的に不死化された長期幹細胞を作製する方法、かかる方法により作製された幹細胞、および、かかる幹細胞を使用する方法に関する。より具体的には、本願発明者は、長期造血幹細胞を代表的な幹細胞集団として用いて、条件的に不死化された(たとえば、可逆的に不死化された、または、特定の条件下で不死化され、かかる条件を除去すると元に戻すことができる)幹細胞を作製する強力な方法を確立しており、かかる幹細胞は、in vivoおよびin vitroで普通の細胞系統に分化でき、そのような細胞を必要とする対象を再構築できる。本発明により、処置(たとえば化学療法、放射線など)前に患者から幹細胞を採取して、かかる細胞を増殖させた上で、患者に戻すことが可能になるため、本発明により、実際骨髄ドナーが不要になりうる。さらに、このような幹細胞は、大量に増殖させ、保存(たとえば冷凍)することができ、その後必要または希望に応じて繰り返し回収し、再び増殖させ、操作および/または使用することができる。たとえば、このような幹細胞を操作することにより、遺伝子欠損を修正し、または、対象に利益(治療的または予防的)を提供し、または目的の細胞型に分化させることができる。最後に、このような細胞は、細胞発生、増殖および生存の制御に関与する新しい標的を特定し、細胞発生、増殖および/または生存の制御が有益である病気または状態の改善または治療に有用な薬物を同定および開発するための、様々な分析で使用できる。
【0031】
本願発明者は、長期幹細胞の条件的不死化を可能にする、新しい技術を開発した。長期造血幹細胞(lt−HSC)により、この技術を本願明細書に例証する。得られた細胞株は、in vitroで無限および指数的に増殖(繁殖)させ、および/または低温保存(貯蔵)することができ、致死量の放射線を照射したマウスをレスキューし、そのような動物の、全ての血液細胞系統を再構築できる。さらに、発明者は、形質転換癌遺伝子の機能を失わせることにより、in vitroで分化した血液細胞を作製できた。そのような細胞、および本明細書に記載のそれらの作製方法により、組換えDNAをもたないためにレシピエントに長期的リスクを与えない、移植可能なヒト幹細胞を生み出すことが可能になる。本発明の、これらの条件的に不死化されたlt−HSCは、成熟した表現型において安定化させることができ、癌遺伝子の再活性化後に成熟した表現型が維持された細胞株を確立することができる。たとえば、発明者は、CD4αβT細胞、ならびに樹状細胞株を開発できた。
【0032】
この技術は、臨床応用においては、骨髄移植に勝る以下の利点を有する。
【0033】
1.極めて少ないlt−HSCで、クローンを確立できる。
【0034】
2.クローンは、無期限に貯蔵し、迅速にアクセスできる、再生可能資源である。
【0035】
3.この療法の費用は、従来の骨髄移植よりもずっと抑えられるはずである。
【0036】
4.lt−HSCクローンの使用により、移植片対宿主病の恐れと、それに関連する費用が減少するはずである。
【0037】
5.この技術により、骨髄ドナーの必要性が少なくとも一部抑えられる。
【0038】
さらに、本発明は、分化した系統の細胞(たとえば造血系統発生の中間段階を含む、分化した造血系統)を生み出すための、lt−HSC細胞等の、条件的に形質転換された長期幹細胞の使用を提供する。たとえば、これらの細胞株により、多くの治療的および予防的応用に加え、悪性細胞の分化を誘発し、その成長を抑制し、またはアポトーシスを誘発することができる新しい化合物の同定が可能になる。これらの細胞により、幹細胞の特定の系路における分化を導く、新しいサイトカインおよび成長因子のスクリーニングも可能になる。そのような細胞株は全く存在せず、薬物発見に必須となる。
【0039】
より詳しくいうと、成人由来の長期幹細胞集団(ただし、後述するように、本発明は成人由来の幹細胞に限定されない)の提供および使用に関する、従来技術の限界を克服する努力において、本願発明者は、初期の造血前駆幹細胞である、条件的に形質転換された細胞株の新しい作製方法を開発した。本明細書に記載および例証される技術の、具体的かつ非限定的な例においては、その戦略には、5−フルオロウラシル(5−FU)で処置した3−83μδマウスからの骨髄幹細胞のトランスフェクション(たとえば、レトロウィルスによる形質導入による)を伴った。発明者は、インサートにBcl−2および緑色蛍光タンパク質(GFP)(レポーター遺伝子として)、ならびにMYC−ERおよびGFP(やはりレポーター遺伝子として)をコードする、pMSCVバイシストロン性レトロウィルスベクターを用いた。MYCは、リンパ球のサイトカインによる生存および増殖シグナルに代替できることから、選択された。発明者は、標的細胞を限定することにより、幹細胞腫瘍が形成されると仮定した。この設定においては、MYC−ER機能はタモキシフェンに依存するため、動物または培養へのタモキシフェンの使用を中止することにより、MYC機能および形質転換を停止できることが重要である。MYC−ERを形質導入した細胞においては、融合タンパク質が産出されるが、タモキシフェンと接触するまで細胞質にとどまる。Bcl−2は、MYCシグナルへの曝露の結果、より具体的には、タモキシフェンの細胞への使用を中止することによりMYCが「不活性化」または除去される結果として通常生じる、細胞のアポトーシスを阻害する能力により選択された。この遺伝子型の新しい組み合わせ(すなわち、以下に詳述されるように、本発明はこれらの特定の遺伝子に限定されない)が、本発明による条件的に不死化された幹細胞作製の成功に一部寄与しており、以下に詳述されるように、他の類似の遺伝子の組み合わせに容易に拡張できる。
【0040】
上述の形質導入した幹細胞のレシピエントは、腫瘍を生じ(4OHTの存在下で)、骨髄、脾臓、およびリンパ節の腫瘍細胞が採取され、タモキシフェンおよび幹細胞成長因子カクテルとともに培養された。本願発明者は、適切な組み合わせの幹細胞成長因子の非存在下では、本方法により作製された幹細胞は成長を停止し、短期間以内に死滅することを発見した。したがって、上述の遺伝子の組み合わせを細胞にトランスフェクションした後の、幹細胞成長因子「カクテル」(すなわち、幹細胞に適切または適当な成長因子の組み合わせ)の使用が、本発明の方法の第二に重要な態様である。このカクテルは、幹細胞の成長を促進および維持する一般的な特性を有するが、成長因子の特定の組み合わせに限られず、かかる因子の選択のパラメータは以下に詳述される。
【0041】
本発明の方法により生み出された幹細胞は、培養下で増殖させることができ、たとえばSca1は一様に陽性であり、Endoglinおよびckitは陽性であり、CD34、Flt3、B220、CD19およびmIgMが陰性であったが、これらは、従来技術で十分に特徴づけられるlt−HSCの表現型を表している。これらの細胞は、冷凍(低温保存または貯蔵)し、その後容易に回復させ、冷凍後に培養することができた。回復した細胞は、表現型がみな同じであり、lt−HSCの表現型を示した(たとえば、ここでも細胞は一様にGFPが光り、Sca1、Endoglinおよびckitが陽性、CD34、Flt3、B220、CD19およびmIgMが陰性だった)ことが重要である。この表現型は、マウスにおける全ての長期再構築を提供する、長期再生多能性幹細胞の特徴として公表されたもの(Reya等、2003年、Nature423:409−14)に、完全に一致する。
【0042】
発明者は、この方法を完全にin vitroで行えるように、さらに開発した(すなわち、最初の方法は、上述のように一部in vivoで行われた)。発明者は、上述のものと類似の特徴を有する遺伝子の他の組み合わせからも、lt−HSCの条件的不死化を導けることも示した。さらに、タモキシフェンを除去し、適切な成長因子を供給することにより、細胞株をin vitroで造血系統に分化させることができ、タモキシフェンを投与しないレシピエント動物において、in vivoで全ての造血系統に分化させる。さらに、細胞は、安定した表現型を有し、(本明細書に記載の)適切なシグナルの適用または除去に応じて既定の系路に沿ってさらに分化する能力を維持する、発生の中間段階に分化させることができる。そのような細胞は、様々な治療的応用に非常に有益である。これらの実験は全て、以下および実施例に詳述される。
【0043】
本発明の方法および細胞株は、成人幹細胞の様々な細胞系統への分化決定に関係する分子、生化学的および細胞事象を詳細に研究し、幹細胞の様々な細胞系統への分化および成長を研究する固有の機会を提供するだけではなく、固有の治療および薬物発見手段を提供する。
【0044】
たとえば、本発明の幹細胞株は、癌、特に放射線治療される癌の治療を含む、様々な移植、治療および予防戦略に使用する、増殖可能な幹細胞の固有のソースを提供する。たとえば、現在の白血病の療法では、骨髄ドナーおよびかかるドナーからの幹細胞の供給が限定されていることにより、放射線療法後に患者を再構築するための選択肢が非常に制限される。本発明は、必要に応じて貯蔵および回収できる、連続的に増殖可能および更新可能な自家幹細胞または組織適合性幹細胞の供給源を生み出す手段を提供することにより、この問題を解決する。このような技術によって、最終的には骨髄ドナーが全く不要になりうる。さらに、本発明により、個人を、個人の必要に応じて造血細胞で再構築することが可能になるため、この技術は、様々な免疫不全症および貧血症(たとえば再生不良性貧血または溶血性貧血)にも非常に有益である。さらに、加齢過程は、とりわけ生産的な免疫応答を備える能力の低下を含む、造血コンパートメントにおけるいくつかの重要な変化を伴う。高齢マウスからの造血幹細胞には、DNA修復のためのmRNAがより多く含まれることが分かっている。これは、それらが骨髄サイトカインに応答して自己更新、分化、増殖、生存する能力に、究極的に影響しうる。したがって、本発明は、かかる欠損を修正または改善するために、健康な造血細胞の持続的供給を提供できるという点で、高齢者にも有益でありうる。
【0045】
本発明の技術は、骨髄幹細胞に限られず、実質的に任意のタイプの幹細胞に応用でき、成人由来の細胞を越えて胚幹細胞にまで拡張できる。
【0046】
一実施例においては、本発明の別の応用は、連続的に増殖可能および更新可能な毛嚢幹細胞を生み出すことに関する。この系統からの、条件的に不死化された幹細胞の発生は、火傷被害者、化学療法および/または放射線療法を受けて、発毛が不可逆的に失われた任意の個人、ならびに頭蓋に影響を及ぼす外科手技後の患者の、再建手術の場面で利用できる。さらに、かかる細胞は、遺伝性禿頭症の個人における発毛の誘導を伴う、選択的処置に使用できる。同様に、皮膚の幹細胞への本発明の応用は、火傷被害者の癒傷および治療、ならびに外傷等の患者の形成再建手術、ならびに美容手術などを含む選択的手術の用途に、非常に有益となる。かかる細胞は、さらに遺伝子操作することにより、若年および老齢の個人における、先天性または後天性の遺伝子欠損を修正できる。当業者は、本開示にもとづいて、肺、乳腺、および腸管上皮に由来する幹細胞、ならびに神経および心臓組織に由来する幹細胞などをいくつかの例として含む、他の様々な幹細胞集団への本発明の使用から利益が得られることを、理解するだろう。その他の幹細胞型は、本明細書中の他所に記される。
【0047】
さらに、本発明は、個人が、自家幹細胞およびそこから分化した細胞の増殖可能な供給源に、個人の一生を通して必要に応じてアクセスできる、固有の機会を提供する。たとえば、体が老化するにともない、免疫機能および免疫記憶が低下することが知られている。しかし、本発明により提供される技術を用いれば、個人を、造血系統の全ての細胞に分化できる新しい自家幹細胞で再構築することにより、高齢の個人に「若い」免疫系を供給することが可能になる。さらに、本方法により生み出された幹細胞は、個人の生涯貯蔵して、必要な場合(個人が癌または免疫不全症を発病した場合や、事実上任意の種類の新たに生み出された自家細胞を必要とするその他の場合)に、治療プロトコルの一部として使用しうる。
【0048】
本発明は、遺伝子治療にも固有の機会を提供する。特に、今では、個人から得、本発明の方法を用いて条件的に不死化し、増殖させた自家幹細胞を操作することにより、遺伝子欠損を修正し、または、有益な遺伝子組み換えを体細胞に導入できる。その後、幹細胞を、これを得た元の個人に再導入できる。
【0049】
本発明の方法により作製された幹細胞は、様々な薬物発見アッセイにおいても使用できる。今では、容易に貯蔵し、回収し、増殖させ、操作できる、均一な幹細胞の事実上無限の供給源を作製できるため、そのような幹細胞を幹細胞として使用して、または様々な細胞系統に分化させて使用して、細胞分化、遺伝子発現、および細胞プロセスへの影響について様々な化合物をテストするアッセイを行うことができる。化合物と接触させる前に、細胞を、遺伝子操作等により操作しうる。遺伝子欠損のある個人の幹細胞を、そのようなアッセイにおいて評価することにより、治療化合物(たとえば癌治療)を同定し、遺伝子置換療法を評価できる。実際本発明の技術は、特定の個人の細胞を標的として、個人の細胞に「合わせた」候補薬および候補療法および戦略を特定する機会を提供する。かかるアッセイの例は、下記に詳述される。
【0050】
系統決定ならびに細胞分化および発生の分野における調査および発見に関しては、本発明以前には、目的の実験を行うのに十分な数の目的の細胞集団を入手できないこと、およびこれを生み出せないことにより、そのような研究が強く妨げられていた。たとえば、特定の前駆細胞株の分化における中間体を同定またはスクリーニングするためには、意味のある再生可能な結果を提供するために、十分な数の細胞が得られなければならない。前駆細胞株は、既定の系統においてさらに分化する能力も維持しなければならない。そのため、これらの新しい手段は現在のところ存在しないばかりか、それらの細胞を生み出すために必要な他の技術の説明もない。本発明の時点で利用できた技術を用いては、これは不可能であった。本発明は、様々な実験で使用できる、均一な幹細胞の、増殖可能な基本的に無限の供給源を提供することにより、問題を解決する。この技術により、細胞分化および発見の分野における調査能力が非常に高まる。
【0051】
上述のとおり、本発明のlt−HSCを条件的に不死化する方法は、他の組織に由来する他の幹細胞に応用することもできる。たとえば、必要に応じて遺伝子送達および成長因子を変えることにより、後述のとおり、本発明を様々な幹細胞に応用できる。そのような細胞も、本明細書に造血幹細胞について記載されるように、in vitroで増殖させ、癌遺伝子の不活性化に応じて分化させることができる。その後これらの細胞を、組織修復および組織再生/再生医療を含む治療への応用に使用できる。したがって、MYC−ERおよびBcl−2の組み合わせの遺伝子、または本明細書に記載の他の任意の組み合わせを、本明細書に記載の方法、または本開示を受けた当業者が適切とみなす任意の方法(様々なウィルスにより媒介される方法を含む)により、間葉系幹細胞(肺間葉系幹細胞および骨髄間質細胞等)、神経幹細胞(ドーパミンニューロン幹細胞および運動ニューロン幹細胞等)、上皮幹細胞(肺上皮幹細胞、乳腺上皮幹細胞、および腸上皮幹細胞等)、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞(表皮幹細胞および濾胞幹細胞等)、骨格筋幹細胞、内皮幹細胞(たとえば肺内皮幹細胞)、および肝臓幹細胞等を含む細胞にトランスフェクションして、in vitroで増殖させることができ、癌遺伝子を不活性化すると分化する、条件的に不死化された細胞株を生み出すことができる。かかる細胞株の治療上の可能性に加えて、これらの細胞株は、先天的な遺伝子欠損を修正するために、in vitro(またはex vivo)でさらに改変でき、初期の系統決定および分化の分子基礎を研究するために使用できる。これらの細胞は、潜在的に重要な治療標的の新規のソースでありうると同時に、これらの細胞株は、分化を阻止あるいは誘発する小分子のスクリーニング、ならびに、癌療法および免疫不全療法等を含む様々な療法のための新しい化合物および分子標的の同定にも有用である。
【0052】
一般的な定義
本発明によれば、本明細書にいう単離された核酸分子とは、その自然環境から除去された(すなわち人為的操作をうけた)核酸分子であり、その自然環境とは、核酸分子が自然に存在するゲノムまたは染色体である。したがって、「単離された」とは、核酸分子の精製の程度を必ずしも反映しないが、核酸分子が自然に存在するゲノム全体または染色体全体を含まないことを示す。単離された核酸分子は、遺伝子を含みうる。遺伝子を含む単離された核酸分子は、かかる遺伝子を含む染色体の断片ではなく、むしろ遺伝子に伴うコード領域および制御領域を含む染色体の断片であり、かつ同じ染色体に自然に存在する他の遺伝子は含まない染色体の断片である。単離された核酸分子は、特定された核酸配列に(配列の5’および/または3’末端で)隣接する核酸も含まれることがあるが、これらは通常自然界ではその特定された核酸に隣接することはない(すなわち、異種配列である)。単離された核酸分子には、DNA、RNA(たとえばmRNA)、またはDNAまたはRNAの誘導体(たとえばcDNA、siRNA、shRNA)が含まれうる。「核酸分子」という表現は主として物理的な核酸分子をさし、「核酸配列」という表現は主として核酸分子上のヌクレオチドの配列をさすが、二つの表現は、特に、タンパク質またはタンパク質の領域をコードしうる核酸分子または核酸配列に関しては、互換可能に使用することができる。
【0053】
本発明の単離された核酸分子は、好ましくは、組換えDNA技術(たとえばポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による増幅、クローニング)、または化学合成を用いて作られる。単離された核酸分子には、自然の対立遺伝子変異体、および修飾により望ましい効果が提供されるような態様で(たとえば、本明細書に記載される誘導可能なプロトオンコジーンの提供)ヌクレオチドが挿入、欠失、置換、及び/又は逆位された修飾核酸分子を含む、自然の核酸分子およびそのホモログが含まれる。
【0054】
核酸分子のホモログは、多くの周知の方法を用いて作製できる(たとえば、Sambrook等、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Labs Press(1989年)を参照)。たとえば、部位特異的突然変異誘発、突然変異を誘発する核酸分子の化学処理、制限酵素による核酸断片の切断、核酸断片の連結、PCR増幅および/または核酸配列の選択された領域の突然変異誘発、オリゴヌクレオチド混合物の合成および混合物群の連結による核酸分子の混合物「構築」、およびそれらの組み合わせ等の標準的な突然変異誘発法および組換えDNA技術を含むがこれに限られない様々な技術を用いて、核酸分子を修飾しうる。核酸分子のホモログは、核酸によりコードされたタンパク質の機能のスクリーニング、および/または野生型遺伝子とのハイブリダイゼーションにより、修飾核酸の混合物から選択されうる。
【0055】
本発明の核酸分子またはポリヌクレオチドの最小サイズは、プロトオンコジーンにコードされたタンパク質またはその機能的部分(すなわち、全長タンパク質の生物活性を有し、本発明の方法の用途に十分な部分)、または抗アポトーシスタンパク質またはその機能的部分(すなわち、全長タンパク質の生物活性を有し、本発明の方法の用途に十分な部分)などの、本発明に有用なタンパク質をコードするために十分なサイズである。本発明において有用でありうる他の核酸分子には、天然タンパク質をコードする核酸分子の相補配列と安定したハイブリッドを形成(たとえば、ストリンジェンシーが中程度、高い、または非常に高い条件下で)できるプローブまたはオリゴヌクレオチドプライマを形成するために十分な、最も小さなサイズの核酸分子が含まれうる。これは、通常は少なくとも5ヌクレオチドの長さであり、好ましくは、約5〜約50の範囲、または約500ヌクレオチド、またはそれ以上であり、任意の中間の整数の長さを含む(すなわち、5,6,7,8,9,10,...33,34,..256,257,...500)。本発明の核酸分子の最大サイズには、実用制限以外には制限がなく、核酸分子には、本明細書に記載の、本発明の任意の実施形態において有用であるために十分な、単数または複数の配列が含まれうる。
【0056】
本明細書で使用されるところの、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、核酸分子を用いて類似の核酸分子が同定される、標準的なハイブリダイゼーション条件をさす。かかる標準的な条件は、たとえば、Sambrook等、Molecular Cloning:A Laboratory Mannual,Cold Spring Harbor Labs Press,1989年に開示されている。Sambrook等、同箇所は、参照により全体として本明細書に組み込まれるものとする(特に、9.31−9.62ページを参照)。さらに、様々な程度のヌクレオチドのミスマッチを許容するハイブリダイゼーションを達成するための、適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算する式が、たとえば、Meinkoth等、1984年、Anal.Biochem.138,267−284などに開示されており、Meinkoth等、同箇所は、参照により全体として本明細書に組み込まれるものとする。
【0057】
特に、本明細書にいう、中程度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件とは、ハイブリダイゼーション反応のプローブに使用される核酸分子と少なくとも約70%の核酸配列の同一性を有する核酸分子の単離を許容する条件(すなわち、約30%以下のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)をさす。本明細書にいう、ストリンジェンシーの高いハイブリダイゼーションおよび洗浄条件とは、ハイブリダイゼーション反応のプローブに使用される核酸分子と少なくとも約80%の核酸配列の同一性を有する核酸分子の単離を許容する条件(すなわち、約20%以下のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)をいう。本明細書にいう、ストリンジェンシーの非常に高いハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、ハイブリダイゼーション反応のプローブに使用される核酸分子と少なくとも約90%の核酸配列の同一性を有する核酸分子の単離を許容する条件(すなわち、約10%以下のヌクレオチドのミスマッチを許容する条件)をいう。上述のように、当業者は、Meinkoth等、前出における式を用いて、これらの特定のレベルのヌクレオチドミスマッチを達成するのに適切なハイブリダイゼーションおよび洗浄条件を計算できる。そのような条件は、DNA:RNAまたはDNA:DNAハイブリッドのいずれが形成されるかにより異なる。DNA:DNAハイブリッドのための計算された融解温度は、DNA:RNAハイブリッドの場合よりも10℃低い。特定の実施形態においては、DNA:DNAハイブリッドのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、6X SSC(0.9M Na)のイオン強度で、約20℃〜約35℃(低ストリンジェンシー)の範囲の温度での、より好ましくは、約28℃〜約40℃(よりストリンジェント)、さらに好ましくは、約35℃〜約45℃での(さらにストリンジェント)ハイブリダイゼーションと、適切な洗浄条件が含まれる。特定の実施形態においては、DNA:RNAハイブリッドのためのストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、6X SSC(0.9M Na)のイオン強度で、約30℃〜約45℃の範囲の温度での、より好ましくは、約38℃〜約50℃、さらに好ましくは、約45℃〜約55℃でのハイブリダイゼーションと、同様にストリンジェントな洗浄条件が含まれる。これらの値は、約100ヌクレオチドより大きな分子、0%ホルムアミド、およびG+C含量約40%での、融解温度の計算に基づく。あるいは、Tmは、Sambrook等、前出、9.31から9.62ページに説明されるように、実験的に計算されうる。一般に洗浄条件は、可能な限りストリンジェントでなければならず、選択されたハイブリダイゼーション条件に適切でなければならない。たとえば、ハイブリダイゼーション条件には、塩条件と、特定のハイブリッドの計算されたTmよりも約20〜25℃低い温度条件との組み合わせが含まれればよく、洗浄条件には、通常は、塩条件と、特定のハイブリッドの計算されたTmよりも約12〜20℃低い温度条件との組み合わせが含まれる。DNA:DNAハイブリッドの用途に適したハイブリダイゼーション条件の一例には、6X SSC(50%ホルムアミド)中約42℃での2〜24時間のハイブリダイゼーションと、これに続く、約2X SSC中室温での一度以上の洗浄を含む洗浄ステップと、これに続く、より高い温度およびより低いイオン強度でのさらなる洗浄(たとえば、約0.1X−0.5X SSC中約37℃で少なくとも一度洗浄した後、約0.1X−0.5X SSC中約68℃で少なくとも一度洗浄)が含まれる。
【0058】
本発明の一実施形態では、配列の切断型(断片または部分)およびホモログを含む、本明細書に記載の任意のアミノ酸配列は、特定のアミノ酸配列のC−および/またはN末端の各々に隣接する、少なくとも一から約20までの追加的な異種アミノ酸により作られうる。結果として得られたタンパク質またはポリペプチドは、特定のアミノ酸配列から「基本的に成る」と称することができる。本発明によれば、異種アミノ酸とは、自然には特定のアミノ酸配列に隣接して見られないアミノ酸配列(すなわち、自然にはinvivoで見られないアミノ酸配列)、または、自然において遺伝子上で特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接するヌクレオチドが、そのアミノ酸配列が由来する生物の標準のコドン使用によって翻訳された場合、そこにはコードされていないアミノ酸配列のことである。同様に、本明細書において核酸配列に関して使用される、「から基本的に成る」という表現は、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列の5’および/または3’末端の各々に、少なくとも一から約60までの追加的な異種ヌクレオチドが隣接しうる、特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列をさす。異種ヌクレオチドは、自然の遺伝子に見られるように、自然には特定のアミノ酸配列をコードする核酸配列に隣接して見られない(すなわち自然にはin vivoで見られない)。
【0059】
本発明によれば、組換えベクター(特に本発明の目的の核酸配列を含む場合に、一般的に組換え核酸分子とも呼ばれる)は、選択された核酸配列を操作する手段として、および、かかる核酸配列を宿主細胞に導入する手段として用いられる、人工の(すなわち人工的に作られた)核酸分子である。したがって、組換えベクターは、クローニング、シーケンシング、および/または特定の核酸配列を、宿主細胞に発現させ、および/または提供するなどの他の方法により操作することに適する。かかるベクターには通常、異種核酸配列、すなわち、クローニングまたは送達される核酸配列に自然にまたは通常は隣接して見られない核酸分子が含まれるが、ベクターには、本発明の核酸分子に自然に隣接して見られるか、本発明の核酸分子の発現に有用な、調節性核酸配列(たとえばプロモータ、非翻訳領域)も含まれうる(下記に詳述)。ベクターは、RNAでもDNAでも、原核生物でも真核生物でもよく、典型的にはプラスミドまたはウィルスベクターである。ベクターは、細胞質因子(たとえばプラスミド)として維持されるか、宿主細胞の染色体に組み込まれうる。ベクター全体が宿主細胞内に留まるか、または、一定の条件下で、本発明の核酸分子を残してプラスミドDNAは消化されうる。その他の条件下では、ベクターは、選択された時間に、宿主細胞のゲノムから削除(除去)されるようにデザインされる(以下にさらに詳述)。組み込まれた核酸分子は、染色体プロモータ制御下、天然またはプラスミドプロモータ制御下、または、いくつかのプロモータ制御の組み合わせ下にありうる。核酸分子の単一または複数コピーを染色体に組み込むことができる。本発明の組換えベクターには、少なくとも一つの選択可能なマーカーが含まれうる。
【0060】
本発明によるところの、「有効に連結された」という表現は、核酸分子を、宿主細胞にトランスフェクション(変形、形質導入、トランスフェクション、接合、または導出)されたときに分子が発現しうるような態様で、発現制御配列(たとえば、転写制御配列および/または翻訳制御配列)に連結することをいう。転写制御配列は、転写の開始、伸長または停止を制御する配列である。特に重要な転写制御配列は、プロモータ、エンハンサ、オペレータおよびリプレッサ配列など、転写開始を制御するものである。好適な転写制御配列には、組換え核酸分子が導入される宿主細胞または生物において機能することができる、任意の転写制御配列が含まれる。
【0061】
本発明によるところの、「トランスフェクション」という用語は、外因性核酸分子(すなわち、組換え核酸分子)を細胞に挿入しうる任意の方法をさすために用いられる。「形質導入」という用語は、ウィルス(たとえばレトロウィルス)または形質導入バクテリオファージ等によって、遺伝形質が一つのソースから他へと導入される、特定のタイプのトランスフェクションである。「形質転換」という用語は、その用語が、細菌およびイースト菌等の微生物細胞への核酸分子の導入をさすのに用いられる場合には、「トランスフェクション」という用語と互換可能に使用できる。微生物システムにおいては、「形質転換」という用語は、微生物による外因性核酸の獲得に起因する遺伝性の変化を表わすために用いられ、「トランスフェクション」という用語と基本的に同義である。しかし、動物細胞においては、形質転換は第二の意味を得ており、たとえばガン化した後の、培養における細胞の増殖特性の変化をさしうる。したがって、混乱を回避するために、本明細書においては、動物細胞への外因性核酸の導入に関しては、「トランスフェクション」という用語が使われるのが好ましい。したがって、本明細書においては、用語が細胞への外因性核酸の導入に関する限りにおいて、動物細胞のトランスフェクションまたは形質導入、および、微生物細胞の形質転換または形質導入を広く含むものとして、「トランスフェクション」という用語が使用される。トランスフェクション技術には、形質転換、形質導入、微粒子銃、拡散、能動輸送、バス内超音波処理、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、吸着、感染およびプロトプラスト融合が含まれるが、これに限られない。
【0062】
本明細書で使用されるところの、本発明における単離されたタンパク質またはポリペプチドには、全長タンパク質、融合タンパク質、キメラタンパク質、または、かかるタンパク質の任意の断片(切断型、部分)またはホモログが含まれる。特に、本発明による単離されたタンパク質は、その自然の環境から除去された(すなわち人為的に操作された)タンパク質(ポリペプチドまたはペプチドを含む)であり、精製タンパク質、部分的に精製されたタンパク質、リコンビナント的に生産されたタンパク質、膜結合タンパク質、脂質結合タンパク質、可溶タンパク質、合成的に生産されたタンパク質、および他のタンパク質に関連した単離されたタンパク質が含まれるが、これに限定されない。そのようなものとして、「単離された」とは、タンパク質の精製の程度を反映しない。本発明の単離されたタンパク質は、リコンビナント的に生産されるのが好ましい。さらに、再び特定のタンパク質(Bcl−2)の命名に関する例として、「ヒトBcl−2タンパク質」またはヒトBcl−2タンパク質に「由来する」タンパク質とは、ヒト(ホモサピエンス)のBcl−2タンパク質(天然に見られるBcl−2タンパク質のホモログまたは部分を含む)、または、構造(たとえば配列)およびおそらくはホモサピエンスの天然に見られるBcl−2タンパク質の機能についての知識により別途生産された、Bcl−2タンパク質をさす。換言すれば、ヒトBcl−2タンパク質には、ホモサピエンスの天然に見られるBcl−2タンパク質とほぼ類似の構造および機能を有する任意のBcl−2タンパク質、または、本明細書に詳述されるように、ホモサピエンスの天然に見られるBcl−2タンパク質の、生物学的に活性な(すなわち、生物活性を有する)ホモログである任意のBcl−2タンパク質が含まれる。そのようなものとしての、ヒトBcl−2タンパク質には、精製、一部精製、組換え、突然変異/改変、および合成タンパク質が含まれうる。本発明によるところの、「改変」および「突然変異」という用語は、特に、本明細書に記載されるタンパク質のアミノ酸配列(または核酸配列)に対する改変/突然変異に関しては、互換可能に使用できる。
【0063】
本明細書で使用されるところの、「ホモログ」という用語は、天然に見られるタンパク質またはペプチドに対する軽微な改変を含めた改変によって、天然に見られるタンパク質またはペプチド(すなわち、「原型」または「野生型」タンパク質)と異なるが、天然の状態での基本的なタンパク質構造および側鎖構造を維持するタンパク質またはペプチドをさすのに使用される。かかる変更には、限定されないが、一つまたはいくつか(すなわち、1,2,3,4,5,6,7,8,9または10)のアミノ酸側鎖の変更;欠失(たとえばタンパク質、または、タンパク質またはペプチドの切断型)、挿入、および/または置換を含む、一つまたはいくつかのアミノ酸の変更;一つまたはいくつかの原子の立体化学の変更;および/または、メチル化、グリコシル化、リン酸化、アセチル化、ミリストイル化、プレニル化、パルミチン酸化、アミド化、および/またはグリコシルホスファチジルイノシトールの付加等を含む軽微な誘導体化が含まれる。ホモログは、天然に見られるタンパク質またはペプチドと比較して、増強、低下した、またはほぼ類似の特性を有しうる。ホモログには、タンパク質のアゴニストまたはタンパク質のアンタゴニストが含まれうる。
【0064】
ホモログは、自然対立遺伝子変異または自然突然変異の結果でありうる。タンパク質をコードする核酸の、自然に見られる対立遺伝子変異体は、かかるタンパク質をコードする遺伝子と基本的に同じゲノムの遺伝子座(または座位)で生じるが、突然変異または組換えなどにより生じる自然変異によって、類似するが同一でない配列を有する遺伝子である。対立遺伝子変異体は、典型的には、比較対象の遺伝子によりコードされるタンパク質と類似の活性を有するタンパク質をコードする。一つの種類の対立遺伝子変異体は、同じタンパク質をコードしうるが、遺伝コードの縮退により、異なる核酸配列を有しうる。対立遺伝子変異体には、遺伝子の5’または3’非翻訳領域(たとえば、制御調節領域)の改変も含まれうる。対立遺伝子変異体は、当業者に周知である。
【0065】
ホモログは、タンパク質を生産する公知技術を使用して作製でき、これには、単離された天然に見られるタンパク質の直接的な改変、直接的なタンパク質合成、または、たとえばランダムまたは標的突然変異の誘発を行うための古典的または組換えDNA技術を用いた、タンパク質をコードする核酸配列の改変が含まれるが、これに限られない。
【0066】
一実施形態では、特定のタンパク質のホモログは、比較タンパク質のアミノ酸配列と少なくとも約45%、または少なくとも約50%、または少なくとも約55%、または少なくとも約60%、または少なくとも約65%、または少なくとも約70%、または少なくとも約75%、または少なくとも約80%、または少なくとも約85%、または少なくとも約90%、または少なくとも約95%同一の、または少なくとも約95%同一の、または少なくとも約96%同一の、または少なくとも約97%同一の、または少なくとも約98%同一の、または少なくとも約99%同一の(または、45%から99%の間の任意の整数パーセントの同一性の)アミノ酸配列を含むか、基本的に成るか、または成る。一実施形態では、ホモログは、比較タンパク質の自然に見られるアミノ酸配列と100%未満同一、約99%未満同一、約98%未満同一、約97%未満同一、約96%未満同一、約95%未満同一等々、1%単位で約70%未満まで同一のアミノ酸配列を含むか、基本的に成るか、または成る。
【0067】
特記がない限り、本明細書で使用されるところの、パーセント(%)同一性とは、(1)標準的なデフォルトパラメータで、アミノ酸のサーチにblastpを用い、核酸のサーチにblastnを用い、デフォルトによりクエリー配列の低複雑性領域がフィルタされる、BLAST2.0Basic BLASTホモロジーサーチ(参照により全体として本明細書に組み込まれる、Altschul,S.F.,Madden,T.L.,Schaeaeffer,A.A.,Zhang,J.,Zhang,Z.,Miller,W.& Lipman,D.J.(1997年)“Gapped BLAST and PSI−BLAST:a new generation of protein database search programs.”Nucleic Acids Res.25:3389−3402に記載);(2)BLAST2アラインメント(下記のパラメータを使用);(3)および/または、標準的なデフォルトパラメータによる、PSI−BLAST(位置特異的反復BLASTを用いて行われる、ホモロジー評価をさす。ただし、BLAST2.0Basic BLASTとBLAST2の間の標準的なパラメータの差を原因として、二つの特定の配列が、BLAST2プログラムを用いて有意なホモロジーを有するものとして認識されうる一方で、配列の一つをクエリー配列として用いてBLAST 2.0 Basic BLASTで行ったサーチでは、第二の配列がトップマッチに認識されない可能性があることに注意しなければならない。さらに、PSI−BLASTは、自動化され、使いやすいバージョンの「プロファイル」サーチを提供するが、これは、配列ホモログを検索する感度の高い方法である。プログラムはまず、BLASTデータベースのギャップサーチを行う。PSI−BLASTプログラムは、任意の有意なアラインメントからリターンされた情報を用いて、位置特異的スコアマトリクスを作成し、これが、次のラウンドのデータベースサーチのクエリー配列に置き換えられる。したがって、当然のことながら、パーセント同一性は、これらのプログラムのいずれか一つを用いて判定されうる。
【0068】
参照により全体として本明細書に組み込まれる、TatusovaおよびMadden,(1999年),“Blast 2 sequences−a new tool for comparing protein and nucleotide sequences”,FEMSMicrobiol Lett.174:247−250に記載されるように、BLAST2配列を用いて、二つの特定の配列を互いに整列化させうる。BLAST2配列アラインメントは、二つの配列間で、BLAST2.0アルゴリズムを用いて、最終アラインメントにギャップ(欠失および挿入)が導入されることを許容したGapped BLASTサーチ(BLAST 2.0)をblastpまたはblastnで行うことにより実行される。本明細書を明確にするために、BLAST2配列アラインメントは、以下のような、標準的なデフォルトパラメータを使用して行われる。
【0069】
blastnでは、0 BLOSUM62マトリクスを用い:
マッチに対するリワード=1
ミスマッチに対するペナルティ=−2
オープンギャップ(5)および拡張ギャップ(2)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待値(10)ワードサイズ(11)フィルタ(オン)
blastnでは、0 BLOSUM62マトリクスを用い:
オープンギャップ(11)および拡張ギャップ(1)ペナルティ
ギャップx_ドロップオフ(50)期待値(10)ワードサイズ(11)フィルタ(オン)。
【0070】
本発明によれば、生物学的に活性のホモログまたは断片を含む、単離されたタンパク質は、野生型または天然(野生)タンパク質の生物活性の特徴を少なくとも一つ有する。一般に、タンパク質の生物活性または生物作用とは、in vivo(すなわちタンパク質の自然の生理的環境)またはin vitro(すなわち実験室条件下)で自然にある状態のタンパク質に属すると測定または観察される、タンパク質により示されまたは果たされる任意の機能(単数または複数)をさす。タンパク質の発現の減少またはタンパク質の活性の低下をもたらす改変、活性、または相互作用を、タンパク質の(完全もしくは部分的な)不活性化、下方制御、活動の低下、または、活動もしくは活性の減少とよぶことができる。同様に、タンパク質の発現の増加またはタンパク質の活性の増加をもたらす改変、活性、または相互作用を、タンパク質の増幅、過剰産生、活性化、増進、上方調節、または活動の増加とよぶことができる。
【0071】
本発明の条件的不死化の方法
本発明の一実施形態は、条件的に不死化された成人幹細胞、および好ましくは長期幹細胞を作製する方法に関する。方法には、一般に、(a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、(b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンを含むベクターにより、幹細胞をトランスフェクションする(形質導入する)ステップであり、プロトオンコジーンが調節可能(誘導可能、制御可能)であるステップと、(c)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードするベクターにより、幹細胞をトランスフェクションする(形質導入する)ステップと、(d)幹細胞成長因子の組み合わせの存在下において、プロトオンコジーンが活性である条件下で、トランスフェクション細胞を増殖させるステップが含まれる。一実施形態では、ベクターは、組み込みベクターである。この方法により作製された細胞は、培養し、増殖させ、貯蔵し、回復させ、治療方法において使用し、調査および発見方法において使用し、遺伝子操作し、プロトオンコジーンが活性である条件を除去することにより分化を誘導することができ、および/または本明細書に記載の方法、または、この開示を与えられた当業者に明らかな任意の他の方法において、使用できる。ステップ(b)および(c)は、任意の順序で行われうる。
【0072】
本発明による、「条件的に不死化された」という表現は、特定の条件群の下で細胞が不死化され、条件が除去または変更(または他の条件が追加)されると、細胞はもはや不死化されず、他の細胞型に分化しうるような、可逆的な態様で不死化(たとえば、適切な条件下で多数の異なる系統に分化する能力および可能性を維持しながら、サイトカイン依存的に、分化せずに無限に成長できる)された細胞をさす。「条件的に不死化された」という表現は、「可逆的に不死化された」という表現と互換可能に使用できる。たとえば、本発明の方法によれば、細胞生存および増殖を促進する調節可能なプロトオンコジーンが存在することにより、プロトオンコジーンの活性化を許容する条件下(たとえばMYC−ERの場合には、タモキシフェンまたはそのアゴニスト)におかれると、細胞が不死化された表現型を維持する。換言すれば、細胞は、これらの特定の条件下で、培養において無限に成長および増幅し、未分化の状態に維持される。これらの条件が除去されると(たとえば、MYC−ERに関してはタモキシフェンが除去される)、幹細胞はもはや不死化されず、適切な環境(たとえば、成長因子の適切な組み合わせ)が与えられれば、様々な細胞系統に分化できる。
【0073】
本明細書で使用されるところの「幹細胞」とは、従来技術において一般に理解されているとおりの用語をいう。たとえば、幹細胞は、そのソースに関わらず、長期間にわたり自己分裂および再生できる細胞であり、分化しておらず(未分化)、分化した細胞型を生み出せる(に分化できる)(すなわち、様々な分化した細胞型の原始細胞または前駆細胞である)細胞をいう。幹細胞に関連して使用される場合の「長期」とは、幹細胞の特定の種類に応じて長期間(たとえば、少なくとも3ヶ月など、何ヶ月から何年まで)にわたり同じ未分化の細胞型に分裂することにより自己再生する、幹細胞の能力をさす。本明細書に述べられるように、長期造血幹細胞(lt−HSC)など、様々な動物種からの様々な長期幹細胞の表現型の特徴が、従来技術において周知である。たとえば、ネズミ科のlt−HSCは、以下の細胞表面マーカーの表現型の存在下で識別できる:c−kit+、Sca−1+、CD34−、flk2−(実施例を参照)。成人幹細胞には、任意の非胚組織またはソースから得られ、それらが属する組織の細胞型を通常生み出す幹細胞が含まれる。「成人幹細胞」という用語は、「体性幹細胞」という用語と互換可能に使用できる。胚幹細胞は、任意の胚組織またはソースから得られる幹細胞である。
【0074】
本発明の一実施形態においては、本発明で使用される幹細胞には、任意のソースから得られる任意の成人幹細胞が含まれうる。本発明の別の実施形態においては、幹細胞には、胚幹細胞が含まれうる。本発明において有用な幹細胞には、造血幹細胞、間葉系幹細胞(肺間葉系幹細胞、骨髄間質細胞などを含む)、神経幹細胞、上皮幹細胞(肺上皮幹細胞、乳腺上皮幹細胞、血管上皮幹細胞、および腸上皮幹細胞などを含む)、腸幹細胞、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞(表皮幹細胞および濾胞幹細胞(毛嚢幹細胞)などを含む)、骨格筋幹細胞、造骨前駆幹細胞、および肝臓幹細胞が含まれるが、これに限定されない。
【0075】
造血幹細胞は、赤血球細胞(赤血球)、Bリンパ球、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球、マクロファージ、および血小板を含むがこれに限られない、全ての種類の血液細胞を生み出すことができる。
【0076】
間葉系幹細胞(骨髄間質細胞を含む)は、骨細胞(骨細胞)、軟骨細胞(軟骨細胞)、脂肪細胞(脂肪細胞)、肺細胞、および、腱の細胞など、その他の種類の結合組織細胞を含むがこれに限られない、様々な細胞型を生み出す。
【0077】
脳の神経幹細胞からは、三つの主な細胞型が生み出される。神経細胞(ニューロン)と、二つのカテゴリの非神経性細胞、星状細胞および希突起こう細胞である。
【0078】
様々な組織の内膜にある上皮幹細胞からは、組織の上皮を形成するいくつかの細胞型が生み出される。
【0079】
皮膚幹細胞は、表皮の基底層、および毛嚢の基部で生じる。表皮幹細胞は、皮膚の表面に移動して保護層を形成するケラチノサイトを生み出すことができ、濾胞幹細胞は、毛嚢と表皮の両方を生み出すことができる。成人幹細胞の他のソースは、当業者に知られる。
【0080】
胚幹細胞は、体の全ての組織および細胞を生み出すことができる。
【0081】
かかる幹細胞を得、液体培地または半固体培地等の初期の培養条件を提供する方法は、公知技術である。組織ソース内または培養下で幹細胞を増殖または増加させる適切な試薬と、幹細胞のソースを接触させることにより、まずin vivoまたはin vitroで細胞を増殖させる。たとえば、造血幹細胞の場合には、造血幹細胞を増加させ、かかる細胞が分化せずに増殖することを促す5−フルオロウラシルなどの薬剤により、ドナー個人を処置しうる。所望の幹細胞型を増殖させるための他の適切な薬剤は、当業者に知られる。あるいは、および好ましくは、成人幹細胞を組織ソースから分離した後、適切な薬剤に曝露することによりin vitroで増殖または増加させる。たとえば、造血幹細胞に関して、培養増殖させた成人造血前駆体を作製する方法が、Van Parijs等、(1999年;Immunity,11,763−70)に記載されている。細胞は、骨髄の採集、体液(たとえば血液)の採集、臍帯血の採集、組織穿孔、および、特に皮膚、腸、角膜、脊髄、脳組織、頭皮、胃、乳腺、肺(たとえば、洗浄および気管支鏡検査を含む)の任意の生検などを含む組織切開、骨髄、羊水、胎盤および卵黄嚢の細針吸引液などの、動物から細胞サンプルを得るための任意の適切な方法により、個人から得られる。
【0082】
一実施形態では、本発明において有用な細胞は、新鮮な臍帯血または低温保存された(貯蔵された)臍帯血、in vitroにおける胚幹(ES)細胞の分化誘導から得られる造血前駆体集団、正常な患者、または顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)で処置して、末梢循環へのlt−HSCの流出を誘発した患者の末梢血から得た造血幹細胞(HSC)からも得られる。
【0083】
増殖させた幹細胞集団が得られたら(利用できるようになったら、提供されたら、または作製されたら)、(1)細胞生存および増殖を促進する、調節可能(誘導可能、制御可能)なプロトオンコジーンを含むベクター、および(2)細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードするベクターによって、順に(任意の順序で)または同時に、細胞をトランスフェクションする。好ましくは、ベクターは組み込みベクターであり、これは本明細書においては、細胞(たとえばレトロウィルスのベクター)のゲノムに組み込むことができる任意のベクターと定義される。様々なベクターおよびトランスフェクションの方法は、下記に詳述する。プロトオンコジーンは調節可能(誘導可能または制御可能)であるため、プロトオンコジーンを、必要に応じて活性化および不活性化させる(すなわち、オンまたはオフにする)ことにより、幹細胞を不死化された状態に維持するか、あるいは目的の細胞型への分化を許容しうる。プロトオンコジーン(Protooncongenes)は、化合物または薬剤の有無、温度、または任意の他の適切な条件などの、任意の条件に応じた制御を含む、任意の適切な方法により制御されるように選択またはデザインされうる。たとえば、本明細書に記載されるプロトオンコジーンMYC−ER(エストロゲン受容体(ER)により制御されるMYC)およびICN−1−ER(Notch−1のERにより制御された細胞内部分)は、ともにタモキシフェンの存在下で誘導可能である。かかる遺伝子は、FKl012、ラパマイシンの改変型のような二量体化薬物に応答するように操作することもでき、またはテトラサイクリン応答エレメントをもったベクターから発現されてもよいことに注意されたい。後者のシナリオは、細胞内に存在するポリペプチドの機能ではなく、タンパク質の発現を制御する。このプラットフォーム技術の他の類似の修正は、当業者に明らかである。
【0084】
本発明の方法で有用なプロトオンコジーンは、細胞生存および増殖を促進する任意のプロトオンコジーンである。本発明の方法で使用するのに好ましいプロトオンコジーンには、MYC、ICN−1、hTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)、NMYC、S−MYC、L−MYC、(ミリスチル化)Aktが含まれるが、これに限られない。さらに、使用に適切な他の遺伝子または本発明の方法、または望ましい結果を達成するために遺伝子を組み換える方法には、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ1(PDK−I);哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR);shRNAによるホスファターゼ及びテンシンホモログ(PTEN)の欠失;Bcl−3、サイクリンD1、サイクリンD3、Bcl−10、Bcl−6、BCR−ABL(切断点クラスタ領域のABLとの融合)およびその様々な突然変異形、構成的に活性化された形のStat5およびStat3、AML1−ETO(急性骨髄性白血病1およびラント関連転写因子1の融合)、MLL−ENL(混合性白血病およびeleven nineteen白血病)、Hox遺伝子、インターロイキン3(IL−3)受容体β鎖の活性型、および他のサイトカイン受容体鎖(表皮成長因子受容体(EGFR)、c−kit、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)など)、ならびにwnt(全哺乳類のホモログ)、β−カテニン、ソニックヘッジホッグ(shh−1および全哺乳類のホモログ)、bmi−1およびc−jun(全哺乳類のホモログ)などの、下流のシグナル伝達エフェクタの使用が含まれるが、これに限られない。また、本発明には、shRNAによるp16、p19、p21およびp27を含むがこれに限らない、サイクリンキナーゼ阻害物質の排除(または阻害)の誘発が含まれる。一実施形態では、本発明には、任意またはかかるプロトオンコジーン(たとえばMYC−ERまたはICN−1−ER)またはその他の遺伝子の、調節可能なホモログの使用が含まれる。実施例は、本発明の方法を用いて条件的に不死化されたlt−HSCを良好に作製するための、MYC−ERまたはICN−1−ERの両者の使用を説明する。
【0085】
ヒトMYCをコードする核酸配列は、本明細書において、SEQ ID NO:1として表わされ、本明細書においてSEQ ID NO:2として表わされるアミノ酸配列をコードする。hTERTをコードする核酸配列は、本明細書において、SEQ ID NO:3として表わされ、本明細書においてSEQ ID NO:4として表わされるアミノ酸配列をコードする。ヒトICN−1をコードする核酸配列は、本明細書において、SEQ ID NO:11として表わされ、本明細書においてSEQ ID NO:12として表わされるアミノ酸配列をコードする。ICN−1は、Notch−1の一部であり、特に、Notch−1の1757−2555番アミノ酸である(参照により全体として本明細書に組み込まれる、Aster等、Mol Cell Biol.2000年10月;20(20):7505−15を参照)。MYC−ERのヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、従来技術において周知であり、MYC−ERタンパク質は、参照により全体として本明細書に組み込まれる、Soloman等、Oncogene.1995年11月2日;11(9):1893−7に記載されている。ICN−1−ERは、本願発明者により作られ、このタンパク質をコードする核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:13として表わされ、SEQ ID NO:14により表わされるアミノ酸配列をコードする。
【0086】
同様に、好ましい抗アポトーシス遺伝子はBcl−2であるが、アポトーシスを阻害し、特に、幹細胞においてプロトオンコジーンが不活性化されたときに細胞生存を維持するタンパク質をコードする他の遺伝子は、本発明に含まれる。Bcl−2αをコードする核酸配列は、本願明細書においてSEQ ID NO:5として表わされ、SEQ ID NO:6のアミノ酸配列をコードする。Bcl−2βは、本願明細書においてSEQ ID NO:7として表わされ、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列をコードする。本願明細書において、「抗アポトーシス」遺伝子は、アポトーシスを誘発しうる条件が存在する場合でも、細胞内のアポトーシスに関連するプロセスを阻害(抑制、阻止、減少)または細胞生存を促進(増進、増加、刺激、許容)できるタンパク質をコードする任意の遺伝子として定義される。アポトーシスに関連するタンパク質、および、そのようなタンパク質をコードする遺伝子は、従来技術において周知である。そのような他の遺伝子には、成人幹細胞(すなわち、造血幹細胞だけではない)の条件的形質転換の場面において重要である可能性がある、Bcl−2ファミリーの任意の遺伝子が含まれるが、これに限られない。これらの遺伝子には、Bcl−X、Bcl−w、BclXL、Mcl−1、Dad−1、またはhTERT(増殖を阻害することが示されている、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素)など、Bcl−2ファミリーに属する他の生存促進メンバーが含まれるが、これに限定されない。かかる遺伝子は、実用的な例としてBcl−2について本明細書に記載されるように、制御された癌遺伝子の存在下で異所的に過剰発現する。さらに、本発明の本態様には、shRNAによる、bcl−2ファミリーに属するBH3のみのプロアポトーシスのメンバー(たとえばBim、PUMA、NOXA、Bax、Bak、BclXS、Bad、Barおよびその他)のノックダウン、(または任意の他の方法による破壊または阻害)、ならびにカスパーゼ3、9、10、MLL−1(および全哺乳類のホモログ)、Enl−1(Endospermless−1)および全ての哺乳類におけるホモログ、Apaf−1およびアポトソームの一部をなす他のエレメントの機能阻害を用いることを含む。
【0087】
上述のこれらの各遺伝子の核酸配列またはそのコード領域は、従来技術において周知であり、ヒトのものを含めて一般に公開されている。同様に、これらの遺伝子によりコードされるタンパク質のアミノ酸配列も、従来技術において周知であり、一般に公開されている。
【0088】
本願発明者は、本発明の方法を用い、以下の組み合わせを含むプロトオンコジーンと抗アポトーシス遺伝子の様々な組み合わせを用いて、いくつかの異なる条件的に不死化された幹細胞を作製した:MYC−ERおよびBcl−2;MYC−ERおよびhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素);ICN−1−ERおよびBcl−2;ICN−1−ERおよびhTERT;および、MYC−ERおよびICN−1−ER。
【0089】
なお、所望の機能的タンパク質産物、その機能的部分、またはその機能的ホモログをコードする遺伝子または核酸配列(たとえばcDNA)の任意の部分が、本発明に含まれるため、本方法で使用するプロトオンコジーンまたは抗アポトーシスタンパク質をコードする遺伝子のいずれに関しても、遺伝子全体が本明細書に記載されるコンストラクトに用いられる必要はない。したがって、本明細書で一般的にいうところの、幹細胞のトランスフェクションに使用される遺伝子または導入遺伝子は、例示的であり、核酸配列が、本発明の使用に適した機能タンパク質をコードする限り、遺伝子全体、遺伝子のコード領域全体、遺伝子の部分またはそのホモログをコードする任意の核酸分子の使用が含まれるものと理解されなければならない。
【0090】
本発明の一実施形態では、本方法はさらに、Bcl−2ファミリーに属するプロアポトーシスのメンバー、すなわちBH3のみのタイプのもの(Bim、Bax、Bak、Puma、Noxa等)など、プロアポトーシスタンパク質をコードするRNAsに向けられた、shRNAsまたはsiRNAsの使用を含む。癌遺伝子が制御された場面でのプロアポトーシス遺伝子の破壊は、一定の幹細胞集団の、より効果的な不死化をもたらすことが期待される。RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNA、および、哺乳類のシステムにおいては短鎖干渉RNA(siRNA)または短鎖ヘアピンRNA(shRNA)を用いて、補足遺伝子の発現を阻害しまたは沈黙させるプロセスである。標的細胞において、siRNAがほどけ、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合した後、siRNAと相補的なmRNA配列に導かれ、RISCがmRNAを切断する。shRNAは、ベクターにおいて標的細胞にトランスフェクションされて転写され、DICER酵素により処理されて、RISCを活性化するsiRNA様分子を形成する。その後、RISCはsiRNAの場合と同じように、siRNAと相補的なmRNA配列に導かれ、RISCがmRNAを切断する。
【0091】
幹細胞は、技術の組み合わせの使用を含む、細胞、特に哺乳類細胞をトランスフェクションする任意の適切な方法の使用により、プロトオンコジーンを含み、抗アポトーシスタンパク質をコードするベクターによりトランスフェクションできる。本願発明者は、本明細書に記載する条件的に不死化された長期幹細胞の生成をもたらしたのは、発現される遺伝子(またはコンストラクト)間の特定の組み合わせであることを発見した。実施例は、レトロウィルスベクターの使用を示しているが、他の方法には、レンチウィルスベクター、パルボウィルス、ワクシニアウィルス、コロナウィルス、カリシウィルス、パピローマウィルス、フラビウィルス、オルソミクソウィルス、トガウィルス、ピコルナウィルス、アデノウィルスベクター、変性および弱毒化ヘルペスウィルスなど含む、他のウィルスおよびこれに由来するウィルスベクターの使用が含まれるが、これに限られない。このようなウィルスはいずれも、これらをHSCまたは他の幹細胞に向ける特定の表面発現分子、たとえば膜結合型SCFや他の幹細胞に特異的な成長因子リガンドなどにより、さらに改変されうる。哺乳類細胞のトランスフェクションのその他の方法には、たとえばNUCLEOFECTOR(商標)技術(AMAXA Biosystems)を用いた、哺乳動物発現ベクターの直接的なエレクトロポレーションが含まれるが、これに限られない。この技術は、大抵の一次細胞およびトランスフェクションが困難な細胞株の、非常に効率的な非ウィルス性遺伝子導入法であり、巨大なポリアニオン分子を細胞核に直接導入するための、電流と溶液の細胞型ごとの組み合わせの使用に基づく、長く知られているエレクトロポレーションの方法が進歩したものである。さらに、トランスフェクションの適切な方法には、従来技術において周知の、任意の細菌、イースト菌、またはその他の人為的な遺伝子送達の方法が含まれうる。
【0092】
トランスフェクションされた幹細胞を増殖させるステップ、または、適切な成長因子の存在下で、幹細胞および外因性融合タンパク質(たとえば、以下に記載される本方法の変化形に記載されるTat融合タンパク質)を培養するステップには、本明細書に特に記載されるものを含む、任意の適切な培養条件の使用が含まれうる。適切な幹細胞成長因子の組み合わせには、本発明のトランスフェクションされた(たとえば、形質導入された)細胞の、培養下における成長、生存、および増殖を許容する任意の幹細胞因子が含まれうる。本明細書には、特定の組み合わせが記載されており、これは本方法の重要なステップであるが、本ステップは単に、幹細胞の成長、増殖、および生存に適切な成長因子の任意の組み合わせを提供するステップとして記載することもでき、従来技術において周知の任意の組み合わせが含まれうる。したがって、本発明は、特定の組み合わせに限定されない。成長因子の一つの好ましい組み合わせには、インターロイキン6(IL−6)、IL−3、および幹細胞因子(SCF)が含まれる。成長因子の別の好ましい組み合わせには、無血清培地における、幹細胞因子(SCF)、トロンボポイエチン(TPO)、インスリン様増殖因子2(IGF−2)、および線維芽細胞成長因子1(FGF−1)が含まれる。この後者の組み合わせは、ZhangおよびLodich(2005年;Murine hematopoietic stem cells change their surface phenotype during ex vivo expansion,Blood 105,4314−20)に近年記載された。本明細書に記載のタンパク質の組み合わせ(たとえば、実施例に記載されるMYC−ERおよびBcl−2)をコードする核酸分子をトランスフェクションした幹細胞は、上述の実施例に記載されるカクテル(IL−3、IL−6およびSCFを使用)と同様に、この成長因子のカクテルにおいても、条件的に不死化されることが期待される。本発明に用いられる他の成長因子には、アンジオポエチン様タンパク質(たとえば、Agptl2、Angptl3、Angptl5、Angptl7など)、プロリフェリン−2(PLF2)、グリコーゲンシンターゼキナーゼ−3阻害剤、wntおよびNotchシグナル伝達経路の誘導因子、Flt3Lおよび関連のサイトカイン、線維芽細胞成長因子2(FGF2)および関連のサイトカイン、wnt−1およびその他のWnt経路の活性化因子、ソニックヘッジホッグ(shh−1)およびその経路の他の活性化因子が含まれるが、これらに限られない。成長因子の他の適切な組み合わせも、本発明の方法に適用でき、当業者に明らかである。実際、本発明の方法を用いて生み出された細胞株は、長期幹細胞またはそれらに由来する任意の前駆体を、in vitroにおいて中性または管理された条件下で増殖させるために使用できる他のサイトカインおよび成長因子のスクリーニングに、直ちに使用できる。
【0093】
本発明によれば、動物細胞の培養に適切な培地には、動物細胞、特に哺乳類細胞の培養のために開発されたものであるか、生物同化可能炭素、窒素、および微量栄養素などの、動物の細胞増殖に必要な適切な成分を用いて実験室で調製できるものである、任意の利用可能な培地が含まれうる。このような培地には、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、αMEM(Gibco)、RPMI1640、またはその他の適切な市販の培地をはじめとする、動物細胞の増殖に適切な任意の基本培地である基本培地が含まれる。基本培地に、血清源、成長因子、アミノ酸、抗生物質、ビタミン類、還元剤、および/または糖質源などを含む、生物同化可能な炭素源、窒素、および微量栄養素が加えられる。なお、基本培地および動物細胞の増殖に必要なその他の成分の多くを含む完全培地が市販されており、特定のタイプの細胞培養のための培地もある。さらに、多くの無血清培地が入手可能であり、本発明による幹細胞の培養に特に適切でありうる。
【0094】
細胞および組成物
本発明の別の実施形態は、本明細書に記載の本発明の方法により作製される、細胞、細胞株、または細胞集団に関する。このような細胞、細胞株、または細胞集団を含む組成物も、本発明に含まれる。治療方法のためのこのような組成物には、細胞、細胞株、または細胞集団を患者に送達するための、薬理学上許容可能な賦形剤および/または送達溶媒を含む、薬理学上許容可能な担体が含まれうる。本明細書で使用されるところの、薬理学上許容可能な担体とは、本発明の方法に有用な治療組成物を、適切なin vivo部位に送達するのに適した、任意の物質をさす。
【0095】
発生の中間段階にある細胞系統を作製するための、本発明の方法の応用
本発明の別の実施形態は、造血系統の発生の中間段階をとらえた細胞株を生み出すための、本明細書に記載の新規の方法の応用に関する。本発明によれば、発生または分化の「中間」段階とは、「中間」細胞が得られた、幹細胞の発生または分化の段階の下流にあるが、細胞分化の最終または終端ポイントの上流にある、細胞発生または分化における多能段階を意味する。たとえば、前B細胞は造血幹細胞の中間段階であり、成熟B細胞にさらに分化できる。成長または分化の中間段階は、当業者に理解される。
【0096】
さらに詳しくいうと、多くの治療および発見または調査への応用、ならびに細胞系統の貯蔵においては、細胞株が安定した表現型を有し、細胞にトランスフェクションした活性癌遺伝子をオフにすると決定された系路に沿ってさらに分化する能力を維持することが望ましい。したがって、本発明には、完全に分化しておらず(終末分化しておらず)、分化の中間段階にある細胞を作製する、さらなるステップが含まれる。この実施形態の一つの非限定的な例では、上述の方法を用いて作製された長期幹細胞が、細胞生存を促進するプロトオンコジーンまたは他の遺伝子の活性を維持する条件(たとえば、タモキシフェンに依存するプロトオンコジーンの場合には4−OHT)を除去することにより、または、プロトオンコジーン/癌遺伝子をオフに(不活性化)する適切な条件を適用することにより、in vitroでランダムに分化する。このステップは、中性のサイトカイン増殖条件(たとえばIL−3、IL−6およびSCF)に培養を維持しながら行うことができ、または、分化を一定の系統に特異的に導きうるサイトカイン(たとえば、リンパ球系にはIL−7およびNotchリガンド、樹状細胞にはGM−CSFおよびIL−4、骨髄単核球細胞にはG−CSFなど)を、分化に中性の(細胞の分化を誘導または促進しない)サイトカインに置き換えることにより、行うことができる。培養物が、特定の系統に一致する分化マーカーを示し始めたら、培地に、プロトオンコジーンを活性化させる条件(たとえば4−OHT)を再び添加し、またはその他の方法によりプロトオンコジーンを再活性化させる条件におくことにより、表現型を安定化させ、安定した中間の分化表現型を有する細胞株を生み出す。
【0097】
この方法の例として、発明者は、培地から4−OHTを除去し、分化後に4−OHTを再度加えることにより、ABM42細胞(本発明の方法により作製されたlt−HSC。実施例を参照)から、in vitroでCD4+、αβ+T細胞を生み出した。発明者は、ABM46細胞(実施例を参照)をGM−CSF、IL−4、およびFLT3L中でインキュベートした後、分化後に培養物を再び4−OHTの存在下におくことにより、樹状細胞株も生み出した。
【0098】
このような細胞株を作り出すための別のアプローチには、ctlt−HSC細胞をマウスに導入して分化させるステップと、4−OHTの注入後に、in vivoで表現型を留めまたは安定化させるステップを伴う。この方法は、実施例8に詳述される。簡潔にいうと、たとえば、本方法により生み出されたlt−HSCが、免疫不全動物(たとえば免疫不全マウス)に注入される。活性化剤(たとえば4−OHT)の注入を用いて、lt−HSC内の癌遺伝子を再活性化し、後に細胞を集め、その後、細胞をin vitroで培養して細胞を分化させ、その後必要に応じて貯蔵または使用しうる。このアプローチおよび上述の他のアプローチは、たとえばレシピエントとしてNOD/SCIDマウスを使用し、または新生児Rag−1−/−マウスに肝内注入をして使用することにより、ネズミ科およびヒトctlt−HSC細胞株の両方に使用できる。
【0099】
本発明の方法の胚幹細胞への応用
本発明の別の実施形態は、幹細胞を条件的に不死化する方法の、胚幹(ES)細胞への応用に関する。このような方法は、ニューロン幹細胞を含むニューロン系統の細胞など、ES細胞からより簡単に得られる細胞株を生み出すのに有用となる。
【0100】
この実施形態では、プロトオンコジーンおよびアポトーシスを阻害する遺伝子(たとえばMYC−ERおよびBcl−2)による細胞(この場合にはES細胞)の形質導入を含む本発明の方法を、ES細胞に応用して、これらの細胞の分化誘導をさらに制御できる。この実施形態では、このような細胞を使用して、たとえば遺伝子導入マウスを生み出すことができ、さらに、任意のES細胞およびこれに由来する関連の前駆細胞集団を、活性化剤に曝露することによりプロトオンコジーンを活性化し、よって新規の条件的に形質転換された幹細胞株(異なる組織型)、または目的の組織型の成熟細胞株を発生させることができる。さらに、in vitroにおける形質導入されたES細胞の分化誘導を用いて、上述のような分化の中間状態を得ることもできる。ES細胞またはES由来の細胞のこのような使用は、様々な病気の場面での薬物発見および標的の同定に、新しいプラットフォームを提供する。
【0101】
たとえば、ニューロン幹細胞は、本発明の本実施形態、ならびに本発明の方法を用いた、ES細胞のニューロン系路への分化誘導に使用できる。海馬からのニューロン幹細胞の単離および形質導入は、マウスについて前述されている。ニューロスフィアの培養条件は、それらの細胞の増殖を可能にし、条件的に形質転換されたニューロン幹細胞株を生み出すための、本発明の、ウィルスによる遺伝子の形質導入(たとえば、MYC−ERおよびBcl−2)をしやすくする。移植後の、in vitroならびにin vivoにおけるそれらの分化は、ウィルスによりコードされたレポーター遺伝子、ならびに先に定義したニューロンの分化マーカーによってモニタできる。さらに、条件的に形質転換されたニューロン幹細胞株を移植した後の、マウスへの活性化剤(たとえば4−OHT)の投与は、神経系の悪性腫瘍(神経芽細胞腫、神経グリア芽細胞腫等)の発生をもたらしうる。それらの腫瘍は、前臨床試験および標的特定に、新規のモデルを提供する。
【0102】
たとえばMYC−ERおよびBcl−2を形質導入したES細胞の分化誘導は、先に定義した増殖培地ならびにサイトカインの存在下で行われうる。培養中の任意の時点での活性化剤(たとえば4−OHT)の添加により、中間の表現型における細胞の安定化が可能になり、さらに分化する能力をなお維持した細胞株が生み出される。たとえば、ES細胞からのドーパミンニューロンの生成は、通常、レチノイン酸およびFGF8の添加により行われる。このタイプのニューロンは、アルツハイマー病の患者に観察される脳の病変を修復するために理想的である。しかし、完全に分化した神経細胞の移植は、良好なインプランテーションおよび生着の妨げとなりうる。本明細書で想定される、ドーパミンニューロンの系路に決定された、移植後にさらに分化する能力をなお維持する、条件的に形質転換された細胞株は、インプランテーションおよび良好な生着の確率が非常に高くなることが期待される。レチノイン酸およびソニックヘッジホッグアゴニストを培養に加えることによる、ES細胞からの運動ニューロンの生成についても、同様のシナリオを提示できる。それらの神経細胞は、脊髄損傷の修復に役立ちうる。ここでも、本実施形態においては、完全に分化した細胞は使用されず、分化能を維持する決定された前駆細胞(本発明の方法により作製)が使用される。
【0103】
導入遺伝子を除去するための、条件的不死化方法の変化形または修正
本発明の一実施形態においては、本明細書に記載のもの(たとえばMYC−ER)をはじめとする導入遺伝子をもつ幹細胞を、ヒトおよび/またはマウスに導入するリスクを回避するために、これらのDNA断片が切断されるように、組換えコンストラクトがデザインされる。この実施形態は、まず本発明の方法により長期幹細胞を確立し、その後、組換えDNAを除去、切断し、または完全に沈黙させる条件に細胞(または患者)を置く、任意の適切な方法を用いて達成できる。
【0104】
たとえば、本発明の一態様においては、バクテリアリコンビナーゼのアプローチが使用される。本発明の本態様においては、好ましくは、任意の一時点で二つの遺伝子のいずれを切断するかを制御できるように、二つの異なるリコンビナーゼが使用される。そのようなリコンビナーゼの二つの例は、従来技術において周知の、CreおよびFlpリコンビナーゼである。簡潔にいうと、一方のリコンビナーゼの基質認識配列(RSS’s)が、癌遺伝子ならびにレポーター遺伝子(たとえばGFPまたはThy1.1)の転写解読枠に隣接するように、レトロウィルスのコンストラクトに導入される。この場合に、細胞は、Tat−Cre融合タンパク質(すなわち、Creに融合されたHIVまたは他のレトロウィルスのTatタンパク質)を含む培地でインキュベートされる。この組換えタンパク質は以前に記載されており、受動的に細胞に入り、ゲノムDNAのloxP部位特異的組換えを媒介できることが示されている。他の遺伝子(核酸分子)切断の方法は、当業者に知られており、本発明に直ちに適用できる。実施例5および13が、本発明の本実施形態を例証する。
【0105】
本発明の別の実施形態では、ヒトおよび/または他の動物(たとえばマウス)に、本明細書に記載のものをはじめとする、導入遺伝子をもつ幹細胞を導入するリスクを回避する別の方法を提供するために、プロトオンコジーンまたは抗アポトーシスタンパク質の組換えコンストラクトの組み合わせにより幹細胞をトランスフェクションする代わりに、細胞に導入遺伝子を導入することを必要とせずに、タンパク質を細胞内に到達させる方法として、Tat融合タンパク質を使用することにより本発明が実施される。たとえば、tat−プロトオンコジーンまたはtat−抗アポトーシス遺伝子をコードする組換えコンストラクト(たとえば、Tat−MYC−ERまたはTat−Bcl−2)を使用して、幹細胞を条件的に不死化しうる。本発明の本実施形態においては、標的幹細胞が、適切な培養条件下で、選択された特定の遺伝子組み合せ(たとえばMYC−ERおよびBcl−2)によりコードされる精製組換えTat融合タンパク質を含む培地で、培養される。本発明の本実施形態では、プロトオンコジーン産物または同様の遺伝子産物は、上述の実施形態のように誘導可能でありうる。代替的または追加的に、このタンパク質の作用は、タンパク質を単に培養に供給するか、培養から除去することにより制御できる。このアプローチにより生み出される細胞株は、外因性Tat融合タンパク質の添加に常に依存するが、特定の外因性ヌクレオチド配列がそれらに導入されることはない。外来癌遺伝子配列が存在しないことにより、本発明の方法の臨床展開が改善することが期待される。ヒト免疫不全症ウィルス1(HIV−1)Tatが、代表的なTatタンパク質であるが、その他のレトロウィルスTatタンパク質は従来技術において周知である。非限定的な例として、HIV−1Tatをコードする核酸配列は、本明細書においてSEQ ID NO:9として表わされ、本明細書においてSEQ ID NO:10として表わされるアミノ酸配列をコードする。
【0106】
別の実施形態では、ヒトおよび/または他の動物(たとえばマウス)に、本明細書に記載のものをはじめとする導入遺伝子をもつ幹細胞を導入するリスクを回避する別の方法を提供するために、プロトオンコジーンまたは抗アポトーシスタンパク質の組換えコンストラクトの組み合わせにより幹細胞をトランスフェクションする代わりに、アプタマー技術を用いて、タンパク質(たとえばMYCおよびBcl−2)を細胞に導入することにより本発明が実施される。アプタマーは、高い親和性および特異性をもって既定の特定の標的分子と結合する能力により、ランダム化した核酸のコンビナトリアルライブラリから選択される、短鎖の合成核酸(通常はRNAであるが、DNAも)である。アプタマーは、明確な三次元構造をとり、構造の差が極めて小さな化合物を区別できる。したがって、アプタマーを、本発明で使用されるタンパク質、またはタンパク質をコードする非組み込みcDNAと結合させるなどして、タンパク質またはDNAを細胞に送達するために使用できる。さらに、アプタマーは、たとえば本発明によりプロアポトーシスタンパク質の機能を阻害する場合に、siRNAを細胞に送達するために容易に使用できる。アプタマー技術は、たとえば、Davidson,2006年,Nature Biotechnol.24(8):951−952;およびMcNamara等,2006年,Nature Biotechnol.24(8):1005−1015)に記述されている。ここでも、外来癌遺伝子配列が存在しないことにより、本発明の方法の臨床展開が改善することが期待される。
【0107】
別の実施形態では、ヒトおよび/または他の動物(たとえばマウス)に、本明細書に記載のものをはじめとする導入遺伝子をもつ幹細胞を導入するリスクを回避する別の方法を提供するために、プロトオンコジーンまたは抗アポトーシスタンパク質の組換えコンストラクトの組み合わせにより幹細胞をトランスフェクションする代わりに、CHARIOT(商標)技術(Krackeler Scientific,Inc.,ニューヨーク州アルバニー)を用いて、プロトオンコジーンおよび/または抗アポトーシスタンパク質を細胞に導入することにより本発明が実施される。この技術では、CHARIOT(商標)ペプチドと、目的のタンパク質との間に非共有結合が形成される。これによりタンパク質が分解から保護され、トランスフェクションプロセスの間に、その本来の特性が保たれる。細胞に送達されると、複合体が分離し、CHARIOT(商標)は細胞核へ輸送される一方、送達されたタンパク質は生物学的に活性であり、自由に細胞内標的へ向かうことができる。有効な送達は、血清の有無にかかわらず行われることができ、巨大分子を細胞内に取り込む間に改変しうるエンドソーム経路から独立している。この送達システムは、転写−翻訳プロセスもバイパスする。したがって、細胞へのプロトオンコジーンまたは癌遺伝子の導入を必要とせずに、本発明に有用なタンパク質が細胞に送達され、放出されて、細胞を条件的に不死化させることができる。上と同様に、外来癌遺伝子配列が存在しないことにより、本発明の方法の臨床展開が改善されることが期待される。
【0108】
本明細書に記載される様々なウィルスのアプローチによる、プロトオンコジーンの宿主細胞ゲノムへの挿入による可能性を制御し、したがって形質転換事象を回避するための、さらに別の代替的(または追加的)手段として、薬物感受性(薬物敏感性)カセットをウィルスコンストラクトに導入して、すべての形質導入細胞および分化した子孫に発現するようにして使用できる。薬物感受性カセットまたは薬物敏感性カセットは、特定の薬物の存在に対する細胞の感受性または敏感性を高めるタンパク質をコードする核酸配列であり、これにより、薬物に曝露されると細胞活性が阻害され、好ましくはアポトーシスする。明白な原因(たとえば、感染、外傷、ストレスなど)なしに特定の血液細胞集団のレベルが上昇する患者には、感受性が導入されている薬物による治療を施すことにより、それらの細胞を除去し、遺伝子挿入により何らかの事情で起こりうる癌原性変異など、細胞に関して生じうる他の合併症を緩和することができる。したがって、非限定的な例として、本発明の方法で使用されるコンストラクトに、HPRTのcDNAをコードするカセットを導入して、6−チオグアニンに対する形質導入細胞の感受性を高めうる。別の非限定的な例は、ガンシクロビル、アシクロビル、および任意の関連の誘導体などの、関連の阻害物質に対する形質導入細胞の感受性を高めるための、単純ヘルペスウィルスファミリーメンバーのチミジンキナーゼcDNA(HSV−TK)の導入である。さらに、他の任意のこのような薬物感受性カセット、およびその関連のアゴニストも、同様の文脈で有効である。
【0109】
本発明にしたがい、核酸またはタンパク質を細胞に導入する他の方法は、当業者に明らかである。組換えDNAを宿主細胞ゲノムに導入するリスクを最小化または除去するものが、本発明に好ましく、そのような例の多くを上に記載した。
【0110】
本発明の条件的に不死化された細胞の使用方法
本発明の別の実施形態には、本発明の方法により作製された、混合およびクローン集団を含めた任意の幹細胞集団、ならびに、望ましい細胞型への分化、および任意の移植、細胞置換、病気治療、遺伝子操作、薬物発見、および細胞発生および分化の研究の方法を含めた、本明細書に記載の任意の方法における、本発明の幹細胞の使用法が含まれる。
【0111】
今では、容易に貯蔵し、回収し、増殖させ、操作することができる、均一な幹細胞の供給源を事実上無制限に作製できるため、このような幹細胞を幹細胞として使用するか、様々な細胞系統に分化させて使用してアッセイを行い、細胞分化、遺伝子発現、および細胞プロセスに対する様々な化合物の効果をテストできる。したがって、本発明の一実施形態は、細胞分化、遺伝子発現、および/または細胞プロセスを生じさせる化合物を同定する方法に関する。方法には一般に、本発明の方法により作製された幹細胞を、テストする化合物と接触させるステップと、化合物の非存在下との比較において、特定の結果、および、特に遺伝子発現、生物活性、細胞分化、細胞成長、細胞増殖など(下記を参照)の所望の結果を測定することにより、テスト化合物が幹細胞に対して所望の効果を有したかを判定するステップが含まれる。この方法を用いて、細胞分化、細胞活性または遺伝子発現を、事実上どのような側面からでもテストできる。一態様では、幹細胞は、化合物との接触の前に、遺伝子操作などにより操作される。遺伝子欠損をもつ個人からの幹細胞を、このようなアッセイで評価することにより、治療化合物(たとえば癌治療)を同定したり、遺伝子置換療法を評価したりできる。実際、本発明の技術は、特定の個人の細胞を標的として、個人の細胞に「合わせた」候補薬ならびに治療および戦略候補を特定する機会を提供する。さらに、上述のように、このようなアッセイを用いて、本発明の幹細胞を培養下で維持するために適切な、他の成長因子または培養条件を特定することもできる。そのようなアッセイの例は、下の実施例7に詳述されるが、本発明がこのアッセイに限定されるわけではない。
【0112】
本発明の別の実施形態は、細胞の系統決定および/または幹細胞からの細胞の分化および発生を研究する方法に関し、これには一般に、本発明の条件的に不死化された幹細胞を培養するステップと、様々な条件下で、細胞の系統決定または分化に影響しうる化合物または薬剤の存在または非存在下で、細胞の発生および分化に関連する遺伝マーカーおよび生物学的マーカーにつき、これらの細胞を評価するステップが含まれる。上述のように、本発明以前には、そのような研究は、目的の実験を行うのに十分な数の目的の細胞集団を入手できないこと、およびこれを生み出せないことにより、強く妨げられた。たとえば、特定の前駆細胞株の分化における中間体を同定またはスクリーニングするためには、意味のある再生可能な結果を提供するために、十分な数の細胞が得られなければならない。本発明の時点で利用できる技術を用いては、これは不可能だった。しかし、本発明は、様々な実験で使用できる、均一な幹細胞の増殖可能かつ基本的に無限の供給源を提供することにより、問題を解決する。この技術により、細胞分化および発見の分野における研究能力が大幅に高まる。一態様では、本発明の条件的に不死化された幹細胞を増殖させ、その後、細胞を条件的に不死化された状態に維持する条件の非存在下で(たとえば、本明細書に示される例示的な方法によれば、タモキシフェンの非存在下で)、サブセットを培養する。遺伝子発現、細胞表面マーカー、生体分子の分泌、または他の任意の遺伝子型または表現型マーカーの変化つき細胞を評価することにより、細胞分化および系統決定のプロセスを研究できる。成長因子または他の因子を培養に加えて、たとえば特定の細胞系統の系路に沿った分化を促進し、このような因子の存在または非存在下で、細胞の変化を評価できる。さらに、細胞を用いて、細胞の分化および発生に影響(制御)する培養条件、in vivo条件、因子、および薬剤を評価できる。
【0113】
本発明の任意のアッセイにおいて、細胞の遺伝子型または表現型の特徴の変化を検出する様々な方法は、公知技術である。遺伝子配列または発現を測定または検出するために使用できる方法の例には、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)、逆転写酵素−PCR法(RT−PCR)、in situ PCR法、定量PCR法(q−PCR)、in situハイブリダイゼーション、サザンブロット、ノーザンブロット、配列分析、マイクロアレイ分析、レポーター遺伝子の検出、または他のDNA/RNAハイブリダイゼーションプラットフォームが含まれるが、これに限られない。タンパク質レベルを測定する方法には、ウエスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合抗体免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫沈降、表面プラスモン共鳴、化学発光、蛍光偏光法、リン光、免疫組織化学的分析、マトリクス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)マススペクトル分析、マイクロサイトメトリ、マイクロアレイ、鏡検、蛍光標示式細胞分取(FACS)、フローサイトメトリ、および、DNA結合、リガンド結合、他のタンパク質パートナーとの相互作用、細胞シグナル伝達、酵素活性、および可溶性因子またはタンパク質の分泌などのタンパク質の性質に基づくアッセイが含まれるが、これに限られない。
【0114】
薬物スクリーニングアッセイにおいては、「テスト化合物」、「推定抑制化合物」または「推定制御化合物」という用語は、未知または以前に評価されていない、特定のプロセスにおける制御活性を有する化合物をさす。そのようなものとして、化合物を同定する方法に関する、「同定する」という用語は、特定の目的(たとえば、細胞分化の制御)のための化合物としての有用性が、本発明の方法により、好ましくはそのような化合物の存在および非存在下で判定される、全ての化合物を含む趣旨である。本発明の方法でスクリーニングされる化合物には、抗体、ペプチドライブラリの産物、および化学物質コンビナトリアルライブラリの産物などの、公知の有機化合物が含まれる。合理的なドラッグデザインを用いて、化合物を同定することもできる。そのような方法は当業者に知られており、三次元の画像診断ソフトウェアプログラムの使用を伴いうる。たとえば、本発明で有用なミメティクスまたは他の治療化合物をデザインまたは選択するのに有用な、ドラッグデザインの様々な方法が、Maulik等,1997年,Molecular Biotechnology:Therapeutic Applications and Strategies,Wiley−Liss,Inc.に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0115】
上述のアッセイのいずれにおいても、本発明の細胞、細胞可溶化物、核酸分子、またはタンパク質を、混合する等により推定制御化合物に曝露または接触させる条件は、任意の適切な培養またはアッセイ条件であり、これには、細胞を培養し(たとえば上述のように)、または推定制御化合物の存在および非存在下で細胞可溶化物を評価しうる、有効な培地の使用が含まれうる。本発明の細胞は、組織培養フラスコ、試験管、マイクロタイターディッシュ、およびペトリ皿を含むがこれに限られない、様々な容器内で培養できる。細胞に適切な温度、pH、および二酸化炭素含量で、培養が行われる。そのような培養条件も、従来技術の範囲内であり、本発明の条件的に不死化された幹細胞の培養に特に適する条件は、本明細書の他所に詳述される。細胞を、接触させる容器あたりの細胞数、細胞に投与される推定制御化合物(単数または複数)の濃度、推定制御化合物の細胞インキュベーション時間、および細胞に投与される化合物の濃度を考慮した条件下で、推定制御化合物に接触させる。容器のサイズ、容器内の液体の量、アッセイに使用される特定の細胞型の培養に適切であることが知られる条件、およびテストされる推定制御化合物の化学組成(すなわち、サイズ、電荷等)などの変数にもとづいて、当業者により、有効なプロトコルの決定が行われうる。
【0116】
本発明の一実施形態においては、本発明の細胞および方法は、ヒト臍帯血、末梢血から分離されたCD34+細胞、または成人CD34+細胞に由来するctlt−HSCの多能性を評価するための方法に有用である。このような方法は、実施例11に記載される。
【0117】
本発明のさらに別の実施形態は、急性骨髄性白血病(AML)の新規のモデルを生み出すプラットフォームとしての、ctlt−HSC細胞株の使用に関する。特に、本願発明者は、本発明のctlt−HSCを用いて、急性骨髄性白血病のマウスモデルを生み出した。これらは、表面マーカーの発現に基づいてHSCに類似する細胞からなる白血病である。ctlt−HSCを生み出してマウスの白血病を促進するために、10〜10のctlt−HSCが、10のRag−1−/−全骨髄細胞とともに、致死量の放射線を照射したレシピエントマウスに移入される。癌遺伝子の活性を維持するために、マウスに4−OHTを毎週投与し、従来技術で周知のように、白血病に関連する臨床徴候をモニタする。これらの動物から腫瘍を回収し、培養下で、4−OHTの非存在下で繁殖させうる。それらの細胞は、そのHSC様の表現型を維持し、増殖、生存、および分化の抑制がもはやMYCの過活性に強く依存しないことが示される。白血病細胞株は、第二次移植時にも、放射線を照射したレシピエントマウスに病気を与えることができる。これらの手段は、AMLおよび関連する病気のために生物学を研究し、新しい治療の道を広めるための、新しいプラットフォームを提供する。さらに、4−OHTで処置されたマウスへの、ctlt−HSC細胞株の導入は、4−OHTを除去することにより、療法の適当な陽性対照となる。薬剤抵抗性の形態のAMLに関連する治療標的を理解するために、in vivoにおける腫瘍の確立後に生まれた二次細胞株を用いることもできる。
【0118】
本発明の他の実施形態は、治療および健康に関連する様々な方法における、本発明の方法により生み出された幹細胞、ならびにそれらの幹細胞から分化した細胞の使用に関する。これらの方法には一般に、本発明の方法により作製された条件的に不死化された幹細胞の集団、培養物または株を得るステップと、このような細胞が条件的に不死化される条件を除去するステップと、その後、治療プロトコルにおいて細胞を使用するステップが含まれる。たとえば、細胞を必要とする個人に細胞を直接投与し、または、細胞をin vitroで所望の細胞型に分化させた後、個人に投与しうる。さらに、制御された環境下における遺伝子治療の新規の方法として、細胞が不死化される条件の除去の前または直後に、細胞をin vitroで遺伝子操作して、単数または複数の遺伝子を発現または沈黙させうる。その後、細胞を、幹細胞として個人に投与するか、または、まずin vitroで所望の細胞系統に分化させうる。
【0119】
幹細胞を得るためには、一実施形態では、治療される個人から幹細胞を得た後、本発明の方法に従って条件的に不死化する。これらの細胞は、大量に増殖させ、貯蔵(たとえば、冷凍または低温保存)することができ、その後必要に応じて何度も回収し、再び増殖させ、操作し、および/または使用できる。別の実施形態では、治療される個人からの条件的に不死化された幹細胞を前もって貯蔵したソースにアクセスすることにより、幹細胞が得られる。さらに別の実施形態では、前もって生み出され、「適合」ドナーを特定するために使用される現在の基準による集団の有意な割合に及ぶヒト幹細胞株パネルから、幹細胞が得られる。一実施形態では、新鮮な臍帯血または低温保存された臍帯血、in vitroにおけるES細胞の分化誘導から得られる造血前駆細胞集団、正常患者またはG−CSFで処置してlt−HSCの末梢循環への動員を誘発した患者の末梢血から得たHSCから、細胞が得られる。他の幹細胞のソースは、当業者に明らかである。細胞は、本明細書に前述した方法にしたがって培養され、不死化を制御する条件を、適切な時点で除去しうる。さらに、細胞を個人に投与する前に、細胞を操作して、条件的不死化に関与する遺伝子またはコンストラクト(すなわち、プロトオンコジーンおよび/または抗アポトーシスをコードする遺伝子)を切除でき、あるいは、Tat−融合について上述したように、培地に可溶性融合タンパク質を使用して細胞を維持する場合には、これらの可溶性タンパク質を段階的または直ちに培養から除去しうる。
【0120】
したがって、本発明には、本発明の方法により作製された幹細胞(このような幹細胞を含む組成物を含む)、またはこれらの細胞から分化した細胞の、個人(任意の動物を含みうる)への送達が含まれる。これらの方法で使用される幹細胞は、in vitroで作製されるため、幹細胞を最初に患者から分離する場合でも、細胞の全投与プロセスは、基本的にex vivo投与プロトコルである。Ex vivo投与とは、個人から除去された、条件的に不死化された幹細胞を作製するステップ(これには、基本的に普通の幹細胞に加えて、遺伝子操作された幹細胞を作製するステップが含まれうる)や、細胞またはこれらの細胞から分化した細胞を患者に戻すステップなど、調節ステップの一部を患者の対外で行うことをさす。本発明により作製された幹細胞、またはそこから分化した細胞は、任意の適切な投与様式によって、個人に戻され、または投与されうる。そのような投与は、全身投与、粘膜投与、および/または標的部位の位置の近位への投与でありうる。好ましい投与経路は、防止または治療される状態のタイプや、投与の理由によって決まり、当業者に明らかである。好ましい投与方法には、静脈内投与、腹腔内注射、筋内投与、結節内投与、冠内投与、動脈内投与(たとえば頸動脈)、皮下投与、経皮的送達、気管内投与、皮下投与、関節内投与、心室内投与、髄腔内、肺投与、カテーテル注入、組織への直接注入(たとえば、肝臓カニュレーション)が含まれるが、これに限られない。
【0121】
細胞は、担体または薬理学上許容可能な賦形剤とともに投与されうる。担体は、典型的には、治療された個人における、治療組成物の半減期を延長する化合物である。好適な担体には、ポリマー徐放製剤、生分解インプラント、リポソーム、油類、エステル類およびグリコール類が含まれるが、これに限られない。本明細書で使用されるところの、薬理学上許容可能な賦形剤とは、本発明の方法により作製された細胞を、適切なin vivo部位に送達するのに適した、任意の物質をさす。好ましい薬理学上許容可能な賦形剤は、細胞が標的組織または部位に到達した際に、細胞が個人にとって有益な態様で機能しうるような形に、細胞を維持することができる。
【0122】
本発明によれば、有効な投与プロトコルには、患者に一時的または長期的利益を与えるための、有用な数の機能細胞の患者への送達をもたらす、適切な用量パラメータおよび投与様式が含まれる。特定の状態または疾患のための、従来技術で標準的な方法を用いて、有効量パラメータを判断しうる。そのような方法には、たとえば、生存率、副作用(すなわち毒性)、および病気の進行または退行の判断が含まれる。
【0123】
本発明による、幹細胞またはそこから分化した細胞の適切な一回量は、適切な時間にわたり一回以上投与した場合に、有益な数の細胞を患者に供給できる量である。たとえば、本発明による幹細胞の好ましい一回量は、投与につき個人あたり約0.5×10〜約5.5×10、または約0.5×10〜約5.5×10、または約0.5×10〜約5.5×1010の幹細胞であり、約1×10〜約5.5×1010の用量がさらに好ましい。0.5×10および約5.5×1010の間の任意の用量が、10細胞単位で、本発明に含まれる。これより高用量または低用量は、当業者に知られており、投与される幹細胞または分化細胞の種類によって決まり、投与経路にもよる。当業者には当然のことながら、動物に投与される用量数は、状態または病気の程度、および、個々の患者の治療への反応に依存する。したがって、適切な数の用量には、所与の病気の治療に必要な、任意の数が含まれることは、本発明の範囲内である。
【0124】
本明細書で使用されるところの、「病気から保護される」という表現は、病気の症状を減らすこと;病気の発生を減らすこと、および/または病気の重症度を減らすことをさす。動物(個人、対象)を保護するとは、本発明により作製された細胞が、動物に投与された場合に、病気が生じるのを防止し、および/または病気の症状、徴候、または原因を治癒させ、または緩和する能力をさしうる。そのようなものとして、動物を病気から保護することには、病気の発生の防止(予防的処置)、および、病気の動物または病気の初期症状がある動物の処置(治療的処置)の両方が含まれる。「病気」という用語は、哺乳類の正常な健康状態からの一切の逸脱をさし、病気の症状がある段階だけではなく、逸脱(たとえば感染、遺伝子突然変異、遺伝子欠損など)が生じているが、症状はまだ表れていない状態を含む。
【0125】
上述のように、本発明の幹細胞を個人に投与することにより、様々な状態を治療または防止できる。たとえば、本発明の幹細胞株は、癌の治療、および、特に放射線により治療される癌の治療を含む、様々な移植および治療戦略に使用される、増殖可能な幹細胞の固有のソースを提供する。さらに、本発明は、個人の必要に応じて、造血細胞で個人を再構築する能力を提供するため、この技術は、様々な免疫不全症および貧血症(たとえば再生不良性貧血または溶血性貧血)にも、非常に利益になる。本発明の別の応用は、火傷被害者の再建手術、化学療法および/または放射線療法を受けて、発毛が不可逆的に失われた任意の個人、ならびに、頭蓋に影響する任意の外科的手技の後の患者、または遺伝性禿頭症の個人の発毛の誘導を伴う選択的処置の場面などで使用される、持続的に増殖可能かつ再生可能な毛嚢幹細胞の発生に関する。同様に、皮膚幹細胞への本発明の応用は、癒傷および火傷被害者の治療、ならびに外傷および他の患者の形成再建手術、ならびに、美容手術などを含む選択的手術における使用において非常に有用となる。このような細胞は、さらに遺伝的に操作することにより、若年および老齢の個人の、先天性または後天性の遺伝子欠損を修正することができる。当業者は、本開示に基づいて、肺、乳腺、および腸管上皮に由来する幹細胞、および神経および心臓組織に由来する幹細胞などを例として含む、様々な他の幹細胞集団に本発明を使用することにより、利益が得られることを理解するだろう。
【0126】
さらに、上述のように、本発明は、個人が、自家幹細胞およびそこから分化した細胞の増殖可能な供給源に、個人の一生を通して必要に応じてアクセスできる、固有の機会を提供する。本方法により生み出されたそのような幹細胞は、個人の生涯貯蔵して、必要な場合(たとえば、個人が癌または免疫不全症を発病した場合)に、治療プロトコルの一部として使用しうる。
【0127】
今では、個人から得、本発明の方法を用いて条件的に不死化し、増殖させた自家幹細胞を操作することにより、遺伝子欠損を修正し、または、有益な遺伝子組み換えを体細胞に導入できる。その後、幹細胞を、これを得た元の個人に再導入できる。
【0128】
本発明のさらなる応用には、COPD、IPF、気腫、喘息、および喫煙の結果生じる肺損傷を修復するための、幹細胞株の使用が含まれる。さらに、このような細胞は、心臓の血管損傷の治療に使用することもでき、致死線量照射後の自己免疫疾患(たとえば、SLE、糖尿病、RA)に役立ちうる。
【0129】
本発明の方法では、本発明の方法により作製された細胞、および、細胞を含む組成物は、霊長類、齧歯類、家畜類および家庭のペットなどを含む、脊椎動物類、哺乳類の任意の一員を含む、任意の動物に投与されうる。治療に好ましい哺乳類は、ヒトである。
【0130】
本発明の様々な態様は、以下の実施例および添付図において、さらに詳細に記載される。しかし、本発明は、本発明のこれらの実施例および図に限定されない。
【実施例】
【0131】
実施例1
以下の実施例は、長期造血幹細胞(lt−HSC)を可逆的に不死化する方法の開発を記載する。
【0132】
造血系統の発生は関連する細胞集団が少ないために、シグナル伝達および下流レスポンスの生化学的分析が妨げられ、分子基礎の解明がこれまで困難であった。実際これが、全ての造血研究の主な限定要因であった。さらに、LT−HSCの入手可能量が限られていることも、多くの種類の癌、ならびにいくつかのヒトの免疫不全の治療における、大きな障害であった。
【0133】
この限界を克服するために努力において、本願発明者は、初期の造血幹細胞の前駆細胞である、条件的に形質転換された細胞株を作製する方法を開発した。最初の戦略には、5FUで処置した若年および免疫学的に高齢の3−83のマウスの骨髄幹細胞の、レトロウィルスによる形質導入を伴った。発明者は、pMSCVバイシストロニックレトロウイルスベクターと、Bcl−2ならびにGFP、およびMYC−ERならびにGFPをコードするインサートを利用した[Van Parijs,L.,Y.Refaeli,A.K.Abbas,およびD.Baltimore.(1999年)Autoimmunity as a consequence of retrovirus−mediated expression of C−FLIP in lymphocytes.Immunity,11,763−70]。MYCは、リンパ球のサイトカインによる生存および増殖シグナルに代替できることが分かっていたため、これらの遺伝子が選択された。発明者は、標的細胞を限定することにより、幹細胞腫瘍が形成されると仮定した。この場合、MYC−ERの機能はタモキシフェンに依存し、動物または培養からタモキシフェンを除去することにより、MYCの機能および形質転換を停止できることが重要である。MYC−ERを形質導入した細胞では、融合タンパク質が産出されるが、タモキシフェンに曝露されるまで細胞質にとどまる。
【0134】
より詳しくいうと、5FUで処置したマウスからの幹細胞集団を、両方のレトロウィルス(MFC−ERおよびBcl−2をコード)で形質導入し、致死量の放射線を照射(1200ラド)したレシピエントマウスに移入した。十日後に、MYC機能を活性化するために、油中で乳化した4−ヒドロキシタモキシフェン(40HT)1mg/マウスの、毎週の腹腔内注射を開始した(図1)。四週間以内に、若年(高齢でない)形質導入幹細胞のレシピエントは、腫瘍を発症した。腫瘍を、骨髄、脾臓、およびリンパ節から採取し、サイトカインは加えずに、タモキシフェンとともにin vitroで培養した。これらの細胞は、約10日間成長したが、その後成長が停止し、細胞は結局死滅した。細胞は分化していたと考えられ、これは、細胞の成長にサイトカインが必要なためではないかと考えられた。図1においては、曲線は、移植およびin vivoにおけるMYC機能の活性化後の、死亡率のキネティクスである。マウスは、一様に白血病になった。MYCの過剰発現は、サイトカインに依存する増殖および生存機能に代替できるが、サイトカインに由来する分化シグナルには関係していないようである。
【0135】
病気になったマウスは、安楽死させた。骨髄、脾臓、およびリンパ節細胞を採取し、タモキシフェンおよび幹細胞成長因子カクテル(IL−6、IL−3、および幹細胞因子(SCF))とともに培養した。並行して、フローサイトメトリにより細胞を分析した(図2)。図2においては、ドットプロットは、IL−3、IL−6、およびSCFとともに3日間培養した後の、HSCの前方散乱特性(FSC)および側方散乱特性(SSC)の、フローサイトメトリデータである。これらの二つの基準は、細胞の大きさ(FSC)および粒度(SSC)に関連する。二つの集団は、類似のプロフィルを有する。ヒストグラムは、各細胞集団に発現されるGFPのレベルをあらわす。これは、MYC−ERおよびBcl−2のcDNAをコードするレトロウィルスによる、in vitroのレトロウィルスによる形質導入の効率を反映する。
【0136】
全てのケースにおいて、GFPのex vivo細胞のうち>90%が、Sca−1および系統マーカー陰性だった。培養数日後に、細胞は成長を開始し、約400株を、後の研究のために冷凍した。これらの細胞は、増殖後にEGFPの発現が維持され、一様にSCA1が陽性、CD34、Flk2および系統マーカーが陰性だった(図3)。若年マウスのマーカーと高齢マウスのマーカーの間の、マーカー発現の唯一の差は、若年におけるc−kitの発現の増加であった。理論にとらわれずにいえば、これは、マーカーを分析する前に、高齢株をc−kitリガンドでより長く(3ヶ月対3週間)培養した結果ではないかと考えられる。最後に発明者は、これらの株が、冷凍後に容易に回復できること、および、元の表現型を維持したことを発見した。これらの細胞株は、表現型がみな同じであり、マウスにおける全ての長期的再構築を提供するlt−HSCの表現型を有したことが重要である(Reya,T.,Duncan,A.W.,Ailles,L.,Domen,J.,Scherer,D.C.,Willert,K.,Hintz,L.,Nusse,R.,およびWeissman,I.L.(2003年).A role for Wnt signaling in self−renewal of hematopoietic stem cells.Nature 423,409−14)。
【0137】
発明者は最近、上述の通りに作製された、10の骨髄由来の株を解凍し、サイトカインカクテルおよび4OHT中で培養することにより、これらの株の10中9を簡単に回復できた。発明者は、これらの腫瘍のフェノタイピングを行い、結果は非常に有望だった。特に、各株に、前方および90度光散乱にもとづいて、二つの異なる細胞集団が含まれていることが確認された。9の株は、これらの集団の比率のみが異なった。これらの集団のうち、細胞の大きさが大きなものは、一様にGFPが発光し、Sca1、Endoglinおよびckitが陽性だったが、Flt3、B220、CD19およびmIgMは陰性だった。CD34も陰性のようだったが、これには確認が必要だった(図3)。この表現型は、公開された長期再構築多能性幹細胞の特徴(Reya等、上記)と、完全に一致する。発明者は、若年ドナーマウスから得られた形質導入HSCに生じた白血病から最近得た細胞株に、同じ初期の表現型を観察した(図3)。
【0138】
これらの細胞が分化する能力をテストするために、代表的な株を、タモキシフェンを伴って、および伴わずに、IL−3、IL−6、およびSCFの存在下で7日培養して、MYC−ERの機能を停止させた後、表現型マーカーを分析した。図4に示されるように、有意な割合の細胞が、B220(〜12%)、CD19(〜10%)、およびmIgM、(〜10%)を含むB系統マーカーを獲得した。さらに、発明者は、4OHTを培養から除去することにより、in vitroで以下の系統を生み出すことができた:CD4+abT細胞、骨髄性細胞(Mac−1+)、ter−119+赤血球前駆細胞、NK1.1発現細胞、好中球(Gr−1+細胞)。さらなる実験により、これらの細胞が他の系統を生み出す能力、ならびに、サイトカインの投与法の変更が分化に与える影響が評価される。比較は行っていないが、高齢動物と比較して、若年動物からの分化では、B細胞がはるかに効率的に生産されることが期待される。本願発明者の知る限りでは、これは、in vitroで分化を誘発できる、条件的に不死の造血幹細胞株の最初の例である。
【0139】
実施例2
以下の例は、致死量の放射線を照射したレシピエントへの、LT−HSC株の養子移入の結果を記載する。
【0140】
実施例1に記載されるHSC株が、高齢動物におけるB細胞リンパ球生成不全の原因の分析に用いるのに適切な対象であるならば、in vivoでその不全を再現できるはずである。発明者は、致死量の放射線を照射したレシピエントへの、LT−HSC株の養子移入によって、この仮説の検証を始めた。最初の実験では、高齢動物(>60%ID)からの株を、RAG2−/−骨髄とともに移入し、MYC−ERを沈黙させるために、レシピエントをタモキシフェンで処置しなかった。六週後に、レシピエントの骨髄および脾臓細胞を採取し、GFP細胞(GFPはHSC株に由来する細胞をラベルする)の回復および表現型を分析した(図5)。
【0141】
図5に示される三匹のマウスからのデータにおいて、1匹のマウスは、高齢HSC株ABM42を受け、二匹のマウスは、高齢HSC株ABM46を受けた。移入された株によって、リンパ球散乱ゲートの細胞の30〜70%が、GFPであった。図5に示されるように、テストした両方の株(ABM46およびABM42)から、B(CD19)およびT(TCR、CD4、CD8)細胞、マクロファージ(CD11b)および顆粒球(GR1)が生じた。これらの系統の割合は、レシピエント間で変動があった。しかし、テストされた両方の系統から、成熟したCD4およびCD8シングルポジティブのT細胞が生じたが(図7)、B細胞発生は、前駆体の段階を越えて進行しなかったことが重要である(図6)。B220、CD19細胞は、発生したがmIgの段階までは進まなかった。これはまさに、免疫学的に高齢のマウスからのBM HSCを用いた自己再構築、および養子再構築を伴う実験の結果から予測される帰結である(Johnson,S.A.,S.J.Rozzo,およびJ.C.Cambier,Aging−dependent exclusion of antigen−inexperienced cells from the peripheral B cell repertoire.J Immunol,2002年.168(10):p.5014−23)。換言すれば、免疫学的に高齢のマウスからの全骨髄が移植に使用された場合にも、同様の発育停止が観察される。
【0142】
発明者は、このシステムをさらに進めて、元のHSC株の養子先レシピエントの骨髄から、LT−HSC株を良好に再構築できることを発見した(データは示されない)。これは単に、骨髄細胞を、幹細胞サイトカインおよびタモキシフェン中で培養してMYCを再活性化することにより、達成された。これらの細胞は、現在成長しており、元の表現型を有する。
【0143】
実施例3
以下の例は、完全にin vitroで行われる方法を用いて、HSCを可逆的に不死化する方法を記載する。
【0144】
本明細書中で前述した、条件的に不死化された長期HSC細胞株を生み出す方法に加えて、発明者は、この手順を完全にin vitroで行うことができた。前述の方法は、形質導入HSCをマウスに導入し、in vivoでそれらの形質転換を誘発することによる。この手順をin vitroで行う利点は、プロセスの全ての局面が、制御された環境で行われるとことである。
【0145】
方法にはまず、5−フルオロウラシル(5−FU)でドナーマウスを処置することによりHSCを増やし、これらの細胞の増殖を誘発することが含まれる。マウスの脛骨および大腿骨から、5FUで増やした造血幹細胞を回収した後、24ウェル組織培養プレートで、熱で不活性化した15%のウシ胎仔血清、ならびにIL−3、IL−6およびSCFを含む、DMEM培地中に、ウェルあたり1.8−2.0×10細胞の密度でプレートした。MYC−ERおよびBcl−2をコードするレトロウィルスベクターにより、細胞をレトロウィルスで形質導入するために、三ラウンドでスピンインフェクションした。簡潔にいうと、細胞に、pMIG−MYC.ERまたはpMIT−Bcl2をトランスフェクションした。ウィルスを含む上清を回収し、4μg/mlのポリブレンおよび10mM HEPESを添加し、0.45μmフィルタに通した。二つの異なるウィルス上清を、1:1の比率で混合し、ウェルに加えた。その後細胞を、2000rpmで一時間遠心分離した。スピンインフェクションが終了するごとに、ウィルス上清を交換した。最終ラウンドのインフェクションから24時間後に、形質導入効率を判定するために、フローサイトメトリ解析により形質導入のレベルを判定した。その後、IL−3、IL−6、SCF、および10nMの4OHTを含むDMEM培地中で、形質導入細胞をインキュベートした。3日毎に培地を交換し、新しいサイトカインおよび4OHTの供給を特に確保するようにした。必要なだけ、ゆっくりと細胞を通す。
【0146】
発明者は、このin vitroアプローチを用いて、以下の遺伝子の組み合わせの、条件的に不死化された細胞株を生み出すことができた:MYC−ERおよびBcl−2;MYC−ERおよびhTERT(ヒトテロメラーゼ逆転写酵素);ICN−1−ER(Notch−1の細胞内部分の、ERで制御された活性要素)およびBcl−2;ICN−1−ERおよびhTERT;および、MYC−ERおよびICN−1−ER。図8−11に示されるデータは、これらの細胞株のほとんどの、初期特徴づけを示す。c−kit+、Sca−1+、CD34−、flk2−の細胞からなる株が生じたが、これは、通常の長期造血幹細胞により示されるものと一致する表現型である。レトロウィルスによりコードされたレポーター遺伝子(GFPおよびthy1.1)、ならびに幹細胞の四つのマーカー:c−kit、sca−1、CD34、およびflk−2の、フローサイトメトリ解析から、図8−11に示されるデータが得られる。図8−11に示される細胞株は、フェノタイピングの前に、5週間培養されている。これらの細胞は、35日以上の連続培養において増殖し、分割されて、現在に至る。
【0147】
図8を参照すると、この図は、レトロウィルスによりBCL−2およびMYC−ERを形質導入し、連続的in vitro培養において>90日間維持した、若年C57/BL6マウスから得たHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す。90日間の培養から3(若年)ヶ月後の、代表的なクローンの表現型が示されている。
【0148】
図9を参照すると、この図は、レトロウィルスにより様々な組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、連続的in vitro培養において>90日間維持した、若年C57/BL6マウスから得たHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す。5FUで増やしたHSCに、pMIG−MYCおよびpMIT−Bcl−2(上パネル)、pMIG−MYC.ERおよびpMIG−hTERT(中パネル)、または、pMIG−ICN.1.ERおよびpMIT−Bcl−2を、レトロウィルスにより形質導入した。15%のウシ胎仔血清と、IL−6、IL−3およびSCFのカクテルとを添加したDMEMにおいて、細胞を維持した。90日間の培養から3(若年)ヶ月後の、代表的なクローンの表現型が示されている。パネルは、ウィルス発現マーカー(GFPおよびThyl.l)、ならびに、マウスにおける長期HSCを特徴づける四つのマーカー、Sca−1、c−kit、CD34およびFlk−2の発現の、フローサイトメトリ解析の結果である。四つの細胞株には、lt−HSCの表現型(Sca−1+、c−kit+、CD34−、flk−2−)を維持した亜集団が含まれていた。
【0149】
図10を参照すると、この図は、レトロウィルスにより様々な組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、連続的in vitro培養において>90日維持した、若年C57/BL6マウスから得たHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す。5FUで増やしたHSCに、pMIG−ICN.1.ERおよびpMIT−Bcl−2(上パネル)、pMIG−ICN.1およびpMIT−Bcl−2(第二列パネル)、またはpMIG−ICN.1およびpMIG−Bcl−2(第三列パネル)、またはpMIG−hTERTおよびpMIT−Bcl−2(下パネル)を、レトロウィルスにより形質導入した。15%のウシ胎仔血清と、IL−6、IL−3およびSCFのカクテルとを添加したDMEMにおいて、細胞を維持した。90日間の培養から3(若年)ヶ月後の、代表的なクローンの表現型が示されている。パネルは、ウィルス発現マーカー(GFPおよびThyl.l)、ならびに、マウスにおける長期HSCを特徴づける四つのマーカー、Sca−1、c−kit、CD34およびFlk−2の発現の、フローサイトメトリ解析の結果である。四つの細胞株には、lt−HSCの表現型(Sca−1+、c−kit+、CD34−、flk−2−)を維持した亜集団が含まれていた。
【0150】
図11を参照すると、この図は、レトロウィルスにより様々な組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、連続的in vitro培養において>90日間維持した、若年C57/BL6マウスから得たHSCに由来する細胞株の、表現型の比較を示す。5FUで増やしたHSCに、pMIG−MYCおよびpMIG−ICN.1(上パネル)、pMIG−MYC.ERおよびpMIG−ICN.1(中パネル)、またはpMIG−ICN.1.ERおよびpMIG−MYCを、レトロウィルスにより形質導入した。15%のウシ胎仔血清と、IL−6、IL−3およびSCFのカクテルとを添加したDMEMにおいて、細胞を維持した。90日間の培養から3(若年)ヶ月後の、代表的なクローンの表現型が示されている。パネルは、ウィルス発現マーカー(GFPおよびThyl.l)、ならびに、マウスにおける長期HSCを特徴づける四つのマーカー、Sca−1、c−kit、CD34およびFlk−2の発現の、フローサイトメトリ解析の結果である。四つの細胞株には、lt−HSCの表現型(Sca−1+、c−kit+、CD34−、flk−2−)を維持した亜集団が含まれていた。
【0151】
これらの細胞株を、in vivoにおける細胞内コンパートメントの再構築にも用いた。図12を参照すると、この図は、レトロウィルスにより様々な組み合わせの癌遺伝子を形質導入し、連続的in vitro培養において>90日間維持した、若年C57/BL6マウスから得たHSCに由来する細胞株の、T細胞およびB細胞内コンパートメントのin vivo再構築の結果を示す。簡潔にいうと、5FUで増やしたHSCに、pMIG−ICN.1−ERおよびpMIG−hTERT(上パネル)、pMIG−MYC.ERおよびpMIG−hTERT(中パネル)、またはpMIG−MYC−ERおよびpMIT−Bcl−2(下方パネル)を、レトロウィルスにより形質導入した。15%のウシ胎仔血清と、IL−6、IL−3およびSCFのカクテルとを添加したDMEMにおいて、細胞を維持した。致死量の放射線を照射した若年C57/BL6マウスを、Rag2−/−マウスからの骨髄幹細胞およびin vitroで生み出したLT−HSC株を用いて再構築した。六週間後に、骨髄を採取し、特定の系統マーカーのパネルで染色した。成熟したCD4およびB220陽性/GFP陽性細胞の発生が、容易に観察できる。四匹の代表的なマウスからのデータが、この図に示される。各群において、約30%のマウスが、GFPマーカーを維持する。
【0152】
実施例4
以下の実施例は、in vitroで、ヒト臍帯血および骨髄に由来するHSCを可逆的に不死化する方法の延長を記載する。
【0153】
この技術のさらなる応用の一つは、ヒト長期造血幹細胞を、その条件的不死化を通じて、in vitroで増殖させられることである。したがって発明者は、前の実施例に記載したin vitroの方法を多少変更して、ヒト細胞に応用した。まず、ヒト細胞の効率的形質導入を可能にするために、レトロウィルスを、好ましくは両指向性のエンベロープでパッケージする。さらに、細胞のソースは、発明者の機関の施設内倫理委員会により定められた一切の規約にしたがって、臍帯血バンクから匿名で得られるヒト臍帯血である。得られた細胞は、高速細胞選別による純粋な集団の分離に究極的に有用でありうるレポーター遺伝子を発現する。発明者は、ネズミ科のlt−HSC細胞株から生じる多くの成熟細胞で、表面マーカーの発現がなくなることを認めたが、これは、系統決定および分化の際の、レトロウィルスのゲノムのメチル化による可能性がある。ヒト細胞にも同様の反応が予想されるが、その場合には、移植レシピエントにおけるlt−HSCおよびその保有率を、細胞内のレポーター遺伝子ととともに、その細胞集団の細胞表面マーカーの存在によりモニタしうる。
【0154】
実施例5
以下の実施例は、条件的に不死化されたHSC細胞からの、MYC−ERおよびBcl−2をコードするDNA断片の順次的切断へのアプローチを記載する。
【0155】
MYC.ERおよびBcl−2をコードする導入遺伝子をもつHSCを、ヒトおよび/またはマウスに導入するリスクを回避するために、これらの二つのDNA断片を、バクテリアリコンビナーゼのアプローチを用いて切断する。任意の一時点で二つの遺伝子のいずれを切断するかを制御できるように、二つの異なるリコンビナーゼが使用される。そのようなリコンビナーゼの二つの例は、CreおよびFlpリコンビナーゼである。簡潔にいうと、一方のリコンビナーゼの基質認識配列(RSS’s)が、癌遺伝子ならびにレポーター遺伝子(たとえばGFPまたはThy1.1)の転写解読枠に隣接するように、レトロウィルスのコンストラクトに導入される。この場合、細胞は、Tat−Cre融合タンパク質を含む培地でインキュベートされる。この組換えタンパク質は以前に記載されており、受動的に細胞に入り、ゲノムDNAのloxP部位特異的組換えを媒介できることが示されている。
【0156】
このアプローチによって、in vitroおよびin vivoで分化する多数のHSCの発生を可能にするために、多くのことを達成できる。第一に、条件的形質転換プロセスの間に慣れたハイレベルの増殖および生存シグナルから、細胞を段階的に引き離すことができる。第二に、細胞のホメオスタシス機能および分化が、通常のサイトカインに依存するように、細胞を再適応させることができる。第三に、リポーター発現が逐次なくなることにより、問題の各遺伝子の欠失の状態および程度を明らかにできる。したがって、両方のレポーター遺伝子(GFPおよびThy1.1)を発現する細胞は、両方の配列(それぞれMYCおよびBcl−2)を含み、Thy1.1を発現するがGFPを発現しない細胞は、MYCをコードする配列が欠失しているが、なおBcl−2遺伝子を含み、最後に、GFPまたはThy1.1のいずれも発現しない細胞は、それらの対立遺伝子が両方とも欠失している。図13は、このアプローチをダイアグラムに表わす。
【0157】
さらに、テトラサイクリンの除去およびtTA(テトラサイクリントランス活性化タンパク質)と呼ばれる細菌タンパク質の存在により、ヒトMYC導入遺伝子の発現を誘発しうるマウス系統から、5FUで増やしたBM−HSCを得ることにより、このアプローチをマウスでテストする。ヒトMYCのcDNAを、テトラサイクリン制御性転写要素(TRE)の下流でクローニングした。TRE−MYCマウスを5FUで処置し、BM−HSCの採取に用いる。それらの細胞を、Bcl−2およびtTA(pMIT−Bcl2およびpMIG−tTA)を発現するレトロウィルスにより、in vitroで形質導入する。MYC導入遺伝子の沈黙を維持するために、ドキシサイクリンの持続的存在下で、細胞を培養する。細胞をフローサイトメトリにより分析したら、ドキシサイクリンを含む食事では維持されないマウスに再び移植するために使用しうる(ドキシサイクリンは、通常in vivoで使用されるテトラサイクリンの、より安定型である)。
【0158】
lt−HSC細胞株が生み出されたら、それらをin vitroでドキシサイクリンの存在下で培養する効果を、4OHTの非存在下で培養されるMYC.ERをもつ細胞株と平行して調べる。MYCのタンパク質レベルを、ウエスタンブロットおよび細胞内染色のアプローチにより、一貫してモニタする。
【0159】
実施例6
以下の実施例は、液体組織培地から4OHTを除去した後の、in vitroにおける多数の造血系統の発生を記載する。
【0160】
HSCの能力を判定するために用いられる従来の方法は、HSCの特定の系統への分化を強化するためのサイトカインと、半固体培地(メチルセルロース)の使用を伴う。発明者は、in vitroで、本発明の方法を用いて作り出されたこの細胞集団の多能性を判定したかった。この点を調べるために、本明細書に記載のABM42およびABM46細胞株を、IL−3、IL−6、およびSCFを含むが4OHTを含まない培地で維持した。発明者が再構築マウスにおいて検出できた系統(リンパ性、骨髄性、および顆粒球性)に加えて、NK1.1またはter−119を発現するGFP+細胞も検出できた(図14)。NKl.1細胞は、NK細胞かNK−T細胞でありえた。ter−119を発現する細胞は、赤血球系統である。これらの結果は、これらの細胞株が、通常の造血系の全ての要素を生み出せること、および、受動的療法に使用する特定の要素を大量に生み出すために、細胞が有用であることを示している。さらに、造血における初期事象を研究し、遺伝障害、または化学療法の通常の過程で生じる合併症、さらには感染症における治療的介入のための新しい療法を特定するために、それらが非常に有用かつ重要となる。
【0161】
実施例7
以下の実施例は、条件的に形質転換された長期HSCにおける、分化を誘発または阻害する小分子または生物学的薬剤のハイスループット・スクリーニングの方法を記載する。
【0162】
以下は、HSCの分化を誘発または阻害する小分子または生物学的薬剤をスクリーニングする、一般的な方法である。以前には、多数の幹細胞を入手することが不可能であるという事実により、この種の大規模なスクリーニングは妨げられていた。長期HSCを条件的に不死化する本願発明者の現在の能力により、現在はそのような技術を提案することが可能である。
【0163】
例としては、そのような方法の一つは、Schneider等(Schneider,T.,およびIssekutz,A.C.(1996年).Quantitation of eosinophil and neutrophil infiltration into rat lung by basic assays for eosinophil peroxidase and myeloperoxidase.Application in a Brown Norway rat model of allergic pulmonary inflammation.J Immunol Methods 198,1−14)に記載の、骨髄球分化の測定である。簡潔にいうと、条件的に形質転換された長期HSCを、様々な濃度の細胞数(通常は2×l04〜5×l0細胞/ウェル)で、96ウェルのフラットボトムプレートにプレートする。細胞を未分化状態に維持するために4OHTを加えた完全培地(DMEM+15%の熱で不活性化したウシ胎仔血清、1Xペニシリン/ストレプトマイシン、1Xl−グルタミンおよび1X可欠アミノ酸に、IL−3、IL−6およびSCFを添加)か、または分化を誘発するために4OHTの非存在下のいずれかで、スクリーニングが行われる。これらの条件により、骨髄球分化のパターンと一致する、Mac−1+細胞が生み出されることが示されている。このシステムを、サイトカインパネルの特定の機能のスクリーニングに使用することもできるが、新たなサイトカインを加えて、特定の系路に分化を導くことができる。この場合には、IL−3、IL−6およびSCFを添加せず、テストまたは分化の誘導に使用される特定のサイトカイン(たとえば、CSF−1、G−CSF、GM−CSF、EPO、TEPOなど)を代わりに添加した、完全培地が加えられる。
【0164】
小分子、生物学的薬剤、または正の対照物質(たとえばヒ素0)を、96ウェルプレート全体に滴定し、ltHSCとともに、24から72時間、またはそれ以上の、テストされる薬剤または分子に基づいて必要と判断される時間、インキュベートする。インキュベーション後、細胞をPBSで洗浄し、PBSに再懸濁し、−80℃で一晩貯蔵して、細胞を溶解させる。その後、細胞を室温で解凍し、プレートを、3,000rpmで10分間遠心分離する。その後、上清を新しい96ウェルプレートへ移し、テトラメチルベンジジン(TMB)と40分間混合する。4NのHSOにより反応を止め、450nmでO.D.を測定する。この種のハイスループット・アッセイを用いて、小分子または生物学的薬剤が、条件的に形質転換された長期HSCの様々な細胞型への分化を誘発または妨害する能力をテストできる。その後、これらのスクリーニングの結果を、in vivoでHSCの分化を誘発または阻害する能力について、さらにテストできる。このアッセイフォーマットの変化形は、当業者に明らかであり、本発明に含まれる。
【0165】
実施例8
以下の実施例は、造血系統の中間の細胞株を生み出すための、本発明の方法の使用を記載する。
【0166】
以下のプロトコルを用いて、条件的に不死化されたlt−HSC細胞株を、致死量の放射線を照射したマウスに移植した後に、造血系統発生の中間段階にある細胞株の発生を誘発できる。まず、本発明の方法により生み出された10〜10の条件的に形質転換されたlt−HSC細胞株を、致死量の放射線を照射したレシピエントマウスのコホートに移入する。移植には、放射線を照射したマウスの初期生存を確保するために、担体としての105のRag−1−/−細胞も含む。条件的に形質転換されたlt−HSC細胞株に由来する、部分的に分化した細胞を不死化するために、マウスに、1mgのタモキシフェンを毎週腹膜内注入する。注入は、最初の移植から3日〜1週間後、または移植から8週間後に、条件的に形質転換されたlt−HSC細胞株によりマウスが完全に再構築されてから開始する。タモキシフェンによる処置から三日後、または白血病に関連する臨床徴候が見られた時に、マウスの脾臓および骨髄細胞から細胞を集める。4−OHTを伴う標準的な骨髄培養条件(DMEM、15%のウシ胎仔血清、pen/strep、L−グルタミン酸、非必須アミノ酸、IL−3、IL−6およびSCF)、または、異なる造血細胞型に使用される他のサイトカインおよび培地の存在下で、細胞を培養する。細胞株を冷凍し、および/または増殖させ、限界希釈法による単細胞クローニングも行い、プロウィルス組み込みのPCR増幅により決定し、冷凍し、その後フローサイトメトリにより表面マーカー発現を特徴づけた。この種のアプローチは、レシピエントとしてNOD/SCIDマウスを使用し、または新生児Rag−1−/−マウスに肝内注入をして使用することにより、ネズミ科およびヒトctlt−HSC細胞株の両方に使用される。
【0167】
実施例9
以下の実施例は、本発明の方法の使用、および、成熟したCD4+αβT細胞をin vitroで生み出して、T細胞発生の中間段階にある細胞株を開発するために使用されるプロトコルの採用を記載する。
【0168】
この実験では、本発明の方法により生み出された、条件的に不死化されたlt−HSC細胞株を、IL−7を添加し、タモキシフェンを伴わない、標準的なサイトカインカクテルの存在下でプレートする。Notch−1リガンドのJaggedを発現するOP−9間質細胞層で、平行培養を確立する。T細胞の発生をモニタするために、培養開始後48時間毎に、細胞をT細胞系統マーカーで染色する。T−系統の決定および発生の兆候を示すウェルは、タモキシフェンを含む培地に切り替えて、表現型を安定化させ、細胞株を確立する。得られた細胞株は、実施例8に記載されるように、増殖させ、クローニングし、特徴づけを行う。T細胞株は、そのT細胞受容体レパートリの使用を判定するために、個々のTCR−Vβ対立遺伝子特異的に染色する。成熟T細胞株の一部、または前駆体集団である細胞株を、Rag−1−/−マウスに移植し、in vivoで正常な耐性およびホメオスタシスメカニズムを獲得する能力、ならびに、適切な場合にin vivoでさらに分化する能力を評価する。最後に、抗原による刺激に反応する能力を、in vitroおよびin vivoで評価する。
【0169】
実施例10
以下の実施例は、発生の中間段階の細胞株および骨髄性白血病モデルを開発するための、本発明の方法の使用、および、HSCの骨髄性細胞系統への分化誘導のために使用されるプロトコルの採用を記載する。
【0170】
この実験では、本発明の方法により生み出された、条件的に不死化されたlt−HSC細胞株を、G−CSFを添加し、タモキシフェンを伴わない、標準的なサイトカインカクテルの存在下でプレートする。骨髄性細胞の発生をモニタするために、培養開始後48時間毎に、細胞を骨髄性系統マーカーで染色する。骨髄性系統拘束および発生の兆候を示すウェルは、タモキシフェンを含む培地に切り替えて、表現型を安定化させ、細胞株を確立する。得られた細胞株は、実施例8に記載されるように、増殖させ、クローンニングし、特徴づけを行う。得られた細胞株の一部は、Op/Opマウス(本来的にマクロファージが欠けた変異マウス)を再構築する能力をモニタするために、マウスに再び移植される。それらの細胞株は、始終タモキシフェンで維持される野生型マウスにも移植して、これらの細胞株からヒトAML、CMLおよびAPLに似た骨髄性白血病も生じるかを判定する。これらの新規の腫瘍は、前臨床治療の新規のモデルを提供する。
【0171】
実施例11
以下の実施例は、NOD/SCIDまたはRAG−/−異種移植モデルを用いた、in vivoのヒト成人ctlt−HSC細胞株の発生、およびその多能性の検査を記載する。
【0172】
この実験では、(本発明の方法により)両指向性のエンベロープを用いてパッケージされた、MYC−ER、Bcl−2およびGFP(後で移植された細胞を検出するため)をコードするレトロウィルスベクターにより、CD34+細胞(動員血液または臍帯血からの)を、in vitroで形質導入する。ネズミ科のHSCを用いて上述した通り、4OHTおよび成長因子の存在下でのin vitro増殖により、lt−HSCを選択する。lt−HSC株を、致死量以下の放射線を照射したNOD/SCIDまたはNOD/SCID/β−2M−/−またはRag−1−/−またはRag−2−/−マウスに移植した後、6〜12週間後に、免疫蛍光フローサイトメトリにより全ての血液細胞系統を分析することにより、選択した細胞の多能性を評価する。より詳しくいうと、本発明の方法を用いてctlt−HSC細胞株を発生させた後、二つの異なる相補的なアプローチを用いて、多能性を検査しうる。第一のアプローチでは、様々な量のクローンのctlt−HSC細胞株を、致死量以下の放射線を照射したNOD/SCIDマウスまたはNOD/SCID/β−2M−/−マウスに導入する。この場合には、マウスに致死量以下の放射線を照射した(0.3Gy)後に、ヒトctlt−HSCに由来する10〜10の細胞を、静脈内に移入する。移植から6〜12週間後に、マウスの再構築を分析する。第二に、ヒトctlt−HSCに由来する10〜10の細胞を、新生児Rag−1−/−またはRag−2−/−マウスの肝臓に、直接注入により導入する。それらの異種移植も、移植から6〜12週間後に、適切な再構築を分析する。
【0173】
実施例12
以下の実施例は、移植後に、ctlt−HSCのMYCおよびBcl−2の発現を止めるための、条件的アプローチの使用を記載する。
【0174】
この実験では、幹細胞の形質転換に使用されるウィルス(ウィルスベクター)を、MYC−ER、Bcl−2、およびGFPの転写解読枠(ORFS)に隣接する二つのloxP部位を含むように再操作する。細胞を移植する際には、制御可能な形のCreまたはCRE−TAT融合タンパク質を用いて、癌遺伝子をコードする配列を削除し、これにより、レシピエントにおけるインサートによる悪性腫瘍のリスクが取り除かれる。このアプローチは、まずマウスで開発され、その後ヒトlt−HSCに応用される。
【0175】
第二のアプローチでは、TRE−MYCマウスからのlt−HSCを用いて、Bcl−2またはrtTAをコードするレトロウィルスにより、細胞株を生み出す。これらを、マウスに移植する。マウスにドキシサイクリンを与えて、MYCの発現を止める。pMIG−rtTAレトロウィルスにより形質導入しうる、TRE−MYCxTRE−Bcl−2バイジェニックマウスから得たlt−HSCを用いて、MYCおよびBcl2の発現を除去できる。
【0176】
実施例13
以下の実施例は、lt−HSCの遺伝子組み替えを伴わずに、条件的形質転換を達成するための、MYCおよび/またはBcl−2との、HIV−1Tatタンパク質の融合の使用を記載する。
【0177】
MYC−TatおよびBcl−2−Tat融合タンパク質を生み出し、確立されたプロトコルを用いて精製する。細胞の処置により融合タンパク質をテストし、過剰発現したBcl−2(たとえば、活性化T細胞、BCMA−Fcに耐性を得たB細胞リンパ腫の細胞株など)またはMYC(たとえば、アネルギーB細胞、ナイーブT細胞、活性化T細胞)の効果を容易にアッセイできる。移植前のlt−HSCの増殖を可能にするために、MYC−TatおよびBcl−2−Tatタンパク質の組み合わせを用いる。このアプローチは、マウスシステムで直ちに開発およびテストされ、その後ヒトに応用される。
【0178】
米国特許仮出願第60/728,131号および米国特許仮出願第60/765,993号の開示の各々は、参照により全体として本明細書に組み込まれるものとする。
【0179】
本発明の様々な実施形態を詳述しているが、当業者により、それらの実施形態の変更および修正がなされうることは自明である。しかし、当然のことながら、そのよう変更および修正は、以下の請求項に記載される本発明の範囲内である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法であり、
a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、
b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーン、またはその生物学的に活性の断片またはホモログを含む核酸分子を、前記幹細胞にトランスフェクションするステップであり、前記プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、
c)前記細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子を、前記幹細胞にトランスフェクションするステップと、
d)条件的に不死化された成人幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、前記プロトオンコジーンが活性である条件下で前記トランスフェクション細胞を増殖させるステップ
を含む、方法。
【請求項2】
前記(b)および/または(c)の核酸分子が、組み込みベクターに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(b)および/または(c)の核酸分子が、レトロウィルスベクター、レンチウィルスベクター、パルボウィルス、ワクシニアウィルス、コロナウィルス、カリシウィルス、パピローマウィルス、フラビウィルス、オルソミクソウィルス、トガウィルス、ピコルナウィルス、アデノウィルスベクター、変性および弱毒化ヘルペスウィルスからなる群より選択される、ウィルスまたはウィルスベクターを用いて前記細胞にトランスフェクションされる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記(b)および/または(c)の核酸分子が、直接的なエレクトロポレーションを用いて前記細胞にトランスフェクションされる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(b)および/または(c)の核酸分子が、薬物感受性タンパク質をコードする核酸配列を含むベクターに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記(b)および/または(c)の核酸分子が、前記(b)または(c)の核酸分子に隣接するリコンビナーゼの基質認識配列をコードする核酸配列を含むベクターに含まれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
e)前記プロトオンコジーンが活性である、前記(d)の条件を除去するステップと、
f)前記細胞の分化を誘発する成長因子を含む培地で、前記(e)の細胞を培養するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
g)細胞分化の中間段階にある、条件的に不死化された細胞を作製するために、前記(f)の細胞に、前記プロトオンコジーンが活性である前記(d)の条件を加えるステップ
をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法であり、
a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、
b)前記幹細胞を、
(1)幹細胞成長因子の組み合わせ、
(2)Tatが、細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーン、またはその生物学的に活性の断片またはホモログにコードされたタンパク質と融合した、第一Tat融合タンパク質、および
(3)Tatが、前記幹細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質と融合した、第二Tat融合タンパク質
の存在下で、培養するステップ
を含む、方法。
【請求項10】
条件的に不死化された胚幹細胞を作製する方法であり、
a)増殖させた胚幹細胞集団を得るステップと、
b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログを含む核酸分子を、前記幹細胞にトランスフェクションするステップであり、前記プロトオンコジーンが誘導可能であるステップと、
c)前記細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質をコードする核酸分子を、前記幹細胞にトランスフェクションするステップと、
d)条件的に不死化された胚幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、前記プロトオンコジーンが活性である条件下で前記トランスフェクション細胞を増殖させるステップ
を含む、方法。
【請求項11】
前記プロトオンコジーンが、MYC−ERおよびICN−1−ERからなる群より選択される、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記アポトーシスを阻害するタンパク質が、Bcl−2ファミリーに属するアポトーシスを阻害するメンバーである、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記アポトーシスを阻害するタンパク質が、Bcl−2、Bcl−X、Bcl−w、BclXL、Mcl−1、Dad−1、またはhTERTからなる群より選択される、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記プロトオンコジーンが、MYC−ERである、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記プロトオンコジーンが活性である前記条件には、タモキシフェンまたはそのアゴニストの存在が含まれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記アポトーシスを阻害するタンパク質が、Bcl−2である、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞に、MYC−ERおよびBcl−2;MYC−ERおよびhTERT;ICN−1−ERおよびBcl−2;ICN−1−ERおよびhTERT;または、MYC−ERおよびICN−1−ERがトランスフェクションされる、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項18】
前記細胞に、MYC−ERおよびBcl−2がトランスフェクションされる、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項19】
前記増殖のステップが、インターロイキン6(IL−6)、IL−3、および幹細胞因子(SCF)を含む培地で行われる、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項20】
前記増殖のステップが、幹細胞因子(SCF)、トロンボポイエチン(TPO)、インスリン様増殖因子2(IGF−2)、および線維芽細胞成長因子1(FGF−I)を含む無血清培地で行われる、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項21】
前記成人幹細胞が、造血幹細胞、腸幹細胞、造骨幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞、骨格筋幹細胞、および肝臓幹細胞からなる群より選択される、請求項1、請求項9、または請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記間葉系幹細胞が、肺間葉系幹細胞および骨髄間質細胞からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記上皮幹細胞が、肺上皮幹細胞、乳腺上皮幹細胞、血管上皮幹細胞、および腸上皮幹細胞からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記皮膚幹細胞が、表皮幹細胞および濾胞幹細胞(毛嚢幹細胞)からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記神経幹細胞が、ドーパミンニューロン幹細胞、および運動ニューロン幹細胞からなる群より選択される、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記幹細胞が、新鮮な臍帯血または低温保存された臍帯血からのものである、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記幹細胞が、正常患者または顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)で処置された患者の、末梢血液から得られた造血前駆細胞である、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記細胞の遺伝子欠損を修正するために、前記幹細胞を遺伝的に改変するステップをさらに含む、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
【請求項29】
遺伝子の発現を沈黙させるために、前記幹細胞を遺伝的に改変するステップをさらに含む、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
【請求項30】
遺伝子を過剰発現させるために、前記幹細胞を遺伝的に改変するステップをさらに含む、請求項1〜27のいずれか一つに記載の方法。
【請求項31】
前記細胞を貯蔵するステップをさらに含む、請求項1〜30のいずれか一つに記載の方法。
【請求項32】
前記細胞を貯蔵から回収し、前記細胞を培養するステップをさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
先行する請求項のいずれか一つの方法により作製された、細胞。
【請求項34】
成人幹細胞、またはそこから分化した細胞を、個人に提供する方法であり、
a)請求項1〜32のいずれか一つに記載の方法により作製された、条件的に不死化された成人幹細胞のソースを提供するステップと、
b)前記(a)の幹細胞が条件的に不死化される条件を除去するステップと、
c)前記幹細胞、またはそこから分化した細胞を、前記個人に投与するステップ
を含む、方法。
【請求項35】
前記細胞が、前もって前記(c)の個人から得られたものである、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記細胞が、前もって冷凍された前記細胞のストックから得られたものである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、前記個人から新たに得られ、請求項1〜32のいずれか一つに記載の方法により条件的に不死化される、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記個人が、癌である、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項39】
前記個人が、白血病である、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項40】
前記個人が、免疫不全症である、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項41】
前記個人が、貧血症である、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項42】
前記個人が、再建手術を受けている、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項43】
前記個人が、人工美容手術を受ける、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項44】
前記個人が、移植手術を受ける、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項45】
前記個人が、造血幹細胞、腸幹細胞、造骨幹細胞、間葉系幹細胞、神経幹細胞、上皮幹細胞、心筋原始幹細胞、皮膚幹細胞、骨格筋幹細胞、および肝臓幹細胞からなる群より選択される、幹細胞、またはそこから分化した細胞を必要とする、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項46】
前記個人が、細胞性免疫機能の改善を必要とする、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項47】
前記個人が、前記幹細胞によって修正される遺伝子欠損を有する、請求項34〜37のいずれか一つに記載の方法。
【請求項48】
系統決定および/または細胞分化および発生を制御する化合物を同定する方法であり、
a)請求項1〜32のいずれか一つに記載の方法により作製された成人幹細胞を、テストする化合物と接触させるステップと、
b)前記化合物の非存在下での前記幹細胞との比較において、前記(a)の幹細胞の、少なくとも一つの遺伝子型または表現型の特徴を検出するステップであり、前記化合物の存在下における、前記特徴の差の検出により、前記化合物が、前記幹細胞の前記特徴に影響することが示されるステップ
を含む、方法。
【請求項49】
細胞の少なくとも一つの遺伝子型または表現型の特徴を検出するために、請求項1〜32のいずれか一つに記載の方法により作製された成人幹細胞、またはそこから分化した細胞を評価するステップを含む、系統決定および/または細胞分化および発生を研究する方法。
【請求項50】
幹細胞の移植が有益である状態または病気を治療する薬物における、請求項1〜32のいずれか一つに記載の方法により作製された細胞の使用。
【請求項51】
急性骨髄性白血病(AML)のマウスモデルであり、
a)マウスに致死量の放射線を照射するステップと、
b)請求項18の方法により作製された、条件的に不死化された長期幹細胞、およびRag−/−マウスからの全骨髄細胞を、前記マウスに移入するステップと、
c)前記マウスにAMLの臨床徴候が生じるまで、前記マウスに、タモキシフェンまたはそのアゴニストを周期的に注入するステップ
を含む方法により作製されるマウスを含む、マウスモデル。
【請求項52】
請求項50に記載の前記AMLのマウスモデルから得られる、腫瘍細胞。
【請求項53】
AMLの診断、研究、または治療に使用する化合物を同定、開発、および/またはテストするため;または、AMLの診断、研究、または治療に使用する標的を同定、開発、および/またはテストするための、ヒトタンパク質に特異的な候補薬の前臨床テストへの、前記AMLのマウスモデルの使用。
【請求項54】
条件的に不死化された幹細胞を作製する方法であり、
a)増殖させた幹細胞集団を得るステップと、
b)前記幹細胞を、
(1)幹細胞成長因子の組み合わせ、
(2)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログによりコードされたタンパク質、および、
(3)前記幹細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質
の存在下で、培養するステップ
を含み、
前記(2)および(3)のタンパク質が、前記幹細胞内に送達される、方法。
【請求項55】
条件的に不死化された成人幹細胞を作製する方法であり、
a)増殖させた成人幹細胞集団を得るステップと、
b)細胞生存および増殖を促進するプロトオンコジーンまたはその生物学的に活性の断片またはホモログによりコードされたタンパク質、または、同をコードする核酸分子を、前記細胞内に送達するステップであり、前記プロトオンコジーンが、誘導可能であるステップと、
c)前記細胞のアポトーシスを阻害するタンパク質、前記細胞のアポトーシスを阻害する前記タンパク質をコードする核酸分子、または、前記細胞内のプロアポトーシスタンパク質を阻害する核酸分子またはタンパク質を、前記細胞内に送達することにより、前記幹細胞のアポトーシスを阻害するステップと、
d)条件的に不死化された成人幹細胞を作製するために、幹細胞成長因子の組み合わせの存在下で、前記プロトオンコジーンが活性である条件下で前記細胞を増殖させるステップ
を含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−17486(P2013−17486A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221023(P2012−221023)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2008−536713(P2008−536713)の分割
【原出願日】平成18年10月18日(2006.10.18)
【出願人】(500343614)ナショナル ジューイッシュ ヘルス (6)
【氏名又は名称原語表記】National Jewish Health)
【出願人】(308032460)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド,ア ボディー コーポレイト (25)
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF COLORADO,a body corporate
【Fターム(参考)】