説明

杭の動的水平載荷試験方法

【課題】空洞を有する杭に対する錘を用いた動的水平載荷試験において、杭の重錘が衝突する箇所に充填物を詰めるだけで、杭の空洞特有の振動を容易かつ確実に防止することができる杭の動的水平載荷試験方法を提供する。
【解決手段】打設された杭1の地上に突出する杭頭部2に外側からレール移動方式や振子方式などの重錘12により水平方向の動的荷重を加えて杭の変形特性を求める杭の動的水平載荷試験方法において、杭頭部2の空洞内にセメント系材料、プラスチック系材料、土砂、水などの充填物を詰め、重錘12が衝突する箇所の空洞を無くし、杭頭部に重錘が衝突し、杭に点加振での衝撃が加わっても、力が分散され、杭に均等に衝撃力が伝達されるようにし、杭に空洞のある場合の空洞特有の振動を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭頭に水平方向の動的荷重を与える杭の動的水平載荷試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
杭の水平載荷試験方法として、杭頭に静的荷重を与える試験方法があり、荷重と変位の関係より地盤抵抗などの地盤パラメータを求めるものである。また、この試験方法には、載荷方向の違いにより正負交番載荷と一方向載荷に分類され、載荷時間の違いにより段階載荷と連続載荷に分類される。
【0003】
図8は、静的水平載荷試験(正負交番載荷)の一例を示したものであり、試験杭90に捨て杭を用い、試験杭90の両側に加力装置として油圧ジャッキ91を配置し、反力杭92に反力を取って試験杭90に水平方向の静的荷重を加える。H形鋼材93とPC鋼棒94からなる反力装置を介して油圧ジャッキ91を2本の反力杭92に接続している。試験杭90と油圧ジャッキ91との間にはロードセル95が配置される。試験杭90には、本杭と異なった杭径の杭、本杭と異なった杭長の杭、あるいは本杭と異なる杭種(本杭がコンクリート杭に対して試験杭が鋼管杭など)が用いられる。
【0004】
また、本発明に関連する先行技術文献としては、例えば特許文献1、2がある。特許文献1の発明は、杭などの鉛直方向の動的載荷試験方法であり、杭などの被打撃体の頭部をハンマー等で打撃し、被打撃体中を伝播する衝撃波を計測してその解析データから被打撃体・地盤系の支持力を算定する際、複数回の打撃を加えて、各階の打撃毎に衝撃波を計測し、各回の打撃で計測された解析データを総合して、被打撃体・地盤系の支持力を算定するものである。
【0005】
特許文献2の発明は、杭の鉛直方向の急速載荷試験装置であり、杭頭を重錘で打撃して行う急速載荷試験において、重錘と杭頭との間にドーナッツ状のゴムタイヤ等からなる緩衝材を介在させるものである。
【0006】
【特許文献1】特開2005−180137号公報
【特許文献2】特開2005−068802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の静的水平載荷試験では、加力装置として油圧ジャッキを用いるため、反力装置が必要であり、この反力装置が問題点となっていた。即ち、(a) 試験結果に反力装置の影響が混入することが避けられない、(b)反力装置が必要であることから、試験装置が大掛かりになり、試験の準備に日数が掛かり、経費も高価となる、などの問題があった。
【0008】
このような静的水平載荷試験の問題点を解消する方法として、重錘を杭頭に衝突させて加振する動的水平加振方法が開発されている。しかし、この方法では、重錘が杭に衝突したときに、杭に空洞があると、空洞特有の振動が生じ、良いデータが取れないという問題があった。また、この空洞特有の振動を防止するために、杭と重錘の衝突する箇所に補強材を設置すると、今度は補強材が振動して影響が生じるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記の動的水平載荷試験における問題点を解消すべくなされたものであり、空洞を有する杭に対する錘を用いた動的水平載荷試験において、杭の重錘が衝突する箇所に充填物を詰めるだけで、杭の空洞特有の振動を容易かつ確実に防止することができる杭の動的水平載荷試験方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る発明は、打設された杭の地上に突出する杭頭部に重錘により水平方向の動的荷重を加えて杭の変形特性を求める杭の動的水平載荷試験方法において、杭頭部の空洞内に充填物を詰め、重錘が衝突する箇所の空洞を無くすことにより空洞特有の振動を防止することを特徴とする杭の動的水平載荷試験方法である。杭頭部の空洞内には平面視で十字状等の補強材を配置してもよい。
【0011】
本発明は、鋼管杭などのように杭頭部に空洞を有する杭の重錘を用いた動的水平載荷試験に適用されるものである。具体的な動的水平載荷試験としては、懸垂型モノレール方式または地上レール方式により重錘を支持し、人力または動力を用いて重錘を水平移動させ、杭頭部に衝突させて加振する動的水平載荷試験(図1参照)、振子式などの重錘を杭頭部に衝突させて加振する動的水平載荷試験などがある。
【0012】
鋼管杭などの空洞を有する杭は、内部に土砂などの物質があり、この内部物質が高い場合には、杭頭の天端まで充填物を詰める。内部物質が低い場合には、杭頭の重錘が衝突する箇所にかごや袋などを吊り下げ、その中に充填物を詰める。
【0013】
充填物には、あらゆる物質を用いることができるが、空洞内を隙間無く埋めることができる材料が好ましく、例えばセメント系材料、プラスチック系材料、土砂、水などが好ましい。また、この充填物は、後で取り除けるものと取り除けないものがあり、杭頭処理の次工程によって使い分ける。取り除く必要のない場合には、セメント、ソイルセメント、石膏、発泡ウレタンなどを用い、取り除く必要のある場合は、残土、砂、水などを用いる。水などの液体の場合は、上下に漏れないようにして充填する。
【0014】
重錘の衝突により杭に陥没等の現象を生じさせないように上記の充填物を杭頭部の空洞内に杭内面との間に隙間が生じないように充填する。動的水平載荷試験において、例えば、重錘の質量は例えば2トン、重錘の載荷継続時間は約70msec、変位量は動的荷重約70kNで約15mmであり、杭頭部に重錘が衝突し、杭に点加振での衝撃が加わっても、力が分散され、杭に均等に衝撃力が伝達されるので、杭に空洞のある場合の特有の振動は生じない。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のような構成からなるので、次のような効果が得られる。
【0016】
(1) 杭頭部の空洞内にセメント系材料や土砂などの充填物を詰めるようにしたため、空洞特有の振動を防止することができ、鋼管杭のように杭頭部に空洞がある杭でも、重錘を用いた動的水平載荷試験が可能となる。
【0017】
(2) 杭と重錘の衝突する箇所に充填物を詰めるだけで、杭の空洞特有の振動を容易かつ確実に防止することができ、重錘を用いた動的水平載荷試験を低コストで精度良く実施することができる。
【0018】
(3) 本載荷試験では、杭の変位、ひずみ、加速度を計測しており、その時、杭が空洞であると空洞特有の振動が生じ、その振動は本試験の目的でない高周波数となる。本発明は、この高周波数の振動を抑制することができる。また、杭に衝突させた重錘の打撃力を計測するために、杭と重錘との間にロードセルを挟んでいる。このため、杭が凹んだりすると、解析では杭を凹みのない棒体にモデル化しているために、解析モデルに合わなくなってくる。本発明は重錘の衝突による杭の凹みも防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を図示する一実施形態に基づいて説明する。この実施形態は、鋼管杭の水平載荷試験に適用した場合であり、またモノレール方式の重錘による動的水平載荷試験の例である。図1は、本発明の動的水平載荷試験の一例を示す側面図及び平面図である。図2は、図1の部分を示す側面図及び平面図である。
【0020】
図1において、構造物の基礎地盤には鋼管杭1が縦方向及び横方向に間隔をおいて複数本打設されており、杭頭部2が地上に所定の高さで突出している。本発明では、このような杭頭部2に対して重錘方式・レール方式の動的水平載荷試験装置10により動的水平載荷試験を実施する。
【0021】
図1の実施形態において、動的水平載荷試験装置10は、懸垂型モノレール方式であり、鋼管杭1の上方に架設されるI形鋼等からなるレール11と、このレール11に沿って移動可能な懸垂式の重錘12から構成され、懸垂式の重錘12をレール11に沿って所定の速度で水平移動させ、杭頭部2に重錘12を衝突させて加振する動的水平載荷試験を行う。
【0022】
レール11は、複数の杭頭部2の上方に配置し、その両端部をH形鋼等の柱20や梁21で支持する。図1の実施形態では、2つの杭頭部2の間に重錘12を配置し、2つの鋼管杭1の試験を行えるようにされている。また、一方が載荷試験のみを用途とした鋼管杭1A(例えば、径500mm、長さ12m)であり、他方が本設の鋼管杭1B(例えば、径800mm、長さ30m)である。
【0023】
重錘12は、例えば長さ1m程度の円柱形であり、円柱中心軸が水平移動方向と平行な横向きで使用される。この重錘12の上部には、上方に突出する高さ調整可能な吊下げ部材13が移動方向に間隔をおいて一対で設けられている。レール11の下部フランジには、移動方向に一対のトロリー(車輪付き移動用治具)14が装着されており、このトロリー14に吊下げ部材13の上部が着脱可能に接続される。
【0024】
また、重錘12の一対の吊下げ部材13の間には、移動直角方向の左右両側に突出するハンドル15が取付けられており、多数の人力で重錘12を移動させ、杭頭部2に衝突させることができる。このような人力に限らず、モータと牽引ロープ等による動力を用いて移動させることもできる。
【0025】
図1に示すように、杭頭部2には、水平荷重の作用高さHが設定されており、図2に示すように、この作用高さレベルにおいて、ロードセルを用いた荷重検出器30が杭頭部2に設けられ、重錘による動的荷重(衝撃荷重)が測定される。移動直角方向の左右両側には変位計を用いた変位検出器31が配置され、杭の水平変位が測定される。その他、杭頭部2の移動直角方向の左右両側の側面には、加速度計(水平加速度)・ひずみゲージ(せん断)32が取り付けられ、杭の水平加速度、せん断ひずみが測定される。また、杭頭部2の移動方向の前面(重錘側)・後面(反重錘側)、重錘12の左右両側、トロリー14にも加速度計33が取り付けられ、杭の水平加速度・鉛直加速度、重錘の水平加速度が測定される。なお、トロリー14に取付けた加速度計33は、人力による重錘12の速度を推定するため、また動的荷重(F=mα)の計測に用いられている。
【0026】
重錘12の円柱中心軸は、作用高さレベルに一致するように高さ調整され、重錘12の前面中心が荷重検出器30に衝突する。図3は、緩衝用治具を備えた荷重検出器の一例を示す平面図と水平断面図であり、この荷重検出器30は、動的荷重を測定するためのロードセル40を杭頭部2の外面に接着し、このロードセル40の重錘側にコイルばねを内蔵した緩衝用治具41を設け、重錘12による衝撃荷重を円滑に杭頭部2に伝達できる構造とされている。
【0027】
緩衝用治具41は、ロードセル40の円筒形ケーシングの外周に内管42を嵌め込み、この内管42の外周に外管43を軸方向にスライド可能に嵌め込み、ロードセル40と外管43の蓋体44との間にコイルばね45を配置し、コイルばね45の圧縮変形により衝撃を吸収するように構成されている。さらに、ロードセル40の重錘側と蓋体44の反重錘側にそれぞれクッション材とストッパーを兼ねる荷重伝達部材46、47を間に所定のギャップが形成されるように取付け、この荷重伝達部材46、47の外側にコイルばね45を配置する。この荷重伝達部材46、47は、硬い金属よりも硬質プラスチック等の比較的クッション作用のある材料が好ましい。また、蓋体44の重錘側の面には、ラバーを表面に貼り付けた鋼板48が取付けられている。ラバーは重錘に取付けてもよい。なお、杭頭部2の外面にはブラケット等の支持金具(図示せず)を取付けておき、この上に荷重検出器30を載置する。
【0028】
変位検出器31は、図2に示すように、変位計50とシリンダ型の伸縮部材51からなる。杭頭部2の側面には取付片52が固定されており、この取付片52に伸縮部材51の伸縮ロッド51aの先端が取付けられ、レール11に直交する梁22にシリンダ本体51bの基端部が固定される。作用高さレベルに水平に配置された伸縮部材51の下に変位計50が水平に配置され、変位計50のロッド先端が伸縮ロッド51aに接続され、杭の変位が計測される。変位計設置用の梁22を試験杭から十分に離れた位置に設置し、かつ、H形鋼等の大きい断面の杭23や杭間の梁24(図1参照)で支持することにより、変位計50が設置される梁22を不動梁とすることができ、正確な変位計測を行うことができる。
【0029】
試験杭の変位計測は、上記の変位計50のほか、試験杭に取付けた加速度計32で行うこともできる。加速度を2回積分して変位を求める。なお、変位計50から求めた変位波形には高周波数のノイズが広帯域にわたって生じており、一方、加速度計32から求めた変位波形には高周波数のノイズがない。この高周波数のノイズは、変位計50の取付構造や固定部材の振動などが原因と推定され、また加速度計32から得られる変位波形は、変位計50から得られる変位波形と比べて低周波数領域が小さく評価されている。以上の2点から、変位計50を用い、高周波数成分をハイカットフィルターにより除去するのが好ましい。なお、不動梁のいらない光学式等の非接触式変位計を用いることもできる。
【0030】
図4は、重錘12の高さ調整用治具の一例を示す側面図であり、吊下げ部材13を上部部材13aと下部部材13bとに分割し、高さ調整用治具60により高さ調整可能に接続する。高さ調整用治具60は、上部部材13aに固定された水平の支持板61と、重錘12の上面に基部が溶接で固定され、先端ボルト部が支持板61を貫通する鉛直の高さ調整用ボルト62と、このボルト62の先端ボルト部に上からねじ込まれる高さ調整用ナット63から構成されている。上部部材13aの上部はトロリー14に取付けられ、下部部材13bの下端は重錘12の上面に溶接で固定され、上部部材13aの下部と下部部材13bの上部が重ね合わされ、長孔と締付けボルト64で連結される。ナット63を回転させて高さ調整した後、ボルト64を締め付けることで固定される。
【0031】
図5、図6は、逆転防止機構付きのトロリー14の一例を示した鉛直断面図、平面図及び側面図であり、重錘12が杭に衝突した後、反動で逆方向に移動するのを防止し、重錘12による動的載荷時間を伸長させること、動的荷重を大きくすること、試験時の危険を防止することを意図したものである。
【0032】
トロリー14は、レール11の下部フランジ上を転動するフランジ付き車輪70がレールを両側から挟持するように左右一対で配置され、さらに移動方向にも一対で配置されている。車輪70は車輪軸71にベアリングを介して回転自在に取付けられ、車輪軸71が側面フレーム(車輪フレーム)72に固定されている。左右一対の側面フレーム72は下部同士が軸73と軸受け74により連結され、軸73の中央部には吊りフック75が取付けられている。吊りフック75には吊下げ部材13の上部が取付けられる。
【0033】
このようなトロリー14において、例えばラチェットとラチェット爪による逆転防止機構を用いて重錘の反動防止対策を行う。車輪70と側面フレーム72の間にラチェット(爪車)80を配置し、車輪70と共に一体回転できるように車輪70にボルト等で固定する。側面フレーム72の上部内面には、ラチェット爪81の基端部をボルトで軸着することにより、ラチェット爪81がラチェット80の上で上下方向に揺動できるようにし、重錘の移動方向には先端の爪がラチェット80の歯の上を滑り、車輪70が自由に回転し、逆方向には先端の爪がラチェット80の歯に噛み合い、車輪70の逆転を阻止するように構成する。
【0034】
また、重錘は2本の試験杭の間に配置することが多いので、重錘を両方向に移動でき、それぞれの方向に対して逆転防止ができるようにする。即ち、図6に示すように、移動方向に一対の車輪70にラチェット80及びラチェット爪81を互いに逆転防止方向が逆向きとなるように配置し、作動させない方のラチェット爪81を作動防止ストッパー82の先端ピンの上に載せて、ラチェット爪81がラチェット80の歯に噛合しないようにし、重錘を方向転換させることなく、両方向に対応できるようにする。
【0035】
この作動防止ストッパー82は、側面フレーム72の上にボルトで固定される取付板83と、この取付板83に水平に螺着されボルト84からなる。ボルト84の先端には係止ピン85が設けられ、この係止ピン85を引き込み、ラチェット爪81を上に上げ、戻した係止ピン85の上にラチェット爪81を載せることにより、ラチェット爪81が作動しなくなる。なお、これらラチェット80・ラチェット爪81・作動防止ストッパー82は、図6(a)に示すように、レール11を挟んで一対の車輪70のそれぞれに配置するのが好ましい。
【0036】
以上のような構成において、図1に示すように、レール11に沿って重錘12を水平移動させ、試験杭1Aまたは1Bの杭頭部に重錘12を衝突させて加振するため、従来の静的水平載荷試験における反力装置が不要となり、試験結果に反力装置の影響が混入することがなく、また簡易な試験装置とすることができるため、実験準備が容易で試験を短時間で行うことができ、精度の良い水平載荷試験を低コストで実施することができる。また、反力装置が不要となることにより試験杭1本から水平載荷試験が可能となり、より低コストの水平載荷試験が可能となる。また、レール方式であるため、鐘突き方式などに比べ、(a)レール11に沿って水平移動させるため、重い重錘12を容易に加力することができる、(b)レール11を長くすることにより、重錘12の衝撃速度を容易に大きくすることができる、(c)レール11の断面を大きくすることにより、重錘12の重さを容易に大きくできる、(d)重錘12の衝突後の反動を簡易な装置で制御できる、(e)レール11を設置するだけでよいため、装置を移動式とすることも容易である、などの利点がある。
【0037】
なお、図示例はレール上を移動する移動用治具を介して重錘12をレール11から吊下げる懸垂型モノレール方式を示したが、重錘の下部に取付けた移動用治具によりレール上を移動させる地上レール方式でもよい。いずれの方式の場合も、レールは1本でもよいし、2本以上でもよい。また、移動用治具は、レール上を転動する車輪方式を示したが、レール上を滑動するスライダー方式などを用いることができる。さらに、レールは水平に限らず、例えば杭頭部に向かって下り勾配で傾斜させることもできる。
【0038】
懸垂型モノレール方式または地上レール方式において移動用治具に車輪方式を用いた場合、車輪付きの移動用治具の車輪に逆転防止機構を設けて重錘12の反動防止対策を施すことにより、重錘12が杭と衝突した後に反力で戻ってくるのを防止することができ、重錘12を人力で移動させる場合には安全であり、動力で移動させる場合には動力に負荷が生じるのを防止することができる。また、衝突後に車輪がロックされ、重錘12が逆方向に移動しないため、重錘12による動的載荷時間を伸長させることができ、理想的な動的水平載荷試験が可能であり、また動的荷重を大きくすることも可能となる。逆転防止機構は、図示例はラチェット及びラチェット爪の場合であるが、これに限らず、一方向クラッチなどを用いることもできる。ラチェット及びラチェット爪を用いれば、比較的簡易な機構で車輪の逆転を防止することができ、2方向の逆転防止にも容易に対応することができる。
【0039】
次に、図1〜図3において、鋼管杭1は、杭頭部2が空洞であり、重錘12が鋼管杭1に衝突したときに、空洞特有の振動が生じ、良いデータが取れない。そこで、杭頭部2の空洞内に充填物を詰め、空洞特有のモードが生じないようにする。杭頭部2の空洞内には平面視で十字状等の補強材を配置してもよい。
【0040】
鋼管杭1の管内土の違いによって次の2種類の方法とする。即ち、(1)管内土が高い場合は、杭頭まで充填物を詰める。(2)管内土が低い場合は、杭頭部2内の重錘が衝突する箇所にかごや袋などを吊り下げ、この中に充填物を詰める。
【0041】
また、この充填物は、後で充填物を取り除けるものと、取り除けないものの2通りに分類され、杭頭処理の次工程によって使い分ける。即ち、(1)取り除く必要のない場合は、セメント、ソイルセメント、石膏、発泡ウレタンなどを用い、(2)取り除く必要のある場合は、残土、砂、水などを用いる。水などの液体の場合は、上下に漏れないようにして充填する。
【0042】
重錘の衝突により杭に陥没等の現象を生じさせないように上記の充填物を杭頭部2の空洞内に杭内面との間に隙間が生じないように充填する。前述のレール方式やその他の方式の動的水平載荷試験において杭頭部2に重錘12が衝突し、杭に点加振での衝撃が加わっても、力が分散され、杭に均等に衝撃力が伝達されるので、杭に空洞のある場合の特有の振動は生じない。鋼管杭のように杭頭部に空洞がある杭でも、重錘を用いた動的水平載荷試験が可能となる。
【0043】
また、杭頭部2の空洞内にセメント系材料や土砂などの充填物を詰めるだけでよく、杭と重錘の衝突する箇所に補強材を用いる必要がないため、杭の空洞特有の振動を容易かつ確実に防止することができ、重錘を用いた動的水平載荷試験を低コストで精度良く実施することができる。
【0044】
重錘に質量2トンの円柱形を使用し、図1、図2に示す水平載荷試験装置で動的水平載荷試験を実施した結果を図7に示す。図7(a)は鋼管杭1A(径500mm、長さ12m)、図7(b)は鋼管杭1B(径800mm、長さ30m)の荷重−変位量曲線である。また、図7(a)は、荷重検出器に緩衝用治具あり、トロリーの反動防止対策なしの場合である。図7(b)は、荷重検出器に緩衝用治具あり、トロリーの反動防止対策ありの場合である。また、いずれの場合も杭頭部内を土砂で満たし、空洞特有のモードが生じないようにした。
【0045】
図7の荷重−変位量曲線から試験杭に残留変位は残らないことがわかる。一度大きな衝撃を作用させた後に再び大きな衝撃を与えても動的荷重が大きくならない。杭に残留変位が生じていないのは、地盤は塑性領域であるが、鋼管杭が弾性領域であるためと考えられる。なお、図7(a)の小径杭と図7(b)の大径杭とを比較すると、小径杭の方が動的荷重が大きく、重量の軽い小径杭の方が大きな加速度が得られると推定される。
【0046】
また、図示していないが、荷重検出器に緩衝用治具の有無でロードセルの動的荷重(フィルター処理前)を比較したところ、緩衝用治具なしでは、動的荷重の立ち上り部分に高周波数の突出するひげが発生していたが、緩衝用治具ありでは、これが解消され、効果があることが確認された。
【0047】
また、図示していなが、トロリーの逆転防止対策の有無で荷重−変位量曲線を比較したところ、明確な差異が得られなかった。これは、レールの転動面が滑らかで、ロックされた車輪がスライドしたためと考えられ、レールの転動面を粗くするなどの適当な対策を講じることで、重錘による動的載荷時間を伸長させること、動的荷重を大きくすることが可能になると考えられる。なお、車輪がロックされることで衝突後に重錘が大きく移動することはないため、人力の場合は重錘が戻ってくることによる危険を防止することができ、また動力を用いた場合は動力に負荷が生じることを防止することができることはいうまでもない。
【0048】
上記の動的水平載荷試験結果に基づいて波形マッチング解析を実施し、それにより地盤パラメータを同定した。動的水平載荷試験の数値シミュレーションには、解析プログラム(静的載荷試験も取り扱うことができる)を用い、鋼管杭1A・鋼管杭1Bを梁要素にてモデル化し、マッチング解析を実施し、周辺地盤の物性値(最大水平地盤抵抗)を同定した。杭突出長は0.8m、要素分割長は0.4m、載荷点は杭天端から0.3mの位置とした。重錘の載荷継続時間は約70msecである。
【0049】
上記のようにして得られた地盤パラメータを用いて数値計算上の静的水平荷重−変位量関係を求め、以前に別途実施した静的水平交番載荷試験による静的水平荷重−変位量関係と比較したところ、勾配に関しては概ね良い対応を示していることが確認された。
【0050】
なお、以上は鋼管杭に適用した場合について説明したが、コンクリート杭やその他の杭にも適用できることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の動的水平載荷試験の一実施形態であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図2】図1の部分であり、(a)は側面図、(b)は平面図である。
【図3】本発明で用いる緩衝用治具を備えた荷重検出器の一例であり、(a)は平面図、(b)は水平断面図である。
【図4】本発明で用いる懸垂式の重錘の高さ調整用治具の一例を示す側面図である。
【図5】本発明で用いる逆転防止機構付きのトロリーの一例を示す鉛直断面図である。
【図6】図5のトロリーの(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図7】本発明の動的水平載荷試験結果であり、荷重−変位量関係を示すグラフである。
【図8】従来の静的水平載荷試験装置の一例であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…鋼管杭
2…杭頭部
10…動的水平載荷試験装置
11…レール
12…重錘
13…吊下げ部材
13a…上部部材
13b…下部部材
14…トロリー
15…ハンドル
20…柱
21…梁
22…変位計設置用の梁(不動梁)
23…柱
24…梁
30…荷重検出器
31…変位検出器
32…加速度計・ひずみゲージ(せん断)
33…加速度計
40…ロードセル
41…緩衝用治具
42…内管
43…外管
44…蓋体
45…コイルばね
46、47…荷重伝達部材
48…鋼板
50…変位計
51…伸縮部材
51a…伸縮ロッド
51b…シリンダ本体
52…取付片
60…高さ調整用治具
61…支持板
62…高さ調整用ボルト
63…高さ調整用ナット
64…締付けボルト
70…フランジ付き車輪
71…車輪軸
72…側面フレーム
73…軸
74…軸受け
75…吊りフック
80…ラチェット(爪車)
81…ラチェット爪
82…作動防止ストッパー
83…取付板
84…ボルト
85…係止ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打設された杭の地上に突出する杭頭部に重錘により水平方向の動的荷重を加えて杭の変形特性を求める杭の動的水平載荷試験方法において、
杭頭部の空洞内に充填物を詰め、重錘が衝突する箇所の空洞を無くすことにより空洞特有の振動を防止することを特徴とする杭の動的水平載荷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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