説明

杭の載荷試験方法

【課題】杭の許容支持力を正確に把握しつつ、施工コストの削減および環境負荷の低減を実現できる杭の載荷試験方法を提供すること。
【解決手段】杭の載荷試験方法は、所定深さのレベルより下側に試験杭10を構築し、その後、地表面から所定深さまで掘削して、この試験杭10に載荷試験を行う。本発明によれば、試験杭10を所定深さ以深のみに構築し、かつ、余計な地盤を除去した状態で試験杭10に載荷するので、試験杭10の力学的条件を本設杭の力学的条件に近付けることができ、本設杭の支持力を正確に把握できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭の載荷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の基礎として杭を構築する場合、この杭の許容支持力は、例えば東京都の建築構造設計指針では、以下のように定められている(非特許文献1参照)。
【0003】
すなわち、杭の載荷試験を行う場合には、この載荷試験の結果に従って許容支持力を決定することが認められている。一方、杭の載荷試験を行わない場合には、所定の支持力算定式に従って、杭の許容支持力を算定するよう規定されている。さらに、杭径に対する杭長の比率(以下、L/Dと呼ぶ)が10未満となる杭については、許容支持力を所定の算定式よりも段階的に低減させるよう規定されている。
【0004】
このように規定された理由は、以下の通りである。
基礎自体は剛強な構造であるため、基礎の支持力は、地盤の破壊によって決定されることが多い。地盤は建物荷重に対してせん断抵抗により抵抗するが、特に砂質土では、このせん断抵抗の大きさは、拘束圧の大きさに大きく影響を受ける。
【0005】
ここで、拘束圧とは土の自重であり、正確には、浮力分を差し引いた有効重量(有効応力あるいは有効土被り圧と呼ばれる)である。有効土被り圧が大きければ、拘束圧が大きくなり、せん断抵抗が増して、地盤の支持力が大きくなる。
よって、土被り圧などの力学的条件が異なると、同じような地盤強度であっても地盤の破壊パターンが異なり、地盤の支持力の大きさに影響を与える。
【0006】
この関係は、杭については、杭径Dに対する根入れ深さである杭長Lの比率(L/D)で整理されて論じられることが多い。つまり、同じような地盤強度であっても、杭のL/Dが異なる場合には、地盤の支持力が異なるのである。
杭の支持力の大きさに影響を与える境界値は必ずしも明確ではないが、行政的には、上述のように、杭のL/Dが10未満になると段階的に支持力が低減される措置が施される。
【0007】
ところで、建物の地下躯体の深度と支持地盤の深度との関係により、杭のL/Dが小さくなることがある。このような杭の許容支持力を大きく確保したい場合には、上述の理由から、杭の載荷試験を行うことになる。
【0008】
杭の載荷試験は、掘削を開始していない地表面にて実施される。これは、杭の許容支持力を早期に把握して、構造物の基礎の設計や変更に反映させるためである。
具体的には、地表面から支持地盤に至る試験杭を構築するとともに、試験杭の周囲に反力杭を構築する。そして、反力装置を用いて、反力杭に反力をとりながら試験杭に加力する。この際、試験の目的に応じて、地表面から所定の深度まで(例えば、計画されている地下躯体の深度まで)の杭の外周部分の周面摩擦抵抗を除くためにフリクションカットを行う。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】東京都建築構造行政連絡会著、「建築構造設計指針」、東京都建築士事務所協会発行、2002年、p.509−520
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、地下躯体を構築する場合には、試験後に不要となる地表面から所定の深度までの試験杭および反力杭を解体しながら掘削を行うこととなる。したがって、試験杭および反力杭の解体に手間がかかって、施工コストが高くなるうえに、解体に伴う騒音や振動が発生するため、周囲の環境に負荷がかかる、という問題があった。
【0011】
また、L/Dの小さい杭について載荷試験を行う際、試験杭は地表面にて構築されるため、この試験杭は本設杭よりも長くなり、杭に作用する拘束圧(土圧)が大きくなる。よって、試験杭と本設杭との力学的条件が異なってしまい、本設杭の支持力を正確に把握することは困難である。
【0012】
本発明は、杭の許容支持力を正確に把握しつつ、施工コストの削減および環境負荷の低減を実現できる杭の載荷試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
請求項1に記載の杭の載荷試験方法は、地盤の所定深さのレベルより下側に試験杭および反力杭を構築し、次に、前記地盤を前記所定深さまで掘削し、次に、前記反力杭を利用して前記試験杭の載荷試験を行うことを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、所定深さのレベルより下側に試験杭を構築する。これにより、この試験杭は、本設杭と同様に、所定深さ以深のみに構築される。その後、所定深さまで掘削して、この試験杭に載荷試験を行う。
このように試験杭を所定深さ以深のみに構築し、かつ、余計な地盤を除去した状態で試験杭に載荷するので、試験杭の力学的条件を本設杭の力学的条件に近付けることができ、本設杭の支持力を正確に把握できる。
【0015】
請求項2に記載の杭の載荷試験方法は、地盤を所定深さのレベルまで掘削し、次に、当該所定深さのレベルで試験杭および反力杭を構築し、次に、前記反力杭を利用して前記試験杭の載荷試験を行うことを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、地盤を所定深さのレベルまで掘削し、その後、この所定深さのレベルで試験杭を構築する。よって、この試験杭は、本設杭と同様に、所定深さ以深のみに構築される。
このように試験杭を所定深さ以深のみに構築し、かつ、余計な地盤を除去した状態で試験杭に載荷するので、試験杭の力学的条件を本設杭の力学的条件に近付けることができ、本設杭の支持力を正確に把握できる。
【0017】
請求項3に記載の杭の載荷試験方法は、前記所定深さのレベルは、構造物の基礎底面である床付面レベルであることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、構造物の基礎底面である床付面レベルで試験杭を構築する。よって、地下躯体を構築するために掘削する際、試験杭や反力杭の杭頭の余盛り部分を解体するだけでよいので、施工コストを削減できる。また、試験杭や反力杭の解体に伴う騒音や振動が発生しないため、環境負荷も低減できる。また、試験杭や反力杭の健全性を確認した後、これら試験杭や反力杭を本設杭として利用することも可能である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、所定深さのレベルより下側に試験杭を構築する。これにより、この試験杭は、本設杭と同様に、所定深さ以深のみに構築される。その後、所定深さまで掘削して、この試験杭に載荷試験を行う。このように試験杭を所定深さ以深のみに構築し、かつ、余計な地盤を除去した状態で試験杭に載荷するので、試験杭の力学的条件を本設杭の力学的条件に近付けることができ、本設杭の支持力を正確に把握できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る試験杭構築方法が適用された試験杭および従来の試験杭の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る試験杭構築方法が適用された試験杭10の断面図であり、図1(b)は、従来の試験杭30の断面図である。
従来の試験杭30は、図1(b)に示すように、掘削前の地表面にて構築されている。
【0022】
従来の試験杭30は、円筒形状の外管31と、この外管31の内側に設けられた円筒形状の内管32と、この内管32の内側に構築された鉄筋コンクリート製の場所打ち杭である試験杭本体33と、を備える。
【0023】
この従来の試験杭30では、内管32と外管31との間で摩擦力が低減されて、地表面から床付面20レベルまでフリクションカットがなされている。これにより、外管31から露出した試験杭本体33の先端部分が床付面20以深に露出し、支持層での許容支持力を計測可能となっている。
【0024】
これに対し、本実施形態の試験杭10は、図1(a)に示すように、構造物の基礎の底面である床付面20以深のみに構築されており、フリクションカットが施されていない。
この試験杭10は、本設杭と同様に、L/Dが10未満となる鉄筋コンクリート製の場所打ち杭である。試験杭10の周囲には、載荷試験を行うための図示しない反力杭が構築されている。
【0025】
この試験杭10は、以下の手順で構築される。
すなわち、掘削前の地表面にて床付面20レベルより下側に試験杭10を構築し、その後、床付面20まで地盤を掘削して、試験杭10に載荷する。なお、これに限らず、床付面20まで地盤を掘削して、その後、床付面20レベルに試験杭10を構築してもよい。
【0026】
以上の試験杭10に対して、地盤工学会規準「杭の鉛直載荷試験方法・同開設 杭の押し込み試験方法」で定められた手順に従って、載荷試験を行う。具体的には、反力装置を用いて、反力杭に反力をとりながら試験杭10に加力する。
【0027】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)所定深さのレベルより下側に試験杭10を構築する。これにより、この試験杭10は、本設杭と同様に、所定深さ以深のみに構築される。その後、所定深さまで掘削して、この試験杭10に載荷試験を行う。このように試験杭10を所定深さ以深のみに構築し、かつ、余計な地盤を除去した状態で試験杭10に載荷するので、試験杭10の力学的条件を本設杭の力学的条件に近付けることができ、本設杭の支持力を正確に把握できる。
【0028】
(2)構造物の基礎底面である床付面20レベルで試験杭を構築する。よって、地下躯体を構築するために掘削する際、試験杭10や反力杭の杭頭の余盛り部分を解体するだけでよいので、施工コストを削減できる。また、試験杭10や反力杭の解体に伴う騒音や振動が発生しないため、環境負荷も低減できる。また、試験杭や反力杭の健全性を確認した後、これら試験杭や反力杭を本設杭として利用することも可能である。
【0029】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本発明は、地表面から少し掘削した後に試験杭を打設する場合や、砂利を地表面に敷いたり地盤改良を行ったりして多少盛土した後に試験杭を打設する場合を含むものである。
また、本実施形態では、試験杭10にフリクションカットを施していないが、これに限らず、実際の地盤条件に応じて、試験杭に適宜フリクションカットを施してもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…本実施形態の試験杭
20…掘削底面
30…従来の試験杭
31…外管
32…内管
33…試験杭本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤の所定深さのレベルより下側に試験杭および反力杭を構築し、
次に、前記地盤を前記所定深さまで掘削し、
次に、前記反力杭を利用して前記試験杭の載荷試験を行うことを特徴とする杭の載荷試験方法。
【請求項2】
地盤を所定深さのレベルまで掘削し、
次に、当該所定深さのレベルで試験杭および反力杭を構築し、
次に、前記反力杭を利用して前記試験杭の載荷試験を行うことを特徴とする杭の載荷試験方法。
【請求項3】
前記所定深さのレベルは、構造物の基礎底面である床付面レベルであることを特徴とする請求項1または2に記載の杭の載荷試験方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−184596(P2012−184596A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48755(P2011−48755)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】