説明

杭圧入引抜機、杭圧入方法及び杭引抜方法

【課題】構造物に近接して杭を圧入・引抜することが可能であり、かつ、杭圧入施工性が高い杭圧入引抜機、並びに、当該杭圧入引抜機を用いて杭を地中に圧入する杭圧入方法及び当該杭圧入引抜機を用いて杭を地中から引き抜く杭引抜方法を提供する。
【解決手段】杭圧入引抜機1において、チャック6は、円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口しており、外周に沿って設けられた円弧状のガイドレール部63を備え、チャックフレーム7はガイドレール部63にスライド自在に係合する係合部71を備え、ガイドレール部63は上側に設けられた上ガイドレール部63と下側に設けられた下ガイドレール部63とを備え、係合部71は上ガイドレール部63に係合する上係合部71と下ガイドレール部63に係合する下係合部71とを備え、チャック6はチャック回動機構部8によりガイドレール部63が係合部71をスライドすることによって回動することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭圧入引抜機、杭圧入方法及び杭引抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既設杭から反力を取って杭を圧入したり引き抜いたりする杭圧入引抜機が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1記載の杭圧入引抜機は、杭を把持するチャックの形状が円筒状であり、かつ、チャックの可動距離が短いため、建物や障害物などの構造物に近接して杭を圧入・引抜することができない。
【0003】
そこで、構造物に近接して杭を圧入・引抜することが可能な杭圧入引抜機として、例えば、図5に示すような杭圧入引抜機10が提案された。
図5に示す杭圧入引抜機10においては、既設杭を掴む複数のクランプ11,…を有するサドル12と、当該サドル12に対して前後に移動自在なスライドフレーム13と、スライドフレーム13上に設けられたリーダーマスト14と、杭Pを把持するチャック15と、チャック15をリーダーマスト14に昇降自在に支持するチャックフレーム16と、等を備えている。図5に示す杭圧入引抜機10によれば、チャック15には外面の一部に軸方向に沿って開口が設けられており、また、リーダーマスト14の先端部からチャック15までの距離(図5におけるL1)を長くするとともに、チャック15の回動中心Cを杭から離すことによって、特許文献1記載の杭圧入引抜機よりもチャックの可動距離を長くしているため、構造物に近接して杭を圧入したり引き抜いたりすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−156926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図5に示す杭圧入引抜機10においては、チャックフレーム16はチャック15を回動軸により一点で支持しているため、施工時に回動軸に大きな負担がかかる。特に、コーナー施工時には、リーダーマスト14の先端部からチャック15までの距離が長くなるため、より大きな負担がかかるという問題がある。
また、図5に示す杭圧入引抜機10においては、チャック15の回動中心Cがチャック15により把持された杭Pから離れており、チャック15の回動によってチャック15が把持する杭Pの方向を変えると、杭Pの変位が大きくなるため、杭Pの方向修正がやりにくく、杭Pの位置合わせが難しいという問題もある。
また、図5に示す杭圧入引抜機10においては、例えば、図6に示すように、杭Pを直線状に施工する際には、リーダーマスト14の先端部がチャック15により把持された杭Pの方を向かないので、リーダーマスト14の先端部からチャック15により把持された杭Pまでの距離(図6におけるL2)が長くなる。そのため、杭圧入引抜機を転倒させようとする力が大きくなり、効率よく杭Pを鉛直に圧入・引抜することができないという問題もある。
【0006】
本発明の課題は、構造物に近接して杭を圧入・引抜することが可能であり、かつ、杭圧入・引抜施工性が高い杭圧入引抜機、並びに、当該杭圧入引抜機を用いて杭を地中に圧入する杭圧入方法及び当該杭圧入引抜機を用いて杭を地中から引き抜く杭引抜方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
既設杭を掴む複数のクランプを有するサドルと、
前記サドルに対して前後に移動自在なスライドフレームと、
前記スライドフレーム上に設けられたリーダーマストと、
杭を把持するチャックと、
前記チャックを前記リーダーマストに昇降自在に支持するチャックフレームと、
前記チャックを回動させる回動機構部と、
を備え、
前記チャックは、円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口しており、当該チャックの内部に配置された前記杭を把持する把持部と、当該チャックの外周に沿って設けられた円弧状のガイドレール部と、を備え、
前記チャックフレームは、前記ガイドレール部にスライド自在に係合する係合部を備え、
前記ガイドレール部は、前記チャックの上側に設けられた上ガイドレール部と、前記チャックの下側に設けられた下ガイドレール部と、を備え、
前記係合部は、前記上ガイドレール部に係合する上係合部と、前記下ガイドレール部に係合する下係合部と、を備え、
前記チャックは、前記回動機構部により前記ガイドレール部が前記係合部をスライドすることによって、回動することを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の杭圧入引抜機において、
前記回動機構部は、
駆動モータと、
前記上ガイドレール部と前記下ガイドレール部との間に設けられ、前記チャックの外面に形成されたギア部と、
前記駆動モータにより出力された駆動力を前記ギア部に伝達する伝達部と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、杭を地中に圧入する杭圧入方法において、
前記チャックで杭を把持し、当該チャックを回動させることによって、当該杭の配置を調整し、当該チャックを下降させることによって、当該杭を地中の所定の深さまで圧入することを特徴とする。
【0010】
請求項4に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、所定の構造物に近接して杭を地中に圧入する杭圧入方法において、
前記チャックで杭を把持し、当該チャックの前記開口が前記構造物に面するように当該チャックを回動させることによって、当該杭の配置を調整し、当該チャックを下降させることによって、当該杭を地中の所定の深さまで圧入することを特徴とする。
【0011】
請求項5に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、杭を地中から引き抜く杭引抜方法において、
前記チャックを回動させることによって、当該チャックを既設杭に位置合わせし、当該既設杭が把持できる位置まで当該チャックを下降させて、当該チャックで当該既設杭を把持し、当該チャックを上昇させることによって、当該既設杭を地中から引き抜くことを特徴とする。
【0012】
請求項6に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、所定の構造物に近接して杭を地中から引き抜く杭引抜方法において、
前記チャックの前記開口が前記構造物に面するように当該チャックを回動させることによって、当該チャックを既設杭に位置合わせし、当該既設杭が把持できる位置まで当該チャックを下降させて、当該チャックで当該既設杭を把持し、当該チャックを上昇させることによって、当該既設杭を地中から引き抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、チャックフレームは、上下に配置された上係合部と下係合部との二点でチャックを支持しており、施工時(杭の圧入・引抜時)に、チャックフレームとチャックとの連結部分にかかる負担を振り分けることができるため、チャックフレームがチャックを一点で支持している従来の杭圧入引抜機と比較して、杭の圧入・引抜の際に一の連結部分にかかる負担を軽減することができる。
また、回動機構部によりガイドレール部が係合部をスライドすることによってチャックが回動するため、チャックの回動中心が、チャックにより把持された杭に近くなる。よって、チャックの回動中心がチャックにより把持された杭から離れている従来の杭圧入引抜機と比較して、チャックの回動により杭の方向を変えた際、杭の変位が小さいため、杭の方向修正がやりやすく、杭の位置合わせや杭の配置の調整が容易である。
また、コーナー施工時も、リーダーマストの先端部からチャックまでの距離が短いため、コーナー施工時にリーダーマストの先端部からチャックまでの距離が長くなる従来の杭圧入引抜機と比較して、杭の圧入・引抜の際にかかる負担が小さい。
また、チャックの回動中心が、チャックにより把持された杭に近いため、杭を直線状に施工する際には、リーダーマストの先端部がチャックにより把持された杭の方を向く。したがって、リーダーマストの先端部からチャックにより把持された杭までの距離が短くなるため、リーダーマストの先端部からチャックにより把持された杭までの距離が長い従来の杭圧入引抜機と比較して、杭圧入引抜機を転倒させようとする力が小さく、効率よく杭を鉛直に圧入・引抜することができる。
さらに、チャックが円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口した形状を成しているため、構造物が邪魔になることなく、構造物に近接して、杭を圧入・引抜することができる。
したがって、杭圧入引抜機は、構造物に近接して杭を圧入・引抜することが可能であり、かつ、杭圧入・引抜施工性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態の杭圧入引抜機を示す側面図である。
【図2】本実施形態の杭圧入引抜機を示す平面図である。
【図3】本実施形態の杭圧入引抜機によるコーナー施工について説明するための図である。
【図4】本実施形態の杭圧入引抜機による直線施工について説明するための図である。
【図5】従来の杭圧入引抜機によるコーナー施工について説明するための図である。
【図6】従来の杭圧入引抜機によるコーナー施工について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。ただし、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0016】
杭圧入引抜機1は、既設杭P上を移動可能であるとともに、既設杭Pを挟持して当該既設杭Pから反力を取って、新たな杭Pを地中に圧入したり、既設杭Pを地中から引き抜いたりする装置である。
なお、以下の説明では、杭圧入引抜機1のチャック6側を前側、それに対向する側を後側とし、杭圧入引抜機1に対して既設杭Pが配置された側を下側、それに対向する側を上側とし、前後方向及び上下方向の双方に直交する方向を左右方向とする。
【0017】
杭圧入引抜機1は、例えば、図1及び図2に示すように、既設杭Pを掴む複数のクランプ2,…を下部に備えたサドル3と、サドル3に対して前後に移動自在なスライドフレーム4と、スライドフレーム4上に設けられたリーダーマスト5と、杭Pを把持するチャック6と、チャック6をリーダーマスト5に対して昇降自在に支持するチャックフレーム7と、チャック6を回動させる回動機構部としてのチャック回動機構部8と、等を備えて構成される。
そして、例えば、図2に示すように、杭P(クランプ2が掴む既設杭P、チャック6が把持する杭P)は、ウエブ部P1と、一端にウエブ部P1が連設されたフランジ部P2,P2と、フランジ部P2,P2の他端に連設された継手部P3,P3と、からなるハット型鋼矢板である。
【0018】
クランプ2は、例えば、図2に示すように、固定板21と、可動板22と、挟持シリンダ23と、等を備えて構成される。
クランプ2は、固定板21と可動板22とで既設杭Pの上端部を挟んだ状態で、挟持シリンダ23を伸張させて可動板22を固定板21側に移動させることによって、当該既設杭Pを挟持するようになっている。これにより、杭圧入引抜機1を既設杭P,…に支持させるとともに、既設杭P,…から反力を取って、新たな杭Pを圧入したり、既設杭Pを引き抜いたりできるようになっている。
【0019】
サドル3は、例えば、スライドフレーム4を前後に移動させるための前後シリンダ(図示省略)等を備えている。
【0020】
リーダーマスト5は、例えば、図1に示すように、当該リーダーマスト5をスライドフレーム4に対し水平に回動させるためのマスト回動機構部51を備えている。
マスト回動機構部51は、マスト回動用駆動モータ511と、マスト回動用駆動モータ511の駆動軸の先端に固定された第1ギア512と、第1ギア512と噛合する第2ギア513と、第2ギア513を上部に有し、下端がスライドフレーム4に固定されたマスト回動軸514と、等を備えて構成される。これにより、リーダーマスト5は、マスト回動用駆動モータ511が駆動すると、マスト回動軸514を軸として、回動できるようになっている。
また、リーダーマスト5は、チャックフレーム7を昇降させるための上下シリンダ52等を備えている。
【0021】
チャック6は、チャック本体61が円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口しており、チャック本体61の下部に設けられ、チャック本体61の内部に配置された杭Pを把持する把持部62と、チャック本体61の外周に沿って設けられた円弧状のガイドレール部63と、等を備えている。
【0022】
把持部62は、固定爪621,621と、可動爪622,622と、把持シリンダ623,623と、等を備えて構成される。
把持部62は、固定爪621,621と可動爪622,622とで杭Pの継手部P3,P3を挟んだ状態で、把持シリンダ623,623を伸張させて可動爪622,622を固定爪621,621側に移動させることによって、当該杭Pを把持するようになっている。そして、チャック本体61の内部に杭Pを配置し、把持部62により当該杭Pを把持した状態では、当該杭Pのウエブ部P1がチャック本体61の開口から露出するようになっている。
【0023】
ガイドレール部63は、チャック本体61の上側に設けられた上ガイドレール部63aと、チャック本体61の下側に設けられた下ガイドレール部63bと、を備えている。
上ガイドレール部63aは、チャック本体61の外面上側に形成された、上方に開口した溝である。上ガイドレール部63aの両端には、上ガイドレール部63a(溝)を埋めるストッパ63a1,63a1が形成されている。
また、下ガイドレール部63bは、チャック本体61の外面下側に形成された、下方に開口した溝である。下ガイドレール部63bの両端には、下ガイドレール部63b(溝)を埋めるストッパ(図示省略)が形成されている。
【0024】
チャックフレーム7は、後部が上下シリンダ52に固定され、前部にガイドレール部63にスライド自在に係合する円弧状の係合部71等を備えている。
【0025】
係合部71は、上ガイドレール部63aに係合する上係合部71aと、下ガイドレール部63bに係合する下係合部71bと、を備えている。
上係合部71aは、チャックフレーム7の前部上側に設けられた、前方に向かって突出する側面視略J字状の突起である。上係合部71aの先端は下方を向いており、上係合部71aは、当該先端が上ガイドレール部63a(溝)に収容された状態で、上ガイドレール部63aに上方から係合している。
また、下係合部71bは、チャックフレーム7の前部下側に設けられた、前方に向かって突出する側面断面視略J字状の突起である。下係合部71bの先端は上方を向いており、下係合部71bは、当該先端が下ガイドレール部63b(溝)に収容された状態で、下ガイドレール部63bに下方から係合している。
【0026】
チャック回動機構部8は、例えば、図1に示すように、ケース85内に収容された駆動モータとしてのチャック回動用駆動モータ81と、チャック本体61の外面に形成された円弧状のギア部82と、チャック回動用駆動モータ81により出力された駆動力をギア部82に伝達する伝達部83と、等を備えて構成される。
チャック6は、チャック回動機構部8によりガイドレール部63が係合部71をスライドすることによって、回動するようになっている。
【0027】
チャック回動用駆動モータ81は、ケース85に収容されたブラケット84の上面に固定されている。
なお、図1においては、ブラケット84とケース85との外形を仮想線(二点鎖線)で示している。
【0028】
ギア部82は、チャック本体61の外面における、上ガイドレール部63aと下ガイドレール部63bとの間に設けられている。
【0029】
伝達部83は、チャック回動用駆動モータ81の駆動軸の先端に固定された第1伝達ギア831と、上部が第1伝達ギア831と噛合して下部が第3伝達ギア833の上部と噛合する側面視略T字状の第2伝達ギア832と、上部が第2伝達ギア832の下部と噛合して下部が第4伝達ギア834と噛合する側面視略T字状の第3伝達ギア833と、第3伝達ギア833の下部とギア部82との双方に噛合する第4伝達ギア834と、等を備えている。これにより、チャック6は、チャック回動用駆動モータ81が駆動すると、円弧状のギア部82が円周の一部となる円(円弧状のチャック6外面が円周の一部となる円)の中心を回動中心Cとして、回動できるようになっている。
【0030】
ここで、第1伝達ギア831と、第2伝達ギア832と、第3伝達ギア833の上部と、はブラケット84内に収容されている。
また、第1伝達ギア831は、チャック回動用駆動モータ81の駆動軸に軸着されており、第2伝達ギア832は、例えばブラケット84に支持された軸に軸着されており、第3伝達ギア833と第4伝達ギア834とは、例えばチャックフレーム7に支持された軸に軸着されている。
【0031】
次に、本発明の杭圧入方法について説明する。
【0032】
まず、施工箇所となる所定の位置において、地面に対して杭Pを圧入し、その地面に埋設されてなる数本の杭Pを基準となる既設杭Pとして施す。
次いで、基準の杭として地中に圧入された既設杭Pの上端部に、クランプ2を介して杭圧入引抜機1を設置する。
【0033】
次いで、クレーン等によって吊り込んで搬入した所定の杭Pを、杭圧入引抜機1のチャック6に供給して、チャック6で把持する。
具体的には、搬入した所定の杭Pの継手部P3,P3を把持部62により把持する。
【0034】
次いで、供給された新たな杭Pをチャック6で把持した状態で、リーダーマスト5をスライドフレーム4に対し左右に回動させたり、スライドフレーム4によってリーダーマスト5をサドル3に対して前後に移動させたりすることによりチャック6を水平方向に移動させるとともに、チャック回動機構部8によりチャック6を水平に回動させることによって、当該チャック6が把持する杭Pの配置を調整する。
具体的には、当該チャック6が把持する杭Pの継手部P3の先端を、杭列を成す既設杭Pにおける端の杭Pの継手部P3に位置合わせして、当該端の杭Pの継手部P3に新たな杭Pの継手部P3を連結する。次に、既設杭Pにおける端の杭Pの継手部P3に新たな杭P(チャック6により把持された杭P)の継手部P3を連結した状態で、チャック回動機構部8によりチャック6を水平に回動させることによって、所望する位置に、当該新たな杭Pの配置を調整する。
この際、コーナー施工時には、例えば、図3に示すように、チャック6の開口が前方を向くようにチャック6が回動させるようになっている。
また、構造物Sに近接して杭Pを圧入する場合には、チャック6の開口が当該構造物Sに面するようにチャック6を回動させるようになっている。すなわち、構造物Sに近接して杭Pを直線状に施工する時には、例えば、図4に示すように、チャック6の開口が当該構造物Sの方を向くようにチャック6が回動される。
【0035】
次いで、既設杭Pに連結して所定の配置に調整された杭Pを、上下シリンダ52によりチャックフレーム7を下降させてチャック6を下降させることによって、地中の所定の深さまで圧入する。
こうして新たな杭Pを地中に圧入することにより、既設杭Pに連設して杭列を形成することができる。
【0036】
次に、本発明の杭引抜方法について説明する。
【0037】
まず、地中に圧入された既設杭Pの上端部に、クランプ2を介して杭圧入引抜機1を設置する。
【0038】
次いで、リーダーマスト5をスライドフレーム4に対し左右に回動させたり、スライドフレーム4によってリーダーマスト5をサドル3に対して前後に移動させたりすることによりチャック6を水平方向に移動させるとともに、チャック回動機構部8によりチャック6を水平に回動させることによって、チャック6を既設杭P(引き抜きたい既設杭P)に位置合わせする。
具体的には、当該引き抜きたい既設杭Pをチャック6で把持した際に、その既設杭Pのウエブ部P1がチャック本体61の開口から露出し、かつ、その既設杭Pの継手部P3,P3がウエブ部P1よりもチャック本体61の内側に位置するように、チャック6を位置合わせする。
この際、構造物Sに近接して杭Pを地中から引き抜く場合には、チャック6の開口が当該構造物Sに面するようにチャック6を回動させるようになっている。
【0039】
次いで、上下シリンダ52によりチャックフレーム7を下降させることによって、当該引き抜きたい既設杭Pが把持できる位置までチャック6を下降させる。
【0040】
次いで、当該引き抜きたい既設杭Pをチャック6で把持し、上下シリンダ52によりチャックフレーム7を上昇させてチャック6を上昇させることによって、その既設杭Pを地中から引き抜く。
こうして既設杭Pを地中から引き抜くことができる。
【0041】
以上説明した本発明の杭圧入引抜機1によれば、既設杭Pを掴む複数のクランプ2,…を有するサドル3と、サドル3に対して前後に移動自在なスライドフレーム4と、スライドフレーム4上に設けられたリーダーマスト5と、杭Pを把持するチャック6と、チャック6をリーダーマスト5に昇降自在に支持するチャックフレーム7と、チャック6を回動させるチャック回動機構部8と、を備え、チャック6は、チャック本体61が円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口しており、チャック6(チャック本体61)の内部に配置された杭Pを把持する把持部62と、チャック6(チャック本体61)の外周に沿って設けられた円弧状のガイドレール部63と、を備え、チャックフレーム7は、ガイドレール部63にスライド自在に係合する係合部71を備え、ガイドレール部63は、チャック6(チャック本体61)の上側に設けられた上ガイドレール部63aと、チャック6(チャック本体61)の下側に設けられた下ガイドレール部63bと、を備え、係合部71は、上ガイドレール部63aに係合する上係合部71aと、下ガイドレール部63bに係合する下係合部71bと、を備え、チャック6は、チャック回動機構部8によりガイドレール部63が係合部71をスライドすることによって、回動するようになっている。
【0042】
すなわち、杭圧入引抜機1においては、チャックフレーム7は、上下に一定の距離を開けて配置された上係合部71aと下係合部71bとの二点でチャック6を支持しており、施工時(杭Pの圧入・引抜時)に、チャックフレーム7とチャック6との連結部分にかかる負担を振り分けることができるため、チャックフレームがチャックを一点で支持している従来の杭圧入引抜機と比較して、杭Pの圧入・引抜の際に一の連結部分にかかる負担を軽減することができる。
また、杭圧入引抜機1においては、チャック回動機構部8によりガイドレール部63が係合部71をスライドすることによってチャック6が回動するため、チャック6の回動中心Cが、チャック6により把持された杭Pに近くなる。よって、チャックの回動中心がチャックにより把持された杭から離れている従来の杭圧入引抜機と比較して、チャック6の回動により杭Pの方向を変えた際、杭Pの変位が小さいため、杭Pの方向修正がやりやすく、杭Pの位置合わせや杭Pの配置の調整が容易である。
また、杭圧入引抜機1においては、例えば、図3に示すように、コーナー施工時も、リーダーマスト5の先端部からチャック6までの距離(L1)が短いため、コーナー施工時にリーダーマストの先端部からチャックまでの距離が長くなる従来の杭圧入引抜機と比較して、杭Pの圧入・引抜の際にかかる負担が小さい。
また、杭圧入引抜機1においては、チャック6の回動中心Cが、チャック6により把持された杭Pに近いため、例えば、図4に示すように、杭Pを直線状に施工する際には、リーダーマスト5の先端部がチャック6により把持された杭Pの方を向く。したがって、リーダーマスト5の先端部からチャック6により把持された杭Pまでの距離(L2)が短くなるため、リーダーマストの先端部からチャックにより把持された杭までの距離が長い従来の杭圧入引抜機と比較して、杭圧入引抜機を転倒させようとする力が小さく、効率よく杭Pを鉛直に圧入・引抜することができる。
さらに、杭圧入引抜機1においては、チャック6(チャック本体61)が円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口した形状を成しているため、当該開口が構造物Sに面するようにチャック6を回動させて杭Pを圧入・引抜するようにすると、構造物Sが邪魔になることなく、構造物Sに近接して、杭Pを圧入・引抜することができる。
したがって、杭圧入引抜機1は、構造物Sに近接して杭を圧入・引抜することが可能であり、かつ、杭圧入・引抜施工性が高い。
【0043】
また、以上説明した本発明の杭圧入引抜機1によれば、チャック回動機構部8は、チャック回動用駆動モータ81と、上ガイドレール部63aと下ガイドレール部63bとの間に設けられ、チャック6の外面に形成されたギア部82と、チャック回動用駆動モータ81により出力された駆動力をギア部82に伝達する伝達部83と、を備えている。
すなわち、ギア部82が、上下に一定の距離を開けて配置されたチャックフレーム7とチャック6との連結部分同士の間に設けられているため、チャック回動機構部8によりチャック6を安定して効率よく回動させることができる。
【0044】
以上説明した本発明の杭圧入方法によれば、チャック6で杭Pを把持し、チャック6を回動させることによって、当該杭Pの配置を調整し、チャック6を下降させることによって、当該杭Pを地中の所定の深さまで圧入するようになっている。
特に、構造物Sに近接して杭Pを地中に圧入する際には、チャック6の開口が構造物Sに面するようにチャック6を回動させることによって、杭Pの配置を調整するようになっているため、構造物Sに近接して杭Pを圧入することが可能であり、かつ、杭圧入施工性が高い杭圧入引抜機1を用いて杭Pを圧入することができるため、杭Pの圧入を好適に実施できる。
【0045】
以上説明した本発明の杭引抜方法によれば、チャック6を回動させることによって、チャック6を既設杭Pに位置合わせし、当該既設杭Pが把持できる位置までチャック6を下降させて、チャック6で当該既設杭Pを把持し、チャック6を上昇させることによって、当該既設杭Pを地中から引き抜くようになっている。
特に、構造物Sに近接して杭Pを地中から引き抜く際には、チャック6の開口が構造物Sに面するようにチャック6を回動させることによって、チャック6を既設杭Pに位置合わせするようになっているため、構造物Sに近接して杭Pを引き抜くことが可能であり、かつ、杭引抜施工性が高い杭圧入引抜機1を用いて杭Pを引き抜くことができるため、杭Pの引き抜きを好適に実施できる。
【0046】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0047】
杭圧入引抜機1の構成や各部の形状などについて、上記実施形態に例示したものは、一例であり、これらに限定されるものではない。
具体的には、リーダーマスト5は、スライドフレーム4に対し水平に回動するものに限ることはなく、例えば、スライドフレーム5に対し左右に移動するものであっても良い。
また、上係合部71aは、上ガイドレール部63aに上方から係合するものに限ることはなく、例えば、下方から係合するものであっても良いし、上方及び下方から係合するものであっても良い。
また、下係合部71bは、下ガイドレール部63bに下方から係合するものに限ることはなく、例えば、上方から係合する物であっても良いし、上方及び下方から係合するものであっても良い。
【0048】
杭Pは、ハット型鋼矢板に限ることはなく、建設工事現場等において圧入・引抜される鋼矢板等の杭であれば任意である。
【符号の説明】
【0049】
1 杭圧入引抜機
2 クランプ
3 サドル
4 スライドフレーム
5 リーダーマスト
6 チャック
7 チャックフレーム
8 チャック回動機構部(回動機構部)
62 把持部
63 ガイドレール部
63a 上ガイドレール部
63b 下ガイドレール部
71 係合部
71a 上係合部
71b 下係合部
81 チャック回動用駆動モータ(駆動モータ)
82 ギア部
83 伝達部
P 既設杭,杭
S 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設杭を掴む複数のクランプを有するサドルと、
前記サドルに対して前後に移動自在なスライドフレームと、
前記スライドフレーム上に設けられたリーダーマストと、
杭を把持するチャックと、
前記チャックを前記リーダーマストに昇降自在に支持するチャックフレームと、
前記チャックを回動させる回動機構部と、
を備え、
前記チャックは、円筒状で外面の一部が軸方向に沿って開口しており、当該チャックの内部に配置された前記杭を把持する把持部と、当該チャックの外周に沿って設けられた円弧状のガイドレール部と、を備え、
前記チャックフレームは、前記ガイドレール部にスライド自在に係合する係合部を備え、
前記ガイドレール部は、前記チャックの上側に設けられた上ガイドレール部と、前記チャックの下側に設けられた下ガイドレール部と、を備え、
前記係合部は、前記上ガイドレール部に係合する上係合部と、前記下ガイドレール部に係合する下係合部と、を備え、
前記チャックは、前記回動機構部により前記ガイドレール部が前記係合部をスライドすることによって、回動することを特徴とする杭圧入引抜機。
【請求項2】
請求項1に記載の杭圧入引抜機において、
前記回動機構部は、
駆動モータと、
前記上ガイドレール部と前記下ガイドレール部との間に設けられ、前記チャックの外面に形成されたギア部と、
前記駆動モータにより出力された駆動力を前記ギア部に伝達する伝達部と、
を備えることを特徴とする杭圧入引抜機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、杭を地中に圧入する杭圧入方法において、
前記チャックで杭を把持し、当該チャックを回動させることによって、当該杭の配置を調整し、当該チャックを下降させることによって、当該杭を地中の所定の深さまで圧入することを特徴とする杭圧入方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、所定の構造物に近接して杭を地中に圧入する杭圧入方法において、
前記チャックで杭を把持し、当該チャックの前記開口が前記構造物に面するように当該チャックを回動させることによって、当該杭の配置を調整し、当該チャックを下降させることによって、当該杭を地中の所定の深さまで圧入することを特徴とする杭圧入方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、杭を地中から引き抜く杭引抜方法において、
前記チャックを回動させることによって、当該チャックを既設杭に位置合わせし、当該既設杭が把持できる位置まで当該チャックを下降させて、当該チャックで当該既設杭を把持し、当該チャックを上昇させることによって、当該既設杭を地中から引き抜くことを特徴とする杭引抜方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の杭圧入引抜機を用いて、所定の構造物に近接して杭を地中から引き抜く杭引抜方法において、
前記チャックの前記開口が前記構造物に面するように当該チャックを回動させることによって、当該チャックを既設杭に位置合わせし、当該既設杭が把持できる位置まで当該チャックを下降させて、当該チャックで当該既設杭を把持し、当該チャックを上昇させることによって、当該既設杭を地中から引き抜くことを特徴とする杭引抜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−43016(P2011−43016A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193063(P2009−193063)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000141521)株式会社技研製作所 (83)
【Fターム(参考)】