説明

杭構造

【課題】高い引抜き耐力を確実に得ることができる杭構造を提供すること。
【解決手段】杭1は、構造物の基礎2を支持する。この杭1は、地盤に掘削された杭穴10と、この杭穴10の先端部分に充填された根固め液が固化して築造された根固め部12と、杭穴10に挿入された中空の既製杭20と、根固め部12に埋め込まれて既製杭20の先端面より下側に離隔して配置された支圧プレート30と、既製杭20の内部に挿通されてかつ下端側が支圧プレート30に連結されて上端が基礎2に連結された連結部材31と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭構造に関する。詳しくは、構造物の基礎を支持する杭の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、構造物の基礎には杭が用いられるが、地震時にこの杭に作用する引抜き力に抵抗するため、引抜き耐力を高めた杭が知られている。
構造物の基礎を支持する杭には鉛直荷重により常時圧縮力が作用しているが、地震時には、水平荷重により曲げ応力やせん断応力が生じるとともに、転倒モーメントにより引張力が生じ、杭に引抜き方向の力が作用する。
【0003】
上述の水平荷重や鉛直荷重に対して杭が所定の抵抗力を発揮するためには、地盤との応力伝達上、所定の杭間隔が必要であるが、大きな地震力に抵抗するためには、杭の本数を増やすか、もしくは杭を大口径にする必要があり、杭の鉄筋量が増大するとともに基礎スラブも厚くなって、基礎にかかるコストが嵩む場合がある。
そこで、基礎にかかるコストを削減するために、杭の内部に引張力を負担するアンカー材を埋設することで、杭径や鉄筋量を増さずに大きな引張力に抵抗する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献では、杭は、先端部分が拡底された杭穴と、当該杭穴の拡底部分に設けられた根固め層と、杭穴に挿入されて根固め層に定着した中空の既製杭と、この既製杭の先端面に設けられた支圧板と、既製杭に挿通されて支圧板に連結されたアンカー材と、を備える。この既製杭の先端部分の外周面には、環状のリブが形成されている。
【0005】
このような杭構造によれば、杭穴の拡底部分に形成された根固め層が既製杭に引抜き力が作用すると、既製杭の周面摩擦力に加えて、既製杭のリブが根固め層に係止することにより、引抜き力に抵抗する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−146784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、引抜き力に対して主として抵抗する部分は既製杭周囲の摩擦力であるが、既製杭は表面が平滑であるため、アンカー材を設けたにもかかわらず引抜き抵抗力が発揮されにくい。
また、既製杭の先端部分の外周面にリブのような突起物を設けても、実際に引抜力が作用すると、既製杭が根固め層から抜けてしまうおそれがある。
さらに、支圧板が既製杭の先端に固定されていると、アンカー材が既製杭と一体化されているため、既製杭本体の引き抜き抵抗しか得られず、既製杭先端部の根固め層を十分に活用できず、高い引抜き耐力が得られない可能性もある。
【0008】
本発明は、杭先端の根固め部を最大限に活用することで、高い引抜き耐力を確実に得ることができる杭構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の杭構造は、構造物を支持する杭構造であって、地盤に掘削された杭穴と、当該杭穴の先端部分に充填された根固め液が固化して築造された根固め部と、前記杭穴に挿入された中空の既製杭と、前記根固め部に埋め込まれて前記既製杭の先端面より下側に離隔して配置されたプレートと、下端側が前記プレートに連結されて上端側が前記既製杭の杭体に連結された連結部材と、を備えることを特徴とする。
【0010】
この発明によれば、既製杭の先端より下側の根固め部内にプレートを配置し、このプレートに連結部材を連結した。ここで、プレートを既製杭の先端面より下側に離隔して配置したので、根固め部の一部が既製杭とプレートとの間に挟まれ、引抜き力に対して根固め部のせん断抵抗を利用できる。また、従来のように既製杭の先端にプレートを固定した場合に比べて、プレートがより根固め部の底に近くなり、引抜きが生じた際に連結部材に作用する引張力が、根固め部のより深い位置から上方にコーン状に広がって根固め部の周辺まで確実に伝達されるので、根固め部の引抜き抵抗能力を最大限に活用できる。
よって、杭に作用する引抜き力を、既製杭の周面摩擦による抵抗と、連結部材およびプレートを介した根固め部による抵抗と、で負担するから、高い引抜き耐力を確実に得ることができる。
【0011】
請求項2に記載の杭構造は、構造物を支持する杭構造であって、地盤に掘削された杭穴と、当該杭穴の先端部分に充填された根固め液が固化して築造された根固め部と、前記杭穴に挿入された中空の既製杭と、前記根固め部に埋め込まれて前記既製杭の先端面より下側に離隔して配置されたプレートと、前記既製杭の内部に挿通されてかつ下端側が前記プレートに連結されて上端側が前記構造物の基礎に連結された連結部材と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この発明によれば、既製杭の先端より下側の根固め部内にプレートを配置し、このプレートに連結部材を連結した。ここで、プレートを既製杭の先端面より下側に離隔して配置したので、根固め部の一部が既製杭とプレートとの間に挟まれ、引抜き力に対して根固め部のせん断抵抗を利用できる。また、従来のように既製杭の先端にプレートを固定した場合に比べて、プレートがより根固め部の底に近くなり、引抜きが生じた際に連結部材に作用する引張力が、根固め部のより深い位置から上方にコーン状に広がって根固め部の周辺まで確実に伝達されるので、根固め部の引抜き抵抗能力を最大限に活用できる。
よって、杭に作用する引抜き力を、既製杭の周面摩擦による抵抗と、これと並列的に機能する連結部材およびプレートを介した根固め部による抵抗と、で負担するから、高い引抜き耐力を確実に得ることができる。
【0013】
請求項3に記載の杭構造は、前記連結部材の上端側は、緊張力が導入された状態で、前記基礎に埋設されていることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、連結部材に緊張力を導入したので、基礎の小さな浮上がり変形に対しても根固め部が有効に機能して、既製杭の周面摩擦力と相乗的に抵抗するので、引抜き耐力をより向上できる。
なお、連結材に大きな緊張力を加えることは、常時で大きな圧縮力を受けている根固め部にさらに圧縮力を導入することになるため、好ましくない。したがって、緊張力の大きさは、根固め部の強度に影響を与えない程度、例えば連結部材にたるみが生じない程度の大きさとするのが好ましい。
【0015】
請求項4に記載の杭構造は、前記根固め部の少なくとも上端部は、地盤の支持層の中に位置していることを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、根固め部の少なくとも上端部を地盤の支持層の中に位置させたので、根固め層がより強固に地盤に定着するので、引抜き耐力をさらに向上できる。
【0017】
請求項5に記載の杭構造は、前記プレートは、円盤状であり、当該プレートの外径は、前記既製杭の外径以上であることを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、プレートを円盤状とし、このプレートの外径を既製杭の外径以上としたので、連結部材に作用する引張力が根固め部の周辺までより確実に伝達されるようになり、引抜き耐力をさらに向上できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、既製杭の先端より下側の根固め部内にプレートを配置し、このプレートに連結部材を連結した。ここで、プレートを既製杭の先端面より下側に離隔して配置したので、根固め部の一部が既製杭とプレートとの間に挟まれ、引抜き力に対して根固め部のせん断抵抗を利用できる。また、従来のように既製杭の先端にプレートを固定した場合に比べて、プレートがより根固め部の底に近くなり、引抜きが生じた際に連結部材に作用する引張力が、根固め部のより深い位置から上方にコーン状に広がって根固め部の周辺まで確実に伝達される。よって、根固め部の引抜き抵抗能力を最大限に活用できるようになり、高い引抜き耐力を確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係る杭構造の杭の側面図および断面図である。
【図2】前記実施形態に係る杭を構築する手順を説明するための図である。
【図3】本発明の変形例に係る杭構造の杭の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る杭の側面図および断面図である。
杭1は、建物の基礎2を支持するものであり、基礎2の下面から下方に向かって鉛直方向に延びている。
杭1は、地盤3に掘削された杭穴10と、この杭穴10の先端部分に築造された根固め部12と、杭穴10に挿入された中空の鉄筋コンクリート製の既製杭20と、根固め部12に埋め込まれて定着した支圧プレート30と、既製杭20の内部に挿通されて支圧プレート30に連結される連結部材31と、を備える。
【0022】
杭穴10の先端部分(下端部分)は拡底されており、拡底部分11が形成されている。この拡底部分11は、地盤3の支持層に形成されている。
根固め部12は、杭穴10の拡底部分11に充填された根固め液としてのセメントミルクが固化して築造されている。このセメントミルクは、ある程度の強度を安定して得られるものである。これにより、この根固め部12の全体が支持層の中に位置しており、根固め部12の外径は、既製杭20の外径よりも大きくなっている。
【0023】
連結部材31の上端側(基端側)は、緊張力が導入された状態で、プレート32を介して建物の基礎2に定着している。
既製杭20の先端部分は、根固め部12にある程度埋め込まれている。なお、この既製杭20の埋め込み深さは、適宜決定されてよい。
【0024】
支圧プレート30は既製杭20の先端面より下側に離隔しており、これにより、根固め部12の一部が既製杭20と支圧プレート30との間に挟まれている。支圧プレート30は、円盤状であり、この支圧プレート30の外径は、既製杭20の外径より大きくなっている。なお、この支圧プレート30の外形寸法は、想定される引抜き力に応じて適宜決定されてよい。
連結部材31の材質および断面積は、伝達する引抜き力の大きさと既製杭20との軸剛性とを考慮して、適宜決定されてよい。
【0025】
以上の杭1は、以下の手順で構築される。
まず、地上にて既製杭20を現場に搬入し、この既製杭20の先端側に支圧プレート30を配置し、さらに、連結部材31を既製杭20に挿通して支圧プレート30に連結しておく。このようにして、既製杭20、支圧プレート30、および連結部材31を一体化させておく。
【0026】
その後、図2(a)に示すように、杭打ち機40により、先端部分に拡底部分11が形成された杭穴10を形成する。その後、杭打ち機40の掘削ドリルの先端からセメントミルクを吐出して拡底部分11にセメントミルクを充填し、掘削ドリルを上下させて良く撹拌する。その後、掘削ドリルを引き上げながら、掘削ドリルの先端から杭周充填液を吐出して、杭穴10内に充填していく。
【0027】
続いて、図2(b)に示すように、クレーン41により、地組みした既製杭20を杭穴10に挿入し、地組みした既製杭20の支圧プレート30が拡底部分11の内部に位置するようにする。また、既製杭20を杭穴10に挿入することにより、少なくとも既製杭20の周囲には杭周充填液が充填される。
【0028】
その後、セメントミルクが固化して根固め部12が築造されると、図2(c)に示すように、この根固め部12に支圧プレート30が埋め込まれることになる。また、既製杭20の周囲の杭周充填液が固化して、既製杭20が地盤3に定着する。
その後、基礎2を構築し、連結部材31に緊張力を導入して、この緊張力を導入した状態で連結部材31の上端部分を基礎2に定着させる。
【0029】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)既製杭20の先端より下側の根固め部12内に支圧プレート30を配置し、この支圧プレート30に連結部材31を連結した。ここで、支圧プレート30を既製杭20の先端面より下側に離隔して配置したので、根固め部12の一部が既製杭20と支圧プレート30との間に挟まれ、引抜き力に対して根固め部12のせん断抵抗を利用できる。また、従来のように先端にプレートを固定した場合に比べて、プレートがより根固め部12の底に近くなり、連結部材31に作用する引張力が、根固め部12のより深い位置から上方にコーン状に広がって根固め部12の周辺まで確実に伝達されるので、根固め部の引抜き抵抗能力を最大限に活用できる。
よって、杭1に作用する引抜き力を、既製杭20の周面摩擦による抵抗と、これと並列的に機能する連結部材31および支圧プレート30を介した根固め部12による抵抗と、で負担するから、高い引抜き耐力を確実に得ることができる。
【0030】
(2)連結部材31に緊張力を導入したので、小さな浮上がり変形に対しても根固め部12が有効に機能して、既製杭20の周面摩擦力と相乗的に抵抗するので、引抜き耐力をさらに向上できる。
【0031】
(3)根固め部12の全体を地盤3の支持層の中に位置させたので、根固め部12がより強固に地盤3に定着するので、引抜き耐力をさらに向上できる。
【0032】
(4)支圧プレート30を円盤状とし、この支圧プレート30の外径を既製杭20の外径より大きくしたので、連結部材31に作用する引張力が根固め部12の周辺までより確実に伝達されるようになり、引抜き耐力をさらに向上できる。
【0033】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本実施形態では既製杭20を鉄筋コンクリート造としたが、これに限らず、既製杭を鋼管杭としてもよい。
また、本実施形態では、連結部材31の上端側を基礎2に定着したが、これに限らない。例えば鋼管杭など、既製杭が十分な引き抜き耐力を有している場合には、図3に示すように、連結部材31Aの上端側を既製杭20の杭体に連結してもよい。
【0034】
また、本実施形態では、拡底部分11にセメントミルクを充填して、固化したセメントミルクで根固め部12を築造したが、これに限らない。例えば、掘削ドリルの先端からセメントミルクを吐出して、吐出したセメントミルクと掘削した土とを攪拌してソイルセメントとし、固化したソイルセメントを根固め部としてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1、1A…杭
2…基礎
3…地盤
10…杭穴
11…拡底部分
12…根固め部
20…既製杭
30…支圧プレート
31、31A…連結部材
32…プレート
40…杭打ち機
41…クレーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を支持する杭構造であって、
地盤に掘削された杭穴と、当該杭穴の先端部分に充填された根固め液が固化して築造された根固め部と、前記杭穴に挿入された中空の既製杭と、前記根固め部に埋め込まれて前記既製杭の先端面より下側に離隔して配置されたプレートと、下端側が前記プレートに連結されて上端側が前記既製杭の杭体に連結された連結部材と、を備えることを特徴とする杭構造。
【請求項2】
構造物を支持する杭構造であって、
地盤に掘削された杭穴と、当該杭穴の先端部分に充填された根固め液が固化して築造された根固め部と、前記杭穴に挿入された中空の既製杭と、前記根固め部に埋め込まれて前記既製杭の先端面より下側に離隔して配置されたプレートと、前記既製杭の内部に挿通されてかつ下端側が前記プレートに連結されて上端側が前記構造物の基礎に連結された連結部材と、を備えることを特徴とする杭構造。
【請求項3】
前記連結部材の上端側は、緊張力が導入された状態で、前記基礎に埋設されていることを特徴とする請求項2に記載の杭構造。
【請求項4】
前記根固め部の少なくとも上端部は、地盤の支持層の中に位置していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の杭構造。
【請求項5】
前記プレートは、円盤状であり、
当該プレートの外径は、前記既製杭の外径以上であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の杭構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−36188(P2013−36188A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171631(P2011−171631)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】