説明

杭評価チャート、杭評価チャートの作成方法および杭評価方法

【課題】一般技術者でも簡単に脆弱な杭を抽出することができ、地震発生後には損傷が生じている杭を容易に推定できる杭評価チャート、杭評価チャートの作成方法および杭評価方法を提供する。
【解決手段】先端が支持層Bに支持された線形弾性梁としてモデル化された杭PLについて、表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naの関数である地盤変位と水平慣性力とが加わる場合における超過曲げモーメントMeを算出する変形解析ステップと、変形解析ステップにおいて算出された超過曲げモーメントMeに基づいて、杭PLの損傷評価指標を算出する指標算出ステップと、算出された杭PLの損傷評価指標を、表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naと関連づけて記憶する指標記憶ステップとを有し、指標記憶ステップにおいて記憶された損傷評価指標に基づいて、表層Sの厚さHと表層Sの平均N値Naを座標軸とするグラフ上に、損傷評価指標の等値線を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、杭評価チャート、杭評価チャートの作成方法および杭評価方法に関する。さらに詳しくは、既に設置されている基礎杭の耐震性を評価するために使用される杭評価チャート、杭評価チャートの作成方法および杭評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の基礎杭の設計では、地震によって杭に作用する力として、上部構造物に加わる慣性力のみが考慮されていた。しかし、実際の基礎杭は、地震の際に、液状化側方流動や地盤振動に起因する周辺地盤の水平方向の地盤変位を受けることから、近年では、日本国内のいくつかの基礎の設計規格や国際規格ISO23469において、地盤の水平変位を地震作用として考慮しなければならないことが規定されている。
【0003】
ところで、地震における地盤の水平変位に対する杭の耐震性能については、詳細な非線形動的解析手法から簡易な等価線形静的手法までのさまざまな数値解析手法により評価することができるので、新設構造物に採用する基礎杭では、適切な解析手法を選択して耐震設計をすることができる。つまり、新設構造物に採用する基礎杭には、所定の規模の地震の際に液状化側方流動や地盤振動が生じた場合でも十分な耐震性を有するものを採用することができる。
【0004】
しかし、既存の基礎杭であって、上部構造物に加わる慣性力のみを考慮して設計されたされたものは、所定の規模の地震が生じた場合において、地盤の水平変位を考慮する現在の耐震基準を満たすか否かは不明である。もし、現在の耐震基準を満たさないのであれば、十分な耐震性を有するように補強などが必要である。
【0005】
既存の基礎杭が、現在の耐震基準を満たすか否かを判断する方法として、設計時の仕様に基づいて数値解析する方法が考えられる。しかし、高速道路などの構造物には膨大な数の基礎杭が設けられており、かかる基礎杭全てに数値解析を行えば、たとえ簡易な等価静的な手法を採用したとしても多大な時間を必要とする。しかも、かかる数値解析を行うことができる技術者の数も限られており、上記のごとき基礎杭全てに数値解析を行うことは現実的ではない。
したがって、地震時地盤変位に対して脆弱な既存杭を抽出するという耐震性スクリーニングはほとんどなされておらず、一般技術者が利用できる耐震性スクリーニングのための簡便な評価技術の開発が求められている。
【0006】
一方、地震が発生した場合、地震前の状況に復帰させるためには、どの基礎杭が損傷しているかを把握しなければならないので、簡易的に既存の杭の状態を評価する技術が開発されている(例えば、特許文献1,2)。
【0007】
特許文献1には、杭の鉄筋の一端同士を導線で接続し、鉄筋の他端を導線によって測定装置に接続し、杭の電気抵抗を測定する技術が開示されており、杭が無傷のときの測定値と地震後の測定値とを比較して、杭の損傷の有無等を評価することができる旨の記載がある。
特許文献2には、建物を支える複数の杭を有する杭基礎の損傷状況を示す損傷割合を推定するための杭基礎の損傷割合推定システムであって、振動によって杭基礎の傾斜しうる傾斜角度と、同じ振動によって杭基礎に生じうる損傷状況を示す損傷割合とを対応付けた技術が開示されている。この技術では、地震の後などに、杭基礎の傾斜が把握できれば、杭基礎が損傷しているか否かを判断することはできる。
【0008】
しかるに、特許文献1の技術では、各杭の損傷の有無を調べるためには、各杭を一本一本現地で測定しなければならない。すると、高速道路等のように何百本もある杭を調べるには非常に時間と労力を要する。しかも、地震後に現地での調査を行うことになるので、非常に危険を伴った作業となる。
また、特許文献2の技術では、杭基礎の傾きから杭基礎の損傷を判断するので、杭基礎に損傷がある建物を迅速に発見することができる。しかし、杭基礎に損傷があると判断された場合でも、どのあたりの杭に損傷が生じている可能性があるかまでは把握できても、具体的にどの杭に損傷が生じているかまでは把握できない。したがって、補修する杭を把握するためには杭基礎を構成する全て杭を検査しなければならない。
【0009】
【特許文献1】特開平10−183658号
【特許文献2】特開2007−39879
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、一般技術者でも簡単に脆弱な杭を抽出することができ、地震発生後には損傷が生じている杭を容易に推定できる杭評価チャート、杭評価チャートの作成方法および杭評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(杭評価チャートの作成方法)
第1発明の杭評価チャートの作成方法は、支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価チャートを作成する方法であって、先端が支持層に支持された線形弾性梁としてモデル化された前記杭について、前記表層の厚さおよび前記表層の平均N値の関数である地盤変位と水平慣性力とが加わる場合における超過曲げモーメントを算出する変形解析ステップと、該変形解析ステップにおいて算出された前記超過曲げモーメントに基づいて、前記杭の損傷評価指標を算出する指標算出ステップと、算出された前記杭の損傷評価指標を、前記表層の厚さおよび前記表層の平均N値と関連づけて記憶する指標記憶ステップとを有し、前記指標記憶ステップにおいて記憶された前記損傷評価指標に基づいて、前記表層の厚さと前記表層の平均N値を座標軸とするグラフ上に、前記損傷評価指標の等値線を形成することを特徴とする。
第2発明の杭評価チャートの作成方法は、第1発明において、前記杭の損傷評価指標を、該杭の降伏時応答曲げモーメントと、前記超過曲げモーメントとから算出することを特徴とする。
第3発明の杭評価チャートの作成方法は、第2発明において、前記杭の損傷評価指標が、推定曲率と前記杭の降伏時曲率とに基づいて算出される塑性率であり、前記推定曲率は、前記超過曲げモーメントと前記杭の非線形特性とに基づいて算出される、前記超過曲げモーメントが前記杭に発生する状況における非線形特性を有する前記杭の曲率であることを特徴とする。
第4発明の杭評価チャートの作成方法は、第1、第2または第3発明において、前記水平慣性力は、前記等価塑性率が、前記杭の杭頭に対して該杭の設計において設定された水平力が加わると仮定したときにおける塑性率と一致する大きさであることを特徴とする。
第5発明の杭評価チャートの作成方法は、第1、第2、第3または第4発明において、前記表層が複数の層からなる場合において、前記地盤変位が、前記表層の厚さおよび、前記表層を構成する複数の層のうち最上層の平均N値の関数であることを特徴とする。
第6発明の杭評価チャートは、支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価チャートであって、前記表層の厚さおよび該表層の平均N値とに基づいて算出される杭の損傷評価指標の等値線が、前記表層の厚さと前記表層の平均N値とを座標軸とするグラフ上に描画されたものであることを特徴とする。
第7発明の杭評価チャートは、第7発明において、請求項1、2、3、4または5記載の杭評価チャートの作成方法によって作成されたものであることを特徴とする。
第8発明の杭評価方法は、支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価方法であって、前記杭の設計図面に基づいて算出される前記表層の平均N値と、前記表層の厚さとに基づいて、第6または第7発明の杭評価チャートから前記杭の損傷評価指標を求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
(杭評価チャートの作成方法)
第1発明によれば、線形弾性な材料であると仮定して杭をモデル化しているので、応答曲げモーメントを算出する時間を短縮することができ、杭評価チャートの作成期間も短くすることができる。しかも、地盤変位を表層の厚さと平均N値に基づいて変化させているので、杭の損傷評価指標を、評価すべき杭が設けられている地盤の表層の厚さと表層の平均N値から求めることができる杭評価チャートを形成することができる。
第2発明によれば、従来の設計基準で適切に設計された杭について、現在の設計基準で適切に評価できる杭評価チャートを作成することができる。
第3発明によれば、降伏する杭の損傷評価指標をある程度の精度で算出することができる。また、同じ曲げ剛性を有する杭であれば、杭の構造が異なっていても降伏曲げモーメント、降伏曲率、降伏後剛性など杭の非線形特性のパラメータを変更するだけで容易に杭評価チャートを作成することができる。
第4発明によれば、改訂前の設計規準や現在の設計基準に則って設計された杭が現行の設計基準に規定される設計水平力に対して塑性率がおおよそ1であるという事例が大半を占めるという統計分析結果に即して、設計水平力に対して塑性率を1であると仮定すると、たとえ設計計算書がなくても設計水平力が容易に推定できるので、従来の設計基準で適切に設計されたことが前提となる杭について、現在の設計基準でより適切に評価できる杭評価チャートを作成することができる。
第5発明によれば、地盤が複数の層からなる場合であっても、応答曲げモーメントの算出するための計算時間を短くすることができる。とくに、複数の層からなる表層を、1層または2層に置き換えてもよく、この場合には、さらに応答曲げモーメントの算出するための計算時間を短くすることができる。
(杭評価チャート)
第6発明によれば、評価すべき杭が設けられている地盤の表層の厚さと表層の平均N値が分かれば、杭の損傷評価指標を求めることができる。すると、表層の厚さと表層の平均N値は杭の設計図面だけから求められるので、現地の調査を行わなくても、地震が発生したときに損傷が生じている可能性がある杭を推定したり、地震の際に各杭に生じる損傷を推定したりすることができる。よって、調査すべき杭が多くても、簡単かつ迅速に杭の評価を行うことができる。
第7発明によれば、簡便な手法で得られる地盤の表層の厚さと表層の平均N値からでも、各杭についてある程度精度の高い損傷評価指標の求めることができる。
(杭評価方法)
第8発明によれば、表層の厚さと表層の平均N値は杭の設計図面だけから求められるので、現地の調査を行わなくても、地震が発生したときに損傷が生じている可能性がある杭を推定したり、地震の際に各杭に生じる損傷を推定したりすることができる。すると、調査すべき杭が多くても、簡単かつ迅速に杭の評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明の杭評価チャートを使用して、耐震性を評価する杭について説明する。
図5は地盤に埋設されている杭基礎の概略説明図である。同図において、符号PLは評価対象となる杭を示している。この杭PLは、高速道路や鉄道の橋梁、建築物、タンク、煙突、サイロ、桟橋等の建造物の荷重を支持し、地盤Gに伝えるために設けられるものであり、地盤Gの表層Sを貫通してその先端(下端)が岩盤等の支持層Bに貫入されており、その上端(以下、杭頭という)が建造物のフーチングFに連結されている。
【0014】
上記のごとき杭PLには、地震が発生すると、杭頭にはフーチングFを介して建造物と杭PLの慣性力に起因する水平慣性力が加わる。また、杭PLの表層Sに埋設している部分には、杭PLの軸と交差する方向から支持層Bに対する表層Sの変位(以下、単に地盤変位という)に起因する力が加わる。すると、これらの力を受けて杭PLは変形し、その変形量が杭PLの弾性限界を超えると、杭PLが降伏したり破壊したりするのである。
【0015】
本実施形態の杭評価チャートは、地震が発生したときに、上記のごとき杭PLがどの程度損傷するかについて判断するための指標を把握するためのものであり、水平慣性力と地盤変位の影響を含めた杭PLの損傷評価を、ある程度の精度で行うことができる。
【0016】
図1は本実施形態の杭評価チャート1の概略説明図である。同図に示すように、本実施形態の杭評価チャート1は、前記地盤Gにおける表層Sの厚さHと、この表層Sの平均N値Naとを座標軸とするグラフ上に描画されたものである。
【0017】
ここで、平均N値とは、標準貫入試験によって得られる表層SのN値を、地表面から所定の深さまで平均した値を意味している。例えば、標準貫入試験によって表層SのN値が1mの深さまで1mごとに、2(1m)、4(2m)、3(3m)、3(4m)であれば、4mの深さの平均N値は(2+4+3+3)/4=3である。そして、表層Sの平均N値Naとは、地表面から支持層BまでのN値を平均した値、言い換えれば、表層S全体のN値を平均した値を意味している。
【0018】
そして、図1に示すように、本実施形態の杭評価チャート1には、杭PLの損傷評価指標の等値線が描かれている。この損傷評価指標は、杭PLの杭頭に加わる水平慣性力と、表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naの関数である地盤変位との影響を受けて変化する指標であり、例えば、等価塑性率や、曲げモーメントの超過率等である。
【0019】
このため、表層Sの平均N値Naと表層Sの厚さHが分かれば、杭PLの損傷評価指標を求めることができる。
具体的には、杭評価チャート1上において、表層Sの平均N値Naと表層Sの厚さHとの交点の部分の損傷評価指標を、交点の部分を挟む等値線を使って線形補間すれば、杭PLの損傷評価指標を得ることができる。
すると、かかる杭PLの損傷評価指標が得られれば、地震が発生したときに損傷が生じている可能性がある杭PLを推定したり、地震の際に各杭PLに生じる損傷を事前に推定したりすることができる。
【0020】
しかも、杭PLが設置される地盤Gの表層Sの平均N値Naや表層Sの厚さHは、杭PLの設計図面から簡単に求めることができるから、杭PLが設けられている現地の調査を行わなくても、簡単に杭PLの損傷評価指標を求めることができる。
【0021】
よって、本実施形態の杭評価チャート1を使用すれば、高速道路の杭基礎等のように、調査すべき杭PLの数が膨大であっても、簡単かつ迅速に全ての杭PLの評価を行うことができ、補修や改修が必要な杭PLを選別することができる。そして、地震後の損傷評価の場合であれば、現地の調査を行わなくても優先的に補修すべき杭PLの評価を行うことができるので、地震後の二次災害等を防ぐこともできる。
【0022】
また、本実施形態の杭評価チャート1では、水平慣性力だけでなく地盤変位との影響を受けて変化する指標を採用している。このため、既設の杭PLであって設計時には地盤変位の影響を考慮されていないものであっても、設計時の設計図面に基づいて表層Sの厚さHや平均N値Naが得られれば、地盤変位の影響を含めた杭PLの損傷評価指標を得ることができる。よって、地盤変位の影響を考慮していない既設の杭PLであても、地盤変位の影響を含めた損傷評価をある程度の精度で行うことができる。
【0023】
なお、上記例では、損傷評価指標として等価塑性率や曲げモーメントの超過率等を例示したが、水平慣性力だけでなく地盤変位との影響を受けて変化するものであれば、損傷評価指標は特に限定されない。なお、等価塑性率および曲げモーメントの超過率の詳細は後述する。
【0024】
また、表層S中において、N値がそれほど大きく変化しない場合、つまり、表層Sがほぼ均質である場合には、表層Sは、その厚さHや表層S全体の平均N値Naで、その性質を代表させることができる。よって、上記のごとき表層S全体の平均N値Naを使用することで、杭PLの損傷評価指標をある程度の精度で求めることができる。しかし、表層S中において、N値が大きく異なる層が複数存在する場合には、表層S全体の平均N値Naだけではその性質を代表させることは難しい。そこで、表層S全体の平均N値Naに代えて、通常、表層S中最も軟質の層となる最上層の平均N値N1、つまり、最も地盤変位が生じやすい最上層の平均N値N1を採用して本実施形態の杭評価チャート1を形成してもよい。
例えば、杭基礎が採用される地盤Gでは、表層Sの完新統はやや締まった砂質土層の上に軟らかい粘性土層が積層している状態である特徴づけられることもある。この場合には、表層Sと支持層Bとの境界に加えて、砂質土層と粘性土層との間にコントラストの強い層境界がもう一つ形成されるから、かかる地盤Gは、表層内では均質である異なる二つの層が岩盤Gの上に積層されていると考えることができる。この二つの層についてN値を比較すると、砂質土層は粘性土層よりもN値が大きくなるので、砂質土層のN値を例えば20程度に固定すると便利である。そのように仮定すると、表層Sの上部層である粘性土層だけの平均N値N1と、表層S全体の平均N値Naを比較すれば、Na>N1となる。このような場合、表層の上部層が下部層に比べて軟らかいので地盤変位は上部層のみで生じると仮定するのが現実的である。このようにモデル化すると、平均N値Naが同じであっても、均質な表層ではなく、上部層で軟らかく下部層で硬いという杭基礎が採用される現実的な地層構成を適格にモデル化でき、さらに上部層で変位が集中するという異なった状態での表層地盤がモデル化できる。すると、表層を1層でモデル化した場合に基盤との境で曲げモーメントが大きくなるのと異なり、上部層と下部層の境界で曲げモーメントが大きくなるという異なった現実的な形態を評価することができる。よって、表層S全体の平均N値Naに代えて、地盤Gのうち最も軟弱な層、つまり、表層Sの上部層(粘性土層)の平均N値N1を採用した杭評価チャート1を形成すれば、より適切に杭PLを評価することができる。
【0025】
(杭評価チャートの作成方法)
つぎに、本実施形態の杭評価チャート1を形成する方法を説明する。
上述した杭評価チャート1を作成するためには、杭PLの損傷評価指標(等価塑性率や曲げモーメントの超過率等)を求める必要がある。この損傷評価指標は、地盤Gに埋設された杭PL、および、その杭PLが設置されている地盤Gをモデル化した上で、水平慣性力および、地震動に起因する地盤Gの表層Sの地盤変位を入力として表層Sの平均N値Naおよび表層Sの厚さHを変化させながら数値解析した結果を利用して求められる。
【0026】
(数値解析法)
杭評価チャート1を形成するための損傷評価指標を算出する数値解析では、図2に示すように、杭PLは、Winkler型のばねで支持された線形弾性梁としてモデル化しており、モデル化された杭PLに対し、水平慣性力を杭頭に対して水平に集中荷重として作用させ、地盤変位を杭側面に設置されたばね(地盤ばね)に作用させている。かかる水平慣性力および地盤変位を作用させれば、簡易的に地震時において杭PLに加わる力を再現することができ、杭PLが線形弾性梁であるとした場合における地震時の杭PLに発生する曲げモーメント(応答曲げモーメント、図3参照)および、弾性変形した杭PLの曲率(応答曲率)を算出することができる。
【0027】
ところで、上述した水平慣性力とは、本願の数値解析の結果から得られる塑性率が、既存の杭PL等のように杭頭に対してこの杭PLの設計時に設定された設計水平力が加わると仮定したときにおける杭の塑性率と一致する大きさに設定された、杭頭に作用する水平力を意味している。
我が国の道路橋等の杭では、実際の多くの設計事例を参考にすると、杭PLの降伏時の曲率φyと、杭PLに所定の水平力(例えば、想定される地震が発生したときに杭頭に加わる水平力)が加わったときにおける曲率φとの比は、φy/φ=1の条件を満足すると仮定できる。すると、数値解析において、単位水平力P0を載荷した際における杭PLの曲率φ0を算出すれば、水平慣性力をPとすると、水平慣性力PはP=φy/φ0×P0で求めることができる。よって、本願では、既存の杭PLの水平慣性力として、上記逆算によって得られるものを採用することができる。
設計水平力が既知である場合で、これを反映した評価を行いたい場合には、2通りの対応が可能である。設計水平力とともに設計時の塑性率が既知である場合には、上記のごとき第4の発明で段落0012で例示した方法によらず、その塑性率になる設計水平力を求めればよい。塑性率が未知である場合には、第3の発明によってそれを求めることができる。
【0028】
なお、地盤Gと建造物では固有周期が異なるので、水平慣性力および地盤変位の結果生じる建造物の振動と杭PLの振動には位相差が生じるため、両者の位相差を考慮しての数値解析を行うことが好ましい。しかし、両者が同位相の場合と逆位相の場合、つまり、両極端な場合について評価しても、杭PLの損傷を簡易的に評価するのであれば十分である。すると、数値解析において地盤Gや建造物の固有周期に関する情報が不要となるので、数値解析が容易になる。
また、杭PLには、鉛直方向の慣性力や転倒モーメントによるフーチングFの回転に起因する軸力変動が生じたり周面摩擦が加わったりするが、本発明は、杭Pの損傷を簡易的に評価することを目的としているので、杭PLの応答曲げモーメントおよび応答曲率の算出に際してこれらの影響は無視している。
【0029】
(地盤モデル)
地盤Gは、支持層Bの表面に均質な表層Sが形成されていると仮定してモデル化している。かかる地盤Gの表層Sにおいて、地震時の振動による地盤変位ugの深さ方向の分布はコサイン分布で表すことができる。具体的には、地表面の変位量をug0、地表面からの深さをzすると,ug(z)=ug0×cos(πz/2H)で表される。
【0030】
地表面の変位量u0の振幅は,想定される地震動によって変化する関数として設定することができる。例えば、軟弱な地盤ほど地震動に起因する振動変位が大きいという特徴を表現するのであれば、変位量u0は、表層Sの固有周期Tgの単調増加関数としてモデル化することができる。具体的には、地表面変位u0の振幅は、鉄道標準の推定式u0=25.6Tg1.7を参考に係数を修正して用いるなどの方法が考えられ、この係数は設計規格での設計地震動を考慮して適宜設定することができる。
例えば、係数は、別途、考慮すべき設計地震動を入力とした地盤の地震応答解析を系統的に行うことにより、評価チャート作成に先立ち決定することができる。
【0031】
ここで、表層Sの固有周期Tgは、1/4波長則により、その平均せん断波速度Vsa、表層Sの厚さHを用いて、Tg=1/4(H/Vsa)で表すことができる。また、平均せん断波速度Vsaは、N値を用いた以下の経験式Vsa=aN1/3 で求められる。式中のaは、表層Sの土質によって変化する係数であり、例えば、粘性土層であればa=80、砂質層であればa=100を採用することができる。そして、本発明では、Vsaを算出するN値として、表層Sの平均N値Naを採用している。
つまり、杭PLに加わる地盤変位ugは、表層Sの平均N値Naと表層Sの厚さHの関数として定義することができるのである。
【0032】
(杭モデル)
杭PLは、先端支持の単杭であって、その先端が支持層Bに貫入している線形弾性梁としてモデル化している。具体的には、杭PLを、その先端がWinkler型のばねで支持された線形弾性梁としてモデル化している(図2参照)。
また、杭PLは、その杭長Lが表層Sの厚さHと等しく、その杭頭が水平方向への移動は自由であるが回転は固定されていると仮定している。
さらに、杭PLの支持層Bに貫入している部分の抵抗は、長さが杭径と等しい回転バネ(Winkler型のばね)でモデル化している。この回転バネのバネ係数Kは、杭径D,貫入長d、水平地盤反力係数Kとして、K=KDd3/3で求めている。水平地盤反力係数Kは、支持層BのN値より推定することができる。具体的には、Kを算出する方法としては、道路橋などの設計基準に掲載されている既知の式を使えばよい。
なお、上記回転バネでは線形なバネを仮定しているが、非線形性を有するバネを考慮してもよい。しかし、上述した水平慣性力の逆算を簡単化する上では、線形なバネを仮定すると便利である。
【0033】
(杭PLの損傷評価指標)
本発明では、杭評価チャートに描かれる代表的な損傷評価指標として、等価塑性率mおよび曲げモーメントの超過率nを例示している。
【0034】
曲げモーメントの超過率とは、コンクリートや鉄筋・鋼材などの断面諸量が与えられた杭PLのストリップモデルやファイバーモデルなどの断面変形性能の非線形解析等により事前に与えられる降伏時の曲げモーメントMyと、杭PLが線形弾性であると仮定した数値解析によって得られる応答曲げモーメントMeとの比であり、n=Me / Myで算出される。この曲げモーメントの超過率nは、杭の設計時に想定した強さの地震が発生したときに水平慣性力のみが杭PLに加わると仮定した場合に杭PLに発生する曲げモーメントに対して、杭の設計時に想定した強さの地震が発生したときに、水平慣性力Pに加えて地盤変位の影響も杭PLが受けると仮定した場合における曲げモーメントがどの程度大きくなるかを示した指標である。したがって、曲げモーメントの超過率nが大きくなるほど、想定される地震が発生したときに、杭PLの損傷が大きくなることが想定できる。
【0035】
また、等価塑性率mとは、前記降伏時の曲率φyと、等価エネルギー則に基づいて前記応答曲げモーメントMeに基づいて得られる曲率φfとの比であり、m=φe / φyで算出される。
【0036】
等価エネルギー則は、弾性ポテンシャルエネルギーと弾塑性ポテンシャルエネルギーとが等しくなると仮定するものである。本願の杭PLに等価エネルギー則を適用すると、線形弾性であると仮定した杭PLに前記応答曲げモーメントMeが発生する条件において線形弾性である杭PLに蓄えられるひずみエネルギーEcと、同じ条件で非線形性を有する実際の杭PLに蓄えられるひずみエネルギーErとが等価であると仮定することができる。
例えば、杭PLの非線型特性がバイリニアであるとすれば、降伏時の曲げモーメントと曲率をそれぞれMy, φyとし、および終局時の曲げモーメントと曲率をMu, φuとすると、非線形特性を有する実際の杭PLおよび、線形弾性である解析モデルの杭PLについて、曲げモーメント−曲率の関係は図4のように示すことができる。
この場合、図4において、原点、点E、点φeで囲まれる面積A1が、前記応答曲げモーメントMeが発生する条件において、線形弾性である杭PLに蓄えられるひずみエネルギーEcに相当する。
一方、原点、点Y、点F、φfで囲まれる面積A2が、前記面積A1と等しくなるように点Fを設定すれば、実際の杭PLに蓄えられたと考えられるエネルギーErと前記ひずみエネルギーEcとが等しくなるので、このときの曲率(推定曲率φf)に基づいて、等価塑性率mを求めることができる。
【0037】
ここで、等価塑性率mは、曲げモーメントの超過率nと勾配比aを用いれば、次式により容易に推定できる。
【数1】

なお、勾配比a=K1/K2であり、K1,K2は、それぞれ図4の非線形特性を有する実際の杭PLの曲げモーメント−曲率線における降伏までの勾配と、降伏を超えた範囲での勾配を示している。
【0038】
(杭評価チャートの作成手順)
つぎに、杭評価チャートの作成手順を説明する。
(モデル作成)
まず、評価すべき杭PLのモデル、および、杭PLが設置されている地盤または杭PLを設置する地盤Gのモデルを作成する。地盤Gのモデル作成の際には、想定する地震動に基づいて、地表面変位u0の振幅を推定する推定式を決定する。例えば、鉄道標準の推定式u0=25.6Tg1.7等を基本として、地震動を考慮し、修正係数を算出する。
【0039】
(水平慣性力算出)
杭PLのモデルおよび地盤Gのモデルが作成されると、ついで、単位水平力P0を入力して、単位水平力P0に対する応答曲率φ0を算出する。このとき、任意の表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naを入力しておく。
すると、単位水平力P0と応答曲率φ0とから、水平慣性力Pが算出される。
【0040】
(変形解析ステップ)
算出された水平慣性力Pおよび、表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naを入力する。すると、超過曲げモーメントMeおよび、このときの応答曲率φeが算出される。
【0041】
(指標算出ステップ)
超過曲げモーメントMeおよび応答曲率φeが算出されると、あらかじめ与えられている降伏時の曲げモーメントMyと超過曲げモーメントMeとに基づいて曲げモーメントの超過率nを算出する。
また、超過曲げモーメントMeと、降伏時の曲げモーメントMy、降伏時の曲率φy、終局時の曲げモーメントMuおよび終局時の曲率φuを使用し、等価エネルギー則に基づき等価塑性率mを算出する。
【0042】
(指標記憶ステップ)
指標算出ステップにおいて、超過率nおよび等価塑性率mが算出されると、超過率nおよび等価塑性率mは、これらの値を算出したときの水平慣性力P、表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naと関連づけられて記憶される。
なお、これらとともに、超過曲げモーメントMeや推定曲率φfも記憶しておいてもよいのは、いうまでもない。
【0043】
表層Sの厚さHおよび表層Sの平均N値Naが記憶されると、表層Sの厚さHと表層Sの平均N値Naのいずれか一方、または、両方が変更され、変形解析ステップおよび指標算出ステップが実行される。そして、新たに算出された超過率nおよび等価塑性率m等が、表層Sの厚さHと表層Sの平均N値Na等と関連づけられて、記憶手段に記憶される。
【0044】
そして、表層Sの厚さH、表層Sの平均N値Naを順次変更して、杭PLが設置される地盤Gにおいて想定しうる表層Sの厚さH、表層Sの平均N値Naの範囲について超過率nおよび等価塑性率m等を算出する。
【0045】
(チャートの作成)
一定の範囲における表層Sの厚さH、表層Sの平均N値Naについて、それぞれ超過率nおよび等価塑性率m等が算出されると、記憶手段に記憶されているデータに基づいて超過率nおよび等価塑性率mの等値線が描画された、表層Sの厚さHと表層Sの平均N値Naを2軸とする杭評価チャートが形成される。
具体的には、記憶手段に記憶されている超過率nや等価塑性率m等のデータは表層Sの厚さH、表層Sの平均N値Naについて離散的に得られたデータであるから、この離散的なデータの間を補間するように等値線が形成されて、杭評価チャートが形成されるのである。
【0046】
以上のごとき方法によって形成された杭評価チャートは、線形弾性な材料であると仮定して杭PLをモデル化しているので、変形解析ステップにおいて、超過曲げモーメントMeや推定曲率φfを算出する時間を短縮することができる。
しかも、指標算出ステップでは、降伏時の曲げモーメントMyと算出された超過曲げモーメントMeによって簡単に曲げモーメントの超過率nを算出することができる。また、等価塑性率mも、あらかじめ与えられている降伏時の曲げモーメントMy、降伏時の曲率φy、終局時の曲げモーメントMuおよび終局時の曲率φuを使用して、等価エネルギー則に基づき簡単に算出できる。
よって、曲げモーメントの超過率nや等価塑性率mを算出する点数を増やしても、杭評価チャートを作成期間する時間を短くすることができる。
【0047】
しかも、等価エネルギー則に基づいて超過曲げモーメントMe等を算出しているので、同じ曲げ剛性を有する杭PLであれば、杭PLの構造、例えば、断面形状や鉄筋の本数等が異なっていても、容易に杭評価チャートを作成することができる。
【0048】
また、水平慣性力を、上記指標記憶ステップにおいて算出される塑性率mが、杭PLの杭頭に杭PLの設計水平力が加わると仮定したときにおける塑性率と一致する大きさとしている。このため、一般には設計時で考慮された地震力に対して、現行の設計基準で概ね塑性率が1であるとの過去の統計分析に基づく仮定から、従来の設計基準で適切に設計された杭PLについて、現在の設計基準で適切に評価できる杭評価チャートを作成することができる。
【0049】
表層S中においてN値がそれほど大きく変化しない場合には、つまり、表層S全体がほぼ均質である場合には、表層Sは、その厚さHや平均N値Naで、その性質を代表させることができる。すると、上述したように、地盤変位に影響を与える平均せん断波速度Vsaの算出に表層S全体の平均N値Naを使用するモデル(2層モデル)を採用すれば、杭PLの損傷評価指標をある程度の精度で求めることができる杭評価チャートを作成することができる。
【0050】
しかし、表層S中において、N値が大きく異なる層が複数存在する場合には、表層Sの厚さHと表層S全体の平均N値Naだけではその性質を代表させることは難しい。
そこで、最も地盤変位が生じやすい最上層でのみ地震時の振動による地盤変位が発生し、他の層では地盤変動が生じないと仮定して、杭評価チャートを作成すれば、簡易的ではあるが、より精度よく杭PLの損傷評価指標を求めることができる杭評価チャートを作成することができる。この場合、最上層では地盤変位ugの深さ方向の分布はコサイン分布となると仮定し、表層S全体の平均N値Naに代えて平均せん断波速度Vsaの算出に最上層の平均N値N1を使用するモデルを採用する。
例えば、地盤G上に、層内で均質な二つの層が岩盤Gの上に存在する場合(3層モデル)には、上部層のみに地盤変位が生じるとすればよく、下部層では地盤変動が生じないと仮定する。この場合、表層Sの上部層および下部層の平均N値をN1,N2とし、上部層と下部層の層厚をH1,H2としたときに、H1+H2=H、および(N1H1+N2H2)/H=Naを満たすように下部層の各パラメータを設定する。これは、表層Sが、均質1層であろうが、上部・下部の2層構造であろうが、モデル化された表層S全体の平均N値が実際の地盤で与えられているN値の深さ方向分布と整合する必要があるからである。
【0051】
なお、上述した均質な二つの層には、複数の層からなる表層Sを上部層、下部層からなる2層に置き換えた場合、つまり、表層Sを構成する複数の層のうち、上部に位置するいくつかの層を上部層とし、下部に位置するいくつかの層を下部層とする場合も含まれている。
【実施例1】
【0052】
上述した本発明の杭評価チャートの作成方法を使用して、直径1.2 mの場所打ちコンクリート杭について杭評価チャートを作成した。
杭評価チャートを形成の際に、超過応力モーメントを求める数値解析で採用した地盤モデル、杭モデルは以下のとおりである。
【0053】
(地盤モデル)
地盤は、均質な表層を有する2層系モデル(図2(a)参照)と3層系モデル(図2(b)参照)でモデル化しており、支持層のN値50で一定としている。2層系モデルでは,表層の平均N値Naを0.5〜20で変化させた。3層系モデルは,表層の下部層の平均N値N2を20、表層の上部層の厚さH1を10mで固定し、表層の上部層の平均N値N1を0.5〜10で変化させた。
地震時の振動による地表面の変位量をug0は、鉄道標準を参考に係数を修正してug0=85.6Tg1.7で求めており、Tgの算出に使用する平均せん断波速度Vsaには道路橋示方書の経験式Vsa=100N1/3を利用している。
【0054】
(杭モデル)
杭は、先端支持杭で支持層への根入れ長さが杭径と等しいと仮定してモデル化している。杭のヤング係数は、コンクリートのヤング係数Ec=2.5*107 kN/m2,鉄筋のヤング係数Es=2.0*108 kN/m2と仮定する。
杭の鉄筋の段落としとして、杭頭部から10mまでは鉄筋量As=222.4 cm2(D32が28本)、10〜20m間ではその1/2(As/2)、20 mを越えると1/4(As/4)とした。図6には、杭の鉄筋量と、杭の応力モーメント−曲率の関係を示している。
本実施例では、杭は、降伏点(Myy)で降伏で折れるバイリニア型の非線形性を有すると仮定しており、第2勾配(図4におけるK2)がゼロとしている。なお、杭の軸力変動は無視し、杭長Lは表層厚Hに等しいとしている。
【0055】
図7は、数値解析の結果得られた曲げモーメント分布である。図7に示すように、2層系(図7(a))では杭先端で大きな応力が発生しており、3層系(図7(b))では地中部の層境界である深度10 m付近で大きな応力が発生している。また、いずれもN値が小さいほど大きな応力が発生している。
【0056】
上記曲げモーメントから算出される等価塑性率に基づいて作成された杭評価チャートを、図8および図9に示す。図8および図9に示すように、表層の平均N値Naや表層の厚さHに応じて、等価塑性率が変化する状態が明確に示されている。また、杭頭からの深さに応じて、等価塑性率の分布状況が変化する状態も明確に示されている。
つまり、本発明の作成方法によって作成された杭評価チャートは、表層の平均N値Naや表層の厚さH、杭頭からの深さに応じた等価塑性率の評価を行うことができるものであることが確認できる。
【実施例2】
【0057】
上述した本発明の杭評価チャートによる杭評価の有効性を確認するために、3層系モデルを採用して形成された本発明の杭評価チャートから得られる等価塑性率と、 を使用した非線形数値解析により算出される等価塑性率とを比較した。
【0058】
評価対象とした杭は、図10のごとき杭構造物に使用されている場所打ち杭であって、その杭径が1.5m、杭の長さが25m、杭頭部から10 mは鉄筋量As=222.4 cm2(D32が28本),10~20 m間ではその1/2,20 mを越えると1/4とした。
【0059】
また、杭構造物が設けられている地盤の状態を図10に示すが、本発明の杭評価チャート作成では、地盤の表層(砂岩より上部の層)全体の平均N値を12、表層の上部層(0 〜10mまでの層)の平均N値は、10m以深を等しくN値20と仮定することにより逆算できる値とした。
なお、非線形数値解析には、通常設計などで広く用いられている2次元非線形骨組み解析を使用した。
【0060】
上記非線形数値解析によって得られる等価塑性率は、杭頭部で3.3、地中部(火山灰(粘土層)と火山灰(砂質層)の境界の位置)で1.2である。
一方、本発明の杭評価チャートから得られる等価塑性率は、杭頭部で3.5、地中部にで2.0である。
本発明の杭評価チャートから得られる等価塑性率は、杭頭部ではほぼ非線形数値解析の結果と同等の値が得られおり、本発明の杭評価チャートにより高い精度で等価塑性率を推定できることが確認できる。
一方、地中部では、本発明の杭評価チャートから得られる等価塑性率は、非線形数値解析の結果よりも高い値が示されている。しかし、等価塑性率が高い値を示している場合には、損傷を大きく見積もることを意味しているので、安全側で判断することができる。言い換えれば、本発明の杭評価チャートは、損傷する可能性の高い杭を見逃すことなく、杭を評価できる。
【0061】
以上のごとく、本発明の杭評価チャートでは、等価塑性率を、非線形数値解析の結果と同程度または損傷を大きく見積もることから、損傷する可能性の高い杭を推定するチャートとして有効であると確認できる。
【0062】
本発明の杭評価チャートは、高速道路や橋梁等の既に設置されている基礎杭の耐震性を簡易的に評価するチャートに適している。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本実施形態の杭評価チャートの概略説明図である。
【図2】地盤と杭の解析モデルの説明図である。
【図3】数値計算により得られた杭の曲げモーメントの分布を示した図である。
【図4】数値計算により得られた杭の応答曲げモーメントMから降伏時応答曲げモーメントMを推定する概念の説明図である。
【図5】地盤に埋設されている杭基礎の概略説明図である。
【図6】杭の鉄筋量と、杭の応力モーメント−曲率の関係を示した表である。
【図7】数値解析の結果得られた曲げモーメント分布である。
【図8】2層系モデルにおける、(a)杭頭部、(b)杭先端部(標準鉄筋量)、(c)杭先端部(1/2鉄筋量)の杭評価チャートである。
【図9】3層系モデルにおける、(a)杭頭部、(b)地中部(標準鉄筋量)、(c)地中部(1/2鉄筋量)の杭評価チャートである。
【図10】実施例2において評価した杭構造物の概略説明図である。
【符号の説明】
【0064】
1 杭評価チャート
G 地盤
B 支持層
S 表層
Na 平均N値
H 表層Sの厚さH
P 水平慣性力
Me 超過曲げモーメント
My 降伏時応答曲げモーメント
φe 推定曲率
φy 降伏曲率
m 等価塑性率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価チャートを作成する方法であって、
先端が支持層に支持された線形弾性梁としてモデル化された前記杭について、前記表層の厚さおよび前記表層の平均N値の関数である地盤変位と水平慣性力とが加わる場合における超過曲げモーメントを算出する変形解析ステップと、
該変形解析ステップにおいて算出された前記超過曲げモーメントに基づいて、前記杭の損傷評価指標を算出する指標算出ステップと、
算出された前記杭の損傷評価指標を、前記表層の厚さおよび前記表層の平均N値と関連づけて記憶する指標記憶ステップとを有し、
前記指標記憶ステップにおいて記憶された前記損傷評価指標に基づいて、前記表層の厚さと前記表層の平均N値を座標軸とするグラフ上に、前記損傷評価指標の等値線を形成する
ことを特徴とする杭評価チャートの作成方法。
【請求項2】
前記杭の損傷評価指標を、
該杭の降伏時応答曲げモーメントと、前記超過曲げモーメントとから算出する
ことを特徴とする請求項1記載の杭評価チャートの作成方法。
【請求項3】
前記杭の損傷評価指標が、推定曲率と前記杭の降伏時曲率とに基づいて算出される等価塑性率であり、
前記推定曲率は、
前記超過曲げモーメントと前記杭の非線形特性とに基づいて算出される、前記超過曲げモーメントが前記杭に発生する状況における非線形特性を有する前記杭の曲率である
ことを特徴とする請求項2記載の杭評価チャートの作成方法。
【請求項4】
前記水平慣性力は、
前記等価塑性率が、前記杭の杭頭に対して該杭の設計において設定された水平力が加わると仮定したときにおける塑性率と一致する大きさである
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の杭評価チャートの作成方法。
【請求項5】
前記表層が複数の層からなる場合において、
前記地盤変位が、前記表層の厚さおよび、前記表層を構成する複数の層のうち最上層の平均N値の関数である
ことを特徴とする請求項1、2、3または4記載の杭評価チャートの作成方法。
【請求項6】
支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価チャートであって、
前記表層の厚さおよび該表層の平均N値とに基づいて算出される杭の損傷評価指標の等値線が、前記表層の厚さと前記表層の平均N値とを座標軸とするグラフ上に描画されたものである
ことを特徴とする杭評価チャート。
【請求項7】
請求項1、2、3、4または5記載の杭評価チャートの作成方法によって作成されたものである
ことを特徴とする請求項7記載の杭評価チャート。
【請求項8】
支持層と該支持層上に積層されている表層とを有する地盤に埋設される杭の耐震性能を評価する杭評価方法であって、
前記杭の設計図面に基づいて算出される前記表層の平均N値と、前記表層の厚さとに基づいて、請求項6または7記載の杭評価チャートから前記杭の損傷評価指標を求める
ことを特徴とする杭評価方法。

【図6】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−257017(P2009−257017A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109331(P2008−109331)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (社)地盤工学会四国支部平成19年度技術研究発表会 講演概要集 「Fifth International Conference on Urban Earthquake Engineering」の講演予稿集 「Fifth International Conference on Urban Earthquake Engineering」
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【Fターム(参考)】