説明

杭部材、合成杭および合成杭の圧入方法

【要 約】
【課 題】 常に反力が得られ、少ない貫入負荷で安定して施工できる杭の圧入工法を実現する。
【解決手段】 杭打ち機のチャックで把持可能な長手方向の突条11と、この両脇に連なるフランジ部12と、その縁部に設けられた継手部13とからなる杭部材を継手部で連結して閉断面の合成杭とし、杭部材1本毎に残りの杭部材を反力杭として地盤内に圧入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木、建築等の構造物の基礎工事における杭部材、合成杭および合成杭の圧入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木、建築等の構造物の基礎としては、杭基礎が一般的である。中でも既製杭は、いわゆる場所打ち杭に対して、杭としての品質上の信頼性が高いという特徴を有するが、反面、施工上の多くの問題点を抱えている。
既製杭の施工法のうち最も一般に行われているのは打ち込み工法で、油圧ハンマやディーゼルハンマを使用する打撃工法や、バイブロハンマを用いる振動工法がある。しかしこれらの打ち込み工法は騒音や振動が大きく、周辺環境に悪影響を与える点で大きな問題がある。こうした騒音や振動を軽減する施工法として、中掘り工法やプレボーリング工法が開発され、普及しているが、掘削に伴う土砂の処理や、地下水汚染という新たな問題点が発生している。
【0003】
騒音や振動が少なく、排土の発生も少ない工法として、鉛直静荷重によって杭を地中に貫入させる圧入工法も研究されているが、杭の支持力以上の圧入力を必要とし、このために反力装置が必要である。反力としては施工機械自身の重量を含むカウンタウエイトや、地盤に打ち込むアンカー等があるが、前者は杭の支持力が大きい場合には適用が困難であり、後者は施工する場所毎にアンカーが必要で施工能率が悪い。
【0004】
特許文献1には、既に貫入した複数の杭をアンカーとして利用する杭圧入・引き抜き機が記載されている。図5、6によりこれを簡単に説明する。
この杭圧入・引き抜き機は、圧入・引き抜き機3と移動機4とで構成される。圧入・引き抜き機3は既設の杭の頭部を掴む杭掴みチャック31、客体である杭の圧入・引き抜きを行う圧入・引き抜きチャック32、油圧シリンダ等からなる圧入・引き抜き用油圧装置33、これらを搭載する水平方向のサドル34、鉛直方向のポスト35等で構成され、一方移動機4は同様に既設の杭の頭部を掴む杭掴みチャック41、サドル42、ビーム43、昇降用油圧装置44、水平移動用油圧装置45等で構成される。
【0005】
図5は圧入・引き抜き機3の杭掴みチャック31が既設の杭1Aを掴み、これを反力杭として、圧入・引き抜きチャック32により新たな杭1Bを圧入(または引き抜き)している状態を示している。一方、図6は移動機4の杭掴みチャック41が既設の杭1Aを掴み、昇降用油圧装置44によりビーム43を介して圧入・引き抜き機3全体を持ち上げ、水平移動用油圧装置45により水平移動させている状態を示している。
【0006】
このように、特許文献1に記載の杭圧入・引き抜き機はそれ自身で水平移動を行いながら杭圧入・引き抜きを行うことができるので、杭圧入・引き抜き機全体をクレーンで吊り上げて移動させる必要がなく、反力装置が別個に必要でないばかりでなく、上空スペースに余裕のない現場においても杭工事が施工できるという利点を有している。
しかしこの杭圧入・引き抜き機は近傍に既設の杭が存在することが前提となっており、十分な反力を期待できない最初の数本をどのように施工するかが常に問題となるという欠点を有している。
【特許文献1】特開昭56−156321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記の特許文献1に記載の杭圧入・引き抜き機に限らず、一般に圧入工法は環境負荷が小さく、省スペースでもあるので市街地の施工に適しているが、建築基礎などで杭が分散して配置されるような場合に、反力をとることが難しいという問題点がある。本発明は、このような問題点を解消し、基礎の配置や形状等に係わらず常に反力が得られ、安定して施工できる圧入工法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、杭打ち機のチャックで把持可能な長手方向の突条と、この突条の両脇に連なるフランジ部と、フランジ部の縁部に設けられた継手部とからなる杭部材である。
請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載の杭部材を複数本、継手部で連結して閉断面の筒状としたことを特徴とする合成杭である。
【0009】
そして請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の合成杭の内の1本の杭部材を、他の杭部材を反力杭として地盤内に圧入し、杭部材を交代しながらすべての杭部材を順次圧入してゆくことを特徴とする合成杭の圧入方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反力が容易に得られるばかりでなく、1回の圧入における杭部材が小断面で、かつ閉断面ではないから、貫入抵抗が少なく、杭打ち機もコンパクトなものでよいから施工が容易であるなど、多くの優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例を図面により説明する。図1は、実施例の杭部材1を示す斜視図で、11は杭打ち機のチャックで把持可能な長手方向の突条、12はこの突条11の両脇に連なるフランジ部、13はフランジ部12の縁部に設けられた継手部である。杭部材1は鋼製で、長さ方向に連続する同一断面であり、鋼矢板に似た形状である。長さは任意であるが、一般の杭長と同じと考えてよい。突条11は断面性能を向上させるリブ効果を有するとともに、杭の圧入・引き抜きに際して杭打ち機のチャックで把持可能とする機能を有する。継手部13の継手形状は、図示のZ形のものを始め、公知の鋼矢板や鋼管矢板の継手形状等を任意に採用できる。
【0012】
図2は、図1に示した杭部材1を4本、継手部13で連結して閉断面の筒状とした合成杭の平面図である。杭部材1の両側のフランジ部12の開き角度を90度としておけば、このように同形のものを4本組み合わせることにより角形の閉断面を構成できるが、90度よりもさらに広い角度(ただし、180度未満)にしておけば、6本、あるいは8本などの複数本でさらに大きな断面の合成杭を構成することも可能である。
【0013】
なお、施工能率の点からは、図2に示すように複数の杭部材1の形状をすべて同一とすることが好ましいが、複数の杭部材を継手部で連結して閉断面の筒状とすることができれば、必ずしもすべてが同一形状でなくてもよい。
図3は、図2に示した実施例の合成杭を杭打ち機にセットした状態を示す平面図で、2は杭打ち機、21は油圧ジャッキ、22はチャックである。合成杭の外側に、杭部材1のそれぞれの突条11に対応する位置に油圧ジャッキ21のチャック22が配置されるように杭打ち機2をセットする。
【0014】
図4は具体的な施工手順の一例を説明する説明図で、(a)〜(f)は正面図、(c’)は平面図である。
杭部材は図2に示したような、4本で1本の合成杭を構成するものとする。まず(a)は地盤上に杭打ち機2をセットした状態である。ついで(b)のように杭部材を杭打ち機2により地盤内に圧入する。この杭部材を1aとする。この段階では反力杭が存在しないから、貫入は浅い。
【0015】
続いて(c)に示すように残る3本の杭部材1b〜1dを圧入する。このときの平面図を(c’)に示す。既設の杭部材は、反力杭として利用できる。
杭部材1a〜1dがすべて建て込まれ、閉断面が構成されたら、いよいよ本格的な圧入の開始である。ここでも杭部材1aから始めるとして、杭打ち機2の油圧ジャッキにより、杭部材を1aを圧入する。以後、残りの杭部材1b〜1dは反力杭として利用できる。このときの状態を(d)に示す。続いて、例えば杭部材1cを同じようにして圧入する。このときの状態を(e)に示す。続いて、同じようにして杭部材1b、1dを圧入する。
【0016】
このように、杭部材1a〜1dを1本ずつ、残る3本を反力杭としながら順番に圧入してゆく。第1段階の圧入がひととおり完了した状態を(f)に示す。その後、所定の根入れ深さに貫入させるまで、この手順を繰り返すのである。
以上の説明のように、本発明においては1回に圧入するのは杭全体ではなくこれを分割した杭部材であるから、断面積が小さく、かつ閉断面とはならずに開断面であるから閉塞効果がなく、貫入抵抗が少ないのできわめて容易に圧入を行うことができる。そして貫入させている杭部材以外の残りの杭部材は地盤との周面摩擦力によって引き抜き抵抗が期待できるので、杭打ち機2の油圧ジャッキによりその頭部を掴むことで、有効な反力杭として利用することができる。
【0017】
反力杭が利用できないのは一番はじめの杭部材1aの圧入のときだけであるが、この場合も上記の理由により、従来のような閉断面、大寸法の杭を圧入するのに比較してはるかに貫入しやすい条件下にあるので、杭打ち機の自重やカウンタウエイト等を利用することにより、問題なく貫入させることができる。
なお、本発明では、杭部材の構成数、すなわち合成杭全体に対する分割数を増やすことによって、1回の圧入における貫入抵抗を増大させることなく、大径の杭基礎を容易に施工することができる。
【0018】
また本発明では杭打ち機の油圧ジャッキも分割された杭部材を掴む容量さえあればよいので、コンパクトなものでよく、次の杭に移動する段取り替えもスピーディに行うことができる。
なお、この工法で打設した杭は、先端が閉塞されていないので、先端支持力が不足する懸念がある。このような場合には、従来の中掘り工法と同様、最終打撃や先端根固めなどの処置を適宜行うことが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明実施例の杭部材を示す斜視図である。
【図2】本発明実施例の杭部材を連結して閉断面とした合成杭の平面図である。
【図3】図2の合成杭を杭打ち機にセットした状態を示す平面図である。
【図4】本発明実施例における施工手順を説明する説明図である。
【図5】従来の技術における杭圧入・引き抜き機を示す正面図である。
【図6】同じく従来の技術における杭圧入・引き抜き機を示す正面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 杭部材
2 杭打ち機
3 圧入・引き抜き機
4 移動機
11 突条
12 フランジ部
13 継手部
21 油圧ジャッキ
22 チャック
31 杭掴みチャック
32 圧入・引き抜きチャック
33 圧入・引き抜き用油圧装置
34 サドル
35 ポスト
41 杭掴みチャック
42 サドル
43 ビーム
44 昇降用油圧装置
45 水平移動用油圧装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭打ち機のチャックで把持可能な長手方向の突条(11)と、この突条の両脇に連なるフランジ部(12)と、フランジ部の縁部に設けられた継手部(13)とからなる杭部材。
【請求項2】
請求項1に記載の杭部材(1)を複数本、継手部(13)で連結して閉断面の筒状としたことを特徴とする合成杭。
【請求項3】
請求項2に記載の合成杭の内の1本の杭部材を、他の杭部材を反力杭として地盤内に圧入し、杭部材を交代しながらすべての杭部材を順次圧入してゆくことを特徴とする合成杭の圧入方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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