説明

板状の鉄筋コンクリート部材とその製造方法

【課題】遮音性能、断熱性能に優れ、コストダウンを図る上で有利な板状の鉄筋コンクリート部材を提供すること。
【解決手段】鉄筋コンクリート壁部材10は、密閉空間形成用板材12と鉄筋コンクリート製板材16とで構成されている。密閉空間形成用板材12は、2枚の鋼板14と、それら2枚の鋼板14の間に密閉空間20を形成する外周閉塞部22と、2枚の鋼板14から突設された多数のアンカ部材18とで構成されている。鉄筋コンクリート製板材16は、2枚の鋼板14が向かい合う面と反対の面に臨む箇所に配筋された鉄筋と、2枚の鋼板14の面を鉄筋コンクリート製板材16の面に平行させて前記鉄筋および密閉空間形成用板材12を埋設するコンクリートCとで構成されている。密閉空間20は真空状態とされ、多数のアンカ部材18により鋼板14の互いに近づく方向への動きが阻止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱性や遮音性に優れる板状の鉄筋コンクリート部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
壁部に断熱性能が要求される倉庫や、壁部に遮音性能が求められる住宅などでは、断熱性や遮音性に優れる鉄筋コンクリート壁部材が用いられている。
例えば、遮音性能を高めるため、厚さを大きく取った鉄筋コンクリート壁部材が用いられている。
また、断熱性能を高めるため、内部に断熱材を挟み込んだコンクリート版が用いられている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平7−329027
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、それらの方法では、遮音性能、断熱性能に限界があり、何らかの改善が望まれていた。
本発明は前記事情に鑑み案出されたものであって、本発明の目的は、遮音性能、断熱性能に優れ、コストダウンを図る上で有利な板状の鉄筋コンクリート部材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するため本発明の板状の鉄筋コンクリート部材は、密閉空間形成用板材と、前記密閉空間形成用部材が埋設された鉄筋コンクリート製板材とを有し、前記密閉空間形成用板材は、互いに対向して平行に配置された2枚の鋼板と、前記2枚の鋼板の外周間を閉塞しそれら2枚の鋼板の間に密閉された密閉空間を形成する外周閉塞部と、前記2枚の鋼板が向かい合う面と反対の面から突設された多数のアンカ部材とで構成され、前記鉄筋コンクリート製板材は、前記2枚の鋼板が向かい合う面と反対の面に臨む箇所に配筋された鉄筋と、前記2枚の鋼板の面を前記鉄筋コンクリート製板材の面に平行させて前記鉄筋および前記密閉空間形成用板材を埋設するコンクリートとで構成され、前記鉄筋コンクリート製板材中に埋設された多数のアンカ部材が、前記2枚の鋼板が互いに近づく方向への動きを阻止しており、前記密閉空間は真空状態とされていることを特徴とする。
また、本発明の板状の鉄筋コンクリート部材の製造方法は、厚さ方向の一方の面に多数のアンカ部材が突設された鋼板を2枚用意し、前記2枚の鋼板の厚さ方向の他方の面を向かい合わせ、前記2枚の鋼板の向かい合う面の外周間を閉塞しそれら2枚の鋼板の間に密閉された密閉空間が形成された密閉空間形成用板材を設け、前記多数のアンカ部材が突設された前記2枚の鋼板の面にそれぞれ鉄筋を配筋し、前記密閉空間形成用板材および前記配筋した鉄筋を埋設するようにコンクリートを打設して鉄筋コンクリート製板材を設け、前記コンクリートの硬化後、前記密閉空間を真空状態とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明の鉄筋コンクリート部材によれば、真空状態となった密閉空間が、鉄筋コンクリート部材の内部で鉄筋コンクリート部材の面方向に沿ってそのほぼ全域に広がっている。
したがって、従来に比べ断熱性および遮音性をより一層向上させることが可能となる。
また、鉄筋コンクリート部材が壁部材である場合には、厚さを大きく取った従来の鉄筋コンクリート壁部材に比べ、必要コンクリート量を削減できるので、鉄筋コンクリート壁部材のコストを削減し、建物のコストダウンを図る上で有利となる。
また、本発明の鉄筋コンクリート部材の製造方法によれば、前記の鉄筋コンクリート部材を簡単にかつ確実の製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態を図面にしたがって説明する。
図1(A)は鉄筋コンクリート壁部材の斜視図、(B)は鉄筋コンクリート製板材の一部を取り除いた密閉空間形成用板材の斜視図、図2はバルブ部分の鉄筋コンクリート壁部材の断面図である。
本発明は、壁や床、天井に用いられる鉄筋コンクリート壁部材、鉄筋コンクリート床部材などの平板状の鉄筋コンクリート部材の全てに適用されるが、実施の形態では、平板状の鉄筋コンクリート部材が鉄筋コンクリート壁部材である場合を例にとって説明する。
実施の形態にかかる鉄筋コンクリート壁部材10は矩形板状を呈し、密閉空間形成用板材12と、この密閉空間形成用部材12が埋設された鉄筋コンクリート製板材16とで構成されている。
【0007】
密閉空間形成用板材12は、互いに対向して平行に配置された2枚の鋼板14と、2枚の鋼板14の外周間を閉塞しそれら2枚の鋼板14の間に密閉された密閉空間20を形成する外周閉塞部22と、2枚の鋼板14が向かい合う面と反対の面から突設された多数のアンカ部材18とで構成されている。
本実施の形態では、鋼板14は矩形で、2枚の鋼板14の4辺間は溶接により気密に接合され、外周閉塞部22が溶接接合部により構成され、密閉空間20は真空状態とされている。
【0008】
鉄筋コンクリート製板材16は、2枚の鋼板14が向かい合う面と反対の面に臨む箇所に配筋された鉄筋(図面では省略)と、2枚の鋼板14の面を鉄筋コンクリート製板材16の面に平行させて前記鉄筋および密閉空間形成用板材12を埋設するコンクリートCとで構成されている。
そして、密閉空間形成用板材12が鉄筋コンクリート製板材16に埋設されることで、多数のアンカ部材18により鋼板14の互いに近づく方向への動きが阻止されている。
なお、アンカ部材18としてスタッドボルトなどを使用できることは無論のこと、図3に示すように、軸部1802の先端に鉄筋挿通用の孔1804を有するリング部1806を有するものを用いると、鉄筋を配筋する際にリング部1806を利用することでアンカ部材18をスペーサ代わりにすることができ、鉄筋の配筋を効率よく行なう上で有利となる。
【0009】
また、密閉空間20と外気とを連通遮断するバルブ24が設けられ、バルブ24は、鉄筋コンクリート製板材16の2つの面のうちの一方の面に設けられた凹部26に収容され、鉄筋コンクリート壁部材10の輪郭内に収まるように配設されている。
【0010】
本実施の形態の鉄筋コンクリート壁部材10では、真空状態となった密閉空間20が、鉄筋コンクリート壁部材10の内部で鉄筋コンクリート壁部材10の面方向に沿ってそのほぼ全域に広がっている。
したがって、本実施の形態の鉄筋コンクリート壁部材10によれば、従来に比べ断熱性および遮音性をより一層向上させることが可能となる。
また、厚さを大きく取った従来の鉄筋コンクリート壁部材に比べ、必要コンクリート量を削減でき、したがって、鉄筋コンクリート壁部材10のコストを削減し、建物のコストダウンを図る上で有利となる。
【0011】
次に、鉄筋コンクリート壁部材10の製造方法について説明する。
まず、厚さ方向の一方の面に多数のアンカ部材18が突設された矩形の鋼板14を2枚用意する。
そして、2枚の鋼板14の厚さ方向の他方の面を向かい合わせ、2枚の鋼板14の向かい合う面の4辺間を溶接により閉塞し、それら2枚の鋼板14の間に密閉された密閉空間20が形成された密閉空間形成用板材12を設ける。
この場合に、密閉空間20と外気とを連通遮断するバルブ24を設けておく。
【0012】
次に、密閉空間形成用板材12をコンクリート型枠内にセットし、多数のアンカ部材18が突設された2枚の鋼板14の面にそれぞれ鉄筋を配筋し、密閉空間形成用板材12および前記配筋した鉄筋を埋設するようにコンクリートCを打設して鉄筋コンクリート製板材16を設ける。
この場合に、2枚の鋼板14に平行する鉄筋コンクリート製板材16の面に凹部26を設け、バルブ24をこの凹部26に収容して、バルブ24を鉄筋コンクリート壁部材10の輪郭内に収まるようにする。
なお、コンクリートCの打設時に、密閉空間20に圧縮空気あるいは圧力水を充填して密閉空間20の圧力を高めておくと、コンクリートCの打設時に2枚の鋼板14が近づく方向に変形することを防止する上で有利となる。
そして、コンクリートCが硬化したならば、バルブ24を介し真空ポンプなどを用いて密閉空間20を真空状態とする。
【0013】
したがって、本実施の形態の製造方法によれば、鉄筋コンクリート壁部材10を簡単にかつ確実に製造することが可能となる。
【0014】
なお、2枚の鋼板14が向かい合う面を、それぞれ鏡面にしておくと、放射による熱伝達エネルギを阻止でき、断熱性能を高める上で有利となる。
したがって、2枚の鋼板14が向かい合う面をそれぞれ鏡面にした本発明の鉄筋コンクリート部材は、例えば、蓄熱層の上部床に使用されて好適となる。
この場合の鏡面は、アルミ蒸着などにより金属の薄膜を形成したり、あるいは、鏡面研削加工をほどこすなど、従来公知の様々な技術により設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】(A)は鉄筋コンクリート壁部材の斜視図、(B)は鉄筋コンクリート製板材の一部を取り除いた密閉空間形成用板材の斜視図である。
【図2】バルブ部分の鉄筋コンクリート壁部材の断面図である。
【図3】アンカ部材の説明図である。
【符号の説明】
【0016】
10……鉄筋コンクリート壁部材、12……密閉空間形成用板材、14……鋼板、16……鉄筋コンクリート製板材、18……アンカ部材、20……密閉空間、22……外周閉塞部、24……バルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉空間形成用板材と、前記密閉空間形成用部材が埋設された鉄筋コンクリート製板材とを有し、
前記密閉空間形成用板材は、互いに対向して平行に配置された2枚の鋼板と、前記2枚の鋼板の外周間を閉塞しそれら2枚の鋼板の間に密閉された密閉空間を形成する外周閉塞部と、前記2枚の鋼板が向かい合う面と反対の面から突設された多数のアンカ部材とで構成され、
前記鉄筋コンクリート製板材は、前記2枚の鋼板が向かい合う面と反対の面に臨む箇所に配筋された鉄筋と、前記2枚の鋼板の面を前記鉄筋コンクリート製板材の面に平行させて前記鉄筋および前記密閉空間形成用板材を埋設するコンクリートとで構成され、
前記鉄筋コンクリート製板材中に埋設された多数のアンカ部材が、前記2枚の鋼板が互いに近づく方向への動きを阻止しており、
前記密閉空間は真空状態とされている、
ことを特徴とする板状の鉄筋コンクリート部材。
【請求項2】
前記密閉空間と外気とを連通遮断するバルブを備えることを特徴とする請求項1記載の板状の鉄筋コンクリート部材。
【請求項3】
前記2枚の鋼板が向かい合う面はそれぞれ鏡面とされていることを特徴とする請求項1記載の板状の鉄筋コンクリート部材。
【請求項4】
厚さ方向の一方の面に多数のアンカ部材が突設された鋼板を2枚用意し、
前記2枚の鋼板の厚さ方向の他方の面を向かい合わせ、
前記2枚の鋼板の向かい合う面の外周間を閉塞しそれら2枚の鋼板の間に密閉された密閉空間が形成された密閉空間形成用板材を設け、
前記多数のアンカ部材が突設された前記2枚の鋼板の面にそれぞれ鉄筋を配筋し、
前記密閉空間形成用板材および前記配筋した鉄筋を埋設するようにコンクリートを打設して鉄筋コンクリート製板材を設け、
前記コンクリートの硬化後、前記密閉空間を真空状態とする、
ことを特徴とする板状の鉄筋コンクリート部材の製造方法。
【請求項5】
前記コンクリートの打設時に、前記密閉空間に圧縮空気あるいは圧力水を充填することで該密閉空間の圧力を高めておくことを特徴とする請求項4記載の板状の鉄筋コンクリート部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−270515(P2007−270515A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97502(P2006−97502)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【Fターム(参考)】