説明

板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法

【課題】PZT系に替わる非鉛系の新しい圧電材料として期待される板状チタン酸バリウムの製造方法に関し、これの中間生成物である板状チタン酸カリウムリチウムを従来法よりも高速かつ安定して製造出来る製造方法を提供する。
【解決手段】Ti、KおよびLi源原料を水系媒体に添加混合後、この混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法であり、反応操作は回分式のみならず連続式でも可能となる。これまでの欠点であった反応の長時間化が回避されて反応時間が劇的に短縮される結果、顕著な経済性の向上が図られることになる。さらに、従来法では不可能であった低原料濃度下での反応進行も可能となり、反応操作の安定性の格段の向上をも獲得出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法に関する。さらに詳しくは、従来法よりも高速かつ安定して製造出来る強誘電体材料である板状チタン酸金属化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料は、電気エネルギーと機械エネルギーとを変換するアクチュエーターとして各種のナノテク分野で利用の広がりを見せている。ところで、現在使用されている圧電材料の多くは鉛を含むPZT系物質(PbTiO3とPbZrO3との混晶)であり、EU加盟国等で実施されている電気・電子機器に含まれる特定有毒物質の使用規制に呼応して、非鉛系の圧電材料を開発しようとする動きが国内外で活発化している。
【0003】
PZTに替わる圧電材料の有力候補として、毒性が低く化学的安定性の高いチタン酸バリウムが注目されている。しかしながら、通常のチタン酸バリウムは圧電係数がPZT系のそれと比較して非常に低く、そのままでは優れた圧電材料になり得ない。そこでこれの改善のために種々の工夫が試みられているが、その中で特許文献1はチタン酸バリウムの結晶構造を制御して圧電特性を向上させようとするものであり、非常に優れた方法といえる。しかしながら、この方法に基づく反応は緩慢であり、二段からなる反応は両段共に各20〜30hの反応時間を必要とする。
【0004】
従来、チタン酸バリウムは固相法で合成されていたが、この方法では微粒の製品を得ることが困難であるため、現在では水熱合成法を代表とする液相法が主流になりつつある。この液相法では粒子の微細化は達成出来るものの、その形状は基本的には球状であるため、特定の結晶軸方向で圧電係数が特異的に向上するというような特徴は期待出来ない。そこで、特許文献1ではチタン酸バリウム粒子の形状を制御して板状とし、これによって板面と垂直の方向に大きな圧電係数が得られるようにしたものであり、独創性に富んだ技術と言える。
【0005】
但し、チタン酸バリウム粒子の形状を板状に制御するのは容易なことでは無い。その困難さを克服するために特許文献1が考案した方法が、テンプレート方式である。即ち、先ず第1段目の反応で板状構造を形成し易いチタン酸化合物を合成し、次いで第2段目の反応で板状構造を維持したままの状態でBa原子を挿入するというものである。従って、この方法によれば板状に制御されたチタン酸バリウム粒子を確実に獲得することが可能である。
【0006】
但し、この特許文献1の方法は反応の進行が非常に緩慢であり、第1段目あるいは第2段目共に20〜30hの反応時間が必要であるという欠点を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−22857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、従来技術よりも飛躍的に短い時間で板状チタン酸カリウムリチウムを製造できる製法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1発明の板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法は、Ti,KおよびLi源原料を水系媒体に添加混合後、該混合物にマイクロ波を照射することを特徴とする。
第2発明の板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法は、第1発明において、マイクロ波照射を行う反応域に原料混合物を連続的に供給し、一方で反応域から反応物を連続的に抜き出すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
第1発明によれば、これまでの欠点であった反応の長時間化が回避されて反応時間が劇的に短縮される結果、顕著な経済性の向上が図られることになる。さらに、従来法では不可能であった低原料濃度下での反応進行も可能となり、反応操作の安定性の格段の向上をも獲得出来ることになる。
第2発明によれば、従来法と同様の回分式のみならず流通式の連続反応を採用することが可能となる。このため、さらに製造効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1において反応温度250℃で生成した粉体のX線回折図である。
【図2】同粉体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】実施例1において反応温度220℃で生成した粉体のX線回折図である。
【図4】図3のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明では、先ずTi、KおよびLi源化合物を水系媒体に添加、混合して反応原料を調製する。Ti、KあるいはLi源化合物は特に限定されることはないが、例えばTi源としてはチタンの酸化物、塩あるいはアルコキシド等が、またKとLi源に関してはこれらの水酸化物や塩等は通常の方法で容易に入手可能であるので、特に好ましい。ここで用いられる媒体は、通常は水であるが、水に適当量のアルコール等が添加された混合液体であっても何ら差し支えは無い。
【0013】
ここで使用する水系媒体の量は、従来の通常水熱反応の場合、金属化合物濃度を極力高くした状態にしなければほとんど反応が進行しないため、Ti化合物1モルに対して最大でもせいぜい0.3リットル程度が限界である。この場合、原料調製段階では原料は流動性を有するが、反応の進行と共に流動性を失ってほとんど固相状態を呈するようになる。従って、従来法の場合には、これを流通式の連続反応装置で実施することは困難であり、反応は自ずと回分式にならざるを得ない。
【0014】
一方、本発明においては媒体の使用量に特に制約は無く、例えばTi化合物1モルに対して1リットル程度を用いても反応の進行に何ら問題はない。この場合、原料調製段階は勿論のこと反応過程においても十分流動性が確保されるため、従来法と同様の回分式のみならず流通式の連続反応を採用することが可能となる。なお、更に大量の媒体を使用しても反応進行上は問題ないが、無用の媒体の反応系への供給は処理量の増大や熱効率の低下という経済的に芳しくない結果を引き起こすので、Ti化合物1モル当たり2リットル程度以内に留めることは特に好ましい。
【0015】
K化合物あるいはLi化合物の使用量は、本発明の目的生成物であるチタン酸カリウムリチウム(K0.8Li0.27Ti1.73O4)の化学量論比から自ずと決定される。ただし、これらの化合物を過剰に添加することは反応進行上好ましいものであって、特にK化合物を化学量論の4倍以上添加するとその効果が顕著になる。
【0016】
このようにして決定、調製された原料スラリーもしくは溶液は、耐圧性の反応容器内にてマイクロ波を照射、加熱処理される。ここで使用されるマイクロ波は、周知の通りX線、紫外線や可視光線と同様に電磁波の一種であり、通常は波長が1mmから1mの範囲のものを指す。マイクロ波は、赤外線と同様に物質を加熱する能力を有し、家庭用の電子レンジとして広く普及している。
本発明者等は、本反応の加熱源としてこのマイクロ波を用いたところ、通常加熱に比較して反応速度が飛躍的に向上することを認めた。すなわち、従来方式の通常加熱による水熱反応では、本反応を進行させるために250℃の反応温度で20〜30hの反応時間を必要とするのに対し、マイクロ波加熱によれば同反応温度における反応所要時間は約1hに短縮された。反応温度を180〜200℃程度にまで低下させた場合でさえ、ほぼ3h以内に目的生成物である板状チタン酸カリウムリチウムの生成反応は完了した。
【0017】
本発明によれば、従来法よりも格段に高速かつ安定して板状チタン酸カリウムリチウムの製造が可能になる。また、この反応は回分反応によっても十分効果を発揮出来るが、これを連続反応方式で行うようにすれば、更に効率が向上するので好ましい。
以下、本発明の効果を実施例によって更に詳しく説明する。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
Ti、KおよびLi源として二酸化チタン、水酸化カリウムおよび水酸化リチウムを、また媒体として水40mlを使用し、Ti:K:Liが原子比で1:1:0.3になると共に二酸化チタン1モル当たり水の使用量が0.3リットルになるように各原料を秤量、混合して原料スラリーを調製した。
調製後の原料スラリーは、これを内容積90mlの耐圧式フッ素樹脂製反応器に充填した後、周波数2450MHz、最大出力1KW、自動温度制御機能付きのマイクロ波反応装置を用いて温度250℃で1hマイクロ波照射した。
【0019】
反応後の生成物を冷却後反応器から取り出し、濾過、洗浄、乾燥して生成粉体を回収した。回収した粉体をX線回折装置で分析したところ、図1に示すように原料二酸化チタン等の存在は殆ど確認されず、粉体がほぼチタン酸カリウムリチウムのみから構成されていると判断された。さらにこの粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、図2に示すように粒子が板状形状を有していることが確認された。
【0020】
以上と同様の操作を、220℃−1hの反応条件の場合についても実施し、反応後の粉体を回収してその性状を調査した。図3にはX線解析結果を示すが、生成物であるチタン酸カリウムリチウムのピークが認められるものの、同時に原料二酸化チタンの大きなピークも存在している。また図4にはSEM写真を示すが、板状形状の粒子はほとんど存在していない。従って、本実施例の組成の原料スラリーに対しては、220℃−1hの反応条件下では反応進行が不十分であることが理解出来る。
【0021】
(実施例2)
反応条件を220℃−3hとした以外は実施例1と同様の原料および装置を用いて実験を行った。反応後の生成物を実施例1と同様に分析したところ、反応が良好に進行し、回収された粉体はほぼ目的生成物であるチタン酸カリウムリチウムのみから構成され、またその粒子形状は板状であった。従って、実施例1では反応進行が不十分であった反応温度220℃の場合においても、反応時間を延長することによって十分反応が進行することが理解できる。
【0022】
(実施例3)
Ti:K:Liの原子比が1:4:0.3、また媒体の水の使用量が二酸化チタン1モル当たり1.0リットルであり、反応温度と時間を220℃−1hの条件に設定して、実施例1と同様の実験を行った。その結果、得られた生成物はほぼ全量がチタン酸カリウムリチウムであり、粒子の形状も板状であった。これより、原料中にKを過剰に存在させることで、反応進行が顕著に改善されることが分かる。
【0023】
(比較例1)
Ti:K:Liの原子比が1:1:0.3、また媒体の水の使用量が二酸化チタン1モル当たり1.0リットルであり、反応温度と時間を220℃−1hの条件に設定して、実施例1と同様の実験を行った。反応後の粉体をX線解析したところ、目的生成物のピークはほとんど存在せず、ほぼ全量が未反応の原料二酸化チタンであることが判明した。
【0024】
(比較例2)
Ti:K;Liの比を1:4:0.3とした実施例3のケースにつき、加熱源をマイクロ波ではなく通常の抵抗加熱式オートクレーブに変更して実験を行った。反応後の生成物を分析した結果、目的生成物は全く認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti,KおよびLi源原料を水系媒体に添加混合後、該混合物にマイクロ波を照射する
ことを特徴とする板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法。
【請求項2】
マイクロ波照射を行う反応域に原料混合物を連続的に供給し、一方で反応域から反応物を連続的に抜き出す
ことを特徴とする請求項1記載の板状チタン酸カリウムリチウムの製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−202440(P2010−202440A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48752(P2009−48752)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地域イノベーション創出研究開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(599073917)財団法人かがわ産業支援財団 (35)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】