板状チタン酸化合物およびその製造方法
【課題】組成がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)で、板状のチタン酸化合物を提供する。
【解決手段】板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、前記A元素を導入するステップ、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、得られた板状の物質を、前記M元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを含むことを特徴とする板状チタン酸化合物の製造方法。
【解決手段】板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、前記A元素を導入するステップ、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、得られた板状の物質を、前記M元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを含むことを特徴とする板状チタン酸化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は板状チタン酸化合物ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、板状のBaTiO3(BT)の合成に成功した(特許文献1:特開2007-22857)。この合成法では、TiO2とKOH及びLiOH等をオートクレーブ中でソルボサーマル反応させることにより、K0.8Li0.27□<0.01Ti1.73O4等(ここで□はTiの欠陥部位)の板状化合物を調製し、得られた板状化合物を希硝酸等の酸と反応させ、板状のチタン酸水和物とする。板状のチタン酸水和物をBa(OH)2等と、オートクレーブ中でソルボサーマル反応させることにより、板状のBaTiO3を得ることができる。得られたBaTiO3は微細なBaTiO3粒子が凝集して板状となり、(110)面の方向に配向しているが、BaTiO3の一次粒子あるいは結晶子自体が板状であるわけではない。
【0003】
圧電材料あるいは誘電材料として、BaTiO3とBi0.5K0.5TiO3等との固溶体が着目されている。この固溶体の組成はBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3(0<x<1)で、キュリー温度は例えば380℃付近と高い。またKはNaと任意の割合で置換でき、BaはSr,Ca,Mg等の他のアルカリ土類元素、あるいはPbで置換できるので、一般的な組成はA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3となる。ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、前記のように0<x<1である。
【0004】
特許文献2(特開2001-151566)はBaCO3、Bi2O3,K2CO3,Na2CO3,及びTiO2を湿式混合し、CIP(等方静水圧プレス)を施して成形し、1050〜1250℃で例えば2時間焼成することにより、焼結体とすることを開示している。そしてBaCO3とBi2O3,K2CO3及びNa2CO3の混合比を変えることにより、焼結体の組成をBa1-x(Bi0.5(KzNa1-z)0.5)xTiO3(0<x<1,0≦z≦1)の範囲で変えることができることを示している。なお特許文献2の焼結体を構成する粒子は板状ではなく、また特定の結晶面の方向に配向しているものでもない。
【0005】
特許文献3(特許3975518)では、Bi2O3とTiO2をNaCl及びKClの存在下に1050℃に加熱し、板状のBi4Ti3O12を合成する。これとは別にBi2O3,Na2CO3,K2CO3,及びTiO2を850℃に加熱し、Bi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3の等軸形状の粉末を合成する。Bi4Ti3O12とBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3とをボールミルで混合して、Na2CO3,K2CO3、及びTiO2を添加し、テープ状に成形した後、1200℃等で焼結することにより、(100)面の方向に配向したBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3を合成する。しかし得られるのはBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3で、Ba1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3ではなく、また(100)面の方向に配向しているとされているものの、板状であるとは報告されていない。以上のように、板状のBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3等の合成は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-22857
【特許文献2】特開2001-151566
【特許文献3】特許3975518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、組成がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)で、板状のチタン酸化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)であり、かつA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物にある。
【0009】
またこの発明は、Ti化合物と、Na,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素の化合物と、Li,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素の化合物とを、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、一般式 BwCy□zTi(2-(w/4+ky/4+z)O4で表される板状チタン酸塩とするステップ(ここにBはNa,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素を、CはLi,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素を、kはC元素の価数を、□はTiの欠陥部位を表し、0<w<1,0<y<w,0≦z,0<y+z<1)と、
得られた板状チタン酸塩を酸と反応させて板状チタン酸水和物とするステップと、
得られた板状チタン酸水和物を、Ba,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素をA元素として、A元素の化合物と親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、板状チタン酸水和物にA元素を導入するステップ、とを行う板状チタン酸化合物の製造方法において、
前記A元素を導入するステップでは、板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、
得られた板状の物質を、Na及びKから成る群の少なくとも一員の元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにMはKまたはNaを表し、0<x<1)の粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを実行することを特徴とする。
【0010】
板状チタン酸化合物を得るステップでは、例えばATiO3と、ビスマスとチタンとの酸化物と、チタン酸水和物もしくは酸化チタンとを含む板状の物質が反応初期に生成し、反応後期にM元素が生成した板状の物質内に導入されて、前記A1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子となる。好ましくはAがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素で、より好ましくはBaまたはSrで、特に好ましくはBaである。この明細書において、板状チタン酸化合物に関する記載はそのままその製造方法にも当てはまり、逆に板状チタン酸化合物の製造方法に関する記載はそのまま板状チタン酸化合物にも当てはまる。NaとKは板状チタン酸化合物の合成での振る舞いが等しく、Kに代えてNaを用い、あるいはKの一部をNaで置換して用いることができる。この明細書で、親水性溶媒とは水自体、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン等の水と自由に混和する溶媒をいう。またこの明細書で、板状は2次粒子の形状が板状であることで、1次粒子あるいは結晶子自体が板状であるとの意味ではない。
【0011】
板状チタン酸水和物の合成までは特許文献1により公知である。Tiの欠陥部位□の数を表すzは一般に小さな数で、例えば0以上0.01以下である。B元素は安価でかつ適切なイオン半径を持つKが特に好ましく、C元素は酸により容易に除去でき、不純物残量が少ないLiが好ましい。wは例えば0.5以上で1.0未満、yは例えば0.2以上0.5未満で、w>yであり、特に好ましくは、wを0.6以上1.0未満、yを0.2以上0.4未満とする。酸によるチタン酸水和物への転換は例えば室温以上で100℃以下、特に好ましくは室温以上で60℃以下で行う。
【0012】
例えば板状チタン酸水和物にBa(OH)2等とBiCl3とKOHとを混合し、オートクレーブ中でソルボサーマル反応させると、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3(BBKT)等を合成できる。しかしながら得られたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3等は板状ではなく、板状チタン酸水和物がBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3等に変化する過程で、板状の形状が失われる。これに対して、板状チタン酸水和物に、ソルボサーマル反応により、Ti1モルに対し1モル未満の割合でBa等を導入すると、板状の形状を保ったままでBaTiO3等とチタン酸水和物とから成る物質を得ることができる。
【0013】
得られた板状物質に、ソルボサーマル反応により、BiとKまたはNaを導入すると、反応初期に板状の形状を保ったままで、チタン酸水和物の一部がBi12TiO20,Bi4Ti3O12等のチタン酸ビスマス化合物に変化する。反応を継続すると、BaTiO3と,チタン酸水和物あるいは酸化チタンと、チタン酸ビスマス化合物との集合体からなる板状の物質にKが導入されると共に、板状の物質内で組成が均一化し、板状のBa1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(MはNaまたはK)が得られる。得られたBa1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3は(110)面の方向に配向しており、誘電体あるいは圧電材料に適している。なお(110)面の方向に配向していることは、本発明の他の板状チタン酸化合物でも同様である。
【0014】
Ba(OH)2に代え、他のアルカリ土類の水酸化物あるいは塩、Pb(OH)2あるいはPb(NO3)2等を用いると、Baを他のアルカリ土類もしくはPbで置換した化合物が得られる。さらにBaTiO3等はチタン酸水和物に比べて安定で、生成したBaTiO3等とBi,K,Na等のイオンが接触しても、Ba等の元素がBi等で置き換えられることはない。従って、目標の組成に従って最初にBa等の元素を導入し、次にBiとKまたはNaを導入すると、目標の板状チタン酸化合物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】a:前駆体のチタン酸水和物H1.07Ti1.73O4・xH2O(HTO)と、b:3mol/LのKOH水溶液中でHTOとBa(OH)2とBiCl3とを150℃で12時間反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3と、c:反応温度を200℃に変えて他は同じ条件で反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図
【図2】a:図1aのHTOと、b:図1cのBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とのFE-SEM画像(Field Emission Scanning Electron Microscope Image)
【図3】a:前駆体のチタン酸水和物HTOと、b:HTOに部分的にBaを導入した0.5BaTiO3-0.5HTO複合体と、c:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体を3mol/LのKOH水溶液中でBiCl3と150℃で12時間反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3と、d:反応温度を200℃に変えて他はcと同じ条件で反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図
【図4】a:板状のHTOのTEM画像(Transmission Electron Microscope Image)と、b:板状のHTOのSAEDパターン(Selected Area Electron Diffraction Pattern)、及びc:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像とd:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のSAEDパターンを示す図
【図5】0.5BaTiO3-0.5HTO複合体とBiCl3とを200℃で12時間、KOH濃度を変えて水中で反応させた生成物のX線回折図で、aはKOH濃度が0.1mol/L,bは0.5mol/L,cは1.5mol/L、dは3mol/L、eは5mol/L、fは8mol/Lである。
【図6】図5の試料のFE-SEM画像で、aは0.5BaTiO3-0.5HTO複合体の画像、bはKOH濃度が0.1mol/Lで合成した生成物の画像,cは0.5mol/Lでの生成物の画像,dは1.5mol/Lでの生成物の画像、eは3mol/Lでの生成物の画像、fは8mol/Lでの生成物の画像である。
【図7】0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と3mol/LのKOH水溶液中、200℃で所定時間反応させた生成物のX線回折図で、aは反応時間が2時間、bは4時間、cは6時間、dは12時間、eは48時間反応させた。
【図8】図7の各試料のFE-SEM画像で、aは反応時間が2時間、bは4時間、cは6時間、dは48時間である。
【図9】図7の試料b、dのTEM画像とEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrum)で、c, dでは反応時間は4時間、e, fでは反応時間は12時間である。
【図10】図7の試料b、dのSAEDパターン(a,c)とHRTEM画像(b,d)(High Resolution Transmission Electron Microscope Image)を示し、a,bでは反応時間は4時間、c,dでは反応時間は12時間である。
【図11】板状ビスマスカリウムバリウムチタン酸(Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3)の生成モデルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明は実施例に制約されるものではなく、実施例を特許文献1等の公知技術と当業者に周知の事項に従って変更できる。
【実施例】
【0017】
容量30mLのオートクレーブに酸化チタン、水酸化カリウム、水酸化リチウムをTi:K:Liの原子比で5:4:1となるように加え、撹拌しながら250℃で20時間(より一般的には200℃以上300℃以下で、10時間以上40時間以下)水熱条件下で反応させ、K0.80Li0.27□<0.01Ti1.73O4の板状粒子を得た。なおTiの欠陥部位を示す□は一般に0.01未満の小さな正数である。板状粒子の組成は原子吸光分析で求め、チタン酸カリウムリチウムであることはX線回折で確認した。板状粒子を1M−HNO3水溶液(板状粒子1モル当たりHNO3 20モル)で室温で処理し、板状のH1.07Ti1.73O4・xH2O(以下HTO)を得た。
【0018】
得られたHTOをBa(OH)2及びBiCl3と共に3mol/L KOHの水溶液において、150℃及び200℃でそれぞれ12時間ずつ反応させた。なおBaとTiはモル比で、0.5:1の割合で混合し、BiとTiも同様にモル比で0.25:1の割合で混合した。原材料のHTO(板状チタン酸水和物)と生成物のBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図を図1に示す。反応温度を150℃と200℃のいずれにしても、HTOはBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3に変化している。原材料のHTOと200℃で反応させた生成物のFE-SEM画像を図2に示す。原材料のHTOは板状の化合物であるが、生成物はもはや板状ではない。
【0019】
HTOに1ステップでBaとBiを導入すると、板状の化合物が得られなかった。そこでHTOに最初にBaのみを導入し、次にBiとKを導入することを検討した。最終目標として、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を合成することとし、最初にHTO 1モルに対して0.5モルの割合でBa(OH)2を加え、ソルボサーマル反応により反応させた。BaをHTO中に穏やかに導入するため、溶媒には体積比で28:2のエタノール-水混合溶媒を用いたが、溶媒の種類は任意である。150℃及び200℃では、Ba(OH)2中のBaは化学量論的に全量HTO中に導入された。得られた0.5BaTiO3-0.5HTO複合体に対し、3mol/LのKOH水溶液中で、BiCl3と150℃あるいは200℃の反応温度で各12時間反応させた。なお生成物をBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とすると、3mol/LのKOH水溶液は化学量論的に必要な量の50倍のK原子を含んでいる。また各実施例では化学量論的に必要な量のBi化合物を用いたが、化学量論的に必要な量以上でその1.05倍以下のBi化合物を用いることが好ましい。板状HTOのX線回折図を図3aに、0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のX線回折図をbに、150℃での生成物のX線回折図をcに、200℃での生成物のX線回折図をdに示す。150℃でも200℃でもBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3(BBKT)が生成し、150℃ではTiO2とBi12TiO20が検出される。このことからソルボサーマル反応の温度は好ましくは150℃以上であることが分かり、上限は例えば250℃であり、反応温度は好ましくは160℃以上250℃以下、特に好ましくは180℃以上250℃以下である。
【0020】
図4は、板状HTOと0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像並びにSAEDパターンを示す。図4cは0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像で、HTOのTEM画像aと比較すると、板状の2次粒子の中に、BaTiO3ナノ粒子が分布していることが分かる。また板状HTOのSAEDパターンから、試料はHTOの単相であることが分かる。これに対して0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のSAEDパターンでは、HTOのパターンとBaTiO3のパターンとが併存していることが分かる。
【0021】
図5は0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と250℃で12時間、各種の濃度のKOH水溶液中で反応させた生成物のX線回折図を示している。aではKOH濃度は0.1mol/L、bでは0.5mol/L、cでは1.5mol/L、dでは3mol/L、eでは5mol/L、fでは8mol/Lで、aではBi4Ti3O12が見られ、bではBi4Ti3O12とBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とが併存し、c〜fではBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のみが見られる。
【0022】
図6は、図5の生成物に対するFE-SEM画像を示し、aは原材料の0.5BaTiO3-0.5HTO複合体を、bは0.1mol/Lで、cは0.5mol/L、dは1.5mol/L、eは3mol/L、fは8mol/Lである。b〜fでは板状の構造が保たれている。図5でKOH濃度が0.5mol/Lでは、Bi4Ti3O12が残存していたことから、KOH濃度は1mol/L以上8mol/L以下が好ましい。
【0023】
図7は、0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と3mol/LのKOH水溶液中で200℃において、反応時間を変えて水熱反応させた生成物のX線回折図を示す。aでは反応時間は2時間、bでは4時間、cでは6時間、dでは12時間、eでは48時間である。2時間及び4時間ではBi12TiO20のピークが見られ、6時間以上でほぼ完全にBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3が生成する。
【0024】
図8は図7の試料のFE-SEM画像であり、aでは反応時間は2時間、bでは4時間、cでは6時間、dでは48時間である。dのように反応時間を48時間とすると、板状の形状が崩れる。図6で12時間の反応時間により板状の形状を保つことができたことなどを踏まえると、反応時間は5時間以上20時間以下が好ましい。
【0025】
図9は図7の試料のTEM画像とEDSスペクトルとを示し、c及びdでは反応時間は4時間、e及びfでは反応時間は12時間である。EDS分析を、c, eの各試料に対し、A,B,Cの3個所ずつ行うと、図9のd及びfのようになり、反応時間4時間の試料では場所により組成が不均一で、反応時間12時間の試料では場所によらず組成は均一である。
【0026】
図10は図7の試料b,dのSAEDパターンとHRTEM画像を示し、aのSAEDパターンとbのHRTEM画像では反応時間は4時間、cのSAEDパターンとdのHRTEM画像では反応時間は12時間である。反応時間が4時間では、Bi12TiO20の回折パターンと結晶格子とが観察され、反応時間が12時間では、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3の回折パターンと結晶格子のみが観察された。
【0027】
以上のことから、ソルボサーマル反応の温度は150℃以上250℃以下が好ましく、160℃以上250℃以下がより好ましく、特に好ましくは180℃以上250℃以下である。反応時間は5以上20時間以下が好ましく、KOH濃度は1mol/L以上8mol/L以下が好ましいことが分かる。反応時間が長い、反応温度が高い、あるいははKOH濃度が高い場合、板状の形状が崩れやすい。逆に反応温度が低い、反応時間が短い、あるいはKOH濃度が低い場合、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3以外の中間生成物が残存しやすい。上記の条件は最も好ましい条件で、例えば130℃でも反応時間を48時間とし、KOH濃度を8mol/Lとすれば、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を得ることができる。また反応時間が2時間でも、KOH濃度を8mol/Lとし、反応温度を250℃とすれば、同様にBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を得ることができる。さらにKを導入する場合とNaを導入する場合とで、反応条件は同じで良い。
【0028】
Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3の生成モデルを図11に示す。板状のHTOに対し、例えばBa-Tiを0.5/1としてBa(OH)2と反応させると、トポタクティックな水熱反応により、プレート状の0.5HTO-0.5BaTiO3(BT-HTO)のナノ複合体が得られる。この生成物では、図4cに示すように、板状の2次粒子の内部にBaTiO3の粒子が分布している。生成物をさらにBi3+とK+とOH-と水熱反応させることにより、最初にBiがHTO中に導入され、BaTiO3とBi12TiO20などのビスマスチタン酸化合物を含む板状の物質が生成するが、化学両論比の点から、HTOもしくはTiO2も含まれていることが分かる。さらに反応を継続すると、K+が粒子の内部に導入されると共に組成が均一化し、この時ヘテロエピタキシャルな結晶成長により、板状のBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3 が生成する。生成したBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3は全て(110)面方向に強く配向していた。
【0029】
実施例ではK元素を用いたが、Na元素を用いても全く同様にBa0.5(Bi0.5Na0.5)0.5TiO3を合成することができた。当然であるが、KとNaとの比は任意の値とすることができる。HTOをBa(OH)2と反応させる代わりに、Sr(OH)2,Ca(OH)2,Mg(OH)2,Pb(OH)2と反応させることにより、全く同様にしてSr0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Ca0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Mg0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Pb0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3などを合成することができた。実施例ではBi源としてBiCl3を用いたが、BiI3等の200℃程度の温度でアルカリ性の水に可溶なBi化合物であればよい。またKOHの一部をKClあるいはK2Oなどとしても良い。Ba(OH)2に代えて、BaCl2等によりBa2+イオンを導入しても良い。実施例ではBaX(Bi0.5K0.5)1-xTiO3として x=0.5の例を検討した。x=0.05,0.1,0.3,0.7,0.9,0.94の各例について、KOH濃度を3mol/L、反応温度を200℃で反応時間を6時間として実施例と同様の合成を試み、いずれも合成に成功した。従って0<x<1、好ましくは0.1≦x≦0.95、特に好ましくは0.1≦x≦0.94とする。
【技術分野】
【0001】
本発明は板状チタン酸化合物ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明者らは、板状のBaTiO3(BT)の合成に成功した(特許文献1:特開2007-22857)。この合成法では、TiO2とKOH及びLiOH等をオートクレーブ中でソルボサーマル反応させることにより、K0.8Li0.27□<0.01Ti1.73O4等(ここで□はTiの欠陥部位)の板状化合物を調製し、得られた板状化合物を希硝酸等の酸と反応させ、板状のチタン酸水和物とする。板状のチタン酸水和物をBa(OH)2等と、オートクレーブ中でソルボサーマル反応させることにより、板状のBaTiO3を得ることができる。得られたBaTiO3は微細なBaTiO3粒子が凝集して板状となり、(110)面の方向に配向しているが、BaTiO3の一次粒子あるいは結晶子自体が板状であるわけではない。
【0003】
圧電材料あるいは誘電材料として、BaTiO3とBi0.5K0.5TiO3等との固溶体が着目されている。この固溶体の組成はBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3(0<x<1)で、キュリー温度は例えば380℃付近と高い。またKはNaと任意の割合で置換でき、BaはSr,Ca,Mg等の他のアルカリ土類元素、あるいはPbで置換できるので、一般的な組成はA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3となる。ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、前記のように0<x<1である。
【0004】
特許文献2(特開2001-151566)はBaCO3、Bi2O3,K2CO3,Na2CO3,及びTiO2を湿式混合し、CIP(等方静水圧プレス)を施して成形し、1050〜1250℃で例えば2時間焼成することにより、焼結体とすることを開示している。そしてBaCO3とBi2O3,K2CO3及びNa2CO3の混合比を変えることにより、焼結体の組成をBa1-x(Bi0.5(KzNa1-z)0.5)xTiO3(0<x<1,0≦z≦1)の範囲で変えることができることを示している。なお特許文献2の焼結体を構成する粒子は板状ではなく、また特定の結晶面の方向に配向しているものでもない。
【0005】
特許文献3(特許3975518)では、Bi2O3とTiO2をNaCl及びKClの存在下に1050℃に加熱し、板状のBi4Ti3O12を合成する。これとは別にBi2O3,Na2CO3,K2CO3,及びTiO2を850℃に加熱し、Bi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3の等軸形状の粉末を合成する。Bi4Ti3O12とBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3とをボールミルで混合して、Na2CO3,K2CO3、及びTiO2を添加し、テープ状に成形した後、1200℃等で焼結することにより、(100)面の方向に配向したBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3を合成する。しかし得られるのはBi0.5(Na0.85K0.15)0.5TiO3で、Ba1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3ではなく、また(100)面の方向に配向しているとされているものの、板状であるとは報告されていない。以上のように、板状のBa1-x(Bi0.5K0.5)xTiO3等の合成は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-22857
【特許文献2】特開2001-151566
【特許文献3】特許3975518
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明の課題は、組成がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)で、板状のチタン酸化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)であり、かつA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物にある。
【0009】
またこの発明は、Ti化合物と、Na,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素の化合物と、Li,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素の化合物とを、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、一般式 BwCy□zTi(2-(w/4+ky/4+z)O4で表される板状チタン酸塩とするステップ(ここにBはNa,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素を、CはLi,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素を、kはC元素の価数を、□はTiの欠陥部位を表し、0<w<1,0<y<w,0≦z,0<y+z<1)と、
得られた板状チタン酸塩を酸と反応させて板状チタン酸水和物とするステップと、
得られた板状チタン酸水和物を、Ba,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素をA元素として、A元素の化合物と親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、板状チタン酸水和物にA元素を導入するステップ、とを行う板状チタン酸化合物の製造方法において、
前記A元素を導入するステップでは、板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、
得られた板状の物質を、Na及びKから成る群の少なくとも一員の元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにMはKまたはNaを表し、0<x<1)の粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを実行することを特徴とする。
【0010】
板状チタン酸化合物を得るステップでは、例えばATiO3と、ビスマスとチタンとの酸化物と、チタン酸水和物もしくは酸化チタンとを含む板状の物質が反応初期に生成し、反応後期にM元素が生成した板状の物質内に導入されて、前記A1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子となる。好ましくはAがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素で、より好ましくはBaまたはSrで、特に好ましくはBaである。この明細書において、板状チタン酸化合物に関する記載はそのままその製造方法にも当てはまり、逆に板状チタン酸化合物の製造方法に関する記載はそのまま板状チタン酸化合物にも当てはまる。NaとKは板状チタン酸化合物の合成での振る舞いが等しく、Kに代えてNaを用い、あるいはKの一部をNaで置換して用いることができる。この明細書で、親水性溶媒とは水自体、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン等の水と自由に混和する溶媒をいう。またこの明細書で、板状は2次粒子の形状が板状であることで、1次粒子あるいは結晶子自体が板状であるとの意味ではない。
【0011】
板状チタン酸水和物の合成までは特許文献1により公知である。Tiの欠陥部位□の数を表すzは一般に小さな数で、例えば0以上0.01以下である。B元素は安価でかつ適切なイオン半径を持つKが特に好ましく、C元素は酸により容易に除去でき、不純物残量が少ないLiが好ましい。wは例えば0.5以上で1.0未満、yは例えば0.2以上0.5未満で、w>yであり、特に好ましくは、wを0.6以上1.0未満、yを0.2以上0.4未満とする。酸によるチタン酸水和物への転換は例えば室温以上で100℃以下、特に好ましくは室温以上で60℃以下で行う。
【0012】
例えば板状チタン酸水和物にBa(OH)2等とBiCl3とKOHとを混合し、オートクレーブ中でソルボサーマル反応させると、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3(BBKT)等を合成できる。しかしながら得られたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3等は板状ではなく、板状チタン酸水和物がBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3等に変化する過程で、板状の形状が失われる。これに対して、板状チタン酸水和物に、ソルボサーマル反応により、Ti1モルに対し1モル未満の割合でBa等を導入すると、板状の形状を保ったままでBaTiO3等とチタン酸水和物とから成る物質を得ることができる。
【0013】
得られた板状物質に、ソルボサーマル反応により、BiとKまたはNaを導入すると、反応初期に板状の形状を保ったままで、チタン酸水和物の一部がBi12TiO20,Bi4Ti3O12等のチタン酸ビスマス化合物に変化する。反応を継続すると、BaTiO3と,チタン酸水和物あるいは酸化チタンと、チタン酸ビスマス化合物との集合体からなる板状の物質にKが導入されると共に、板状の物質内で組成が均一化し、板状のBa1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(MはNaまたはK)が得られる。得られたBa1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3は(110)面の方向に配向しており、誘電体あるいは圧電材料に適している。なお(110)面の方向に配向していることは、本発明の他の板状チタン酸化合物でも同様である。
【0014】
Ba(OH)2に代え、他のアルカリ土類の水酸化物あるいは塩、Pb(OH)2あるいはPb(NO3)2等を用いると、Baを他のアルカリ土類もしくはPbで置換した化合物が得られる。さらにBaTiO3等はチタン酸水和物に比べて安定で、生成したBaTiO3等とBi,K,Na等のイオンが接触しても、Ba等の元素がBi等で置き換えられることはない。従って、目標の組成に従って最初にBa等の元素を導入し、次にBiとKまたはNaを導入すると、目標の板状チタン酸化合物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】a:前駆体のチタン酸水和物H1.07Ti1.73O4・xH2O(HTO)と、b:3mol/LのKOH水溶液中でHTOとBa(OH)2とBiCl3とを150℃で12時間反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3と、c:反応温度を200℃に変えて他は同じ条件で反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図
【図2】a:図1aのHTOと、b:図1cのBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とのFE-SEM画像(Field Emission Scanning Electron Microscope Image)
【図3】a:前駆体のチタン酸水和物HTOと、b:HTOに部分的にBaを導入した0.5BaTiO3-0.5HTO複合体と、c:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体を3mol/LのKOH水溶液中でBiCl3と150℃で12時間反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3と、d:反応温度を200℃に変えて他はcと同じ条件で反応させたBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図
【図4】a:板状のHTOのTEM画像(Transmission Electron Microscope Image)と、b:板状のHTOのSAEDパターン(Selected Area Electron Diffraction Pattern)、及びc:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像とd:0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のSAEDパターンを示す図
【図5】0.5BaTiO3-0.5HTO複合体とBiCl3とを200℃で12時間、KOH濃度を変えて水中で反応させた生成物のX線回折図で、aはKOH濃度が0.1mol/L,bは0.5mol/L,cは1.5mol/L、dは3mol/L、eは5mol/L、fは8mol/Lである。
【図6】図5の試料のFE-SEM画像で、aは0.5BaTiO3-0.5HTO複合体の画像、bはKOH濃度が0.1mol/Lで合成した生成物の画像,cは0.5mol/Lでの生成物の画像,dは1.5mol/Lでの生成物の画像、eは3mol/Lでの生成物の画像、fは8mol/Lでの生成物の画像である。
【図7】0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と3mol/LのKOH水溶液中、200℃で所定時間反応させた生成物のX線回折図で、aは反応時間が2時間、bは4時間、cは6時間、dは12時間、eは48時間反応させた。
【図8】図7の各試料のFE-SEM画像で、aは反応時間が2時間、bは4時間、cは6時間、dは48時間である。
【図9】図7の試料b、dのTEM画像とEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrum)で、c, dでは反応時間は4時間、e, fでは反応時間は12時間である。
【図10】図7の試料b、dのSAEDパターン(a,c)とHRTEM画像(b,d)(High Resolution Transmission Electron Microscope Image)を示し、a,bでは反応時間は4時間、c,dでは反応時間は12時間である。
【図11】板状ビスマスカリウムバリウムチタン酸(Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3)の生成モデルを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明は実施例に制約されるものではなく、実施例を特許文献1等の公知技術と当業者に周知の事項に従って変更できる。
【実施例】
【0017】
容量30mLのオートクレーブに酸化チタン、水酸化カリウム、水酸化リチウムをTi:K:Liの原子比で5:4:1となるように加え、撹拌しながら250℃で20時間(より一般的には200℃以上300℃以下で、10時間以上40時間以下)水熱条件下で反応させ、K0.80Li0.27□<0.01Ti1.73O4の板状粒子を得た。なおTiの欠陥部位を示す□は一般に0.01未満の小さな正数である。板状粒子の組成は原子吸光分析で求め、チタン酸カリウムリチウムであることはX線回折で確認した。板状粒子を1M−HNO3水溶液(板状粒子1モル当たりHNO3 20モル)で室温で処理し、板状のH1.07Ti1.73O4・xH2O(以下HTO)を得た。
【0018】
得られたHTOをBa(OH)2及びBiCl3と共に3mol/L KOHの水溶液において、150℃及び200℃でそれぞれ12時間ずつ反応させた。なおBaとTiはモル比で、0.5:1の割合で混合し、BiとTiも同様にモル比で0.25:1の割合で混合した。原材料のHTO(板状チタン酸水和物)と生成物のBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のX線回折図を図1に示す。反応温度を150℃と200℃のいずれにしても、HTOはBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3に変化している。原材料のHTOと200℃で反応させた生成物のFE-SEM画像を図2に示す。原材料のHTOは板状の化合物であるが、生成物はもはや板状ではない。
【0019】
HTOに1ステップでBaとBiを導入すると、板状の化合物が得られなかった。そこでHTOに最初にBaのみを導入し、次にBiとKを導入することを検討した。最終目標として、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を合成することとし、最初にHTO 1モルに対して0.5モルの割合でBa(OH)2を加え、ソルボサーマル反応により反応させた。BaをHTO中に穏やかに導入するため、溶媒には体積比で28:2のエタノール-水混合溶媒を用いたが、溶媒の種類は任意である。150℃及び200℃では、Ba(OH)2中のBaは化学量論的に全量HTO中に導入された。得られた0.5BaTiO3-0.5HTO複合体に対し、3mol/LのKOH水溶液中で、BiCl3と150℃あるいは200℃の反応温度で各12時間反応させた。なお生成物をBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とすると、3mol/LのKOH水溶液は化学量論的に必要な量の50倍のK原子を含んでいる。また各実施例では化学量論的に必要な量のBi化合物を用いたが、化学量論的に必要な量以上でその1.05倍以下のBi化合物を用いることが好ましい。板状HTOのX線回折図を図3aに、0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のX線回折図をbに、150℃での生成物のX線回折図をcに、200℃での生成物のX線回折図をdに示す。150℃でも200℃でもBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3(BBKT)が生成し、150℃ではTiO2とBi12TiO20が検出される。このことからソルボサーマル反応の温度は好ましくは150℃以上であることが分かり、上限は例えば250℃であり、反応温度は好ましくは160℃以上250℃以下、特に好ましくは180℃以上250℃以下である。
【0020】
図4は、板状HTOと0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像並びにSAEDパターンを示す。図4cは0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のTEM画像で、HTOのTEM画像aと比較すると、板状の2次粒子の中に、BaTiO3ナノ粒子が分布していることが分かる。また板状HTOのSAEDパターンから、試料はHTOの単相であることが分かる。これに対して0.5BaTiO3-0.5HTO複合体のSAEDパターンでは、HTOのパターンとBaTiO3のパターンとが併存していることが分かる。
【0021】
図5は0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と250℃で12時間、各種の濃度のKOH水溶液中で反応させた生成物のX線回折図を示している。aではKOH濃度は0.1mol/L、bでは0.5mol/L、cでは1.5mol/L、dでは3mol/L、eでは5mol/L、fでは8mol/Lで、aではBi4Ti3O12が見られ、bではBi4Ti3O12とBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3とが併存し、c〜fではBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3のみが見られる。
【0022】
図6は、図5の生成物に対するFE-SEM画像を示し、aは原材料の0.5BaTiO3-0.5HTO複合体を、bは0.1mol/Lで、cは0.5mol/L、dは1.5mol/L、eは3mol/L、fは8mol/Lである。b〜fでは板状の構造が保たれている。図5でKOH濃度が0.5mol/Lでは、Bi4Ti3O12が残存していたことから、KOH濃度は1mol/L以上8mol/L以下が好ましい。
【0023】
図7は、0.5BaTiO3-0.5HTO複合体をBiCl3と3mol/LのKOH水溶液中で200℃において、反応時間を変えて水熱反応させた生成物のX線回折図を示す。aでは反応時間は2時間、bでは4時間、cでは6時間、dでは12時間、eでは48時間である。2時間及び4時間ではBi12TiO20のピークが見られ、6時間以上でほぼ完全にBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3が生成する。
【0024】
図8は図7の試料のFE-SEM画像であり、aでは反応時間は2時間、bでは4時間、cでは6時間、dでは48時間である。dのように反応時間を48時間とすると、板状の形状が崩れる。図6で12時間の反応時間により板状の形状を保つことができたことなどを踏まえると、反応時間は5時間以上20時間以下が好ましい。
【0025】
図9は図7の試料のTEM画像とEDSスペクトルとを示し、c及びdでは反応時間は4時間、e及びfでは反応時間は12時間である。EDS分析を、c, eの各試料に対し、A,B,Cの3個所ずつ行うと、図9のd及びfのようになり、反応時間4時間の試料では場所により組成が不均一で、反応時間12時間の試料では場所によらず組成は均一である。
【0026】
図10は図7の試料b,dのSAEDパターンとHRTEM画像を示し、aのSAEDパターンとbのHRTEM画像では反応時間は4時間、cのSAEDパターンとdのHRTEM画像では反応時間は12時間である。反応時間が4時間では、Bi12TiO20の回折パターンと結晶格子とが観察され、反応時間が12時間では、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3の回折パターンと結晶格子のみが観察された。
【0027】
以上のことから、ソルボサーマル反応の温度は150℃以上250℃以下が好ましく、160℃以上250℃以下がより好ましく、特に好ましくは180℃以上250℃以下である。反応時間は5以上20時間以下が好ましく、KOH濃度は1mol/L以上8mol/L以下が好ましいことが分かる。反応時間が長い、反応温度が高い、あるいははKOH濃度が高い場合、板状の形状が崩れやすい。逆に反応温度が低い、反応時間が短い、あるいはKOH濃度が低い場合、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3以外の中間生成物が残存しやすい。上記の条件は最も好ましい条件で、例えば130℃でも反応時間を48時間とし、KOH濃度を8mol/Lとすれば、Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を得ることができる。また反応時間が2時間でも、KOH濃度を8mol/Lとし、反応温度を250℃とすれば、同様にBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3を得ることができる。さらにKを導入する場合とNaを導入する場合とで、反応条件は同じで良い。
【0028】
Ba0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3の生成モデルを図11に示す。板状のHTOに対し、例えばBa-Tiを0.5/1としてBa(OH)2と反応させると、トポタクティックな水熱反応により、プレート状の0.5HTO-0.5BaTiO3(BT-HTO)のナノ複合体が得られる。この生成物では、図4cに示すように、板状の2次粒子の内部にBaTiO3の粒子が分布している。生成物をさらにBi3+とK+とOH-と水熱反応させることにより、最初にBiがHTO中に導入され、BaTiO3とBi12TiO20などのビスマスチタン酸化合物を含む板状の物質が生成するが、化学両論比の点から、HTOもしくはTiO2も含まれていることが分かる。さらに反応を継続すると、K+が粒子の内部に導入されると共に組成が均一化し、この時ヘテロエピタキシャルな結晶成長により、板状のBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3 が生成する。生成したBa0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3は全て(110)面方向に強く配向していた。
【0029】
実施例ではK元素を用いたが、Na元素を用いても全く同様にBa0.5(Bi0.5Na0.5)0.5TiO3を合成することができた。当然であるが、KとNaとの比は任意の値とすることができる。HTOをBa(OH)2と反応させる代わりに、Sr(OH)2,Ca(OH)2,Mg(OH)2,Pb(OH)2と反応させることにより、全く同様にしてSr0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Ca0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Mg0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3,Pb0.5(Bi0.5K0.5)0.5TiO3などを合成することができた。実施例ではBi源としてBiCl3を用いたが、BiI3等の200℃程度の温度でアルカリ性の水に可溶なBi化合物であればよい。またKOHの一部をKClあるいはK2Oなどとしても良い。Ba(OH)2に代えて、BaCl2等によりBa2+イオンを導入しても良い。実施例ではBaX(Bi0.5K0.5)1-xTiO3として x=0.5の例を検討した。x=0.05,0.1,0.3,0.7,0.9,0.94の各例について、KOH濃度を3mol/L、反応温度を200℃で反応時間を6時間として実施例と同様の合成を試み、いずれも合成に成功した。従って0<x<1、好ましくは0.1≦x≦0.95、特に好ましくは0.1≦x≦0.94とする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)であり、かつA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物。
【請求項2】
前記AがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素であることを特徴とする、請求項1の板状チタン酸化合物。
【請求項3】
前記AがBaであることを特徴とする、請求項2の板状チタン酸化合物。
【請求項4】
Ti化合物と、Na,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素の化合物と、Li,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素の化合物とを、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、一般式 BwCy□zTi(2-(w/4+ky/4+z)O4で表される板状チタン酸塩とするステップ(ここにBはNa,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素を、CはLi,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素を、kはC元素の価数を、□はTiの欠陥部位を表し、0<w<1,0<y<w,0≦z,0<y+z<1)と、
得られた板状チタン酸塩を酸と反応させて板状チタン酸水和物とするステップと、
得られた板状チタン酸水和物を、Ba,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素をA元素として、A元素の化合物と親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、板状チタン酸水和物にA元素を導入するステップ、とを行う板状チタン酸化合物の製造方法において、
前記A元素を導入するステップでは、板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、
得られた板状の物質を、Na及びKから成る群の少なくとも一員の元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにMはKまたはNaを表し、0<x<1)の粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを実行することを特徴とする板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記板状チタン酸化合物を得るステップでは、ATiO3と、ビスマスとチタンとの酸化物と、チタン酸水和物もしくは酸化チタンとを含む板状の物質が反応初期に生成し、反応後期にM元素が生成した板状の物質内に導入されて、前記A1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子となることを特徴とする、請求項4の板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記AがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素であることを特徴とする、請求項4または5の板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記AがBaであることを特徴とする、請求項6の板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項1】
組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにAはBa,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素を,MはKまたはNaを表し、0<x<1)であり、かつA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物。
【請求項2】
前記AがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素であることを特徴とする、請求項1の板状チタン酸化合物。
【請求項3】
前記AがBaであることを特徴とする、請求項2の板状チタン酸化合物。
【請求項4】
Ti化合物と、Na,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素の化合物と、Li,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素の化合物とを、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、一般式 BwCy□zTi(2-(w/4+ky/4+z)O4で表される板状チタン酸塩とするステップ(ここにBはNa,K,Rb,Csから成る群の少なくとも一員の元素を、CはLi,Mg,Co,Ni,Zn,Mn,Feから成る群の少なくとも一員の元素を、kはC元素の価数を、□はTiの欠陥部位を表し、0<w<1,0<y<w,0≦z,0<y+z<1)と、
得られた板状チタン酸塩を酸と反応させて板状チタン酸水和物とするステップと、
得られた板状チタン酸水和物を、Ba,Sr,Ca,Mg,Pbから成る群の少なくとも一員の元素をA元素として、A元素の化合物と親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、板状チタン酸水和物にA元素を導入するステップ、とを行う板状チタン酸化合物の製造方法において、
前記A元素を導入するステップでは、板状チタン酸水和物中のTi元素1モルに対し1モル未満の割合で、前記A元素の化合物を板状チタン酸水和物と反応させることにより、チタン酸水和物とATiO3とから成る板状の物質を得るとともに、
得られた板状の物質を、Na及びKから成る群の少なくとも一員の元素の化合物、及びBi化合物と共に、親水性溶媒中で加熱下に反応させることにより、組成式がA1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3(ここにMはKまたはNaを表し、0<x<1)の粒子が凝集して板状となっている板状チタン酸化合物を得るステップ、とを実行することを特徴とする板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項5】
前記板状チタン酸化合物を得るステップでは、ATiO3と、ビスマスとチタンとの酸化物と、チタン酸水和物もしくは酸化チタンとを含む板状の物質が反応初期に生成し、反応後期にM元素が生成した板状の物質内に導入されて、前記A1-x(Bi0.5M0.5)xTiO3粒子となることを特徴とする、請求項4の板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項6】
前記AがBa,Sr,Ca,Mgから成る群の少なくとも一員の元素であることを特徴とする、請求項4または5の板状チタン酸化合物の製造方法。
【請求項7】
前記AがBaであることを特徴とする、請求項6の板状チタン酸化合物の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−10642(P2013−10642A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142421(P2011−142421)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(390036722)神島化学工業株式会社 (54)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]