説明

板状成形体の屈曲性評価装置

【課題】異なる径における板状成形体の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で精度良く評価することができる板状成形体の屈曲性評価装置を提供すること。
【解決手段】板状成形体2の屈曲性を評価する評価装置1において、板状成形体2の一端を固定する固定部30と、板状成形体2の他端にテンションをかけるテンション付与部31と、板状成形体2が巻掛けられる複数の径が異なるローラ11〜16,21〜26とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状成形体の屈曲性を評価する装置に関する。より詳細には、評価試験における作業効率を向上させることができる板状成形体の屈曲性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチック基板、金属帯やウェブなどの板状成形体に対しては、耐屈曲性が求められている。例えば、リチウムイオン二次電池の電極では、電池の高容量化に伴い、膜厚が大きくなることから、高い耐屈曲性が求められている。なぜなら、この種の電極は、電極材料のペースト(合材)を銅箔又はアルミニウム箔などに塗工して製造されている。そして、製造工程において、ロール上を搬送される際や電極捲回時又は扁平プレス時などに電極が曲げられると、電極の表面側での伸び応力が裏面側より大きくなるため、クラックが発生したり、合材が剥がれたりする等の不良が発生するおそれがあるからである。
【0003】
そのため、上記の電極を含め、耐屈曲性が求められている板状成形体では、製品の屈曲性(柔軟性)が評価されている。この屈曲性は、板状成形体を円柱に沿って弧状に屈曲させたとき、成形体の破壊に至る円柱の径で評価されている(特許文献1参照)。具体的には、JIS K5600のマンドレル試験機を使用してマンドレル径を数種類変更することにより屈曲性の評価を行うのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−204736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したマンドレル試験機(JIS K5600)では、1つのサンプルの評価につき、マンドレル径の他にギャップ調整板も数種類変更する必要があるため、作業効率が非常に悪く、屈曲性の評価試験に時間がかかってしまうという問題があった。また、マンドレル試験機では、手動で応力を加えるため、作業者によって評価結果がばらつく場合があり、精度良く評価を行うことができないおそれもあった。
【0006】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、異なる径における板状成形体の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で精度良く評価することができる板状成形体の屈曲性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、板状成形体の屈曲性を評価する評価装置において、前記板状成形体の一端を固定する固定部と、前記板状成形体の他端にテンションをかけるテンション付与部と、前記板状成形体が巻掛けられる複数の径が異なる円形棒状部材と、を有することを特徴とする。
【0008】
この板状成形体の屈曲性評価装置では、板状成形体は、一端が固定部で固定され、複数の径が異なる円形棒状部材に巻掛けられて、他端がテンション付与部により一定の張力で引っ張られる。これにより、異なる径における板状成形体の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で評価することができる。そして、板状成形体に付与される張力が常に一定であるため、評価結果のばらつきを抑制することができる。従って、板状成形体の屈曲性評価を、効率的かつ精度良く行うことができる。
【0009】
なお、屈曲性の評価において、板状成形体が損傷したか否かを目視で判断してもよいし、板状成形体をカメラで撮影して画像処理することにより判断するようにしてもよい。
また、円形棒状部材としては、中実(円柱)であってもよいし、中空(円筒)であってもよい。
【0010】
上記した板状成形体の屈曲性評価装置において、前記複数の円形棒状部材は、直径の大きさに従って順番に配置されていることが望ましい。
なお、順番は、直径が大きい順、又は直径が小さい順のいずれであってもよい。
【0011】
このような構成にすることにより、徐々に円形棒状部材の直径が変化するため、いくつの直径で板状成形体が損傷したのかを簡単かつ正確に判断することができる。従って、板状成形体の屈曲性を迅速かつ正確に評価することができる。
【0012】
上記した板状成形体の屈曲性評価装置において、前記複数の円形棒状部材は、各円形棒状部材の円周半分に前記板状成形体が接触するように配置されていることが望ましい。
特に、前記複数の円形棒状部材が、互い違いに二列に配置されている場合には、一方の列に隣接して配置される円形棒状部材の間隔が、他方の列に配置されて前記隣接する円形棒状部材に連続して前記板状成形体が巻掛けられる円形棒状部材の直径と等しくなるように配置することが好ましい。
【0013】
このような構成にすることにより、各円形棒状部材においてマンドレル試験機と同等の評価試験を実施することができる。従って、マンドレル試験機と同等の評価試験を、効率的かつ高精度に行うことができる。
【0014】
そして、前記複数の円形棒状部材は、各列にて各円形棒状部材中心が直線上に位置するとともに、前記直線同士が平行になるように配置されていることが好ましい。
【0015】
このような構成にすることにより、評価試験時において、各円形棒状部材間(列間)に位置する板状成形体の長さが等しくなるため、評価ばらつきをより抑えることができる。このため、屈曲性の評価を一層精度良く行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る板状成形体の屈曲性評価装置によれば、上記した通り、異なる径における板状成形体の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で精度良く評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施の形態に係る屈曲性評価装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施の形態に係る屈曲性評価装置に備わる各ロールに対し、板状成形体を巻掛けた状態を示す図である。
【図3】実施の形態に係る屈曲性評価装置による板状成形体の屈曲性評価の試験を実施している状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の板状成形体の屈曲性評価装置を具体化した実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。そこで、本実施の形態に係る屈曲性評価装置について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、本実施の形態に係る屈曲性評価装置の概略構成を示す図である。
【0019】
図1に示すように、本実施の形態に係る屈曲性評価装置1は、2つのロール(円形棒状部材)群10,20と、固定部30と、テンション付与部31とを有している。この屈曲性評価装置1では、後述するように、一端が固定部30で固定されてロール群10,20の各ロールに巻掛けられた板状成形体2(図2参照)の他端が、テンション付与部31によって所定の力で引っ張られることにより、板状成形体2の屈曲性の評価試験が行われるようになっている。
【0020】
各ロール群10,20では、それぞれ直線上に径の異なるロールが配置されている。詳細には、各ロール群において、各ロールの中心が同一直線上に位置するように、各ロールが配置されている。つまり、ロール群10では、各ロール11〜16の各中心が直線L1上に位置している。同様に、ロール群20では、各ロール21〜26の各中心が直線L2上に位置している。このように本実施の形態では、各ロール群10,20において、それぞれ6つのロールを備えているが、ロールの数はこれに限定されることはない。なお、各ロール11〜16,21〜26は、それぞれ回転可能に支持され装置本体に固定されている。
【0021】
そして、直線L1,L2は平行となっている。これにより、評価試験時において、各ロール間に位置する板状成形体2の長さが等しくなるようになっている。
また、各ロール群10,20において、各ロール11〜16,21〜26は、それぞれロール径の大きさに従って順番に配置されている。本実施の形態では、図1中上段に位置するロール群10では、小径のロールから順にロール11,12,13,14,15,16が配置されている。同様に、図1中下段に位置するロール群20では、小径のロールから順にロール21,22,23,24,25,26が配置されている。すなわち、屈曲性評価装置1では、図1に示すように、各ロール11〜16,21〜26が、径の小さい順、すなわちロール11,21,12,22,13,23,14,24,15,25,16,26の順で上下に互い違いに配置されている。なお、各ロール11〜16,21〜26は、剛性及び靱性を有する鉄やSUS(ステンレス鋼)等の金属で形成されている。
【0022】
なお、本実施の形態では、ロール群10におけるロール11,12,13,14,15,16の直径が、2,4,6,10,16,25mmとなっている。また、ロール群20におけるロール21,22,23,24,25,26の直径が、3,5,8,12,20,32mmとなっている。つまり、屈曲性評価装置1では、JIS K5600のマンドレル試験機と同様の径(マンドレル径)で評価試験を行うことができるようになっている。もちろん、各ロールの大きさは、ここに例示したものに限られることはなく、実際の製造ラインで使用されているロールの径などにすることもできる。製造ラインで使用されているロールの径とすることにより、製造ラインで不良が発生するか否かを事前に確認することができる。
【0023】
さらに、各ロール群10,20において、各ロール11〜16,21〜26は、一方のロール群にて隣接して配置されるロールの間隔が、他方のロール群に配置されて前記隣接するロールに連続して板状成形体2が巻掛けられるロールの直径と等しくなるように配置されている。すなわち具体的には、ロール11とロール12との間隔がロール21の直径に等しく、ロール12とロール13との間隔がロール22の直径に等しく、ロール13とロール14との間隔がロール23の直径に等しく、ロール14とロール15との間隔がロール24の直径に等しく、ロール15とロール16との間隔がロール25の直径に等しい。同様に、ロール21とロール22との間隔がロール12の直径に等しく、ロール22とロール23との間隔がロール13の直径に等しく、ロール23とロール24との間隔がロール14の直径に等しく、ロール24とロール25との間隔がロール15の直径に等しく、ロール25とロール26との間隔がロール16の直径に等しい。
【0024】
このようなロール配置により、屈曲性評価装置1では、評価試験時に板状成形体2が確実に各ロール11〜16,21〜26においてそれぞれ円周半分に確実に接触するようになっている。これにより、屈曲性評価装置1では、JIS K5600のマンドレル試験機と同等の評価試験を行うことができるようになっている。
【0025】
固定部30は、板状成形体2の一端部を固定するものである。固定部30における固定方法は、板状成形体2の端部を固定することができればどのような方法でもよい。例えば、板状成形体2を挟み込んで固定してもよいし、テープなどを使用して固定してもよい。
【0026】
テンション付与部31は、一端が固定部30で固定され、各ロール11〜16,21〜26に巻掛けられた板状成形体2の他端を引っ張ることにより、板状成形体2にテンションを付与するものである。このテンション付与部31は、板状成形体2の他端を把持する把持部32と、把持部32を引き込み板状成形体2にテンションをかけるアクチュエータ33とを有している。このようなテンション付与部31が、屈曲性評価装置1において移動可能に設けられている。これにより、板状成形体2を各ロール11〜16,21〜26に巻掛ける際、テンション付与部31が邪魔にならないように退避することができるようになっている。
【0027】
続いて、上記した構成を有する屈曲性評価装置1の動作、つまり屈曲性評価装置1による板状成形体2の屈曲性評価の試験方法について、図2及び図3を参照しながら説明する。図2は、本実施の形態に係る屈曲性評価装置に備わる各ロールに対し、板状成形体を巻掛けた状態を示す図である。図3は、本実施の形態に係る屈曲性評価装置による板状成形体の屈曲性評価の試験を実施している状態を模式的に示す図である。
【0028】
まず、図1に示した屈曲性評価装置1に対して、屈曲性を評価する板状成形体2をセットする。本実施の形態における板状成形体2は、リチウムイオン二次電池の電極(正極又は負極、あるいは正極、負極、及びセパレータを積層したもの)である。正極は、アルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を塗布したものであり、正極活物質として、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMnO2)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)等のリチウム複合酸化物などが用いられる。また、負極は、銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を塗布したものであり、負極活物質として、非晶質炭素、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、黒鉛等の炭素系物質が用いられる。
【0029】
板状成形体2の屈曲性評価装置1へのセットは、図2に示すように、板状成形体2の一端を固定部30に固定するとともに、ロール11,21,12,22,13,23,14,23,15,25,16,26の順に各ロールに対して、板状成形体2を巻掛ける。各ロールに対する板状成形体2の巻掛け工程では、予め各ロールに巻掛けておいたダミーに板状成形体2を接続し、ダミーをロール配置外へ移動させることにより、板状成形体2を各ロールに巻掛ければよい。これにより、各ロールに対する板状成形体2の巻掛けを効率的に行うことができる。
【0030】
ここで、各ロールに対する板状成形体2の巻掛け工程と、板状成形体2の一端を固定部30に固定する固定工程との実施順は問わない。つまり、固定工程を行ってから巻掛け工程を行ってもよいし、逆に、巻掛け工程を行ってから固定工程を行ってもよい。
なお、このとき、テンション付与部31は退避位置に退避しているため、図2には示していない。
【0031】
次に、テンション付与部31を退避位置から、図3に示すように、所定位置まで移動させて、把持部32により、各ロール11〜16,21〜26に巻掛けられた板状成形体2の他端を把持する。そして、板状成形体2の他端を把持した状態で、テンション付与部31を板状成形体2に弛みが生じない程度まで張られるように上方へ移動させる。なお、このとき、板状成形体2にはテンションはかかっていない。
【0032】
続いて、アクチュエータ33を作動させて、把持部32をアクチュエータ33内に引き込み、板状成形体2に対して所定のテンション(本実施の形態では、数十N)を付与する。そして、所定時間経過後(例えば、1秒後)に、板状成形体2に付与していたテンションを解除する。
その後、板状成形体2の状態(損傷の有無)を確認して、板状成形体2の屈曲性を判定する。本実施の形態では、テンション付与後における板状成形体2の状態を、目視にて確認する。
【0033】
このように、屈曲性評価装置1では、異なる径における板状成形体2の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で評価することができる。そして、板状成形体2に付与されるテンションが常に一定であるため、評価のばらつきを抑制することができる。そのため、板状成形体2の屈曲性評価を、効率的かつ精度良く行うことができる。
また、屈曲性評価装置1では、各ロール11〜16,21〜26の直径が徐々に変化しているため、いくつの直径で板状成形体2が損傷したのかを簡単かつ正確に判断することができる。これにより、屈曲性(柔軟性限界)評価の精度を向上させることができる。
【0034】
なお、この板状成形体2の状態の確認を、目視ではなく、板状成形体2をカメラにて撮像し、その撮像データに画像処理を施すことにより行うようにしてもよい。このようにすることにより、装置のコストは上昇するが、作業者による評価のばらつきがなくなるため、板状成形体2の屈曲性をより精度良く評価することができるとともに、評価判断を瞬時に行うことができるため、より一層効率よく評価試験を実施することもできる。
【0035】
以上、詳細に説明したように実施の形態に係る屈曲性評価装置1によれば、板状成形体2が、その一端を固定部30で固定され、互い違いに二列に配置された複数の径が異なるロール11〜16、21〜26に巻掛けられて、他端をテンション付与部31により一定の張力で引っ張られる。そのため、異なる径における板状成形体2の屈曲性(柔軟性)を一度の操作で評価することができる。そして、板状成形体2に付与される張力が常に一定であるため、評価結果のばらつきを抑制することができる。これにより、板状成形体2の屈曲性評価を、効率的かつ精度良く行うことができる。
【0036】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、ロール群10,20を上下に配置しているが、ロール群10,20の配置はこれに限られることなく、例えば、左右に配置(各ロールを立てて配置)することもできる。また、上記した実施の形態では、ロール群10,20にそれぞれ複数のロールを設けているが、各ロール群10,20にそれぞれ1つのロールだけを設けることもできる。
【0037】
また、上記した実施の形態では、各ロール11〜16,21〜26は、中実のもの(円柱)であるが、もちろん中空のもの(円筒)であってもよい。
【0038】
また、上記した実施の形態では、板状成形体2としてリチウムイオン二次電池の電極を例示したが、板状成形体2はこれに限られることなく、例えばプラスチック基板、金属帯やウェブなどであってもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 屈曲性評価装置
2 板状成形体
10 ロール群
11〜16 ロール
20 ロール群
21〜26 ロール
30 固定部
31 テンション付与部
32 把持部
33 アクチュエータ
L1 直線
L2 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状成形体の屈曲性を評価する評価装置において、
前記板状成形体の一端を固定する固定部と、
前記板状成形体の他端にテンションをかけるテンション付与部と、
前記板状成形体が巻掛けられる複数の径が異なる円形棒状部材と、
を有することを特徴とする板状成形体の屈曲性評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載する板状成形体の屈曲性評価装置において、
前記複数の円形棒状部材は、径の大きさに従って順番に配置されている
ことを特徴とする板状成形体の屈曲性評価装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する板状成形体の屈曲性評価装置において、
前記複数の円形棒状部材は、各円形棒状部材の円周半分に前記板状成形体が接触するように配置されている
ことを特徴とする板状成形体の屈曲性評価装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載する板状成形体の屈曲性評価装置において、
前記複数の円形棒状部材は、互い違いに二列に配置されており、一方の列に隣接して配置される円形棒状部材の間隔が、他方の列に配置されて前記隣接する円形棒状部材に連続して前記板状成形体が巻掛けられる円形棒状部材の直径と等しくなるように配置されている
ことを特徴とする板状成形体の屈曲性評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載する板状成形体の屈曲性評価装置において、
前記複数の円形棒状部材は、各列にて各円形棒状部材中心が直線上に位置するとともに、前記直線同士が平行になるように配置されている
ことを特徴とする板状成形体の屈曲性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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