説明

板状部材の揺動装置

【課題】書込み時間の短縮化や、駆動回路の縮小化を図ることが可能な板状部材の揺動装置を提供すること。
【解決手段】マトリクス部20には、可動単位が、マトリクス状に行方向および列方向に複数配列される。第1電極および第2電極は、列方向に並んだ可動単位に共通使用される。行方向に並んだ可動単位の板状部材を共通に接続する第3電極が、行ごとに複数形成されている。駆動回路30は、列方向に並んでいる第3電極を順番に1つずつ選択する。そして、選択した第3電極にバイアス電圧V1を印加すると共に、行方向に複数並んだ第1電極および第2電極に対して近接電圧V3または離反電圧V4を印加することで、板状部材を揺動させる。そして、揺動姿勢を保つ所定期間の間、第3電極に印加される電圧をバイアス電圧V1に維持する。所定期間の経過後に第3電極に印加される電圧をリセット電圧V2へ遷移させることで、板状部材を揺動していない状態へ戻す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、板状部材を揺動させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている装置では、姿勢を変えることができる板状部材を備えている可動単位の複数個が、行方向と列方向にマトリクス状に配列されている。マトリクス状に配列されている複数個の可動単位を備えているマトリクス型装置を活用するためには、個々の可動単位ごとに他の可動単位から独立して、板状部材の姿勢を切り換えるための駆動装置が必要とされる。特許文献1の装置では、行の数だけ独立して存在する行電極と、列の数だけ独立して存在する列電極を利用し、板状部材の姿勢を切り換える行の行電極を選択して+5Vを印加し、他の行の行電極には0Vを印加する。また、その行において、板状部材を基板に接近させる列の列電極には−5Vを印加し、板状部材を基板から離反させる列の列電極には+5Vを印加する。すると、行電極に+5Vが印加されている行では、列電極に−5Vを印加した列の板状部材が基板に接近し、列電極に+5Vを印加した列の板状部材が基板から離反する。その一方において、行電極に0Vが印加されている行では、列電極に−5Vを印加しても+5Vを印加しても、板状部材は姿勢を変えない。この方式によると、任意の交点を選択して板状部材の姿勢を意図した姿勢に切り換えることができるとともに、その操作に伴って他の交点の板状部材の姿勢まで変化することがない。行電極に+5Vを印加する行を順次に切り換えていくことで、マトリクス型装置の全可動単位に対して、個々の可動単位ごとに他の可動単位から独立して、板状部材の姿勢を切り換えることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−515002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のマトリクス型装置では、ある行に対する処理が終了すると、その行に対する新たな処理を禁止してから、次の行への処理を開始する必要がある。例えば、1行目、2行目、3行目の順で板状部材の姿勢を切り換えていく場合、1行目の行電極に+5Vを印加して1行目の処理を完了すると、次に1行目の行電極の電圧を0Vに切り換え、その後に2行目の行電極に+5Vを印加して2行目の処理を実行する。2行目の処理を開始するのに先立って1行目の行電極の電圧を0Vに切り換えておかないと、2行目の処理の際に加える列電極の電圧が1行目に影響してしまい、1行目と2行目を独立に制御することができなくなってしまう。従来の技術では、特定の行に対する処理を終了すると、その行に対するあらたな処理を禁止する状態に切り換えなければならず、その処理に時間を要し、次の行に対する処理開始時間が遅れる。また、あらたな処理を禁止する状態に切り換えてから次の行に対する処理を開始する順序を確実に守る必要があり、あらたな処理を禁止する状態に切り換えてから次の行に対する処理を開始するまでの間に時間マージンが必要となる。これもまた、次の行に対する処理開始時間を遅らせる。
【0005】
本明細書では、特定の行に対する処理を終了したときに、その行に対するあらたな処理を禁止する状態に切り換えなくても、次の行に対する処理が可能となる技術を開示する。このために、本明細書では、処理を終了した可動単位では、あらたな処理を禁止する状態に切り換えなくても、処理を終了したこと自体によって、あらたな処理が禁止される可動単位を開示する。その性質を備えた可動単位が得られれば、あらたな処理を禁止する状態に切り換える必要がなくなる。その特性を備えた可動単位で1次元のアレイ型装置または2次元のマトリクス型装置を構成すると、あらたな処理を禁止する状態に切り換える必要がないことの利点が顕在化される。本明細書では、単位となる可動単位に有効な技術を開示し、その可動単位の複数個を利用するアレイ型装置とマトリクス型装置に有効な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示する一つの技術は、新たな処理を禁止する状態に切り換える必要がない可動単位に関する。その装置は、基板と支持部と可動梁と板状部材と第1電極と第2電極と駆動回路を備えている。支持部は、基板に固定されているとともに基板から上方に伸びている。可動梁は、支持部と板状部材を接続しており、板状部材を揺動軸の周りに揺動可能に支持しているともに、板状部材を基板に平行な姿勢に復帰させる復帰力を発揮する。板状部材は、揺動軸を挟んで向かい合う第1端部と第2端部を有しているとともに、少なくとも一部が導電体で形成されている。第1電極は、第1端部と対向する位置の基板上に形成されている。第2電極は、第2端部と対向する位置の基板上に形成されている。駆動回路は、板状部材に第1電圧と第2電圧のうちの一方を印加し、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、第2電極に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加する。第1〜第4電圧の制約については後記する。板状部材が基板に平行な姿勢にあるときの第1端部と第1電極の距離と第2端部と第2電極の距離をd0とする。また、板状部材が揺動して第1端部と第1電極の距離が接近したときの近接距離をd1とするとともに第2端部と第2電極の距離が離れたときの離反距離をd2とする。また、板状部材が反対向きに揺動して第2端部と第2電極の距離が接近したときの近接距離をd1とするとともに第1端部と第1電極の距離が離れたときの離反距離をd2とする。このときに、第1電圧ないし第4電圧が以下の(1)ないし(3)の関係を満たしている。
(1)第1端部と第1電極の距離と第2端部と第2電極の距離がd0であり、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに第2電極に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加すると、第1電極と第2電極が板状部材に加えるトルクの差が前記復帰力を超える。
(2)板状部材に第2電圧を印加したときに、第1電極と第2電極が板状部材に加えるトルクの差が前記復帰力に満たない。
(3)(第3電圧と第1電圧の電圧差)/(第4電圧と第1電圧の電圧差)の値が、(離反距離d2)/(近接距離d1)の値よりも小さい。
【0007】
板状部材が第1電極に近づくように揺動すると、第1端部と第1電極の距離が近接距離d1まで近づき、第2端部と第2電極の距離が離反距離d2まで離反する。また、板状部材が第2電極に近づくように揺動すると、第2端部と第2電極の距離が近接距離d1まで近づき、第1端部と第1電極の距離が離反距離d2まで離反する。すなわち、板状部材はシーソー構造を有している。
【0008】
(1)の関係について説明する。第1電極と板状部材との間に働く静電引力が板状部材を揺動軸の周りに揺動させるトルクとなり、第2電極と板状部材との間に働く静電引力が板状部材を揺動軸の周りに揺動させるトルクとなる。両者のトルクの方向が逆であることから、両者のトルクの差が板状部材を揺動させる有効なトルクとなる。板状部材の端部と電極との間に働く静電引力の大きさは、端部と電極との電圧差の2乗に比例し、端部と電極との距離の2乗に反比例する。板状部材が揺動していない状態では、第1端部と第1電極との間の距離と第2端部と第2電極との間の距離は共にd0となっている。すなわち、端部と電極との距離が離反してしまったとき(d2になったとき)に比して、大きな静電引力が得られる状態になっている。前記(1)の関係は、大きな静電引力が得られる状態で一方の電極に第3電圧を加えて他方の電極に第4電圧を加えると、板状部材に加えられるトルク差が復帰力を上回り、板状部材が可動梁を変形させて揺動することを意味している。すなわち、端部と電極の間の距離がd0であって、離反距離d2である場合よりも大きな静電引力が得られる状態であれば、第3電圧と第4電圧の電圧差が、可動梁の復帰力を上回る有効トルクを生み出すほどに大きいことを意味している。
【0009】
(2)の関係について説明する。可動単位には、他の可動単位を選択して処理しても処理されず、その可動単位を選択して処理しない限りは処理されない性質が求められる。前記(1)の関係から、処理する可動単位の板状部材に第1電圧を印加すると、その可動単位に対する処理が可能となる。前記(2)の関係にあると、板状部材に第2電圧を印加しておく限り、第1電極と第2電極に印加する電圧と無関係に、第1電極と第2電極が板状部材に加えるトルクの差が可動梁の復帰力に満たないことから、板状部材は揺動せず、基板に平行な姿勢を維持する。すなわち、板状部材に第2電圧を印加しておく限り、他の可動単位の処理のために第1電極と第2電極に電圧を加えても、第2電圧が印加されている可動単位では板状部材が揺動しない。他の可動単位を選択して処理しても処理されず、その可動単位を選択して処理しない限りは処理されない性質が得られる。また可動単位には、処理済の可動単位を処理前の状態に復帰させられる性質が求められる。前記(2)の関係にあると、板状部材に第2電圧を印加すれば、第1電極と第2電極の電圧状態によらないで、板状部材を基板に平行な姿勢に復帰させることが可能となる。前記(1)の関係を利用して板状部材を揺動させるに先立って、板状部材を基板に平行な姿勢に復帰させることが可能となることから、端部と電極の間の距離がd0であって離反距離d2である場合よりも大きな静電引力が得られる状態で、板状部材を揺動させる処理が可能となる。
【0010】
(3)の関係について説明する。可動単位には、板状部材を揺動させたら、その板状部材を反対方向に揺動させる電圧を第1電極と第2電極に加えても、その揺動姿勢が反転しないことが好ましい。これが可能となれば、ある可動単位の揺動状態を切り換える処理をしてから他の可動単位の揺動状態を切り換える処理に移行する際に、処理済の可動単位に対して新たな処理を禁止する状態に切り換える必要がなくなるからである。 第3電圧が第1電圧と第4電圧よりも大きい場合、前記(1)の関係から、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第3電圧を印加し、第2電極に第4電圧を印加すると、板状部材は第1電極に接近してその距離がd1となり、板状部材は第2電極から離反してその距離がd2となる。ここで他の可動単位の処理のために第1電極に第3電圧を印加して第2電極に第4電圧を印加する場合、板状部材の揺動方向が反転することはない。それに対して、他の可動単位の処理のために第1電極に第4電圧を印加して第2電極に第3電圧を印加する場合に、板状部材の揺動方向が反転することがあれば、他の可動単位の揺動状態を切り換える前に処理済の可動単位に対して新たな処理を禁止する状態に切り換える必要が生じてしまう。(第3電圧と第1電圧の電圧差)/(第4電圧と第1電圧の電圧差)の値が(離反距離d2)/(近接距離d1)の値よりも小さいと、板状部材と電極の間に働く静電引力の大きさは、板状部材と電極の電圧差の2乗に比例し、板状部材と電極の距離の2乗に反比例する関係にあることから、板状部材と第1電極の距離がd1であり、板状部材と第2電極の距離がd2であれば、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第4電圧を印加し、第2電極に第3電圧を印加しても、距離と電圧差の関係から、第1電極が板状部材に加えるトルクの方が第2電極が板状部材に加えるトルクよりも大きな関係が維持される。前記(3)の関係にあると、板状部材を揺動させたら、その板状部材を反対方向に揺動させる電圧を第1電極と第2電極に加えても、その揺動姿勢が反転しない性質が得られ、ある可動単位の揺動状態を切り換える処理をしてから他の可動単位の揺動状態を切り換えるまでの間に、処理済の可動単位に対して新たな処理を禁止する状態に切り換える必要がなくなる。
【0011】
本願の装置では、(1)の関係により、板状部材に第1電圧を印加することによって第1電極と第2電極に印加する電圧によって板状部材を揺動可能な状態とし、(2)の関係により、板状部材に第2電圧を印加することによって第1電極と第2電極に印加する電圧によらないで板状部材を基板に平行な姿勢に戻すかあるいは基板に平行な姿勢に維持することができ、(3)の関係により、板状部材が揺動している可動単位の板状部材に第1電圧を印加し続けた状態で他の可動単位の処理のために第1電極と第2電極に板状部材の揺動方向を反転させる電圧を印加しても、板状部材の揺動方向が反転することがない。処理を終了した可動単位では、あらたな処理を禁止する状態に切り換えなくても、処理を終了したこと自体によって、あらたな処理が禁止される特性を得ることができる。
【0012】
なお上記装置は、種々のアプリケーションを持つ。例えば、板状部材にミラーを形成することにより、光ビームの反射方向を変化させる光偏向装置を実現することができる。また板状部材と電極間の静電容量を変化させて記憶する記憶装置を実現することができる。また揺動する板状部材によって有接点スイッチを切り換えるリレー装置を実現することもできる。
【0013】
上記の可動装置は、複数個の可動単位を組み合わせて用いるときに、その特性が有効に活用される。複数個の可動単位を備えている装置は、下記の構成を備えている。可動梁と板状部材と第1電極と第2電極で構成される可動単位の複数個が配置されており、各可動単位の第1電極が共通に駆動回路に接続されており、各可動単位の第2電極が共通に駆動回路に接続されており、各可動単位の板状部材が個別に駆動回路に接続されている。そして第3電圧と第1電圧との電圧差の方が、第4電圧と第1電圧との電圧差よりも大きい関係に調整されている。駆動回路は、板状部材が揺動している可動単位と、板状部材が揺動していない可動単位のうちの一つの可動単位を選択し、選択した可動単位の板状部材に第1電圧を印加し、その他の可動単位の板状部材に第2電圧を印加し、複数個の可動単位の第1電極に共通に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、複数個の可動単位の第2電極に共通に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加する。すると、複数個の可動単位の中で、次の事象が生じる。
(a)板状部材が揺動していない可動単位のうちの一つであって板状部材に第1電圧が印加された可動単位では、第3電圧が印加された電極に接近する向きに板状部材が揺動し;
(b)板状部材が揺動していない可動単位のうちのその他であって板状部材に第2電圧が印加された可動単位では、板状部材が揺動せず;
(c)板状部材が揺動している可動単位であって板状部材に第1電圧が印加された可動単位では、板状部材が旧来の揺動姿勢を維持する。
駆動回路が、板状部材に第2電圧を印加した可動単位では、板状部材が基板に平行な姿勢に復帰する。
【0014】
(a)の事象は、板状部材が揺動していない可動単位のうちから、処理対象の可動単位を選択して板状部材を揺動させる。具体的には、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、第2電極に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加する。これにより、第3電圧が印加された電極に接近する向きに板状部材が揺動する。(b)の事象は、板状部材が揺動していない可動単位であって、処理対象外の可動単位の板状部材を揺動させない。具体的には、処理対象外の可動単位の板状部材には第2電圧が印加される。この場合、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加し、第2電極に他方の電圧を印加しても、板状部材に第2電圧が印加されている処理対象外の可動単位の板状部材は揺動しない。(c)の事象は、板状部材が揺動済みの可動単位では揺動姿勢を保持して記憶する。具体的には、第1電圧が板状部材に印加されることで、揺動姿勢が維持される。例えば、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第3電圧を印加し、第2電極に第4電圧を印加すると、板状部材は第1電極に接近する向きに揺動する。一旦揺動すると、板状部材に第1電圧を印加し続けている限り、その揺動方向が反転することはない。例えば他の可動単位の板状部材を揺動させるために、第1電極に第4電圧を印加し、第2電極に第3電圧を印加しても、第1電極に接近する向きに揺動した板状部材はその姿勢を維持する。さらに、駆動回路が板状部材に第2電圧を印加した可動単位では、板状部材が基板に平行な姿勢に復帰する。これによって、揺動した板状部材を揺動しない姿勢に復帰させることができる。
【0015】
(a)および(b)の事象を用いることによって、新たに選択された1つの可動単位の板状部材のみを揺動させ、まだ選択していない可動単位の板状部材を揺動させない動作を実現することができる。特定の可動単位を選択して板状部材を揺動させることができる。板状部材を揺動させると元に戻す処理をするまでは揺動した姿勢を維持する。本明細書ででは、板状部材を揺動させることを、処理する、書き込む、あるいは記憶させるということがある。(c)の事象によって、他の可動単位の処理のためにすでに揺動している板状部材の揺動方向を反転させるための電圧を加えても、揺動済の板状部材が反転しないことから、他の可動単位を処理するに先立って、処理済みの可動単位に対する新たな処理を禁止する状態に切り換える必要がない。そして、板状部材に第2電圧を印加することにより、揺動済の板状部材を揺動前の姿勢に戻すことができる。以上によって、複数個の可動単位の第1電極に共通に電圧を印加し、複数個の可動単位の第2電極に共通に電圧を印加しながら、可動単位の一つずつに対して処理することが可能となり、他の可動単位を処理するに先立って処理済みの可動単位に対する新たな処理を禁止する状態に切り換える必要もない。複数個の可動単位で任意のパターンを形成することが可能となる。
【0016】
本願の装置では、処理済の板状部材に印加する電圧を第1電圧から第2電圧へ切り換えてからでないと、新たな可動単位の板状部材に第1電圧を印加することができないという制約がない。これにより、複数個の可動単位を処理するのに要する時間を短縮することができ、駆動回路を簡単化することが可能となる。
【0017】
本明細書で開示する技術は、可動単位の複数個が行方向と列方向にマトリクス状に配列されている場合に、特に有用である。この場合は、下記の構成とする。
(1)各々の可動単位が備える揺動軸は列方向に伸びている。
(2)列方向に並んだ可動単位の第1電極が共通に駆動回路に接続されている。
(3)列を異にする可動単位の第1電極が個別に駆動回路に接続されている。
(4)列方向に並んだ可動単位の第2電極が共通に駆動回路に接続されている。
(5)列を異にする可動単位の第2電極が個別に駆動回路に接続されている。
(6)行方向に並んだ可動単位の板状部材が共通に駆動回路に接続されている。
(7)行を異にする可動単位の板状電極が個別に駆動回路に接続されている。
また、駆動回路は、以下の動作を行う。
(A)処理済の行とこれから処理する一つの行を選択し、選択された行に属する可動単位の板状部材に第1電圧を印加するとともに、それ以外の行に属する可動単位の板状部材に第2電圧を印加する。
(B)これから処理する一つの行のうち、第1電極に板状部材を接近させる列では第1電極に第3電圧を印加するとともに第2電極に第4電圧を印加し、第2電極に板状部材を接近させる列では第1電極に第4電圧を印加するとともに第2電極に第3電圧を印加する。
(C)所定時点で板状部材に印加されている電圧を第1電圧から第2電圧に切り換える。
【0018】
上記によると、可動単位を行方向および列方向に配列することで、2次元のマトリクスが形成される。そして、一行ずつ板状部材の姿勢を切り換えることができる(書き込むことができる)。また、処理済みの行に第1電圧を印加し続けることで、書込み状態を記憶することができる。2次元のマトリクスに形成された可動単位で、任意のパターンを形成することができる。処理済の行に印加する電圧を第1電圧から第2電圧に切り換えてからでないと他の行に第1電圧を印加できないという制約がないことから、全部の可動単位に対する処理を完了するまでの時間が短縮化される。
【0019】
上記において、第2電圧と第4電圧を接地電圧とすることができる。この場合、第2電圧を印加するとは、接地することを意味し、電圧を印加しないことを意味する。同様に、第4電圧を印加するとは、接地することを意味し、電圧を印加しないことを意味する。この場合、第1電圧が正電圧であれば第3電圧を負電圧とし、第1電圧が負電圧であれば第3電圧を正電圧とする。
【発明の効果】
【0020】
本技術によれば、書込み時間を短縮することができ、駆動回路を簡単化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施例の光偏向装置の上面図(その1)である。
【図2】本実施例の光偏向装置の上面図(その2)である。
【図3】本実施例の光偏向装置の断面図(その1)である。
【図4】本実施例の光偏向装置の断面図(その2)である。
【図5】本実施例の光偏向装置の断面図(その3)である。
【図6】本実施例の光偏向装置の断面図(その4)である。
【図7】本実施例の光偏向装置のタイミングチャートである。
【図8】本実施例の光偏向装置の断面図(その5)である。
【図9】本実施例の光偏向装置の断面図(その6)である。
【図10】本実施例の光偏向装置の断面図(その7)である。
【図11】本実施例1のマトリクス部の模式図(その1)である。
【図12】本実施例1のマトリクス部の模式図(その2)である。
【図13】本実施例1のマトリクス部の模式図(その3)である。
【図14】本実施例1のマトリクス部の模式図(その4)である。
【図15】本実施例1のマトリクス部の模式図(その5)である。
【図16】本実施例2の光偏向装置のタイミングチャートである。
【図17】本実施例2のマトリクス部の模式図(その1)である。
【図18】本実施例2のマトリクス部の模式図(その2)である。
【図19】本実施例2のマトリクス部の模式図(その3)である。
【図20】本実施例2のマトリクス部の模式図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る好ましい実施形態は、例えば、下記に列挙する特徴を備えた実施例によって具現化される。
(特徴1)駆動回路は、記憶していた揺動姿勢を1行ずつ水平状態へリセットした上で、新たな揺動姿勢を書き込む駆動方法(逐次リフレッシュ法)を行なう。
(特徴2)駆動回路は、マトリクス状に配列されている全ての可動単位について、記憶していた揺動姿勢を水平状態へリセットした上で、1行ずつ新たな揺動姿勢を書き込む駆動方法(一斉リフレッシュ法)を行なう。
【実施例1】
【0023】
図1および図2に、本実施例の光偏向装置10の概略構成を示す。図1は、光偏向装置10の上面図およびブロック図である。光偏向装置10は、マトリクス部20と、駆動回路30を備えている。マトリクス部20はMEMS工程により作成され、駆動回路30はCMOS工程により作成される。このように、マトリクス部20と駆動回路30とを別工程で形成すことで、歩留まりが低下する事態などを防止することができる。よって、光偏向装置10の作成コストを低減することが可能となる。
【0024】
マトリクス部20を説明する。例として、マトリクス部20に、9個の可動単位M11ないしM33が、3行×3列のマトリクス形状に並んでいる場合を説明する。なお、マトリクス部20に配列される可動単位は、3×3のマトリクス形状に限られず、N×M(N、Mは自然数)のマトリクス形状に拡張可能であることは言うまでもない。
【0025】
第1列C1には、可動単位M11、M21、M31が、同一平面上の列方向(y方向)に3個配列されている。そして、一対の第1電極T11および第2電極T12が、可動単位M11、M21、M31に共通に接続される。第1電極T11および第2電極T12は、y方向(列方向)にレール状に平行に伸びた形状を有する。同様に、第2列C2には可動単位M12、M22、M32が列方向に配列され、一対の第1電極T21および第2電極T22によって共通接続されている。また、第3列C3には可動単位M13、M23、M33が列方向に配列され、一対の第1電極T31および第2電極T32によって共通接続されている。
【0026】
第1行R1には、可動単位M11、M12、M13が、行方向(x方向)に3個配列されている。そして、第3電極T13が、可動単位M11、M12、M13に共通に接続される。同様に、第2行R2には可動単位M21、M22、M23が行方向に配列され、第3電極T23によって共通接続されている。また、第3行R3には可動単位M31、M32、M33が行方向に配列され、第3電極T33によって共通接続されている。
【0027】
駆動回路30を説明する。駆動回路30は、CPU31、行ドライバ回路32、列ドライバ回路33を備える。CPU31は、行ドライバ回路32および列ドライバ回路33と通信可能に接続されている。行ドライバ回路32には、第3電極T13ないしT33が接続される。第3電極T13ないしT33には、行ドライバ回路32によって、バイアス電圧V1(−8.5(V))またはリセット電圧V2(0(V))が印加される。列ドライバ回路33には、第1列C1の第1電極T11および第2電極T12、第2列C2の第1電極T21および第2電極T22、第3列C3の第1電極T31および第2電極T32が接続される。第1列C1に属する可動単位M11、M21、M31では、後述するように、第1端部24aを第1電極T11に近づくように揺動させる場合には、列ドライバ回路33によって、第1電極T11に近接電圧V3(3(V))が印加され、第2電極T12に離反電圧V4(0(V))が印加される。一方、第2端部24bを第2電極T12に近づくように揺動させる場合には、列ドライバ回路33によって、第2電極T12に近接電圧V3(3(V))が印加され、第1電極T11に離反電圧V4(0(V))が印加される。第2列C2と第3列C3についても同様であり、端部を接近させる側の電極に近接電圧V3(3(V))が印加され、端部が離反する側の電極には離反電圧V4(0(V))が印加される。なお、バイアス電圧V1が第1電圧に該当し、リセット電圧V2が第2電圧に該当し、近接電圧V3が第3電圧に該当し、離反電圧V4が第4電圧に該当する。
【0028】
可動単位M11ないしM33の構成を説明する。なお、可動単位M11ないしM33は同一の構造である。よって例として、可動単位M11の構成について、図2ないし図4を用いて説明する。図2は上面図である。図3はIII−III線断面図である。図4はIV−IV線断面図である。可動単位M11は、基板21、支持部22aおよび22b、可動梁23aおよび23b、板状部材24、第1電極T11、第2電極T12、第3電極T13を備えている。支持部22aおよび22bは、基板21に固定されているとともに基板21から上方(z方向)に伸びている。1対の可動梁23aおよび23bは、1対の支持部22aおよび22bの上端と板状部材24とを接続している。1対の可動梁23aおよび23bと板状部材24は、基板21から離反した高さに支持されている。1対の可動梁23aおよび23bは剛性が低くされるため、捩れやすい可動梁とされている。
【0029】
図2において、可動梁23aおよび23bに沿って伸びる直線を、揺動軸A1と定義する。揺動軸A1は、y方向(列方向)に伸びた形状とされる。板状部材24は、揺動軸A1を挟んで向かい合う第1端部24aと第2端部24bを有している。また図4に示すように、第1電極T11が、第1端部24aと対向する位置の基板21上に、y方向に伸びるように形成されている。そして板状部材24の第1端部24a側の下面には、第1電極T11と対向して、第3電極T13が形成されている。また、第2電極T12が、第2端部24bと対向する位置の基板21上に、y方向に伸びるように形成されている。そして板状部材24の第2端部24b側の下面には、第2電極T12と対向して、第3電極T13が形成されている。
【0030】
1対の可動梁23aおよび23bは、板状部材24を揺動軸A1の周りに揺動可能に支持しているともに、板状部材24を基板21に平行な姿勢に復帰させる復帰力を発揮するものである。そして、第1端部24aまたは第2端部24bにz軸方向の力を作用させると、可動部107は揺動軸A1を中心として基板21に対して揺動する。
【0031】
図4ないし図6を用いて、板状部材24の揺動姿勢を説明する。図4に示すように、板状部材24が基板21に平行な姿勢にあるときの第1端部24aと第1電極T11の距離、および第2端部24bと第2電極T12の距離を、距離d0と定義する。また、図5に示すように、第1端部24aが第1電極T11に近づくように揺動した場合における、第1端部24aと第1電極T11の距離を近接距離d1と定義し、第2端部24bと第2電極T12の距離を離反距離d2と定義する。そして、図5の姿勢を左側揺動姿勢と定義する。また、図6に示すように、第2端部24bが第2電極T12に近づくように揺動した場合における、第2端部24bと第2電極T12の距離を近接距離d1と定義し、第1端部24aと第1電極T11の距離を離反距離d2と定義する。そして、図6の姿勢を右側揺動姿勢と定義する。
【0032】
図5、図6に示すように、板状部材24はシーソー構造を有して揺動する。そして、シーソー構造を有することにより、例えば第1端部24aが第1電極T11に固着した場合には、逆側の第2端部24bに静電引力を発生させることで、固着を解消することが可能とされる。
【0033】
次に、光偏向装置10の駆動方法について説明する。実施例1では、逐次リフレッシュの駆動方法が行なわれる場合を説明する。逐次リフレッシュは、記憶していた揺動姿勢を1行ずつ水平状態へリセットした上で、新たな揺動姿勢を書き込む駆動方法である。図7に、電圧VT11ないしVT31、電圧VT12ないしVT32、電圧VT13ないしVT33のタイミングチャートを示す。電圧VT11およびVT12は、第1列C1の一対の第1電極T11および第2電極T12に印加される電圧であり、3(V)または0(V)の何れかの値をとる電圧である。また、電圧VT21およびVT22は、第2列C2の一対の第1電極T21および第2電極T22に印加される電圧であり、3(V)または0(V)の何れかの値をとる電圧である。また、電圧VT31およびVT32は、第3列C3の一対の第1電極T31および第2電極T32に印加される電圧であり、3(V)または0(V)の何れかの値をとる電圧である。電圧VT13ないしVT33は、第1行R1から第3行R3の第3電極T13ないしT33に印加される電圧であり、バイアス電圧V1(−8.5(V))またはリセット電圧V2(0(V))の値をとる電圧である。
【0034】
逐次リフレッシュでは、駆動回路30は、第1行R1ないし第3行R3を順番に1つずつ選択する。そして、選択した行に属する可動単位に対して、リセット動作、揺動動作、記憶動作の3つの動作を行なう。リセット動作は、板状部材24を揺動していない平行状態へ戻す動作である。揺動動作は、平行状態の板状部材24を、それぞれ所望の方向へ揺動させる動作である。このとき、選択していない行に属する可動単位の板状部材24は、旧来の揺動姿勢が維持される。記憶動作は、次のリセット動作が行なわれるまで、板状部材24の揺動姿勢を保つ動作である。
【0035】
図7において、期間P1では第1行R1についてリセット動作および揺動動作が行なわれ、期間P2では第2行R2についてリセット動作および揺動動作が行なわれ、期間P3では第3行R3についてリセット動作および揺動動作が行なわれる。以下、期間P1での第1行R1のリセット動作および揺動動作について、図8ないし図15を用いて詳細に説明する。なお、図11ないし図15は、マトリクス部20における可動単位M11ないしM33の揺動姿勢を示す模式図である。
【0036】
図11に、時刻t1におけるマトリクス部20の揺動姿勢を示す。図11の揺動姿勢は、第1行R1にリフレッシュを開始する前の状態である。図11に示すように、全ての可動単位M11ないしM33について、右側揺動姿勢または左側揺動姿勢が維持されている。
【0037】
時刻t2(図7)において行なわれる、リセット動作を説明する。時刻t2において、第3電極T13に印加される電圧VT13が、バイアス電圧V1(−8.5(V))からリセット電圧V2(0(V))に変更される。例として、可動単位M11でのリセット動作を、図8を用いて説明する。このとき、第1端部24aの第3電極T13と第1電極T11との間の静電引力を静電引力F11aと定義し、第2端部24bの第3電極T13と第2電極T12との間の静電引力を静電引力F11bと定義する。すると、図8において板状部材24を左回りに揺動させる合力F11は、下式(1)で求められる。
F11=F11a−F11b
=(k×(V2−V3)/d1)−(k×(V2−V4)/d2)・・・式(1)
ここで係数kは、誘電率や電極面積などによって決まる係数である。そして、本願の可動単位M11では、合力F11によるトルクが可動梁23aおよび23bの復帰力よりも小さくされるように、リセット電圧V2、近接電圧V3および離反電圧V4、近接距離d1、離反距離d2の関係が定められている。よって、可動梁23aおよび23bの復帰力により、板状部材24が揺動していない状態へ戻り、平行状態で安定とされる。よって、図12に示すように、可動単位M11が水平状態へ戻る。なお、第1行R1に属する可動単位M12およびM13においても同様にして、リセット動作が行なわれる。よって、図12に示すように、可動単位M12およびM13も水平状態へ戻る。
【0038】
次に、時刻t3および時刻t4(図7)において行なわれる、揺動動作を説明する。例として、可動単位M11を右側揺動姿勢に揺動する動作を、図9を用いて説明する。時刻t3では、図9に示すように、板状部材24は基板21に平行な状態である。そして、第2電極T12に近接電圧V3(+3(V))を印加するとともに、第1電極T11に離反電圧V4(0(V))を印加する。そして、時刻t4において、第3電極T13に印加される電圧が、リセット電圧V2(0(V))からバイアス電圧V1(−8.5(V))に変更される。このとき、第1端部24aの第3電極T13と第1電極T11との間の静電引力を静電引力F12aと定義し、第2端部24bの第3電極T13と第2電極T12との間の静電引力を静電引力F12bと定義する。すると、図9において板状部材24を右回りに揺動させる合力F12は、下式(2)で求められる。
F12=F12b−F12a
=(k×(V1−V3)/d0)−(k×(V1−V4)/d0)・・・式(2)
そして、本願の可動単位M11では、合力F12によるトルクが可動梁23aおよび23bの復帰力を超えるように、バイアス電圧V1、近接電圧V3および離反電圧V4、距離d0の関係が定められている。よって、第2端部24bが第2電極T12に近づくように、板状部材24が図中右側へ揺動する。よって、図13に示すように、可動単位M11が図中右側へ揺動する。なお、第1行R1に属する可動単位M12およびM13においても同様にして、揺動動作が行なわれる。よって、図13に示すように、可動単位M12が図中右側へ揺動し、可動単位M13が図中左側へ揺動する。
【0039】
また、第1行R1の可動単位の揺動動作中における、第2行R2、第3行R3の可動単位の動作を説明する。時刻t3(図7)において、第1電極T11に印加される電圧が近接電圧V3から離反電圧V4へ入れ替えられるとともに、第2電極T12に印加される電圧が離反電圧V4から近接電圧V3へ入れ替えられる。これにより、第1列C1に属する可動単位M11、M21、M31に対して、共通に、右側揺動姿勢をとる旨の命令が伝達されることになる。しかし、後述するように、右側揺動姿勢をとる旨の命令はリフレッシュ済みの可動単位M11のみに有効とされる。そして、リフレッシュされていない可動単位M21およびM31では、右側揺動姿勢をとる旨の命令が無視される。
【0040】
リフレッシュされていない可動単位において、揺動姿勢の命令が無視される原理について説明する。例として、第2行R2に属する可動単位M21での動作を、図10を用いて説明する。可動単位M21は、時刻t3および時刻t4において図中左側へ揺動した姿勢とされており、第3電極T23によってバイアス電圧V1が板状部材24に印加されている。
【0041】
図10において、第1端部24aについてみると、第1端部24aと第1電極T11が近接距離d1まで近づき、かつ、第3電極T23にバイアス電圧V1(−8.5(V))が印加され、第1電極T11に離反電圧V4(0(V))が印加されている。この場合の静電引力を近接時静電引力FAと定義すると、近接時静電引力FAは下式(3)で求められる。
FA=k×(V1−V4)/d1・・・式(3)
一方、図10において、第2端部24bについてみると、第2端部24bと第2電極T12が離反距離d2まで離れ、かつ、第3電極T23にバイアス電圧V1が印加され、第2電極T12に近接電圧V3(3(V))が印加されている。この場合の静電引力を離反時静電引力FBと定義すると、離反時静電引力FBは下式(4)で求められる。
FB=k×(V1−V3)/d2・・・式(4)
【0042】
そして、近接時静電引力FAが離反時静電引力FBよりも大きくなれば、第3電極T23にバイアス電圧V1を印加している限りは、その揺動姿勢を反転させるような近接電圧V3および離反電圧V4が第1電極T11および第2電極T12に入力されても、当該近接電圧V3および離反電圧V4を無視することができる。よって、近接電圧V3および離反電圧V4を無視するための近接距離d1、離反距離d2、バイアス電圧V1、近接電圧V3、離反電圧V4の関係は、下式(5)により求められる。
FA>FB
k×(V1−V4)/d1>k×(V1−V3)/d2
d2/d1>(V1−V3)/(V1−V4)・・・式(5)
【0043】
ここで、近接距離d1に対する離反距離d2の比率((離反距離d2)/(近接距離d1))を、距離比率DRと定義する。また、バイアス電圧V1と離反電圧V4との電圧差に対する、バイアス電圧V1と近接電圧V3との電圧差の比率((V1−V3)/(V1−V4))を、電圧比率VRと定義する。式(5)より、近接時静電引力FAと離反時静電引力FBとの大小関係は、距離比率DRと電圧比率VRの大小関係で決定されることが分かる。
【0044】
そして、本願の光偏向装置10では、距離比率DRが電圧比率VRよりも大きくなるように、バイアス電圧V1、近接電圧V3、離反電圧V4、近接距離d1、離反距離d2の関係が定められている。すなわち静電引力において、電圧差よりも端部―電極間距離の方が支配的となるように、距離と電圧との関係が決められている。すると、板状部材24の姿勢が一度決定してしまえば、第3電極T23にバイアス電圧V1を印加している限り、第1電極T11および第2電極T12に姿勢を反転させるような電圧が印加されても、揺動姿勢が変化することがない。すなわち、第3電極T23にバイアス電圧V1を印加した状態を維持することで、板状部材24の姿勢を記憶することができる。
【0045】
よって、図13の例に示すように、第2行R2の可動単位M21では、旧来の揺動姿勢が維持される。また、第2行R2の可動単位M22およびM23、第3行R3のM31ないしM33においても、同様にして、旧来の揺動姿勢が維持される。
【0046】
時刻t4以降(図7)の期間において行なわれる、記憶動作について説明する。例として、可動単位M11での記憶動作を説明する。可動単位M11の記憶動作は、第3電極T13に印加される電圧がバイアス電圧V1(−8.5(V))に維持されることで行なわれる。これにより、可動単位M11では、第1電極T11および第2電極T12に印加される電圧に係らず、右側揺動姿勢が維持される。なお、記憶動作は、上述した原理により行なわれるため、ここでは詳細な説明を省略する。これにより、期間P1における書き換えが完了する。
【0047】
同様にして、期間P2(図7)において、第2行R2について書き換えが行なわれる。そして、図14の例に示すように、第2行R2に属する可動単位のうち、可動単位M22の揺動姿勢のみが左側揺動姿勢から右側揺動姿勢に変更される。また、期間P3において、第3行R3について書き換えが行なわれる。そして、図15の例に示すように、第3行R3に属する可動単位のうち、可動単位M31の揺動姿勢のみが右側揺動姿勢から左側揺動姿勢に変更される。これにより、可動単位M11ないしM33の各々を、ディスプレイデータに対応した姿勢に制御することで、1フレーム分のディスプレイフレームをセットすることができる。そして、所定の周波数でディスプレイフレームを書き換える動作が行なわれることで、プロジェクタ等の画像形成装置に搭載する光偏向装置が実現される。
【0048】
実施例1に係る光偏向装置10の効果を説明する。実施例1の光偏向装置10では、電圧差よりも端部―電極間距離の方が支配的となるように、バイアス電圧V1、近接電圧V3、離反電圧V4、近接距離d1、離反距離d2の関係が定められている。これにより、第3電極にバイアス電圧V1を印加した状態を維持することで、板状部材24の姿勢を記憶することができる。よって、複数行の第3電極に同時にバイアス電圧V1を印加した状態を許容することができる。すると、ある行の第3電極に印加する電圧をバイアス電圧V1からリセット電圧V2へ遷移してからでないと、他の行の第3電極にバイアス電圧V1を印加することができない、という事態が発生しない。これにより、複数行の第3電極の間でバイアス電圧V1を印加するタイミングを制御する必要がないため、制御を簡略化できる結果、行ドライバ回路32などの駆動回路の規模を縮小することが可能となる。
【0049】
また、マトリクス部20の駆動速度は、第3電極に印加される電圧の昇降時間と、板状部材24の揺動動作の応答時間で決まる。そして実施例1の光偏向装置10では、複数行の第3電極に同時にバイアス電圧V1を印加した状態を許容することができる。すると、ある行の第3電極に印加される電圧をバイアス電圧V1からリセット電圧V2にしてから、他の第3電極に印加される電圧をリセット電圧V2からバイアス電圧V1にするまでの間に、時間マージンが不要となるため、第3電極に印加される電圧の昇降時間を短くすることができる。よって、マトリクス部20の駆動速度を高めることが出来る。
【実施例2】
【0050】
実施例2を説明する。実施例2では、一斉リフレッシュの駆動方法が行なわれる場合を説明する。一斉リフレッシュは、マトリクス部20の全ての可動単位について、記憶していた揺動姿勢を水平状態へリセットした上で、1行ずつ新たな揺動姿勢を書き込む駆動方法である。なお、マトリクス部20や駆動回路30の構造は実施例1と同様であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
【0051】
図16に、電圧VT11ないしVT31、電圧VT12ないしVT32、電圧VT13ないしVT33のタイミングチャートを示す。一斉リフレッシュでは、駆動回路30は、第1行R1ないし第3行R3について一斉リセット動作を行なう。そして、駆動回路30は、第1行R1ないし第3行R3を順番に1つずつ選択し、選択した行に属する可動単位に対して、揺動動作および記憶動作を行なう。図16において、時刻t11ではリフレッシュが行なわれ、期間P11では第1行R1について揺動動作が行なわれ、期間P12では第2行R2について揺動動作が行なわれ、期間P13では第3行R3について揺動動作が行なわれる。なお、図17ないし図20は、マトリクス部20における可動単位M11ないしM33の揺動姿勢を示す模式図である。
【0052】
時刻t11(図16)において行なわれる、一斉リセット動作を説明する。時刻t11において、電圧VT13ないしVT33が、バイアス電圧V1(−8.5(V))からリセット電圧V2(0(V))に変更される。よって、図17に示すように、全ての可動単位M11ないしM33の姿勢が、水平状態にリセットされる。
【0053】
次に、時刻t12および時刻t13において行なわれる、揺動動作を説明する。例として、可動単位M11を左側揺動姿勢に揺動する動作を説明する。時刻t12では、第1電極T11に近接電圧V3(+3(V))が印加されるとともに、第2電極T12に離反電圧V4(0(V))が印加される。そして、時刻t13において、第3電極T13に印加される電圧が、リセット電圧V2(0(V))からバイアス電圧V1(−8.5(V))に変更される。よって、図18に示すように、可動単位M11が図中左側へ揺動する。なお、第1行R1に属する可動単位M12およびM13においても同様にして、可動単位M12が図中左側へ揺動し、可動単位M13が図中右側へ揺動する。これにより、期間P11における第1行R1についての揺動動作が完了する。
【0054】
また、期間P11における、第2行R2の可動単位M21および第3行R3の可動単位M31の動作を説明する。期間P11では、可動単位M21およびM31の板状部材24にはリセット電圧V2が印加されている。また、可動単位M21およびM31の板状部材24は基板21に平行な姿勢とされており、第1端部24aと第1電極T11の距離、および第2端部24bと第2電極T12の距離は、ともに距離d0とされている。時刻t12において、第1電極T11に近接電圧V3(+3(V))が印加されるとともに、第2電極T12に離反電圧V4(0(V))が印加される。よって、第1列C1に属する可動単位M11、M21、M31に対して、共通に、左側揺動姿勢をとる旨の命令が伝達される。しかし、本願の可動単位M11ないしM33では、前述の通り、リセット電圧V2が板状部材24に印加されているときに発生するトルクが、可動梁23aおよび23bの復帰力よりも小さくされるように、リセット電圧V2、近接電圧V3および離反電圧V4、距離d0の関係が定められている。よって、リセット電圧V2を板状部材24に印加しておく限り、第1電極T11と第2電極T12に印加する電圧と無関係に、板状部材24は揺動せず、基板21に平行な姿勢を維持する。すなわち、可動単位M11の処理のために第1電極T11と第2電極T12に電圧を加えても、リセット電圧V2が印加されている可動単位M21およびM31では板状部材24が揺動しない。なお、可動単位M22、M32、M23、M33についても同様にして、板状部材24が揺動しない。よって、図18に示すように、第2行R2の可動単位M21ないしM23、および第3行R3の可動単位M31ないしM33の姿勢が、水平状態に維持される。
【0055】
同様にして、期間P12(図16)において、第2行R2について揺動動作が行なわれる。そして、図19の例に示すように、第2行R2に属する可動単位が左側揺動姿勢または右側揺動姿勢に設定される。また、期間P13において、第3行R3について揺動動作が行なわれる。そして、図20の例に示すように、第3行R3に属する可動単位が左側揺動姿勢または右側揺動姿勢に設定される。
【0056】
実施例2の効果を説明する。実施例2における一斉リフレッシュの駆動方法においても、複数行の第3電極に同時にバイアス電圧V1を印加した状態を許容することができる。これにより、複数行の第3電極の間でバイアス電圧V1を印加するタイミングを制御する必要がないため、制御を簡略化できる結果、行ドライバ回路32などの駆動回路の規模を縮小することが可能となる。またこれにより、ある行の第3電極に印加される電圧をバイアス電圧V1からリセット電圧V2にしてから、他の第3電極に印加される電圧をリセット電圧V2からバイアス電圧V1にするまでの間に、時間マージンが不要となるため、第3電極に印加される電圧の昇降時間を短くすることができる。
【0057】
以上、本願の実施例について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0058】
本願では、光偏向装置を例として説明したが、この形態に限られない。例えば、板状部材24と第1電極T11の間の静電容量や、板状部材24と第2電極T12との間の静電容量を検知することで、記憶状態を呼び出す記憶装置として機能させることが可能である。また、第3電極T13の接続先を、第1電極T11と第2電極T12との間で物理的に切り替えるリレー装置として機能させることも可能である。
【0059】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
10 光偏向装置
20 マトリクス部
24 板状部材
24a 第1端部
24b 第2端部
30 駆動回路
d0 距離
d1 近接距離
d2 離反距離
V1 バイアス電圧
V2 リセット電圧
V3 近接電圧
V4 離反電圧
M11ないしM33 可動単位
T11ないしT31 第1電極
T12ないしT32 第2電極
T13ないしT33 第3電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と支持部と可動梁と板状部材と第1電極と第2電極と駆動回路を備えており、
支持部は、基板に固定されているとともに基板から上方に伸びており、
可動梁は、支持部と板状部材を接続しており、板状部材を揺動軸の周りに揺動可能に支持しているともに、板状部材を基板に平行な姿勢に復帰させる復帰力を発揮し、
板状部材は、揺動軸を挟んで向かい合う第1端部と第2端部を有しているとともに、少なくとも一部が導電体で形成されており、
第1電極は、第1端部と対向する位置の基板上に形成されており、
第2電極は、第2端部と対向する位置の基板上に形成されており、
駆動回路は、板状部材に第1電圧と第2電圧のうちの一方を印加し、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、第2電極に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加し、
板状部材が基板に平行な姿勢にあるときの第1端部と第1電極の距離と第2端部と第2電極の距離をd0とし、板状部材が揺動して第1端部と第1電極の距離が接近したときの近接距離をd1とするとともに第2端部と第2電極の距離が離れたときの離反距離をd2とし、板状部材が反対向きに揺動して第2端部と第2電極の距離が接近したときの近接距離をd1とするとともに第1端部と第1電極の距離が離れたときの離反距離をd2としたときに、第1電圧ないし第4電圧が以下の(1)ないし(3)の関係を満たしており、板状部材の揺動状態を制御可能な装置:
(1)第1端部と第1電極の距離と第2端部と第2電極の距離がd0であり、板状部材に第1電圧を印加し、第1電極に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、第2電極に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加するときに、第1電極と第2電極が板状部材に加えるトルクの差が前記復帰力を超え;
(2)板状部材に第2電圧を印加したときに、第1電極と第2電極が板状部材に加えるトルクの差が前記復帰力に満たず;
(3)(第3電圧と第1電圧の電圧差)/(第4電圧と第1電圧の電圧差)の値が、(離反距離d2)/(近接距離d1)の値よりも小さい。
【請求項2】
請求項1に記載の可動梁と板状部材と第1電極と第2電極で構成される可動単位の複数個を備えており、
各可動単位の第1電極が共通に駆動回路に接続されており、
各可動単位の第2電極が共通に駆動回路に接続されており、
各可動単位の板状部材が個別に駆動回路に接続されており、
第3電圧と第1電圧との電圧差の方が、第4電圧と第1電圧との電圧差より大きく、
駆動回路が、板状部材が揺動している可動単位と、板状部材が揺動していない可動単位のうちの一つの可動単位を選択し、選択した可動単位の板状部材に第1電圧を印加し、その他の可動単位の板状部材に第2電圧を印加し、複数個の可動単位の第1電極に共通に第3電圧と第4電圧のうちの一方の電圧を印加するとともに、複数個の可動単位の第2電極に共通に第3電圧と第4電圧のうちの他方の電圧を印加したときに、複数個の可動単位の中で、次の事象が生じて板状部材の揺動状態を制御可能な装置:
(a)板状部材が揺動していない可動単位のうちの一つであって板状部材に第1電圧が印加された可動単位では、第3電圧が印加された電極に接近する向きに板状部材が揺動し;
(b)板状部材が揺動していない可動単位のうちのその他であって板状部材に第2電圧が印加された可動単位では、板状部材が揺動せず;
(c)板状部材が揺動している可動単位であって板状部材に第1電圧が印加された可動単位では、板状部材が旧来の揺動姿勢を維持し、
駆動回路が、板状部材に第2電圧を印加した可動単位では、板状部材が基板に平行な姿勢に復帰する。
【請求項3】
請求項2に記載の可動単位の複数個が行方向と列方向にマトリクス状に配列され、
各々の可動単位が備える前記揺動軸は列方向に伸びた形状とされ、
列方向に並んだ可動単位の第1電極が共通に駆動回路に接続されているとともに、列を異にする可動単位の第1電極が個別に駆動回路に接続されており、
列方向に並んだ可動単位の第2電極が共通に駆動回路に接続されているとともに、列を異にする可動単位の第2電極が個別に駆動回路に接続されており、
行方向に並んだ可動単位の板状部材が共通に駆動回路に接続されているとともに、行を異にする可動単位の板状電極が個別に駆動回路に接続されており、
前記駆動回路は、
(A)処理済の行とこれから処理する一つの行を選択し、選択された行に属する可動単位の板状部材に第1電圧を印加するとともに、それ以外の行に属する可動単位の板状部材に第2電圧を印加し、
(B)これから処理する一つの行のうち、第1電極に板状部材を接近させる列では第1電極に第3電圧を印加するとともに第2電極に第4電圧を印加し、第2電極に板状部材を接近させる列では第1電極に第4電圧を印加するとともに第2電極に第3電圧を印加し、
(C)所定時点で板状部材に印加されている電圧を第1電圧から第2電圧に切り換える
ことを特徴とする板状部材の揺動状態を制御可能な装置。
【請求項4】
第2電圧と第4電圧は接地電圧であり、第1電圧が正電圧であれば第3電圧が負電圧であり、第1電圧が負電圧であれば第3電圧が正電圧であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2011−131302(P2011−131302A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291361(P2009−291361)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】