説明

板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、及び、その製造方法、被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、並びに、化粧料

【課題】平均粒子径が20μm未満の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体とその製造方法を提供し、かつその板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を化粧料に配合することによって、紫外線遮蔽効果が高く、使用感の優れた化粧料を提供する。
【解決手段】硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水を含有する水溶液を、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5〜5の範囲内になるように調製し、水溶液の温度を0〜40℃の範囲内で維持し、水溶液から炭酸セリウム粒子を析出させ、更に焼成することにより、平均粒子径が20μm未満で、平均アスペクト比が2〜80の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、及び、その製造方法、被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、並びに、板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体又は被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を配合した化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、日焼け止め化粧料などに用いられる紫外線遮蔽剤として、サリチル酸系化合物、ベンゾフェノン化合物といった有機系紫外線遮蔽剤や、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物微粒子などの無機系紫外線遮蔽剤が用いられている。このうち有機系紫外線遮蔽剤は、化粧料に配合したときに、無色で透明性を示す特徴があるため汎用されているが、低分子であるため、皮膚への吸収が懸念されている。
【0003】
一方、無機系紫外線遮蔽剤として良く用いられている酸化チタンは化学的に安定ではあるが、隠蔽力が大きい(屈折率が高い)ため透明性を必要とする製品には使用が制限されるといった問題点がある。また、酸化亜鉛はUVA領域の紫外線遮蔽能や可視光領域の透明性が高いという特徴を有しているが、元来、水などに微量に溶解する性質があり、汗などによって溶出された亜鉛イオンが皮膚へ浸透する恐れがあり、このことが、今後、皮膚組織に対する安全性をより求める場合に、懸念されるべき点である。
【0004】
このような理由で、無機系紫外線遮蔽剤の中でも、比較的に高い透明性を有しているセリウム化合物を用いた無機系紫外線遮蔽剤が検討されている。例えば特許文献1においては、平均一次粒子径が1nm〜500nmの酸化セリウム粒子、又はセリウム含有複合酸化物粒子又は、これらの複合物の表面を不定形又は結晶性の無機化合物で被覆した紫外線遮蔽剤が提案されている。しかしながら、特許文献1に記載のような複合酸化セリウム粒子においては、紫外線遮蔽能は有しているものの、微粒子であるため凝集を起してしまい、使用感が良くないという問題点がある。
【0005】
一方、良好な使用感を有する無機系紫外線遮蔽剤として、板状粒子と酸化セリウム粉体との複合化が検討されており、例えば特許文献2においては、表面が酸化セリウムなどの金属酸化物で被覆した板状硫酸バリウムからなる紫外線吸収組成物が提案されている。しかしながら、特許文献2に記載のような酸化セリウム被覆板状硫酸バリウム粒子においては、板状硫酸バリウム粒子の紫外線遮蔽能が十分ではなく、複合板状粒子として満足できる紫外遮蔽能が得られないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−139926号公報
【特許文献2】特開平10−8028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前述のような問題点に鑑みてなされたもので、平均粒子径が20μm未満の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、及び、その粉体を製造する製造方法を提供することを目的とするものである。また、この板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を化粧料に配合することによって、紫外線遮蔽効果が高く、使用感の優れた化粧料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を達成するために、本発明者らは鋭意研究努力を重ねた結果、硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水との水溶液において、セリウムイオンと炭酸イオンのモル比が1:1.5〜1:5の範囲内となるように調製して、水溶液から析出させて得られる板状炭酸セリウム又はその集合体である花弁状炭酸セリウム八水和物を焼成することにより、平均一次粒子径が20μm未満の板状酸化セリウム又はその集合体である花弁状の形態を有した酸化セリウム粉体を得ることを可能にしたものである。また、得られた板状酸化セリウム又はその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の表面を、ポリシロキサン、アルキルシラン化合物、アルキルチタネート化合物、フッ素化合物などの化合物で被覆処理することにより、疎水性を有する粉体を得ることができ、これらを化粧料に配合することによって、紫外線遮蔽効果が高く、使用感の優れた化粧料を提供することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、第1発明による板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体は、
平均粒子径が20μm未満で、平均アスペクト比(平均一次粒子径/平均厚み)が2〜80であることを特徴とするものである。
【0010】
また、第2発明による板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法は、第1発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法であって、硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水を含有する水溶液を、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5〜5の範囲内になるように調製し、前記水溶液の温度を10〜40℃の範囲内で維持し、前記水溶液から炭酸セリウム粒子を析出させ、更に焼成することを特徴とするものである。
【0011】
また、第3発明による板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法は、第1発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法であって、硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水を含有する水溶液を、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5〜5の範囲内になるように調製し、前記水溶液の温度を0〜10℃の範囲内で維持し、前記水溶液から炭酸セリウム粒子を析出させ、更に焼成することを特徴とするものである。
【0012】
前記第2発明又は第3発明においては、前記水溶液中にアルコール系化合物を含有させるのが好ましい(第4発明)。
【0013】
また、第5発明による板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体は、
前記第1発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の表面を、下記一般式(1)で示されるポリシロキサン、下記一般式(2)で示されるアルキルアルコキシシラン化合物、下記一般式(3)で示されるアルキルチタネート化合物、下記一般式(4)及び下記一般式(5)及び下記一般式(6)で示されるフッ素化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物で被覆処理したことを特徴とするものである。
【化1】

Si(OR ・・・(2)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。)

(RCOO)Ti(OR ・・・(3)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。また、a及びbはそれぞれ1〜3の整数であり、a+b=4の関係を有する。なお、ここで示されるアルキル基は直鎖状あるいは分岐状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。)

CF(CF CHCHSi(OR・・・(4)
(式中、Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
【化2】

【化3】

【0014】
また、第6発明による化粧料は、第1発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体又は第5発明の被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を配合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、平均一次粒子径が20μm未満の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を提供することができ、この板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を、硝酸セリウムもしくは塩化セリウム溶液と、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水との混合液中において、炭酸セリウム八水和物粒子を析出及び成長せしめ、その粒子を焼成することにより、製造することができる。
【0016】
また、第1発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体又は第5発明の被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を配合した化粧料は、紫外線遮蔽効果があるとともに、使用感の良い化粧料となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で製造した板状酸化セリウム粉体の走査型電子顕微鏡写真
【図2】実施例2で製造した板状の集合体である花弁状酸化セリウム粉体の走査型電子顕微鏡写真
【図3】比較例1で製造した酸化セリウム粉体の走査型電子顕微鏡写真
【図4】比較例2で製造した酸化セリウム粉体の走査型電子顕微鏡写真
【図5】比較例3で製造した酸化セリウム粉体の走査型電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明による板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、及び、その製造方法、被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、並びに、化粧料の具体的な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
本発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体は、平均一次粒子径が20μm未満の酸化セリウム粉体である。本発明において、前記酸化セリウム粉体の平均厚みは0.2〜4μmであるのが好ましい。平均厚みが0.2μm未満では、得られる酸化セリウム粉体の厚みが不十分となるために壊れやすくなる。他方、4μmを超えると、可視光透明性が低下する。
【0020】
なお、本発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、板状及びその集合体である花弁状粒子を観察して、任意の20個の板状粒子、又はその集合体の花弁状粒子を構成する板状粒子の直径(長径及び短径)を計測し、その平均値を算出することにより測定することができる。
また、本発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の平均厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)にて、板状、及び、その集合体である花弁状粒子を観察して、任意の20個の板状粒子、又はその集合体の花弁状粒子を構成する板状粒子の厚みを計測し、その平均値を算出することにより測定することができる。
【0021】
また、本発明において、前記板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体のアスペクト比(平均一次粒子径/平均厚み)は、2〜80とされる。このアスペクト比が下限値である2未満では、得られる酸化セリウム粉体が板状とはならない。他方、上限値である80を超えると、得られる酸化セリウム粉体の厚みが粒子形状を保つだけの厚みとならない。
【0022】
本発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法は、硝酸セリウムもしくは塩化セリウム溶液中のセリウムイオンに対する炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムの炭酸イオンのモル比が1:1.5〜1:5の範囲内になるように混合して、混合液の温度を0〜40℃の範囲内で30分以上静置又は撹拌することにより、炭酸セリウム粒子を析出及び成長せしめて炭酸セリウム八水和物を得て、それを焼成して、板状、及び、その集合体である花弁状酸化セリウム粉体製造される。(0〜10℃の場合は、板状酸化セリウムの集合体である花弁状酸化セリウムが、10〜40℃の場合は、板状酸化セリウムが得られる。)
【0023】
前記セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比は、板状及び花弁状の形態の維持、及び生産効率という観点から、1.5より大きく5より小さいことが好ましい。セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5より小さい場合は、収率が少なくなって生産性が低下すると共に、板状粒子の形が不規則となる。また、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が5を超えると、イオン強度が高すぎて粒子が凝集してしまう。
【0024】
前記硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムを溶解する溶媒としては、水を用いるが、水を含有する混合溶媒であってもよい。水と混合される溶媒としては、水溶性の化合物であればいずれでも良いがアルコール系化合物が好ましい。アルコール系化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価のアルコールやポリエチレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレン、グリセリン等の多価のアルコールが挙げられる。
【0025】
また、このようなアルコール系の混合溶媒を用いる場合においては、前記溶媒中における、前記水に対する前記アルコール系溶媒の質量比率を50%未満の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは30%以下の範囲内である。前記質量比率が50%以上であると、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムが溶けなくなり、得られる板状及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の均一性が低下する。
【0026】
前記混合液の温度について、この温度が0℃未満では、前記混合液中において前記炭酸セリウム粒子の成長反応の進行が遅くなるために、十分な収率で板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体を得ることができない。他方、前記混合液の温度が40℃を超えると、前記炭酸セリウム八水和物粒子の成長反応の進行が早くなるために、粒子が細長くなり、針状の形状を有するため、板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体を得ることができない。また、炭酸セリウム粒子を成長せしめる時間が30分未満では、粒子の成長途中であるために、得られる炭酸セリウム八水和物粒子において結晶性が悪くなり、不定形の粒子が形成されるため、板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体を得ることができない。
【0027】
また、板状及びその集合体である花弁状炭酸セリウム八水和物粒子を焼成する条件としては、焼成温度を350℃〜1000℃の範囲内とするのが好ましく、より好ましくは400℃〜700℃の範囲内である。焼成温度が下限値350℃未満では、完全には酸化せず、炭酸セリウム八水和物が残存する傾向にあり、焼成温度が上限値1000℃を超えると、粒子同士の焼結が進行してしまう傾向にある。また、焼成時間は0.5〜5時間の範囲内とするのが好ましい。
【0028】
次に、本発明に係る疎水性の板状酸化セリウム粉体及び、その集合体である花弁状酸化セリウム粉体について説明する。本発明の疎水性の板状酸化セリウム粉体及び、その集合体である花弁状酸化セリウム粉体は、上述した本発明の板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体の表面に、前述したポリシロキサン、アルキルシラン化合物、アルキルチタネート化合物、フッ素化合物などの化合物で表面被覆することにより得ることができる。
【0029】
また、上記の化合物以外にも、従来公知の各種の表面処理を施すことができる。なお、これらの処理は複数組み合わせて用いることも可能である。
【0030】
また、疎水性化合物を表面被覆する処理方法としては、被覆処理される顔料を適当なミキサー中で撹拌し、表面被覆する化合物を液滴下あるいはスプレー噴霧にて加えた後、一定時間高速強撹拌する。その後、撹拌を続けながら80〜200℃に加熱熟成させることによって、反応表面被覆処理を行う方法が一般的である。あるいは、表面被覆する化合物をエタノール、イソプロピルアルコール、イソブタノール等のアルコール類、トルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系有機溶剤、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等の極性有機溶剤などに溶解させておき、この溶液に撹拌中に化粧料用顔料を添加撹拌した後、有機溶剤を完全に蒸発除去し、その後、80〜200℃に加熱熟成させることにより、反応表面被覆処理を行う方法等も挙げられる。
【0031】
また、混合分散方法としては、溶液の濃度や粘度などに応じて適当な方法を選択することができる。好適な例としては、ディスパー、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ニーダー、V型混合機、ロールミル、ビーズミル、2軸混練機等の混合機よる方法や、水溶液と顔料を加熱空気中に噴霧して水分を一気に除去するスプレードライの方法などを選択することができる。また、粉砕を行う場合においては、ハンマーミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル等の通常の粉砕機を用いることができる。これらいずれの粉砕機によっても同等の品質のものが得られるため、特に限定されるものではない。
【0032】
この場合、顔料の表面被覆処理に用いられる化合物である成分の質量比は、被覆処理される顔料に対して0.5〜30質量%が好ましい。前記質量比が0.5質量%未満であるとロングラスティング効果と肌への均一な付着性が充分でなく、30質量%を越えると感触が非常に油っぽく湿った感じとなり、化粧料としては好ましくない。
【0033】
次に、本発明に係る化粧料について説明する。本発明の化粧料は、上述した本発明の板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体を配合することによって、優れた紫外線遮蔽効果を有している。また、本発明の板状及びその集合体の花弁状酸化セリウム粉体は、平均一次粒子が20μm未満の酸化セリウムであるため、この粉体を配合した化粧料は、酸化セリウムを配合した従来の化粧料に比べて、肌へ塗布する時の感触が良く、使用感が良い。化粧料の剤型としては、乳液、化粧水等のスキンケア化粧料、ファンデーション、口紅等のメイクアップ化粧料、頭髪化粧料等に用いることができ、特に日焼け止め化粧料が好ましい。配合量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜70質量%である。
【0034】
本発明に係る化粧料においては、有機系の紫外線遮蔽剤及び微粒子の無機系紫外線遮蔽剤を組み合わせることで効果が顕著なものとなる。有機系の紫外線遮蔽剤としては、オキシベンゾン、メトキシ桂皮酸オクチル、4−tert−4'−メトキシベンゾイルメタン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシルから選ばれる1種又は2種以上が好ましい。有機系の紫外線遮蔽剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜40質量%である。微粒子の無機系紫外線遮蔽剤としては、酸化チタン及び/又は酸化亜鉛が好ましく、より好ましくは、平均粒子径が0.05μm以下の微粒子酸化チタン及び/又は酸化亜鉛である。微粒子の無機系の紫外線遮蔽剤の配合量は特に限定されないが、好ましくは0.1〜50質量%である。
【0035】
さらに、本発明の化粧料には通常化粧料に用いられる成分、例えば、粉体、界面活性剤、油剤、ゲル化剤、高分子、美容成分、保湿剤、色素、防腐剤、香料等を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。
【0036】
本発明の化粧料の形態としては、パウダー状、乳液状、クリーム状、スティック状、固型状、スプレー、多層分離型などいずれの剤型を用いても構わない。
【実施例】
【0037】
次に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
炭酸水素ナトリウム54.6質量部を水1200質量部に溶解させ、スリーワンモーター200回転で撹拌した。その溶液に、塩化セリウム水溶液(セリウム濃度18.7質量%)197.7質量部を添加した。セリウムイオンと炭酸イオンのモル比は1:4.3である。混合液を温度18℃で1時間撹拌し、板状炭酸セリウム八水和物粒子を含有する水和物溶液を得た。得られた水和物溶液から板状炭酸セリウム八水和物粒子をろ過により回収し、洗浄した後に乾燥させ、その後、板状炭酸セリウム八水和物粒子を大気中にて温度400℃で1時間焼成して板状酸化セリウム粉体を得た。
【0039】
実施例1で得られた酸化セリウム粉体を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。得られた酸化セリウム粉体のSEM写真が図1に示されている。図示のように、得られた酸化セリウム粉体は板状の粒子であることが確認された。また、図1における任意の20個の板状酸化セリウム粉体を観察し、板状酸化セリウム粉体の平均一次粒子径及び平均厚みを測定した。その結果、板状酸化セリウム粉体の平均一次粒子径は7.1μmであり、平均一次粒子径は20μm未満の範囲内であることが確認された。また、板状酸化セリウム粉体の平均厚みは0.51μmであり、0.2〜4μmの範囲内であることが確認された。さらに、板状酸化セリウム粉体のアスペクト比(平均一次粒子径/平均厚み)は13.9であることが確認された。
【0040】
(実施例2)
混合液の温度を7℃とした以外は実施例1と同様にして板状粒子の集合体である花弁状酸化セリウム粉体を得た。
【0041】
実施例2で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察した。得られた酸化セリウム粉体のSEM写真が図2に示されている。図示のように、得られた酸化セリウム粉体は、板状の粒子の集合体である花弁状酸化セリウム粉体を多く有することが確認された。また、図2における任意の20個の花弁状酸化セリウム粉体を構成する板状酸化セリウムを観察し、板状酸化セリウムの平均一次粒子径及び平均厚みを測定した。その結果、板状酸化セリウム粉体の平均一次粒子径は2.1μmであり、平均厚みは0.41μmであり、アスペクト比は5.1であることが確認された。因みに、板状酸化セリウムの凝集体である花弁状酸化セリウム粉体の平均粒子径は5.4μmであった。
【0042】
(実施例3)
水1200質量部の代わりに水1200質量部とポリエチレングリコール(平均分子量:200)60質量部の混合溶液とした以外は実施例1と同様にして酸化セリウム粉体を得た。
【0043】
実施例3で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察したところ、酸化セリウム粉体は板状の酸化セリウム粉体であり、その平均一次粒子径は18.7μmであり、平均厚みは1.2μmであり、アスペクト比は15.6であることが確認された。
【0044】
(実施例4)
スリーワンモーター200回転の代わりに、塩化セリウム溶液を添加した後は撹拌せずに静置させた以外は実施例1と同様にして酸化セリウム粉体を得た。
【0045】
実施例4で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察したところ、酸化セリウム粉体は板状の酸化セリウム粉体であり、その平均一次粒子径は4.7μmであり、平均厚みは0.34μmであり、アスペクト比は13.8であることが確認された。
【0046】
(比較例1)
混合液の温度を43℃とした以外は実施例1と同様にして酸化セリウム粉体を得た。
【0047】
比較例1で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察した。得られた酸化セリウム粉体が図3に示されている。図示のように、比較例1で得られた酸化セリウム粉体は細長い針状の粉体であることが確認された。
【0048】
(比較例2)
炭酸水素ナトリウム54.6質量部の代わりに炭酸水素ナトリウム16.8質量部とした以外は実施例1と同様にして酸化セリウム粉体を得た。調製した水溶液のセリウムイオンと炭酸イオンのモル比は1:1.33である。
【0049】
比較例2で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察した。得られた酸化セリウム粉体が図4に示されている。図示のように、比較例2で得られた酸化セリウム粉体は、平均粒子径が20μm以上の大きい粒子であることが確認された。
【0050】
(比較例3)
炭酸水素ナトリウム54.6質量部の代わりに炭酸水素ナトリウム67.2質量部とした以外は実施例1と同様にして酸化セリウム粉体を得た。調製した水溶液のセリウムイオンと炭酸イオンのモル比は1:5.33である。
【0051】
比較例3で得られた酸化セリウム粉体をSEMにて観察した。得られた酸化セリウム粉体が図5に示されている。図示のように、比較例3で得られた酸化セリウム粉体は、不定形の粒子であり、凝集がみられることが確認された。
【0052】
(製造実施例1:シリコン化合物被覆板状酸化セリウムの製造実施例)
ヘンシェルミキサーに実施例1で得られた板状酸化セリウム1000質量部を入れ、続いてメチルハイドロジェンポリシロキサン20.4質量部をイソプロピルアルコール125質量部に溶解させた溶液を滴下混合し、板状酸化セリウムとよく混合した。その後、ヘンシェルミキサー内を加熱及び減圧し、イソプロピルアルコールを除去した。顔料粉体をヘンシェルミキサーから取り出し、粉砕して加熱処理を行い、シリコン化合物が2質量%処理された酸化チタンを得た。同様の工程にて、酸化チタン、セリサイト、タルク、マイカ、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄をそれぞれ同様の表面被覆処理を施し、それぞれのサンプルを得た。
【0053】
(製造実施例2:アルキルシラン化合物被覆板状酸化セリウムの製造実施例)
製造実施例のメチルハイドロジェンポリシロキサンの代わりに、n−オクチルトリエトキシシランを用いた以外は全て製造実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0054】
(製造実施例3:アルキルチタネート化合物被覆板状酸化セリウムの製造実施例)
製造実施例のメチルハイドロジェンポリシロキサンの代わりに、イソプロピルトリイソステアロイルチタネートを用いた以外は全て製造実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0055】
(製造実施例4:フッ素化合物被覆板状酸化セリウムの製造実施例)
製造実施例のメチルハイドロジェンポリシロキサンの代わりに、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシランを用いた以外は全て製造実施例1と同様にしてサンプルを得た。
【0056】
ここで、本実施例に係る化粧料用顔料粉体の撥水撥油性を確認するために、製造実施例1〜4で処理された板状酸化セリウムの、水との接触角及び、流動パラフィンとの接触角を、エルマー社製ゴニオメーター式接触角測定装置を用いて測定した。表1に製造実施例1〜4の接触角の測定結果が示されている。
【0057】
【表1】

【0058】
表1に示される結果より、撥水性の化合物を表面被覆することにより、良好な撥水・撥油性を有する板状酸化セリウムを得ることができた。
【0059】
(実施例5:パウダーファンデーションの製造)
表2に示される処方と下記製造方法に従って、パウダーファンデーションを得た。なお、表中の配合量の単位は質量%である。
【0060】
【表2】

【0061】
製造方法:成分Aを、ミキサーを用いて良く混合しながら、均一に加熱溶解した成分Bを除々に加えてさらに混合した後、粉砕し、メッシュを通した後、金型を用いて金皿に打型して製品を得た。
【0062】
(比較例4)
製造実施例1で製造したシリコン処理板状酸化セリウムの代わりに、シリコン処理微粒子酸化チタンを用いた以外は全て実施例5と同様にして製品を得た。
【0063】
(比較例5)
製造実施例1で製造したシリコン処理板状酸化セリウムの代わりに、シリコン処理微粒子酸化亜鉛を用いた以外全て実施例5と同様にして製品を得た。
【0064】
(比較例6)
製造実施例1で製造したシリコン処理板状酸化セリウムの代わりに、シリコン処理微粒子酸化セリウムを用いた以外は全て実施例5と同様にして製品を得た。なお、比較例6で用いた微粒子酸化セリウムは、大東化成工業社製セリガードSC−6832である。
【0065】
実施例5及び比較例4〜6で作製した各化粧料について、女性パネラー10名によって、使用感に関する官能評価試験を実施した。試験はアンケート形式で実施し、各項目に0から5点の間の点数をつけ、0点は評価が悪い、5点は評価が優れるとして数値化し、結果を全パネラーの平均点として表した。従って、点数が高い程評価が優れていることを示す。なお、化粧料は乳液状の化粧下地を使用してから塗布する形式で実施した。その結果が表3に示されている。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果より、実施例5は、塗布した時の使用感、透明感、日焼防止効果(紫外線遮蔽効果)の全てにおいて優れていた。比較例4では、シリコン処理微粒子酸化チタンを配合しているため、日焼防止効果(紫外線遮蔽効果)には優れているものの、塗布した時の使用感、透明感において劣っていた。また比較例5では、シリコン処理微粒子酸化亜鉛を配合しているため、透明感、日焼防止効果(紫外線遮蔽効果)には優れているものの、塗布した時の使用感において劣る結果となった。また比較例6では、シリコン処理微粒子酸化セリウムを配合しているため、透明感、日焼防止効果(紫外線遮蔽効果)には優れているものの、塗布した時の使用感において劣る結果となり、本発明の板状酸化セリウムは、従来の酸化セリウムよりも、優れた特徴をもっていた。
【0068】
(実施例6)
表4に示される処方と下記製造方法に従いW/O型リキッドファンデーションを製造した。なお、表中の配合量の単位は質量%である。
【0069】
【表4】

【0070】
製造方法:成分Bを、ミキサーを用いて良く混合した。一方、成分Aを80℃に加温し、均一になるように良く混合した。ここに成分Bを攪拌下に除々に添加し、50℃まで徐冷した。ついで、成分Cを80℃に加温し、均一に溶解させた後、50℃にまで徐冷した。成分Aに成分Cを攪拌下に加え、さらに良く攪拌し、室温まで冷却した。得られた溶液を容器に充填し、製品を得た。
【0071】
得られたリキッドファンデーションは、リキッドファンデーションを塗布した時の使用感、透明感、紫外線遮蔽効果の全てにおいて優れていた。
【0072】
(実施例7)
表5に示される処方と下記製造方法に従ってW/O型日焼け止め化粧料を試作した。なお、表中の配合量の単位は質量%である。
【0073】
【表5】

【0074】
製造方法:成分Aを80℃に加温し、均一になるように良く混合した。ここに成分Bを攪拌下に除々に添加し、50℃まで徐冷した。ついで、成分Cを80℃に加温し、均一に溶解させた後、50℃にまで徐冷した。成分Aに成分Cを攪拌下に加え、さらに良く攪拌し、室温まで冷却した。得られた溶液を容器に充填し、製品を得た。
【0075】
得られたW/O型日焼け止め化粧料は、塗布した時の使用感、透明感、紫外線遮蔽効果全てにおいて優れていた。
【0076】
(実施例8)
表6に示される処方と下記製造方法に従ってO/W型リキッドファンデーションを試作した。なお、表中の配合量の単位は質量%である。
【0077】
【表6】

【0078】
製造方法:成分A、Cを80℃にて良く混合した。成分Bを成分Cに攪拌下に添加してよく混合した後、上から成分Aを徐々に添加し、徐冷した後、容器に充填して製品を得た。
【0079】
得られたO/W型リキッドファンデーションは、塗布した時の使用感、透明感、紫外線遮蔽効果の全てにおいて優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体、及びその粉体に疎水性化合物を表面被覆した被覆処理粉体は、パウダーファンデーション、リキッドファンデーションなどの化粧料に配合することにより、肌へ塗布した時の使用感、透明感、紫外線遮蔽効果に優れた化粧料を得ることができるので、産業上の利用可能性が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が20μm未満で、平均アスペクト比が2〜80であることを特徴とする板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体。
【請求項2】
請求項1に記載の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法であって、
硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水を含有する水溶液を、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5〜5の範囲内になるように調製し、前記水溶液の温度を10〜40℃の範囲内で維持し、前記水溶液から炭酸セリウム粒子を析出させ、更に焼成することを特徴とする板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法であって、
硝酸セリウムもしくは塩化セリウムと、炭酸水素ナトリウムもしくは炭酸ナトリウムと、水を含有する水溶液を、セリウムイオンに対する炭酸イオンのモル比が1.5〜5の範囲内になるように調製し、前記水溶液の温度を0〜10℃の範囲内で維持し、前記水溶液から炭酸セリウム粒子を析出させ、更に焼成することを特徴とする板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法。
【請求項4】
前記水溶液中にアルコール系化合物を含有させることを特徴とする請求項2又は3に記載の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体の表面を、下記一般式(1)で示されるポリシロキサン、下記一般式(2)で示されるアルキルアルコキシシラン化合物、下記一般式(3)で示されるアルキルチタネート化合物、下記一般式(4)及び下記一般式(5)及び下記一般式(6)で示されるフッ素化合物から選ばれる1種又は2種以上の化合物で被覆処理したことを特徴とする板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体。
【化4】

Si(OR ・・・(2)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。)

(RCOO)Ti(OR ・・・(3)
(式中、R及びRは炭素数が1以上の飽和炭化水素基である。また、a及びbはそれぞれ1〜3の整数であり、a+b=4の関係を有する。なお、ここで示されるアルキル基は直鎖状あるいは分岐状であって、単一鎖長のものであっても複合鎖長のものであってもよい。)

CF(CF CHCHSi(OR・・・(4)
(式中、Rは炭素数が1以上の飽和炭化水素基であり、nは1以上の整数である。)
【化5】

【化6】

【請求項6】
請求項1に記載の板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体又は請求項5に記載の被覆処理した板状酸化セリウム及びその集合体である花弁状酸化セリウム粉体を配合したことを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41202(P2012−41202A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181035(P2010−181035)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(391015373)大東化成工業株式会社 (97)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】