説明

板紙のしみ出し防止剤及び板紙の製造方法

【課題】板紙を加工する時に生じ得るしみ出し欠点の発生を抑制ないし防止することを目的とする。
【解決手段】 下記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体を1〜30質量%含有することを特徴とする、板紙のしみ出し防止剤。
(a)鹸化度70〜96モル%、重合度300〜4000のポリビニルアルコール
(b)ビニルピロリドン単位70〜100モル%、重量平均分子量10,000〜500,000の重合体
表層と、裏層と、前記表層及び前記裏層に挟まれた一又は複数の中間層とを有する板紙を製造する方法であって、上記のしみ出し防止剤を、(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体の含量がパルプ固形分に対して5〜500ppmとなるように、前記中間層用のパルプスラリーに添加する工程を有することを特徴とする、板紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙のしみ出し防止剤及び板紙の製造方法に関し、さらに詳しくは、多層抄きである板紙を加工する時に生じ得るしみ出し欠点の発生を抑制ないし防止するためのしみ出し防止剤、及びこれを用いた板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の古紙利用率及び古紙輸出量の増加に伴って、国内の古紙事情が悪化し、紙・板紙の欠点(しみや汚れ等)対策への関心が一段と高まっている。紙・板紙の欠点防止方法として、以下の方法が知られている。
(1)アミンとエピハロヒドリンとを反応させて得られる重合体をパルプスラリーに添加することを特徴とする方法(例えば、特許文献1参照)
(2)ポリアリルアミンなどの重合体をパルプスラリーに添加することを特徴とする方法(例えば、特許文献2参照)
【0003】
特に板紙は、古紙配合率が90%以上と高く、古紙由来の欠点対策が必要不可欠と考えられる。古紙由来の欠点は、例えば外観不良、印刷ムラ、加工時の接着性不良を引き起こすなど、板紙の品質低下に繋がる。板紙に見受けられる欠点としては、例えば粘着剤の成分であるアクリル酸エステル由来の欠点などが一般的である。
【0004】
多層抄きである板紙においては、従来から、直接目に触れる外層に欠点が発生するのを防止する目的で、外層用のパルプスラリーに対してのみ欠点対策がとられている。一方、板紙の表裏の外層の間にある中間層は、直接目に触れる部分ではないので、欠点対策は必要とされておらず、パルプ粕、古紙粕、脱墨工程から生じるフローテーターフロスなどの低質原料を用いて製造される場合が多い。
【特許文献1】特開昭62−223394号公報
【特許文献2】特開昭63−264993号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
板紙特有の問題として、アクリル酸エステル等の粘着性異物などに由来する欠点、すなわち板紙の製造時に見受けられる欠点の他に、製造された板紙を加工する時に発生する欠点もある。例えば、板紙の出荷先である段ボール加工会社での加熱処理工程時などに、油染みのような欠点(以下、しみ出し欠点とも呼ぶ。)が突然現れることがある。
【0006】
本発明者らは、しみ出し欠点の発生原因を解明すべく、しみ出し欠点の原因物質について分析を行なったところ、パラフィンワックスなどの石油ワックスが原因物質であるとの知見を得た。石油ワックスとは、常温でろう状固体の炭化水素類であり、日本工業規格(JIS K 2235)により、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムの3種に大別される。石油ワックスは、主成分が炭素数20〜50の炭化水素であり、疎水性が高く、40〜100℃で容易に溶融する固体で、溶融粘度が低い。製紙分野において、石油ワックスは、例えば青果・野菜・鮮魚などの食品の包装や輸送に用いられる防水段ボールの撥水剤などとして使用されている。板紙の中間層に用いる原料としては段ボール古紙が多用されており、古紙回収率の増加などに伴い、防水段ボールも原料として使用される機会が増加したので、しみ出し欠点に関する問題が顕在化しているものと思われる。
【0007】
本発明者らは、さらに、しみ出し欠点の原因となる層を探るため、しみ出し欠点が確認された板紙の外層を剥離したところ、しみが中間層にも拡がっており、中間層のしみの方が外層のしみより大きいとの知見も得た。つまり、板紙におけるしみ出し欠点の原因層は、板紙の製造時に見受けられる従来の欠点の場合とは異なり、中間層であることが明らかとなった。石油ワックスは、融点以上の温度条件下で溶融して、粘着剤由来の異物などよりも板紙の面方向及び厚さ方向へ著しく浸透し易いので、中間層に存在するにも関わらず、外層に現れるしみ出し欠点の原因物質となると思われる。
【0008】
しみ出し欠点の発生原因が知られていないが故に、板紙のしみ出し欠点を防止する技術が開発されていないのが現状である。したがって、本発明は、板紙を加工する時に生じ得るしみ出し欠点の発生を抑制ないし防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、下記の重合体を所定量含有するしみ出し防止剤を開発し、このしみ出し防止剤を中間層用のパルプスラリーに添加することによって、上記しみ出し欠点の発生を抑制ないし防止することに成功した。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体を1〜30質量%含有することを特徴とする、板紙のしみ出し防止剤(以下、単に「しみ出し防止剤」とも呼ぶ。)に関するものである。
(a)鹸化度70〜96モル%、重合度300〜4000のポリビニルアルコール
(b)ビニルピロリドン単位70〜100モル%、重量平均分子量10,000〜500,000の重合体
【0011】
また、本発明は、表層と、裏層と、前記表層及び前記裏層に挟まれた一又は複数の中間層とを有する板紙を製造する方法であって、上記のしみ出し防止剤を、(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体の含量がパルプ固形分に対して5〜500ppmとなるように、前記中間層用のパルプスラリーに添加する工程を有することを特徴とする、板紙の製造方法に関するものである。
【0012】
本発明のしみ出し防止剤は、板紙を加工する時に生じ得るしみ出し欠点の発生を完全に阻止するものに限定されず、しみ出し欠点対策が施されていないものと比べて、しみ出し欠点の数を減少させ、あるいはしみ出し欠点の面積を縮小させるもの、すなわちしみ出し欠点の発生を抑制するものも包含される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板紙を加工する時、特に加熱処理に付する時に生じ得るしみ出し欠点の発生を抑制ないし防止することができるので、板紙から段ボールシート等の加工製品を製造するとき、外観不良、印刷ムラ、加工時の接着性不良の発生が抑制ないし防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の板紙のしみ出し防止剤は、下記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体を1〜30質量%含有する。
(a)鹸化度70〜96モル%、重合度300〜4000のポリビニルアルコール(以下、(a)成分とも呼ぶ。)
(b)ビニルピロリドン単位70〜100モル%、重量平均分子量10,000〜500,000の重合体(以下、(b)成分とも呼ぶ。)
【0015】
本発明のしみ出し防止剤に使用される(a)成分は、例えば酢酸ビニルモノマーを重合したポリ酢酸ビニルを鹸化することで得られる。(a)成分の鹸化度は70〜96モル%であり、好ましくは80〜93モル%であり、更に好ましくは85〜90モル%である。鹸化度が70モル%未満の場合や鹸化度が96モル%を越える場合は、充分なしみ出し防止性が得られない。なお、(a)成分は、ビニルアルコール単位及び未鹸化の酢酸ビニル単位に加え、鹸化度が70〜96モル%となる範囲内で、他の単量体から誘導される一種以上の構成単位を含有してもよい。
【0016】
(a)成分は、その重合度が300〜4000であり、好ましくは500〜2400である。重合度が300未満の場合は、充分なしみ出し防止性が得られず、重合度が4000を越える場合は、取扱いが困難となる。本発明において重合度および鹸化度がそれぞれ特定の範囲内で規定される(a)成分は、重合度が高い場合は鹸化度も高い方が(a)成分による石油ワックスの凝集が抑制され好ましく、一方で、重合度が低い場合は鹸化度も低い方が(a)成分の石油ワックスへの吸着性が高く好ましい。特に、(a)成分の重合度と鹸化度が下記式の関係を満足するとき、より充分なしみ出し防止性が得られ好ましい。
(100−X)Y=5,000〜60,000、好ましくは6,000〜50,000
(式中、Xは(a)成分の鹸化度(モル%)であり、Yは(a)成分の重合度である。)
【0017】
なお、(a)成分の鹸化度や重合度は、例えば、JIS K 6726「ポリビニルアルコール試験方法」に基づいて測定することができる。
【0018】
本発明のしみ出し防止剤に使用される(b)成分は、ビニルピロリドン単位を含有する重合体であり、例えばN−ビニル−2−ピロリドンモノマーを重合することで得られる。(b)成分のビニルピロリドン単位は、70〜100モル%であり、好ましくは80〜93モル%であり、更に好ましくは85〜90モル%である。ビニルピロリドン単位が70モル%未満の場合は、充分なしみ出し防止性が得られない。
【0019】
(b)成分は、ビニルピロリドン単位に加え、30モル%以下の範囲内で、他の単量体から誘導される一種以上の構成単位を含有してもよい。他の単量体としては、例えば(メタ)アクリルアミド、スチレン、アルキル(メタ) アクリレート、オレフィン、ポリ(オキシアルキレン)アリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体、ジアルキルアミノアルキル(メタ) アクリレート、ジアルキルアミノヒドロキシアルキル(メタ) アクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ビニルイミダゾリウム、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルアミンまたはこれらを塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、ジエチル硫酸などで四級化した陽イオン性単量体、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ビニルスルホン酸、2−アクロイルアミノ−2−メチルプロパンスルホン酸、ヒドロキシプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸などの陰イオン性単量体またはその塩などが挙げられる。
【0020】
これらのうち、好ましくは(メタ) アクリルアミド、スチレン、アルキル(メタ) アクリレート、オレフィン、(ポリオキシアルキレン)アリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体、ジアルキルアミノアルキル(メタ) アクリレート、ジアルキルアミノヒドロキシアルキル(メタ) アクリレート、ジアルキルアミノアルキルアクリルアミド、ビニルイミダゾリウム、アリルアミン、ジアリルアミン、ビニルアミンまたはこれらを塩化メチル、塩化エチル、塩化ベンジル、ジエチル硫酸などで四級化した陽イオン性単量体であり、特に好ましくは(メタ) アクリルアミド、スチレン、アルキル(メタ) アクリレート、オレフィン、(ポリオキシアルキレン)アリルアルコール、ビニルアセトアミド、ビニルホルムアミド、酢酸ビニルなどの非イオン性単量体である。
【0021】
(b)成分は、その重量平均分子量が10,000〜500,000であり、好ましくは20,000〜100,000である。重量平均分子量が10,000未満の場合は、充分なしみ出し防止性が得られず、重量平均分子量が500,000を越える場合は、取扱いが困難となる。なお、(b)成分の重量平均分子量の測定は、例えばゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)装置を用いて行なうことができる。
【0022】
本発明のしみ出し防止剤は、上記の(a)成分に包含される、鹸化度や重合度の異なる種々のポリビニルアルコールから選ばれる1種又は2種以上、及び/又は上記の(b)成分に包含される、ビニルピロリドン単位や重量平均分子量の異なる種々の重合体から選ばれる1種又は2種以上を含有する。本発明のしみ出し防止剤に含有される、上記の(a)成分及び(b)成分から選ばれる一種以上の重合体は、含有量が1〜30質量%、好ましくは3〜25質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。含有量が1質量%未満の場合は、輸送コストがかかることから、経済的に不利であり、また、含有量が30質量%を超える場合は、取扱いが困難となる。なお、これら含有量の数値は、しみ出し防止剤が2種以上の重合体を含有する場合は、各重合体の含有量の総計を表す。
【0023】
本発明のしみ出し防止剤は、上記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体を水などと混合することにより調製することができる。本発明のしみ出し防止剤は、上記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体に加えて、必要に応じて、他の重合体、界面活性剤、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、アルコール等の溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料などを含有してもよい。本発明のしみ出し防止剤は、板紙の中間層用のパルプスラリー中に存在し得る石油ワックスに由来したしみ出し欠点の発生を抑制ないし防止するのに有用であり、言い換えれば、板紙の中間層用のパルプスラリーに添加するためのしみ出し防止剤として有用である。
【0024】
次に、本発明のしみ出し防止剤を用いた板紙の製造方法について説明する。本発明の板紙の製造方法は、本発明のしみ出し防止剤を、上記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体の含量がパルプ固形分に対して所定濃度となるように、板紙の中間層用のパルプスラリーに添加する工程を有する。
【0025】
板紙は、一般に、表層と、裏層と、表層及び裏層に挟まれた一又は複数の中間層とを有する。表層は、バージンパルプまたは白色度や強度が高いDIP(脱墨古紙パルプ)を主体とする。裏層は、古紙パルプを主体とし、表面の強度やサイズが必要な場合には、サイズプレス塗工などが行われ、また、両面の白色度が要望される場合には、表層と同等の構成とされる。中間層は、裏層よりも古紙パルプを多く含み、好ましくは古紙パルプのみを用いて製造される。また、中間層の黒さを隠蔽するために、中間層と表層の間(場合により中間層と裏層の間)に、表層のパルプよりも白色度がやや低いパルプを用いて表下層が設けられることがある。本発明における「中間層」は、しみ出し欠点の原因物質である石油ワックスの混入が危惧される層を包含し、文言上は中間層と異なる表下層も場合により包含することがある。
【0026】
本発明のしみ出し防止剤を添加する対象であるパルプスラリーは、板紙の中間層を製造するために用いられるパルプを含む。かかるパルプとしては、新聞古紙、雑誌古紙、雑古紙、段ボール古紙などの古紙を原料として含むパルプが挙げられ、段ボール古紙を原料として10質量%以上含むパルプの場合、本発明の効果が特に顕著に発揮される。
【0027】
本発明のしみ出し防止剤を板紙の中間層用のパルプスラリーに添加するとき、上記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体の含量がパルプ固形分に対して5〜500ppm、好ましくは25〜350ppm、更に好ましくは50〜200ppmとなるように添加する。重合体の含量がパルプ固形分に対して5ppm未満の場合は、充分なしみ出し防止性が得られず、また含量が500ppmを越えても、含量に見合った効果が得られず、経済的に不利である。
【0028】
本発明のしみ出し防止剤を中間層用のパルプスラリーに添加するときの製造ラインでの場所は、特に限定されず、フィルター、デッカー、エキストラクター、シックナー、リファイナー、ストックチェスト、ブレンダー、ミキシングチェスト、マシンチェスト、ファンポンプ、種箱、スクリーン、インレット、並びにその前後の配管などが挙げられる。これらのうち好ましくは、フィルター、デッカー、エキストラクター、シックナー、リファイナー、ストックチェスト、ブレンダー、ミキシングチェスト、並びにその前後の配管である。
【0029】
本発明のしみ出し防止剤を添加する中間層用のパルプスラリーのパルプ固形分は、一般的な濃度であれば特に限定されないが、好ましくは2〜15質量%、さらに好ましくは3〜5質量%である。
【0030】
本発明の板紙の製造方法は、本発明のしみ出し防止剤を中間層用のパルプスラリーに添加する工程を有する点を除いて、公知の製造方法と同様であり、公知の製造方法で使用されている添加剤を用いることができる。例えば、濾水性向上剤、歩留り向上剤、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、柔軟剤、サイズ剤、撥水剤、罫割れ防止剤、防腐剤、スライムコントロール剤、スケールコントロール剤、消泡剤、染料、硫酸バンド、填料、酸、アルカリなどの添加剤と、本発明のしみ出し防止剤を組み合わせて使用してもよい。
また、本発明の板紙の製造方法において、用いられる抄紙機に制限はなく、例えば円網、長網、短網、コンビネーション、オントップなどの抄紙機が挙げられる。
【0031】
本発明の板紙の製造方法は、酸性、中性及びアルカリ性条件下で行われる板紙の製造に適用することができ、得られる板紙の用途や種類に制限はない。例えば、食品容器原紙や印刷用原紙などの雑種紙、ライナーや中しん原紙などの段ボール原紙、白板紙や色板紙などの紙器用板紙、紙管原紙などの雑板紙などが挙げられ、特にライナーや中しん原紙などの段ボール原紙が好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらによって限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で用いた成分1〜13を表1及び表2に示す。なお、成分1〜6及び成分10,11はポリ酢酸ビニルを鹸化して得られたポリビニルアルコールであり、これら成分の鹸化度と重合度を表1に示す。また、成分7〜9及び成分12はビニルピロリドン単位を有する重合体、成分13は塩化ジメチルジアリルアンモニウムの重合体であり、これら成分を構成するモノマー単位とそのモル%、これら成分の重量平均分子量を表2に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
(A)しみ出し防止剤の調製
表1及び表2に示す成分1〜13をそれぞれイオン交換水に希釈混合して、表3(実施例1〜9)及び表4(比較例1〜5)に示すしみ出し防止剤をそれぞれ調製した。
【0036】
(B)板紙の製造
表3(実施例1〜9)及び表4(比較例1〜5)に示すしみ出し防止剤を、同じく表3及び表4に示す濃度にて添加して得られた、ライナーの中間層用のパルプスラリーを用いて、ライナーを製造した。具体的には、下記の通りである。なお、表3及び表4に示す添加濃度は、しみ出し防止剤中の成分1〜13のパルプ固形分に対する濃度である。また、下記に示す硫酸バンド、ロジンサイズ剤、カチオン化澱粉の各添加濃度も、パルプ固形分に対する濃度である。さらに、表4に示す比較例6は、薬剤を添加していない対照例である。
【0037】
<表層及び裏層>
新聞古紙および未晒クラフトパルプを原料とした固形分4質量%のパルプスラリーに、硫酸バンド2質量%、ロジンサイズ剤0.2質量%、カチオン化澱粉1.2質量%をマシンチェスト内で添加した。
【0038】
<中間層>
段ボール古紙を原料とした固形分4質量%のパルプスラリーに、しみ出し防止剤をミキシングチェスト内で添加した。また、硫酸バンド2質量%、ロジンサイズ剤0.2質量%、カチオン化澱粉0.5質量%をマシンチェスト内で添加した。
【0039】
これら各層用のパルプスラリーを用いて、円網3層抄紙機にて表層、中間層、裏層を製造し、これらを抄き合わせて、坪量が表層80g/m、中間層80g/m、裏層80g/m、板紙全体の坪量が240g/mである3層抄きのライナーを得た。
【0040】
(C)しみ出し防止性試験
実施例1〜9及び比較例1〜6により得られたライナーを用いて、下記の方法によりしみ出し防止性の評価を行ない、その結果を表3(実施例1〜9)及び表4(比較例1〜6)に示した。
【0041】
40×25cmの長方形に切断したライナー10枚を105℃で10分間加熱し、1時間放冷した。加熱処理によって表層または裏層に現れた直径2mm以上のしみ出し欠点の数を計測した。しみ出し防止率を下式に従い算出した。
【0042】
しみ出し防止率:
{(薬剤を添加しない場合のしみ出し欠点数の合計−薬剤を添加した場合のしみ出し欠点数の合計)/薬剤を添加しない場合のしみ出し欠点数の合計}×100(%)
【0043】
上記のしみ出し防止率の値に基づき、しみ出し防止性を以下の基準で評価した。
◎:しみ出し防止率が90%以上である。
○:しみ出し防止率が70%以上90%未満である。
△:しみ出し防止率が20%以上70%未満である。
×:しみ出し防止率が20%未満である。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
本発明のしみ出し防止剤を用いて製造されたライナーは、しみ出し防止性が良好であった。これに対して、比較例1は(a)成分としてのポリビニルアルコールの添加濃度が5ppm未満であるので、しみ出し防止性が不良である。比較例2は(a)成分の鹸化度が96モル%を越えるので、しみ出し防止性が不良である。比較例3は(a)成分の鹸化度が70モル%未満であるので、しみ出し防止性が不良である。比較例4は(b)成分としての重合体のビニルピロリドン単位が70モル%未満であるので、しみ出し防止性が不良である。比較例5は(a)成分及び(b)成分のいずれも添加していないので、しみ出し防止性が不良である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のしみ出し防止剤を用いて製造された板紙は、しみ出し防止性が良好であるので、加工製品を製造するために加熱処理に付される板紙、あるいは高温環境下で保管ないし使用される板紙として好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体を1〜30質量%含有することを特徴とする、板紙のしみ出し防止剤。
(a)鹸化度70〜96モル%、重合度300〜4000のポリビニルアルコール
(b)ビニルピロリドン単位70〜100モル%、重量平均分子量10,000〜500,000の重合体
【請求項2】
表層と、裏層と、前記表層及び前記裏層に挟まれた一又は複数の中間層とを有する板紙を製造する方法であって、
請求項1に記載された板紙のしみ出し防止剤を、(a)及び(b)から選ばれる一種以上の重合体の含量がパルプ固形分に対して5〜500ppmとなるように、前記中間層用のパルプスラリーに添加する工程を有することを特徴とする、板紙の製造方法。

【公開番号】特開2010−84285(P2010−84285A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255753(P2008−255753)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(591247868)ニチユソリューション株式会社 (6)
【Fターム(参考)】