説明

板紙の製造方法

【課題】
板紙抄紙において、製紙原料のピッチ類などの前処理を施し、その後紙力増強剤を添加し抄紙する処方は実施されていたが、濾水性が不足する場合が多い。濾水性向上剤を更に添加すると、それだけ設備や薬剤コストが増加する。一種類の薬剤により歩留あるいは濾水を向上させ、紙力も一定程度維持、向上できれば効率的である。従って本発明の課題は、特に紙力が重要な管理指標となる板紙の製造において、歩留あるいは濾水を向上させるとともに、紙力も維持あるいは向上可能な板紙の製造方法を提供することである。
【解決手段】
重量平均分子量が1000〜10万のカチオン性重縮合系水溶性高分子および重量平均分子量が10万〜500万の重合系カチオン性あるいは両性水溶性高分子から選択される一種と、重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子をそれぞれ抄紙前の製紙原料に添加することによって目的を達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板紙の製造方法に関するものであり、詳しくは重量平均分子量が1000〜10万の重縮合系水溶性高分子、あるいは重量平均分子量が10万〜500万の重合系カチオン性あるいは両性水溶性高分子と重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を、抄紙前の製紙原料に添加する板紙の製造方法関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用水中には種々の溶存物質あるいは微細な粒子状物質が存在している。これらの物質は、パルプ製造時に由来するものと、古紙製造時に由来するものとがある。すなわちパルプ製造時に由来するものとしては、リグニンスルホネート、リグニン分解生成物、木材抽出物、セルロース誘導体(例えば、ヘミセルロース)などである。また古紙製造時に由来するものとしては、
サイジング剤、分散剤、染料、蛍光漂白剤、コーティングバインダー、湿潤剤、珪酸ナトリウムなどである。さらに導入する工業用水などにもフミン酸やカルシウム成分なども混入する。
【0003】
このうちアニオントラッシュと呼ばれる溶存性あるいは親水性のアニオン性成分、すなわちホワイト顔料、分散剤、改質でんぷん、カルボキシメチルセルロース、リグニンスルホネート、リグニン分解生成物、ヘミセルロースなどは、一般的な低分子量カチオン性水溶性高分子物質により処理することによって歩留率や濾水性はかなりの程度改善される。しかし水に溶解しない疎水的な成分、すなわちは木材抽出物、サイジング剤、あるいはコーティングバインダーなどは、微細なコロイド粒子として製紙原料中に分散している場合は、悪影響は少ない。しかしこれらのコロイドは表面電荷が低く、アニオン性に弱く解離している場合、あるいは解離もしていない場合もあり、基本的に不安定な物質である。したがって温度、シェア、pH、あるいはピッチ障害を抑制するために添加される有機や無機のカチオン性物質などによってコロイドが破壊され粗大化する。その結果、表面が粘着性を帯びているため電荷を調節しただけでは、それらが紙中に抄きこまれた場合、またワイヤー、フェルト、ローラーあるいはドライヤーの各表面に再付着し、一定以上の大きさに成長すると製造中の成紙に付着し、欠点などの障害を引き起こす。またこれら疎水的な成分は、カチオン性水溶性高分子物質により処理し、粒子系を粗大化させてしまうこともある。そうすると上記の障害はより顕著に発生し、カチオン性水溶性高分子物質などの処理剤が逆効果になる場合もあるので注意を要する。
【0004】
上記の疎水的な成分による障害を防止するための薬剤も種々提案はされている。例えば特許文献1は、天然ピッチトラブル抑制のためジメチルジアリルアンモニウム塩化物/アクリル酸/(場合によっては、アクリル酸アルキルエステル類)共重合物を抄紙系のウェットエンドに添加する方法が開示されている。また、パルプ製造の漂白工程アルカリ抽出において、原料木材に由来するパルプ中のピッチを除去する方法として、水溶性の不飽和カルボン酸と疎水性単量体との共重合体を、漂白後のパルプスラリ−が次ぎのアルカリ抽出塔に入る前に添加することを開示している(特許文献2)。さらに木材あるいは古紙由来の種々のピッチに起因するトラブル防止方法として、ポリスチレンスルホン酸(塩)やポリイソプレンスルホン酸(塩)を、ピッチが付着し易い個所へのシャワ−水中に溶解し、専用のシャワ−や噴射ノズル、あるいは水ドクタ−などで供給することが記載されている(特許文献3)。またジアルキルアミノアルキレンアミンとエピハロヒドリン縮合物(特許文献4)などもピッチに起因するトラブル防止剤として開示されている。さらにアミジン構造単位を有する水溶性高分子としては、Nービニルホルムアミドとアクリロニトリル共重合物より合成される製造方法が特許文献5に開示されている。しかしこれらの薬剤は、粘着性を有する疎水的な成分による障害を防止するためには、十分ではなく、特にワイヤー、フェルト、ローラーあるいはドライヤーの各表面に再付着に関し検討を要する問題を残している。また重量平均分子量が100万以下の低分子量高分子物と重量平均分子量が50万〜600万の重合系高分子
を組み合わせて使用する製紙方法も開示されているが(特許文献6)、重合系高分子は両性の水溶性高分子に関しては記載がない。
【0005】
「ピッチ」という用語は、低分子量及び中分子量の様々な天然の疎水性有機樹脂類を指し、またこれらの樹脂類が原因となるパルプ製造と製紙処理工程の際の析出物を指す。ピッチは、脂肪酸、樹脂酸、それらの不溶性の塩類、及び脂肪酸とグリセロールやステロール類とのエステル(トリグリセリド類)などをさす。また古紙製造時に由来するサイジング剤、ワックス類やコーティングバインダーなどの疎水的微細粒子は、「ステイッキー」と呼ばれているが、「ピッチ」と区別しないで使用される場合もある。これらの化合物は特徴を示す程度の、温度に依存する粘度、粘着性、及び凝集強さを示す。それらは単独で、あるいは不溶性の無機塩類、充填材、繊維、脱泡剤成分、被覆用結合剤、その他同様のものと一緒に析出することがある。
【特許文献1】特開平4−241184号公報
【特許文献2】特開平11−256490号公報
【特許文献3】特開平11−189987号公報
【特許文献4】特開平11−43895号公報
【特許文献5】特開平5−192513号公報
【特許文献6】特開2009−249756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
板紙抄紙において、製紙原料のピッチ類などの前処理を施し、その後歩留向上剤を添加し抄紙する処方は実施されていた。紙力が不足する場合は、紙力増強剤をもう一種使用していた。すなわち歩留向上剤あるいは濾水性向上剤というと、歩留あるいは濾水を重視し紙力向上という観点はなかった。そのため重量平均分子量でいうと700万以上から2000万程度の範囲であり、製紙原料を凝集させ抄紙機のワイヤー上に効率よく載せるという機能が中心であった。従って化学組成的にも一部に両性高分子もあったが、カチオン化度15モル%〜25モル%のカチオン性高分子を主に使用してきた。紙力の維持あるいは向上は紙力増強剤を別に使用すればこと足りるとする考えであった。しかし、添加薬剤を一種類増やせばそれだけ設備や薬剤コストが増加する。可能なら薬剤種類は減らしたいのが本来の姿勢である。一種類の薬剤により歩留あるいは濾水を向上させ、紙力も一定程度維持、向上できれば効率的である。従って本発明の課題は、特に紙力が重要な管理指標となる板紙の製造において、歩留あるいは濾水を向上させるとともに、紙力も維持、向上可能な板紙の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、以下に記載する発明に達した。すなわち請求項1の発明は、下記(a)〜(e)から選択される一種以上の有機凝結剤と、重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子をそれぞれ抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする板紙の製造方法である。
(a)脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上と、エピハロヒドリンとの重縮合物である、重量平均分子量が1000〜10万のカチオン性水溶性高分子。
(b)ポリビニルアミンおよびビニルアミン繰り返し単位を有する重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(c)ポリビニルアミジンおよびビニルアミジン繰り返し単位を有する重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(d)ポリエチレンイミンおよび四級アンモニウム塩基を有するポリエチレンイミン変性物である、重量平均分子量が5,000〜50万のカチオン性水溶性高分子。
(e)(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体からなる繰り返し単位を有する重合体あるいは共重合体である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(f)ポリエチレンイミンあるいはその変性物、あるいは脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物から選択される一種以上の水溶液中において、(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体を分散重合した重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子からなる分散液。
【0008】
請求項2の発明は、前記重合系両性水溶性高分子が、水溶性高分子であり且つ該塩水溶液に溶解する高分子を分散剤として共存させ、該塩水溶液中において下記一般式(1)あるいは(2)で表わされる単量体2〜35モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体2〜25モル%を必須として含有するビニル系水溶性単量体混合物を分散重合法により重合した微細粒子の分散液からなる両性水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の板紙の製造方法である。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】

一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO、YおよびYは水素イオンまたは陽イオンをそれぞれ表す。
【0009】
請求項3の発明は、前記重量平均分子量が500万〜1000万の両性水溶性高分子の添加量が、前記抄紙前の製紙原料の乾燥固形分当たり、0.02〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の板紙の製造方法である。
【0010】
請求項4の発明は、前記有機凝結剤を配合前製紙原料の個別原料に添加し、前記重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を、ファンポンプの手前、スクリーンの入り口および出口から選択される一箇所に添加することを特徴とする請求項1あるいは2に記載の板紙の製造方法である。
【0011】
請求項5の発明は、前記重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を、スクリーンの出口に添加することを特徴とする請求項4に記載の板紙の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、一種以上の有機凝結剤と、重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子をそれぞれ抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする板紙の製造方法であることを特徴とする。その結果、歩留あるいは濾水を向上させ、紙力も一定程度維持、向上させることができる。重量平均分子量が500万〜1000万と一般的な紙力増強剤に較べ高いため水溶液状の製品形態では製品化はできない。また歩留あるいは濾水向上剤としてだけでなく、紙力増強剤としての使用も兼ね備えるため添加量がやや増加する。すなわち通常紙力増強剤の添加量が、対乾燥製紙原料0.1質量%〜0.5質量%程度であるのに較べ、本発明の両性水溶性高分子は、対乾燥製紙原料0.02質量%〜0.1質量%、好ましくは0.03質量%〜0.08質量%程度である。この添加量は、歩留向上剤の0.01質量%〜0.03質量%に較べると高添加量となる。そのため製品形態から見ても油中水型エマルジョンでは、希釈水溶液の粘性が高く、添加量を増加させた処方には向かないが、無機塩を共存させた油中水型エマルジョンにより希釈液水溶液の粘性を低下させた両性水溶性高分子、あるいは塩水溶液中分散液からなる両性水溶性高分子は、希釈溶解液の粘性が低く添加量を増加させた処方にも対応可能である。化学組成的には紙力増強剤に近く、紙力向上効果も一定程度期待でき、また歩留あるいは濾水性も向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、分子量が1000から数十万、500万程度のカチオン密度としては比較的高い、いわゆる有機凝結剤と歩留向上剤と紙力増強剤の中間的な分子量を有する重合系高分子とを組み合わせて、ピッチトラブルの原因となるアニオントラッシュやマイクロピッチを処理し、その後濾水性を高め、乾燥後の紙質も向上させる板紙の製造方法を提供する。以下使用する各薬剤に関して説明する。
【0014】
初めに本発明で使用する(a)に関して説明する。(a)は脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物である。脂肪族モノアミンは、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノ、ジあるいはトリ各々エタノ−ルアミンなどであり、脂肪族ポリアミンは、アンモニア、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノエチルアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3−ジアミノブタンなどである。またこれらポリアミン類に脂肪族モノアミン、すなわちなどを併用しても良い。ポリアミン/エピハロヒドリン縮合物は、上記ポリアミンあるいはアンモニア、脂肪族モノアミンを併用しエピハロヒドリンと反応させた生成物でも良いし、または反応第一段階でまず脂肪族モノアミンとエピハロヒドリンとを反応し、両末端あるいは片末端反応性のある縮合物を生成させ、反応第ニ段階でポリアミンあるいはアンモニアと反応させ、分子量を増大した生成物でも良い。モノアミン/ポリアミン/エピハロヒドリン縮合物の分子量としては、重量平均分子量で約1,000〜約10万である。
【0015】
また本発明においては、前記ポリアミン/エピハロヒドリン縮合物は、ポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル〜3.0モルを反応し生成した縮合物であることが好ましい。このような比率で反応させることにより、一級、二級、三級あるいは四級アンモニウム塩基のうち複数の種類のアミノ基を有する縮合物を生成させることができる。また一級あるいは二級アミノ基による疎水性物質への吸着作用に効果があると推定される。従って縮合物中に活性水素が存在することが好ましく、エピハロヒドリンの比率を調節することによって原料アミンの水素原子を残しておくことが好ましい。従ってポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル〜3.0モル、好ましくはポリアミン分子中アミノ基1モルに対し、エピハロヒドリン0.5モル〜1.5モルを反応し生成した縮合物であることが好ましい。
【0016】
次に(b)ポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合物に関して説明する。ポリビニルアミン系水溶性高分子の製造法に関しては、特開平6−65329号公報に開示されている。本発明で使用するポリビニルアミンおよびポリビニルアミン繰り返し単位を有する水溶性共重合物は、N−ビニルホルムアミド重合物あるいは共重合体を重合体中のホルミル基を変性することにより容易に得ることができる。すなわちN−ビニルホルムアミドと他の共重合可能な単量体とのモル比が、通常50:50〜100:0の混合物、好ましくは、80:20〜100:0の混合物をラジカル重合開始剤の存在下、重合することにより製造される。
【0017】
酸あるいはアルカリによりホルミル基を加水分解するため、共重合する単量体の一部も加水分解され、カルボキシル基が生成する場合が多い。そのためアクリロニトリルなどが共重合する場合便利である。その他アクリルアミド、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸nプロピル、クリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸nプロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−secブチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。これら単量体は、アニオン性基が生成するので、共重合体中のモル比は、20モル%未満であることが好ましい。
【0018】
上記のN−ビニルホルムアミド共重合体を製造する重合方法としては、塊状重合、水および種々の有機溶媒を用いる溶液重合、沈殿重合のいずれも用いる事が出来る。好ましい重合溶媒としては、水、沸点60〜110℃の有機溶媒および、水と沸点60〜110℃の親水性有機溶媒の混合物が使用される。単量体を溶液状で重合する場合には、目的とする重合体の分子量、重合発熱を考慮して単量体の濃度、重合方法、および重合反応器の形状が適宜選択され、例えば以下の方法によって重合が行われる。すなわち、単量体濃度5〜20重量%の条件で溶液状で重合を開始し、重合体を溶液状または、沈殿物として得る方法、単量体濃度20〜60重量%の条件下重合を開始し、重合物を溶媒を含むゲル状物または析出物として得る方法、単量体濃度20〜60重量%の溶液を、単量体が溶解しない溶媒中で乳化または分散状態で重合する方法等が例示される。
【0019】
ラジカル重合開始剤としては、通常水溶性または親水性の単量体の重合に用いられる一般的な開始剤のいずれもが使用されるが、重合体を収率良く得る為には、アゾ化合物が好ましい。重合溶媒に水を使用する場合、水溶性のアゾ化合物が好ましく、その例としては、2,2′−アゾビス−2−アミジノプロパンの塩酸塩および酢酸塩、4,4′−アゾビス−4−シアノ吉草酸のナトリウム塩、アゾビス−N,N′−ジメチレンイソブチルアミジンの塩酸塩および硫酸塩が挙げられる。これら重合開始剤の使用量は、通常単量体の重量に対して0.01〜1重量%の範囲である。また、重合反応は、一般に、不活性ガス気流下、30〜100℃の温度で実施される。
【0020】
得られたN−ビニルホルムアミド共重合体は、そのままの溶液状もしくは分散状で、あるいは希釈、もしくは、公知の方法で脱水または乾燥して粉末状としたのち変性することにより、新規なるビニルアミン共重合体とすることが出来る。この際に用いられる変性方法としては、N−ビニルホルムアミド共重合体を塩基性および酸性条件下変性するいずれの方法も用いることが出来る。水中で塩基性加水分解すると重合体中のエステル基がカルボキシル基に変わり、アニオン性基を多く含有する両性共重合体を生ずる傾向があり、水溶性の良い両性重合体の勝れた製造法となる。しかし、疎水性を付与したポリビニルアミンを製造するためには、酸性条件下で変性することが好ましい。N−ビニルホルムアミド共重合体の好ましい変性方法としては、水中で酸性加水分解する方法、水を含有するアルコールなどの親水性溶媒中で酸性加水分解する方法、酸性条件下、加アルコール分解し、ホルミル基をギ酸エステルとして分離しつつ変性する方法などが例示されるが、特に好ましいのは、酸性条件下の加アルコール分解である。この方法により、カルボキシル基を実質的に含有しないビニルアミン共重合体を得ることができる。
【0021】
また、酸性変性に使用される変性剤としては、強酸性に作用する化合物ならばいずれも使用することが可能であり、例えば、塩酸、臭素酸、フッ化水素酸、硫酸、硝酸、燐酸、スルファミン酸、アルカンスルホン酸等が挙げられる。変性剤の使用量は、重合体中のホルミル基に対して、通常0.1〜2倍モルの範囲から目的の変性率に応じて適宜選択される。また、変性反応は通常40〜100℃の条件で実施される。
【0022】
重合体中のビニルアミン繰り返し単位は、10〜100モル%であり、好ましくは30〜100モル%であり、更に好ましくは50〜100モル%である。また分子量は重量平均分子量で10万〜500万であり、好ましくは20万〜300万である。これら重合体の製品形態は、粉末、水溶液、油中水型エマルジョンなどどのような形態でもかまわないが、製紙原料に添加する際には水溶液または油中水型エマルジョンであると好ましい。
【0023】
(c)ポリビニルアミジンおよびビニルアミジン繰り返し単位を有する水溶性共重合物は、特開平5−192513号公報に記載されていて、以下のようなものである。N−ビニルホルムアミドとアクリロニトリル共重合体を酸により加水分解し、一級アミノ基を生成させ、そのご隣接するアクリロニトリルのシアノ基と反応することにより生成する。すなわちN−ビニルホルムアミドとアクリロニトリルのモル比が、通常50:50〜60:40の混合物をラジカル重合開始剤の存在下、重合する。
【0024】
その後、酸により加水分解する。酸性変性に使用される変性剤としては、強酸性に作用する化合物ならばいずれも使用することが可能であり、塩酸やスルファミン酸等が挙げられる。変性剤の使用量は、重合体中のホルミル基に対して、通常0.1〜2倍モルの範囲から目的の変性率に応じて適宜選択される。また、変性反応は通常40〜100℃の条件で実施される。
【0025】
重合体中のアミジン繰り返し単位は、20〜100モル%であり、好ましくは30〜100モル%であり、更に好ましくは50〜100モル%である。また分子量は重量平均分子量で10万〜500万であり、好ましくは20万〜300万である。これら重合体の製品形態は、粉末、水溶液、油中水型エマルジョンなどどのような形態でもかまわないが、製紙原料に添加する際には水溶液または油中水型エマルジョンであると好ましい。
【0026】
(d)ポリエチレンイミンおよび四級アンモニウム塩基を含有するポリエチレンイミン変性物は、以下のようなものであり、合成法は、特開2003−193396号公報に記載されている。ポリエチレンイミンは、重量平均分子量としては、5,000以上あれば本発明の目的に使用できる。すなわち好ましくは5,000〜50万であり、更に好ましくは10,000〜50万である。また四級アンモニウム塩基を含有するポリエチレンイミン変性物は、変性後の分子量が好ましくは5,000〜50万であり、更に好ましくは10,000〜50万である。
【0027】
四級アンモニウム塩基を付与する変性は、以下のようにして行う。初めに脂肪族モノアミンとエピハロヒドリンによる縮合物を合成する。脂肪族モノアミンは、モノメチルアミン、モノエチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノ、ジあるいはトリ各々エタノ−ルアミンなどであり、エピハロヒドリンはエピクロルヒドリンを使用する。この縮合物は、変性剤であるため末端反応性にする必要があり、脂肪族モノアミンとエピハロヒドリンの仕込みモル比は、0.8:1.0〜0.98:1.0であり、好ましくは0.9:1.0〜0.95:1.0である。このようにして製造した変性剤をポリエチレンイミンに添加し反応する。仕込み比は、質量比で管理し、ポリエチレンイミン:変性剤比が1.0:0.03〜1.0:0.3であり、好ましくは1.0:0.05〜1.0:0.15である。
【0028】
(e)(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体の重合体あるいは水溶性非イオン性単量体との共重合体は、以下のようなものである。下記一般式(1)あるいは下記一般式(2)で表わされる単量体、あるいは非イオン性単量体との単量体混合物を重合したものである。下記一般式(1)あるいは下記一般式(2)で表わされる単量体の例は、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノエチルの(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドであるジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどであり、これら単量体の塩化メチルや塩化ベンジルによる四級化物である(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロライドである。下記一般式(2)で表わされる単量体は、ジアリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジアリルメチルベンジルアンモニウムクロライドなどである。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【0029】
上記重合体は、非イオン性単量体を共重合した共重合体でもよく、非イオン性単量体は以下のようなものがある。すなわちアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリンなどがあげられる。
【0030】
これら重合体あるいは共重合体の一般式(1)あるいは下記一般式(2)で表わされる単量体のモル%は、20〜100モル%であり、好ましくは50〜100モル%、最も好ましくは70〜100モル%である。また分子量は重量平均分子量で10万〜500万であり、好ましくは20万〜300万である。これら重合体の製品形態は、粉末、水溶液、油中水型エマルジョンなどどのような形態でもかまわないが、製紙原料に添加する際には水溶液または油中水型エマルジョンであると好ましい。水溶液は、通常の水溶液重合により合成することができる。
【0031】
(f)ポリエチレンイミンあるいはその変性物、あるいは脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物から選択される一種以上の水溶液中において、(メタ)アクリル系カチオン性単量体および/またはジアリルアンモニウム塩単量体を重合するか、水溶性非イオン性単量体と共重合体した重合物あるいは共重合物の分散液は、以下のようなものである。ポリエチレンイミンあるいはその変性物中における分散重合は、特開2004−026859号公報に、脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物における分散重合は、特開2009−024125号公報に記載されている。ポリエチレンイミンあるいはその変性物は、(d)の項目で説明したものと同様であり、脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物は、(a)の項目で説明したものと同様である。また(メタ)アクリル系カチオン性単量体および/またはジアリルアンモニウム塩単量体は、(e)の項目で説明したものと同様である。これら重縮合物あるいは重合体水溶液のpHを2〜5に調節した後、(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体、あるいはこれら単量体と必要に応じて非イオン性単量体を加え、前記重縮合物あるいは重合体水溶液中にて分散重合したものである。
【0032】
また前記重縮合物には、無機塩類を共存させることが好ましい。すなわち重合時、使用する塩としては、ハロゲン化アルカリ金属塩や、硫酸塩、燐酸塩などである。具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化アンモニウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、燐酸水素アンモニウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸水素カリウム等を例示することができるが、硫酸塩が特に好ましい。また、これらの塩を液中濃度として1.0質量%〜20質量%として用いることが好ましく、さらに好ましくは3.0質量%〜15質量%である。
【0033】
重縮合物、ポリエチレンイミンあるいはポリエチレンイミン変性物の単量体に対する添加量は、50〜400質量%であるが、好ましくは70〜300質量%、さらに好ましくは100〜200質量%である。単量体をこれら水溶液中に添加した後、窒素雰囲気下にて、重合開始剤、例えば2、2−アゾビス(アミジノプロパン)二塩化水素化物または2、2−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕二塩化水素化物のような水溶性アゾ系重合開始剤、あるいは過硫酸アンモニウムおよび亜硫酸水素ナトリウム併用のような水溶性レドックス系重合開始剤を添加し、撹拌下ラジカル重合を行う。重合の反応温度は0〜100℃の範囲で重合開始剤の性質に応じて任意に選ぶ事ができるが、好ましくは10〜60℃であり、更に好ましくは20〜50℃である。
【0034】
(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体と非イオン性単量体との共重合比モル比で20:80〜100:0であり、好ましくは30:70〜100:0であり、更に好ましくは50:50〜100:0である。また分子量は重量平均分子量で10万〜500万であり、好ましくは20万〜300万である。これら(a)〜(f)の水溶性高分子は、いわゆる有機凝結剤といわれるものであり、主に粒子表面の電荷中和を目的としているため、分子量はそれほど高くはないものが通常使用される。しかしピッチ障害の原因となる製紙原料や白水中に含まれる濁度成分を凝集させ製紙原料中の繊維分に吸着させるためには、ある程度分子量が必要な場合もあり、そのため上限としては500万である。また下限として、通常重合系水溶性高分子は、分子量1万未満を合成することは難しく、その理由から10万である。
【0035】
重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子は、以下のものを使用する。すなわち無機塩を共存させ粘性を低下させた水溶液、油中水型エマルジョンにより希釈液水溶液の粘性を低下させた両性水溶性高分子も使用することが好ましいが、水溶性高分子であり且つ該塩水溶液に溶解する高分子を分散剤として共存させ、該塩水溶液中においてビニル系水溶性単量体混合物を分散重合法により重合した微細粒子の分散液からなる両性水溶性高分子であることが好ましい。単量体はカチオン性として下記一般式(1)あるいは下記一般式(2)の単量体を使用し、アニオン性として下記一般式(3)の単量体を使用し、イオン性を調節するために非イオン性単量体を共重合する。
【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】

一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO、YおよびYは水素イオンまたは陽イオンをそれぞれ表す。
【0036】
一般式(1)あるいは一般式(2)の単量体は、(e)の項目で説明したものと同様である。一般式(3)のアニオン性単量体は、以下のようなものである。
ビニルスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸あるいは2−アクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸あるいはp−カルボキシスチレンなどである。
【0037】
また非イオン性単量体は、アクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、ジアセトンアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、アクリロイルモルホリンなどがあげられ、アクリルアミドが最も好ましい。また重合時に架橋性単量体を添加し、架橋性の水溶性高分子を製造することもできる。架橋性単量体の具体例としてはN,N’−メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどのジビニル化合物、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミドなどのビニル系メチロール化合物、アクロレインなどのビニル系アルデヒド化合物あるいはこれらの混合物が挙げられるが、これらの中でもN,N’−メチレンビスアクリルアミドの使用が好ましい。
【0038】
これら単量体の共重合比率は、一般式(1)あるいは(2)であらわされるカチオン性単量体2〜35モル%、一般式(3)で表わされるアニオン性単量体2〜25モル%及び非イオン性単量体40〜96モル%であることが好ましく、
一般式(1)あるいは(2)であらわされるカチオン性単量体5〜15モル%、一般式(3)で表わされるアニオン性単量体2〜10モル%及び非イオン性単量体75〜93モル%であることがさらに好ましい。
【0039】
重量平均分子量は、500万〜1000万であることが好ましいが、特に好ましくは500万〜800万である。重合系両性水溶性高分子は、紙力増強剤と歩留向上剤の間を埋めるものであり、重量平均分子量が500万より低いと濾水性が向上せず好ましくないが、1000万より高いと地合形成に悪影響を与え好ましくない。この理由は、歩留向上剤に較べ添加量が対乾燥製紙原料0.03〜0.05などと歩留向上剤に較べ多く、分子量が1000万より高いと紙力が低下する場合もある。
【0040】
塩水溶液中で該塩水溶液に可溶な重合体からなる分散剤は、水と任意の割合で溶解するイオン性あるいは非イオン性のビニル系単量体を重合した水溶性の重合体を使用する。これら水溶性の重合体は、塩水溶液中に溶解した状態で使用することが効果的である。そのため使用量としては、塩水溶液中で重合する単量体に対し1質量%〜30質量%であり、3質量%〜20質量%で使用することが好ましい。この添加量範囲では重合体からなる分散剤は、塩水溶液中に可溶である。イオン性ビニル系単量体のうちカチオン性は、(e)の項目で説明したものと同様である。またアニオン性単量体および非イオン性単量体は、(f)の項目で説明したものと同様である。重量平均分子量は、おおよそ1万〜100万のものを使用する。イオン性あるいは非イオン性のビニル系単量体を重合した水溶性の重合体からなる分散剤のイオン性は、カチオン性、アニオン性、非イオン性のいずれでも使用できる。
【0041】
本発明の板紙の製造方法は、紙の欠陥発生の原因物質と考えられるアニオントラッシュ、マイクロピッチおよび濁度成分および製紙原料系と白水系における挙動に関して考察し、その結論としてどのようなピッチ抑制剤を、製紙工程におけるどのような場所で添加すればよいかを検討した結果、考案された紙の欠陥発生抑制方法である。すなわち抄紙系内においてピッチ分が成長するメカニズムは大きく二つに分けられると考えている。一つは、原料チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、種箱までのおよそ3〜4%の原料系においてであり、もう一つは、種原料が循環白水で希釈され、インレットとなり、その白水がさらに循環する白水循環系である。原料チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、種箱までの約3〜4%の原料濃度の部分においては、アニオントラッシュやマイクロピッチ、濁度成分は、攪拌やエアレーション、pH変化、薬剤添加により集塊化される。
【0042】
一方白水系における種原料繊維と原因物質との関係は、種原料が微細繊維を多く含む白水で希釈されることにより、種原料の状態よりも長繊維以外の、微細繊維やピッチ分等が多くなり、それらが循環系のためお互いが接触、衝突する時間がより長くなることである。実際の抄紙工程の白水循環系では、原料系でマイクロピッチや濁度成分の繊維への定着や、集塊化が進んでいるため、アニオントラッシュ、マイクロピッチ、濁度成分は少ない場合が多い。そのためインレット・白水等のカチオン要求量やマイクロピッチ、濁度の測定値が多くのケースで低いことである。そしてパルプ繊維に定着せず集塊化が進んだピッチ分は、微細繊維や填料を巻き込んで粗大粘着物になり、欠陥の要因になると想定される。白水循環系での凝結剤に求められることは、集塊化したピッチ分を、粗大粘着物になる前に繊維へ定着させ抄紙工程内から紙として排出し、白水循環系中の集塊化したマイクロピッチや濁度成分の濃度を低下させることである。
【0043】
上記のような検討結果から本発明においては、製紙工程中の原料チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、種箱までのおよそ3〜4%の原料系において、白水による希釈前の製紙原料中に重量平均分子量が1000〜10万のカチオン性重縮合系水溶性高分子、あるいは重量平均分子量が10万〜500万の重合系カチオン性あるいは両性水溶性高分子を添加し、白水によって前記製紙原料を希釈した後、ビニル系水溶性単量体を重合し該塩水溶液に溶解する重合体からなる分散剤を存在させ、該塩水溶液中においてビニル系水溶性単量体混合物を分散重合法により重合した微細粒子の分散液からなる重量平均分子量が500万〜1000万の両性水溶性高分子を添加する。
【0044】
本発明の板紙の製造方法に関して、薬剤の添加方法を説明すると以下のようになる。重量平均分子量1000〜10万の縮合系高分子、または重量平均分子量10万〜500万のカチオン性あるいは両性重合系高分子を添加する場所として、製紙工程中の原料系の領域に設置されている原料チェスト、混合チェスト、マシンチェスト、種箱までのおよそ3〜4%の原料系が適している。具体的には配合前製紙原料の個別原料パルプチェストの配管出口、前記製紙原料を混合し配合した混合チェストの配管出口、各種薬剤の添加されるマシンチェストの配管出口、種薬剤添加後の種箱の出口が適当である。また前記重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子は、ファンポンプの手前、スクリーンの入り口および出口から選択される一箇所などである。
【0045】
従って製紙原料を希釈した後、重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を添加し、濁度成分や成紙の欠陥にはならないが、ある程度集塊化が進んだ粘着性粒子をワイヤー上で留めることによりこれ以上集塊化を防ぐ。添加場所としては、ファンポンプあるいはスクリーンの前後などが想定されるが、ファンポンプあるいはスクリーンの手前に添加した場合は、攪拌シェアが係り過ぎてフロックが破壊し、濾水性向上効果が低下することもある。従ってスクリーンの出口が最も好ましい。また本発明で使用する重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子は、紙力増強剤の重合体組成からなるため、紙力増強効果が多少発現する。紙力増強剤は一般的には対製紙原料乾燥固形分0.1質量%より多く添加するが、本発明の板紙の製造方法では0.02〜0.1質量%、好ましくは0.03〜0.08質量%程度の添加量であり紙力効果が高く発現するわけではないが、多少発現するため紙質向上に一定程度貢献すると考えられる。これが本発明の板紙の製造方法の特徴といえる。また本発明の重合系両性水溶性高分子に関して上記添加量は、歩留向上剤の通常添加量0.01質量%〜0.03質量%に較べると高添加量となる。そのため製品形態から見ても油中水型エマルジョンでは、希釈水溶液の粘性が高く、添加量を増加させた処方には向かない。これに対し本発明で使用する塩水溶液中分散液からなる両性水溶性高分子は、希釈溶解液の粘性が低く添加量を増加させた処方にも対応可能である。また化学組成的にも紙力増強剤に近く、歩留あるいは濾水向上だけではなく、紙力向上効果も一定程度期待でき、紙力増強剤の添加が省略可能な場合もある。
【0046】
ここで本発明における紙の欠陥発生原因物質と考えられるアニオントラッシュやマイクロピッチ、濁度成分に関しての測定方法を述べる。本発明で使用する
水溶性高分子を添加することによりアニオントラッシュの電荷を中和し、マイクロピッチおよび濁度成分をパルプ繊維に定着させ、その結果未定着のマイクロピッチおよび濁度成分が集塊化するのを防ぐことができる。この効果を確認するため以下の測定法を実施する。すなわち製紙原料中のマイクロピッチや濁度成分と、アニオントラッシュの量を確認するためには、原料ろ過液のマイクロピッチをヘマサイトメーターにより、濁度濁度計により、アオントラッシュはカチオン要求量をPCD計によりそれぞれ測定する。また粘着物は、転写板を使用した粘着物測定法によって実施する。
【0047】
製紙原料に白水を混合し、本発明における水溶性高分子を添加した後、一定時間攪拌し、その後希釈した製紙原料の粘着物は、転写板を使用した粘着物測定法、マイクロピッチはヘマサイトメーターにより、濁度は濁度計により、アニオントラッシュはカチオン要求量をPCD計によりそれぞれ測定する。
【0048】
(実施例)以下に実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0049】
以下の実施例に使用する試料−1〜試料−12及び比較−1〜比較−3は、明細書中に記載した特許文献により合成することができる。これらの化学組成と分子量は、表1に示す。
【0050】
(表1)試験に供した有機凝結剤と両性水溶性高分子試料

DMB;アクリロイルオキシエチルベンジルジメチルアンモニウムクロリド、
DMC;メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、
DMQ;アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリド、
AAC;アクリル酸、AAM;アクリルアミド、メタクリル酸ジメチルアミノエチル
【実施例1】
【0051】
ライナー原紙用製紙原料(pH6.52、ワットマン濾紙No.41による濾過後の乾燥固形分3.66質量%)を用い、本発明の板紙の製造方法の試験を行った。表1試料−1〜試料−9を0.3質量%になるように水で希釈し、10分間攪拌溶解した。次ぎにライナー原紙用製紙原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した試料−1〜試料−9を対製紙原料乾燥固形分300ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量をBTG社製PCD−03型により、濁度をHACH社製2100P型により測定した。結果を表2に示す。
【0052】
マイクロピッチの測定は、試料−1〜試料−9で処理したコートブローク原料を、Whatman濾紙No.41で濾過し、濾液を厚さ0.2mmのカウンティングチェンバー(ヘマサイトメーター)上に採取し、光学顕微鏡1200倍で観察した。ピントを垂直方向にずらしていきながら静止画を複数枚撮影した。カウンティングチェンバー上の異なる5箇所以上で同様の操作を繰り返した。画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc. IMAGE−PRO PLUS Ver.5.0)を用い、顕微鏡画像の静止画を取込み、RGB値のレンジ設定をR値(0−190)、G値(0−130)、B値(0−156)に調整することにより、目的とする粒子を抽出した。その抽出した粒子について、個数を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
次に上記製紙原料を所定量採取、500rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、硫酸バンド1.5%添加20秒間攪拌後、本発明の水溶性高分子、即ち、前記表2に示す試料−1〜試料−9を300ppm(対製紙原料乾燥固形分)添加し20秒攪拌した。また試料−10〜試料−13を400ppm(対製紙原料乾燥固形分)添加し30秒攪拌した。その後、TAPPIスタンダード抄紙機(60メッシュワイヤー使用)により坪量120g/mの紙を抄いた。抄紙時のpHは6.5であった。抄紙した湿紙を4.1kgf/cmで5分間、プレス機にてプレス脱水し、回転式ドラムドライヤーで105℃、3分間乾燥後、25℃、湿度65%の条件で18時間調湿し、JIS P8131に準拠して比破裂強度及び地合い指数を測定した。地合い指数はM/K System Inc.社製「3D Sheet Analyzer」により測定した。この数値は高い程、地合いは良いことを表わしている。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例−1)
実施例1と同様な試験操作により薬剤1(有機凝結剤)として試料−1〜試料−3および試料−7〜試料−9、薬剤2として比較−1(紙力増強剤)、比較−2(紙力増強剤)、比較−3(歩留向上剤)との組み合わせにより試験を行った。結果を表2に示す。
【0055】
薬剤2として比較−1を用いた場合は、カチオン要求量、濁度、マイクロピッチ数、紙の強度や地合は問題ないが、濾水時間が向上せず生産性が上がらない。また薬剤2として比較−3を用いた場合は、濾水時間は向上するが、紙の強度や地合が低下して問題が発生する。
【0056】
(表2)

【実施例2】
【0057】
白板紙用製紙原料(pH7.15、ワットマン濾紙No.41による濾過後の乾燥固形分3.95質量%)を用い、本発明の板紙の製造方法の試験を行った。表1試料−1〜試料−9を0.3質量%になるように水で希釈し、10分間攪拌溶解した。次ぎにライナー原紙用製紙原料100mLをポリビーカーに採取し、溶解した試料−1〜試料−9を対製紙原料乾燥固形分200ppm添加し60秒攪拌した。その後、ワットマン濾紙No.41により濾過し、濾液のカチオン要求量をBTG社製PCD−03型により、濁度をHACH社製2100P型により測定した。結果を表3に示す。
【0058】
マイクロピッチの測定は、試料−1〜試料−9で処理したコートブローク原料を、Whatman濾紙No.41で濾過し、濾液を厚さ0.2mmのカウンティングチェンバー(ヘマサイトメーター)上に採取し、光学顕微鏡1200倍で観察した。ピントを垂直方向にずらしていきながら静止画を複数枚撮影した。カウンティングチェンバー上の異なる5箇所以上で同様の操作を繰り返した。画像処理ソフト(Media Cybernetics,inc. IMAGE−PRO PLUS Ver.5.0)を用い、顕微鏡画像の静止画を取込み、RGB値のレンジ設定をR値(0−190)、G値(0−130)、B値(0−156)に調整することにより、目的とする粒子を抽出した。その抽出した粒子について、個数を測定した。結果を表3に示す。
【0059】
次に上記製紙原料を所定量採取、500rpmの攪拌回転数で攪拌しつつ、硫酸バンド1.5%添加20秒間攪拌後、本発明の水溶性高分子、即ち、前記表2に示す試料−1〜試料−9を200ppm(対製紙原料乾燥固形分)添加し20秒攪拌した。また試料−10〜試料−13を300ppm(対製紙原料乾燥固形分)添加し30秒攪拌した。その後、TAPPIスタンダード抄紙機(60メッシュワイヤー使用)により坪量120g/mの紙を抄いた。抄紙時のpHは6.5であった。抄紙した湿紙を4.1kgf/cmで5分間、プレス機にてプレス脱水し、回転式ドラムドライヤーで105℃、3分間乾燥後、25℃、湿度65%の条件で18時間調湿し、JIS P8131に準拠して比破裂強度及び地合い指数を測定した。地合い指数はM/K System Inc.社製「3D Sheet Analyzer」により測定した。この数値は高い程、地合いは良いことを表わしている。結果を表3に示す。
【0060】
(比較例−2)
実施例1と同様な試験操作により薬剤1(有機凝結剤)として試料−2、試料−4および試料−6、薬剤2として比較−1(紙力増強剤)、比較−2(紙力増強剤)、比較−3(歩留向上剤)との組み合わせにより試験を行った。結果を表3に示す。
【0061】
薬剤2として比較−1を用いた場合は、カチオン要求量、濁度、マイクロピッチ数、紙の強度や地合は問題ないが、濾水時間が向上せず生産性が上がらない。また薬剤2として比較−3を用いた場合は、濾水時間は向上するが、紙の強度や地合が低下して問題が発生する。
【0062】
(表3)





【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)〜(e)から選択される一種以上の有機凝結剤と、重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子をそれぞれ抄紙前の製紙原料に添加することを特徴とする板紙の製造方法。
(a)脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上と、エピハロヒドリンとの重縮合物である、重量平均分子量が1000〜10万のカチオン性水溶性高分子。
(b)ポリビニルアミンおよびビニルアミン繰り返し単位を有する重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(c)ポリビニルアミジンおよびビニルアミジン繰り返し単位を有する重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(d)ポリエチレンイミンおよび四級アンモニウム塩基を有するポリエチレンイミン変性物である、重量平均分子量が5,000〜50万のカチオン性水溶性高分子。
(e)(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体からなる繰り返し単位を有する重合体あるいは共重合体である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子。
(f)ポリエチレンイミンあるいはその変性物、あるいは脂肪族モノアミンおよび脂肪族ポリアミンから選択される一種以上とエピハロヒドリンとの重縮合物から選択される一種以上の水溶液中において、(メタ)アクリル系カチオン性単量体あるいはジアリルアンモニウム塩単量体を分散重合した重合物あるいは共重合物である、重量平均分子量が10万〜500万のカチオン性あるいは両性水溶性高分子からなる分散液。
【請求項2】
前記重合系両性水溶性高分子が、水溶性高分子であり且つ該塩水溶液に溶解する高分子を分散剤として共存させ、該塩水溶液中において下記一般式(1)あるいは(2)で表わされる単量体2〜35モル%、下記一般式(3)で表わされる単量体2〜25モル%を必須として含有するビニル系水溶性単量体混合物を分散重合法により重合した微細粒子の分散液からなる両性水溶性高分子であることを特徴とする請求項1に記載の板紙の製造方法。







【化1】

一般式(1)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキルあるいはアルコキシル基、Rは水素、炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシル基あるいはベンジル基であり、同種でも異種でも良い、Aは酸素原子またはNH、Bは炭素数2〜4のアルキレン基またはアルコキシレン基を表わす、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化2】

一般式(2)
は水素又はメチル基、R、Rは炭素数1〜3のアルキル基、アルコキシ基あるいはベンジル基、Xは陰イオンをそれぞれ表わす。
【化3】

一般式(3)
は水素、メチル基またはカルボキシメチル基、QはSO、CSO、CONHC(CHCHSO、CCOOあるいはCOO、Rは水素またはCOO、YおよびYは水素イオンまたは陽イオンをそれぞれ表す。
【請求項3】
前記両性水溶性高分子の添加量が、前記抄紙前の製紙原料の乾燥固形分当たり、0.02〜0.1質量%であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載の板紙の製造方法。
【請求項4】
前記有機凝結剤を配合前製紙原料の個別原料に添加し、前記重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を、ファンポンプの手前、スクリーンの入り口および出口から選択される一箇所に添加することを特徴とする請求項1あるいは2に記載の板紙の製造方法。
【請求項5】
前記重量平均分子量が500万〜1000万の重合系両性水溶性高分子を、スクリーンの出口に添加することを特徴とする請求項4に記載の板紙の製造方法。


【公開番号】特開2012−72520(P2012−72520A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218760(P2010−218760)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000142148)ハイモ株式会社 (151)
【Fターム(参考)】