説明

板紙の製造方法

【課題】原料に未脱墨の古紙パルプを用い、板紙の製造工程中の白水循環系のスライムコントロールだけでは防止しきれないスライムやノロといわれる異物による成紙欠点を防止して板紙を製造する。
【解決手段】
未脱墨の古紙を製紙原料として板紙を製造する方法において、次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をpH5〜7に調整し、ワイヤーパート及び/又はプレスパートにおいて、シャワー水として、霧状またはシャワー状に噴霧する。更に、前記シャワー水は次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を有効塩素濃度で0.5ppm〜2ppmの範囲に調整されて板紙の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、未脱墨の古紙パルプを用いる板紙の製造において、スライムやノロといわれる異物の発生を抑制し、成紙欠点を防止した板紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板紙は、抄紙機上で複数の紙層が重ねられたもので、段ボール原紙として包装用資材として使用されており、板紙は、従来から古紙利用が多い製品であるが、近年の古紙パルプは、幾度となく繰り返されるリサイクル処理により、パルプ繊維が疲弊しルンケル比が高くなり、繊維長がリサイクル処理の都度短くなり、これらの古紙パルプを用いた段ボール用ライナーは、圧縮強度が低下する傾向にある。
【0003】
板紙は、主として包装用資材に用いられるため、段ボール用ライナー、中芯原紙には高い強度が求められる。しかるに、古紙のリサイクル処理頻度の高まりに伴う強度の低下に対応するために、バージンパルプの配合比率を上げる手法があるが、近年の環境保護意識の高まり、省資源化の流れに逆行するものであり、また、コストアップも避けられない。
【0004】
強度向上を例にとり、古紙を多量に使用しながら、高い圧縮強度を有する段ボール用ライナーを得る方策として、圧縮強度向上のために紙力増強剤を原料パルプ中に添加する方法が行われている。この紙力増強剤として、天然高分子である澱粉や合成高分子であるポリアクリルアミドが汎用されている。
【0005】
紙力増強剤は原料パルプ中に含有させる(すなわち内添する)ため、抄紙段階でパルプ繊維に定着しない紙力増強剤の余剰分が白水中に流出し、設備の汚染、排水処理設備の負荷増加(例えばCOD値の増加)、ウエットエンドコントロールの安定性を損なう問題を生じる。最近は資源リサイクルによる環境保護の観点から古紙の種類も増え、その結果として表面塗工層やダンボールの層間接着剤として使用されている澱粉などが溶出して微生物の栄養源となる物質が豊富に存在するようになってきている。また、脱水処理により発生する排水は工程内に自己循環するのが一般的である。
脱墨した古紙パルプではその製造工程中で脱墨処理により、有機物はある程度除去されるが、板紙で使用する未脱墨の古紙は上記薬品が存在しているため、特に、豊富な栄養で増殖した微生物によりスライムが発生したり、配管にノロと呼ばれるツララ状に付着する粘着物が増加している。
【0006】
スライムやノロは紙切れの原因になり操業トラブルを引き起こす問題がある。また、スラウムやノロは、紙に転移して斑点状の製品欠陥(成紙欠点)が発生する問題がある。特に近年では省資源の立場から白水の循環使用が進んでいるため、スライムやノロによる成紙欠点が増加している。
【0007】
白水系のスライムを防止する方法としては次亜塩素酸ナトリウムと抗菌剤を添加する方法(特許文献1)、次亜塩素酸及び/又は次亜臭素酸を生じる化合物を含むスライムコントロール(特許文献2)また、漂白工程、抄紙工程、抄紙後の製紙排水に次亜塩素酸又は亜塩素酸を添加してスライムコントロールだけでなく、ピッチコントロール及びアニオントラッシュのコントーロールをしているものが開示されている(特許文献3)
しかし、白水に添加できる次亜塩素酸や次亜塩素酸ナトリウムには限界がある。多量に添加すると臭気が紙について問題となる恐れ、装置の腐食問題、更には塩素化合物の発生による作業環境の悪化等の問題もあり、未脱墨の古紙パルプを原料に用いる板紙の製造においては十分とはいえず、成紙欠点はなくなっていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】特開平7−189182号公報
【特許文献2】特開2000−256993号公報
【特許文献3】WO2006/137183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
原料に未脱墨の古紙パルプを用い、板紙の製造工程中の白水循環系のスライムコントロールだけでは防止しきれないスライムやノロといわれる異物による成紙欠点を防止して板紙を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、白水循環系以外のスライムやノロの防止について種々検討を重ねた結果、抄紙工程中のワイヤーパート、ブレスパートでのシャワー水として次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液を用いることにより、成紙欠点を減らすことができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)未脱墨の古紙を製紙原料として板紙を製造する方法において、
次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をpH5〜7に調整し、ワイヤーパート及び/又はプレスパートにおいて、シャワー水として、霧状またはシャワー状に噴霧する板紙の製造方法。
(2)前記シャワー水は次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を有効塩素濃度で0.5ppm〜2ppmの範囲に調整されて噴霧される(1)記載の板紙の製造方法。
(3)前記ワイヤーパートにおいてのシャワー水は、ブレストシャワー水、各ワイヤー洗浄シャワー水、各シリンダーシャワー水、各ドクターシャワー水等として噴霧する(1)又は(2)に記載の板紙の製造方法。
(4)前記プレスパートにおいてのシャワー水は、フェルト洗浄シャワー水、フェルトウェツティングシャワー水として噴霧する(1)〜(3)のいずれかに記載の板紙の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、抄造時にワイヤーパート及び又プレスパートで次亜塩素酸又は次亜塩酸塩をシャワー水として噴霧させることにより、白水循環系へのスライムコントロールでは防ぎきれなかった、成紙欠点を減少させることが可能になり、製品の品質安定化及び、洗浄のための休転の頻度を低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】抄紙機の一例
【図2】ワイヤーパート(ハイズピードウルトラの例
【図3】ワイヤーパート(フォードリニア)の例
【図4】プレスパートの例
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、未脱墨の古紙パルプを原料パルプに用いる板紙の製造方法である。
原料となる未脱墨の古紙パルプはパルパーで離解され、クリーナー・スクリーン等で異物を除去し、叩解により古紙パルプのフリーネスを調整し、紙力剤等の必要な薬品が添加され、各古紙パルプを所定の比率で混合して、抄紙工程に送られる。未脱墨の古紙パルプの原料としては、新聞古紙、印刷古紙、ダンボール古紙、包装用古紙、オフィス古紙等の古紙を原料とするパルプが挙げられる。これらの古紙パルプは単独、または2種類以上混合して使用してもよい。
【0015】
離解・精選工程を経た古紙パルプを公知の各種リファイナー、PFIミル等の叩解機、あるいはデイスパーザー、マイカプロセッサ、ニーダー等の混練装置を用いて、叩解又は混練する。叩解又は混練時に下降させるカナダ標準濾水度(以下CSFと略称)は50ml以上が好ましい。50ml未満では、叩解又は混練処理による、内添填料や塗工層顔料等の灰分の細片化が不十分である。また、該古紙パルプのCSFが80ml以下になるまで叩解を進めると、次の分級工程における操業性が悪化するため好ましくない。叩解後の古紙パルプには各種添加剤(例えば填料、サイズ剤、濾水向上剤等)を添加して紙料として調成し、抄紙工程に送られる。
【0016】
本発明では、抄紙工程において、次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をpH5〜7に調整して、ワイヤーパート及び/又はプレスパートでのシャワー水として噴霧する。
次亜塩素酸塩としては次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウムなどが上げられる。次亜塩素酸塩に比べ次亜塩素酸のほうが殺菌効果が高いため、さらに抄紙時に他の添加薬品への影響が少ないことからも好ましい。
次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩はシャワー水として使用するときに水溶液のpHを5〜7の範囲に希硫酸を用いて調整して使用される。pHが5未満になると塩素ガスが発生する危険があり、pHが7を超えると殺菌効果の高い次亜塩素酸の存在が低くなるため好ましくない。
【0017】
また次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩をシャワー水として使用するときに、好ましくは有効塩素濃度を0.5ppm〜2ppmに調整して使用される。
有効塩素濃度が0.5ppm未満では殺菌効果が不足し十分にスライムはノロの発生を防ぐことができないことがある。また2ppmを超えると、フェルトの繊維切れが発生しやすくなり、繊維切れを起こしたフェルトを使用して得られる板紙は地合いムラが悪化する問題がある。
【0018】
図1に板紙の抄紙機の一例を示す。
図1には5層抄き板紙抄紙機の一例を示す。図の左側から1層目が形成され、順に右側に進み、2層目から5層目までの原料が重ねられ繊維をからませ、同時に脱水される。紙の性質や厚みにより、層数は様々であり、抄紙機によってその層数が異なる。
その後、プレスパートに送られ、フェルトに挟み、ロールとロールの間を通し、そのロールで強く押し付けて脱水する。
【0019】
図2はハイスピードウルトラ、図3にはフォードリニアと、一般的なワイヤーパートの例を示す。ワイヤーパートでロールが高速で回転しながら原料を脱水しているため、脱水された白水が周辺に飛び散る。よって、ワイヤー、ロール及び周辺設備が汚れ、スライムやノロが発生する。これらのスライムやノロが大きくなると紙に転移し、最終製品での汚れ発生の原因のひとつとなっている。
また、直接原料と接しているワイヤーは徐々に原料詰まり等による汚れが生じる。
これらの対策としてシャワー設備を配備している(図2、3に一般的なシャワー配置を示す)。しかし、シャワー水自体も腐敗してスライムやノロを発生させてしまう。よって、シャワー配管内や、シャワー水が飛び散った周辺設備に発生したスライムやノロが紙に転移して最終製品に汚れを発生させてしまう事がある。
板紙には単層抄紙と多層抄紙があるが、特に多層抄紙では層ごとにワイヤーパートが存在するため、剥離したスライムが転写する箇所が多く、洗浄箇所も多くなる。ワイヤーパートに使用するシャワー水に次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をpH5〜7に調整して抄紙時に常時噴霧して使用することにより、紙に転写することがない。ワイヤーパートで使用するシャワー水としてはブレストシャワー水、各ワイヤー洗浄シャワー水、各シリンダーシャワー水、各ドクターシャワー水が挙げられる。シャワー方式に制限はないが、シャワー水は速やかに吸引されて、紙に転写されないことが重要である。
【0020】
また、抄紙工程のプレス工程でも前記次亜塩素酸及び/又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をシャワー水として使用する。図4は一般的なプレスパートの一例である。
プレスパートにおいても、ワイヤーパート同様に高速でロールが回転しながら脱水をしている。このプレスパートでも脱水された白水の飛び散りやフェルトの汚れがあるためシャワー設備を配備している(図3に一般的なシャワー配置を示す)。ワイヤーパート同様にシャワー水自体の腐敗によりシャワー配管及びその周辺設備に汚れを発生させてしまう。
フレスパートでのシャワー水としてはフェルト洗浄シャワー水、フェルトウェツティングシャワー水等が挙げられる。プレスパート同様シャワー方式に制限はないが、シャワー水は速やかに吸引されて、紙に転写させないことが重要である。
更にワイヤーパート及び、プレスパートの両方で使用することにより、更に欠点が減少し、装置全体の洗浄回数が減るため好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
<実施例1>
原料に未脱墨の古紙パルプを用いて、pH6.0、濃度0.5ppmの次亜塩素酸水溶液をシャワー水として使用して5層抄き、170g/mの板紙を製造した。成紙欠点4個数/10Kmであり実用上問題ない品質が得られた。
【0022】
<実施例2>
次亜塩素酸水溶液のpH5.0、濃度を1ppmにした以外は実施例1と同様にして170g/mの板紙を製造した。
成紙欠点2個数/10Kmであり実用上問題ない品質が得られた。
【0023】
<実施例3>
次亜塩素酸水溶液のpHを7.0、濃度を3.0ppmにした以外は実施例1と同様にして170g/mの板紙を製造した。
成紙欠点1個数/10Kmであり実用上問題ない品質が得られた。
【0024】
<比較例1>
次亜塩素酸水溶液のpHを7.5、濃度0.5ppmにした以外は実施例1と同様にして170g/mの板紙を製造した。成紙欠点10個数/10Kmであり、欠陥が多く外観が劣り実用に適さない品質であった。
【0025】
<比較例2>
次亜塩素酸水溶液を、水道水にした以外は実施例1と同様にして170g/mの板紙を製造した。成紙欠点15個数/10Kmであり、欠陥が多く外観が劣り実用に適さない品質であった。
【0026】
実施例に示すように、抄紙工程中のワイヤーパート、ブレスパートでシャワー水として次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液を用いることにより、成紙欠点を減らすことができる。
【0027】
本発明は、未脱墨の古紙パルプを用いる板紙の製造において、スライムやノロといわれる異物の発生を抑制し、成紙欠点を防止した板紙を提供できる。
【符号の説明】
【0028】
1:シリンダー洗浄シャワー
2:ドクターシャワー
3:ワイヤー洗浄シャワー
4:ブレストシャワー
5:ワイヤー
6:ウェッティングシャワー
7:フェルト洗浄シャワー
8:フェルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未脱墨の古紙を製紙原料として板紙を製造する方法において、
次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を含有する水溶液をpH5〜7に調整し、ワイヤーパート及び/又はプレスパートにおいて、シャワー水として、霧状またはシャワー状に噴霧する板紙の製造方法。
【請求項2】
前記シャワー水は次亜塩素酸又は次亜塩素酸塩を有効塩素濃度で0.5ppm〜2ppmの範囲に調整されて噴霧される請求項1記載の板紙の製造方法。
【請求項3】
前記ワイヤーパートにおいてのシャワー水は、ブレストシャワー水、各ワイヤー洗浄シャワー水、各シリンダーシャワー水、各ドクターシャワー水等として噴霧する請求項1又は2に記載の板紙の製造方法。
【請求項4】
前記プレスパートにおいてのシャワー水は、フェルト洗浄シャワー水、フェルトウェッティングシャワー水として噴霧する請求項1〜3のいずれかに記載の板紙の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−28879(P2013−28879A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−166268(P2011−166268)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000122298)王子ホールディングス株式会社 (2,055)
【出願人】(503072126)王子マテリア株式会社 (4)
【Fターム(参考)】