説明

枚葉シートの浮き防止装置及び枚葉印刷機並びに浮き防止方法

【課題】剛性が低い枚葉シートの場合に、枚葉シートの自由端側の圧胴の外周面からの浮き上がりを抑えるとともにバタつきが生じないようにする。
【解決手段】ゴム胴16Eが胴抜き状態の場合に、枚葉シートSの前端部から中間部が撮影領域30Aを通過する間は上流の第1シート押え装置31を作動させ枚葉シートSを圧胴17Eの外周面に押しつけると共に下流の第2シート押え装置32を作動停止とし、枚葉シートSの中間部から後端部が撮影領域を30A通過する間は第2シート押え装置32を作動させ枚葉シートSを圧胴17Eの外周面に押しつけると共に第1シート押え装置31を作動停止とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枚葉印刷機に装備され、枚葉シートの印刷胴の外周面からの浮き上がりを防止する枚葉シートの浮き防止装置及びそれを備えた枚葉印刷機並びに枚葉シートの浮き防止方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、枚葉印刷機において、印刷直後の印刷物の印刷状態を撮影して印刷品質を検査する技術が開発されている(例えば、特許文献1〜4を参照)。これらの特許文献1〜4の場合には、いずれも、印刷面の最終印刷装置の圧胴に対向して撮影装置(カメラ)を配備して印刷状態を撮影するように構成している。
枚葉印刷機では、枚葉シート(枚葉紙等の枚葉状の印刷シート)の先端部(咥え側)を咥え機構によって咥えて圧胴及び中間胴の外周面に沿って搬送しながら印刷を行なうため、枚葉シートの後端部(尻側)は、ゴム胴(ブランケット胴)と圧胴とのニップ部や圧胴と中間胴とのニップ部以外では拘束されないため、圧胴及び中間胴の外周面から浮き上がり易い。
【0003】
撮影した画像情報から印刷品質を検査する場合、カメラのレンズと枚葉シートとの距離が変化すると適切な画像情報が得られず、印刷品質の検査を適正に行えない。
そこで、特許文献1,4には、例えば、図8に示すように、ゴム胴16と圧胴17とのニップ部NPの下流にカメラ30を装備し、カメラ30の撮影領域30A近傍の圧胴17の外周面に向けてエアを噴射して、枚葉シートSを圧胴17の外周面に押しつけて密着させるエア式押え装置31を設置する構成が記載されている。特許文献1の技術では、圧胴17の回転位相に対応させてエア式押え装置31を作動させ枚葉シートSの所定の範囲にエアを噴射するようにしている。
【0004】
特許文献2には、カメラの撮影領域近傍においてカメラの撮影軸心線よりも枚葉シートの搬送方向上流側と下流側とにそれぞれ圧胴の外周面に向けてエアを噴き出すエア式押え装置を設置すると共に、ほぼ撮影軸心線上に吸引装置を設け、2つのエア式押え装置から噴射したエアを吸引装置で吸引して、撮影領域以外の部分にエアの流れが発生しないようにして、撮影領域以外の部分への噴射エアによる枚葉シートのバタつきを抑える技術が記載されている。
【0005】
特許文献3には、カメラの撮影領域近傍においてカメラの撮影軸心線よりも枚葉シートの搬送方向上流側に圧胴の外周面にコロを当接させたコロ式押え装置と圧胴の外周面に向けてエアを噴き出すエア式押え装置との両方を設置して、枚葉シートの浮き上がりとバタつきとを抑える技術が記載されている。
また、特許文献5には、枚葉シートとしての薄紙と厚紙とに応じてエア式押え装置のエアの流量を調整する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−99853号公報
【特許文献2】特開2006−1079号公報
【特許文献3】特開2008−58004号公報
【特許文献4】特開2010−188662号公報
【特許文献5】特開2010−208809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ゴム胴が胴入れされて枚葉シートがブランケット胴と圧胴とのニップ部に挟持されていれば、枚葉シートの自由端(後端)側が圧胴の外周面から浮き上がることもバタつくこともない。しかし、ゴム胴が胴抜きされていると、枚葉シートの自由端(後端)側が圧胴の外周面から浮き上がってしまうため、押え装置による浮き上がり防止の処理が必要になる。しかし、エア式押え装置を用いる場合、エアの流量を多くする(即ち、圧胴の外周面に向かうエア圧を高くする)と、シートの自由端(後端)側がバタつきやすくなるので、枚葉シートの自由端(後端)側の圧胴の外周面からの浮き上がりを抑えるとともにバタつきが生じないようにしなければならない。
【0008】
また、ゴム胴が胴入れされて枚葉シートがゴム胴と圧胴とのニップ部に挟持されていても、枚葉シートのニップ部に挟持されない部分が圧胴の外周面に沿わず、圧胴の外周面から浮き上がってしまう場合もある。一方、ゴム胴が胴抜きされているときには、エア式押え装置のエアの流量が十分に多くない(即ち、圧胴の外周面に向かうエア圧が十分に高くない)と、枚葉シートの自由端(後端)側が圧胴の外周面から浮き上がってしまうおそれがある。
【0009】
このように、枚葉シートの浮き上がりやバタつきがあると、撮影装置(カメラ)により枚葉シートの印刷状態を撮影しても、カメラと枚葉シートとの距離の変化により適切な画像情報が得られず、印刷品質の検査を適正に行えないおそれもある。
また、このような不具合は、印刷品質の検査に限るものではない。例えば、UVインキで印刷した印刷面をUV式乾燥装置によるUV照射で乾燥させる場合にも、UV照射対象の枚葉シートの浮き上がりやバタつきがあると、適正なUV乾燥を行なえないおそれがある。
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、枚葉シートの自由端(後端)側の圧胴の外周面からの浮き上がりを抑えるとともにバタつきが生じないようにして、枚葉シートの印刷面に対する処理を適正に行なうことができるようにした、枚葉シートの浮き防止装置及び枚葉印刷機並びに枚葉シートの浮き防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の枚葉シートの浮き防止装置は、前端部を保持されながら枚葉印刷機の圧胴とゴム胴とのニップ部から送り出され前記圧胴の外周面に沿って移送される枚葉シートが、特定箇所で前記圧胴が前記外周面から浮き上がることを防止する枚葉シートの浮き防止装置であって、前記ニップ部よりも前記移送方向の下流に配置され、前記特定箇所を含む特定領域において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつける第1シート押え装置と、前記第1シート押え装置よりも前記移送方向下流に配置され前記移送方向上流に向けてエアを噴射することにより前記特定領域において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつけるエア式の第2シート押え装置と、前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置の作動を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記枚葉シートの前端部から中間部が前記特定領域を通過する間は前記第1シート押え装置を作動させると共に前記第2シート押え装置を作動停止とし、前記枚葉シートの中間部から後端部が前記特定領域を通過する間は前記第2シート押え装置を作動させると共に前記第1シート押え装置を作動停止とする第1制御を実施することを特徴としている。
【0012】
かかる枚葉シートの浮き防止装置によれば、ゴム胴が胴抜き状態の場合に、枚葉シートの前端部から中間部が、例えば、撮影装置の撮影対象の基準箇所やUV式乾燥装置の紫外線照射対象の基準箇所といった特定箇所を含む特定領域(撮影領域或いは紫外線照射領域等)を通過する間は、上流の第1シート押え装置を作動させると共に下流の第2シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの前端部から中間部の圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。その後、枚葉シートの中間部から後端部が特定領域を通過する間は第2シート押え装置を作動させると共に第1シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの中間部から後端部をバタつかせることなく圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【0013】
また、前記制御装置は、前記枚葉シートの剛性が基準剛性以下の低剛性シート(薄紙)であることを条件に、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記第1制御を実施し、前記ゴム胴が胴入れ状態の場合に、前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置をいずれも作動停止とする第2制御を実施することが好ましい。
このように、枚葉シートが低剛性シート(薄紙)の場合、ゴム胴が胴入れ状態であれば、枚葉シートはニップ部を通過している間はゴム胴と圧胴との間に挟持されるので、第1シート押え装置及び第2シート押え装置をいずれも作動停止としても、枚葉シートの圧胴外周面からの浮き上がりを支障なく防止することができ、しかも、シート押え装置の不要な作動を防止することができる。
【0014】
さらに、前記制御装置は、前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)であることを条件に、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置をいずれも作動させる第3制御を実施することが好ましい。
枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)であってゴム胴が胴抜き状態の場合には、枚葉シートが自身の剛性によって圧胴外周面から浮き上がり易いが、第1シート押え装置及び第2シート押え装置をいずれも作動させることで、エアの噴射量を多くして枚葉シートを圧胴の外周面に確実に押しつけることができ、枚葉シートの圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【0015】
また、前記制御装置は、前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)であることを条件に、前記ゴム胴が胴入れ状態の場合に、前記第1シート押え装置を作動させると共に前記第2シート押え装置を作動停止とする第4制御を実施することが好ましい。
枚葉シートが高剛性シート(厚紙)であってゴム胴が胴入れ状態の場合には、枚葉シートはニップ部を通過している間は、ゴム胴と圧胴との間に挟持されるので、浮き上がりは少ないので、第1シート押え装置を作動させると共に第2シート押え装置を作動停止とすることにより、シート押え装置の過剰な作動を抑えながら、枚葉シートの圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。また、高剛性シートの場合、枚葉シートの表面に向けてエアを噴射しても自身の剛性によって枚葉シートにバタつきが生じることはない。さらに、第2シート押え装置を作動停止とすることにより、ゴム胴側へ向かうエアによるゴム胴表面の乾燥を低減することができる。
【0016】
また、前記第1シート押え装置は、前記枚葉シートの表面に向けてエアを噴射することにより前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつけるエア式のシート押え装置として構成され、エア式の前記第1シート押え装置及びエア式の前記第2シート押え装置へのエアの供給状態を切り替えるロータリーバルブを備え、前記制御装置は、前記ロータリーバルブの回転位相を制御することにより、前記第1シート押え装置と前記第2シート押え装置の作動を制御することが好ましい。
【0017】
上流の第1シート押え装置をエア式のものとすると、非接触で枚葉シートの浮き上がりを防止することができるが、枚葉シートの剛性が基準剛性以下の低剛性シート(薄紙)の場合は、枚葉シートの表面に向けてエアを噴射すると枚葉シートの中間部から後端部にバタつきが生じやすい。この点、枚葉シートの中間部から後端部に対しては、第2シート押え装置を作動させて、移送方向上流に向けてエアを噴射することにより枚葉シートを圧胴の外周面に押しつけるため、バタつかせることなく圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【0018】
また、第2シート押え装置を第1シート押え装置と同様にエア式のものにして、第1シート押え装置及び第2シート押え装置へのエアの供給状態を切り替えるロータリーバルブを備えれば、制御装置は、ロータリーバルブの回転位相を制御することにより、第1シート押え装置と第2シート押え装置の作動に関する第1シート押え装置及び第2シート押え装置の作動の制御を簡便に実施することができる。
【0019】
さらに、前記第2シート押え装置のエア噴射量は、前記第1シート押え装置のエア噴射量よりも少量に設定されていることが好ましい。
これにより、枚葉シートが特に低剛性シート(薄紙)の場合のゴム胴が胴抜き状態の際に、第2シート押え装置を作動させて、移送方向上流に向けてエアを噴射することにより特定領域において枚葉シートを圧胴の外周面に押しつけるときのエアの強さが抑えられ、第2シート押え装置によるエア噴射に起因した枚葉シートの中間部から後端部にバタつきのおそれも回避される。
【0020】
さらに、前記枚葉シートの印刷面に印刷を行なう枚葉印刷機の前記圧胴に対向して、印刷品質管理のために前記枚葉シートの前記印刷面を撮影する撮影装置が設けられていることが好ましい。
印刷品質管理のための撮影装置の場合、印刷品質管理精度を高めるためには高画質な撮影画像が要求され、撮影装置を撮影領域に接近させることが有効であるが、撮影装置を撮影領域に接近させるほど、枚葉シートの僅かな浮き上がりやバタつきが撮影装置の焦点からの著しいズレを招き画質を落とし印刷品質管理精度を低下させることになるが、このような不具合も回避される。
【0021】
あるいは、前記枚葉シートの印刷面に印刷を行なう枚葉印刷機の前記圧胴に対向して、前記印刷面に転写されたUVのインキの乾燥のために前記枚葉シートの前記印刷面に紫外線を照射するUV式乾燥装置が設けられていることも好ましい。
枚葉シートの印刷面に転写されたUVのインキの乾燥のためのUV式乾燥装置の場合、効率よいインキの乾燥のためには、UV式乾燥装置を紫外線照射領域に接近させることが有効であるが、UV式乾燥装置を紫外線照射領域に接近させるほど、枚葉シートの僅かな浮き上がりやバタつきがUV式乾燥装置との接触、ひいてはシートへの傷入りを招くことになるが、このような不具合も回避される。
【0022】
また、本発明の枚葉印刷機は、枚葉シートの前端部を咬んで前記枚葉シートを外周面に沿って保持しながら回転して前記枚葉シートを移送する圧胴と、前記圧胴にニップ係合し前記枚葉シートの印刷面にインキを転写可能な胴入れ状態と、前記圧胴から離隔する胴抜き状態とに切り替え可能なゴム胴と、をそなえた枚葉印刷機であって、前記胴入れ状態の際に前記ゴム胴が前記圧胴にニップ係合するニップ部の下流の前記圧胴の外周に、上記の枚葉シートの浮き防止装置が装備されていることを特徴としている。
【0023】
かかる枚葉印刷機によれば、ゴム胴が胴抜き状態にされて印刷が行なわれる場合に、枚葉シートの前端部から中間部が、例えば、撮影装置の撮影対象の基準箇所やUV式乾燥装置の紫外線照射対象の基準箇所といった特定箇所を含む特定領域(撮影領域或いは紫外線照射領域等)を通過する間は、上流の第1シート押え装置を作動させると共に下流の第2シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの前端部から中間部の圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。その後、枚葉シートの中間部から後端部が特定領域を通過する間は第2シート押え装置を作動させると共に第1シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの中間部から後端部をバタつかせることなく圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができ、例えば、印刷された枚葉シートの撮影装置による撮影やUV式乾燥装置による乾燥を適正に行なうことができる。
【0024】
さらに、本発明の枚葉シートの浮き防止方法は、前端部を保持されながら枚葉印刷機の圧胴とゴム胴とのニップ部から送り出され前記圧胴の外周面に沿って移送される枚葉シートが、特定箇所で前記圧胴の前記外周面から浮き上がることを防止する枚葉シートの浮き防止方法であって、前記ゴム胴の胴抜き時に、前記枚葉シートの前端部から中間部が前記特定箇所を含む特定領域を通過する間は、前記特定箇所よりも前記移送方向の上流の前記ニップ部と前記特定箇所との間において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押し付ける、上流側シート押え処理を行い、前記枚葉シートの中間部から後端部が前記特定領域を通過する間は、前記特定箇所よりも前記移送方向下流でエアを用いて前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押し付ける、下流側シート押え処理を行うことを特徴としている。
【0025】
かかる枚葉シートの浮き防止方法によれば、ゴム胴が胴抜き状態にされて印刷が行なわれる場合に、枚葉シートの前端部から中間部が、例えば、撮影装置の撮影対象の基準箇所やUV式乾燥装置の紫外線照射対象の基準箇所といった特定箇所を含む特定領域(撮影領域或いは紫外線照射領域等)を通過する間は、上流の第1シート押え装置を作動させると共に下流の第2シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの前端部から中間部の圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。その後、枚葉シートの中間部から後端部が特定領域を通過する間は第2シート押え装置を作動させると共に第1シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの中間部から後端部をバタつかせることなく圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【0026】
前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)である条件下で、前記ゴム胴の胴抜き時には、少なくとも前記枚葉シートの前端部から後端部が前記特定領域を通過する間は前記上流側シート押え処理と前記下流側シート押え処理とを実施することが好ましい。
枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)であってゴム胴が胴抜き状態の場合には、枚葉シートが自身の剛性によって圧胴外周面から浮き上がり易いが、第1シート押え装置及び第2シート押え装置をいずれも作動させることで、エアの噴射量を多くして枚葉シートを圧胴の外周面に確実に押しつけることができ、枚葉シートの圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の枚葉シートの浮き防止装置,枚葉印刷機又は浮き防止方法によれば、ゴム胴が胴抜き状態の場合に、枚葉シートの前端部から中間部が、例えば、撮影装置の撮影対象の基準箇所やUV式乾燥装置の紫外線照射対象の基準箇所といった特定箇所を含む特定領域(撮影領域或いは紫外線照射領域等)を通過する間は、上流の第1シート押え装置を作動させると共に下流の第2シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの前端部から中間部の圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。また、枚葉シートの中間部から後端部が特定領域を通過する間は第2シート押え装置を作動させると共に第1シート押え装置を作動停止とするので、枚葉シートの中間部から後端部をバタつかせることなく圧胴の外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかる枚葉シートの浮き防止装置を両面印刷機の要部断面と共に示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる両面印刷機を示す側面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる枚葉シートの浮き防止装置の作動を説明するエア供給系統図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる枚葉シートの浮き防止装置に備えられたロータリーバルブの断面図であり、(a)〜(d)は各位相状態を示す。
【図5】本発明の一実施形態にかかる枚葉シートの浮き防止装置による浮き防止制御(第1制御)にかかるエアの供給状態[図5(a)]及びロータリーバルブの状態[図5(b)]を圧胴の回転角度に応じてに示す図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる枚葉シートの浮き防止装置による浮き防止制御(第1制御)にかかる第1シート押え装置と第2シート押え装置の作動非作動の状態を(a)から(c)にわたって順に示す圧胴の側面図である。
【図7】本発明の一実施形態の変形例にかかる枚葉シートの浮き防止装置の作動を説明するエア供給系統図である。
【図8】背景技術にかかる枚葉シートの浮き防止装置を両面印刷機の要部断面と共に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図6は本発明の一実施形態について説明するもので、これらの図に基づいて説明する。なお、以下の実施形態では、両面オフセット枚葉印刷機を例示して説明するが、本発明は片面オフセット枚葉印刷機(いわゆる、片面機)にも適用しうるものである。
【0030】
〔印刷機の構成〕
本実施形態にかかる枚葉印刷機は、図2に示すように、両面オフセット枚葉印刷機(以下、単に、枚葉印刷機という)1であって、アート紙やコート紙等の通常の紙の他、フィルム等に代表される枚葉シート(枚葉紙等の枚葉状の印刷シート、以下、単に印刷シートとも言う)Sを被印刷媒体として印刷するものである。
【0031】
この枚葉印刷機1は、印刷シートSの搬送される方向の上流側から、給紙部2と、印刷部としての裏面印刷部3及び表面印刷部4と、排紙部5とを備え、裏面印刷部3と表面印刷部4とが連接ユニット6により連結されている。そして、裏面印刷部3及び表面印刷部4は、それぞれ複数の印刷ユニット7,8を有している。
本実施形態では、裏面を印刷した後に表面を印刷する両面専用機を説明するが、途中で紙を表裏反転する反転機や圧胴−圧胴咥え替え方式の2階建て両面機であっても本発明に適用できる。
【0032】
給紙部2は、給紙台13と、給紙機構14とを備える。給紙台13は、シートSを積層して載置するものであり、給紙機構14は、給紙台13の上に積層されたシートSを上から順に一枚ずつ取り上げて供給するものであり、セパレータ(紙吸)、カム、フィーディングローラ等により構成される。給紙台13は、給紙機構14が印刷シートSと略一定の位置関係を保つように印刷シートSの供給に対応して鉛直方向上側に移動するように制御されている。
【0033】
裏面印刷部3,表面印刷部4は、複数の異なる色のインキを印刷してカラー印刷を実現する複数の印刷ユニット7,8を備える。複数の印刷ユニット7,8は、印刷する色ごとに印刷シートSの進行方向Lに沿って複数並んで設けられ、この枚葉印刷機1では、裏面印刷部3及び表面印刷部4においてそれぞれ、例えば、C(シアン),M(マゼンダ),Y(イエロー)及びK(黒)などの4つの異なるインキ色に各々対応した4つの印刷ユニット7,8が設けられる。インキ色の種類はこれに限らず、印刷ユニットの数もこれに限らない。
【0034】
各印刷ユニット7,8は、版胴15と、ゴム胴(ブランケット胴)16と、圧胴17とを備える。この版胴15,ゴム胴16及び圧胴17は、裏面印刷部3では装置内の下側から上側に、表面印刷部4では装置内の上側から下側にこの順で相互に接するように配置されている。版胴15,ゴム胴16及び圧胴17は、それぞれ円筒状に形成されると共にその中心軸線が進行方向Lと水平に交差するように設けられる。そして、版胴15,ゴム胴16及び圧胴17は、中心軸線を回転中心として回転可能に設けられる。
【0035】
版胴15は、周面に印刷画像を形成するための刷版が装着される。各印刷ユニット7,8は、この版胴15の周囲に、刷版の画線部にインキを供給するためのローラ群からなるインキ供給装置(図示略)および非画線部に湿し水を供給するための水ローラ群からなる湿し装置(図示略)を備える。ゴム胴16は、周面に弾性材料で形成されたゴムが装着され、版胴15の画線部に供給されたインキがこのゴムに転写され、印刷画像を絵柄としてシートSに転写する。圧胴17は、ゴム胴16と協働して所定の印圧をかける。
【0036】
圧胴17は、版胴15,ゴム胴16の直径の2倍の直径を有する、いわゆる倍胴であり、周面に印刷シートSの先端を咬んで保持する爪装置(図示略)が設けられる。爪装置は、この圧胴17の中心軸線を挟んでほぼ対称に2箇所に設けられる。なお、本実施形態では倍胴を用いる構成を採用したが、これに限られるものではなく、版胴と直径が同じ単胴タイプ(爪装置は1箇所に設けられることになる)の圧胴を用いても良い。
【0037】
各印刷ユニット7,8は、さらに中間胴18を備える。この中間胴18は、印刷シートSの進行方向Lに対して圧胴17の上流側に、この圧胴17に接するように配置される。この中間胴18は、版胴15,ゴム胴16及び圧胴17と同様に、円筒状に形成されると共にその中心軸線が進行方向Lと水平に交差するように設けられ、中心軸線を回転中心として回転可能に設けられる。
【0038】
また、中間胴18は、圧胴17と同様に、版胴15,ゴム胴16の直径の2倍の直径を有する、いわゆる倍胴であり、周面の2箇所にシートSの先端を咬んで保持する爪装置(図示略)が設けられる。なお、本実施形態では倍胴を用いる構成を採用したが、これに限られるものではなく、版胴と直径が同じ単胴タイプ(爪装置は1箇所に設けられることになる)の中間胴を用いても良い。
【0039】
各印刷ユニット7,8は、各中間胴18が、シートSの進行方向Lに対して上流側に隣接する印刷ユニット7の圧胴17と接するように配置される。給紙部2から供給される印刷シートSは、まず、裏面印刷部3において最上流側に位置する印刷ユニット7のゴム胴16と圧胴17との間に供給され、その後、下流側の印刷ユニット7,8の中間胴18から圧胴17へそれぞれの爪装置に咥え替えされることによって、各印刷ユニット7,8を通して搬送され、その途上において次々とインキが転写される。
【0040】
排紙部5は、裏面印刷部3,表面印刷部4で両面印刷された印刷シートSを搬送し整列した状態で積み重ねるものである。排紙部5は、印刷された印刷シートSを搬送する搬送部19と、印刷シートSが積層される排紙台20と、排紙台20の近傍で下降気流を形成するファン装置21と、真空吸引車装置22と、紙当て23と、後方紙揃え装置24と、幅方向紙揃え装置25とを備える。
【0041】
このような構成によって、かかる枚葉印刷機1では、給紙部2から裏面印刷部3に印刷シートSが供給されると、まず、複数の印刷ユニット7にて、印刷面となる印刷シートSの裏面に対して、4色のインキごとに印刷画像が転写される。その後、連接ユニット6により表面印刷部4に搬送される。そして、前述した裏面印刷部3での印刷工程と同じように、裏面に印刷が施された印刷シートSの表面を印刷面として、裏面印刷部3の複数の印刷ユニット8にて、4色のインキが順に転写された後、排紙部5にて搬送部19により搬送,排出され、ファン装置21,真空吸引車装置22,紙当て23,後方紙揃え装置24及び幅方向紙揃え装置25により整列されて排紙台20上で積層される。即ち、この両面オフセット枚葉印刷機1では、印刷シートSの裏面に印刷を施した後、この印刷シートSを反転させることなく、その印刷シートSの表面に印刷を施すことができる。
【0042】
なお、印刷オーダーによっては、複数(ここでは、4つ)の印刷ユニット7,8の一部のみを使用して印刷を行なう場合もある。この場合、使用しない印刷ユニットでは、ゴム胴16を圧胴17から離隔させる「胴抜き」を行なう。もちろん、使用する印刷ユニットでは、ゴム胴16を圧胴17に圧接させる「胴入れ」を行なう。この胴入れ時には、印刷シートSはゴム胴16と圧胴17間のニップ部に挟持されながらゴム胴16からインキを転写される。
【0043】
この枚葉印刷機1には、裏面印刷部3及び表面印刷部4のそれぞれの最終印刷ユニットのゴム胴(最終ゴム胴)16Eと圧胴(最終圧胴)17Eとのニップ部NPの直下流の特定箇所に、圧胴17Eの外周面に沿って搬送される印刷シートSの印刷面を撮影する撮影装置(カメラ)30が付属装置として装備され、カメラ30により撮影した画像情報を印刷品質の管理に用いるようにしている。図2においては、カメラ30の設置箇所を星印Cで示している。
【0044】
なお、カメラ30としては、CCD等の撮像素子を利用して撮影画像を電気信号に変換し記録可能なCCDカメラ等の電子カメラが適用できる他、イメージセンサをライン上に並べて構成されたラインセンサを適用してもよく、また、イメージセンサによって色の発色濃度を検出する濃度センサを適用してもよく、カメラの種類は限定されない。
また、ここでは、最終印刷ユニットにカメラ30が装備されるものを説明するが、カメラ30は中間印刷ユニットに設けられてもよい。
【0045】
〔最終印刷ユニットのカメラ近傍の構成〕
図1は、表面印刷部4の最終印刷ユニットの最終ゴム胴16Eと最終圧胴17Eとのニップ部NP及びその下流を模式的断面で示すと共に、カメラ30及び本装置(枚葉シートの浮き防止装置)の構成を示している。なお、裏面印刷部3の最終印刷ユニットの場合、最終ゴム胴16E,最終圧胴17E及びカメラ30は図1に示すものが上下反転された状態で装備される違いがあるが、本装置としては実質的には表面印刷部4のものと同様な構成であるので、図示を省略する。
【0046】
図1に示すように、最終ゴム胴16Eと最終圧胴17Eとのニップ部NPの下流には、カメラ30が画像検出部30aの撮影対象領域を最終圧胴17Eの外周面の特定箇所を含む領域(特定領域)に向けて装備されている。ここでは、カメラ30はニップ部NPに接近させて配置されており、画像検出部30aが画像検出する撮影対象中心を特定箇所に向けて撮影する。
【0047】
ここで言う特定箇所とは、ニップ部NPの下流でニップ部NPに近い箇所であって、ニップ部NPからこの特定箇所までの圧胴17Eの外周面に沿った周長が印刷シートSの搬送方向の長さよりも短い位置にあり、これにより、少なくとも印刷シートSの前端がこの特定箇所に進入した段階では印刷シートSの後端はニップ部NPよりも搬送方向上流側に位置するようになっている。
【0048】
また、ここでは、カメラ30の画像検出部30aの撮影対象中心を特定箇所に向けており、後述の枚葉シートの浮き上がり防止を効率よく行なえるようにしているが、カメラ30の撮影領域に特定箇所が含まれればよく、必ずしも、撮影対象中心を特定箇所に向ける必要はない。
このカメラ30の近傍には、第1シート押え装置31と第2シート押え装置32とが装備されている。
【0049】
第1シート押え装置31は、カメラ30の上流(印刷シートSが移送される方向の上流)であってニップ部NPとカメラ30との間にカメラ30に隣接して配置され、撮影領域30Aの近傍において印刷シートSを圧胴17Eの外周面に押しつけて、印刷シートSが撮影領域30Aにおいて圧胴17Eの外周面から浮き上がらないように拘束する(上流側シート押え処理)。
【0050】
本実施形態では、第1シート押え装置31はエア噴射により印刷シートSを圧胴17Eの外周面に押し付けるエア式のもの(以下、第1エアシャワーとも言う)が適用されている。また、第1シート押え装置31では、圧胴17Eの外周面に直角に近い角度(例えば、直角±30°程度)で、エアを噴射する。なお、この、第1シート押え装置31については、コロを印刷シートSに当接させて印刷シートSを圧胴17Eの外周面に押し付けるコロ式のものなど、接触式のものも適用しうる。なお、接触式のものの場合には、印刷シートSの印刷面のうち非印刷部(例えば、印刷シートSの幅方向両縁部や幅方向中間部)にコロ等の押し付け部材を当接させる構成とすることができる。
【0051】
第2シート押え装置32は、エア式のもの(以下、第2エアシャワーとも言う)であって、カメラ30の下流(印刷シートSが移送される方向の下流)に配置され、移送方向上流に向けてエアを噴射することにより撮影領域30Aの近傍において印刷シートSを圧胴17Eの外周面に押しつけて、印刷シートSが撮影領域30Aにおいて圧胴17Eの外周面から浮き上がらないように拘束する(下流側シート押え処理)。第2シート押え装置32は、撮影領域30Aの近傍における圧胴17Eの外周面の接線に近い浅い角度(例えば、0°(接線)〜45°程度)で、エアを噴射する。このように、印刷シートSの搬送方向下流側から圧胴17Eの外周面に沿った印刷シートSに対して浅い角度でエアを噴射すると、印刷シートSの浮き上がりを抑えながら、エアの乱流成分の発生が抑えられ、特に、印刷シートSが薄紙等の低剛性のシートの場合に発生し易い、印刷シートSの後端側のバタつきを抑えやすくなる。
【0052】
また、撮影装置30のケースの外形は、搬送方向の下流側の面が圧胴17Eから離れるように傾斜する傾斜面30bとなっているため、傾斜面30b側(搬送方向の下流側)にある第2シート押え装置32のエアノズルから吹き付けられたエアが、傾斜面30bに沿って傾斜面30bと圧胴17Eとの間から撮影領域30Aに流入し易い。
そして、第1シート押え装置としての第1エアシャワー31及び第2シート押え装置としての第2エアシャワー32には、エア配管及びロータリーバルブ42を介してエアブロー(エア供給源)41が接続されている。
【0053】
ロータリーバルブ42は、エアブロー(エア供給源)41に接続された入口ポート42Cと、第1エアシャワー31に接続された第1出口ポート42Aと、第2エアシャワー32に接続された第2出口ポート42Bとを有している。ロータリーバルブ42は、その回転位相に応じて第1出口ポート42A及び第2出口ポート42Bをそれぞれ開閉する第1バルブ部42a及び第2バルブ部42bを有している。
【0054】
したがって、ロータリーバルブ42の回転位相を調整すれば、第1出口ポート42A及び第2出口ポート42Bをそれぞれ開閉制御することができる。
このロータリーバルブ42は、電子制御装置(ECU:電子制御ユニット,制御装置)50により、回転位相を電子制御されるようになっている。
ECU50は、ゴム胴16Eの胴入れ状態か胴抜き状態かの情報と、印刷シートSの剛性が基準剛性以下の低剛性シート(薄紙)であるかこの基準剛性よりも高い第2基準剛性よりも高剛性である高剛性シート(厚紙)であるかの情報と、圧胴17Eの回転角度θの情報とが入力され、これらの情報に基づいて、ロータリーバルブ42の回転位相を制御すると共に、エアブロー41の作動を制御する。
【0055】
図1では省略しているが、本実施形態では、図3に示すように、さらに2つのエアブロー41A,41Bが備えられ、エア配管を介して第1エアシャワー31に接続されている。ECU50は、上記の各情報に基づいてエアブロー41A,41Bの作動についても制御する。
なお、エアブロー41の出口部のエア配管には風量調整バルブ43が設けられ、エアブロー41A,41Bの出口部のエア配管にはそれぞれ風量調整バルブ46a,46bが設けられ、風量調整バルブ43,46a,46bの直下流には、逆止弁47,47a,47bが設けられ、各エアブロー41,41A,41B側へのエアの逆流を防止している。
【0056】
エアブロー41,41A,41Bの風量調整は風量調整バルブ43,46a,46bに限るものではなく、エアブローの風量調整には、例えば、インバータによる出力制御を適用してもよい。
また、第1エアシャワー31,第2エアシャワー32の入り口近傍のエア配管には圧力スイッチ44,45が設けられており、圧力スイッチ44,45により第1シート押え装置31や第2シート押え装置32の作動状態を確認し、ECU50にフィードバックする。
【0057】
〔エア供給制御〕
ここで、ECU50によるエア供給制御を説明する。
ECU50では、基本的に、印刷シートSの剛性、即ち、印刷シートSが低剛性シート(薄紙)であるか高剛性シート(厚紙)であるかと、ゴム胴16Eの胴入れ状態か胴抜き状態かと、の2系統の条件の組み合わせで、それぞれ異なるエア供給モードを実施する。なお、本実施形態では、基準剛性(第1基準剛性)以下の低剛性シート(薄紙)と第2基準剛性よりも高い高剛性シート(厚紙)との間に中剛性シート(中厚紙)の区分を設け、中剛性シートにも特有のエア供給モードを設けている。
【0058】
このような薄紙と厚紙との区分、或いは、薄紙と中厚紙と厚紙との区分は、紙の剛性を基準剛性、或いは、第1基準剛性及び第2基準剛性と比較することで行なうが、例えば、紙の剛性と相関する坪量をパラメータに着目して、かかる区分を行なうことができる。例えば、薄紙と厚紙との2区分なら、基準剛性に相当する基準坪量を設定し、基準坪量以下の坪量の紙を薄紙(低剛性シート)とし、基準坪量よりも大きい坪量の紙を厚紙(高剛性シート)とすることができる。
【0059】
また、薄紙と中厚紙と厚紙との3区分なら、第1基準剛性に相当する第1基準坪量と、第1基準坪量よりも大きい第2基準剛性に相当する第2基準坪量とを設定し、第1基準坪量以下の坪量の紙を薄紙(低剛性シート)とし、第1基準坪量よりも大きく第2基準坪量以下の坪量の紙を中厚紙(中剛性シート)とし、第2基準坪量よりも大きい坪量の紙を厚紙(高剛性シート)とすることができる。
以下、各エア供給モードを順次説明する。
【0060】
(薄紙胴入れモード、第2制御)
印刷シートSが低剛性シート(薄紙)であって、ゴム胴16Eが胴入れ状態の場合には、ECU50は、各エアブロー41,41A,41Bをいずれも停止状態にする。印刷シートSが低剛性シート(薄紙)の場合は、ゴム胴16Eが胴入れ状態であれば、印刷シートSはニップ部NPを通過している間は、ゴム胴16Eと圧胴17Eとの間に挟持されるので、第1エアシャワー31,第2エアシャワー32をいずれも作動停止としても、印刷シートSの圧胴17E外周面からの浮き上がりを支障なく防止することができ、しかも、エアシャワー31,32の不要な作動を防止することができる。
【0061】
(薄紙胴抜きモード、第1制御)
印刷シートSが低剛性シート(薄紙)であって、ゴム胴16Eが胴抜き状態の場合には、ECU50は、印刷シートSの前端部Sfから中間部Smが、カメラ30の撮影領域30Aを通過する間は、第1エアシャワー31を作動させると共に第2エアシャワー32を作動停止とし、その後、印刷シートSの中間部Smから後端部Srが撮影領域30Aを通過する間は第2エアシャワー32を作動させると共に第1エアシャワー31を作動停止とする。
【0062】
ECU50は、このときの第1エアシャワー31,第2エアシャワー32の作動や作動停止を、圧胴17Eの回転角度θの情報に基づいて、ロータリーバルブ42の回転位相を制御することで行なう。
ロータリーバルブ42は、図4に示すように、弁体の回転位相に応じて第1出口ポート42A,第2出口ポート42Bへのエア供給を制御する。なお、図4中には、各ポート42A,42Bにおけるロータリーバルブ42の第1バルブ部42a及び第2バルブ部42bの回転位相がわかるように、一点鎖線及び三角マークによって基準位相を示している。
【0063】
つまり、図4(a)に示す回転位相状態では、第1出口ポート42A,第2出口ポート42Bが共に開度50パーセントとなり、ここからロータリーバルブ42が少し回転して、図4(b)に示す回転位相状態になると、第1出口ポート42Aが閉鎖し、第2出口ポート42Bが開口する(開度100パーセント)。さらに、ロータリーバルブ42が回転して、図4(c)に示す回転位相状態を経て、図4(d)に示す回転位相状態になると、第1出口ポート42Aが開口(開度100パーセント)し、第2出口ポート42Bが閉鎖する。
【0064】
したがって、印刷シートSの前端部Sfから中間部Smが、カメラ30の撮影領域30Aを通過する間は、ECU50は、ロータリーバルブ42を、図4(d)に示す回転位相状態にして、第1出口ポート42Aを開口し(開度100パーセント)、第2出口ポート42Bを閉鎖し、図5(a),(b)及び図6(a)に示すように、第1エアシャワー31をオン、第2エアシャワー32をオフとする。
【0065】
これにより、印刷シートSの前端部Sfから中間部Smの圧胴17Eの外周面からの浮き上がりが防止される。
その後、印刷シートSの中間部Smから後端部Srが撮影領域30Aを通過する間は、ECU50は、ロータリーバルブ42を、図4(b)又は(c)に示す回転位相状態にして、第1出口ポート42Aを閉鎖し、第2出口ポート42Bを開口し(開度100パーセント)、図5(a),(b)及び図6(c)に示すように、第2エアシャワー32をオン、第1エアシャワー31をオフとする。
【0066】
これにより、印刷シートSの中間部Smから後端部Srをバタつかせることなく印刷シートSの圧胴17Eの外周面からの浮き上がりが防止される。
なお、この切り替え時には、図4(a)及び図6(b)に示すように、第1エアシャワー31及び第2エアシャワー32が共に作動する中間状態が介在し、バルブの開度が50パーセントのところはエアも50パーセントとなるが、両方オフ(開度0パーセント)でも良い。
【0067】
(厚紙胴入れモード,第4制御)
印刷シートSが高剛性シート(厚紙)であって、ゴム胴16Eが胴入れ状態の場合には、ECU50は、エアブロー41のみ作動させて、ロータリーバルブ42を、図4(d)に示す回転位相状態にして、第1出口ポート42Aを開口し(開度100パーセント)、第2出口ポート42Bを閉鎖し、図5(a),(b)及び図6(a)に示すように、第1エアシャワー31をオン、第2エアシャワー32をオフとする。
【0068】
高剛性シートの場合、ゴム胴16Eが胴入れ状態の場合には、印刷シートSはニップ部NPを通過している間は、ゴム胴16Eと圧胴17Eとの間に挟持されるので、浮き上がりは少なく、第1エアシャワー31を作動させると共に第2エアシャワー32を作動停止とすることにより、エアシャワーの過剰な作動を抑えながら、印刷シートSの圧胴17Eの外周面からの浮き上がりを防止することができる。また、高剛性シートの場合、印刷シートSの表面に向けてエアを噴射しても自身の剛性によって印刷シートSにバタつきが生じることはない。また、第2シート押え装置を作動停止することにより、ゴム胴16側へ向かうエアによるゴム胴16表面の乾燥を低減することができる。
【0069】
(厚紙胴抜きモード,第3制御)
印刷シートSが高剛性シート(厚紙)であって、ゴム胴16Eが胴抜き状態の場合には、ECU50は、エアブロー41,41A,41Bをいずれも作動させて、ロータリーバルブ42を、図4(b)又は(c)に示す回転位相状態にして、第1出口ポート42Aを閉鎖し、第2出口ポート42Bを開口し(開度100パーセント)、図6(b)に示すように、第2エアシャワー32をオン、第1エアシャワー31をオンとする。
【0070】
なお、エアブロー41,41A,41Bの風量調整バルブ43,46a,46bは全開とされ、第2エアシャワー32からはエアブロー41からの最大流量のエアが、第1エアシャワー31からはエアブロー41A,41Bからの最大流量のエアが、噴射される。
エアブロー41,41A,41Bは同一規格のものが適用されており、第1エアシャワー31からは第2エアシャワー32の略2倍の流量のエアが噴射される。
高剛性シート(厚紙)であれば、ゴム胴16Eが胴抜き状態の場合には、印刷シートSが自身の剛性によって圧胴17E外周面から浮き上がり易いが、第1エアシャワー31及び第2エアシャワー32を最大流量で作動させることで、エアの噴射量を多くして印刷シートSを圧胴17Eの外周面に確実に押しつけることができ、印刷シートSの圧胴17Eの外周面からの浮き上がりを防止することができる。
【0071】
(中厚紙胴入れモード)
印刷シートSが中剛性シート(中厚紙)で胴入れの場合、低剛性シート(薄紙)と高剛性シート(厚紙)との中間的な制御を行なう。つまり、胴入れ時であっても、高剛性シート(厚紙)と同様に、エアブロー41のみ作動させて、第1エアシャワー31をオン、第2エアシャワー32をオフとするが、風量調整バルブ43を絞って(符号43´)、エアの流量を抑えて、中剛性シート(中厚紙)のバタつきを抑えつつ圧胴17Eの外周面からの浮き上がりを防止する。
【0072】
(中厚紙胴抜きモード)
印刷シートSが中剛性シート(中厚紙)で胴抜きの場合、低剛性シート(薄紙)と高剛性シート(厚紙)との中間的な制御を行なう。つまり、エアブロー41及びエアブロー41A,41Bの一方のみを作動させて、第1エアシャワー31をオン、第2エアシャワー32をオンとし、風量調整バルブ43を絞って、エアの流量を抑えて、中剛性シート(中厚紙)のバタつきを抑えつつ圧胴17Eの外周面からの浮き上がりを防止する。なお、エアブロー41、41A,41Bの出力を抑えてエアブロー41,41A,41Bを全てオンにしながらエアの流量を抑えることもできる。
【0073】
〔作用、効果〕
本発明の枚葉シートの浮き防止装置又は浮き防止方法によれば、印刷シートSの剛性(紙厚)やゴム胴16Eの胴抜き,胴入れに応じて、印刷シートSのバタつきを抑えつつ圧胴17Eの外周面からの浮き上がりを防止することができる。
印刷品質管理精度を高めるためには、カメラ30による高画質な撮影画像が要求され、カメラ30を撮影領域30Aの直近に接近させることが有効であるが、カメラ30を撮影領域30Aに接近させるほど、印刷シートSの僅かな浮き上がりやバタつきがカメラ30の画像検出部30aの焦点からの著しいズレを招き画質を落とし印刷品質管理精度を低下させることになるが、このような不具合も回避される。
【0074】
〔その他〕
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態を適宜変更して実施することができる。
例えば、上記の実施形態では、シートの剛性を、低剛性シート(薄紙)、中剛性シート(中厚紙)、剛性シート(厚紙)の3段階に分けたが、単に、低剛性シート(薄紙)、剛性シート(厚紙)の2段階に分けてもよく、3段階よりも多く分けてもよい。
【0075】
また、低剛性シート(薄紙)専用と考えれば、図7に示すようにエアブロー41A,41B及びこれに付帯する供給系を省略して構成して、上記の薄紙胴入れモード及び薄紙胴抜きモードのみを行なうようにしてもよい。
また、付属装置は、カメラに限るものではなく、印刷面に転写されたUVのインキの乾燥のために、枚葉シートの印刷面に紫外線を照射するUV式乾燥装置であってもよい。この場合、UV式乾燥装置の紫外線照射対象領域(紫外線照射領域)が特定箇所を含むようにし、この紫外線照射領域を前記特定領域として装置各部を配置すればよい。この場合も、UV式乾燥装置の紫外線照射中心を特定箇所に向ければ、この特定箇所を中心に紫外線照射領域(特定領域)が形成され、枚葉シートの浮き上がりの防止を効率よく行なえる。もちろん、紫外線照射領域に特定箇所が含まれればよく、必ずしも、紫外線照射中心を特定箇所に向ける必要はない。
【符号の説明】
【0076】
1 枚葉印刷機(両面印刷機)
2 給紙部
3 裏面印刷部(印刷部)
4 表面印刷部(印刷部)
5 排紙部
6 連接ユニット
7,8 印刷ユニット
13 給紙台
14 給紙機構
15 版胴
16 ブランケット胴
17 圧胴
18 中間胴
19 搬送部
20 排紙台
30 撮影装置(カメラ)
30a 画像検出部
30b 撮影装置30の傾斜面
31 第1シート押え装置(第1エアシャワー)
32 第2シート押え装置(第2エアシャワー)
41 エアブロー(エア供給源)
42 ロータリーバルブ
50 電子制御装置(ECU:電子制御ユニット,制御装置)
S 印刷シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部を保持されながら枚葉印刷機の圧胴とゴム胴とのニップ部から送り出され前記圧胴の外周面に沿って移送される枚葉シートが、特定箇所で前記圧胴の前記外周面から浮き上がることを防止する枚葉シートの浮き防止装置であって、
前記ニップ部よりも前記移送方向の下流に配置され、前記特定箇所を含む特定領域において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつける第1シート押え装置と、
前記第1シート押え装置よりも前記移送方向下流に配置され前記移送方向上流に向けてエアを噴射することにより前記特定領域において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつけるエア式の第2シート押え装置と、
前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置の作動を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記枚葉シートの前端部から中間部が前記特定領域を通過する間は前記第1シート押え装置を作動させると共に前記第2シート押え装置を作動停止とし、前記枚葉シートの中間部から後端部が前記特定領域を通過する間は前記第2シート押え装置を作動させると共に前記第1シート押え装置を作動停止とする第1制御を実施する
ことを特徴とする、枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記枚葉シートの剛性が基準剛性以下の低剛性シートであることを条件に、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記第1制御を実施し、前記ゴム胴が胴入れ状態の場合に、前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置をいずれも作動停止とする第2制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シートであることを条件に、前記ゴム胴が胴抜き状態の場合に、前記第1シート押え装置及び前記第2シート押え装置をいずれも作動させる第3制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1又は2記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シートであることを条件に、前記ゴム胴が胴入れ状態の場合に、前記第1シート押え装置を作動させると共に前記第2シート押え装置を作動停止とする第4制御を実施する
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項5】
前記第1シート押え装置は、前記枚葉シートの表面に向けてエアを噴射することにより前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押しつけるエア式のシート押え装置として構成され、
エア式の前記第1シート押え装置及びエア式の前記第2シート押え装置へのエアの供給状態を切り替えるロータリーバルブを備え、
前記制御装置は、前記ロータリーバルブの回転位相を制御することにより、前記第1シート押え装置と前記第2シート押え装置の作動を制御する
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項6】
前記第2シート押え装置のエア噴射量は、前記第1シート押え装置のエア噴射量よりも少量に設定されている
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項7】
前記枚葉シートの印刷面に印刷を行なう枚葉印刷機の前記圧胴に対向して、印刷品質管理のために前記枚葉シートの前記印刷面を撮影する撮影装置が設けられている
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項8】
前記枚葉シートの印刷面に印刷を行なう枚葉印刷機の前記圧胴に対向して前記印刷面に転写されたUVのインキの乾燥のために前記枚葉シートの前記印刷面に紫外線を照射するUV式乾燥装置が設けられている
ことを特徴とする、請求項1〜6の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置。
【請求項9】
枚葉シートの前端部を咬んで前記枚葉シートを外周面に沿って保持しながら回転して前記枚葉シートを移送する圧胴と、
前記圧胴にニップ係合し前記枚葉シートの印刷面にインキを転写可能な胴入れ状態と、前記圧胴から離隔する胴抜き状態とに切り替え可能なゴム胴と、をそなえた枚葉印刷機であって、
前記胴入れ状態の際に前記ゴム胴が前記圧胴にニップ係合するニップ部の下流の前記圧胴の外周に、請求項1〜8の何れか1項に記載の枚葉シートの浮き防止装置が装備されている
ことを特徴とする、枚葉印刷機。
【請求項10】
前端部を保持されながら枚葉印刷機の圧胴とゴム胴とのニップ部から送り出され前記圧胴の外周面に沿って移送される枚葉シートが特定箇所で前記圧胴の前記外周面から浮き上がることを防止する枚葉シートの浮き防止方法であって、
前記ゴム胴の胴抜き時に、前記枚葉シートの前端部から中間部が前記特定箇所を含む特定領域を通過する間は、前記特定箇所よりも前記移送方向の上流の前記ニップ部と前記特定箇所との間において前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押し付ける、上流側シート押え処理を行い、
前記枚葉シートの中間部から後端部が前記特定領域を通過する間は、前記特定箇所よりも前記移送方向下流でエアを用いて前記枚葉シートを前記圧胴の前記外周面に押し付ける、下流側シート押え処理を行う
ことを特徴とする、枚葉シートの浮き防止方法。
【請求項11】
前記枚葉シートの剛性が基準剛性よりも高い高剛性シートである条件下で、前記ゴム胴の胴抜き時には、少なくとも前記枚葉シートの前端部から後端部が前記特定領域を通過する間は前記上流側シート押え処理と前記下流側シート押え処理とを実施する
ことを特徴とする、請求項10記載の枚葉シートの浮き防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−107296(P2013−107296A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254513(P2011−254513)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(310016522)三菱重工印刷紙工機械株式会社 (75)
【Fターム(参考)】