説明

枚葉式化学研磨装置

【課題】治具を使用することなくガラス基板に対して化学研磨処理を施すことが可能な枚葉式の化学研磨装置を提供する。
【解決手段】化学研磨装置10は、搬送部および研磨処理部を少なくとも備える。搬送部は、ガラス基板100の底面を支持しつつ水平方向に搬送するように構成された複数の搬送ローラ50を備える。研磨処理部は、第1〜第4の処理チャンバ16,18,20,22、第1〜3の中継部28,30,32を備える。第1〜第4の処理チャンバ16,18,20,22は、それぞれがガラス基板に対して同一組成の化学研磨液を噴射するように構成される。第1〜3の中継部28,30,32は、各処理チャンバを連結するように構成される。第1〜第4の処理チャンバ16,18,20,22のそれぞれは、ガラス基板100の搬送方向に直交する方向に揺動可能な噴射ノズルを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続的に搬送される複数のガラス基板に対して化学研磨処理を行うように構成された化学研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板を薄型化するためには、一般的にフッ酸を含む化学研磨液を用いてガラス基板に対して化学研磨処理を行う必要がある。このような化学研磨処理としては、処理すべきガラス基板を化学研磨液が入れられた槽に所定時間浸漬するバッチ式化学研磨、および処理すべきガラス基板を搬送ローラで順次的に搬送しつつ化学研磨液をスプレーする枚葉式化学研磨が挙げられる。
【0003】
これらの化学研磨の方式のうち、バッチ方式の研磨では、処理すべきガラス基板を研磨液浴槽に所定時間浸漬することによってガラス基板を所望の板厚まで薄板化するもので、一度に多量のガラス基板を処理できるというメリットがある。ところが、バッチ方式の研磨は、少なくとも以下の3つの問題点を有している。
【0004】
まず、バッチ方式の研磨では、研磨液浴槽が上方に対して開放している構造上、研磨液浴槽の周囲が濃いフッ酸雰囲気になるという問題がある。特に、研磨液浴槽の研磨液に対してバブリング処理を行っている場合には、ガス状のフッ酸が周囲に拡散し易いという問題点を抱えている。このようなフッ酸雰囲気の中で作業にあたる作業員は、適切な保護装備を身につけて作業にあたらなければ、健康を害してしまう虞がある。このため、作業員に支給する保護装備のコストが高くなる。
【0005】
また、バッチ方式の研磨では、研磨液浴槽の周囲が濃いフッ酸雰囲気を解消するためには、強力なスクラバー等の排気設備が必要となり、設備コストを増大させてしまう。さらには、フッ酸ガスによって設備の腐食が発生し易くなるため、適切な防食処理を施すためにコストがかかったり、設備の交換頻度を多くなってコストがかかったりするという問題もある。
【0006】
さらには、ガラス基板を支持するための治具を使用することを余儀なくされる。このため、上述のバッチ式の化学研磨装置と同様に、治具を準備する費用が高く、またガラス基板に治具跡が発生し易いという問題もある。
【0007】
そこで、近年、枚葉方式の化学研磨が用いられることがあった。例えば、従来技術の中には、ガラス基板が付着できる治具によってガラス基板を縦向きに支持し、この治具を搬送しつつガラス基板に対して化学研磨液を噴射するように構成されたフラットパネルディスプレイガラス基板エッチング装置が存在する(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−266135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、依然としてガラス基板を支持するための治具を使用することを余儀なくされる。このため、上述のバッチ式の化学研磨装置と同様に、治具を準備する費用が高く、またガラス基板に治具跡が発生し易いという問題もある。ガラス基板に治具跡が発生すると効率の良い面取設計をすることが極めて困難になるため、面取効率を低下させてしまうという不都合がある。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、治具を使用することなくガラス基板に対して化学研磨処理を施すことが可能な枚葉式の化学研磨装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る化学研磨装置は、連続的に搬送される複数のガラス基板に対して化学研磨処理を行うように構成される。この化学研磨装置は、搬送部および研磨処理部を少なくとも備える。搬送部は、ガラス基板の底面を支持しつつ水平方向に搬送するように構成された複数の搬送ローラを備える。研磨処理部は、搬送部によって搬送されるガラス基板に対して、化学研磨液を噴射してガラス基板を薄型化するように構成される。研磨処理部は、複数の処理チャンバ、および複数の連結部を備える。
複数の処理チャンバは、それぞれがガラス基板に対して同一組成の化学研磨液を噴射するように構成される。複数の連結部は、各処理チャンバを連結するように構成される。複数の処理チャンバのそれぞれは、ガラス基板の搬送方向に直交する方向に揺動可能な噴射ノズルを有する。
【0012】
この構成においては、複数の搬送ローラによってガラス基板を直接的に支持しつつ搬送する構成を採り入れているため、ガラス基板を治具によって支持する必要がなくなる。また、敢えて同じ処理を行う複数の処理チャンバを設けることにより、単一の処理チャンバの長さを抑えることが可能になるため、各処理チャンバにおいて配置される噴射パイプの熱膨張の影響を低く抑えたり、噴射ノズルの揺動の円滑化を図ったりすることが可能になる。
【発明の効果】
【0013】
上記した本発明によれば、治具を使用することなくガラス基板に対して化学研磨処理を施すことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る枚葉式化学研磨装置の外観を示す図である。
【図2】枚葉式化学研磨装置の概略構成を示す図である。
【図3】枚葉式化学研磨装置の概略構成を示す図である。
【図4】第1の処理チャンバの概略構成を示す図である。
【図5】処理液供給機構の概略構成を示す図である。
【図6】クランク機構の概略構成を示す図である。
【図7】前処理チャンバでの処理を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施形態の一例に係る枚葉式の化学研磨装置10の外観を示す図である。また、図2および図3は、化学研磨装置10の概略構成を示す図である。図1〜図3に示すように、化学研磨装置10は、搬入部12、前処理チャンバ14、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、第1の中継部28、第2の中継部30、第3の中継部32、水洗チャンバ24、搬出部26、処理液収容部42、処理液供給部44、および水供給部46を備える。
【0016】
搬入部12は、作業員による手動作業またはロボット等による自動作業によって搬入される薄型化処理すべきガラス基板100を受け入れ可能に構成される。前処理チャンバ14は、搬入部12から搬送されるガラス基板100を受け入れるように構成される。第1の処理チャンバ16は、ガラス基板100の上下面に化学研磨液を噴射してガラス基板を薄型化するように構成される。第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、および第4の処理チャンバ22はそれぞれ、第1の処理チャンバ16と同一組成の化学研磨液をガラス基板の上下面に噴射してガラス基板を更に薄型化するように構成される。第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32はそれぞれ、複数の処理チャンバを連結するように構成される。水洗チャンバ24は、第4の処理チャンバ22を経由したガラス基板100を水洗するように構成される。搬出部26は、化学研磨処理および水洗処理を経たガラス基板100を取り出し可能に構成されている。搬出部26に到達したガラス基板100は、作業員による手動作業またはロボット等による自動作業によって化学研磨装置10から取り除かれて回収される。その後、ガラス基板100は、さらなる薄型化が必要な場合には、再度化学研磨装置10に導入される一方で、さらなる薄型化が必要でない場合には成膜工程等の後段の工程に移行される。
【0017】
処理液収容部42は、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22と回収ライン420を介して接続されている。処理液供給部44は、給液ライン440を介して、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32に接続されている。水供給部46は、給水ライン460を介して前処理チャンバ14および水洗チャンバ24に接続されている。なお、図1では、化学研磨装置10の回収ライン420、給液ライン440、および洗浄水の給水ライン460については図示を省略している。
【0018】
上述の化学研磨装置10において、前処理チャンバ14への導入口200、水洗チャンバ24からの導出口300、および後述するクランク機構36の一部の作業空間を除いて、前処理チャンバ14、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、第1の中継部28、第2の中継部30、第3の中継部、および水洗チャンバ24は、全体として気密的にかつ水密的に閉塞されている。導入口200および導出口300は、ガラス基板100の板厚よりやや高く、ガラス基板100の横幅よりやや広いスリット形状を呈している。また、各部を貫通して、同一平面上に多数の搬送ローラ50が配置されている。各搬送ローラ50は、ガラス基板100の底面を支持しつつ図示右向きに搬送する搬送路を構成する。
【0019】
ここで、搬送速度は、100〜800mm/分に設定されるのが好ましく、より好ましくは、300〜550mm/分に設定すべきである。そして、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、および第4の処理チャンバ22での処理時間は、この実施形態では合計20分程度に設定されているが、これに限定されるものではない。また、上記の範囲を超えて搬送速度が遅すぎると、生産効率が悪いだけでなく、化学研磨液がガラス基板100上に滞留しやすく、均一な化学研磨が阻害されたり、最悪の場合、ガラス基板100の割れを誘発したりする虞がある。一方、同一の装置規模において、搬送速度を高めるには、これを実現する液組成の最適化が難しく、結局、均質な化学研磨が実現しにくい。
【0020】
化学研磨装置10で薄型化処理されるガラス基板100は、特に限定されないが、G8サイズのクォーターカット(1080×1230mm)およびG6サイズ(1500×1800mm)等の大型ガラス基板についても、その上下両面を均質に研磨できるよう化学研磨装置10は構成されている。また、化学研磨装置10は、治具やキャリアを用いることなく、ガラス基板100を直接的に搬送ローラ50によって搬送するように構成される。
【0021】
上述したように、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32は、給液ライン440を経由して、温度管理された処理液供給部44に連通しており、処理液供給部44の化学研磨液が、40〜42℃程度で各チャンバに供給されるようになっている。ここで、化学研磨液の組成は、フッ酸1〜20重量%、塩酸0〜10重量%、残り水の液組成とするのが好ましい。
【0022】
また、前処理チャンバ14および水洗チャンバ24は、給水ライン460を経由して水供給部46に連通しており、洗浄水が各チャンバに供給されるようになっている。なお、前処理チャンバ14と水洗チャンバ24から排出される洗浄排水は、廃水処理設備へと排出される。
【0023】
一方、上述のとおり、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、および第4の処理チャンバ22の底部は、回収ライン420を経由して処理液収容部42に連通しており、研磨処理水が回収されるようになっている。第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32の底部は、それぞれ隣接する処理チャンバに向けて傾斜するような底部を有するため、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32内の処理液は円滑に隣接する処理チャンバに導かれる。なお、回収された研磨処理水は、反応生成物の沈殿その他の処理を経た上で、再利用が可能な状態であれば処理液供給部44に送られる一方で、再利用が可能でない状態の場合には濃厚廃液として廃液処理工程へと移行される。
【0024】
また、図3に示す通り、前処理チャンバ14、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、および水洗チャンバ24は、排気ライン340を経由して、排気部34に連通しており、各チャンバの内部ガスが排気部34に吸引されるようになっている。ここで、排気ライン340は定常的に機能しているので、前処理チャンバ14への導入口200、水洗チャンバ24からの導出口300、クランク機構36の一部に形成される開口が、負圧状態に維持されることになり、これらの開口を通して処理ガスが漏出することはない。
【0025】
図4および図5に示すように、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、および水洗チャンバ24には、ガラス基板100の搬送方向に延びる一群(10本)の噴射パイプ444(444U,444L)が、搬送ローラ50の上下位置にそれぞれ配置されている。各噴射パイプ444は、塩化ビニルやテフロン(登録商標)による中空の樹脂パイプであり、一本の噴射パイプに、複数個の噴射ノズル446が一列に形成されている。そして、上側に配置された上側噴射パイプ444Uからガラス基板100の上面に対して化学研磨液が噴射され、下側に配置された下側噴射パイプ444Lからガラス基板100の底面に対して化学研磨液が噴射される。一方、水洗チャンバ24に配置された上側噴射パイプ242Uからガラス基板の上面に対して洗浄水が噴射され、下側噴射パイプ242Lからガラス基板100の底面に対して洗浄水が噴射される。さらに、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32には、それぞれ噴射パイプ282(282U,282L)、噴射パイプ302(302U,302L)、および噴射パイプ322(322U,322L)が設けられており、第1〜第4の処理チャンバ18、20、22、24と同一組成の化学研磨液がガラス基板100の上面および底面に噴射される。
【0026】
第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32に配置された噴射パイプ282(282U,282L)、噴射パイプ302(302U,302L)、および噴射パイプ322(322U,322L)、ならびに水洗チャンバ24に配置された噴射パイプ(242U,242L)は固定状態に保持されている。一方、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22に配置される各噴射パイプ444は、クランク機構36によって揺動するように構成されている。
【0027】
図5に示すように、この実施形態では、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、および第4の処理チャンバ22は、ガラス基板100の上側および下側にそれぞれ10本の噴射パイプ444(444U,444L)が配置されている。図5(A)は、ガラス基板の下方に配置される噴射パイプ444を上方から描いた平面図であり、各噴射パイプ444には、例えば8個の噴射ノズル446が形成されている。
【0028】
各噴射パイプ444(444U,444L)は、その先端側(図示左側)が閉塞される一方、その基端側には、圧力制御部が設けられている。圧力制御部は、噴射パイプ444(444U,444L)と同数(10個)の開閉バルブ442で構成され、各開閉バルブ442の開度を調整することで各噴射パイプ444(444U,444L)に供給される化学研磨液の液圧が任意に設定できるようになっている。なお、各噴射パイプ444(444U,444L)に供給される化学研磨液の液圧は、化学研磨装置10の上面に配置された計器38によって確認することができる。
【0029】
この実施例では、周辺位置の噴射パイプ444(444U,444L)に比べて、中央位置の噴射パイプ444(444U,444L)の液圧がやや大きく設定されており、ガラス基板100の中央位置への接触圧や噴射量は、ガラス基板100の周辺位置への接触圧や噴射量よりやや高く設定されている。そのため、ガラス基板100の中央位置に噴射された化学研磨液は、ガラス基板の周辺位置に円滑に移動することになり、ガラス基板100の上面に化学研磨液が滞留しにくくなっている。その結果、ガラス基板100全面にほぼ等量の化学研磨液が作用することになり、ガラス基板100全面が均一に研磨され易くなる。なお、噴射パイプ444(444U,444L)の液圧を幅方向において変化させなくとも、ガラス基板100の上面に化学研磨液が滞留しない場合には、敢えて噴射パイプ444(444U,444L)の液圧を幅方向において変化させる必要はなく、すべての噴射パイプ444(444U,444L)の液圧を均一に設定すると良い。
【0030】
また、各噴射パイプ444(444U,444L)は、その両端が軸受などによって回転可能に軸支されることで、クランク機構36によって約±30°揺動(oscillation)されるよう構成されている(図5(B)参照)。なお、図5(B)は、揺動角度を示したものであって、化学研磨液の噴射範囲を示すものではない。すなわち、噴射パイプ444の噴射ノズル446からは、化学研磨液がラッパ状に噴出されるので、その噴射範囲は、揺動角度より広い。
【0031】
クランク機構36は、図6(A)および図6(B)に示すように、駆動モータ362の回転力を、噴射パイプ444(444U,444L)を揺動させる力に変換して、噴射パイプ444(444U,444L)に伝達するように構成される。駆動モータ362の回転力は、伝達アームを介して揺動アーム366に、揺動アーム366を揺動させる力として伝達される。揺動アーム366は、化学研磨装置10の内壁部に設けられた支持部368に回動可能な状態で支持されている。
【0032】
一方で、各噴射パイプ444(444U,444L)の端部は、処理チャンバの隔壁を貫通しており、処理チャンバの外側に位置する部分に、噴射パイプ444(444U,444L)の揺動に必要なトルクを伝達するためのトルク伝達アーム372、376が取り付けられる。トルク伝達アーム372、376はそれぞれ、回動可能な状態で保持アーム370、374に支持されている。保持アーム370、374は、回動可能でかつスライド可能な状態にて揺動アーム366に連結されている。
【0033】
駆動モータ362の回転力によって揺動アーム366が揺動すると、揺動アーム366に連動して保持アーム370、374が図中の矢印に示すように揺動する。保持アーム370からの力はトルク伝達アーム372を介して上側噴射パイプ444Uにトルクとして伝達する。また、保持アーム374からの力はトルク伝達アーム376を介して下側噴射パイプ444Lにトルクとして伝達する。この結果、図6(A)および図6(B)に示すように、上側噴射パイプ444Uおよび下側噴射パイプ444Lは、ガラス基板100の搬送方向に直交する方向であって、互いに反対の方向に約±30°回転することになる。なお、駆動モータ362の回転数は、噴射パイプ444(444U,444L)の揺動回数を規定するが、この実施形態では駆動モータの回転数が10〜30rpm程度に設定されている。
【0034】
上側の噴射パイプ444Uには、その下面に噴射ノズル446Uが形成され、下側の噴射パイプ444Lには、その上面に噴射ノズル446Lが形成されているので、各噴射ノズルは、約±30°回転しつつ、化学研磨液をガラス基板の上下面に噴射することになる(図5(B)参照)。
【0035】
ところで、本実施形態では、同一の液組成によって同様の化学研磨を実行する第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、および第4の処理チャンバ22を敢えて互いに分割して設けている。その理由は、噴射パイプ444(444U,444L)の長さを抑制することで、噴射パイプ444(444U,444L)の撓みを防止し、且つ、噴射パイプ444(444U,444L)を円滑に揺動させるためである。また、噴射パイプ444(444U,444L)の熱膨張による影響を小さく抑えるためである。このような構成を採り入れることにより、噴射パイプ444(444U,444L)とガラス基板100との距離を均一に維持することが可能となり、ガラス基板100に噴射される化学研磨液の液圧を調整しやすくなる。また、噴射パイプ444(444U,444L)が円滑に揺動することにより、ガラス基板100の上面から化学研磨液を円滑に流し落とすことが可能になるため、ガラス基板100の上面に化学研磨液が滞留しにくくなる。なお、噴射パイプ444(444U,444L)の長さは、パイプ径(送液量)にも関係するが、一般的には、2.5m以下、好ましくは2m以下に抑制するのが好ましい。
【0036】
高速でガラス基板100を化学研磨するためには、加温状態の化学研磨液の送液量を増加させる必要があるところ、噴射パイプ444(444U,444L)の長さを適切な長さに抑制することで、駆動モータ362をそれほど大型化することなく、且つ、簡単な機構で、複数の噴射パイプ444(444U,444L)を円滑に揺動させることができる。
【0037】
続いて、図7(A)〜図7(C)を用いて、前処理チャンバ14の構成について説明する。前処理チャンバ14には、第1の処理チャンバ16に近接して、噴射パイプ444(444U,444L)を揺動させるクランク機構36が配置されることは前記した通りである。上記の構成に加えて、前処理チャンバ14には、第1の処理チャンバ16へのガラス基板100の導入口に、ガラス基板100を受入れる対向ローラ146と、ガラス基板100の上下面に水を噴射する水洗ノズル142,144とが配置されている。水洗ノズル142,144は、ガラス基板100の搬送方向に直交する方向(幅方向)の全域にわたって所定の間隔にて複数配備されている。ここで、ガラス基板100は、対向ローラ146と搬送ローラ50に、柔らかく保持されて第1の処理チャンバ16に導入されるよう接触圧が設定されている。
【0038】
また、水洗ノズル142,144は、ガラス基板100の第1の処理チャンバ16への導入口に向けて、水を噴射するよう設定されている。そのため、第1の処理チャンバ16に導入されたガラス基板100は、十分に濡れた状態であり、不均質な初期エッチングが為されることが防止される。すなわち、第1の処理チャンバ16は、フッ酸ガス雰囲気であるので、もし、ガラス基板100の表面がドライ状態であると、フッ酸ガスによって不均質に侵蝕される危険があるが、本実施形態では、ガラス基板100の表面が水で保護されているので、その後、第1の処理チャンバ16において均質なエッチングが開始される。
【0039】
本実施形態では、図7(A)〜図7(C)に示すように、水洗ノズル142は真下に向かって水を噴射するように構成される一方で、水洗ノズル144は上方でかつガラス基板100の搬送路の上流側に向かって斜めに水を噴射するように構成される。水洗ノズル144が斜め上方に水を噴射するように構成される結果、ガラス基板100が水洗ノズル142,144に接近する際に、図7(A)および図7(B)に示すように、水洗ノズル144からガラス基板100の上面に水を供給することが可能になる。このため、ガラス基板100の上面に、フッ酸ガスから保護するための水の膜を迅速に形成することが可能になる。なお、ガラス基板100が水洗ノズル144に接近すると、水洗ノズル144から噴射する水はガラス基板100の底面に当たるようになるため、水洗ノズル144によってガラス基板100の底面を適切に洗浄し、かつ適切に湿らせることが可能である。
【0040】
以上のとおり、前処理チャンバ14に水洗ノズル142,144を設けたことにより、ドライ状態のガラス基板100がフッ酸ガスにさらされて、不均一にエッチングされることが防止される。また、ガラス基板100がドライ状態にて対向ローラ146および搬送ローラ50に挟み込まれることが防止されるため、対向ローラ146および搬送ローラ50の間を通過する際にガラス基板100に傷が発生したり、ガラス基板100が汚損したりすることが防止される。
【0041】
続いて、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32について説明する。第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32には、それぞれ固定状態の噴射パイプ282、噴射パイプ302、および噴射パイプ322が搬送路の上下位置に配置されている。そして、噴射パイプ282、噴射パイプ302、噴射パイプ322からガラス基板100の上下面に化学研磨液が噴射される。この実施形態では、噴射パイプ282、噴射パイプ302、および噴射パイプ322がそれぞれ本発明の研磨液噴射手段を構成する。
【0042】
ここで、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32を、ガラス研磨処理における空スペースとすることも考えられるが、本実施形態では敢えて、これらの第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32でも、同一組成の化学研磨液をガラス基板100に噴射している。そのため、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32の通過時において化学研磨液がガラス基板上に滞留したり、逆に第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32の通過時にガラス基板100が乾燥ぎみになったりするおそれがなく、高品質のガラス研磨が実現される。なお、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32の噴射パイプ282、噴射パイプ302、および噴射パイプ322は、固定状態であるが、固定式ではなく揺動式の構成を採り入れることも可能である。
【0043】
ガラス基板100は、第1の処理チャンバ16、第2の処理チャンバ18、第3の処理チャンバ20、第4の処理チャンバ22、第1の中継部28、第2の中継部30、および第3の中継部32をこの順に通過して、順次的に化学研磨される。そして、複数段階の化学研磨を終えたガラス基板100は、第4の処理チャンバ22の出口に配置されたエアナイフ244によって上面の液切り処理が行われた後、水洗チャンバ24に配置された一群の噴射パイプ242から受ける洗浄水によって洗浄される。洗浄用の噴射パイプ242は、固定状態であるが、これを揺動させる構成を採っても良い。
【0044】
いずれにしても、洗浄処理の最終段には、上下一対のエアナイフ246が配置されており、そこから噴射されるエアーによってガラス基板100の上下面が迅速に乾燥される。そして、水洗チャンバ24の導出口300から排出されたガラス基板は、搬出部26に待機する作業員によって取り出され、一連の加工処理が完了する。このように、上下一対のエアナイフ246の前段に別途エアナイフ244を配置することにより、ガラス基板100の上面から化学研磨液を迅速に除去することが可能になるため、ガラス基板100の上面が不均一にエッチングされることを効果的に防止することが可能になる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る化学研磨装置10によれば、閉塞された空間において化学研磨が行われ、装置内で発生したフッ酸ガス等の有毒なガスはスクラバー等の排気機構によってほぼすべて回収されるため、化学枚葉装置10周囲にフッ酸ガスがほとんど拡散しない。その結果、化学研磨装置10周囲の作業環境がバッチ式化学研磨処理の場合に比較して格段に向上する。したがって、作業員の健康を悪化させる心配がなくなるとともに、保護装備にコストをかける必要がなくなる。
【0046】
さらに、化学研磨装置10の周囲の設備がフッ酸ガスによって侵されることを防止できるため、設備のメンテナンス費用を抑えることも可能である。つまり、安価なメンテナンス費用で、作業員に良好な作業環境を提供することができるという大きなメリットがあると言える。また、上述の枚葉方式の化学研磨装置10では、治具代を安く抑えることができるとともに、ガラス基板に治具跡が発生しないというメリットがある。この結果、効率の良い面取設計をすることが可能となり、面取効率を向上させることができる。
【0047】
さらに、枚葉方式の化学研磨装置10を用いた場合、バッチ方式の研磨処理に比較して、作業効率や製品の品質を向上させることが可能になるというメリットがある。加えて、化学研磨装置10によれば、板厚精度が向上するため、スクライブ時の歩留り安定が予測される。また、切断面フラット強度についても、バッチ方式の研磨処理に比較して強くすることが可能になる。そして、バブリングによるフッ酸ロスがないため、フッ酸コストを15%程度削減する効果が期待できる。
【0048】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0049】
10−化学研磨装置
12−搬入部
14−前処理チャンバ
16−第1の処理チャンバ
18−第2の処理チャンバ
20−第3の処理チャンバ
22−第4の処理チャンバ
24−水洗チャンバ
26−搬出部
28−第1の中継部
30−第2の中継部
32−第3の中継部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続的に搬送される複数のガラス基板に対して化学研磨処理を行うように構成された化学研磨装置であって、
ガラス基板の底面を支持しつつ水平方向に搬送するように構成された複数の搬送ローラを備えた搬送部と、
前記搬送部によって搬送されるガラス基板に対して、化学研磨液を噴射してガラス基板を薄型化するように構成された研磨処理部と、
を少なくとも備え、
前記研磨処理部は、
それぞれがガラス基板に対して同一組成の化学研磨液を噴射するように構成された複数の処理チャンバと、
各処理チャンバを連結するように構成された複数の連結部と、を有し、
前記複数の処理チャンバのそれぞれは、ガラス基板の搬送方向に直交する方向に揺動可能な噴射ノズルを有することを特徴とする化学研磨装置。
【請求項2】
前記複数の連結部は、ガラス基板に対して前記処理チャンバと同一組成の化学研磨液を噴射する研磨液噴射手段を有する請求項1に記載の化学研磨装置。
【請求項3】
前記研磨処理部の前段に配置される前処理チャンバをさらに備え、
前記前処理チャンバは、前記研磨処理部に導入されるガラス基板を両側から挟みつつ支持する1対のローラと、前記1対のローラに挟まれる前に前記ガラス基板に対して水を噴射する噴射部とを有する請求項1または2に記載の化学研磨装置。
【請求項4】
前記前処理チャンバの噴射部は、真下に向かって水を噴射するように構成された上側水洗ノズル、および、上方でかつガラス基板の搬送路の上流側に向かって斜めに水を噴射するように構成された下側水洗ノズルを備えた請求項3に記載の化学研磨装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−86978(P2013−86978A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225799(P2011−225799)
【出願日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【出願人】(509154420)株式会社NSC (10)
【Fターム(参考)】