説明

果実の収穫後処理

【課題】哺乳動物での毒性が非常に低く、環境にやさしい物質を用いて、果実、野菜及び観賞植物の微生物による劣化を低減させる新規な方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、イマザリルと組み合わせた浸透性獲得抵抗性誘発剤を適用することにより、収穫後の微生物による腐敗から果実、野菜及び/又は観賞植物を保護する方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌のような腐敗原因生物による攻撃から果実、野菜及び観賞植物(ornamentals)を保護することに関する。特に、本発明は、イマザリル(Imazalil)と組み合わせた浸透性獲得抵抗性誘発剤(systemic acquired resistance inducers)の混合物を適用することにより、果実、野菜又は観賞植物を、収穫後の微生物による劣化から保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腐敗原因生物を制御する目的で、新しく収穫した果実及び野菜の表面に、抗菌剤を適用することは、果実及び野菜の処理において公知のプラクティスである。
【0003】
浸透性抵抗性誘発剤は、植物における微生物抵抗性を惹起することが知られているが、果実又は野菜の収穫後の適用には用いられていない。なぜなら、これらを用いては、許容されるレベルの微生物制御が得られないからである。
【0004】
本明細書において言及されるイマザリルは、化合物1-[2-(2,4-ジクロロフェニル)-2-(2-プロペニルオキシ)エチル]-1-イミダゾールの一般名である。
【0005】
収穫後の果実及び野菜の分野に適用される規制及び環境的な圧力が増加していることに伴い、多くの抗菌物質の使用が取りやめられたり、その再登録がなされなくなったりしている。よって、容易に入手可能で、低毒性で、登録が禁止されにくい物質を用いて、収穫後の微生物による劣化から果実、野菜及び観賞植物を保護する方法を提供することが望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、哺乳動物での毒性が非常に低く、環境にやさしい物質を用いて、果実、野菜及び観賞植物の微生物による劣化を低減させる新規な方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、イマザリルと組み合わせた浸透性獲得抵抗性誘発剤を適用することにより、収穫後の微生物による腐敗から果実、野菜及び/又は観賞植物を保護する方法を含む。
【0008】
ある実施形態において、果実及び/又は野菜に適用される物質は、イマザリルと、亜リン酸及び/又はそのアルカリ金属塩及び/又はアンモニウム塩(ammoniacal salts)とを含む。イマザリル単独では、果実及び野菜を収穫後腐敗から保護する助けとなることが確認されている。亜リン酸及び/又はその塩単独も、果実及び野菜を収穫後腐敗から保護する助けとなることも確認されている。
【0009】
収穫後劣化の低減におけるイマザリルと、亜リン酸(及び/又はその塩)との組み合わせの効果は、低温又は高温での収穫後劣化の低減におけるイマザリル単独、又は亜リン酸(及び/又はその塩)単独の個別の効果の合計よりも大きいことが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、果実、野菜又は観賞植物のうちの1つに、イマザリル供給源と、亜リン酸、亜リン酸のアルカリ金属塩及びそれらの組み合わせからなる群より選択される亜リン酸供給源とを含む混合物を適用することにより、果実、野菜又は観賞植物の1つを収穫後の微生物による劣化から保護する方法を提供する。
また、本発明は、約10 mg/Lと約30,000 mg/Lの間の範囲で存在するイマザリル供給源と、約0.1重量%と約10重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する、亜リン酸、亜リン酸のアルカリ金属塩及びそれらの組み合わせからなる群より選択される亜リン酸供給源とを含む混合物を調製し、
前記混合物をワックス被覆剤に組み入れ、
前記被覆剤を、果実、野菜又は観賞植物に適用する
工程を含む、果実、野菜又は観賞植物の1つを収穫後の微生物による劣化から保護する方法も提供する。
【0011】
上記の方法において、イマザリル供給源は、混合物中に、好ましくは約10 mg/Lと約10,000 mg/Lの間の範囲、より好ましくは約200 ppmの量で存在できる。
上記の方法において、亜リン酸供給源は、混合物中に、好ましくは約0.1重量%と約10重量%の間の亜リン酸当量の範囲、より好ましくは約1重量%と約3重量%の間の亜リン酸当量の範囲、さらに好ましくは約2重量%と約3重量%の間の亜リン酸当量の範囲、最も好ましくは約2重量%の亜リン酸当量の量で存在できる。
【0012】
上記の混合物は、殺真菌剤をさらに含むことができる。
上記の混合物は、殺生物剤をさらに含むことができる。
【0013】
上記の方法において、上記の混合物は、固体の状態又は液体の状態で提供され得る。
上記の混合物が液体の状態である場合、混合物は、上記の量のイマザリル供給源と、亜リン酸供給源とを含む水溶液を含み得る。
【0014】
上記の方法は、果実、野菜又は観葉植物を少なくとも部分的に、上記のイマザリル供給源と亜リン酸供給源とを含む混合物中に、好ましくは約5秒と約10分の間、より好ましくは約1分と約3分の間浸漬するさらなる工程を含み得る。
【0015】
上記の方法は、果実、野菜又は観賞植物が、上記の溶液でドレンチされる(drench)ことにより行うことができる。
また、上記の方法は、果実、野菜又は観賞植物に、上記の溶液を噴霧することにより行うこともできる。
【0016】
上記の方法において、上記の混合物を、腐敗制御効率を増大させるために、約30℃と約50℃の間の温度に加熱することが好ましい。
【実施例】
【0017】
本発明の実施形態を、以下の限定しない実施例によりさらに説明する。
実施例1
実施例1において、6つの異なる処理を行った(以下のA〜F)。6つの処理のそれぞれについて4回の反復を行い、それぞれの反復は、6個の果実片を含んでいた。つまり、各処理は、24個の果実片に適用した。この実施例で処理した果実は、6個の新しく収穫された成熟レモンであった。全ての処理は、そうでないと記載しない限り、20℃にて行った。
【0018】
処理は、次のとおりであった:
A. 水に浸漬した果実。未処理未接種対照。
B. 水に浸漬した果実。未処理接種対照。
C. イマザリルの200 ppm懸濁物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
D. 2% (w/w)亜リン酸カリウムを含有する溶液に2分間浸漬した果実。
E. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
F. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に40℃にて2分間浸漬した果実。
【0019】
処理を行い、10分間放置して乾燥させた後に、処理B〜Fに、緑カビ(ペニシリウム・ディギタータム(P. digitatum))及び青カビ(ペニシリウム・イタリカム(P.italicum))の混合接種物を接種した。果実への接種は、両方の真菌からの胞子で被覆された針を用いて、3〜5 mmの深さまで果実の皮に穴をあけることにより行った。果実を、約25℃にてインキュベートし、接種から7日間にわたって腐敗の進行を測定した。
実験は、2回反復した。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2
実施例2において、6つの異なる処理を行った(以下のA〜F)。6つの処理のそれぞれについて4回の反復を行い、それぞれの反復は、6個の果実片を含んでいた。つまり、各処理は、24個の果実片に適用した。この実施例で処理した果実は、6個の新しく収穫された成熟レモンであった。全ての処理は、そうでないと記載しない限り、20℃にて行った。
【0022】
処理は、次のとおりであった:
A. 水に浸漬した果実。未処理未接種対照。
B. 水に浸漬した果実。未処理接種対照。
C. イマザリルの200 ppm懸濁物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
D. 2% (w/w)亜リン酸カリウムを含有する溶液に2分間浸漬した果実。
E. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
F. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に40℃にて2分間浸漬した果実。
【0023】
処理を行い、10分間放置して乾燥させた後に、処理B〜Fに、緑カビ(ピー・ディギタータム)及び青カビ(ピー・イタリカム)の混合接種物を接種した。果実への接種は、両方の真菌からの胞子で被覆された針を用いて、3〜5 mmの深さまで果実の皮に穴をあけることにより行った。果実を、約25℃にてインキュベートし、接種から7日間にわたって腐敗の進行を測定した。
実験は、2回反復した。
【0024】
【表2】

【0025】
実施例3
実施例3において、6つの異なる処理を行った(以下のA〜F)。6つの処理のそれぞれについて4回の反復を行い、それぞれの反復は、6個の果実片を含んでいた。つまり、各処理は、24個の果実片に適用した。この実施例で処理した果実は、6個の新しく収穫された成熟ネーブルオレンジであった。全ての処理は、そうでないと記載しない限り、20℃にて行った。
【0026】
処理は、次のとおりであった:
A. 水に浸漬した果実。未処理未接種対照。
B. 水に浸漬した果実。未処理接種対照。
C. イマザリルの200 ppm懸濁物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
D. 2% (w/w)亜リン酸カリウムを含有する溶液に2分間浸漬した果実。
E. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
F. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に40℃にて2分間浸漬した果実。
【0027】
処理を行い、10分間放置して乾燥させた後に、処理B〜Fに、緑カビ(ピー・ディギタータム)及び青カビ(ピー・イタリカム)の混合接種物を接種した。果実への接種は、両方の真菌からの胞子で被覆された針を用いて、3〜5 mmの深さまで果実の皮に穴をあけることにより行った。果実を、約25℃にてインキュベートし、接種から7日間にわたって腐敗の進行を測定した。
実験は、2回反復した。
【0028】
【表3】

【0029】
実施例4
実施例4において、6つの異なる処理を行った(以下のA〜F)。6つの処理のそれぞれについて4回の反復を行い、それぞれの反復は、6個の果実片を含んでいた。つまり、各処理は、24個の果実片に適用した。この実施例で処理した果実は、6個の新しく収穫された成熟ネーブルオレンジであった。全ての処理は、そうでないと記載しない限り、20℃にて行った。
【0030】
処理は、次のとおりであった:
A. 水に浸漬した果実。未処理未接種対照。
B. 水に浸漬した果実。未処理接種対照。
C. イマザリルの200 ppm懸濁物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
D. 2% (w/w)亜リン酸カリウムを含有する溶液に2分間浸漬した果実。
E. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に2分間浸漬した果実。
F. イマザリルの200 ppm懸濁物と2% (w/w)亜リン酸カリウムとの混合物を含有する溶液に40℃にて2分間浸漬した果実。
【0031】
処理を行い、10分間放置して乾燥させた後に、処理B〜Fに、緑カビ(ピー・ディギタータム)及び青カビ(ピー・イタリカム)の混合接種物を接種した。果実への接種は、両方の真菌からの胞子で被覆された針を用いて、3〜5 mmの深さまで果実の皮に穴をあけることにより行った。果実を、約25℃にてインキュベートし、接種から7日間にわたって腐敗の進行を測定した。
実験は、2回反復した。
【0032】
【表4】

【0033】
本明細書の実施例においては、2重量%の亜リン酸カリウムの例示的な溶液を用いたが、亜リン酸の多くのその他の塩も効果的に用いることができることが認識される。任意の適切な亜リン酸供給源を、約0.1重量%〜約10重量%の亜リン酸当量の範囲、好ましくは約1重量%〜約3重量%の亜リン酸当量の範囲で効果的に用いることができることも認識される。同様に、イマザリル供給源は、約10 mg/L〜約10,000 mg/Lの範囲で効果的に用いることができる。これらの範囲の全体にわたるこれらの供給源物質の異なる組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0034】
本発明の固体の形は、例えば、実施例において同定される任意の溶液を蒸発させることにより得ることができる。
【0035】
本発明は、例示的な実施形態として記載されているが、これらに限定されないことが認識される。むしろ、添付の特許請求の範囲は、本発明の等価物の範囲を逸脱せずに、当業者に作製され得る本発明のその他の変形及び実施形態を含むように解釈されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実、野菜又は観賞植物のうちの1つに、イマザリル供給源と、亜リン酸、亜リン酸のアルカリ金属塩及びそれらの組み合わせからなる群より選択される亜リン酸供給源とを含む混合物を適用することにより、果実、野菜又は観賞植物の1つを収穫後の微生物による劣化から保護する方法。
【請求項2】
前記混合物が、前記イマザリル供給源が約10 mg/Lと約10,000 mg/Lの間の範囲で存在し、前記亜リン酸供給源が約0.1重量%と約10重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する水溶液を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記混合物が、前記イマザリル供給源が、約200 ppmの量で存在し、前記亜リン酸供給源が、約1重量%と約3重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する水溶液を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記イマザリル供給源が、約200 ppmの量で存在し、前記亜リン酸供給源が、約2重量%の亜リン酸当量の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記果実、野菜又は観葉植物を少なくとも部分的に、前記混合物中に、約5秒と約10分の間浸漬するさらなる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記果実、野菜又は観葉植物を少なくとも部分的に、前記溶液中に、約5秒と約10分の間浸漬するさらなる工程を含む請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記果実、野菜又は観葉植物を少なくとも部分的に、前記混合物中に、約1分と約3分の間浸漬するさらなる工程を含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記果実、野菜又は観葉植物を少なくとも部分的に、前記溶液中に、約1分と約3分の間浸漬するさらなる工程を含む請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記果実、野菜又は観賞植物が、前記溶液でドレンチされる請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記果実、野菜又は観賞植物が、前記溶液でドレンチされる請求項3に記載の方法。
【請求項11】
前記果実、野菜又は観賞植物に、前記溶液が噴霧される請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記果実、野菜又は観賞植物に、前記溶液が噴霧される請求項3に記載の方法。
【請求項13】
約10 mg/Lと約30,000 mg/Lの間の範囲で存在するイマザリル供給源と、約0.1重量%と約10重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する、亜リン酸、亜リン酸のアルカリ金属塩及びそれらの組み合わせからなる群より選択される亜リン酸供給源とを含む混合物を調製し、
前記混合物をワックス被覆剤に組み入れ、
前記被覆剤を、果実、野菜又は観賞植物に適用する
工程を含む、果実、野菜又は観賞植物の1つを収穫後の微生物による劣化から保護する方法。
【請求項14】
前記亜リン酸供給源が、約2重量%と約3重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記イマザリル供給源が、約200 ppmの量で存在し、前記亜リン酸供給源が、約1重量%と約3重量%の間の亜リン酸当量の範囲で存在する請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記イマザリル供給源が、約200 ppmの量で存在し、前記亜リン酸供給源が、約2重量%の亜リン酸当量の量で存在する請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記混合物が、殺真菌剤をさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記混合物が、殺真菌剤をさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記混合物が、殺生物剤をさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物が、殺生物剤をさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項21】
前記混合物が、固体の状態又は液体の状態で提供される請求項2に記載の方法。
【請求項22】
前記混合物が、固体の状態又は液体の状態で提供される請求項13に記載の方法。
【請求項23】
前記混合物が、腐敗制御効率を増大させるために、約30℃と約50℃の間の温度に加熱される請求項2に記載の方法。
【請求項24】
前記混合物が、腐敗制御効率を増大させるために、約30℃と約50℃の間の温度に加熱される請求項13に記載の方法。

【公開番号】特開2010−47570(P2010−47570A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189362(P2009−189362)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(507387413)プラント プロテクタンツ,エルエルシー (4)
【Fターム(参考)】