説明

果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する方法及び剤

【課題】果実の品質(果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度など)を低下させることなく、果実類の果肉障害発生を防止する手段を開発する。
【解決手段】下記式(I)のシクロヘキサン誘導体


(式中、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はフェニル基(置換されたフェニル基を含む)を表わし、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基又はベンジル基を表わす。)製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実を収穫する作物の果実品質低下抑制、果肉障害発生抑制に関するものであって、更に詳細には、果実の品質(果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度など)を低下させずに、果肉障害(みつ症、果肉褐変、す入りなど)の発生を抑制する方法及び抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リンゴ、ナシ、モモ等の果実においては、時に果肉が透明感のある水浸症状を呈する場合がある。リンゴ果実においては、この症状は一般的に「みつ入り」と呼ばれ、食味の良い果実と受け取られる場合が多い。一方、ナシやモモ果実においては、水浸症状の発生した果肉組織は褐変しやすく、著しい場合は組織の崩壊・空洞化が生じ、食味の低下を引き起こすため、商品価値は皆無になる。このため、この症状を一般に「みつ症」と呼び、その発生機構の究明や発生制御技術の開発が広範に進められている(非特許文献1参照)が、果肉生理障害(果肉障害)の1種と考えられているものの、詳細な発生機構の解明は未だなされていない。
【0003】
また、みつ症類似の果肉障害として、「果肉褐変」「す入り」などが存在する。「果肉褐変」とは、果肉が水浸して褐色に変色したものを指す。また、「す入り」とは、果肉細胞が崩壊することにより果肉に空洞が生じたものを指す。
【0004】
従来、みつ症の発生を抑制する手段として、摘葉処理や、パクロブトラゾール、プロヘキサジオンカルシウム塩、カルシウム資材の散布処理が有効であることが知られている。しかし、摘葉処理は、果実肥大、着色、成熟を抑制し、果肉比重・硬度がやや高くなり、糖度が低下することが報告されている(非特許文献2参照)。パクロブトラゾールやプロヘキサジオンカルシウム塩の処理も、新梢の伸長抑制、果実重の減少、果実硬度の上昇、糖度の低下等の有害な副作用は避けられず、実用的とはいい難い(非特許文献3参照)。カルシウム資材(炭酸カルシウム等)の散布処理は、みつ症抑制効果が不安定(非特許文献2参照)で、ばらつきが見られ(非特許文献1参照)、果実表面の汚れ(非特許文献4参照)も生じることが知られている。
【0005】
このように、ナシやモモなどのみつ症等は、生産者にとって大きな損失をもたらす重大な問題であるにもかかわらず、作物に負の影響を与えず、簡便で、安定したみつ症等抑制効果が得られる方法は確立されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】植調、Vol.41,No.11(2008),P.425−439
【非特許文献2】園芸学会雑誌、Vol.67,No.3(1998),P.381−385
【非特許文献3】果樹試験場報告、Vol.29(1996),P.51−65
【非特許文献4】園芸学会雑誌、Vol.68,No.2(1999),P.336−342
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる状況において、ナシやモモ等の果実類の品質を低下させず、みつ症に代表される果肉障害(みつ症、果肉褐変、す入りなど)の発生を抑制ないし防止するためのより優れた方法を開発し、高品質の果実を安定的に生産できる手段を生産者に提供する目的でなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的達成のため本発明者らは各方面から検討した結果、特定のシクロヘキサン誘導体を塗布処理又は浸漬処理したところ、全く予期せざることに、従来指摘されていたような有害な副作用を引き起こすことなく、つまり、作物に負の影響を与えずに、果実の品質を低下させることなくみつ症等の発生を高率に抑制することをはじめて見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の実施形態は次のとおりである。
(1)式(I)(下記化4)で表わされるシクロヘキサン誘導体又はその塩を有効成分として含有する剤を施用することを特徴とする、果実を収穫する作物の、果実の品質(果実及び果肉の品質)を低下させずに果肉障害の発生を抑制する方法。
(但し式(I)中、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はフェニル基(置換されたフェニル基を含む)を表わし、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基又はベンジル基(置換されたベンジル基を含む)を表わし、あるいは塩としてはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を表わす。)
(2)該シクロヘキサン誘導体が、式(I)(下記化4)において、Rが水素又はC〜Cアルキル基、RがC〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキル基を表わし、塩がカルシウム塩であること、を特徴とする(1)に記載の方法。
(3)該シクロヘキサン誘導体が、式(II)(下記化6)で表わされる化合物、又は式(III)(下記化7)で表わされるカルシウム塩化合物であることを特徴とする(2)に記載の方法。
(4)果実の品質(果実及び果肉の品質)が、果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度の少なくとも1つであり、果肉障害が、みつ症、果肉褐変、す入りの少なくとも1つであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1つに記載の方法。
(5)ペースト剤を果実の果梗部及び/又は枝に塗布する施用方法、又は果実全体のみを液体剤に浸漬する施用方法により処理することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)バラ科の作物の果実に対して施用することを特徴とする(1)〜(5)のいずれか1つに記載の方法。
(7)ナシ(和梨)、セイヨウナシ(西洋梨)、モモの少なくとも1つに対して施用することを特徴とする(6)に記載の方法。
(8)式(I)(下記化4)で表わされるシクロヘキサン誘導体又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、果実を収穫する作物の、果実の品質(果実及び果肉の品質)を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤。
(9)果実の品質(果実及び果肉の品質)が、果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度の少なくとも1つであり、果肉障害が、みつ症、果肉褐変、す入りの少なくとも1つであることを特徴とする(8)に記載の剤。
(10)ペースト剤を果実の果梗部及び/又は枝に塗布する処理方法によって用いることを特徴とする、(8)又は(9)に記載の果梗部及び/又は枝塗布用ペースト剤。
(11)果実全体のみを液体剤に浸漬する処理方法によって用いることを特徴とする、(8)又は(9)に記載の果実浸漬用液体剤。
(12)果実を収穫する作物が、バラ科の作物であることを特徴とする、(8)〜(11)のいずれか1つに記載の剤。
(13)果実を収穫する作物が、ナシ(和梨)、セイヨウナシ(西洋梨)、モモの少なくとも1つであることを特徴とする、(12)に記載の剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ナシやモモ等の果実生産において、時に壊滅的な被害を与えるみつ症等の果肉障害発生を防ぐことができ、その場合に従来ならば樹体や果実に与えていた負の影響もなくなるため、高品質の果実を安定して生産できるようになる。よって、本発明は果実生産者に大きな利益をもたらし、ひいては消費者にとっても有益な技術である。
【0011】
このように本発明は、作物に負の影響を与えずに、果実の品質を低下させずみつ症等の発生を抑制するという、主枝全体に散布する処理では従来不可能であったことを見事に実現したものであり、従来技術をはるかに越えた顕著な効果を奏するため、特許要件を充分に具備するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用するシクロヘキサン誘導体は式(I)で示され、下記化4の構造を有するものである。
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はフェニル基(置換されたフェニル基を含む)を表わし、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基又はベンジル基(置換されたベンジル基を含む)を表わし、あるいは塩としてはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を表わす。)
【0015】
シクロヘキサン誘導体(I)としては、上記した化合物を1種又は2種以上併用すればよいが、例えば式(I)において、Rが水素またはC〜Cアルキル基、RがC〜Cアルキル基またはC〜Cシクロアルキル基を表わし、塩がアルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム、銅、ニッケル、マンガン、コバルト、亜鉛、鉄、または銀を表わし、好ましくはカルシウム塩を表わす場合の化合物が好適例として例示される。
【0016】
シクロヘキサン誘導体(I)は、例えば、特公平4−29659号公報に従い、次のように製造することができる(下記化5)。
すなわち、化合物(IV)又は化合物(V)(式中、Mはアルカリ金属原子を示し、Rは前記と同じ意味を示す。)と、酸クロライド(RCOCl:Rは前記と同じ意味を示す)とを、γ−ピコリンの存在下または非存在下において、塩基の存在下または非存在下、溶媒の存在下に−20℃ないし溶媒の沸点の温度範囲、好ましくは室温以下で10分ないし7時間反応させることにより化合物(VI)を製造することができる。
ここで塩基としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、4−N,N−ジメチルアミノピリジン等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基を挙げることができる。
【0017】
化合物(I)は、化合物(VI)を触媒及び溶媒の存在下、室温ないし溶媒の沸点の温度範囲で1ないし10時間反応させることにより製造することができる。
ここで、触媒としては、4−N,N−ジメチルアミノピリジン、4−N,N−ジエチルアミノピリジン、4−ピロリジノアミノピリジン等のピリジン誘導体、N−エチルイミダゾール等のN−アルキルイミダゾール誘導体を挙げることができる。
【0018】
【化5】

【0019】
また、市販品も使用可能であって、例えば、下記化6、化7で示されるプロヘキサジオン及びプロヘキサジオンカルシウム塩(式(II)、式(III):これらはいずれも市販されており、特にプロヘキサジオンカルシウム塩については「ビビフル」の商品名で市販されている。)が適宜使用可能である。
【0020】
【化6】

【0021】
【化7】

【0022】
本発明の、果実を収穫する作物の果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤において、シクロヘキサン誘導体の施用量は、対象作物、使用形態、使用方法、使用時期などにより適宜規定しなければならないが、通常、果実に浸漬する場合には10〜10,000ppm、好ましくは300〜3,000ppmの濃度にして使用する。目的の濃度に希釈するには、通常の農業用薬剤の希釈に用いられる水又は界面活性剤の水溶液を用いる。また、ラノリンなどを用いたペースト処理の場合は0.1〜30%、好ましくは1〜10%の濃度にして使用する。
【0023】
本発明の、果実を収穫する作物の果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤は、上記成分以外に必要に応じて通常用いられる担体、乳化剤、分散剤、展着剤、湿展剤、固着剤、崩壊剤等の補助剤を含有させて、水和剤、乳剤、粉剤、粒剤、顆粒水和剤、ペースト剤等の各種形態に製剤化することができる。
【0024】
ここで用いられる補助剤としては以下のものが挙げられる。液体担体としては、水、エタノール、メタノールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類などが挙げられる。また乳化剤または分散剤としては、通常、界面活性剤が使用され、たとえば高級アルコール硫酸ナトリウム、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ラウリルベタインなどの陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤が挙げられる。ペースト剤の場合、ラノリン、ワセリンなどが用いられる。
【0025】
本発明の、果実を収穫する作物の果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤は、1種又は2種以上の式(I)で示されるシクロヘキサン誘導体の他に、更に他の植物成長調整剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺センチュウ剤、殺菌剤、除草剤、微生物製剤、肥料、展着剤、その他の農業上許される成分を混合あるいは前後して使用しても良い。
【0026】
本発明の、果実を収穫する作物の果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する方法においては、作物の種類、生育ステージ、使用方法または使用時期によって異なるが、一般的には、満開1〜5ヶ月後、好ましくは満開3〜5ヶ月後に果実の全体又は一部分に塗布等を行う。特に、ペースト処理の場合は、同様の時期に果実の果梗部または枝に塗布する。また、浸漬処理の場合は、同様の時期に果実全体のみを処理液に浸漬する。
【0027】
ペースト処理の塗布量は、例えばプロヘキサジオンカルシウム塩10%ペースト(ラノリン90%)処理の場合、通常、ナシ果梗に、1果梗あたり0.0001〜1.0g、好ましくは0.001〜0.5g、更に好ましくは0.003〜0.3g程度とするのが好適であるが、これは一応の目安であって必要に応じて適宜増減することができる。
【0028】
施用する回数は、作物の種類、生育ステージ、使用方法によって異なるが、上記の使用時期の間に、1回又は1週間〜1ヶ月の間隔で複数回施用する。
【0029】
本発明の適用可能作物としては、果実を収穫する作物であれば特に限定はされないが、果樹類や果菜類が挙げられる。果樹類としては、バラ科の果樹類(ナシ(和梨)、セイヨウナシ(西洋梨)、リンゴ、モモ、スモモ、プルーン、ネクタリン、ウメ、アンズ、ビワ、その他)、カキ、柑橘類、キウイ等が例示される。果菜類としては、イチゴ、ウリ科の果菜類(メロン、プリンスメロン、スイカ、キュウリ、カボチャ、ウリ、ニガウリ、その他)、ナス等が例示される。
【0030】
また、本発明の、果実を収穫する作物の果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤は、遺伝子組み換え等の技術により形質転換された作物にも同様に使用できる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
ニホンナシ(豊水)を対象として、次の実験概要にてみつ症の発生と果実品質の評価試験を行った。なお、プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト処理は、クミアイ化学工業株式会社のプロヘキサジオンカルシウム塩(商品名:ビビフル)を利用して行った。
【0033】
実験概要
材料;ニホンナシ'豊水'果実
2007年4月11日満開、2007年8月31日収穫
処理区あたり18〜19果
【0034】
処理区
無処理:Cont(無処理対照区)
満開86日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2007年7月6日
満開120日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2007年8月9日
ペースト処理はナシ果梗に塗布(1果あたり0.03g程度)
【0035】
得られた結果を表1及び表2に示した。ここで、みつ症発生率は調査果実数に対するみつ症発生果実数の百分率、果肉硬度は富士平工業株式会社製果実硬度計FRUIT PRESSURE TESTER FT011(直径8mm円柱形プローブ使用)による測定値(最大加圧重:単位、kg)、果汁糖度は株式会社アタゴ製デジタル糖度計PR−101αによるBrix値(ブリックス(Brix:Bx):果汁のように大部分糖からなる水溶液固形分の%をブリックス度(ブリックス値)として表示する。ブリックスの測定は、通常、屈折計を用いて行う。ブリックスは、水溶性固形分をショ糖濃度として測定したものである。)、熟度は3人の試食による官能試験評価値(未熟−適熟−過熟を5段階評価)の平均値、新梢伸長抑制は試験区の新梢の伸長抑制の有無を+(抑制有り)又は−(抑制無し)で示した。
果肉のみつ症状の有無は、果実を梗あ部、赤道部、ていあ部の3ヵ所で横断し、各切断面のみつ症状の有無を評価した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
表1及び表2の結果から明らかなように、無処理対照区と比較して、プロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開86日後処理及びプロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開120日後処理は、果肉のみつ症状の発生を明らかに抑制しているが、果実の品質はいずれも無処理対照区と同等、新梢の伸長にも影響は無かった。
【0039】
(実施例2)
次の実験概要にて実施例1と同様の評価試験を行った。
【0040】
実験概要
材料;ニホンナシ'豊水'果実
2008年4月16日満開、2008年9月9日〜22日収穫
処理区あたり57〜71果
【0041】
処理区
無処理:Cont(無処理対照区)
満開30日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2008年5月16日
満開61日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2008年6月16日
満開90日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2008年7月15日
満開117日後処理:プロヘキサジオンカルシウム塩1%ペースト(ラノリン99%)処理
処理日:2008年8月11日
ペースト処理はナシ果梗に塗布(1果あたり0.03g程度)
【0042】
得られた結果を表3に示した。ここで、みつ症発生率は実施例1と同様に評価した。みつ指数が1以上の果率は、みつ症発生率を評価したときの各切断面のみつ症状を以下の基準で評価し、みつ指数が1〜3の果実数の比率を計算した。
みつ指数0:健全なもの、および果芯部から放射線状に出ているうっすらとしたみつ症状様が認められるもの。
みつ指数1:果皮直下にうっすらとしたみつ症状が認められるか、または1cm未満の境界明瞭なみつ症状が認められるもの。
みつ指数2:1cm以上の透明で境界明瞭なみつ症状が認められるか、またはみつ症状の小斑点が切断面のかなりの面積を占めるもの。
みつ指数3:2の症状がさらに拡大して、梗あ部・ていあ部で切断面の1/4以上、赤道面では1/8以上の境界明瞭なみつ症状が認められるもの。
【0043】
【表3】

【0044】
表3の結果から明らかなように、無処理対照区と比較して、プロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開30日後処理、プロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開61日後処理、プロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開90日後処理、及びプロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開117日後処理は、果肉のみつ症状の発生を明らかに抑制し、中でもプロヘキサジオンカルシウム塩ペースト満開117日後処理の抑制効果が高かった。いずれの処理も、新梢の伸長には影響は無かった。
【0045】
本発明を要約すれば次のとおりである。
すなわち本発明は、式(I)で示されるシクロヘキサン誘導体及び/又はその塩を有効成分とする、果実を収穫する作物の、果実の品質(果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度の少なくともひとつ)を低下させずに、つまり、果実の品質の好ましくない変化を極力させることなく、例えば、果実重量の減少、果汁糖度の低下、果汁酸度の上昇、果肉硬度の上昇などをできる限りさせることなく、果肉(果実及び果肉)障害(みつ症、果肉褐変、す入りの少なくともひとつ)の発生を抑制ないし防止する剤、及び抑制ないし防止する方法に関するものである。特に、本発明に係る剤は、主枝全体に散布処理するよりも、果梗部及び/又は枝塗布用ペースト剤や果実浸漬用液体剤に製剤して、果実の果梗部及び/又は枝に塗布、付着せしめたり、果実全体を浸漬処理したりする方法が、副作用がなく好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化1で示される式(I)のシクロヘキサン誘導体又はその塩を有効成分として含有する剤を施用することを特徴とする、果実を収穫する作物の、果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する方法。
【化1】

(式中、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cハロアルキル基又はフェニル基(置換されたフェニル基を含む)を表わし、Rは水素、C〜Cアルキル基、C〜Cシクロアルキル基又はベンジル基(置換されたベンジル基を含む)を表わし、あるいは塩としてはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩を表わす。)
【請求項2】
該シクロヘキサン誘導体が、式(I)において、Rが水素又はC〜Cアルキル基、RがC〜Cアルキル基又はC〜Cシクロアルキル基を表わし、塩がカルシウム塩であること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該シクロヘキサン誘導体が、下記化2で示される式(II)の化合物、又は下記化3で示される式(III)のカルシウム塩化合物であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【化2】

【化3】

【請求項4】
果実の品質が、果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度の少なくとも1つであり、果肉障害が、みつ症、果肉褐変、す入りの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ペースト剤を果実の果梗部及び/又は枝に塗布する方法、又は果実全体のみを液体剤に浸漬する方法により処理することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
バラ科の作物の果実に対して施用することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ナシ(和梨)、セイヨウナシ(西洋梨)、モモの少なくとも1つに対して施用することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
式(I)で表わされるシクロヘキサン誘導体又はその塩を有効成分として含有することを特徴とする、果実を収穫する作物の、果実の品質を低下させずに果肉障害の発生を抑制する剤。
【請求項9】
果実の品質が、果実重量、果汁糖度、果汁酸度、果肉硬度の少なくとも1つであり、果肉障害が、みつ症、果肉褐変、す入りの少なくとも1つであることを特徴とする請求項8に記載の剤。
【請求項10】
ペースト剤を果実の果梗部及び/又は枝に塗布する処理方法によって用いることを特徴とする、請求項8又は9に記載の果梗部及び/又は枝塗布用ペースト剤。
【請求項11】
果実全体のみを液体剤に浸漬する処理方法によって用いることを特徴とする、請求項8又は9に記載の果実浸漬用液体剤。
【請求項12】
果実を収穫する作物が、バラ科の作物であることを特徴とする、請求項8〜11のいずれか1項に記載の剤。
【請求項13】
果実を収穫する作物が、ナシ(和梨)、セイヨウナシ(西洋梨)、モモの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項12に記載の剤。

【公開番号】特開2010−215555(P2010−215555A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−63590(P2009−63590)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000000169)クミアイ化学工業株式会社 (86)
【Fターム(参考)】