説明

果実の熟れ促進方法

【課題】化石原料に依存しないエチレンにて果実の熟れの促進を容易にできる果実の熟れ促進方法を提供する。
【解決手段】ブドウ葉中の脂質からの微生物生成エチレンによって果実の成熟および追熟を効果的に促進できる。有機農産物にも安心して使用できる。ブドウ葉からは微生物の働きによって大量のエチレンが得られる。大規模な成熟あるいは追熟施設にもこの微生物生成エチレンを利用できる。微生物生成エチレンは、石油などの原料を化学的処理して得られるエチレンによって果実の成熟および追熟促進を図る方法に代わる、安心および安全な果実の成熟および追熟促進方法を可能にする。微生物生成エチレンは、有機栽培果実の成熟および追熟促進に極めて有効である。実用可能な技術であり、非常に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物生成エチレンにて果実の熟れを促進させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微生物の働きによって有機物、特にブドウ枯葉中の脂質からエチレンが生成されることが知られており(例えば、非特許文献1参照。)、さらに、ブドウ枯葉脂質からエチレンを大量に生産する微生物を分離して同定した構成も知られている(例えば、非特許文献2および3参照)。
【0003】
一方、近年、食と農業に対する関心が社会的に高まっており、食の安全といった観点から有機農産物への需要が急激に増加している。しかし、海外から輸入しているバナナのような果実の場合には、必ず未熟の果実でなければならないと植物防疫法で定められている。このため、国内で、石油などから化学的に処理して生産された工業用エチレンを用いて成熟および追熟処理がなされているのが現状である。
【非特許文献1】石井孝昭、愛媛大学教育学部紀要第3部自然科学14,1994年,p.101−211
【非特許文献2】石井孝昭,他4名、園芸学会雑誌,第71巻(別2),2002年,p.270の3
【非特許文献3】落合彩織,他4名、園芸学会雑誌,第72巻(別1),2003年,p.386
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、日本国内で有機JASマークをつけて販売するためには、石油生成エチレン以外の物質、例えばJAS規格で認められているエタノールなどの資材を用いなければならない。しかし、エタノールを用いる場合には、このエタノールを大量に使用する必要があり、このエタノールの取り扱いにあたっては消防法の適応を受けなければならないから、取り扱いが容易ではない。すなわち、有機栽培果実の成熟あるいは追熟の促進には、有効な方法を開発する必要があるという問題を有している。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、化石原料に依存しないエチレンにて果実の熟れの促進を容易にできる果実の熟れ促進方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の果実の熟れ促進方法は、脂質および脂質を含む有機物のいずれかから微生物の働きによってエチレンを生成し、このエチレンにて果実の熟れを促進させるものである。
【0007】
そして、脂質および脂質を含む有機物のいずれかから微生物の働きによって、エチレンの大量の生成が容易にできるので、この化石原料に依存しないエチレンにて果実の熟れを容易に促進できる。
【0008】
請求項2記載の果実の熟れ促進方法は、請求項1記載の果実の熟れ促進方法において、有機物として、ブドウ葉を用いるものである。
【0009】
そして、有機物としてブドウ葉を用いることにより、エチレンが効率良く大量に生成されるので、この化石原料に依存しないエチレンによる果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【0010】
請求項3記載の果実の熟れ促進方法は、請求項1または2記載の果実の熟れ促進方法において、微生物として、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属を用いるものである。
【0011】
そして、微生物として、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属を用いることにより、この微生物を用いて生成されたエチレンには病原性がなく、かつエチレンが効率良く大量に生成されるので、果実の熟れの促進が安心かつ安全となり、果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【0012】
請求項4記載の果実の熟れ促進方法は、請求項3記載の果実の熟れ促進方法において、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属として、バチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)、バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)、バチラス・ベタビエンシス(Bacillus bataviensis 菌株番号KIOSB21)およびバチラス・セファリカス(Bacillus sphaericus 菌株番号KIOSB15)のいずれかを用いるものである。
【0013】
そして、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属として、バチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)、バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)、バチラス・ベタビエンシス(Bacillus bataviensis 菌株番号KIOSB21)およびバチラス・セファリカス(Bacillus sphaericus 菌株番号KIOSB15)のいずれかを用いることにより、この微生物を用いて生成されたエチレンには病原性がなく、かつエチレンが効率良く大量に生成されるので、果実の熟れの促進が安心かつ安全となり、果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の果実の熟れ促進方法によれば、脂質およびこの脂質を含む有機物のいずれかから微生物の働きによって、エチレンの大量生産が容易にできるので、この化石原料に依存しないエチレンにて果実の熟れを容易に促進できる。
【0015】
請求項2記載の果実の熟れ促進方法によれば、有機物としてブドウ葉を用いることにより、エチレンが効率良く大量に生成されるので、この化石原料に依存しないエチレンによる果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【0016】
請求項3記載の果実の熟れ促進方法によれば、微生物として病原性を持たないバチラス(Bacillus)属を用いることにより、この微生物を用いて生成されたエチレンには病原性がなく、かつエチレンが効率良く大量に生成されるので、果実の熟れの促進が安心かつ安全となり、果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【0017】
請求項4記載の果実の熟れ促進方法によれば、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属としてバチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)、バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)、バチラス・ベタビエンシス(Bacillus bataviensis 菌株番号KIOSB21)およびバチラス・セファリカス(Bacillus sphaericus 菌株番号KIOSB15)のいずれかを用いることにより、この微生物を用いて生成されたエチレンには病原性がなく、かつエチレンが効率良く大量に生成されるので、果実の熟れの促進が安心かつ安全となり、果実の熟れの促進がより効率良くなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、本発明の果実の熟れ促進方法の一実施の形態を説明する。
【0019】
まず、実験例1として、パイロットプラントにおける微生物によるブドウ枯葉からのエチレン生産について説明する。
【0020】
パイロットプラントを用いて、ブドウ枯葉1kgに、加圧滅菌したペプトン酵母培地150リットル(L)と、病原性を持たなく容易に入手できるエチレン生成細菌株としてバチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)およびバチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)とのそれぞれを加えてから3週間混合培養した。このとき、図示しない培養装置内の通気を行うために、培養中に培養装置の下部から空気を数回注入した。この際、培養装置の上部から排出される気相を回収した。なお,培養期間中の液温を25℃以上35℃以下の範囲に調整した。
【0021】
この結果、実験開始1日目から大量のエチレンが発生し、この状態が18日間続いた後にエチレンの発生が減少した。このとき、培養1か月間のエチレン発生量は10.8mLであった。なお、メタンは、実験開始後12日後から大量に発生する傾向がみられた。
【0022】
次いで、実験例2として、微生物生成エチレンが有機栽培バナナの成熟促進に及ぼす影響について説明する。
【0023】
メキシコ産の未熟な有機栽培バナナ[Musa sp.(AAA group, Cavendish subgroup) cv. Enano]9kgを、エチレン処理区およびエチレン無処理区の各処理区となる袋に入れた状態で、に24℃の室温下で置いた。
【0024】
そして、エチレン処理区には、上述の実験例1で得られた気相30L(エチレン53.4ppmを含む)にて24時間に亘って追熟促進処理した。なお、エチレン無処理区には、エチレンを含まない気相30Lにて処理した。また、処理期間中の袋内の低級炭化水素および酸素濃度の変化を図示しない半導体ガスセンサ(TGS823型)およびジルコニア酸素センサで計測した。
【0025】
この後、各処理区の処理が終了した後に、各処理区の袋を1時間開封した。その後、各処理区ともにバナナ1ふさ(約1kg)を袋に入れて密封してから、エチレン処理後の袋内の低級炭化水素および酸素濃度の変化を、前記と同様の半導体ガスセンサおよびジルコニア酸素センサで計測した。さらに、残りのバナナ果実については、エチレン処理後の果色の変化を観察するとともに、果皮中のクロロフィル含量について計測した。
【0026】
この結果、図2に示すように、エチレン処理区のバナナ果皮は、エチレン処理3日後から着色し始め、シュガースポットも観察された。しかし、エチレン無処理区ではバナナ果実の着色はほとんど観察されなかった。また、バナナ果皮中のクロロフィル含量を分析したところ、図3に示すように、エチレン処理区ではクロロフィル含量が処理3日後から急激に減少したのに対し、エチレン無処理区での減少は穏やかであった。
【0027】
このとき、図4に示すように、エチレン処理期間中の低級炭化水素が極めて高かったので、エチレンが十分に処理されていることが明らかとなった。さらに、図5に示すように、エチレン処理後の果実から発生する低級炭化水素は、エチレン無処理の果実よりも多く、さらに酸素の減少も大きかったことから、微生物生成エチレン処理後のバナナにおいて,処理後,追熟が急激に進んだことが明らかになった。
【0028】
したがって、上記一実施の形態によれば、有機物、特にブドウ葉中の脂質からの微生物生成エチレンによって、果実の成熟および追熟を効果的に促進でき、有機農産物にも安心して使用できる。また、ブドウ葉からは微生物の働きによって大量のエチレンが得られるので、大規模な成熟あるいは追熟施設にも微生物生成エチレンを利用できる。
【0029】
さらに、この微生物生成エチレンは、従来の石油やエタノールなどの原料を化学的処理して得られるエチレンによって果実の成熟および追熟促進を図る方法に代わる、安心および安全な果実の成熟および追熟促進方法を可能にする。すなわち、微生物生成エチレンは、果実、特に有機栽培果実の成熟および追熟促進に極めて有効であるから、有機JAS果実にも適応できるとともに、実用可能な技術であるので、非常に有用である。したがって、有機栽培した有機農産物を微生物生成エチレンにて熟成あるいは追熟させれば、JAS有機農産物として取り扱うことができるので、特に有用である。
【0030】
なお、上記一実施の形態では、エチレン生成細菌株として、バチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)およびバチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)を用いたが、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属であれば、バチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)、バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)、バチラス・ベタビエンシス(Bacillus bataviensis 菌株番号KIOSB21)およびバチラス・セファリカス(Bacillus sphaericus 菌株番号KIOSB15)の少なくとも1つ以上の種を用いればよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の果実の熟れ促進方法の一実施の形態でパイロットプラントからのエチレン生成量およびメタン生成量を示すグラフである。
【図2】同上果実の熟れ促進方法で生成したエチレンがバナナ果実の着色に及ぼす影響を示す写真である。
【図3】同上果実の熟れ促進方法で生成したエチレンがバナナ果皮内のクロロフィル含量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】同上果実の熟れ促進方法で生成したエチレン処理期間中の処理区および無処理区におけるバナナ果実を入れた袋内の低級炭化水素および酸素濃度の経時的変化を示すグラフである。
【図5】同上低級炭化水素および酸素濃度の経時的変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質およびこの脂質を含む有機物のいずれかから微生物の働きによってエチレンを生成し、
このエチレンにて果実の熟れを促進させる
ことを特徴とする果実の熟れ促進方法。
【請求項2】
有機物として、特にブドウ葉を用いる
ことを特徴とする請求項1記載の果実の熟れ促進方法。
【請求項3】
微生物として、病原性を持たないバチラス(Bacillus)属を用いる
ことを特徴とする請求項1または2記載の果実の熟れ促進方法。
【請求項4】
病原性を持たないバチラス(Bacillus)属として、バチラス・マイコイデス(Bacillus mycoides 菌株番号KIOSB43)、バチラス・メガテリウム(Bacillus megaterium 菌株番号KIOSB44)、バチラス・ベタビエンシス(Bacillus bataviensis 菌株番号KIOSB21)およびバチラス・セファリカス(Bacillus sphaericus 菌株番号KIOSB15)のいずれかを用いる
ことを特徴とする請求項3記載の果実の熟れ促進方法。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−87330(P2006−87330A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−275381(P2004−275381)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【出願人】(302018020)
【Fターム(参考)】