説明

果実の着色調整方法

【課題】調整剤散布や色付きフィルムで覆う機材設置に係る費用や労力を軽減し、かつ薬剤に頼らない「すだち」「レモン」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能な着色調整方法を提供する。
【解決手段】果樹Fが植えられている地面G上に果皮色調整シートを敷設して、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光を果実に照射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果皮色調整シートを敷設することにより「すだち」「レモン」といった果実表皮の着色を調整する着色調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の果実栽培においては、市場において果皮色が価格に及ぼす影響が大きいため、生産者が果実の着色を促進し、あるいは抑制する技術を用いて出荷時期の調整を図ることがある。
【0003】
従来より、果実の品質を改良する技術として、以下の非特許文献1〜9が知られている。
非特許文献1〜3では、「温州みかん」の果実の生育と糖分向上とのバランスをとるために点滴かん水を行う技術、また、透湿性マルチシートの下で点滴かん水を行う技術が示されている。非特許文献4では、「柿」の着色を促進させて収穫時期を早めるために樹冠下へ反射マルチシートを敷設する技術が示されている。
【0004】
ところで、上記非特許文献1〜4は、「温州みかん」又は「柿」のような着色によって商品価値が上がる果実に適用されるものであり、「温州みかん」と同じ柑橘系ではあっても、表皮が着色することで商品価値が下がる「すだち」「レモン」に対してそのまま適用することができない
このため、研究者らは、「すだち」「レモン」にも適用可能なものとして、非特許文献5〜7に示されるように市販のジベレリン水溶剤などの植物生長調整剤を散布することで、表皮の着色調整を行う技術、及び非特許文献8及び9に示されるように、施設栽培においてハウスや果実を光透過性の色付きフィルムで覆うことで、果実表皮の着色調整を行う技術を提供している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「カンキツのマルチ・点滴かん水同時施肥システムの開発と普及」園学研(Hort.Res.(Japan)9(2):129−135.2010)
【非特許文献2】「露地栽培ウンシュウミカンにおける周年マルチ点滴かん水同時施肥法の開発」園学研(Hort.Res.(Japan)3(1):45−49.2004)
【非特許文献3】「マルチ栽培におけるウンシュウミカン樹の水分動態」園学研(Hort.Res.(Japan)4(3):291−295.2005)
【非特許文献4】「環状はく皮および反射マルチ敷設がカキ‘刀根早生’果実の収穫後の軟化発生に及ぼす影響」園学研(Hort.Res.(Japan)5(2):185−191.2006)
【非特許文献5】“THE USE OF GROWTH REGULATORS IN CITRICULTURE; A REVIEW ”Scientia Horticulturae, 11 (1979) 151-162
【非特許文献6】“GA3 and 2,4-D prolong on-tree strorage of citrus in Morocco” Scientia Horticulturae, 44 (1990) 241-249
【非特許文献7】“ EFFECTS OF GIBBERLLIC ACID CYCOCEL ON COLOURING AND SIZING OF LEMON ” Scientia Horticulturae, 12 (1980) 177-181
【非特許文献8】“Photosynthetic response of citrus grown under reflective aluminized polypropylene shading nets ”Scientia Horticulturae, 96 (2002) 115-125
【非特許文献9】「遠赤色光透過抑制フィルムの短期間処理が数種花壇苗の生育・開花に及ぼす影響」園学研(Hort.Res.(Japan)8(1):93−99.2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した非特許文献5〜7では、市販のジベレリン水溶剤などの植物生長調整剤を散布するための薬剤購入費用や、散布作業に要する労力のコストが掛かり、特に、高齢化が進む果樹生産者には負担が多く、また、薬剤の散布時期により着色にばらつきが生じるため、効果も限定的である。
また、非特許文献8・9では、施設外の果樹栽培では樹木や果実を色付きフィルムで覆うための専用の機材も必要で、生産現場での使用は実用的ではない。
さらに、「すだち」「レモン」といった柑橘系の果実では、市場価値を保つために果皮の赤みが増さないようにし、出荷に合わせて着色時期を調整する必要があるが、この種の柑橘系果実では、着色時期調整に関して既存の技術をそのまま適用することができないという問題があった。
【0007】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、調整剤散布や色付きフィルムで覆うといった機材設置に係る費用や労力を軽減し、かつ薬剤に頼らない「すだち」
「レモン」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能な着色調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。すなわち、本発明の果実の着色調整方法では、果樹が植えられている地面上に果皮色調整シートを敷設して、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光を果実に照射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の果実の着色調整方法によれば、果樹が植えられている地面上に果皮色調整シートを敷設して、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長、好ましくは400〜550nmの範囲の波長の反射光を果実に照射することで、「すだち」「レモン」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能となる。すなわち、本発明に係る果皮色調整シートを、果樹が植えられている地面上に敷設することにより、従来のような、調整剤散布や色付きフィルムで覆う機材設置に係る費用や労力を軽減し、かつ薬剤に頼らない「すだち」「レモン」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】果樹Fが植えられている近傍の地面Gに、本発明に係る果皮色調整シート10を敷設した例を示す概略図である。
【図2】太陽光線の波長と強度との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の果皮色調整シート10に係る反射光の波長と強度との関係を示すグラフである。
【図4】従来の反射シートに係る反射光の波長と強度との関係を示すグラフである。
【図5】計測期間(横軸)と、着色期及び収穫期における「すだち」の果皮の赤み(a値)(縦軸)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る果実の着色調整方法の一実施形態について、図1〜図5を参照して説明する。
本実施形態では、図1に示すように、「すだち」「レモン」といった果樹Fが植えられている近傍の地面Gに、本発明に係る果皮色調整シート10を敷設し、この果皮色調整シート10によって、太陽光線を反射しその反射光(符号12で示す)を果樹F上の果実に対して下方から照射する。
【0012】
この果皮色調整シート10は、主材となるポリエチレンテレフタレート(PET)の上面に、ウレタン系ラミネート用インキにより所定の着色、印刷を施し、2液硬化型ウレタン系ラミネート用接着剤を介してアルミニウムシートを積層し、さらに、該アルミニウムシートの上面に、2液硬化型ウレタン系ラミネート用接着剤を介して直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を積層した積層構造であって、このような積層構造が採用されることで、太陽光線の反射光12を、460ないし490nmを最大とし、かつ特に350〜600nmの範囲の波長が占める割合の高い反射光12を果実に照射するように機能調整されている。
【0013】
また、前記果皮色調整シート10の積層体では、厚さが約85μmとされ、5×5mmパターンのピッチで針により貫通孔11が形成されている。なお、このような貫通孔11は、地面Gに対する通湿性及び通気性を確保するため、すなわち、シートの穴は余分な雨水を通さず、しかも土壌中の湿気を逃すために設けられている。カンキツ類の栽培では、土壌中に過剰な湿気がたまると果実の品質低下(果実糖度の低下とクエン酸濃度の上昇)をきたすことがあるため、かかる穴を設けて土壌中の水分を適正な範囲に維持している。
【0014】
そして、光の波長と強度との関係を示す図2〜図4をから分かるように、図2で示す波長の太陽光が照射された場合に、上記果皮色調整シート10では、図3に示すように、460ないし490nmを最大とし(そのピークを図3に符号Pで示す)、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光12が占める割合の多い光線を果実に照射するように調整されている。一方、従来から使用されているシート(マルチシート)では、図4に示すように、300nmから850nmまでの広い波長領域で、太陽光線の反射光12を果実に照射するものであって、反射光12の波長及びピーク波長が、本発明に係る果皮色調整シート10とは異なっている。
【0015】
上記のように構成された本発明に係る、460ないし490nmを最大としかつ350〜600nmの範囲の波長の反射光12を果実に照射する果皮色調整シート10と、他の試作シートと比較した結果を、図5に示す。
なお、図5において、(1)で示すグラフは反射シートを使用しなかった場合、(2)で示すグラフは本発明に係る果皮色調整シート10を使用した場合、また、(3)〜(8)で示すグラフは、図4に示されるように、反射光12が、果皮色調整シート10で示される350〜600nmの波長範囲を越えかつ図3に示した460ないし490nmとは異なるピークが設定された反射シート(比較例)を使用した場合の測定結果である。
そして、(1)の反射シートなしの状態、及び(2)の本発明に係る果皮色調整シート10を使用し、(3)〜(8)の比較例となる反射シートを使用して、10月上旬から12月上旬までの2ヶ月間の計測期間にわたり、「すだち」の果皮の着色について観察を行った。
【0016】
そして、計測期間(横軸)と、着色期及び収穫期における「すだち」の果皮の赤み(a値)(縦軸)との関係を示す図5を参照して分かるように、本発明に係る(2)の果皮色調整シート10は、(1)の反射シートなしの状態、及び(3)〜(8)の比較例となる反射シートを使用した場合と比較して、全計測期間において、果実の果皮の赤み(a値)が全体的に低く、果実の着色時期の遅延が可能となることが確認された。
【0017】
以上詳細に説明したように本実施形態に示される果実の着色調整方法では、果樹Fが植えられている地面G上に果皮色調整シート10を敷設して、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光12を果実に照射することで、「すだち」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能となる。すなわち、上記果皮色調整シート10を、果樹Fが植えられている地面上に敷設することにより、従来のような、調整剤散布や色付きフィルムで覆う機材設置に係る費用や労力を軽減し、かつ薬剤に頼らない「すだち」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を行うことが可能となる。
【0018】
また、上記果皮色調整シート10では、図3に示されるように、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光12を果実に照射するように調整されているが、好ましくは図3に示すように400〜550nmの範囲の波長の反射光12を果実に照射すれば良く、これにより「すだち」といった柑橘類の果皮色調整(着色時期の遅延)を確実に行うことが可能となる。
【0019】
また、上記実施形態では、「すだち」を例に挙げているが、同じく着色時期を遅延させることにより、商品価値が維持される「レモン」についても、上述した果皮色調整シート10を敷設することにより同様の結果が得られることが確認されている。
【0020】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、果皮色調整シートを敷設することで「すだち」「レモン」といった果実表皮の着色を調整する着色調整方法に関する。
【符号の説明】
【0022】
10 果皮色調整シート
11 貫通孔
12 反射光
F 果樹
G 地面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹が植えられている周囲の地表に果皮色調整シートを敷設して、460ないし490nmを最大とし、かつ350〜600nmの範囲の波長の反射光を果実に照射することを特徴とする果実の着色調整方法。
【請求項2】
前記反射光は、350〜600nmの範囲、好ましくは400〜550nmの範囲の波長を果実に照射することを特徴とする請求項1に記載の果実の着色調整方法。
【請求項3】
シート材に所定ピッチで多数の貫通孔を形成したことを特徴とする請求項1又は2のいずれか1項に記載の果実の着色調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−135253(P2012−135253A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289738(P2010−289738)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】