説明

果実蔕部溜水防止具

【課題】蔕部や茎基11への浸入を防止し、浸入してしまった雨水を即座に排水し、常に蔕部や茎基11を乾燥させて茎基11のカビの発生及び腐敗果の発生を防止する。
【解決手段】針金入りモールを優弧状に彎曲し、第1層から第4層を重合積層し内側に茎基配設部3を設け、茎基配設部3に出入するための茎基出入口4を設けている。第4層目は他の層よりも中心角が小さい円弧状に彎曲され、該彎曲部は第3層上に重合配設され、第3層上の中途位置から外側方へ引き出され、屈曲部9を介して下方に延びる排水部10を設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、不知火等の中晩柑類の蔕部や茎基に水が浸入或は接触しないようにし、又、茎基周辺の水を吸水して蔕部から外部へ排水或は蒸散させることで、蔕部が水に浸ることを原因とする腐敗果が発生しないようにするための果実蔕部溜水防止具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中晩柑類の栽培において、雨害、虫害、鳥獣害、褪色等の防止、成長促進、糖度調整等のためにハウス栽培が行われている。この種のハウスは天井部及び側面部を有し、柑橘の樹木全体を包み込んだものが一般的に使用されている。この種のハウスを用いた中晩柑類の栽培に関し、強風に対するハウスの抵抗でハウスが樹木と共に倒壊することを回避するため、栽培者は降雨を伴う強風に備えてハウスの天井部を除いて風の逃げ道を作るようにしている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、暴風雨に備えてハウスの天井部分を除去した場合、中晩柑類の蔕部に降雨し、茎基にカビが生え、果実が落下しやすく、水腐れした腐敗果となり商品として出荷できず、柑橘生産者は甚大な損害を蒙っていた。
又、出荷間際の果実に傷が付くことを回避するために創案された特許文献1に開示の発明は、中晩柑類のハウスとして使用した場合、側面シート部から雨水が果実に直接降り掛かり果実の蔕部、茎基及び茎基周辺の果皮に雨水がかかる。果実は枝の先端が蔕部中心と接続して木に実を付けている為、茎基或は蔕部に水が付着すると茎基にカビが生え、茎基から腐敗して腐敗果となったり、茎と果実の接合強度が低下し収穫前に果実が落下する確率が極めて高く、商品化できないという問題点があった。又、蔕部近傍の果皮に水滴が付着していると、果皮上の水滴が茎基に移動して水滴が茎基に付着し茎基を腐敗させるおそれがある。特に、晩柑類は収穫時期の2月が雨量の多い時期となるため柑橘農家にとっては被害は大きい。
【非特許文献1】デコポンのインターネット上のホームページ
【特許文献1】特願2009−282174号の明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本願発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みて創案されたものであって、無数の繊維を線材から外力に放射状に設けた毛付線材を材料とし、繊維の表面張力を利用して雨水が内側に浸入しないようにし、仮に茎基に浸入した雨水は毛付線材の繊維を壁面とし毛細管現象により上昇し排水部から排水されるか、全体が湿った毛付線材の全表面積が大であるため蒸散しやすいことで蔕部や茎基に水分が長時間存在しないようにした果実蔕部溜水防止具提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本願の請求項1に記載の発明は、茎基に水が接触することで生じる水腐れによる腐敗果の発生を防止するために、雨水が蔕部を含む茎基に浸入しないようにし、また、茎基及び茎基周辺に付着する水分を外部へ導出して蒸散させることで、常に茎基を乾燥状態にするための果実茎基の周囲に装着使用する果実蔕部溜水防止具であって、可撓性を有する線材の周面に、線材を中心として無数の繊維を放射状に設けた毛付線材を材料とし、内側に茎基を配設可能な茎基配設部を設け、前記毛付線材を周方向に優弧状に彎曲させ、周方向に於ける同一側部に於いて、1層毎に反対側に折り返して平視が略同一の優弧状に彎曲した毛付線材を上下方向に重合し、折り返し方向が同じ折り返し部の外側カーブ部頂部が上下方向に同一線上に配設され、折り返し方向が互いに異なる折り返し部の外側カーブ部の夫々の頂部は周方向に所定間隔離隔して配設され、該離隔部は左右方向に所定幅を有する縦長な茎基出入口となし、折り返し方向の異なる折り返し部の外側カーブ部が、周方向に離隔或は近接するように移動することで前記茎基出入口が開閉し、周方向に1層毎に彎曲し、折り返されて複数層状に重合された彎曲毛付線材のうち最も上層に位置する彎曲毛付線材は屈曲部を介して下方に延びる排水部としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本願発明は毛付線材を用い内側に茎基配設部を具備して周方向に湾曲させ平視優弧状に形成しているので、雨水が当たると表面張力で密集した毛の先端間で雨水が球状になり、茎基まで到達せず、茎基が水と接触しないという効果がある。
豪雨により雨水が茎基にまで浸入した場合、水が毛付線材の毛と毛間に介在し、毛細現象で毛付線材の下側から上昇し排水部を伝って排水されるため蔕や茎基に水が接触することがなく果実が水腐れすることがないという効果がある。
果実蔕部溜水防止具は無数の毛を具備した毛付線材により構成されているので、果実蔕部溜水防止具全体が湿った場合は毛の表面積総和が大であるため、水分の蒸散が早く、茎基が長時間湿ることが無く茎基にカビが発生せず、湿度を必要とする腐敗菌が茎基に繁殖せず、果実の落下や腐敗果が生じない。
毛付線材の異なる折り返し方向の折り返し部の外側カーブ部頂部間を離隔して茎基を差し込むための茎基出入口とするクリップ式に形成されているので、着脱が茎基に刺激を与えることなく簡単に行い得ることができ、しかも装着中は頂部を当接するようにすることで茎基より脱落せず、下端部が常に茎と果実との接続部に当接している状態を保持するという効果がある。
1本の毛付線材を彎曲或は屈曲して構成されているので、構造が単純で部品点数も1点で低コストで安価に製造することができるという効果がある。
毛付線材を使用するため、果皮に傷を形成することがないという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
線材に無数の毛が線材を中心として放射状に配設されている毛付線材を用いることで、毛の先端間に当たった水が表面張力により小さな球状を呈し、毛の先端間に位置して下降しにくく雨水が不知火の窪み部に浸入しないことを実現した。又、線材に無数の毛が線材を中心として放射状に配設されている毛付線材を用いることで、仮に蔕部や茎基に水が当たっても毛細管現象により水が毛間に沿って上昇し排水部から排水されるようし、水腐れによる腐敗果ができないことを実現した。
【実施例1】
【0007】
図1〜図5に示される実施例1について説明する。果実蔕部溜水防止具1は、2本の極細な針金間に一定長の繊維2を挟みこんで撚り合わせ、針金を中心として外側方に放射状に繊維2が高密度に配設され、無数の毛羽を針金周面に高密度に設けてなる針金入りモールを材料としてなる。繊維2は、例えばコスモアルファ(セーレン株式会社の商品名)等の分割型複合繊維やマイクロファイバー、レーヨンであることが好適である。実施例1の針金入りモールを構成する繊維2の長さは約4mm〜6mm程度のものを用いているが、本願発明はモールを形成する繊維2の長さを限定するものではなく、使用する農産物の窪み部の内径に応じて任意の長さに適宜決定するものである。
【0008】
果実蔕部溜水防止具1は優弧状に彎曲させた針金入りモールを上下方向に重合することで、内側に平視が略真円形の円柱状空間部よりなる茎基配設部3を設け、正面側には左右方向に隙間を有し上下方向に延びる茎基出入口4を設けている。茎基出入口4は、針金入りモールを同一方向に折り返すことで形成された折り返し部の外側カーブ部の頂部5、6を上下方向に同一直線上に配設し、頂部5、6と、頂部7と下端部8の先端とを周方向に離隔し、該離隔された隙間を茎基出入口4としている。つまり、頂部5、6とを結ぶ線は、茎基出入口4の一方の口縁を形成し、反対方向に折り返されてなる折り返し部の外側カーブ部の頂部7と下端部8の先端とを結ぶ線は茎基出入口4の他方の口縁を形成している。換言すれば、反対方向に折り返すことで1層を形成し、且つ折り返し部の外側カーブ部の頂部5、6と頂部7、先端部8を周方向に離隔することで茎基出入口4を形成している。茎基出入口4を構成する頂部5、6と頂部7との離隔距離は、茎基11の外径が約5mm〜8mm程度の不知火に使用する場合は、果実蔕部溜水防止具に関しては、8mm程度である。茎基出入口4の左右開口幅は、使用する柑橘の種類により適宜設定する。
【0009】
針金入りモールのうち最も上部に位置する折り返し部5から上端側の部分は、頂部7から頂部5に亘る中途位置まで積み重ねられて配設されている。この最も上部に配設された弧状の針金入りモールは、外側方に水平に引き出され、屈曲部9を介して茎基配設部3の軸心線と略平行な位置関係となるように下方に延びる排水部10を形成している。
【0010】
実施例1の果実蔕部溜水防止具の製造方法の一例を説明する。1本の針金入りモールを中心角が270°〜359°程度となるような同一面上にて優弧状に彎曲して1層目を形成する。針金入りモールを上方に持ち上げて反対方向に折り返し、1層目の針金入りモール上に積み重ねて2層目を形成する。1層目から2層目へ折り返した外側カーブ部には頂部6が形成されている。2層目の針金入りモールも同一面上にて中心角が270°〜359°程度となる優弧状に彎曲形成されている。2層目の端部を上方に持ち上げて反対方向に折り返し、この折り返し部の外側カーブ部の頂部7と下端部8とが左右方向位置が揃うように配設されている。次に3層目を形成する。3層目は頂部7より折り返された針金入りモールを同一面上にて中心角が270°〜359°程度に彎曲して2層目に重積する。
【0011】
3層目から4層目にかけては、3層目の針金入りモールを反対方向に折り返して形成された外側カーブ部の頂部5と頂部6が左右方向位置が上下方向に略揃うように配設されている。4層目は、3層目上に重合配設し、中心角が略180°程度の中途位置で外側に引き出し、引き出された針金入りモールは略90度の内角を有する屈曲部9より下向きに延びる排水部1が設けられている。得られた果実蔕部溜水防止具1は中心角が270°〜359°程度の優弧状に彎曲した針金入りモールが層状に重合積層され、正面側には頂部5、6と左右方向に離隔した頂部7及び下端部8との間に茎基出入口4が開設され、内側には円筒状の茎基配設部3としての作用を有する空間部を設け、上端部からは横方向に一旦引き出された後に下方に垂下した排水部10を具備してなる。
【0012】
第1層から第3層の針金入りモールは中心角が270°〜359°程度の優弧状に彎曲したものを例に説明したが、本願発明はこれに限定しない。極細の針金は、使用者の所望形状に容易に変化するため、優弧であれば中心角は任意の角度でよい。又、4層目は中心角が略180°程度の中途位置で外側に引き出されたものを例に説明したが、本願発明はこれに限定せず、排水部10が茎基出入口4の正面側に位置しなければ足り、中心角は特に限定しない。
【0013】
次に、使用方法及び作用を説明する。
図1に示す果実蔕部溜水防止具1の茎基出入口4を茎基11の太さに応じて左右に開き、図4に示すように茎基出入口4から茎基11を茎基配設部3に配設する。茎基11を茎基配設部3に配設後、図4中の矢印で示す方向に力を加える。果実蔕部溜水防止具1は針金入りモールよりなるため、力の方向に針金が作用する。図4中の1点鎖線示すように、頂部5と頂部7が当接し、頂部6と下端部8が当接する。果実蔕部溜水防止具1は表面に無数の繊維が放射状に設けられているので、茎基出入口4を閉じると、外側カーブ部の頂部5、6と外側カーブ部の頂部7、下端部8の線材表面に設けられた繊維先端部が互いに当接し合う。果実蔕部溜水防止具1は果実12の茎基11に装着され、果実表面のうち果実蔕部溜水防止具1を装着前の茎基出入口4の内側に付着していた水分は毛付線材の繊維2が接触することで繊維2に吸収される。このように、水分が蔕部や茎基11へ移動しないように予め吸収しておく。このように、果実蔕部溜水防止具1の茎基出入口4を狭窄することで、茎基11の全周に亘る水分を繊維2で吸収する。果実蔕部溜水防止具1は茎基11に沿って下降させ、果実12の蔕部を中心とする茎基11の下部に果実蔕部溜水防止具1を装着する。図5に示すように、排水部10は茎基11の外側方にて垂下させて使用する。
【0014】
果実12の茎基11に少量の雨水が降りかかると、雨水は上層部の針金入りモールの繊維2の先端にて水の表面張力で微細な球状になり、雨水が入り込まず蔕部が水に当たらない。
多量の水が茎基11に降りかかった場合、針金入りモール全体が吸湿し、茎基11が雨水により湿る。茎基11に湿気を与える水分は、高密度な繊維2間の毛細管現象及びサイフォンの原理により下側から上方へ送り出され、排水部10より落下し、茎基11に長時間に亘り水が付着しないため、蔕部や茎基11にカビが発生したり、腐敗菌が繁殖したりすることが無く、結果的に水腐れによる腐敗果になることがない。
針金入りモール全体が湿った場合は、密集する繊維2の全表面積が大であるため水分が極めて早く蒸散する。果実蔕部溜水防止具1は即座に乾燥し、これに伴い茎基11も乾燥する。たとえ、茎基11若しくは蔕部に水が付着したとしても、蔕部や茎基11が即座に乾燥し、水腐れによる収穫前の果実12が落下したり、腐敗果になることがない。
【産業上の利用可能性】
【0015】
針金入りモールの内外径を適宜設定して太さを調整することで、茎基の太さに応じた果実や野菜類にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】果実蔕部溜水防止具の正面図である。(実施例1)
【図2】果実蔕部溜水防止具の背面図である。(実施例1)
【図3】果実蔕部溜水防止具の左側面図である。(実施例1)
【図4】果実蔕部溜水防止具を茎基に装着する場合の頂部の作動状態を示す平面説明図である。(実施例1)
【図5】使用状態を示す斜視図である。(実施例1)
【符号の説明】
【0017】
1 果実蔕部溜水防止具
2 繊維
3 茎基配設部
4 茎基出入口
5、6、7 頂部
9 屈曲部
10 排水部
11 茎基
12 果実

【特許請求の範囲】
【請求項1】
茎基に水が接触することで生じる水腐れによる腐敗果の発生を防止するために、雨水が蔕部を含む茎基に浸入しないようにし、また、茎基及び茎基周辺に付着する水分を外部へ導出して蒸散させることで、常に茎基を乾燥状態にするための果実茎基の周囲に装着使用する果実蔕部溜水防止具であって、
可撓性を有する線材の周面に、線材を中心として無数の繊維を放射状に設けた毛付線材を材料とし、
内側に茎基を配設可能な茎基配設部を設け、前記毛付線材を周方向に優弧状に彎曲させ、周方向に於ける同一側部に於いて、1層毎に反対側に折り返して平視が略同一の優弧状に彎曲した毛付線材を上下方向に重合し、
折り返し方向が同じ折り返し部の外側カーブ部頂部が上下方向に同一線上に配設され、
折り返し方向が互いに異なる折り返し部の外側カーブ部の夫々の頂部は周方向に所定間隔離隔して配設され、該離隔部は左右方向に所定幅を有する縦長な茎基出入口となし、
折り返し方向の異なる折り返し部の外側カーブ部が、周方向に離隔或は近接するように移動することで前記茎基出入口が開閉し、
周方向に1層毎に彎曲し、折り返されて複数層状に重合された彎曲毛付線材のうち最も上層に位置する彎曲毛付線材は屈曲部を介して下方に延びる排水部としたことを特徴とする果実蔕部溜水防止具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−95635(P2012−95635A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259478(P2010−259478)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(593231689)株式会社一色本店 (4)
【Fターム(参考)】