説明

果実酢漬け果実

【課題】果実酢の軽い酸味と果実本来の甘味と香りを併せ持つ新規な果実酢漬け果実を提供する。
【解決手段】酵母が付着した果実に酢酸菌を付着させ、固体発酵でアルコール発酵と酢酸発酵を同時に進行させることにより果実酢漬け果実を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な果実酢漬け果実の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、摘果した果実、表面に傷のある果実、大きさが規格に満たない果実などの所謂B級品の果実は、ジュースやジャム等に利用されているが、巨峰について、その果実を甘酢に漬け込み、ピクルスとすることが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−213464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の甘酢に果実を漬け込んだものは、酢の刺激味が強く、漬け込んだ果実を本来の果実のようにデザート感覚で食べることができない。
【0005】
これに対し、本発明は、果実酢の軽い酸味と果実本来の甘味や香りとを併せ持つ新規な酢漬けの果実の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、酵母が付着した果実に酢酸菌を付着させることにより、果実上でアルコール発酵と酢酸発酵とを同時に進行させて果実酢を製造すると、果実酢の製造に供した果実は果実酢の軽い酸味と果実本来の甘味や香りとを併せ持ち、保存安定性にも優れた新規な果実酢漬けの果実となることを見出した。
【0007】
即ち、本発明は、酵母が付着した果実に酢酸菌を付着させ、固体発酵でアルコール発酵と酢酸発酵を同時に進行させることにより果実酢に浸かった果実を製造する果実酢漬け果実の製造方法を提供する。
また、本発明は、上述の製造方法により同時に製造される果実酢の製造方法を提供し、この方法で得られる果実酢に果実を漬け込む果実酢漬け果実の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法により得られる果実酢漬け果実ないし果実酢は、酢酸の刺激味が弱く、果実は果実本来の甘さと香りを有する。したがって、本発明の果実酢漬け果実は、果実を酢漬けにせずに直接食べる場合のようなデザート感覚で食べることができる。また、本発明の果実酢は、口当たりのよい健康飲料として飲むことができる。
【0009】
さらに、本発明によれば、所謂B級品の果実を原料として用いることができるため、果実酢漬け果実ないし果実酢を安価に製造することができる。加えて果実酢漬け果実は、保存安定性にも優れることから、従来、B級品として扱われていた果実に新たな用途展開を提供することが可能できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の果実酢漬け果実の製造方法ないし果実酢の製造方法では、酵母が付着した果実を原料とする。ここで酵母としては、特定のワイン酵母などを純粋培養したものに限らず、天然に存在する酵母を使用することができる。空気中には、いたるところに種々の種類の酵母が生息しているが、酵母が付着した果実の好ましい例としては、葡萄、ブルーベリー、チェリー、柿、梅、桃、ミニトマト等の果実をあげることができる。特に、ワイナリーのある葡萄産地で収穫された葡萄果実には、通常、優れたワイン酵母が付着しているので好ましい。
【0011】
また、原料とする果実としては、巨峰の果実が、果実酢漬けとした場合の味と食感の点で好ましく、特に、ブルームが発生したものが、糖度が高い点で好ましい。
【0012】
本発明では、酵母が付着した果実を、格別、洗浄処理、殺菌処理することなく、また、搾汁処理を行うことなく、アルコール発酵と酢酸発酵に供する。即ち、酵母が付着した果実に、直接酢酸菌を付着させて保管することにより、固体発酵で、果実中に含まれる糖をアルコールにするアルコール発酵と、アルコール発酵により生じたアルコールを酢酸にする酢酸発酵を同時に進行させる併行複発酵を行う。この方法によると、搾汁液から製造した液体に順次アルコール発酵と酢酸発酵を行うのではなく、葡萄果実を直接発酵させる固体発酵でアルコール発酵と酢酸発酵を同時に進行させるので、果実に含まれる糖から酢酸への添加率が低いためか、酢酸の刺激味が弱く、また、果実酢が製造された後においても、その製造に供された果実には多くの糖が残存する。このため、この方法で得られる果実酢漬けの果実は、果実酢の軽い酸味と、果実本来の甘さや香りとを有するものとなる。
【0013】
ここで、果実に酢酸菌を付着させる方法としては、例えば、生きた酢酸菌を含有する酢を噴霧すればよい。
【0014】
果実に酢酸菌を付着させた後の保管は、冷温ないし常温で保管すればよい。保管期間は、果実の糖度、付着した菌量、保管温度などにもよるが、通常、数週間、好ましくは2〜4週間とする。期間が短すぎると、発酵が十分に進行せず、保管期間が長すぎると酸味が強くなりすぎる。
【0015】
この保管中に、果実は果実酢に浸かった状態となり、保管後には、果実酢と果実酢漬け果実を得ることができる。保管後における果実酢と果実酢漬け果実のpHはそれぞれ2.0〜2.4となる。保管後における果実酢のアルコール度は0.8〜1.3となり、果実酢漬け果実のアルコール度は0.3〜0.8となる。また、こうして得られる果実酢漬け果実は、軽い酸味と、果実本来の甘味や香りを兼ね備え、皮が柔らかく、デザート感覚で食べられるものとなり、更に、果実酢漬け果実を個包装後熱殺菌する事で、より皮が軟らかくなり、渋みも少なくなる。また、上述の保管後に得られる果実酢も、軽い酸味と果実本来の甘味や香りを兼ね備え、飲料として使用できるものとなる。
【0016】
果実酢には、新たに果実を漬け込み、果実酢漬け果実を製造してもよい。こうして得られる果実酢漬け果実も、軽い酸味と、果実本来の甘味や香りを兼ね備えたものとなる。
【0017】
また、果実酢漬け果実や果実酢には加熱殺菌を行うことが好ましい。これにより発酵を停止させ、酸度が過度に強くなることを防止し、所定の味と香りを維持することができる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
勝沼産の巨峰(pH2.6)2Kgに、生きた酢酸菌を含有する酢(pH1.8)500mLを噴霧し、20℃で3週間培養した。こうして得られた果実酢漬け果実は、pH2.4であり、軽い酸味と、巨峰本来の甘さと香りを備えていた。
【0019】
上述の3週間の培養で果実からは相当量の果汁が浸出し、果実酢が得られた。得られた果実酢を、さらに2週間保管することによりpH1.8の果実酢を得た。
この果実酢(pH1.8)に、果実酢の製造に使用したものと同様の巨峰2Kgを浸漬し、室温(湿度85%RH)で7日間保管した。これにより、果実酢と漬け込んだ巨峰のpHは2.4となった。この巨峰も軽い酸味と、巨峰本来の甘さと香りを備えていた。
【0020】
また、7日間保管後の果実酢と果実酢漬け果実を耐熱バリアー性の袋に入れ、30分間蒸気殺菌した。蒸気殺菌後、2ヶ月経過しても、果実酢や果実酢漬け果実の風味に変化はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母が付着した果実に酢酸菌を付着させ、固体発酵でアルコール発酵と酢酸発酵を同時に進行させることにより果実酢に浸かった果実を製造する果実酢漬け果実の製造方法。
【請求項2】
果実が葡萄である請求項1記載の果実酢漬け果実の製造方法。
【請求項3】
葡萄が巨峰である請求項2記載の果実酢漬け果実の製造方法。
【請求項4】
酵母が付着した果実に酢酸菌を付着させ、固体発酵でアルコール発酵と酢酸発酵を同時に進行させる果実酢の製造方法。
【請求項5】
果実が葡萄である請求項4記載の果実酢の製造方法。
【請求項6】
葡萄が巨峰である請求項5記載の果実酢の製造方法。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれかに記載の方法で製造した果実酢に果実を漬け込む果実酢漬け果実の製造方法。

【公開番号】特開2013−27373(P2013−27373A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167081(P2011−167081)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(511144594)
【Fターム(参考)】