説明

果樹における水ストレスの判別方法

【課題】未確立の状態であった,果樹の樹液流速の変化パターンからの水ストレスの判別方法を開発・提供し、生産者のより精密な灌水判断を促すことにある。
【解決手段】果樹において、該樹の樹液流速を測定し、該樹液流速の変化パターンから水ストレスの兆候を判別することを特徴とする果樹における水ストレスの判別方法であり、樹液流速の変化パターンは、日々測定・表示する樹液流速の測定値から得られた勾配の変化に基づくものであり、樹液流速の勾配は、午後の樹液流速値と午前の樹液流速値とを指標とした傾き値であり、樹液流速の勾配の傾き値が、午前中の最高の測定値上位3点の平均値を、午後の最高の測定値上位3点の平均値で除したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、果樹における水ストレスの判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ぶどうや桃等果樹の灌水は大方、一週間に一日する程度であり、この灌水時期の判断は、晴れた日数や土の乾き具合を見るなど、生産者の勘と経験に頼ることが多い。しかし、実際には、樹木の根は地中深くまで張っているため、土壌水分計を使っても地表近くの水分しか測定できず、正確な水ストレス(乾燥ストレスともいう)は計測できないものであった。
【0003】
特に、果樹であるぶどうや桃は、水ストレスに敏感であり、仮に、過灌水(水のやりすぎ)の場合には、根腐れ、桃においては糖度低下を生じ、ぶどうの場合には着色不良の原因となっている。また、灌水が不足すると、桃の渋味やぶどう果粒の軟化、早期落葉の危険性がある。
【0004】
従って、無降雨日数や土壌の乾燥程度に基づいて行った,生産者の勘と経験による果樹の灌水判断は、正確さに欠けており、樹体の水ストレスは測定できず、果実品質(糖度、着色)の向上には、適度な水ストレスが必要であり、特に、乾燥地であっても、最低限の水で効果的な灌水をする必要がある。
【0005】
このように、近年の果実に対する高級志向(高品質)を満足するためには、精密な灌水管理が必要であり、長年の生産者の勘に頼るよりも、生体情報に基づき灌水を行う必要がある。
【0006】
そのため、勘と経験から判断するよりも、植物生体反応の面から水分状態を判断することとし、樹液流速は気孔の開閉を反映し、樹体の水ストレスを把握できる可能性はあるが、本発明者らは、未確立の状態にあった樹液流速の変化パターンからの水ストレスの判別方法を行うものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明は、未確立の状態であった,果樹の樹液流速の変化パターンからの水ストレスの判別方法を開発・提供し、生産者のより精密な灌水判断を促すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、樹体に水分が少なくなると、樹液の流れが遅くなるという現象に着目し、日々の樹液流速を計測し、その変化に基づいて水分ストレスを判断し、精密な灌水に利用しようとするものである。
【0009】
正確に樹液流速を算出するためには、センサー長を樹の大きさなどにより変える必要があり、困難であるが、この発明は樹液流速の相対的な変化パターンに注目することによりこの問題を解決しようとするものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によると、樹液流速の変化パターンを、変化パターンの勾配に基づき水ストレスを把握することができ、これにより、果樹へ精密に灌水判断を行うことにより、過灌水または過乾燥による果実品質及び収量の低下を防ぐことができる。また、乾燥地域での節水技術に利用できる等の極めて有益なる効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
先ず、図1は、樹液流速センサーの原理を説明する説明図であり、図2は、ぶどう樹への樹液流速センサーの設置状態を示す説明図であり、図3は、樹液流速の変化パターンに基づく灌水判断時期のグラフ図であり、横軸は、8月8日より8月11日〔1日が24時間〕までの時間を表し、縦軸は、温度差から換算した樹液流速を示すグラフ図であり、図4は、樹液流速の傾きの計算手段を示す説明図である。
【実施例】
【0012】
この発明の一実施例を図面に従って詳述すると、請求項1の発明は、果樹において、樹体(1)の樹液流速を測定し、該樹液流速の変化パターンから水ストレスの兆候を判別することを特徴とする果樹における水ストレスの判別方法から構成されるものである。
【0013】
また、請求項2に記載した樹液流速の変化パターンは、日々測定・表示する樹液流速の測定値から得られた勾配の変化に基づくものであり、そして、請求項3に記載した樹液流速の勾配は、午後の樹液流速値と午前の樹液流速値とを指標とした傾き値であり、さらに、請求項4に記載した樹液流速の勾配の傾き値は、午前中の最高測定値、第2位、そして第3位の上位3点の平均値を、午後の最高測定、第2位、そして第3位の上位3点の平均値で除したものである。
【0014】
なお、この発明に使用する樹液流速の計測は、樹体(1)に挿入した温度センサー(2)〔サップフローセンサー〕を用いるもので、一対のセンサーの温度差から算出するものであり、先端部側のセンサー(2a)にはヒーター(3)が設置されており、熱を発生する。そして、樹液流速が速いとヒータ(3)の熱が冷却され、後端部側のセンサー(2b)との温度差が小さくなる性質を利用したものである。
【0015】
さらに、詳しくは、この発明は、果樹が水ストレスを受けた場合、樹液流速は午前10時までにピークを迎え、その後、暫時減ずる日変化パターンを示すため、この際の樹液流速の傾き値(午後の値/午前の値)を指標とし、この変化に基づき水ストレスを把握するものである。
【0016】
その対象とする樹体(1)のサップフローセンサー(2)の長さは13mmとし、ぶどうにおいては、棚面では日射の影響を避けるため極力下向きとし、かつ、幹の肥大方向に設置する。桃においては南面、上面を避け、節のない滑らかな幹に設置することが望ましい。
【0017】
樹内の設置位置は、先端ほど水ストレスを受けやすく、検出感度が高まるが、幹径が細くなると樹液流速値が不安定になる可能性があるため、主枝中央部(先端から2〜3m付近)に設置する。
【0018】
圃場内では最も生育の良好な果樹(樹冠が大きい。樹勢が強い)2樹を代表樹とし、センサーを設置する。尚、ぶどうの樹液流路は幹の肥大の大きい部位に主に分布し、桃の主要な樹液流路は、ぶどうとは異なり年輪に沿って断続的に分布している。
【0019】
尚、センサーの設置方法としては、
1)センサー長は、13mmとし、ぶどうにおいては、棚面では日射の影響を避けるため極力下向きとし、かつ幹の肥大方向に設置する。
2)樹内の設置位置は、先端ほど水ストレスを受けやすく、検出感度が高まるが、幹径が細くなると樹液流速値が不安定になる可能性があるので、主枝中央部に設置する。
3)圃場内では最も生育の良好な樹(樹冠が大きい,樹勢が強い)2樹を代表樹とし、センサーを設置する。
【0020】
次に、樹液流速及び日射の計測について、
樹液流速及び日射について、5秒ごとに計測し、10分間の平均値を記録する。(これまでの瞬間値と平均値の間に大きな差はないことから、実際の制作装置では瞬間値でも使用可能と考えられる。その場合より短い間隔で記録する方が日射確保できる可能性が高いので、5分間にしてもよい。
【0021】
さらに、日射の補正について、
1)日射強度(光合成有効放射量)800μmol s−1,m−2未満の時は、水ストレスに関係なく樹液流速が大きく低下し、バラツキも大きくなるので、800μmol s−1,m−2未満の樹液流速値は除去する。
2)日射強度800μmol s−1,m−2以上では樹液流速値と直線比例関係にあり、1500μmol s−1,m−2の樹液流速値を1とすると、例えば、800μmol s−1,m−2では0.83となるので、〔補正後の樹液流速値=(日射強度×0.0002+0.6357)×樹液流速値〕の式により補正する。
【0022】
傾きの算出について、14時から15時までの樹液流速値(補正済み)最大値3点を、7時から11時までの値の樹液流速値(補正済み)の最大3点で除してその日の傾き値とする。日射量が少なく、3点確保できない場合は、傾きの判定を見送る。14時から15時(精度高く、日射確保日が多い)のデータ数が少ない場合は、15時から16時(9月以降日射確保が困難)、13時から14時(精度は多少低下するが日射確保日が多い)、12時から13時(精度は多少低下するが日射確保日が多い)の最大値3点を記載順に利用し、判定できる日を増やす。
【0023】
水ストレス指数の判定
1)傾き値が例えば1.7以上、0.3未満の値はエラー表示し、演算値から除外する。
2)曇天により傾きが判定できなかった日を除く直近5日分の傾き値を抽出。
3)5データの内、乾燥状態(傾きは小さくなる)を極力排除するため、上位3点の値のみを平均し、基準値(水ストレスを受けていないときの傾き値)として設定する。(生育初期などで5データに満たない場合は、4データの場合は上位3点、3データの場合は上位2点、2データの場合は2点、1データの場合は1点の平均値を基準値とする。)
4)当該日の傾き値が基準値より5%低下したら、水ストレスと判断し、灌水通知をする。(成熟期には10または20%低下まで乾燥させ、糖度と着色を高める。
5)経時的に変化する直近5日分データには、傾き値が基準値より5%低下し、水ストレスと判定した日は含めない。
【産業上の利用可能性】
【0024】
この発明の技術を実施することにより、高品質の果実の生産が得られ、果樹産業の活性化を通じて産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明に使用する樹液センサーの原理説明図である。
【図2】この発明に使用する樹液センサーの設置状況を示す説明図である。
【図3】この発明に使用する樹液流速の変化パターンのグラフ図である。
【図4】この発明に使用する樹液流速の変化パターンの説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 樹体
2 温度センサー
2a 先端部側のセンサー
2b 後端部側のセンサー
3 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果樹において、該樹の樹液流速を測定し、該樹液流速の変化パターンから水ストレスの兆候を判別することを特徴とする果樹における水ストレスの判別方法。
【請求項2】
樹液流速の変化パターンが、日々測定・表示する樹液流速の測定値から得られた勾配の変化に基づくことを特徴とする請求項1記載の果樹における水ストレスの判別方法。
【請求項3】
樹液流速の勾配は、午後の樹液流速値と午前の樹液流速値とを指標とした傾き値であることを特徴とする請求項2記載の果樹における水ストレスの判別方法。
【請求項4】
樹液流速の勾配の傾き値が、午前中の最高測定値、第2位、そして第3位の上位3点の平均値を、午後の最高測定値、第2位、そして第3位の上位3点の平均値で除したものであることを特徴とする請求項3記載の果樹における水ストレスの判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−240228(P2009−240228A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90987(P2008−90987)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年11月15日発行の「日本農業新聞」に発表
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 平成19年度、農林水産省、先端技術を活用した農林水産研究高度化事業委託事業 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591079487)広島県 (101)