説明

果樹類の果実着色促進剤及び着色促進方法

【解決手段】
イソプロチオランを有効成分とする果樹類の果実着色促進剤。該果実着色促進剤を果樹、茎葉、果実又は果房へ直接散布、浸漬又は土壌に処理することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法。
【効果】
本発明によれば、果樹に薬害等の悪影響を及ぼすことなく、効果・経済性面で満足できる果樹類の果実着色促進剤及び着色促進方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイソプロチオランを有効成分とする果樹類の果実着色促進剤及び着色促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コリン塩とメコプロップ又はジクロクロップを併用する、りんご又はかきの果実着色促進剤及び果実着色促進方法が知られている(例えば、特許文献1又は2参照。)。また、水溶性カロチンと核酸、オーキシンなどの混合物を果樹の根元に潅水又は葉面散布する、果樹類の果実着色促進方法が知られている(例えば、特許文献3参照。)。一方、イソプロチオランはいもち病防除剤として広く知られた化合物であり、いもち病防除活性の他に、葉数の増加、草丈伸長、茎の肥大化、根の発生生育の活発化(発根促進、伸長量の増加、発根時期の早期化)、植物の活力増進、下葉の枯れ上がりの減少等の植物成長調節効果があることが知られている(例えば、特許文献4参照。)。しかしながら、イソプロチオランの果樹類の果実着色促進効果については記載も示唆もされていない。
【0003】
【特許文献1】特開平6−219910号公報
【特許文献2】特開平5−85906号公報
【特許文献3】特開平6−125655号公報
【特許文献4】特開平1−272504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
果樹類の果実着色は、見栄え、食味、栄養価等その商品価値の向上に繋がり、いかに果実の着色をコントロールするかが生産者にとって長年の要望であった。上記従来技術の方法では効果・経済性面で必ずしも満足できるものではなく、効果・経済性面で満足できる果樹類の果実着色促進剤及び着色促進方法が求められていた。また、上記メコプロップやジクロクロップは除草剤として広く知られている化合物であり、その使用量を間違えると果樹自体に薬害を生ずる危険性もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、いもち病防除剤として広く知られた化合物であるイソプロチオランが、果樹に薬害等の悪影響を及ぼすことなく、効果・経済性面で満足できる果樹類の果実着色促進効果を有することを見出し、本発明を完成させたものである。
【0006】
即ち本発明は、
(1)イソプロチオランを有効成分とする果樹類の果実着色促進剤、
(2)果樹類が落葉果樹又は常緑果樹である(1)に記載の果実着色促進剤、
(3)果樹類がりんご、桜桃、かき、ぶどう、いちご、ブルーベリー、かんきつ類である(1)に記載の果実着色促進剤、
(4)(1)乃至(3)に記載の果実着色促進剤を果樹、茎葉、果実又は果房へ直接散布することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法、
(5)(1)乃至(3)に記載の果実着色促進剤又はその希釈液に、果実又は果房を浸漬することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法、
(6)(1)乃至(3)に記載の果実着色促進剤を土壌に処理することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、果樹に薬害等の悪影響を及ぼすことなく、効果・経済性面で満足できる果樹類の果実着色促進剤及び着色促進方法を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の果樹類の果実着色促進剤の有効成分であるイソプロチオラン(isoprothiolane)は、公知文献(例えば、ザペスティサイドマニュアル(The Pesticide Manual thirteenth Edition 2003)、渋谷成美,他3名,「SHIBUYA INDEX−2005−10th Edition」,SHIBUYA INDEX研究会等。)に記載の公知化合物である。
【0009】
本発明の果樹類の果実着色促進剤中の有効成分の配合割合は、果実着色促進剤100重量部に対して、0.01〜30重量部の割合であり、好ましくは0.1〜10重量部の割合である。
本発明の果樹類の果実着色促進剤は、農薬製剤上の常法に従い使用上都合の良い形状に製剤して使用するのが一般的である。即ち、有効成分を適当な不活性担体に、又は必要に応じて補助剤と一緒に適当な割合に配合して溶解、分離、懸濁、混合、含浸、吸着若しくは付着させて適宜の剤型、例えば懸濁剤、乳剤、液剤、水和剤、顆粒水和剤、粒剤、粉剤、錠剤、パック剤、マイクロカプセル等に製剤して使用すれば良い。
【0010】
本発明で使用できる不活性担体としては固体又は液体の何れであっても良く、固体の担体になりうる材料としては、例えばダイズ粉、穀物粉、木粉、樹皮粉、鋸粉、タバコ茎粉、クルミ殻粉、ふすま、繊維素粉末、植物エキス抽出後の残渣、粉砕合成樹脂等の合成重合体、粘土類(例えばカオリン、ベントナイト、酸性白土等)、タルク類(例えばタルク、ピロフィライト等)、シリカ類{例えば珪藻土、珪砂、雲母、ホワイトカーボン(含水微粉珪素、含水珪酸ともいわれる合成高分散珪酸で、製品により珪酸カルシウムを主成分として含むものもある。)}、活性炭、イオウ粉末、軽石、焼成珪藻土、レンガ粉砕物、フライアッシュ、砂、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム等の無機鉱物性粉末、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン等のプラスチック担体、硫安、燐安、硝安、尿素、塩安等の化学肥料、堆肥等を挙げることができ、これらは単独で若しくは二種以上の混合物の形で使用される。
【0011】
液体の担体になりうる材料としては、それ自体溶媒能を有するものの他、溶媒能を有さずとも補助剤の助けにより有効成分化合物を分散させうることとなるものから選択され、代表例として次に挙げる担体を例示できるが、これらは単独で若しくは2種以上の混合物の形で使用され、例えば水、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等)、ケトン類(例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えばジエチルエーテル、ジオキサン、セロソルブ、ジプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等)、脂肪族炭化水素類(例えばケロシン、鉱油等)、芳香族炭化水素類(例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ、アルキルナフタレン等)、ハロゲン化炭化水素類(例えばジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン等)、エステル類(例えば酢酸エチル、ジイソプピルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレ−ト等)、アミド類(例えばジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)、ニトリル類(例えばアセトニトリル等)、ジメチルスルホキシド類等を挙げることができる。
【0012】
他の補助剤としては次に例示する代表的な補助剤を挙げることができ、これらの補助剤は目的に応じて使用され、単独で、ある場合は二種以上の補助剤を併用し、又ある場合には全く補助剤を使用しないことも可能である。
【0013】
有効成分化合物の乳化、分散、可溶化及び/又は湿潤の目的のために界面活性剤が使用され、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、アルキルアリールスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸縮合物、リグニンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル等の界面活性剤を挙げることができる。
又、有効成分化合物の分散安定化、粘着及び/又は結合の目的のために、例えばカゼイン、ゼラチン、澱粉、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、松根油、糠油、ベントナイト、リグニンスルホン酸塩等の補助剤を使用することもできる。
【0014】
固体製品の流動性改良のために、例えばワックス、ステアリン酸塩、燐酸アルキルエステル等の補助剤を使用することもできる。懸濁性製品の解こう剤として、例えばナフタレンスルホン酸縮合物、縮合燐酸塩等の補助剤を使用することもできる。消泡剤として、例えばシリコーン油等の補助剤を使用することもできる。防腐剤として、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、パラクロロメタキシレノール、パラオキシ安息香酸ブチル等を添加することもできる。更に必要に応じて機能性展着剤、ピペロニルブトキサイド等の代謝分解阻害剤等の活性増強剤、プロピレングリコール等の凍結防止剤、BHT等の酸化防止剤、紫外線吸収剤等その他の添加剤も加えることが可能である。
【0015】
本発明の果樹類の果実着色促進剤を使用する際には上記製剤をそのまま、又は水等で適宜希釈若しくは懸濁させた形で果実の着色を促進するための有効量を対象果樹又は果実に使用すれば良く、例えば果樹、茎葉、果実、果房等への直接散布又は浸漬、果樹の株元土壌等に処理して根から吸収させて使用することができる。果樹、茎葉、果実、果房等への直接散布又は浸漬の場合、乳剤、水和剤、液剤、フロアブル剤等を水で適宜希釈して使用するのが好ましく、その有効成分濃度は、有効成分の混合割合、気象条件、製剤形態、施用方法、対象果樹の種類等により異なるが、0.01〜10000ppmの範囲であり、好ましくは10〜5000ppmの範囲である。果樹の株元土壌等に処理する場合、粒剤、粉剤、フロアブル剤等をそのまま土壌に処理することが好ましく、その施用量は有効成分の混合割合、気象条件、製剤形態、施用方法、対象果樹の種類等により異なるが、通常、10アール当たり有効成分量として1〜1000gの範囲であり、好ましくは10〜500gの範囲である。
【0016】
本発明の果樹類の果実着色促進剤の処理時期としては、有効成分の種類、気象条件、製剤形態、施用方法、対象果樹の種類等により異なるが、例えば、りんごの場合は、収穫の120日前から15日前が好ましく、特に好ましくは収穫90日前から20日前である。ぶどうの場合は、120日前から20日前が好ましく、特に好ましくは収穫90日前から30日前である。かきの場合は、収穫の120日前から15日前が好ましく、特に好ましくは収穫90日前から20日前である。かんきつ類の場合は、120日前から20日前が好ましく、特に好ましくは収穫90日前から30日前である。
【0017】
本発明の果樹類の果実着色促進剤を使用できる果樹又は果実としては、りんご、もも、すもも、桜桃、かき、なし、ぶどう、いちご、ブルーベリー、ラズベリー等の落葉果樹、びわ、かんきつ類(みかん、はっさく、きんかん、オレンジ等)の常緑果樹、パパイヤ、マンゴー、フェイジョア、グァバ、パイナップル、パッションフルーツ等の熱帯果樹等が挙げられ、効果の観点から好ましくは落葉果樹又は常緑果樹であり、更に好ましくはりんご、桜桃、かき、ぶどう、いちご、ブルーベリー、かんきつ類である。また、使用に際しては、展着剤、肥料、殺菌剤、殺虫剤等と混合して用いることもできる。
【実施例】
【0018】
次に本発明の果樹類の果実着色促進剤の製剤例及び試験例により、本発明の内容を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
製剤例1.
イソプロチオラン 10部
キシレン 70部
N−メチルピロリドン 10部
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウムとの混合物 10部
以上を均一に混合溶解して乳剤とする。
製剤例2.
イソプロチオラン 5部
ベントナイトとクレーの混合粉末 90部
リグニンスルホン酸カルシウム 5部
以上を均一に混合し、適量の水を加えて混練し、造粒、乾燥して粒剤とする。
製剤例3.
イソプロチオラン 20部
カオリンと合成高分散珪酸 75部
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルと
アルキルベンゼンスルホン酸カルシウムとの混合物 5部
以上を均一に混合粉砕して水和剤とする。
【0019】
試験例. ぶどうに対する着色促進効果試験
イソプロチオラン乳剤を3ppmに希釈して、ブドウ(品種:デラウエア)の開花10日後に果房を希釈液に浸漬処理した。処理60日後に収穫し、果房全体の着色程度について、下記の判定基準で無処理区対比で肉眼判定を行った。結果を表1に示す。

判定基準:+ 無処理対比で濃色、± 無処理対比で同等
【0020】
【表1】


5ロット中4ロットで明らかに着色促進効果が認められ、イソプロチオランが果樹類の果実着色促進剤として有効であることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロチオランを有効成分とする果樹類の果実着色促進剤。
【請求項2】
果樹類が落葉果樹又は常緑果樹である請求項1に記載の果実着色促進剤。
【請求項3】
果樹類がりんご、桜桃、かき、ぶどう、いちご、ブルーベリー、かんきつ類である請求項1に記載の果実着色促進剤。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載の果実着色促進剤を果樹、茎葉、果実又は果房へ直接散布することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法。
【請求項5】
請求項1乃至3に記載の果実着色促進剤又はその希釈液に、果実又は果房を浸漬することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法。
【請求項6】
請求項1乃至3に記載の果実着色促進剤を土壌に処理することを特徴とする果樹類の果実着色促進方法。

【公開番号】特開2008−24629(P2008−24629A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197940(P2006−197940)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000232623)日本農薬株式会社 (97)
【Fターム(参考)】