説明

果物又は野菜入り発酵乳の製造方法および発酵乳食品

【課題】異常発酵や発酵阻害を低減し、且つ果物等の本来の食感や風味を損なわない果物又は野菜入り発酵乳の製造方法および発酵乳食品を提供すること。
【解決手段】本発明の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法は、果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンラウリン酸エステルとを混合した第1の溶液で処理し、
前記第1の溶液で処理した果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンカプリル酸エステルとを混合した第2の溶液で処理し、前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜を、乳酸菌と資化物質とを含む第3の溶液とともに容器に入れ、前記第3の溶液を発酵させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物又は野菜入り発酵乳の製造方法およびその発酵乳を含む発酵乳食品に関する。
【背景技術】
【0002】
発酵食品は、食品原料単独では味わえない独特な風味を楽しめる食品として知られている。発酵食品の歴史は長く、微生物が生成するビタミン・ミネラルなどの微量栄養素や人では分解生成できないアミノ酸等の摂取が行なえるなど、発酵食品は健康維持にも役立つことが知られている。
【0003】
また、特に、発酵食品の一形態である発酵乳は、整腸作用のある乳酸菌を美味しく多量に摂取でき、高タンパク質かつ高カルシウム含量の自然食品であることから消費者の関心は非常に高い。
【0004】
このため、加糖加熱済み果汁や果肉、ピューレ等を混合した発酵乳などの多種多様な種類が製造販売されている。
【0005】
果物果肉を含有した発酵乳は、1963年スイスで開発され、攪拌ヨーグルトとも呼ばれている。従来、果物果肉を含有した発酵乳は、乳ベースを発酵させた後、その中に果肉調整品を分散させ、少量に個別充填して製造される(非特許文献1参照)。なお、新鮮な食感を楽しむための生の果実が含まれる発酵乳は「フルーツヨーグルトサラダ」や「フルーツサラダ」として、いちご、パパイヤ、パイナップル、桃、リンゴ、バナナ、オレンジ、キウイ、マンゴーを一口大にカットしたのち、加糖調味したヨーグルトを和えたり、交叉に重ねたりする料理として一般家庭で即食されている。商業的に発酵乳に果肉調整品を分散させ個別充填する方法では、果肉含量の製品差が大きくなる傾向がある。
【0006】
ところで、発酵乳は富栄養である乳や乳製品を使用しているが、これら乳や乳製品においては微生物の増殖が早いことがわかっている。なお、人間にとって有用な物質が微生物の代謝によって生産されることは「発酵」と呼ばれ、一方、有害な物質が生産されることは「腐敗」と呼ばれる。
【0007】
生の果実には果実表面に多種多様な微生物が多く存在している。それらの微生物が原料乳製品を腐敗させたり(異常発酵)、乳酸菌による発酵を阻害したりする(発酵遅延)。
【0008】
【非特許文献1】「最新改稿 乳業技術便覧 上巻」、祐川金次郎著、酪農技術普及学会発行、pp341〜343、1975年
【非特許文献2】「食品製造の微生物管理マニュアル」、p178、1996年、技報堂)
【特許文献1】特開平11−276063号公報
【特許文献2】特開平2003−125726号公報
【特許文献3】特開2003−170029号公報
【特許文献4】特開昭55−7013号公報
【特許文献5】特開昭59−187734号公報
【特許文献6】特開平2−227028号公報
【特許文献7】特開2003−47400号公報
【特許文献8】特開2000−23620号公報
【特許文献9】特開2001−258470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような生の果物果肉を含有した発酵乳の品質を長期間安定させ商業的レベルにおいて一般流通させるためには、異常発酵や発酵遅延を防ぐ工程に工夫が必要となり、損傷や腐敗した対象物の適切な選別廃棄や、念入りな洗浄・殺菌が必要となる。
【0010】
異常発酵や発酵遅延を防ぐため、最も重要となる殺菌工程においては、生果物の洗浄には約100〜200ppm程度の次亜塩素酸ナトリウム溶液が一般的に使用される。殺菌効果を高めるためには、より高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いた処理が必要となる。しかし、高濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液を用いる場合、対象果物の退色、残留臭気、クロロホルムの生成、作業者への健康等の問題がある(非特許文献2参照)。
【0011】
また、果実の殺菌には上述した次亜塩素酸ナトリウム溶液による処理のほか、より高度な殺菌手法として65〜70%程度のエタノールに果物を浸漬する方法がある。しかし、エタノールは高価でありコストがかかるうえ、エタノールが果実細胞表面を損傷させるため、果実内部から高酸度の滲出液が発生して最終的な発酵乳製品の風味を悪くするという悪影響があり、現実的とは言い難い。
【0012】
また、特許文献1では、次亜塩素酸塩および亜塩素酸塩を洗浄に使用し、すすぎをせずに保存することによって微生物の増殖を抑制し保存性を向上させる方法が提案されている。しかし、次亜塩素酸塩等の水溶液はアルカリ溶液であることから、果物から滲出した細胞液が塩素と反応しクロロホルムが生成し、それを消費者が喫食するという危険性がある。
【0013】
また、特許文献2では、低塩素濃度でも殺菌効果が高くクロロホルムの生成がない中性以下の特性を持つ次亜塩素酸溶液をカットした果物の洗浄に使用する方法が開示されている。また、特許文献3では、次亜塩素酸塩溶液を塩酸や有機酸によってpH調整して殺菌効果を高め、低塩素濃度で使用できるように作製した溶液が提案されている。しかし、これらの低塩素濃度の溶液と一般的な洗剤とを汚れ除去を目的として同時使用した場合、洗剤中の構成成分が有効塩素と反応して消費され、その為に洗浄対象物の十分な殺菌効果を得にくいという問題がある。
【0014】
果物等を含有した発酵乳を製造するにあたり、発酵前の乳ベースに果物等を含ませる技術が種々提案されている(特許文献4〜7参照)。これら特許文献4〜7に記載の技術は、果実や野菜の殺菌処理を特に行わないものや、果実や野菜に加熱処理を行なうものである。果実や野菜に加熱殺菌行えば生の食感や風味を楽しむことができず、加熱殺菌処理以外に周知な殺菌処理方法を採用すれば、先に述べたような風味の低下、退色、残留臭気等の問題が発生してしまう。
【0015】
また、その他にも野菜や果実を発酵乳に含ませる技術が提案されているが(特許文献8および9参照)、いずれも粉砕搾汁、ピューレ状、ペースト状のものを加熱処理や濃縮ろ過したものであり、果実等の生の食感や風味を楽しめるものではない。
【0016】
このように、加熱処理等を行わない従来の方法による発酵乳においては、除菌不足により異常発酵や発酵阻害が生じてしまい、また、品質保持期間が短いという問題があった。また、この問題を解決しようとして加熱処理を施すと、果物本来の食感や風味を損なってしまうという問題があった。さらに、上述した従来の方法においては、発酵工程前に果物のすすぎ工程を経ない場合は、残留臭気が生じたり、発酵障害を起こしたりする場合があった。
【0017】
本願発明はこれらの問題を鑑みてなされたものであり、異常発酵や発酵阻害を低減し、且つ果物等の本来の食感や風味を損なわない果物又は野菜入り発酵乳の製造方法および発酵乳食品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によると、
果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンラウリン酸エステルとを混合した第1の溶液で処理し、
前記第1の溶液で処理した果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンカプリル酸エステルとを混合した第2の溶液で処理し、
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜を、乳酸菌と資化物質とを含む第3の溶液とともに容器に入れ、前記第3の溶液を発酵させる果物又は野菜入り発酵乳の製造方法が提供される。
【0019】
前記電解水が、塩酸を添加した実質的に塩化ナトリウムを含有しない水を無隔壁電解槽に通水し、電気分解を行い、水で希釈して製造されたものであることが好ましい。
【0020】
前記電解水は、ナトリウムイオン濃度が200ppm以下、pHが4.5〜6.8の範囲の電解水であることが好ましい。
【0021】
前記電解水は、有効塩素濃度10〜30ppm、pH5.0〜6.5であることが好ましい。
【0022】
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜が前記第3の溶液に埋没するか又は前記第3の溶液に覆われた状態で、前記第3の溶液を発酵させることが好ましい。
【0023】
前記果物又は野菜を、前記第1の溶液で処理した後、電解水ですすぎ処理することが好ましい。
【0024】
本発明によると、
果物又は野菜入り発酵乳であって、前記発酵乳は、
果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンラウリン酸エステルとを混合した第1の溶液で処理し、
前記第1の溶液で処理した果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンカプリル酸エステルとを混合した第2の溶液で処理し、
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜を、乳酸菌と資化物質とを含む第3の溶液とともに容器に入れ、前記第3の溶液を発酵させて得られる果物又は野菜入り発酵乳が提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、食品添加物指定の化学的に安定し且つ活性に優れた界面活性剤と低有効塩素濃度の電解水を組み合わせた洗浄殺菌溶液を使用することによって、対象果物の退色や損傷、殺菌不良による異常発酵、発酵遅延を防ぐことができ、果物等の本来の食感や風味を損なわない発酵乳の製造方法および発酵乳食品を提供することができる。
【0026】
また、本発明によると、食品添加物指定の化学的に安定し且つ細菌の増殖を抑制する界面活性剤と低有効塩素濃度の電解水を組み合わせた洗浄加工溶液を使用し、すすぎを行なわずに果物等の表面にこの溶液が残留することによって、果物等の表面に存在する細菌に対して抗菌効果を発揮することから長期間の品質保持が可能となると共に、発酵直前のすすぎ工程が不要で簡便であり、節水、人件費等削減の効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を実施するための例に過ぎず、本発明は以下の実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。なお、本明細書において、百分率は、特に断りのない限り質量による表示である。また、百万分率(ppm)の表示は、特に断りのない限り、μg/mlを意味する値である。
【0028】
本発明の発酵乳の製造方法及び発酵乳においては、果物や野菜等を電解水と構成脂肪酸鎖がC12であるポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンラウリン酸エステル)とを混合した溶液(以下「第1の溶液」という。)で処理する。この第1の溶液による処理は、果物等を洗浄溶液に浸浸させる他、果物等に第1の溶液を接触させる等の処理であってもよい。この第1の溶液による処理は、洗浄殺菌作用がある。
【0029】
そして、生果物から第1の溶液を可能な限り取り除いた後、電解水と構成脂肪酸鎖がC8であるポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンカプリル酸エステル)と混合した溶液(以下「第2の溶液」という。)で処理する。この第2の溶液による処理は、果物等を第2の溶液に浸浸させる他、果物等に洗浄溶液を接触させる等の処理であってもよい。この第2の溶液による処理は、洗浄抗菌作用がある。
【0030】
その後、洗浄加工した生果物等有用な乳酸菌および酵母と資化物質とを含む溶液とともに容器に入れ、乳酸菌の発育至適温度で発酵させる。なお、本発明に用いる生果物は、喫食用サイズ又は喫食用サイズに細かく裁断したものを用いても良い。
【0031】
本発明の発酵乳の製造方法においては、2つの界面活性剤をそれぞれ電解水に混合した溶液を用いている。その一つの界面活性剤である構成脂肪酸鎖がC12であるポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンラウリン酸エステル)は、洗浄能力が高く、生果物の除菌を効果的に行うことができる。ポリグリセリンラウリン酸エステルは、モノエステル体含量が90%より低く、構成脂肪酸鎖がC12以外であると洗浄性が低まる。ポリグリセリンラウリン酸エステルは、生果物等の表面に働きかけ生果物等に付着している汚れの剥離に効率的に役立つばかりか、その安定的な化学性質から有効塩素とは反応せず、微生物に対する殺菌効果に影響を及ぼさない。
【0032】
また、もう一つの界面活性剤である構成脂肪酸鎖がC8であるポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンカプリル酸エステル)は、抗菌能力が高く、果物等の表面に存在する微生物への抗菌性を高めることができる。ポリグリセリンカプリル酸エステルは、食品添加物であり、残留しても無害であるばかりか、残留することによって抗菌作用を示す。ポリグリセリンカプリル酸エステルは、モノエステル体含量が80%以下であると重量あたりの有効塩素の消費が多く、電解水の効果を低下させる。ポリグリセリンカプリル酸エステルは、生果物等の表面に働きかけ生果物等に付着している微生物への塩素の接触を促進するばかりか、それ自身によっても微生物の生育を妨害する性質があることから、加工処理終了後も生果物表面上に留まって抗菌性・保存性を高めることができる。また、前工程である洗浄溶液による処理によって可能な限り汚れが除去されている為にその効果も飛躍的に向上する。
【0033】
これら2つの溶液で処理した果物等を有用な乳酸菌および酵母とその資化物質とを含む溶液とともに容器に入れ、乳酸菌の発育至適温度で発酵させることにより、生果物等の周囲に乳酸菌および酵母が資化物質を分解して生成した酸やアルコールが含まれることとなり、保存時の微生物増殖抑制および生育妨害をすることができ、生果物が入った発酵乳を製造することができる。また、本発明に用いる電解水の有効塩素濃度は低く、また、生果物に加熱処理を施すことがないので、生果物の本来の食感や風味を損なうことがない。
【0034】
本発明に用いる電解水は、電解質を含む原料水を電気分解して得られる液体である。より好ましくは、微酸性である電解水である(以下、「微酸性電解水」という)。このような微酸性電解水としては、ナトリウムイオン濃度は上水道の水質基準である200ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、pHは4.5〜6.8の範囲の電解水を用いる。また、その中でも、有効塩素濃度10〜30ppm、pH5.0〜6.5であることが特に好ましく、前記有効塩素濃度の範囲であれば、作業者への身体的負担がなく、生果物等の風味変化が起こらず残留も生じない。
【0035】
電解水は、一般的には、電解効率を上昇させるために塩化ナトリウムを添加して生成される。しかし、その場合でも、本発明では、上述のようにナトリウムイオン濃度が200ppm以下の微酸性電解水を使用することが好ましい。また、散布しても塩化ナトリウムの結晶が残留することがないので利便性が高い。
【0036】
かかる微酸性電解水であれば、実質的に塩化ナトリウムを含有しないと言えるので、使用後に、仮に残留しても食品の風味に与える影響はないと考えられるからである。
【0037】
かかる微酸性電解水は、次の手順で製造することができる。即ち、まず、実質的に塩化ナトリウムを含有しない水に塩酸を添加する。ここに「水」とは、水道水、地下水、伏流水、脱塩水、蒸留水、精製水(RO水、膜処理水)、または、これらの混合水等であって、実質的に塩化ナトリウムを含有しない水を意味している。
【0038】
ここに、「実質的に塩化ナトリウムを含有しない」の意味は、人為的に塩化ナトリウムが添加されていないことである。この場合、水に自然に含有されている微量の塩化ナトリウムは考慮されない。塩化ナトリウムが人為的に添加されていないということは、塩酸を添加した水のナトリウムイオン濃度が、前記「水」に含有されていたナトリウムイオン濃度を越えることがないことを意味している。例えば、このような「水」は、一般にナトリウムイオン濃度200ppm以下であるので、本発明における塩酸を添加した水も、ナトリウムイオン濃度は200ppm以下が好ましいことになる。
【0039】
また、地下水、伏流水などの自然水や水道水を用いる場合には、全有機炭素の濃度が2ppm以下であることが好ましい。また、総硬度は、50〜100mg/Lであることが好ましい。
【0040】
また、水に塩酸を添加する場合の塩化水素濃度は、適切な反応を起させるためには0.01%以上であることが好ましく、特に0.1%以上であることが推奨される。ただし、経済的な観点からは、塩化水素濃度は、1.0%以上、21.0%以下であることが好ましい。即ち、塩化水素濃度が1.0%以上であれば、工業的に安定した反応を得ることが可能であり、また21.0%以下であれば、常温で発煙することがなく、保管、取扱いに特に困難なことは無いと考えられるからである。
【0041】
このような塩酸を添加した水を無隔膜電解槽に通水した後、陰陽両極に通電し、電気分解して電解水を得る。ここに、無隔膜電解槽とは、隔膜を有しない電解槽である。無隔膜電解槽は、単極式の電解槽であっても良いが、複極式の電解槽であることが好ましい。一般に、電解槽の中で複数の電極を結線する方式としては、単極式と複極式の2種類が知られている。単極式とは、電極の全てが電源の陰極又は陽極のいずれかと接続される方式であり、複極式とは、例えば、複数の電極を一定間隔で重ね合わせ、相互に絶縁した構造を有しており、電源の陽極に接続された電極(即ちアノード)と、電源の陰極に接続された電極(即ちカソード)との間に、いずれの極とも接続されない中間電極が、少なくとも1枚存在する方式である。
【0042】
なお、電気分解の際には、電極1対あたりの電圧は1.5ボルト以上、4.0ボルト以下であることが好ましい。複極式電解槽の場合は、前記したようにカソードとアノードとの間に中間電極が存在しているが、「電極1対あたりの電圧」とは、カソード、アノード、及び中間電極を含めて、隣り合った2枚の電極の間の電圧を意味する用語である。
【0043】
一般に、電極1対あたりの電圧を上げていくと、1.3ボルト以上で塩素が発生し始め、1.5ボルト以上で最大の発生量に達することが知られている。したがって、電極1対あたりの電圧は1.5ボルト以上が好ましいと言える。また、電圧が4.0ボルトを越えると、酸素が発生し始め、5.0ボルトを越えるとオゾンが発生し始めることが知られている。オゾンの発生は作業環境の面から好ましくないので、電圧は5.0ボルト以下が好ましい。また、酸素の発生は電力の無駄になるため、電圧は4.0ボルト以下が特に好ましい。なお、電圧は、経済上の観点からは、3.0ボルト以下であることが好ましい。少なくとも、オゾンの発生は上述のように好ましくないため、電圧は5.0ボルト以下が好ましく、本発明で使用する電解水は特にオゾンのない電解水であることが好ましい。
【0044】
このように電解水を製造した後は、製造された電解水は希釈してもよい。一般に、電解水の製造においては、塩素濃度が高い水を電気分解して電解水を少量製造し、その後これを希釈して使用することが経済性の上からは好ましいからである。したがって、電気分解した後は、希釈した上で、電解水を採取するのが好ましい。希釈の度合いは、pHが5.0〜6.5、有効塩素濃度が10〜30ppmの範囲になるようにすることが好ましい。
【0045】
このように製造された電解水は、有効塩素濃度が1ppm乃至2ppmの濃度まで希釈されたとしても殺菌効果が消失することがない。
【0046】
なお、電解水は、中和剤により中和してもよい。有効塩素濃度が高い電解水を得た場合に、その電解水のpHが低くなる場合があるが、一般に、塩素が溶解した水は、pHによってその殺菌力が変化することが知られている(株式会社フジ・テクノシステム発行、「食品工業の微生物制御総合技術資料集」、第242〜243ページ、昭和52年)。これによると、電解水のpHが4.5〜6.8であれば殺菌力が高くなるため、そのpH範囲となることが好ましい。
【0047】
また、電解水が強酸性であれば、使用する場所、方法等に制約を受けることになるため、電解水のpHは5.0以上であることが好ましい。このような中和剤としては、アルカリ性の薬品が好適であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム等を使用することができるが、水酸化ナトリウムが最も好ましい。このように電解水を中和する場合は、中和剤の添加は、希釈の前であっても後であっても良いが、後の方が好ましい。
【0048】
以上述べた電解水の製造は、例えば、株式会社トーワテクノ製の電解水製造装置であるピュアスター(登録商標)によって行うことができる。この装置に、21%の塩酸又は3%の塩酸を貯留したタンクを設置する。前者の場合は21%の塩酸を水で希釈した後に無隔膜電解槽に通水し、後者の場合には、3%の塩酸は、それ自体が「塩酸を添加した水」であるので、そのまま無隔膜電解槽に通水する。そして連続的に電気分解し、電解水を製造することが可能である。この際は、得られた電解水が、pH4.0以上、好ましくはpH4.5〜6.8、特に好ましくはpH5.0〜6.5、有効塩素濃度10〜30ppmの範囲になるような条件で、無隔膜電解槽の電解条件を調節し、また電解水を希釈することが好ましい。
【0049】
このようにして製造された電解水は、塩化ナトリウムが実質的に添加されておらず、しかもpHはほぼ中性の付近にあり、通常の電解水に比して、自然水に近い物性を有している。したがって、本発明に用いる電解水を製造するのに適している。
【0050】
ここで、喫食用サイズの果物や野菜とは、イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、カシス、ざくろ、グミ、金柑、さくらんぼ、ブドウ、小サイズのトマト等その他裁断しなくても一口で喫食できるサイズのものを指し、ここに挙げたものに限定されない。
【0051】
また、喫食用サイズに細かく裁断した果物や野菜とは、ビワ、モモ、スモモ、あんず、梅、サルナシ、キウイ、リンゴ、ナシ、洋ナシ、いちじく、柿、オレンジ・ミカン・グレープフルーツ・レモン等のかんきつ類、バナナ、パイナップル、マンゴー、パパイヤ、パッションフルーツ等その他通常一口サイズに裁断して喫食するものを指し、ここに挙げたものに限定されない。
【0052】
以下、本実施形態に係る本発明の発酵乳の製造方法について詳細に説明する。
【0053】
まず、蔕を取り除いた喫食用サイズの生果物又は喫食用サイズに細かく裁断した生果物のうち1種類以上を選択したものを、電解水と構成脂肪酸鎖がC12である500ppmポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンラウリン酸エステル)とを混合した第1の溶液で処理する。
【0054】
本実施形態においては、好ましくは、モノエステル体含有量が90%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンラウリン酸エステル)を用いることができる。また、生果物の洗浄に用いる第1の溶液量は、より効果的な洗浄殺菌を行なうために、対象物の重量比にして10倍以上が好ましい。また、洗浄処理方法としては、浸漬振とう、浸漬撹拌、連続式野菜洗浄槽、超音波によって行なうことが好ましい。洗浄時間としては、5〜20分間、好ましくは10〜15分間である。対象物の洗浄終了後は、生果物を第1の溶液から引き上げ、水切りカゴや水切り器などを使用して、生果物に付着した第1の溶液を可能な限り取り除くことが望ましい。なお、洗浄終了後はそのまま次の工程に進むことができるが、電解水ですすぎ工程を行なって、生果物に付着した第1の溶液を可能な限り取り除くことが好ましい。また、本実施形態においては、微酸性電解水を用いることが好ましい。
【0055】
続いて、本実施形態の加工工程に進む。上述の洗浄工程を経た生果物を、電解水と構成脂肪酸鎖がC8である250ppmポリグリセリン脂肪酸エステル(ポリグリセリンカプリル酸エステル)とを混合した第2の溶液で処理し、生果物の洗浄且つ加工を行なう。
【0056】
本実施形態においては、好ましくは、モノエステル体が80%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステルを用いることができる。また、この第2の溶液中に食品用香料を0.1%〜1%添加することができる。更に、電解水の性質変化が起こらない範囲で食品添加物指定の有機酸、塩酸を第2の溶液中に添加することができる。また更に、電解水の性質変化が起こらない範囲で、生果物に風味を付加するための甘味などを有する物質を第2の溶液中に添加することができる。この加工工程は、浸漬振とう、浸漬撹拌、連続式野菜洗浄槽、超音波によって行なうことが好ましい。加工時間は5〜20分間であり、より好ましくは10〜15分間である。加工終了後は、生果物を第2の溶液から引き上げ、水切りカゴや水切り器などを使用して、生果物に付着した第2の溶液を可能な限り取り除くことが好ましい。しかし、生果物の表面を紙や布で拭き取るなどの工程を行う必要はない。
【0057】
そして、加工処理された生果物を、乳酸菌、乳や乳製品、糖やタンパク質などの資化物質、風味を向上せしめるための各種調味料などを添加した溶液とともに密閉容器に浸漬充填する。
【0058】
乳酸菌としては、ラクトバチルス属(L. acidophilusL.gasseri等)、ストレプトコッカス・サーモフィラス、エンテロコッカス・フェカリス、ビフィドバクテリウム属(B.bifidumB.breveB.infantisB.longumB.adolescentis等)に代表されるものが適しており、また、これらの乳酸菌の1種類以上を混合して使用することができる。また、浸漬溶液には、乳酸菌とともに有用な酵母菌を入れてもよい。
【0059】
浸漬に使用する溶液としては、殺菌乳、脱脂粉乳、バターなどの乳脂肪、ホエイパウダー、クリームなどの乳製品、ホエイペプチドなどの乳タンパク質、ショ糖、果糖、はちみつ、黒糖などの糖類、人工甘味料などの甘味を呈する物質、寒天、ゼラチン、各種増粘多糖類(カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、ファーセレラン等)、でん粉、でん粉分解物等の発酵乳としての風味を向上あるいは性質を安定せしめるものを適宜添加した混合溶液のことであり、最終製品に適した風味を持つよう調合することができる。
【0060】
なお、塩類や糖類を添加する溶液で浸漬溶液を構成する場合には、乳酸菌の生育を阻害しない濃度とする。例えば、ラクトバチルス・ブレビス、エンテロコッカス・フェカリス、エンテロコッカス・ファシウムを使用する場合、6.5%の食塩含量としなければ生育阻害を起こし発酵過程が順当に進まないことがある。また、同様に、糖類なども発酵過程を阻害しない適切濃度としなければならない。
【0061】
この浸漬充填工程は、加工された生果物が浸漬溶液に完全に浸った状態になるようにし密閉する。例えば、カップ状容器であれば容器の容積中100%となるよう生果物と浸漬溶液とを充填し、空気が入らないようにフタをして密閉する。形状が可変な袋状容器であれば容器充填後、空気を抜きながら袋口を密閉する。
【0062】
このように生果物と浸漬溶液とを浸漬充填した発酵前食品は、適正温度および適正時間で発酵せしめたのち、5℃で冷却して保存し、冷蔵状態のまま輸送し製品とする。ここでいう適正温度および適正時間とは、乳酸菌と酵母の資化分解によって生成された物質により風味が損なわれない最終製品が出来上がる温度および時間をいう。
【0063】
ここで、本発明の発酵乳の製造方法によって得られる本発明の発酵乳の効果を以下の試験例を基に説明する
【0064】
(試験例1〜11)
試験例1〜11においては、表1のとおり、第1の溶液及び第2の溶液の種類を組み合わせ、発酵乳を製造した。表1には結果及び評価も示した(評価方法については後述する)。
【表1】

【0065】
試験例1〜11における「溶液1」〜「溶液6」は、以下に示す組成とした。
1)溶液1(本発明の本実施形態に係る第1の溶液):500ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル[商品名:M−12J(太陽化学株式会社)]/30ppm 微酸性電解水 pH5.0[生成装置名:PURESTER(森永乳業株式会社)]
2)溶液2:500ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル/200ppm 次亜塩素酸ナトリウム[12%次亜塩素酸ナトリウム溶液(食品添加物グレード)(和光純薬)]
3)溶液3:500ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル/水道水[神奈川県座間市水道水]
4)溶液4(本発明の本実施形態に係る第2の溶液):250ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル[商品名:MCA−750(坂本薬品工業株式会社)]/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
5)溶液5:250ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル/200ppm次亜塩素酸ナトリウム
6)溶液6:250ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル/水道水
【0066】
(試験方法)
いずれの試験例及び比較例においても、生果物には、蔕を取って大腸菌(106cfu/ml)溶液で汚染させたイチゴ6個(約60g)を用いた。
【0067】
洗浄工程および加工工程に使用した、溶液1〜6(試験例1〜11)、70%エタノール(比較例1)、200ml NaClO(次亜塩素酸ナトリウム)(比較例2)の量は、1000mlとした。
【0068】
浸漬溶液には、ラクトバチルス・アシドフィラスとストレプトコッカス・サーモフィラスを107cfu/gとなるよう混合した殺菌乳を使用した。
【0069】
浸漬容器としてアルミ蒸着フィルムで形成された、加熱融解によって密閉可能な袋を用い、50gの浸漬溶液と処理を施した生果物1個とを充填し、袋内の上部から空気を出来るだけ除去して袋を閉じた。
【0070】
40℃に設定した恒温槽に袋を静置し、5時間発酵後、恒温槽を5℃にし冷却した。その後1週間5℃で保存し、各種性質を評価した。
【0071】
浸漬溶液中の大腸菌数および生果物中の大腸菌数は、10倍重量の生理食塩水で懸濁した懸濁液をデスオキシコレート培地で混釈し35℃、24時間培養して測定して算出した。
【0072】
(評価)
試験作業中の臭気、生果物の色変化、生果物の組織変化、生果物の残留臭気(すすぎの必要性)、浸漬溶液への影響、食感、風味、外観に対する目視、計測、食味による評価の基準を表2のとおりとした。各試験例、比較例において、該当評価にあてはまる1、2、3の数値(評価点)を表1に記載した。除菌性は除菌率の数値から、また保存性は浸漬溶液の酸度やpH、外観から判断し、該当評価にあてはまる1〜5の評価点を表1に記載した。
【表2】

【0073】
(最終評価)
各試験例及び比較例の最終評価には、作業中の臭気、対象物の色変化、対象物の組織変化、対象物の残留臭気(すすぎの必要性)、浸漬溶液への影響、食感、風味、外観の評価点を合計した「小計1」と、除菌率および保存性を合計した「小計2」とを用いた以下の算出式1から求めた製品評価点を用いた。なお、小計2の要素が製品の長期保存に重要であるという観点から、以下の算出式においては、小計2を2倍に評価している。
【0074】
算出式1:
製品評価点= 小計1 + ( 小計2 × 2 )
【0075】
更に、製品評価点の最高値を100%とした時の、各試験例および比較例の評価率を算出し、表3に示す評価基準に基づき、製品として評価できるかを判断してA〜Eランクに分け、表1に記載した。
【表3】

【0076】
(結果)
表1に示した最終評価として明らかなように、試験例7、即ち本実施形態に係る第1の溶液及び本実施形態に係る第2の溶液を用いた場合が最も製品として評価できるものであった。
【0077】
また、袋への充填時に浸漬溶液に生果物を完全に埋没させず、半浸漬の状態において発酵試験を別途行ったが、生果物が埋没していない部分が乾燥して変色し、有害微生物が生育していた。これは、生果物表面に残留した有害微生物が繁殖したものと考えられる。このことによって、本発明の加工処理の重要性が明らかになった。よって、本発明においては、加工処理後の生果物を浸漬溶液に完全に埋没させた状態か、完全に浸漬溶液に覆われた状態で発酵工程を実施することが更に重要である。
【0078】
(試験例12〜20)
試験例12〜20は、生果物を洗浄殺菌する第1の溶液の濃度と洗浄加工する第2の溶液の濃度の適当性を評価するために行なった。表4に示すとおり溶液の種類を組み合わせ、発酵乳を製造した。表4には、結果及び評価も示した(評価方法については後述する)。
【表4】

【0079】
試験例12〜20における「溶液7」〜「溶液12」は、以下に示す組成とした。
7)溶液7:250ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル[商品名:M−12J(太陽化学株式会社)]/30ppm 微酸性電解水 pH5.0[生成装置名:PURESTER(森永乳業株式会社)]
8)溶液8:500ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
9)溶液9:750ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
10)溶液10:125ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル[商品名:MCA−750(坂本薬品工業株式会社)]/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
11)溶液11:250ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
12)溶液12:500ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル/30ppm 微酸性電解水 pH5.0
【0080】
(試験方法)
いずれの試験例においても、生果物には、皮をスライサーで剥いたリンゴを4分の1に切り分けた後5mmのいちょう切りにし、大腸菌(106cfu/ml)溶液で汚染したリンゴ(約20g)を用いた。
【0081】
洗浄工程および加工工程に使用した、溶液7〜12(試験例12〜20)の量は、それぞれ1000mlとした。
【0082】
浸漬溶液には、ラクトバチルス・アシドフィラスとストレプトコッカス・サーモフィラスをあわせた乳(109cfu/g) 5%重量を乳酸菌として、殺菌乳を資化物質として使用した。
【0083】
浸漬容器は、完全浸漬の場合はアルミ蒸着フィルムで作成された密閉可能な袋を用いて50gの浸漬溶液と生果物1個とを充填した後、空気が残らないように密閉した。
【0084】
40℃に設定した恒温槽に袋を静置し、5時間発酵後、恒温槽を5℃にして冷却した。1週間5℃で保存し評価した。
【0085】
(評価)
保存性は浸漬溶液の酸度やpH、外観から、また、最終製品の異臭性、刺激性、対象表面の褐変の有無に関する評価の基準を表5の通りとし、該当評価にあてはまる0、1、2、3の評価点を表4に記載した。
【表5】

【0086】
(最終評価)
最終評価には、評価点を合計した小計を算出し、更に、製品評価点の最高値を100%とした時の、各試験例の評価率を算出し、表3の評価基準から製品として評価できるかを判断してA〜Eランクに分け、表4に記載した。
【0087】
(結果)
表4から明らかなとおり、第1の溶液のポリグリセリンラウリン酸エステルの適性濃度は500ppm、第2の溶液のポリグリセリンカプリル酸エステルの適性濃度は250ppmであった。
【実施例】
【0088】
次に本発明の発酵乳の製造方法の一実施例を示すが、本発明はここに記載した内容に限るものではない。
【0089】
[ブドウ(ヨーロッパ種)果肉入り発酵乳]
流水で1分間予洗しゴミを取り除いたブドウ果実(ヨーロッパ種:バラディ、レディスフィンガー等)20kgを軸から取り外す。
【0090】
次に、取り外した果実を、500ppm ポリグリセリンラウリン酸エステル[商品名:M−12J(太陽化学株式会社)]を混合した30ppm微酸性電解水pH5.0、200Lで連続式野菜洗浄機にて10分間洗浄し、ザルにとってよく水を切る(洗浄殺菌工程)。その後、30ppm 微酸性電解水pH5.0、200Lで洗浄し、すすぎとする。
【0091】
続いて250ppm ポリグリセリンカプリル酸エステル[商品名:MCA−750(坂本薬品工業株式会社)]を混合した30ppm微酸性電解水pH5.0[生成装置名:PURESTER(森永乳業株式会社)]、200Lで撹拌式野菜洗浄機にて10分間洗浄し、ザルにとってよく水を切る(洗浄加工工程)。
【0092】
そして、洗浄殺菌及び洗浄加工したブドウ果実2〜3粒(約20g)をアルミ蒸着フィルムで作成された密閉可能な袋に入れる。脱脂粉乳が10%重量、45%生クリームが5%重量、砂糖が6%重量、寒天が0.5%重量となるようにそれぞれを混合して90℃に加熱したのち、一旦40℃に冷却した溶液に、ラクトバチルス・アシドフィラスとストレプトコッカス・サーモフィラス(109cfu/g)5%重量を添加し、浸漬溶液を作製し、この浸漬溶液をブドウ果実を入れた袋に200gずつ充填する。袋内の空気を除去しながら、シーラーを用いて高温融解により袋口を密閉する。
【0093】
袋を、40℃に保持した恒温室で5時間発酵させたのち、5℃に保持した恒温室に移動して冷却する。
【0094】
このようにして製造した生果物入り発酵乳は、10℃下の冷蔵保存において1週間品質が保持され、一般流通させるに十分な品質であった。
【0095】
なお、ヨーロッパ種のブドウは皮が薄く果皮ごと食べられることが特徴であるが、それ故腐敗しやすく、従来では広く流通させるのは難しかった。本発明によると、生果実を生に近い状態で楽しむことが出来る上、長期保存が可能となるため、流通市場を広めることが出来る。
【0096】
本発明によると、食品添加物指定の化学的に安定し且つ活性に優れた界面活性剤と低有効塩素濃度の電解水を組み合わせた第1の溶液を使用することによって、対象となる果物や野菜の退色や損傷、殺菌不良を防ぐことができ、且つ果物等の本来の食感や風味を損なうことがない。また、本発明によると、食品添加物指定の化学的に安定し且つ細菌の増殖を抑制する界面活性剤と低有効塩素濃度の電解水を組み合わせた第2の溶液を使用し、すすぎを行なわずに果物等の表面にこの溶液が残留することによって、果物等の表面に存在する細菌に対して抗菌効果を発揮することから長期間の品質保持が可能となると共に、第2の溶液のすすぎ工程が不要で簡便であり、節水、人件費等削減の効果も奏する。よって、本発明は、生果物や生野菜、鮮魚等、加熱処理等の殺菌処理を行わない生の食物の加工方法に用いることもできる。本発明の加工方法によると、加工された食品は本来の食感や風味を損なわれておらず、安全で且つ長期間の保存が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンラウリン酸エステルとを混合した第1の溶液で処理し、
前記第1の溶液で処理した果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンカプリル酸エステルとを混合した第2の溶液で処理し、
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜を、乳酸菌と資化物質とを含む第3の溶液とともに容器に入れ、前記第3の溶液を発酵させる果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項2】
前記電解水が、塩酸を添加した実質的に塩化ナトリウムを含有しない水を無隔壁電解槽に通水し、電気分解を行い、水で希釈して製造されたものである請求項1に記載の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項3】
前記電解水は、ナトリウムイオン濃度が200ppm以下、pHが4.5〜6.8の範囲の電解水である請求項2に記載の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項4】
前記電解水は、有効塩素濃度10〜30ppm、pH5.0〜6.5である請求項2又は3に記載の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項5】
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜が前記第3の溶液に埋没するか又は前記第3の溶液に覆われた状態で、前記第3の溶液を発酵させる請求項1乃至4の何れか一に記載の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項6】
前記果物又は野菜を、前記第1の溶液で処理した後、電解水ですすぎ処理する請求項1乃至5の何れか一に記載の果物又は野菜入り発酵乳の製造方法。
【請求項7】
果物又は野菜入り発酵乳であって、前記発酵乳は、
果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンラウリン酸エステルとを混合した第1の溶液で処理し、
前記第1の溶液で処理した果物又は野菜を、電解水とポリグリセリンカプリル酸エステルとを混合した第2の溶液で処理し、
前記第1の溶液および前記第2の溶液で処理した前記果物又は野菜を、乳酸菌と資化物質とを含む第3の溶液とともに容器に入れ、前記第3の溶液を発酵させて得られる果物又は野菜入り発酵乳。

【公開番号】特開2009−178072(P2009−178072A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−18841(P2008−18841)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】