説明

果物及び野菜の熟成方法

【課題】天災等によって大被害が予想される果物及び野菜を予め摘果し、この未熟成の果物及び野菜を熟成させるのに最適な果物及び野菜の熟成方法を提供する。
【解決手段】イチジク、モモ、カキ、パイナップル、リンゴ、ナシ、ビワ、ミカン、メロン、ブドウ、キウイ等の未熟成状態の果物15、イチゴ、スイカ、ナス、トマト、キュウリ、豆類、キャベツ、白菜等の未熟成状態の野菜を、5〜30℃、湿度90%以上の雰囲気、即ち部屋12内に2日間以上保持して、果物及び野菜の熟成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果物及び野菜の熟成方法に係り、特に未熟成の果実、野菜を食に適した状態に熟成し、更に熟成した状態をそのまま保持する果物及び野菜の熟成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、野菜、果物等を高い鮮度で長期に保存するための、冷蔵庫、保冷庫用加湿器が提案されている。表1には、従来から知られている果物を冷蔵庫で保存するための最適温度と最適湿度が提案されている。また、表2には従来から知られている野菜を冷蔵庫で保存するための最適温度、最適湿度が提案されている。
【0003】
【表1】

【0004】
【表2】

【0005】
更に、特許文献2には、野菜、果物の保存及び熟成を行う設備が提案され、熟成室の搬入入口側の天井部に外気導入口を設けると共にこの外気導入口の後方に湿気供給部を設け、熟成室内に湿気を付与し、更に必要に応じて、エチレンガス又はライブレンガス(帝国酸素製)を入れることも開示されている。
また、特許文献3には、青果物の追熟加工工程を管理するためのシステムが提案され、鮮度を保つのに、青果物熟成加工室内の温度、湿度、炭酸ガス濃度の設定、エチレンガスの投入を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−92377号公報
【特許文献2】実開平5−34885号公報
【特許文献3】特開2010−166840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の技術は、天災(台風、大雨)によって大被害を受けることが予想される果物、野菜については全く考慮されていない。特に、特許文献3には未熟成のバナナについての記載はあるが、このバナナは、現地で採集し、販売にまで時間がかかるので、このことを考慮してバナナを追熟させるもので、天災によって被害を受ける前のバナナを取り扱うものではない。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、天災等によって大被害が予想される果物及び野菜を予め採集(又は摘果)し、この未熟成の果物等を熟成させるのに最適な果物及び野菜の熟成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に沿う第1の発明に係る果物の熟成方法は、未熟成状態の果物を、5〜30℃(より好ましくは、10〜25℃)、湿度90%以上(より好ましくは95%以上)の雰囲気に2日間以上保持して、前記果物の熟成を行う。
ここで、前記果物は天災で落果が予想される未熟成の果物であるのが最適である。
第1の発明に係る果物の熟成方法は、イチジク、モモ、カキ、パイナップル、ナシ、リンゴ、ビワ、ミカン、メロン、ブドウ、キウイのいずれか1からなるものに適用するのがよい。
【0010】
また、前記目的に沿う第2の発明に係る野菜の熟成方法は、未熟成の野菜を、5〜30℃(より好ましくは、10〜25℃)、湿度90%以上(より好ましくは95%以上)の雰囲気に2日間以上保持して、前記野菜の熟成及び保存を行う。ここで、前記野菜は、天災によって販売不能となるイチゴ、スイカ、ナス、トマト、キュウリが最適ではあるが、その他、豆類、キャベツ、白菜等にも適用できる。
【発明の効果】
【0011】
第1の発明に係る果物の熟成方法は、例えば、天災等によって大被害が予想される未熟成の果物を摘果して、これらを、5〜30℃、湿度90%以上で2日以上保持しているので、未熟成の果物が水分を含んだまま熟成し、表面の変化は少ないが、鮮度が保持された十分に甘味を有する果物となる。
【0012】
また、第2の発明に係る野菜の熟成方法においては、例えば水害などで大被害が予想される未熟成の野菜を畑から取り上げ、5〜30℃、湿度90%以上で2日以上保持しているので、野菜が熟成し、甘味が増えて、食用として使用でき、市場流通が可能な野菜となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施の形態に係る果物の熟成方法を適用した熟成設備の側断面図である。
【図2】同熟成設備の平断面図である。
【図3】(A)は同熟成設備に使用する収納ケースの斜視図、(B)は同収納ケースの積み重ね状態を示す断面図である。
【図4】同熟成装置の制御の説明図である。
【図5】本発明の他の実施の形態に係る果実及び野菜の熟成方法を適用した熟成設備の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
続いて、添付した図面を参照しながら、本発明を具体化した実施の形態について説明する。
図1、図2に示すように、本発明の一実施の形態に係る果物の熟成方法を適用した熟成設備10は、周囲を断熱材11によって覆われた部屋12と、部屋12内に所定温度の高湿度空気を送り込む空調機13と、部屋12内に篭14に入った未熟成状態の果物15を搬出入する台車16と、これらの制御装置17とを有する。以下、これらについて詳しく説明する。
【0015】
部屋12は鋼製又はアルミ製の骨材によって骨組が形成され、周囲を木製又は樹脂製(強化プラスチックを含む)の壁材19及び天井材20によって囲われて内部に密閉空間21を形成している。この部屋12の長手方向一端には扉22(この実施の形態では観音扉)が設けられ、扉22を開けた状態で内外を横切って配置されたレール23上を台車16が出入りするようになっている。
【0016】
部屋12の奥側の天井材20には空気導入口24が設けられ、空調機13からの気流を部屋12内に入れている。また、部屋12の入り側の両側下部には排気口26、27が設けられ、空気導入口24から入って来た空気を排気口26、27から排出するようになっている。排気口26、27から排出された空気は、再度空調機13に送られ、所定の温度に降温されて、設定の湿度に加湿された後、再度空気導入口24から吹き込まれるようになっている。
【0017】
台車16は底部に4つ車輪28が設けられ、レール23上を自由に走行できるようになっている。また、部屋12の床面には断熱材(図示せず)が設けられており、表面には床材29が貼着されている。
図3(A)に示すように、台車16の上に載せられている篭14は、十分な開口を有する網材からなって、上端部には広口部30が、底に広口部30に入り込む底板部30aを有して、図3(B)に示すように、複数の篭14を内部に果物が入った状態で積み重ねられる構造となっている。
【0018】
空調機13は、図4に示すように、内部に空気冷却部31と加湿部32とを有し、空気冷却部31は通常のエアコンディショナーと同様、冷媒である炭酸ガス又はフロンガス(代替フロンガスを含む)を圧縮して冷却し、次に断熱膨張させて温度を下げた気体を一次側に流す熱交換機を有し、排気口26、27からの排気ガスをファン33で吸引し、この熱交換機の二次側に送っている。
【0019】
加湿器32は、所定の温度となった空気にノズルから微小粒径の水を噴霧するタイプ、水槽中に気体を放出するバブルタイプのものであってもよいが、先に提案された特許文献1(特開2009−92377)に記載のように、下部に水槽を有し、上下から所定長突出した板材を交互に配置し、通過する空気を加湿するものであってもよく、この加湿器は例えば密封した部屋の天井、壁、床等に取付けて使用する。なお、この場合、通過する空気は水槽の水でも冷却されるので、この冷却を考慮して、空気冷却部31の冷却度合いを調整する。
【0020】
また、加湿部32と空気冷却部31の順番を逆にし、ファン33で吸引した空気を一旦加湿部32で加湿し、次に空気の温度を空気冷却部31で下げて、湿度を100%近傍にすることもできる。この場合、ファン33の下流にヒータを設けて、空気を少し加熱し、加湿部32で加湿してもよい。
制御装置17は内部にマイクロコンピュータを有して、部屋12内に設置された温度計35(複数あってもよい)、湿度計36(複数あってもよい)からの電気信号をデジタル信号に変換して入力している。なお、温度計35、湿度計36を部屋12内に複数設ける場合は、平均値を採用するのがよい。
【0021】
この温度計35の出力によって、部屋12内の温度が所定範囲(例えば、5〜30℃、より好ましくは10〜25℃)になるように、空気冷却部31を制御する。そして、湿度計36の出力よって、部屋12内の湿度を90〜100%(より好ましくは95〜100%)に制御する。湿度の制御としては、ファン33の回転速度を少し遅くするか、水を噴出するノズルの数、噴出量を調整するかして行う。特許文献1の装置を用いている場合は、板材数(即ち段数)を増やすことになる。更に、加湿される空気の温度を変えて湿度を制御することもできる。
【0022】
この実施の形態においては、排気口26、27から排出された空気を循環して使用しており、空気中に匂いが溜まることがあるので、ファン33の上流側又は下流側に脱臭機を設けるのが好ましい。
また、部屋12内の空気を循環させるために、天井部分にファンを設けてもよい。
【0023】
続いて、この熟成設備10を使用した実施例について説明する。熟成前のリンゴ(果物の一例)を台風による落果の前に、摘み取り、篭14内に入れて、台車16に載せ部屋12内に入れ、湿度を95%以上、温度を約20℃に保つような雰囲気にして2日間以上部屋12内に放置して熟成させた。リンゴは表面から水分が蒸発しないので、温度だけで熟成し、果肉が甘くなる。青リンゴの場合は赤変はしないが、ある程度赤くなったリンゴは更に色付く。
【0024】
次に、熟成1週間前のイチジク(果物の一例)を摘んで、篭14内に入れ部屋12内に入れた。湿度を95%以上、温度を20度に保って、2〜3日間保持すると、水分を含んだ状態でイチジクが熟成して甘くなった。これによって新鮮味が保持される。なお、表面は大きな変化はなかった。
【0025】
次に、この熟成設備10を用いて、未熟成の野菜(トマト)について実験した。青いトマトを複数用意し、同じく篭14に並べて部屋12内に入れ、温度を21〜24℃、湿度を95%以上に設定して2日間保持した。これによってトマトが熟成し、甘くなった。
なお、湿度を90%、温度を5〜15℃としても、果物及び野菜の熟成が行えることがわかった。
【0026】
図5は大量の果物又は野菜を熟成させるための部屋37であって、複数列に並べられた篭14を有し、内部に野菜又は果物が入っている。これによって大量の野菜又は果物の熟成と保存が可能となる。
【0027】
なお、部屋内に照明器具を設け、各野菜、果物に高湿度及び5〜30℃の温度で光を当てると、更に炭酸同化作用が促進されて果実の色付きも促進できる。従って、この場合は、未熟成の果実を所定温度(5〜35℃、より好ましくは15〜30℃)、高湿度(90%以上、より好ましくは95%以上)に保ちながら、光を当てて果実を2〜3日保持して熟成させ、熟成が完了した後は、照明は消し、温度を例えば0〜15℃に下げて、湿度は90%以上(より好ましくは95%以上)に、又は例えば表1、表2に示すように保持して果実の長期保存を行うこともできる。また、野菜について熟成及び保存を行う場合は果実と略同一の条件で行うのがよい。
【0028】
本発明は前記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲での改良、仕様変更、数値変更をしてもよい。
また、果物や野菜を入れる部屋内に必要な場合は、部屋内を循環する空気に、エチレンガス等を少量入れてもよい。
【0029】
前記実施の形態においては、部屋12内にに空気導入口24から湿分を含む空気を入れ、排気口26、27から排出して循環させて空気を湿度90〜100%に加湿しているが、部屋内に加湿器を置いて部屋内の空気を加湿循環させ湿度を90〜100%とすることもできる。
【0030】
また、未成熟の果物を摘果して低温(0〜6℃)保存し、果物の出荷前に熟成して市場に出すようにすることもでき、これによって商品価格の下落を防げる。
【符号の説明】
【0031】
10:熟成設備、11:断熱材、12:部屋、13:空調機、14:篭、15:果物、16:台車、17:制御装置、19:壁材、20:天井材、21:密閉空間、22:扉、23:レール、24:空気導入口、26、27:排気口、28:車輪、29:床材、30:広口部、30a:底板部、31:空気冷却部、32:加湿部、33:ファン、35:温度計、36:湿度計、37:部屋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未熟成状態の果物を、5〜30℃、湿度90%以上の雰囲気に2日間以上保持して、前記果物の熟成を行うことを特徴とする果物の熟成方法。
【請求項2】
請求項1記載の果物の熟成方法において、前記果物は天災で落果が予想される未熟成の果物であることを特徴とする果物の熟成方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の果物の熟成方法において、前記果物はイチジク、モモ、カキ、パイナップル、ナシ、リンゴ、ビワ、ミカン、メロン、ブドウ、キウイのいずれか1からなることを特徴とする果実の熟成方法。
【請求項4】
未熟成の野菜を、5〜30℃、湿度90%以上の雰囲気に2日間以上保持して、前記野菜の熟成及び保存を行うことを特徴とする野菜の熟成方法。
【請求項5】
請求項4記載の野菜の熟成方法において、前記野菜は、天災によって販売不能となるイチゴ、スイカ、ナス、トマト、キュウリ、豆類、キャベツ、白菜のいずれか1であることを特徴とする野菜の熟成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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