説明

果菜類栽培装置及び果菜類栽培方法

【課題】収量・品質を向上でき、かつ、土壌交換などによる作業負担を軽減できる農作物の新規栽培手段の提供。
【解決手段】断面略逆V字状に形成された固形培地3が栽培ベッド2上に長手方向に配置された果菜類栽培装置A、及び、同様の果菜類栽培方法であり、固形培地3を断面略逆V字状に形成することにより、単位平面当たりの栽培面積を拡大でき、また、固形培地3の適度な保水性・通気性を実現できる。固形培地3で果菜類の栽培を行っても、従来の方法と同等の収量・品質を保持できるので、全体として、農作物の収穫量を向上できる。また、培地を傾斜させることにより、果菜類の果実の損傷を防ぐことができ、収穫物の品質を向上できる。加えて、固形培地を用いるため土壌交換が必要なく、軽量の固形培地を用いるため培地交換も容易である。従って、土壌交換・培地交換などの作業負担を大幅に軽減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断面略逆V字状に形成された固形培地が栽培ベッド上に長手方向に配置された果菜類栽培装置、及び、関連する果菜類栽培方法などに関連する。また、例えば、バーミキュライトを膨積させて成形することにより形成された略板状の固形培地用部材を切妻屋根形状に配設することにより、断面略逆V字状の固形培地を形成し、その固形培地を栽培ベッド上に長手方向に配置した果菜類栽培装置、及び、関連する果菜類栽培方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
農作物を自然の気象条件下で栽培する露地栽培に対し、温室・ビニールハウスなどで栽培する施設栽培が広く普及している。施設栽培には、天候の影響が少なく安定的な生産が可能である、収穫・出荷時期を調整できる、などの利点がある。
【0003】
栽培施設の施設内では、農作物の種類などに応じて、土耕栽培、養液土耕、養液栽培などが行われている。土耕栽培は、露地栽培と同様、施設内で耕土に施肥し農作物を育てる方法である。これに対し、養液土耕は、栽培ベッドに土壌を入れ、灌水と施肥を養液で行い、農作物を育てる方法である。また、養液栽培は、栽培ベッド内で土壌を用いずに、灌水と施肥を養液で行い、農作物を育てる方法である。
【0004】
このうち、養液栽培は、培地を用いない水耕栽培、培地を用いた固形培地耕などに分類される。
【0005】
水耕栽培は、土壌・固形培地などを用いずに、養液で栽培する方法である。一方、固形培地耕は、根の支持に土の代わりとなる固形培地を用いて、養液で栽培する方法である。固形培地には、一般的には、ロックウールなどが用いられている。
【0006】
果菜類を含め、ほとんどの農作物は露地栽培が可能である。しかし、生産性・経済性などの観点から、各方法による施設栽培が主な生産方法の一つとして実際に採用されている農作物も多い。
【0007】
例えば、イチゴやトマトなどの場合、栽培施設内での養液土耕が広く普及している。栽培施設内に架台を組んでその上に栽培ベッドを設置し(高設栽培)、栽培ベッド内に土壌を入れ、育苗などを移植し、栽培する。その他、水耕栽培、ロックウールを固形培地に用いた固形培地耕なども行われている。
【0008】
特許文献1には、培地にロックウール細粒綿を用いた果菜類の養液栽培装置が、特許文献2には、培養土の温度調整を簡単に行うことができる高設ベッド栽培装置が、それぞれ記載されている。本発明に関連する事項として、特許文献3には、膨積性粒子を含む人工土壌成形体が記載されている。
【特許文献1】特開2005−40056号公報
【特許文献2】特開2002−360083号公報
【特許文献3】特開2001−169658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、土壌・培地の交換を行わずに同一のものを使用し続けるとすると土壌・培地が劣化し、農作物の生産性が損なわれる。従って、定期的に土壌・培地を交換する作業が必要であり、従来、その作業負担が大きかった。
【0010】
そこで、本発明は、収量・品質を向上でき、かつ、土壌交換などによる作業負担を軽減できる農作物の新規栽培手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、軽量で適度の保水性と通気性を有する固形培地を用いて果菜類の栽培を試みた。その結果、従来の方法とほぼ同等の収量・品質のものを収穫できるという知見を得た。
【0012】
そこで、本発明では、この知見を応用し、断面略逆V字状に形成された固形培地が栽培ベッド上に長手方向に配置された果菜類栽培装置、及び、同様の果菜類栽培方法を提供する。
【0013】
固形培地を断面略逆V字状に形成することにより、単位平面当たりの栽培面積を拡大できる。上述の通り、固形培地で果菜類の栽培を行っても、従来の方法と同等の収量・品質を保持できるので、全体として、農作物の収穫量を向上できる。また、培地を傾斜させることにより、果菜類の果実の損傷を防ぐことができ、収穫物の品質を向上できる。
【0014】
加えて、本発明では、固形培地を用いるため土壌交換が必要なく、軽量の固形培地を用いるため培地交換も容易である。従って、土壌交換・培地交換などの作業負担を大幅に軽減できる。
【0015】
培地の底部が平面状に構成されていると、毛管力と重力のバランスにより培地底部の孔隙に一様に水が滞留して通気性を妨げ、その結果、根の活力が低下し、根が腐敗しやすくなる。それに対し、固形培地を断面略逆V字状に形成することにより、培地上部に供給された水は培地底部に移動し、水の滞留しない領域を培地上部に確保できる。これにより、通気性を有する領域を固形培地内に保持でき、根の腐敗を抑制できる。
【0016】
固形培地を断面略逆V字状に形成することにより、栽培ベッドと固形培地と間に内空部が形成される。この部位に温度調節用の空気供給管を設置する構成にしてもよい。これにより、温・冷水用の配管を設置して温度調節する従来の方法と比較して、培地の温度調節設備を簡易化、低コスト化できる。
【0017】
なお、この果菜類栽培手段では、上述の通り、固形培地を断面略逆V字状に形成することにより培地内の通気性が保持されるため、この内空部に温風又は冷風を供給することにより、培地全体を均一かつ迅速に加温・冷却できる。
【0018】
その他、適度の保水性を有する固形培地を用いるとともに、長手方向に延設され、固形培地に上方から灌水する灌水手段と、固形培地の頂部及びその近傍を被覆する浸水性シート部材とを備える構成にすることにより、灌水を効率よく行うことができ、余剰の培養液の発生を抑制できる。
【0019】
以上のように、本発明に係る果菜類栽培手段を採用することにより、施設栽培などにおける果菜類の収量・品質を向上でき、土壌交換などによる作業負担を軽減できる。また、簡易かつ軽量な構成であるため、設置・導入の作業も容易かつ低コストに行うことができる。さらに、温度調節設備の簡易化・低コスト化、及び、灌水の効率化により、管理・維持も容易かつ低コストに行うことができ、環境負荷も低くできる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、収量・品質を向上でき、土壌交換などによる作業負担を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<本発明に係る果菜類栽培装置について>
本発明に係る果菜類栽培装置は、断面略逆V字状に形成された固形培地が栽培ベッド上に長手方向に配置された構成を少なくとも有するものをすべて包含する。以下、図1〜図3を用いて説明する。
【0022】
図1は、本発明に係る果菜類栽培装置の例を示す外観斜視模式図、図2は、同断面模式図である。
【0023】
図1又は図2の果菜類栽培装置Aでは、脚部材11と支持部材12で組み立てた架台1上に設置された断面略U字状の栽培ベッド2と、栽培ベッド上に長手方向に設けられた排水用溝21と、栽培ベッド2上に長手方向に配置され、断面略逆V字状に形成された固形培地3と、長手方向に延設され、固形培地3に上方から灌水する灌水手段41と、固形培地3の頂部及びその近傍を被覆する浸水性シート部材42と、栽培ベッド2と固形培地3と間に形成された内空部51に設けられた温度調節用の空気供給管5と、固形培地3の傾斜面に形成された植穴32に移植された植物6と、を備える。
【0024】
架台1は、栽培ベッド2を支える台である。例えば、作業しやすい高さになるように架台1を組み立て、その上に栽培ベッド2を設置して、高設栽培を行うことにより、地面の高さで作業する場合と比較して作業負担を軽減でき、また、一部の病害虫による被害を予防できる。
【0025】
架台1は、目的・栽培ベッド2の形状などに基づいて、公知の材料・方法で組み立てることができる。例えば、合成樹脂製のパイプ・鋼管などの棒状部材を脚部材11及び支持部材12として用いて、連結部材などで適宜固定し、組み立ててもよい。
【0026】
栽培ベッド2は、植物を栽培する際のベッド(床)となる部分である。本発明では、固形培地3を栽培ベッド2上に配置するため、断面略U字状に形成されたものが好ましい。公知のものを用いることができ、材質などは特に限定されないが、例えば、発砲スチロールなどの発泡プラスチックが、軽量で断熱性に優れ、安価で衝撃吸収性もあり、成形しやすい点で好適である。
【0027】
本発明では、軽量で略逆V字状に形成された固形培地を用いるため、栽培ベッド内の全体に培地を入れる必要がない。また、略逆V字状に形成された固形培地3の内側に温度調節用の空気供給管5を設置できるため、培地の温度調節のために温水・冷水の配管を設置する必要がない。従って、従来のものと比較し、栽培ベッド2の形状を簡略化でき、また、栽培ベッド2を小型化できる。
【0028】
栽培ベッド2上の断面略中央部分に長手方向に排水用溝21を設けてもよい。これにより、栽培ベッド2上に余剰の養液が残存することを抑制できるため、栽培装置内の衛生状態を良好に保つことができ、病害虫の発生などを抑制できる。
【0029】
固形培地3は、植物6を移植する部位である。本発明では、軽量で適度の保水性を有し、かつ、断面略V字状に形成された固体培地3を栽培ベッド2上に長手方向に配置する。そして、例えば、固形培地3の両側の傾斜面に植穴32を形成し、該植穴32に植物の苗6などを移植する。
【0030】
固形培地3を断面略V字状に形成することにすることにより、培地を平面に形成する場合と比較して、単位平面当たりの培地の面積が拡大するため、植え付けることのできる苗の数量も増大できる。従って、培地単位面積当たりの収穫量を向上できる。
【0031】
また、例えば、イチゴなどのようにランナーを伸ばし、垂れ下がって結実する果菜類植物などの場合、平面状に形成された培地を用いると、ランナーが培地と接触し、傷みやすいという問題がある。それに対し、本発明のように、固形培地を断面略V字状に形成し、栽培面を傾斜させることにより、ランナーの痛みを軽減できるため、果実の収穫量と品質を向上できる。
【0032】
さらに、軽量で略逆V字状に形成された固形培地3を用いるため、従来通り栽培ベッド内の全体に培地を入れた場合と比較し、培地の容量を大きく軽減でき、かつ、培地全体の重量も大幅に軽減できる。
【0033】
加えて、従来通り栽培ベッド内の全体に培地を入れた場合と比較して、固形培地3を栽培ベッド2上に配置するだけで設置が完了するため、設置作業を簡易に行うことができ、短時間で完了できる。また、培地交換時にも、固形培地3を置き換えるだけでよいので、作業性を大幅に向上できる。
【0034】
その他、この栽培装置Aでは、固形培地3を断面略V字状に形成するため、培地上部に供給された水は培地底部に移動し、水の滞留しない領域を培地上部に確保できる。即ち、この形状にすることにより、培地3内に、底部の排水機能を有する領域と上部の通気性を有する領域を形成できるため、根の腐敗を抑制することができる。
【0035】
断面略逆V字状の固形培地3を、対となる略板状の固形培地用部材31を切妻屋根形状に配設することにより形成してもよい。
【0036】
例えば、対となる略板状の固形培地用部材31を対面させ、その上縁部が接し互いに立て掛けられた状態になるように両部材31を傾置させ、栽培ベッド2上で切妻屋根形状に配設することにより、固形培地3を略逆V字状に配置することができる。
【0037】
対となる固形培地用部材31を用いて断面略逆V字状の固形培地3を形成することにより、略板状の部材を用いることができるため、固形培地3(固形培地用部材31)の生産・運搬・設置・撤去などが容易になる。また、固形培地3を対の部材31で形成することにより、その一方を動かすだけで装置の内部(中空部51など)を視認できるため、装置Aの維持・点検・修繕などの作業が容易になるという利点がある。
【0038】
なお、固形培地3の形状は、略逆V字状に、即ち、両側に傾斜面を有する状態で形成されていればよく、厳密な形状、大きさ、長さなどによって、狭く限定されない。同様に、固形培地用部材31についても、略板状に形成されていればよく、厳密な形状、大きさ、長さなどによって、狭く限定されない。例えば、固形培地用部材31が、断面四角形状の場合のほか、断面六角形状(図1、図2参照)、断面八角形状などにして、切妻屋根形状に配設しやすいように成形されたものについても、広く本発明に包含される。
【0039】
断面略V字状に形成された固形培地の内角θは、30〜150度が好適であり、60〜120度がより好適であり、略90度(80〜100度)が最も好適である。即ち、栽培ベッド2と固形培地3との間の傾斜角度(固形培地の勾配)θ’が15〜75度が好適であり、30〜60度がより好適であり、略45度(40〜50度)が最も好適である。
【0040】
固形培地3(又は固形培地用部材31)の材質などは、軽量で適度の保水性を有するものであればよく、特に限定されない。
【0041】
例えば、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、ゼオライト、砂、鹿沼土、グラスビーズ、セラミックなどの岩石鉱物系の資材、ウレタン、ナイロン、メラミン樹脂、ポリアクリルアミドゲルなどの合成樹脂系の資材、木質チップ、わら、水苔、炭、木綿、紙、寒天などの生物由来の資材などを、固形形状が維持されるように一体成形されたものを用いることができる。一体成型する手段は特に限定されないが、例えば、公知手段により、型枠などに、上記資材を入れ、場合によっては公知のつなぎ剤(バインダー)を加え、加熱・圧着などさせることにより行う。
【0042】
重量は、特に限定されないが、乾燥状態で0.01〜1kg/Lのものが好適であり、0.01〜0.5kg/Lのものがより好適であり、0.01〜0.4kg/Lのものが最も好適である。
【0043】
保水性の指標として、有効水分量が100〜700L/mが好適であり、200〜600L/mがより好適であり、300〜500L/mが最も好適である。適度な保水性を有する固形培地3を用いることにより、植物6の生育を促進できるほか、供給する養液を少量化でき、余剰の培養液の発生を抑制できる。
【0044】
このような軽量で適度の保水性を有する固形培地3(又は固形培地用部材31)として、例えば、膨積性粒子を膨積させ、つなぎ剤を加えて保形した成形資材を用いてもよい。
【0045】
膨積性粒子としては、例えば、バーミキュライト、パーライト、発泡ポリスチレン、発泡ポリウレタンなどを用いることができる。特に、バーミキュライト及びパーライトは膨張率が高く、より好適である。
【0046】
また、膨積性粒子としてバーミキュライトやパーライトを用いた成形資材を固形培地3に用いる場合、固形培地3として使用した後、破砕するだけで、園芸用土壌などとして再利用できる。従って、産業廃棄物として処理する必要がなく、環境負荷を低くできる。
【0047】
膨積性粒子としてバーミキュライトを採用し、バーミキュライトを膨積させて成形することにより固形培地3を形成する場合、例えば、バーミキュライトに、つなぎ剤として耐水性ポリビニルアルコールを加え、型枠内で約800℃以上に加熱処理するか、又は、過酸化物を接触させることにより、製造することができる。
【0048】
加熱処理は、例えば、マイクロ波加熱により行うことができる。耐水性ポリビニルアルコールは、例えば、重合度1700以上で、けん化度98mol%以上のものを用いることができる。過酸化物としては、例えば、15%過酸化水素水を用いることができる。
【0049】
この成形資材は、適度の通気性・保水性を有し、植物の根の呼吸を妨げない。また、軽量で、設置時・運搬時などに撓んだり崩れたりしない程度の強度を有し、かつ、長期間形態を保持できる。従って、本発明の固形培地として、好適である。
【0050】
また、この成形資材を用いることにより、苗を移植するための植穴32を電動ドリルなどで任意の位置に簡易にあけることができ、かつ、苗を植穴32に差し込むだけで、苗の植付け作業を完了できる。従って、苗の植え付け作業を大幅に効率化できる。
【0051】
さらに、例えば、イチゴのようにランナーを伸ばす植物の場合、そのランナーをこの成形資材に接触させておくだけで、比較的簡易に発根し、培地に活着する。従って、イチゴなどの植物の株数の増加や収穫量の増大にも有効である。
【0052】
なお、この固形培地3(又は固形培地用部材31)は、複数の材料から成形されたものであってもよく、また、目的・用途などに応じて、肥料、各種資材、補強材などを含有していてもよい。
【0053】
灌水手段41は、固形培地3に上方から灌水する部位である。灌水手段41は、固形培地3の頂部付近の上方に、長手方向に延設され、固形培地3に養液を供給する。例えば、点滴チューブなどの公知手段を採用できる。
【0054】
浸水性シート部材42は、固形培地3の頂部及びその近傍を被覆するシート状部材である。養液は、灌水手段41から灌水され(図2中、符号X1)、浸水性シート部材42に供給される。浸水性シート部材42は、養液がシート全体に浸潤するまで保水しつつ、養液を固体培地3にゆっくりと供給する(図2中、符号X2)。固体培地3に到達した養液は、植物6の水分・養分として供給される。また、植物6に吸収されなかった一部の余剰液W1は、排水用溝21に到達し、装置Aの外に排出される。なお、余剰液W1は、循環させて再利用する装置構成にしてもよいし、そのまま廃棄水として処分する装置構成にしてもよい。
【0055】
灌水手段41と固形培地3との間に浸水性シート部材42を備える構成にすることにより、養液を固形培地3に均等に供給し、養液供給のむらを低減できるため、植物6の生育を促進できるほか、灌水を効率よく行うことができ、余剰の培養液の発生を抑制できる。
【0056】
浸水性シート部材42は、浸水性・保水性を有し、腐食しにくいシート状の部材であれば、特に限定されない。例えば、アラミド繊維、ガラス繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリオレフィン繊維、フェルトなどからなる織布・不織布、フェルトなどの不織布、アクリル繊維などからなる炭素繊維、炭素繊維を配合した不織布、ポリエステル綿などを採用できる。シートの厚さも特に限定されないが、例えば、0.5〜10mm程度が好適であり、0.5〜3mm程度がより好適である。
【0057】
空気供給管5(図2参照)は、固形培地3の内側から温風又は冷風を供給することにより、培地3の温度調節を行う部位である。
【0058】
従来法では、栽培ベッド内に培地を充填するため、空気による温度調節は難しかった。そのため、一般的には、温水・冷水の配管を設置し、温度調節を行っている。それに対し、本発明では、固形培地3を略逆V字状に形成することにより、栽培ベッド2と固形培地3と間に内空部51が形成されるため、この空間を利用することにより、空気供給管5を設置することができる。そのため、空気供給管5を用いて温度調節を行うことにより、培地の温度調節設備を低コスト化・簡素化できる。また、迅速に温度調節を行うことができ、培地内の温度管理自体も容易化できる。
【0059】
なお、上述の通り、固形培地3を断面略逆V字状に形成することにより培地内の通気性が保持されるため、この内空部51に温風又は冷風を供給することにより、培地全体を均一かつ迅速に加温・冷却できる。
【0060】
また、空気による温度調節を行うことができるため、例えば、栽培施設全体の温度調節手段と空気供給管5とを接続することにより、同一の温度調節手段を用いて、栽培施設全体と培地の両方の温度調節を兼用して行うことができる。従って、設備費用を安価に抑えることができる。
【0061】
さらに、固形培地3を対の固形培地用部材31で形成した場合、その一方を動かすだけで装置の内部を視認できるため、空気供給管5の維持・点検・修繕などの作業が容易である。
【0062】
その他、空気供給管5を介して、固体培地3へ内側(中空部51側)から空気を供給することにより、固形培地3を乾燥させることができる。従って、上述の灌水手段41と空気供給管5を利用することにより、固体培地3の水分量の調整を簡易に行うことができる。
【0063】
空気供給管5は、略筒状で固体培地3へ内側(中空部51側)から空気を供給するための複数の小孔を備える構成を有していればよく、公知の部材などを用いることができ、その材質などは特に限定されないが、例えば、一般的なポリ塩化ビニルフィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリエチレンフィルムなどの軟質合成樹脂フィルムを筒状に形成したものやプラスチックチューブなどを用いることができる。
【0064】
例えば、軟質合成樹脂フィルムなどを略筒状に形成し、ランダムに穴をあけ、中空部51に設置する。そして、筒状のフィルムの一端より空気を供給し、フィルムを膨らます。これにより、供給された空気はフィルム内を通過するとともに、一部が穴より漏れ出て、固形培地3に供給され(図2中、符号Y1)、残りの空気は他端から装置Aの外(栽培施設内)に排出される。
【0065】
この構成にすることにより、空気供給管5を簡易かつ安価に設置でき、空気供給管5の交換なども容易に行うことができる。
【0066】
植物6は、固形培地3に移植・定着した植物である。図中ではイチゴ61を記載したが、本発明はそれに狭く限定されない。
【0067】
即ち、本発明は、施設栽培において有効であるが、一般に露地栽培されている多くの植物に適用可能性があり、固形培地3に定着しうる植物(特に、園芸品種、花卉類などを含む農作物)全般を全て包含する。果実に傷をつけにくい構成であるという観点などから、果菜類が好適であり、特に、イチゴ、トマト、メロンなどがより好適である。
【0068】
図3は、本発明に係る温度調節システムの概略図である。
【0069】
図3の温度調節システムでは、栽培施設B内に、栽培ベッド2上に固形培地3が配置され、栽培ベッド2と固形培地3の間に空気供給管5が設けられた複数の果菜類栽培装置Aと、施設B内の温度調節を行う温度調節手段52と、温度調節手段52と空気供給管5とを接続する空気供給主管53と、温度調節手段52を制御する制御部54と、施設B内の温度を感知する施設内温度感知手段55と、固形培地3内の温度を感知する培地内温度感知手段56と、を備える。
【0070】
温度調節手段52は、栽培施設B内に設置され、暖房・冷房又はその両方を行うことができる。そして、温風又は冷風を送出することにより(符号Y2)、栽培施設B内の温度を調節する。
【0071】
一方、各栽培装置A内(固形培地3内)の温度調節を行うために、このシステムでは、温度調節手段52が空気供給主管53を介して空気供給管5と接続する。そして、温度調節手段52から送出された温風又は冷風を(符号Y3)、空気供給主管53を介して空気供給管5に供給し(符号Y4)、固形培地3へ供給して培地の温度調節を行う。一部は、空気供給管5の他端から排出されるようにしてもよい(Y5)。
【0072】
温度調節手段52が栽培施設B内全体と各栽培装置A(固形培地3)のどちらに温風又は冷風を供給するかについては、制御部54が制御し、空気の供給流路の切替を行う。
【0073】
例えば、施設内温度感知手段55により、栽培施設B内全体の温度が設定温度から外れた場合、その信号が制御部54へ伝達され、制御部54は、栽培施設B内へ温風又は冷風が供給されるように空気の供給流路の切替を指示するとともに、温度調節手段52に温風又は冷風の供給を指示する。これにより、栽培施設B内へ温風又は冷風が供給され(符号Y2)、栽培施設B内の温度が調節される。
【0074】
一方、培地内温度感知手段56により、各栽培装置Aにおける固形培地3内の温度が設定温度から外れた場合、その信号が制御部54へ伝達され、制御部54は、各栽培装置Aの固形培地3内へ温風又は冷風が供給されるように空気の供給流路の切替を指示するとともに、温度調節手段52に温風又は冷風の供給を指示する。これにより、空気供給主管53へ温風又は冷風が供給され(符号Y3)、空気供給管5へ温風又は冷風が供給され(符号Y4)、各栽培装置A(固形培地3)内の温度が調節される。
【0075】
施設内温度感知手段55及び培地内温度感知手段56は、例えば、公知の温度センサーなどを用いることができる。なお、本システムは、例えば、予めプログラムなどで記述して記憶させておくことにより、自動化することができる。
【0076】
<本発明に係る果菜類栽培方法について>
本発明に係る果菜類栽培方法は、断面略逆V字状に形成された固形培地を栽培ベッド上に長手方向に配置し、該固形培地上で果菜類の栽培を行う果菜類栽培方法をすべて包含する。
【0077】
上述の通り、断面略逆V字状に形成された固形培地上で果菜類の栽培を行うことにより、培地単位面積当たりの収穫量を向上でき、果実の収穫量と品質を向上できる。また、栽培ベッド内の全体に培地を入れた場合と比較し、培地の容量・重量を大きく軽減でき、設置作業・培地交換作業などにおける作業性も大幅に向上できる。固形培地の形状・内角・素材・構成などは、例えば、上記と同様のものを採用できる。
【0078】
例えば、上記と同様、対となる略板状の固形培地用部材を切妻屋根形状に配設することにより、断面略逆V字状の固形培地を形成してもよい。これにより、固形培地(固形培地用部材)の生産・運搬・設置・撤去などが容易になり、また、栽培装置の維持・点検・修繕などの作業が容易になるという利点がある。
【0079】
また、例えば、上記と同様、固形培地の上から灌水するとともに、浸水性シート部材で固形培地の頂部及びその近傍を被覆することにより、植物の生育を促進できるほか、灌水を効率よく行うことができ、余剰の培養液の発生を抑制できる。加えて、栽培ベッド上に長手方向の排水用溝を設けることにより、栽培装置内の衛生状態を良好に保つことができ、病害虫の発生などを抑制できる。
【0080】
さらに、例えば、上記と同様、固形培地を断面略逆V字状に形成することにより形成された中空部から固形培地へ空気を供給することにより、簡易かつ低コストに培地の温度調節を行うことができる。これにより、栽培施設全体と培地の両方の温度調節を兼用して行うことができるため、設備費用を安価に抑えることができる。
【0081】
その他、例えば、上記と同様、バーミキュライトを膨積させて成形することにより形成された略板状の固形培地用部材を切妻屋根形状に配設することにより、断面略逆V字状の固形培地を形成し、その固形培地を栽培ベッド上に長手方向に配置することにより、苗の植え付け作業を大幅に効率化できる、イチゴのようにランナーを伸ばす植物の場合、イチゴなどの株数を増加でき収穫量も増大できる、固形培地(固形培地用部材)の生産・運搬・設置・撤去などが容易になる、維持・点検・修繕などの作業が容易になる、といった有利性がある。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る果菜類栽培装置の例を示す外観斜視模式図。
【図2】本発明に係る果菜類栽培装置の例を示す断面模式図。
【図3】本発明に係る温度調節システムの概略図。
【符号の説明】
【0083】
1 架台
2 栽培ベッド
3 固形培地
31 固形培地用部材
32 植穴
41 潅水手段
42 浸水性シート
5 空気供給管
51 中空部
52 温度調節手段
53 空気供給主管
54 制御部
55 施設内温度感知手段
56 培地内温度感知手段
6 植物
A 果菜類栽培装置
B 栽培施設

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略逆V字状に形成された固形培地が栽培ベッド上に長手方向に配置された果菜類栽培装置。
【請求項2】
対となる略板状の固形培地用部材を切妻屋根形状に配設することにより、前記断面略逆V字状の固形培地が形成された請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項3】
前記栽培ベッド上に長手方向の排水用溝が設けられた請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項4】
長手方向に延設され、前記固形培地に上方から灌水する灌水手段と、
前記固形培地の頂部及びその近傍を被覆する浸水性シート部材と、を備えた請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項5】
前記栽培ベッドと前記固形培地と間に形成された内空部に、温度調節用の空気供給管が設置された請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項6】
前記断面略V字状に形成された固形培地の内角が略90度である請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項7】
前記固形培地が、バーミキュライトを膨積させて成形することにより形成されたものである請求項1記載の果菜類栽培装置。
【請求項8】
断面略逆V字状に形成された固形培地を栽培ベッド上に長手方向に配置し、該固形培地上で果菜類の栽培を行う果菜類栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−34430(P2013−34430A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173034(P2011−173034)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(591282205)島根県 (122)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】