説明

架橋タンパク質結晶処方物、およびその有機溶媒中での触媒としての使用

【課題】有機溶媒中で高活性を有する触媒の提供。
【解決手段】有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおける等量のタンパク質の活性よりも少なくとも約1.7倍大きいことにより特徴づけられる、架橋タンパク質の結晶処方物;有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおける等量のタンパク質の活性よりも約1.7倍から約90倍大きいことにより特徴づけられる、項目1に記載の架橋タンパク質の結晶処方物;および有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約4.3倍大きいことにより特徴づけられる、架橋タンパク質の結晶処方物など。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、選択された化学反応を行うための生体触媒作用技術の適用に関する。ある実施形態では、本発明は、架橋タンパク質結晶処方物、および有機溶媒を必要とする化学反応における、架橋タンパク質結晶処方物の触媒としての使用に関する。本発明はまた、架橋タンパク質結晶処方物の製造方法、および架橋タンパク質結晶処方物を用いて有機溶媒中での化学反応を最適化する方法を提供する。これらの方法は、産業規模の化学プロセスにおいて用いられる方法を含む。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
特殊な化学薬品および薬剤の産業規模の合成に、酵素などのタンパク質を触媒として使用することは、近年、多くの注目を浴びている[K. FaberおよびM. C. R. Franssen、Trends in Biochem. Tech.、11、pp. 461-70 (1993)]。酵素は、立体選択的、位置選択的および化学選択的に化学反応を達成するための有用な手段として認識されている。酵素は、温和な条件下で作用でき、処分しやすく、さらに、廃棄物の生成が最小であり、これらは、酵素の使用に関連するさらなる利点である。酵素はまた、有機溶媒中で触媒作用を起こすために用いられ、基質および生成物を可溶性にし、反応速度論および平衡を操作して、生成物の収率を増加する。
【0003】
酵素は、現在の非酵素技術に対して、合成の面で非常に大きな可能性を与えるものであるが、酵素には、安定性が乏しい、性能が変動しやすい、単離および精製が困難である、扱いにくい、コストがかかる、および反応時間が長い、といった欠点があるため、酵素の商業的な利用は制限されている。さらに、有機溶媒は酵素と適合性がない場合が多く、酵素が劣化または不活化されてしまう[A. M. Klibanov、「Asymmetric Transformations Catalyzed by Enzymes in Organic Solvents」、Acc. Chem. Res.、23、pp. 114-20 (1990)]。酵素が、実行可能な産業的触媒として機能するためには、酵素は、製造プロセスの実際の環境で余分な干渉を受けずに機能できなければならない。そのような環境は、極性および非極性有機溶媒、ならびに水性−有機溶媒混合物を含む。酵素の低活性および有機溶媒に対する嫌悪は、日常的な有機合成におけるこれらのタンパク質の幅広い使用を阻む障害となったままである。そのような合成が酵素による触媒作用を受ける場合であっても、重量比で基質よりも酵素をより多く使用するプロセスを見受けることはめずらしくない。例えば、R. Bovaraら、Tetrahedron: Asymmetry、2、pp. 931-38 (1991); Y. -F. Wangら、J. Am. Chem. Soc.、110、pp. 7200-05 (1988); A. Palomaerら、Chirality、5、pp. 320-28 (1993);およびV. Gotorら、Tetrahedron、47、pp. 9207-14 (1991)参照。
【0004】
これらの欠点を克服するように設計された2つの方法、即ち、酵素精製および酵素固定化は、これらの欠点のうちの幾つかに取り組んでいる。しかし、これらの方法は、有機溶媒において酵素の活性または安定性が損失されるという問題点については解決していない。固定化は、実際、コストの増加を招き、支持材料の添加により酵素の活性を弱めるため、上記問題点を悪化させる。酵素精製もまた、コストの増加を招き、ほとんどの場合、有機溶媒中での酵素活性を増加できない。例えば、有機溶媒中で精製リパーゼを合成する場合の潜在的な利点は、実現されていない[T. NishioおよびM. Kamimura、Agric. Biol. Chem.、52、pp. 2631-32 (1988); T. Yamaneら、Biotechnol. Bioeng.、36、pp. 1063-69 (1990)]。精製されたリパーゼにかかるコストは、粗製の対応物にかかるコストよりも高く、有機溶媒中での安定性および活性は、対応物よりも低い[R. Bovaraら、Biotechnol. Lett.、15、pp. 169-74 (1993); E. Wehtjeら、Biotechnol. Bioeng.、41、pp. 171-78 (1993); G. Ottolinaら、Biotechnol. Lett.、14、pp. 947-52 (1992)]。
【0005】
近年の研究により、有機溶媒中での酵素活性が、触媒粒子の水分含有量、大きさおよび形態と、酵素の微小環境とに密接に関係していることが立証されている[A. M. Klibanov、「Enzymatic Catalysis in Anhydrous Organic Solvents」、Trends in Biochem. Sci.、14、pp. 141-44 (1989)]。これらのパラメータは、酵素と炭水化物、有機緩衝剤または塩との凍結乾燥された複合体を調製することによって調節されている[K. DabulisおよびA. M. Klibanov、Biotechnol. Bioeng.、41、pp. 566-71 (1993); A. D. Blackwoodら、Biochim. Biophys. Acta、1206、pp. 161-65 (1994); Y. L. Khmelnitskyら 、J. Am. Chem. Soc.、116、pp. 2647-48 (1994)]。しかし、有機溶媒中での触媒作用のための酵素の調製に凍結乾燥が広く用いられているにもかかわらず、凍結乾燥による影響については完全には理解されていない。凍結乾燥は、場合によっては、酵素の著しい可逆的変性を引き起こし得る[上記のDabulisおよびKlibanov]。
【0006】
有機溶媒を必要とする生体内変化における低酵素活性の問題点に対する他のアプローチは、界面活性剤の使用を含んでいる。リパーゼの光架橋可能な樹脂プレポリマーへの固定化の前に添加された、または反応インキュベーション混合物に添加された非イオン性界面活性剤が、酵素活性を増加することが報告されている[B. NordviおよびH. Holmsen、「Effect of Polyhydroxy Compounds on the activity of Lipase from Rhizopus arrhizus in Organic Solvent」、Biocatalysis in Non-Conventional Media、J. Tramperら(編集)、pp. 355-61(1992)]。リパーゼ酵素の付与前または付与と同時に非イオン性界面活性剤(少なくとも1つの脂肪酸部分を含有する)を疎水性支持体に付与することにより調製された固定化リパーゼ酵素は、酵素転換プロセスにおいて、従来の固定化酵素と匹敵する活性を実証している[PCT特許出願第WO 94/28118号]。
【0007】
界面活性剤は、リパーゼの酵素活性を低減すると言われている[S. Bornemannら、「The Effects of Surfactants on Lipase-Catalysed Hydrolysis of Esters: Activities and Stereo Selectivity」、Biocatalysis、11、pp. 191-221 (1994)]。にもかかわらず、界面活性剤は、酵素水溶液と混合され、この混合物が脱水され、結果として得られた酵素調製物が、有機溶媒中で高い活性を有すると言われる触媒として用いられている[PCT特許出願第WO 95/17504号]。界面活性剤または脂質はまた、酵素をコーティングし、酵素を有機溶媒中で可溶性にするため、従って、化学反応速度を増加するために用いられている[M. Gotoら、「Design of Surfactants Suitable for Surfactant-Coated Enzymes as Catalysts in Organic Media」、J. Chem. Eng. Jpn.、26、pp. 109-11 (1993); N. Kamiyaら、「Surfactant-Coated Lipase Suitable for the Enzymatic Resolution of Methanol as a Biocatalyst in Organic Media」、Biotechnol. Prog.、11、pp. 270-75 (1995)]。この手順の後、酵素は、有機溶媒中で可溶性になる。有機物中で可溶性である酵素複合体はまた、V. M. ParadkarおよびJ. S. Dordick、J. Am. Chem. Soc.、116、pp. 5009-10 (1994)(プロテアーゼ)、およびY. Okahataら、J. Org. Chem.、60、pp. 2240-50 (1995)(リパーゼ)に記載されている。
【0008】
架橋酵素結晶(「CLECTM」)技術の出現は、上記欠点を解決するための唯一のアプローチを提供した[N. L. St. ClairおよびM. A. Navia、J. Am. Chem. Soc.、114、pp. 7314-16 (1992)]。架橋酵素結晶は、酵素(可溶性または固定化)の機能とは通常適合性のない環境において、活性を維持する。そのような環境は、高温および極度のpHに対する長時間の曝露を含む。さらに、有機溶媒および水性−有機溶媒混合物において、架橋酵素結晶は、可溶性の対応物または従来の態様で固定化された対応物をはるかに上回る安定性および活性を示す。非常に多くの生体触媒作用プロセスが、最適よりも下の(sub-optimal)条件下の酵素の安定性および活性に依存しているため、架橋酵素結晶は、産業、臨床および研究といった環境の酵素に有利に用いられる。このように、架橋酵素結晶は、有機合成反応のために幅広く適用可能な興味深い触媒として、生体触媒作用の分野において重要な前進を示すものである[R. A. Persichettiら、「Cross-Linked Enzyme Crystals (CLECs) of Thermolysin in the Synthesis of Peptides」、J. Am. Chem. Soc.、117、pp. 2732-37 (1995)、およびJ. J. Lalondeら、J. Am. Chem. Soc.、1117、pp. 6845-52 (1995)]。
【0009】
タンパク質触媒技術全体の進歩にもかかわらず、有機溶媒中で高活性を有する触媒が依然として必要とされている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によって、以下が提供される:
(1)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおける等量のタンパク質の活性よりも少なくとも約1.7倍大きいことにより特徴づけられる、架橋タンパク質の結晶処方物。
(2)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおける等量のタンパク質の活性よりも約1.7倍から約90倍大きいことにより特徴づけられる、項目1に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(3)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約4.3倍大きいことにより特徴づけられる、架橋タンパク質の結晶処方物。
(4)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質の比活性よりも約4〜約442倍大きいことにより特徴づけられる、項目3に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(5)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約50倍大きいことにより特徴づけられる、項目3に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(6)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約100倍大きいことにより特徴づけられる、項目3に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(7)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約200倍大きいことにより特徴づけられる、項目3に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(8)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における固体1ミリグラムあたりの比活性が、粗製形態または精製形態のいずれかにおけるタンパク質のそれよりも少なくとも約300倍大きいことにより特徴づけられる、項目3に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(9)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、界面活性剤を含まない架橋タンパク質結晶の活性よりも少なくとも約19倍大きいことにより特徴づけられる、架橋タンパク質の結晶処方物。
(10)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物における活性が、界面活性剤を含まない架橋タンパク質結晶の活性よりも約19倍から約100倍大きいことにより特徴づけられる、項目9に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(11)アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される界面活性剤を含む、項目1、3または9のいずれかに記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(12)前記界面活性剤が、前記処方物の約10〜約70重量%を含む、項目11に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(13)前記界面活性剤が、前記処方物の約25〜約45重量%を含む、項目12に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(14)前記アニオン性界面活性剤が、線状アルキルベンゼンスルホネート、α-オレフィンスルホネート、アルキルサルフェート、アルコールエトキシサルフェート、カルボン酸、硫酸エステルおよびアルカンスルホン酸からなる群から選択される、項目11に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(15)前記カチオン性界面活性剤が、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム、および四級アンモニウム化合物からなる群から選択される、項目11に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(16)前記非イオン性界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、ポリエチレンオキシド、フェノールアルコールのポリエチレンオキシド誘導体、および脂肪酸のポリエチレンオキシド誘導体からなる群から選択される、項目11に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(17)前記タンパク質結晶が微結晶である、項目1、3または9のいずれかに記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(18)前記タンパク質が酵素または抗体である、項目1、3または9のいずれかに記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(19)前記タンパク質が、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、およびオキシドレダクターゼからなる群から選択される酵素である、項目18に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(20)前記酵素がヒドロラーゼである、項目19に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(21)前記ヒドロラーゼが、サーモリシン、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ニトリラーゼ、ヒダントイナーゼ、プロテアーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、およびリゾチームからなる群から選択される、項目20に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(22)前記処方物が、凍結乾燥形態である、項目1、3または9のいずれかに記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(23)前記有機溶媒が、ジオール、ポリオール、ポリエーテル、水溶性ポリマー、およびその混合物からなる群から選択される、項目1、3または9のいずれかに記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(24)前記有機溶媒が、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ピリジン、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、項目23に記載の架橋タンパク質の結晶処方物。
(25)タンパク質を使用して有機溶媒または水性−有機溶媒混合物において選択された生成物を生成する方法であって、
(a)少なくとも1つの基質と、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物の存在下で該基質に作用する少なくとも1つのタンパク質を合わせる工程であって、該タンパク質が項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質の結晶処方物である、工程;および
(b)該タンパク質が該基質に作用することを可能にする条件下で工程(a)で生成した組合せ物を維持し、それにより該選択された生成物を生成する工程、
を含む方法。
(26)前記生成物が、キラル有機分子、ペプチド、炭水化物、および脂質からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(27)前記タンパク質が、酵素または抗体である、項目25に記載の方法。
(28)前記タンパク質が、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、およびオキシドレダクターゼからなる群から選択される酵素である、項目27に記載の方法。
(29)前記酵素がヒドロラーゼである、項目28に記載の方法。
(30) 前記ヒドロラーゼが、サーモリシン、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ニトリラーゼ、ヒダントイナーゼ、プロテアーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、およびリゾチームからなる群から選択される、項目29に記載の方法。
(31)前記有機溶媒が、ジオール、ポリオール、ポリエーテル、水溶性ポリマー、およびその混合物からなる群から選択される、項目25に記載の方法。
(32)前記有機溶媒が、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ピリジン、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、項目31に記載の方法。
(33)有機溶媒または混合された水性−有機溶媒混合物において架橋タンパク質結晶の活性を増大させる方法であって、
(a)該架橋タンパク質結晶を界面活性剤と合わせて組合せ物を生成する工程;および
(b)有機溶媒存在下で該架橋タンパク質結晶と界面活性剤との組合せ物を乾燥させて、架橋タンパク質結晶処方物を形成させる工程、を含む方法。
(34)工程(a)において、前記組合せ物が、約1:1と約1:5との間の架橋タンパク質結晶と界面活性剤の重量比を含む、項目33に記載の方法。
(35)工程(a)において、前記組合せ物が、約1:1と約1:2との間の架橋タンパク質結晶と界面活性剤の重量比を含む、項目34に記載の方法。
(36)工程(a)において、前記架橋タンパク質結晶および前記界面活性剤が、約5分と約24時間との間の期間合わせられる、項目33に記載の方法。
(37)工程(a)において、前記架橋タンパク質結晶および前記界面活性剤が、約30分と約24時間との間の期間合わせられる、項目36に記載の方法。
(38)前記界面活性剤が、工程(b)で生成した前記架橋タンパク質結晶処方物の約10重量%〜約70重量%を含む、項目33に記載の方法。
(39)前記界面活性剤が、工程(b)で生成した前記架橋タンパク質結晶処方物の約25重量%〜約45重量%を含む、項目38に記載の方法。
(40)前記界面活性剤が、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤からなる群から選択される、項目33に記載の方法。
(41)前記アニオン性界面活性剤が、線状アルキルベンゼンスルホネート、α-オレフィンスルホネート、アルキルサルフェート、アルコールエトキシサルフェート、カルボン酸、硫酸エステルおよびアルカンスルホン酸からなる群から選択される、項目40に記載の方法。
(42)前記カチオン性界面活性剤が、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム、および四級アンモニウム化合物からなる群から選択される、項目40に記載の方法。
(43)前記非イオン性界面活性剤が、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、ポリエチレンオキシド、フェノールアルコールのポリエチレンオキシド誘導体、および脂肪酸のポリエチレンオキシド誘導体からなる群から選択される、項目40に記載の方法。
(44)前記タンパク質が、酵素または抗体である、項目40に記載の方法。
(45)前記タンパク質が、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、およびオキシドレダクターゼからなる群から選択される酵素である、項目44に記載の方法。
(46)前記酵素がヒドロラーゼである、項目45に記載の方法。
(47)前記ヒドロラーゼが、サーモリシン、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ニトリラーゼ、ヒダントイナーゼ、プロテアーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、およびリゾチームからなる群から選択される、項目46に記載の方法。
(48)前記有機溶媒が、ジオール、ポリオール、ポリエーテル、水溶性ポリマー、およびその混合物からなる群から選択される、項目40に記載の方法。
(49)前記有機溶媒が、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、ピリジン、ジエチレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、ポリビニルピロリドン、およびそれらの混合物からなる群から選択される、項目48に記載の方法。
(50)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物を含むサンプルから物質を分離する方法であって、
(a)該サンプルと、項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質結晶処方物とを、該タンパク質が該サンプル中の任意の該物質と結合して複合体を形成することを可能にする条件下で接触させる工程;および
(b)該複合体を該サンプルから分離する工程、を含む方法。
(51)前記タンパク質が酵素または抗体である、項目50に記載の方法。
(52)前記架橋タンパク質結晶処方物が、固体支持体に結合している、項目50に記載の方法。
(53)前記固体支持体がアフィニティーカラムまたはビーズである、項目50に記載の方法。
(54)有機溶媒または水性−有機溶媒混合物の存在下でサンプルのクロマトグラフィーを実行するための方法であって、
(a)該サンプルと、項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質結晶処方物とを、該サンプルの成分が該タンパク質と結合することを可能にする条件下で、接触させる工程;および
(b)該成分を別々の画分で収集する工程、を含む方法。
(55)前記タンパク質が酵素または抗体である、項目54に記載の方法。
(56)前記架橋タンパク質結晶処方物がクロマトグラフィーカラムに充填される、項目54に記載の方法。
(57)前記クロマトグラフィーが、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、およびキラルクロマトグラフィーからなる群から選択される、項目54に記載の方法。
(58)サンプル中の目的の分析物を検出するバイオセンサーであって、
(a)項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質結晶処方物であって、目的の分析物が関与する反応において、該タンパク質が目的の分析物または反応物に作用する活性を有する、処方物;および
(b)該架橋タンパク質結晶処方物とサンプルとの間の接触を可能にする物質を含み、該サンプルが(1)該タンパク質が作用する該分析物、または(2)該分析物が関与する反応における反応物のいずれかを含有する、該架橋タンパク質結晶処方物を保持する手段、を含むバイオセンサー。
(59)前記分析物の存在または非存在下でシグナルを生成するシグナルトランスデューサーをさらに含む、項目58に記載のバイオセンサー。
(60)前記分析物または反応物に対するタンパク質の活性を検出するための手段をさらに含む、項目59に記載のバイオセンサー。
(61)前記分析物または反応物に対するタンパク質の活性を検出するための手段が、pH電極、光感知装置、熱感知装置、および電荷検出の手段からなる群から選択される、項目60に記載のバイオセンサー。
(62)前記シグナルトランスデューサーが、光学トランスデューサー、電気トランスデューサー、電磁気トランスデューサー、および化学トランスデューサーからなる群から選択される、項目59に記載のバイオセンサー。
(63)サンプルの成分を変換するための体外装置であって、
(a)項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質結晶処方物であって、該タンパク質が該成分が関与する反応において該成分または反応物に作用する活性を有する、処方物;および
(b)該架橋タンパク質結晶処方物とサンプルとの間の接触を可能にする物質を含み、該サンプルが(1)該タンパク質が作用する該成分、または(2)該成分が関与する反応における反応物のいずれかを含有する、該架橋タンパク質結晶処方物を保持する手段、を含む装置。
(64)前記保持手段が、前記架橋タンパク質結晶処方物が保持される多孔性物質、または前記架橋タンパク質処方物が存在する管を含む、項目63に記載の体外装置。
(65)触媒的有効量の項目1、3、または9のいずれか1つに記載の架橋タンパク質結晶処方物および薬学的に受容可能なキャリアを含む、反応性局所組成物。
(66)前記架橋タンパク質結晶処方物が、前記組成物の約0.1重量%〜約99重量%を含む、項目65に記載の反応性局所組成物。
(67)前記架橋タンパク質結晶処方物が、前記組成物の約1重量%〜約10重量%を含む、項目66に記載の反応性局所組成物。
【0011】
発明の開示
本発明は、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物を用いる化学反応における触媒として高活性および生産性を示す、架橋タンパク質結晶処方物を提供する。有利なことに、このレベルの活性および生産性は、可溶性すなわち従来の固相化タンパク質のそれよりも高いという効果を有する。本発明はまた、架橋タンパク質結晶処方物を製造する方法および、これを用いて、産業規模の生物学的触媒作用において用いられる方法を含む、有機溶媒中における化学反応を最適化するための方法を提供する。
【0012】
本発明の一実施態様において、界面活性剤および有機溶媒の存在下において架橋タンパク質結晶を乾燥させることによって架橋タンパク質結晶処方物を製造する。本発明の第2の実施態様において、界面活性剤および有機溶媒の存在下において架橋タンパク質結晶を凍結乾燥することによって架橋タンパク質結晶処方物を製造する。
【0013】

発明の詳細な説明
本明細書に記載される発明をより完全に理解するために、以下に詳細な説明を述べる。説明において、以下の用語を用いる:
有機溶媒−−非水性由来の任意の溶媒。
【0014】
水性−有機溶媒混合物−−n%の有機溶媒(nは1〜99)およびm%の水(mは100−n)を含有する混合物。
【0015】
有機溶媒混合物−−任意の割合の少なくとも2つの異なる有機溶媒の組み合わせ。
【0016】
架橋タンパク質結晶処方物−−架橋タンパク質結晶と、界面活性剤、塩、バッファ、炭水化物、またはポリマーなどの1つ以上の添加賦形剤との、スラリーではなく乾燥した自由流動粉体または凍結乾燥形態の混合物。
【0017】
触媒的に効果的な量−−本発明の架橋タンパク質結晶処方物の、塗布された領域をある時間にわたって保護、修復、または解毒するために効果的な量。
【0018】
反応性局所組成物−−塗布された領域をある時間にわたって保護、修復、または解毒するために効果的な組成物。
【0019】
本発明の架橋タンパク質結晶処方物は、多くの産業規模の化学合成手順において典型的な過酷な溶媒環境において高い活性を維持するため、特に有利である。それらの結晶性のため、本処方物の架橋タンパク質結晶成分架橋結晶体積全体にわたって均一性を達成する。この均一性は、結晶格子を構成するタンパク質分子間の分子間接触および化学的架橋によって、有機溶媒または混合された水性−有機溶媒中で交換される際にも、維持される。これらの溶媒中においても、タンパク質分子は互いに対して均一な距離を維持し、架橋タンパク質結晶処方物中において明瞭で安定な孔を形成することにより、基質が触媒に接触することならびに生成物の除去を容易にする。これらの架橋タンパク質結晶におて、化学的架橋によって固定された際の格子相互作用は、特に有機溶媒または混合された水性−有機溶媒中において、変性の防止のために特に重要である。結晶格子中の架橋タンパク質結晶および構成タンパク質は、有機溶媒中において単分散(monodisperse)を維持することにより、凝集の問題を回避する。本発明の架橋タンパク質結晶処方物の架橋タンパク質結晶成分のこれらの特徴は、本処方物の有機溶媒および水性−有機溶媒混合物中おける高レベルの活性に貢献する。
【0020】
有機溶媒中および水性−有機溶媒中における活性に加え、本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、タンパク質分解、極端な温度および極端なpHに対して特に耐性を有する。架橋タンパク質結晶の単位体積毎の活性は、従来の固相タンパク質または濃縮化溶解性タンパク質のそれよりも有意に高い。これは、処方物の架橋タンパク質結晶成分中のタンパク質濃度が理論上の限界に近いためである。
【0021】
これらの利点のため、本発明の架橋タンパク質結晶処方物は、反応効率に大きな改善を可能にする。本発明の架橋タンパク質結晶処方物は、過酷な条件または高スループットを要求する状況における収量を改善することにより、プロセス化学者が反応条件を余り気にせずに収量を最大にすることに集中することを可能にする。
【0022】
本発明の架橋タンパク質結晶処方物のタンパク質成分は、例えば酵素または抗体などを含む、任意のタンパク質であり得る。
【0023】
本発明の一実施態様による架橋タンパク質結晶処方物は、等量の粗製形態(crude)または精製形態(pure)の前記タンパク質の有する活性の少なくとも約1.7倍大きい有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中における活性によって、特徴付けられる。本発明の別の実施態様において、本処方物の活性レベルは、等量の粗製形態または精製形態の前記タンパク質の有する活性の約1.7倍から約90倍大きい。
【0024】
本発明はまた、粗製形態または精製形態の前記タンパク質の有するよりも少なくとも4.3倍大きい、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中における固体のミリグラム当たりの比活性によって特徴付けられる、架橋タンパク質結晶処方物を包含する。本発明による架橋タンパク質結晶処方物はまた、粗製形態または精製形態の前記タンパク質の有するよりも約4倍から約442倍大きい、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中における固体のミリグラム当たりの比活性によって特徴付けられ得る。そして、本発明の架橋タンパク質結晶処方物はまた、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中において、少なくとも約50倍大きい活性、少なくとも約100倍大きい活性、少なくとも約200倍大きい活性、および少なくとも約300倍大きい活性からなる群より選択される粗製形態または精製形態の前記タンパク質の有するよりも大きいレベルの活性を有する、固体のミリグラム当たりの比活性によって特徴付けられ得る。
【0025】
本発明の別の実施態様において、架橋タンパク質結晶処方物は、界面活性剤を含有しない架橋タンパク質結晶の活性より少なくとも約19倍大きい有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中における活性によって、特徴付けられる。架橋タンパク質結晶処方物はまた、界面活性剤を含有しない架橋タンパク質結晶の活性より約19倍から約100倍大きい有機溶媒または水性−有機溶媒混合物中における活性によって、特徴付けられ得る。
【0026】
上述の全ての架橋タンパク質結晶処方物において、説明した活性レベルは、有機溶媒または水性−有機溶媒、あるいはその両方の溶媒中において示され得る。そのような活性レベルは、架橋酵素結晶処方物を含む全てのタイプの架橋タンパク質結晶処方物を特徴付けるものである。
【0027】
本発明の架橋タンパク質結晶処方物は、多くの化学プロセスのうちいずれにも用いられ得る。そのようなプロセスは、特殊化学薬品および薬品の有機合成、そのような生成物の製造のための中間生成物の合成、キラル合成および光学的に純粋な薬品および特殊化学薬品の分割(resolution)などの、産業規模および研究規模のプロセスを含む。酵素変換プロセスは、酸化、還元、付加、加水分解、除去、転位、エステル化、および立体選択的、立体特異的および位置選択的反応を含む、不斉変換を含む。これらの反応を用いて製造され得る生成物は、キラル有機分子、ペプチド、炭水化物、脂質およびその他の化学種を含む。
【0028】
上記の反応のいずれかを実施するにあたって、特定の反応に選択される有機溶媒または水性−有機溶媒が、架橋タンパク質結晶で構成されるタンパク質、および架橋タンパク質結晶を安定させるために用いられる界面活性剤と適合するものでなければならないことは、当業者には言うまでもない。有機溶媒は、ジオール類、ポリオール類、ポリエーテル類、水溶性ポリマー類、およびその混合物からなる群から選択され得る。有機溶媒の例としては、トルエン、オクタン、テトラヒドロフラン、アセトン、およびピリジンが挙げられる。さらに、水混和性または水非混和性溶媒などの疎水性または極性有機溶媒、ジエチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリ(エチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ジメチル−2,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、酒石酸ジメチル、ポリ(エチレングリコール)のモノアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)のジアルキルエーテル、およびポリビニルピロリドン、またはその混合物が例として挙げられる。
【0029】
1つの実施態様によると、本発明は、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物において選択された生成物を生成する方法、即ち、少なくとも1つの基質と、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物の存在下で基質に作用する少なくとも1つのタンパク質とを組合せ(タンパク質は、架橋タンパク質結晶処方物である)、この組合せ物を、タンパク質が基質に作用することを可能にする条件下で維持し、それによって選択された生成物を生成する方法を含む。このような方法で生成され得る生成物には、例えば、キラル有機分子、ペプチド、炭水化物、および脂質が含まれる。
【0030】
本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、処方物が目的の物質または分子に結合する能力によって、目的の物質または分子を試料から精製または分離する方法においても用いられ得る。このような分離方法は、タンパク質が試料中の目的の物質または分子と結合し、複合体を形成することを可能にする条件下で、架橋結晶処方物を任意の手段によって目的の物質または分子と接触させる工程と、複合体を試料から分離する工程とを含む。このような方法では、架橋タンパク質結晶処方物は、固体支持体に結合、カラムに充填、またはビーズ上に積層され得る。
【0031】
本発明の1つの実施態様によると、架橋タンパク質結晶処方物は、試料(例えば、流体)中の目的の分析物を検出するためのバイオセンサの構成要素として使用され得る。このようなバイオセンサは、(a)架橋タンパク質結晶処方物であって、タンパク質が、目的の分析物または目的の分析物が関与する反応における反応物に作用する能力を有する、架橋タンパク質結晶処方物と、(b)架橋タンパク質結晶処方物と試料との間の接触を可能にする材料を含む、架橋タンパク質結晶処方物のための保持手段であって、試料が、(1)タンパク質が作用する分析物または(2)分析物が関与する反応における反応物のいずれかを含む、架橋タンパク質結晶処方物のための保持手段と、必要に応じて、(c)分析物の存在または不在下でシグナルを生成するシグナルトランスデューサとを含む。タンパク質の分析物または反応物に対する活性を検出する手段は、pH電極、光感知装置、熱感知装置、および電荷検出手段からなる群から選択され得る。シグナルトランスデューサは、光学トランスデューサ、電気トランスデューサ、電磁トランスデューサ、および化学トランスデューサからなる群から選択され得る。
【0032】
本発明の他の実施態様において、架橋タンパク質結晶処方物が、試料の構成成分を変更するため、または流体試料などの試料から構成要素を選択的に分解または除去するために、体外装置において用いられ得る。このような体外装置は、(a)架橋タンパク質結晶処方物であって、タンパク質が、構成要素または構成要素が関与する反応における反応物に対して作用する活性を有する、架橋タンパク質結晶処方物と、(b)架橋タンパク質結晶処方物と試料との間の接触を可能にする材料を含む、架橋タンパク質結晶処方物のための保持手段であって、試料が、(1)タンパク質が作用する構成要素または(2)構成要素が関与する反応における反応物のいずれかを含む、架橋タンパク質結晶処方物のための保持手段とを有する。このような体外装置において、保持手段は、架橋タンパク質結晶処方物が保持される多孔性材料、または架橋タンパク質結晶処方物が存在する管を含み得る。
【0033】
従って、本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、バイオセンサおよび体外装置において、従来の可溶性または固定タンパク質の代わりに、うまく利用され得る。本発明による架橋タンパク質結晶処方物をこのように用いることによって、従来の可溶性または固定タンパク質に基づくバイオセンサおよび体外装置よりも高い感度、容量生産性、およびスループットで特徴づけられるバイオセンサおよび体外装置が得られる。
【0034】
あるいは、本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、クロマトグラフィー技術において用いられ得る。このような技術には、サイズ排除クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、およびキラルクロマトグラフィーが含まれる。試料のクロマトグラフィーは、試料の構成要素がタンパク質に結合し、複合体を形成することを可能にする条件下で、試料を架橋タンパク質結晶処方物と接触させ、構成要素を個別の画分として収集することによって、有機溶媒または水性−有機溶媒混合物の存在下で実施され得る。架橋タンパク質結晶処方物は、充填クロマトグラフィーカラムに収容され得る。
【0035】
本発明の他の実施態様によると、架橋結晶タンパク質処方物は、気相反応用触媒変換器などの気相反応器において用いられ得る。例えば、気体は、気体を分解する架橋タンパク質処方物で充填されたカラムに通され得る。
【0036】
本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、様々な環境にも応用され得る。架橋タンパク質結晶処方物は、従来の可溶性または固定タンパク質の代わりに、洗浄オイルスリックなどの環境的な目的で使用され得る。例えば、1つ以上の有機溶媒、次いで架橋タンパク質結晶処方物が、オイルスリックに加えられ得る。
【0037】
本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、空気濾過に関連した空気清浄にも用いられ得る。例えば、空気は、架橋タンパク質処方物で充填されたカラムを通され、任意の不要な不純物は分解および濾別され得る。
【0038】
本発明はまた、架橋タンパク質結晶の活性を有機溶媒または水性−有機溶媒混合物において増加させる方法であって、架橋タンパク質結晶と界面活性剤とを組み合わせて、組合せ物を生成し、架橋タンパク質結晶と界面活性剤との組合せ物を有機溶媒の存在下で乾燥させて架橋タンパク質結晶処方物を形成する工程を包含する方法を含む。
【0039】
あるいは、本発明による架橋タンパク質結晶処方物は、皮膚保護または解毒のために、局部クリームおよびローションにおける成分として使用され得る。架橋タンパク質結晶処方物は、化粧品の抗酸化剤としても使用される。
【0040】
本発明によれば、ヒトおよび他の哺乳動物を含む任意の個体は、触媒有効量の架橋タンパク質結晶処方物を用いて、それが付与された領域を保護、補修、または解毒するのに十分な期間、薬学的に受容可能な様式で処置され得る。例えば、架橋タンパク質結晶処方物は、典型的には、任意の上皮表面に局所的に投与され得る。このような上皮表面は、口、眼、耳、鼻の表面を含む。
【0041】
この架橋タンパク質結晶処方物は、反応性局所組成物を提供するための局所投与に使用される従来の種々のデポ(depot)形態であり得る。これらは、例えば、半固体および液体の投薬形態(例えば、液体溶液または懸濁液、ゲル、クリーム、エマルジョン、ローション、スラリー、粉末、スプレー、発泡体、ペースト、軟膏、膏薬(salve)、香膏(balm)、および液滴)を含む。架橋タンパク質結晶処方物を含む組成物はまた、任意の従来の薬学的に受容可能なキャリアまたはアジュバントも含み得る。これらのキャリアおよびアジュバントは、例えば、以下を含む:イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、リン酸塩のような緩衝性物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物性脂肪酸の部分グリセライド混合物、水、硫酸プロタミンのような塩もしくは電解質、リン酸水素二ナトリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩、コロイドシリカ、マグネシウム、トリシリケート、セルロースベースの物質、およびポリエチレングリコール。局所またはゲルベース形態のアジュバントは、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリレート、ポリオキシエチレン(polyoxyethylele)-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール、および羊毛脂アルコールを含み得る。
【0042】
あるいは、架橋タンパク質結晶処方物は、包帯剤(dressing)、スポンジ、細片(strip)、プラスター、バンテージ、パッチ、またはグローブからなる群から選択されるヘルスケアデバイスに処方され得る。
【0043】
投与および投薬レジメンの最も効果的な態様は、所望される効果、それ以前の治療(もしあれば)、個体の健康状態、および架橋タンパク質結晶処方物に対する応答、ならびに、処置する医者の判断に依存する。架橋タンパク質結晶処方物は、任意の薬学的に受容可能な局所的投薬形態で、一回で、または一連の処置にわたって投与され得る。
【0044】
単回投薬形態を行うためにキャリア物質と組み合わされ得る架橋タンパク質結晶処方物の量は、局所投与、処方物、用量レベル、または投薬頻度(dose frequency)の特定の態様に依存して変化する。典型的な調製物は、約0.1%〜約99%の間、好ましくは、約1%〜約10%の間の架橋タンパク質結晶処方物を含む(w/w)。
【0045】
個体の症状が改善すると、維持用量(maintenance dose)の架橋タンパク質結晶処方物が、必要ならば投与され得る。続いて、投薬量または投与頻度、あるいはその両方が、症候の関数として、改善された症状が保持されるレベルになるまで減少され得る。症候が所望のレベルにまで緩和されたとき、処置をやめるべきである。しかし、個体は、症候が再発する場合、長期間にわたる断続的な処置を必要とすることがある。
【0046】
本発明によれば、架橋タンパク質結晶処方物の調製は、タンパク質の結晶化および架橋の工程を含む。これらの工程は、本明細書中に参考として援用されるPCT特許出願WO92/02617に記載された通りに行われ得る。あるいは、架橋タンパク質結晶処方物は、架橋酵素結晶処方物について以下に例示される通りに調製され得る。
【0047】

架橋酵素結晶処方物の調製−酵素結晶化
酵素の結晶は、水溶液または水溶液含有有機溶媒からの制御された酵素の沈殿により成長させる。制御されるべき条件は、例えば、溶媒の蒸発速度、適切な共存溶質および緩衝剤の存在、pH、ならびに温度を含む。タンパク質の結晶化に影響を及ぼす種々のファクターの包括的な概説は、McPherson, Methods Enzymol., 114, pp. 112-20 (1985)により発行されている。
【0048】
McPhersonおよびGilliland, J. Crystal Growth, 90, pp. 51-59 (1988)は、結晶化されているタンパク質および核酸の包括的なリスト、およびそれらが結晶化された条件を収集している。結晶および結晶化方法の概要、ならびに解明されたタンパク質および核酸結晶構造の座標の収容場所(repository)は、Brookhaven National LaboratoryのProtein Data Bank[Bernsteinら, J. Mol. Biol., 112, pp. 535-42 (1977)]により保存される。これらの参考文献は、適切な架橋酵素結晶の形成の前置き(prelude)として、以前に結晶化された酵素の結晶化に必要な条件を決定するために使用され得、そして他の酵素についての結晶化ストラテジーを導き得る。あるいは、知的な試行錯誤調査ストラテジーは、たいていの場合には、多くの酵素についての適切な結晶化条件を生じ得るが、ただし、純度の受容可能なレベルはそれらについて達成され得る[例えば、C.W. Carter, Jr. および C.W. Cater, J. Biol. Chem., 254, pp. 12219-23 (1979)を参照のこと]。
【0049】
結晶化して、本発明の処方物の架橋酵素結晶成分を形成し得る酵素は、ヒドロラーゼ、イソメラーゼ、リアーゼ、リガーゼ、トランスフェラーゼ、およびオキシドレダクターゼを含む。ヒドロラーゼの例として、サーモリシン、エラスターゼ、エステラーゼ、リパーゼ、ニトリラーゼ、ヒダントイナーゼ、アスパラギナーゼ、ウレアーゼ、サブチリシン、ならびに他のプロテアーゼおよびリゾチームが挙げられる。リアーゼの例として、アルドラーゼおよびヒドロキシニトリルリアーゼが挙げられる。オキシドレダクターゼの例として、グルコースオキシダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、および他のデヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0050】
X線回折分析に必要とされる大きな単一結晶は、本発明の架橋酵素結晶処方物での使用には必要でない。微結晶シャワー(microcrystalline shower)が適切である。
【0051】
一般的に、結晶は、結晶化されるべき酵素を適切な水性溶媒または適切な沈殿剤(例えば、塩または有機物)を含む水性溶媒と合わせることにより生じる。溶媒は、結晶化の誘発に適し、かつ酵素活性および安定性を維持するのに受容可能な、実験的に決定された温度でタンパク質と合わせられる。溶媒は、2価カチオンのような共存溶質、補因子、またはカオトロープ(chaotrope)、およびpHを調製するための緩衝性種を必要に応じて含み得る。共存溶質の必要性およびその濃度は、結晶化を促進するために実験的に決定される。工業スケールのプロセスでは、結晶化を導く制御された沈殿は、タンパク質、沈殿剤、共存溶質、および緩衝剤(必要に応じて)をバッチプロセスにおいて単純に組み合わせることにより、最良に行われ得る。あるいは、実験室での結晶化方法(例えば、透析または蒸発拡散(vapor diffusion))もまた採用され得る。McPherson、前出、およびGilliland、前出は、結晶化の文献の概説において、適切な条件の包括的なリストを含む。時に、架橋剤と結晶化媒体との間の不適合性は、結晶を、より適切な溶媒系に、変換することを必要とし得る。
【0052】
結晶化条件が既に記載されている多くの酵素は、工業的プロセスおよび実験室化学プロセスにおいて実用的な触媒として、かなりの潜在性を有し、そして本発明の架橋酵素結晶処方物を調製するために使用され得る。しかし、上記の参考文献のほとんどに報告される条件は、たいていの場合、いくつかの大きな回折品質の結晶を生じるように最適化されていたことに留意すべきである。従って、架橋酵素結晶を作製する際に使用されるより小さな結晶を大規模製造するための高収率プロセスを提供するために、これらの条件のある程度の調整が必要であり得ることを、当業者は理解する。
【0053】

架橋酵素結晶処方物の調製−酵素結晶の架橋
適切な媒体中で一旦酵素結晶が成長すると、これらは架橋し得る。架橋の結果、
結晶の構成要素の酵素分子間に共有結合が導入されることにより、結晶格子の安定性が得られる。このことは、そうでなければ、結晶格子の存在と不適合、またはインタクトなタンパク質の存在とさえ不適合であり得る別の反応環境に酵素を移すことを可能にする。架橋は、広範囲の多官能性試薬(二官能性試薬を含む)により達成され得る。本発明の好ましい実施態様によれば、架橋剤はグルタルアルデヒドである。他の利用可能な架橋試薬を代表的に列挙するために、例えば、Pierce Chemical Companyの1990カタログを参照のこと。
【0054】
グルタルアルデヒドを用いる架橋は、主に、結晶格子における酵素分子内または酵素分子間のリジンアミノ酸残基間に強固な共有結合を形成する。架橋相互作用は、酵素分子を有効に不溶性とするか、または微結晶粒子(好ましくは、平均で10-1mm以下の長さを有する)中に有効に高分子を固定化して、結晶中の構成要素酵素分子が溶液中に戻ることを防ぐ。
【0055】

架橋酵素結晶処方物の調製−界面活性剤への架橋酵素結晶の曝露
上記のように調製された架橋酵素結晶は、界面活性剤と接触することにより、有機溶媒および水性−有機溶媒混合物中での反応のための酵素結晶処方物を調製するために使用され得る。架橋酵素結晶を界面活性剤に曝露し、次いで有機溶媒の存在下で乾燥した後、得られた架橋酵素結晶処方物は、有機溶媒および水性−有機溶媒混合物中で特に活性でありかつ安定である。架橋酵素結晶処方物およびその製造に関する以下の詳細な記載は、架橋タンパク質結晶処方物に等しく適用可能である。
【0056】
本発明の架橋酵素結晶処方物を調製するのに有用な界面活性剤は、カチオン性、アニオン性、非イオン性、または両親媒性のもの、あるいはそれらの混合物を含む。好ましい界面活性剤は、架橋酵素結晶組成物を調製するために使用される架橋酵素結晶の特定の酵素成分に依存する。これは、特定の酵素により触媒される反応に基づくルーティンなスクリーニング手順を行うことにより決定され得る。このようなスクリーニング手順は当業者に周知である。代表的なスクリーニング手順を実施例6〜8に記載する。
【0057】
有用なカチオン性界面活性剤の例は、アミン、アミン塩、スルホニウム、ホスホニウム、および第4級アンモニウム化合物を含む。このようなカチオン性界面活性剤の具体例として以下が挙げられる:
メチルトリオクチルアンモニウムクロライド(Aliquat 336)
N,N',N'-ポリオキシエチレン(10)-N-タロウ(tallow)-1,3-ジアミノプロパン(EDT-20、' PEG-10 tallow)。
【0058】
有用なアニオン性界面活性剤は、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、α-オレフィンスルホネート、アルキルスルフェート、アルコールエトキシスルフェート、カルボン酸、硫酸エステル、およびアルカンスルホン酸を含む。アニオン性界面活性剤の例として、以下が挙げられる:
Triton QS-30(アニオン性)
Aerosol 22
ジオクチルスルホスクシネート(AOT)
アルキル硫酸ナトリウム(Alkyl Sodium Sulfate)(Niaproof)
Type-4
Type-8
アルキル(C9-C13)硫酸ナトリウム(TEEPOL HB7)。
【0059】
安定化のために有用な非イオン性界面活性剤は、ノニルフェノールエトキシレート、アルコールエトキシレート、ソルビタントリオレエート、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、ポリエチレンオキシド、またはフェノールアルコールもしくは脂肪酸のポリエチレンエチレンオキシド誘導体を含む。非イオン性界面活性剤の例として、以下が挙げられる:
ポリオキシエチレンエーテル:
4ラウリルエーテル(Brij 30)
23ラウリルエーテル(Brij 35)
オクチルフェノキシポリエトキシエタノール(Tritons):
Tx-15
Tx-100
Tx-114
Tx-405
DF-16
N-57
DF-12
CF-10
CF-54
ポリオキシエチレンソルビタン:
モノラウレート(Tween 20)
ソルビタン:
セスキオレエート(Arlacel 83)
トリオレエート(Span 85)
ポリグリコールエーテル(Tergitol)
NP-4型
NP-9型
NP-35型
TMN-10型
15-S-3型
TMN-6型(2,6,8,トリメチル-4-ノニルオキシポリエチレンオキシエタノール)
15-S-40型。
【0060】
架橋酵素結晶処方物を調製するためには、一般的に、界面活性剤は、界面活性剤が架橋酵素結晶と平衡化し得るのに十分な量および/または架橋酵素結晶に浸透し得るのに十分な量で、架橋酵素結晶含有溶液に添加されるべきである。このような量は、界面活性剤に対する架橋酵素結晶の重量比を約1:1〜約1:5の間(好ましくは、約1:1〜約1:2の間)で与える量である。架橋酵素結晶を、約5分〜約24時間の間の時間(好ましくは、約30分〜約24時間の間の時間)、界面活性剤と接触させる。接触の後、架橋酵素結晶/界面活性剤の組み合わせ物は、有機溶媒の存在下で乾燥されて、架橋酵素結晶処方物を形成し得る。
【0061】
有機溶媒の選択および乾燥時間の長さは、特定の架橋酵素結晶、および架橋酵素結晶処方物を生じるために使用される特定の界面活性剤に依存する。それにも関わらず、溶媒および乾燥時間は、処方物が有機溶媒中または水性−有機溶媒混合物中で最高の活性および安定性を有し得る水含量により特徴付けられる架橋酵素結晶処方物を提供するものであるべきである。本発明の1つの実施態様によれば、乾燥時間は約5分〜約24時間の間、好ましくは、約30分〜約24時間の間であり得る。乾燥工程に使用される有機溶媒は、総混合物の約10重量%〜約90重量%の間、好ましくは、総混合物の約40重量%〜約80重量%の間の量で存在し得る。
【0062】
あるいは、架橋酵素結晶/界面活性剤の組み合わせ物は、有機溶媒の存在下で凍結乾燥され得る。凍結乾燥は、約30分〜約18時間の間の時間で行われ得る。
【0063】
得られた架橋酵素結晶処方物は、最終処方物の重量で、約10重量%〜約70重量%の間の界面活性剤、好ましくは、最終処方物の重量で、約25重量%〜約45重量%の界面活性剤を含むべきである。
【0064】
本発明をより理解できるように、以下の実施例が記載される。これらの実施例は、例示のみを目的とし、本発明の範囲をいかようにも制限するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0065】
実施例1−架橋LPS結晶処方物の調製
15kgの粗Pseudomonascepaciaリパーゼ(PS 30リパーゼ−Amano)(「LPS」)のスラリーを100Lの蒸留脱イオン水に溶解し、そしてさらに蒸留脱イオン水を添加してその容量を200Lにした。この懸濁液をAir Drive Lightningミキサー中で室温で2時間混ぜ、そして次に0.5μフィルターを通して濾過して、セライトを除去した。次にこの混合物を限外濾過し、そして3K中空糸フィルター膜カートリッジを用いて10L(121.4 g)まで濃縮した。固体酢酸カルシウムをCa(CH3COO)2濃度20mMまで添加した。必要に応じて濃酢酸でpHを5.5に調節した。混合物を温度30℃まで加熱して維持した。硫酸マグネシウムを濃度0.2Mまで添加し、次に濃度1%までグルコポン(glucopon)を添加した。次に最終濃度23%までイソプロパノールを添加した。得られた溶液を30℃で30分間混合し、次に2時間かけて30℃から12℃まで冷却した。次に16時間、結晶化を進行させた。
【0066】
結晶を沈殿させ、そして末端に10mlのピペットを備えたタイゴン(tygon)管を有する蠕動ポンプを用いて、可溶性タンパク質を除去した。新鮮な結晶化溶液(23%イソプロピルアルコール、0.2M MgSO4、1%グルコポン、20mM Ca(CH3COO)2、pH5.5)を添加して、タンパク質濃度を30mg/mlにした(1mg/ml溶液のO.D.280=1.0、波長280で分光光度計を用いて測定)。結晶収量は約120gであった。次に結晶溶液を以下のように架橋させた。
【0067】
1容量の50%グルタルアルデヒドと4容量の0.1M Tris(pH9.25)を混合して、2リットルの架橋剤のアリコートを調製した。次に、酵素1グラム当たり13.5mlの架橋剤を用いて架橋を行った。より詳細には、次に計2時間の添加時間をかけて架橋剤の0.4mlアリコートを酵素スラリー1ml(30mg/ml)に添加した。架橋のために混合物を室温で8時間静置した。架橋した結晶をフィルタープレス中で結晶スラリーの約1.5容量の緩衝液(10mM Tris、10mM CaCl2、pH7.0)でよく洗浄することによって、架橋反応を停止させた。
【0068】
上記で調製した架橋LPS酵素結晶の30グラムアリコートを、340mlの保存緩衝液(10mM Tris、10mM CaCl2、pH7.0)中に懸濁させ、そしてこの混合物を焼結ガラス漏斗(多孔度約10〜20μ)中に室温で注いだ。以下記載するように、この酵素結晶を界面活性剤EDT-20;PEG-10タロウ(tallow)アミノプロピルアミンに暴露した。この界面活性剤は下記実施例6に述べるスクリーニングプロセスで選択した。
【0069】
酵素結晶をこのプロセスを通して湿潤に維持しながら、架橋LPS結晶上の緩衝液を焼結ガラス漏斗(上記)で濾過した。漏斗中の架橋酵素結晶の高さを測定したところ60mlであった。界面活性剤N,N',N-ポリオキシエチレン(10)-N-タロウ-1,3-ジアミノプロパン(EDT-20'、PEG-10タロウ)を溶媒2-ブタノンと共に添加し、界面活性剤:架橋酵素結晶の比を1:1(界面活性剤30g:LPS 30g=30ml)とした。これは、30mlの2-ブタノンと30mlの界面活性剤との混合物(全体で60ml)を架橋酵素結晶の上に注ぐことによって行った。架橋酵素結晶が界面活性剤で確実に被覆され、そして酵素ケーキが乾燥しないように、穏やかに吸引を行った。室温で30分後、次に、混合物を気流中、乾燥容器(逐次圧力式濾過漏斗(fritted pressure filter funnel))に移し、カール・フィッシャー滴定で測定して約1〜3%の水分含量とした。
【0070】
本発明によるLPS架橋結晶処方物はまた、商品名ChiroCLEC-PCとして販売されている架橋LPS結晶(これはAltus Biologics, Inc.(Cambridge, Massachusetts)から入手できる)を用いても調製され得る。
【0071】
実施例2−架橋CRL結晶処方物の調製
粉末状のCandidarugosaリパーゼ(「CRL」)(Amano)の5kgのアリコートを5kgのセライトと混合し、102Lの蒸留脱イオン水に溶解し、そして蒸留脱イオン水で容量を200Lにした。この懸濁液をAir Drive Lightningミキサー中で室温で2時間混ぜ、そして次に0.5ミクロンのフィルターを通して濾過しセライトを除去した。次にこの混合物を限外濾過し、そして3K中空糸フィルター膜カートリッジを用いて、14L(469g)まで濃縮した。固体酢酸カルシウムをCa(CH3COO)2濃度5mMまで添加した。必要に応じて濃酢酸でpHを4.8に調節した。混合物を温度25℃まで加熱して維持した。(100%)2-メチル-2,4-ペンタンジオール「MPD」のアリコート3.5Lおよび結晶シード(0.5gタンパク質)を添加した。得られた溶液を終夜混合した。次に結晶化を終夜、約17〜20時間進行させた。
【0072】
結晶を沈殿させ、そして末端に10mlのピペットを備えたタイゴン管を有する蠕動ポンプを用いて、可溶性タンパク質を除去した。新鮮な結晶化溶液(20%MPD、5mM Ca(CH3COO)2、pH4.8)を添加して、タンパク質濃度を35mg/mlにした(1mg/ml溶液のO.D.280=1.0)。次にこの工程を繰り返した。結晶の収量は約217グラムであった。次に結晶溶液を以下のように架橋させた。
【0073】
1容量の50%グルタルアルデヒドと1容量の0.3Mホウ酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)を混合して架橋剤を調製し、混合物を1時間60℃で加熱した。次にこの混合物を室温まで放冷し、必要に応じてHClを用いてpHを6.0に調節した。酵素1グラム当たり架橋剤3.885ml(1.949g)を用いて架橋を行った。より詳細には、次に架橋剤のアリコート1686mlを、架橋剤をゆっくりとポンピングすることによって、総添加時間2時間で、酵素スラリー217gに添加した。次にこの混合物を室温でさらに16時間、架橋のために静置した。1μフィルターを入れたブフナー漏斗中で、最初に30Lの水で、次に2M塩化ナトリウムおよび緩衝液(10mM Tris、10mM CaCl2、pH7.0)で架橋結晶をよく洗浄することによって、架橋反応を停止させた。
【0074】
上記で調製した架橋CRL酵素結晶のアリコート6グラムを保存緩衝液100ml(10mM Tris、10mM CaCl2、pH7.0)中に懸濁させ、そしてこの混合物を焼結ガラス漏斗(多孔度約10〜20μ)中に室温で注いだ。次に緩衝液を酵素から除去した。以下記載するように、この酵素結晶を界面活性剤テルジトール(tergitol)TMN-6型に暴露した。この界面活性剤は下記実施例8に述べるスクリーニングプロセスで選択した。
【0075】
架橋酵素結晶をこのプロセスを通して湿潤に維持しながら、架橋CRL結晶上の緩衝液を焼結ガラス漏斗(上記)で濾過した。漏斗中の架橋酵素結晶の高さを測定したところ34mlであった。界面活性剤を溶媒2-ブタノンと共に添加し、界面活性剤:架橋酵素結晶の比を1:1(CRL 6g:界面活性剤6g=5.7ml)とした。これは、2-ブタノン28.3mlと界面活性剤5.7mlとの混合物(全体で34ml)を架橋酵素結晶の上に注ぐことによって行った。架橋酵素結晶が界面活性剤で被覆され、そして酵素ケーキが乾燥しないように、穏やかに吸引を行った。室温で30分後、次に、混合物を気流中、乾燥容器(逐次圧力式濾過漏斗)に移し、カール・フィッシャー滴定で測定して水分含量約7〜13%とした。
【0076】
本発明によるCRL架橋結晶処方物はまた、商品名ChiroCLEC-CRとして販売されている架橋CRL結晶(これはAltus Biologics, Inc.(Cambridge, Massachusetts)から入手できる)を用いて調製され得る。
【0077】
実施例3−架橋ABL結晶処方物の調製
Bacillus licheniformisスブチリシンA(「ABL」)(Alcalase)のスラリー30kgまたは25LをAir Drive Lightningミキサー中で15%Na2SO4 50Lの(pH5.5)と混合した。結晶シード(タンパク質 0.27g)を添加し、そしてこの混合物を温度30℃で維持した。次に結晶化を3〜4日間進行させた。1μのフィルターを入れたブフナー漏斗を用いて母液を除去した。
【0078】
結晶を15% Na2SO4(pH5.5)50Lで洗浄し、そして次に15% Na2SO4(pH5.5)40L中に懸濁させた。結晶の収量は約1069グラムであった。次に結晶溶液を以下のように架橋させた。
【0079】
酵素1グラム当たり50%グルタルアルデヒド架橋剤 1.68mlを用いて架橋を行った。より詳細には、架橋剤のアリコート 1796mlを酵素 1069gに総添加時間30分から1時間かけて添加した。この混合物を、室温で4時間、その間pHを5.5に維持しながら、架橋のために混合させた。フィルタープレス中で、洗浄水の伝導度が2ms/cmになるまで、水で架橋結晶をよく洗浄して、架橋反応を停止させた。次に架橋酵素結晶を緩衝液(0.1NaAC、20mM CaCl2、pH5.7)中に懸濁した。
【0080】
上記で調製した架橋ABL酵素結晶のアリコート20グラムを保存緩衝液 100ml(0.1 NaAc、20mM CaCl2、pH5.7)中に懸濁させ、そしてこの混合物を焼結ガラス漏斗(多孔度約10〜20μ)中に室温で注いだ。以下記載するように、この酵素結晶を界面活性剤テルジトール15-S-3型に暴露した。この界面活性剤は下記実施例7に述べるスクリーニングプロセスで選択した。
【0081】
架橋酵素結晶をこのプロセスを通して湿潤に維持しながら、架橋ABL結晶上の緩衝液を焼結ガラス漏斗(上記)で濾過した。漏斗中の架橋酵素結晶の高さを測定したところ、50mlであった。界面活性剤を溶媒イソプロパノールと共に添加し、界面活性剤:架橋酵素結晶の比を1:1.5(ABL 30g:界面活性剤 30ml=50ml)とした。これは、イソプロパノール20mlと界面活性剤30mlとの混合物(全体で50ml)を架橋酵素結晶の上に注ぐことによって行った。架橋酵素結晶が界面活性剤で被覆され、そして酵素ケーキが乾燥しないことを確実にするため、穏やかに吸引を行った。室温で30分後、次に、混合物を気流中、乾燥容器(逐次圧力式濾過漏斗)に移し、カール・フィッシャー滴定で測定して約1〜4%の水分含量とした。
【0082】
あるいは、ABL架橋酵素結晶の湿潤ケーキ15gを界面活性剤20gおよびイソプロパノール30mlと混合し得る。次にこの混合物を30分間インキュベートし得る。次いで、溶媒および界面活性剤を上述のように吸引によって除去し得る。次に湿潤架橋酵素結晶を凍結乾燥容器に移し、そしてドライアイス中のアセトン中で30分間凍結し得る。次に凍結乾燥容器を凍結乾燥器に移し、そして30分間作動させる。
【0083】
上記のように調製される凍結乾燥架橋酵素結晶処方物を、有機溶媒中で使用する前に室温または4℃で保存し得る。凍結架橋酵素結晶処方物は室温で保存され得る。
【0084】
本発明によるABL架橋結晶処方物はまた、商品名ChiroCLEC-BLとして販売されている架橋ABL結晶(これはAltus Biologics, Inc.(Cambridge, Massachusetts)から入手できる)を用いても調製され得る。
【0085】

実施例4−有機溶媒中の架橋酵素結晶処方物の活性
上記のように調製された架橋酵素結晶処方物あるいはその粗酵素対応物の、アルコール、酸およびアミンの分析における活性を表1に提示する。酵素活性をHPLCおよびガスクロマトグラフィー(「GC」)でアッセイした。表1のデータを与える個々の分析を下記のように行った。
【0086】

エステル交換による(+/−)メタノールの分割
1mlのトルエン中、7.5μl(0.15%)H2Oを含む(+/−)メタノール(449mM)の溶液を実施例2で調製した架橋CRL結晶処方物4mgと共に5分間、微細な懸濁液が得られるまで攪拌した。酢酸ビニル(449mM)を添加し、そして得られた懸濁液を25℃で4時間攪拌し、この時点でキャピラリガスクロマトグラフィー(「GC」)分析は15%の転化率を示した。GC条件は以下の通りであった:DB1701 15m×0.25mm GCカラム、25mmフィルム厚(J&W Scientific、Folsom CA);ヘリウム流25cm/秒;温度プログラム:初期=119℃で1分間、グラジエント速度=5℃/分で130℃まで0.3分間、グラジエント速度=70℃/分で175℃まで1.86分間。保持時間:2.85分[(+)メタノール]、4.77分[エステル]。反応を、触媒の吸引濾過によって停止した。生成物のエステルの光学純度は、GC分析で99.4%エナンチオマー過剰(「ee」)であると決定された。
【0087】
キラルGC条件は以下の通りであった:Cyclodex B 25mキャピラリーGCカラム、内径25mm(J&W Scientific、Folsom CA);N2流1ml/分;温度プログラム:初期=90℃で5分間、グラジエント速度=1℃/分、最終=115℃で10分間。保持時間:24.90分[(+)メタノール]、25.40分[(−)メタノール]、35.97分[(−)エステル]、36.11分[(+)エステル]。
【0088】

n−アミルアルコールによるイブプロフェンのエステル化
(R,S)−イブプロフェン(97mM)を1mlのイソオクタンに溶解した。この溶液に、460mMのn−アミルアルコールおよび実施例2で調製された架橋CRL結晶処方物1mgを添加した。懸濁液を室温で攪拌し、そして生成物のn−アミルイブプロフェンを次にキラルHPLCにかけた。24時間後、転化率は28%に達した。
【0089】
キラルHPLC条件は以下の通りであった:酸:(R,R)Whelk-01、(Regis Technologies、Morton Grove、IL)5mm、100Å、25cmカラム。移動相=ヘキサン0.5%酢酸。30分間かけて、酢酸を含まないヘキサンで酸性ヘキサンを置き換えた(一定速度で)。ヘリウム流速=1ml/分、UV検出254nm。保持時間:エステルに関して16.7分および19.2分、酸に関して21.8分および28.1分。
【0090】

エステル化による(R,S)−2−ヒドロキシヘキサン酸の分割
1mlのトルエン中、n-BuOH(1060mM)を含む(R,S)2−ヒドロキシヘキサン酸(532mM)の溶液に、実施例2で調製した架橋CRL結晶処方物10mgを添加した。得られた混合物を25℃で1時間、マグネチックスターラーで攪拌し、この時点でキャピラリGC分析は転化率46%を示した。GC条件は以下の通りであった:DB1701 15m×0.25mm GCカラム、25mmフィルム厚(J&W Scientific、Folsom CA);ヘリウム流25cm/秒;温度プログラム:初期=110℃で5分間、グラジエント速度=20℃/分で200℃まで。試料調製:1mlヘキサン中10μlの反応混合物(100μlのMeOHおよび100μlのTMS−ジアゾメタン−ヘキサン中2M)。保持時間:2.12分[メチルエステル]、6.46分[ブチルエステル]。反応を、触媒の吸引濾過によって停止した。ブチルエステルおよび酸(そのメチルエステルとして)の光学純度はキラルGC分析で決定された。
【0091】
キラルGC条件は以下の通りであった:Cyclodex B 25mキャピラリーGCカラム、内径25mm(J&W Scientific、Folsom CA);N2流1ml/分;温度プログラム:初期=80℃で30分間、グラジエント速度=5℃/分、最終=170℃で10分間。保持時間:27.80分[R−メチルエステル]、31.03分[S−メチルエステル]、44.30分[R−ブチルエステル]および44.50分[S−ブチルエステル]。
【0092】

エステル交換によるフェネチルアルコールの分割
1mlのトルエン中の200mMフェネチルアルコールと200mM酢酸ビニルに、実施例1で調製した架橋LPS結晶処方物を1.2mg添加し、そしてこの反応混合物を室温で30分間攪拌した。遠心分離によって触媒を除去して、反応を停止させた。転化率および光学純度をキラルGCで決定した。
【0093】
キラルGC条件は以下の通りであった:Cyclodex キャピラリーGC 25mカラム、内径25mm(J&W Scientific、Folsom CA);N2流1ml/分;温度プログラム:初期=100℃で4分間、グラジエント速度=5℃/分で135℃まで、および135℃で2分間、2℃/分で144℃まで、および144℃で5分間、5℃/分で150℃まで、および150℃で2分間。保持時間:(R)および(S)エステルに関して各々、12.08分および12.47分;(R)および(S)アルコールに関して各々、12.25分および12.55分。転化率は41.7%であり、そしてこの転化における生成物および基質のeeは各々98.5%および70.42%であり、E値は297であった、Eは、C.S. Chenら、J. Am. Chem. Soc.、104、7294-99ページ(1982)に従って算出した。粗酵素による阻害または触媒化によって達成される反応についてのEの適用に関する議論は、J.J. Lalondeら、J. Am. Chem. Soc.、117、6845-52(1995)を参照のこと。
(±)−スルカトールの分割
1mlのトルエン中の80mM(±)−スルカトールおよび120mM酢酸ビニルの溶液に、実施例1で調製した架橋LPS結晶処方物を4mg添加した。この混合物を室温で20時間攪拌した。次に触媒を濾過によって除去した。生成物および残余の出発物質の光学密度をキラルGCカラムを用いたGCで直接分析した。残余の出発物質および生成したアルコールのeeは各々>98%および51.3%であった。
【0094】
キラルGC条件は以下の通りであった:Cyclodex BキャピラリーGC 25mカラム、内径25mm(J&W Scientific、Folsom、 CA);ヘリウム流1ml/分;温度プログラム:初期=90℃で10分間、グラジエント速度=5℃/分、最終130℃で20分間。保持時間:(S)−スルカトール、12.50分;(R)−スルカトール、12.32分;(S)−スルカトールアセテート、14.43分;(R)−スルカトールアセテート、15.12分。転化率は66.1%であった。E値は27と計算された。
【0095】

(±)−2−オクタノールの分割
1mlのトルエン中の80mM(±)−2−オクタノールおよび120mM酢酸ビニルの溶液に、実施例1で調製した架橋LPS結晶処方物を4mg添加した。この混合物を室温で4時間攪拌した。次に触媒を濾過によって除去した。アセテート生成物の光学密度をキラルGCカラムを用いたGCで直接分析した。eeは63.0%と決定された。ピリジン中の無水酪酸との反応によって、残余のアルコールをその対応ブチレートに転化した。次にブチレート誘導体の光学純度をGCで分析した。eeは83.7%であった。
【0096】
キラルGC条件は以下の通りであった:Cyclodex BキャピラリーGC 25mカラム、内径25μm(J&W Scientific、Folsom CA);ヘリウム流1ml/分;温度プログラム:初期=90℃で10分間、グラジエント速度=2℃/分、最終130℃で20分間。保持時間:(S)−2−オクタノールアセテート、15.66分;(R)−2−オクタノールアセテート、16.93分;酪酸(S)−2−オクタノール、26.49分;酪酸(R)−2−オクタノール、26.95分。転化率は57.1%であった。E値は9.8と計算された。
【0097】
トリプタミンの分割
1mlのtert-ブタノール中の200mMトリプタミンおよび400mMブタン酸2,2,2-トリフルオロエチルの溶液を実施例3で調製した架橋ABL結晶処方物16mgと共に、ロータリーシェーカー上で40℃でインキュベートした。所望の転化率レベルに達したとき、触媒を遠心分離で除去し、そして酢酸エチルで洗浄した。合わせた有機混合物を減圧でエバポレートして残渣を得、次にこれをシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、残余のトリプタミンおよびブチルアミド生成物を得た。ブチルアミド生成物の光学純度をキラルHPLCで直接分析した。残余のアミンをクロロギ酸メチルで処理することによってそのウレタン誘導体に転化し、そして光学純度についてキラルHPLCで分析した:転化率20%でee=94%:R−αメチルトリプタミン;転化率53%でee>98%。
【0098】
キラルHPLC条件は以下の通りであった:ブチルアミドに対して、Chiracel OJ 25cmカラム(Chiral Technologies、Exton、PA、Daicel Chemical Inc.の部門);移動相=80%ヘキサン(0.1%TFA)、20%イソプロパノール(0.1%TFA)、ヘリウム流速=1ml/分、254nmでUV検出。保持時間:D−ブチルアミド生成物9.3分、およびL−ブチルアミド生成物11.2分。D−ウレタン誘導体24.8分およびL−ウレタン誘導体27.6分。
【0099】
上記の各分割を、下記の表1の脚注(b)に記載の酵素濃度を用いて、架橋酵素結晶処方物の粗酵素対応物で行った。
【0100】

表1−有機溶媒中での酵素触媒化分割
【0101】
【表1】



【0102】
a 架橋酵素結晶濃度は4、1、10、1.2、0.4、0.4および16 mg/ml。
b 粗酵素濃度は、表の上から下に向かって、各々20、15、50、8.3、40、40および28 mg/ml。
【0103】

表1中、速度は25℃でμmol/分×mgで表し、そして濃度は括弧中に示す。
【0104】
表の第2欄中、「VA」は酢酸ビニルを表し、そして「TFB」は酪酸トリフルオロエチルを表す。第3欄中、粗酵素調製物の水含量はCRL、LPSおよびABLの各々について9.3%、2.5%および5%。
【0105】
表1の第4欄中、架橋酵素結晶処方物の水含量は、CRL、LPSおよびABLの各々について13.3%、2.3%および2.5%。架橋酵素結晶処方物の最終調製物中の界面活性剤の量は、CRL、LPSおよびABLの各々について16%、40%および50%(w/w)。
【0106】
表1の第6欄中、CRL、LPSおよびABLの粗調製物中の総タンパク質含量は各々、10%、0.7%および7%。粗ABLのタンパク質含量は50%(w/w)。
【0107】
第7欄中、反応速度およびエナンチオ選択性は、Cyclodex B、(R,R)Whelk-01(イブプロフェン)GCおよびChiracel OJ(メチルトリプタミン)カラムでアッセイした。Eは、C.S. Chenら、J. Am. Chem. Soc.、104、7294-99ページ(1982)に従って算出した。粗酵素による阻害または触媒化によって達成される反応についてのEの適用に関する議論は、J.J. Lalondeら、J. Am. Chem. Soc.、117、6845-52(1995)を参照のこと。
【0108】
第8欄中、Eappは、低転化率での生成物のエナンチオマー過剰に基づいて不可逆なケースのように算出した。
【0109】
表1において実証されるように、3つの異なる酵素(2つのリパーゼおよびスブチリシン)の架橋酵素結晶処方物およびその粗対応物は、有機溶媒の存在下で著しく異なる活性を示す。架橋酵素結晶処方物は重量基準で、その粗対応物よりもはるかに活性であり(第4欄および第5欄)、そしてすべての反応においてタンパク質1mg当たりの比活性も同様に高い(第6欄)。それゆえ、メントールまたはスルカトールの分割において同じ活性に到達するためには、例えば約300倍少ない触媒の使用が可能である。CRLおよびABLの場合、粗酵素調製物と架橋酵素結晶処方物との間の著しい活性の差が水含有量の違いに起因するとは考えられない。粗CRLおよびABL調製物を架橋酵素結晶処方物と同じ水含有量(CRLについて13.3%およびABLについて2.5%)まで乾燥した場合、活性の変化は12%に満たない。
【0110】
本発明者らは、純粋なリパーゼが有機溶媒中で不均一な形態で非常に活性であり得ることが最初の例証であると考える。さらに、架橋CRL結晶処方物は、異なる選択性を有する混入物を含む粗CRL調製物よりも非常に高いエナンチオ選択性を示す(表、エントリー1〜3)。この場合、架橋酵素結晶処方物のエナンチオ選択性の増大は、競合するハイドロラーゼの除去に起因した(Lalondeら、前出)。
【0111】
架橋酵素結晶処方物を有機可溶性リパーゼ複合体と比較することは有益である。フェネチルアルコール(19.5μmol/分×mg)およびスルカトール(1.48マイクロモル/分×mg)の分割におけるLPS架橋酵素結晶の比活性は、同じ反応における可溶性複合体によって達成される活性と同程度かまたはそれより高い[G. Ottolinaら、Biotechnol. Lett.、14、947−52頁(1992)およびOkahataら(1995)、前出]。しかし、これらの複合体の溶解度は多くの有機溶媒中では限定され、そのため全体として高い反応速度を達成することは困難となる。他方、本発明による架橋酵素結晶処方物は、より多量に使用し得、そして不溶性となって容易に分離およびリサイクルが可能である。
【0112】
本発明者らは、界面活性剤が本発明の架橋酵素結晶処方物を特徴づける観察される活性増強において重量な役割を果たしていると考える。後述の実施例9を参照のこと
効果の組み合わせが、架橋酵素結晶形態の純粋リパーゼの活性における劇的な増大を説明し得る。例えば、両親媒性の界面活性剤の存在は、より良好な水バランスおよび両親媒性リパーゼの天然のコンホメーションを維持するために役立ち得る。これは粗調製物では、脂質、セライト、および他のタンパク質のような異なる混入物によって、部分的に達成され得る。最後に、界面活性剤は、緊密に結合した水の層を通って疎水性基質分子が酵素の結合部位に移動することを単に促進し得る。架橋酵素結晶処方物の活性に対する界面活性剤の効果の正確な機構を解明するためにはさらなる研究が必要とされるが、この現象の実際的な帰結は直接的に明らかである:架橋酵素結晶処方物の高い比活性、純度および安定性は、有機溶媒中での高い触媒生産性をもたらす。
【0113】
実施例5−酵素生産性
調製スケール(preparative scale)での有機溶媒中での架橋酵素結晶処方物の生産性を実証するために、本発明者らはLPS−架橋酵素結晶(固形1.3mg:タンパク質1mg)で触媒されるトルエン(100mL)中の酢酸ビニル(50ミリモル;4.3g)によるsec-フェネチルアルコール(50ミリモル;6.1g)の分割を選択した。反応混合物を室温で16時間攪拌し、この時点で転化率は50%に達した。30g/lの容量生産性および4600の基質対触媒比を与えると、酢酸フェネチルの単離収率は4.5g(98.5%ee)であった。100ミリモルのsec-フェネチルアルコールを使用した場合、生産性は72時間後に8000に達した。
【0114】
低分子量の合成触媒の高い生産性は、高分子量酵素と比べての重要な利点であると考えられる[E.N. JacobsenおよびN.S. Finney、Chemistry & Biology、1、85-90頁(1994)]。この実施例は、その高い分子量およびきわめて例外的な酵素反応媒体にも関わらず、架橋酵素結晶処方物が非常に生産性の高い触媒であり、最も優れた合成触媒にさえも優に匹敵することを、明確に実証する。
【0115】
実施例6−LPSのための界面活性剤のスクリーニング
架橋LPS結晶の試料を実施例1のように調製した。各試料を異なる界面活性剤に曝露し、次いで実施例1で使用した有機溶媒の存在下で乾燥させた。乾燥は容量1mlの界面活性剤および有機溶媒中で行った。さらに、架橋LPS結晶を実施例1のように調製し、そして界面活性剤への曝露なしに上記のように乾燥させた。酵素活性をフェネチルアルコールの分割で測定した。
【0116】
より詳細には、1mlトルエン中の200mM sec-フェネチルアルコールおよび200mM酢酸ビニルを乾燥した架橋LPS結晶の試料1.2mgに添加し、このうちのいくらかを界面活性剤に曝露し、そしていくらかを界面活性剤に曝露しなかった。反応を30分間進行させ、この後、転化率%をガスクロマトグラフィーで測定した。結果を下記表2に示す。
【0117】

表2
【0118】
【表2−1】

【0119】
【表2−2】

【0120】
【表2−3】

【0121】
実施例7−ABLのための界面活性剤のスクリーニング
架橋ABL結晶の試料を実施例3のように調製した。各試料を異なる界面活性剤に曝露し、次いで実施例3で使用したいくつかの有機溶媒の存在下で乾燥させた。乾燥を容量1mlの界面活性剤および有機溶媒中で行った。さらに、架橋ABL結晶を実施例3のように調製し、そして界面活性剤への曝露なしに上記のように乾燥させた。酵素活性をイソオクタン中でのN-Ac-PheOMeのn-プロパノールとのエステル交換で測定した。
【0122】
より詳細には、80%イソオクタン中の1ml(11mg)のN-アセチル-L-フェニルアラニンメチルエステルおよび20%1-プロパノールを、乾燥した架橋ABL結晶の試料1mgに添加し、このうちのいくらかを界面活性剤に曝露し、そしていくらかを界面活性剤に曝露しなかった。反応を30分間進行させ、その後、転化率%をガスクロマトグラフィーで測定した。結果を下記表3に示す。
【0123】
表3
【0124】
【表3−1】

【0125】
【表3−2】



【0126】
実施例8−CRLのための界面活性剤のスクリーニング
架橋CRL結晶の試料を実施例2のように調製した。各試料を異なる界面活性剤に曝露し、次いで実施例2で使用したいくつかの有機溶媒の存在下で乾燥させた。乾燥を容量1mlの界面活性剤および有機溶媒中で行った。さらに、架橋CRL結晶を実施例2のように調製し、そして界面活性剤への曝露なしに上記のように乾燥した。酵素活性をトルエン中でのN-アミルアルコールの酢酸エチルのエステル交換で測定した。
【0127】
より詳細には、酢酸エチルおよび1mlトルエン中の184nMのn-アミルアルコールを乾燥した架橋CRL結晶の試料2mgに添加し、このうちのいくらかを界面活性剤に曝露し、そしていくらかを界面活性剤に曝露しなかった。反応を30分間進行させ、この後、転化率%をガスクロマトグラフィーで測定した。結果を下記表4に示す。
表4
【0128】
【表4−1】

【0129】
【表4−2】

【0130】
実施例9−界面活性剤の効果
以下の実施例は、本発明による架橋酵素結晶処方物によって示される活性増強における界面活性剤の重要な役割を実証する。本発明者らが、界面活性剤を使用せずにこれらの実施例の架橋酵素結晶処方物の水含量と同様の水含量まで結晶を乾燥させたことを除いて、架橋酵素結晶を実施例1〜3に記載のように調製した。これらの水含量のレベルは、CRLについては水含量13.3%;LPSについては水含量1.7〜2%;およびABLについては水含量2.2〜2.4%であった。
【0131】
各酵素試料について、実施例1、2または3の特定の酵素で用いたのと同じ溶媒の、より小さい(1ml)のスケールでの存在下で乾燥を行った。次いで、本発明者らは各々の酵素について実施例6〜8に記載のアッセイで、転化率%ではなく初期活性レベルを測定した。また、本発明者らは実施例1〜3の架橋酵素結晶処方物の各々の初期活性を、この酵素に対する各々のアッセイ(CRLアッセイ:実施例8;LPSアッセイ:実施例6;ABLアッセイ:実施例7)で測定した。実施例1〜3の架橋酵素結晶処方物の初期活性レベルと比較すると、界面活性剤なしで乾燥した架橋酵素結晶の初期活性は、19倍(ABL)、79倍(LPS)および100倍を越えて(CRL)低かった。
【0132】
表5
【0133】
【表5】

【0134】
実施例10−界面活性剤のスクリーニング
本発明者らは、本発明による架橋酵素結晶処方物の製造で使用するための数多くのアニオン性、カチオン性、および非イオン性の界面活性剤をスクリーニングするために別の手順を用いた。このスクリーニング手順において、実施例6〜8のように調製された架橋酵素結晶処方物の酵素活性を、有機溶媒の存在下、所与の界面活性剤中で架橋酵素結晶を乾燥した後、および室温で12日間貯蔵した後、測定した。CRLの乾燥試料の活性を、実施例8に記載のようにトルエン中での酢酸エチルによるn-アミルアルコールのエステル交換において測定した。ABLの乾燥試料の活性を、実施例7に記載のようにイソオクタン中でのn-プロパノールによるN-Ac-PheOMeのエステル交換において測定した。LPSの乾燥試料の活性を、実施例6に記載のフェネチルアルコールの分割において測定した。界面活性剤のうちのいくつかに曝露した酵素は、乾燥後に高い活性を示したが、貯蔵後にその高レベルを維持したものはわずかしかなかった。これらの実施例で用いた界面活性剤に加えて、いくつかの他の界面活性剤−−CRLについてはTriton類およびスルホコハク酸ジオクチル、ならびにABLについてはスルホコハク酸ジオクチルおよび4ラウリルエーテル−−は貯蔵後に高い活性を示す架橋酵素結晶処方物を提供した。
【0135】
本発明者らは本発明の多くの実施態様を上述したが、本発明者らの基本構造を変更して、本発明のプロセスおよび組成物を利用する他の実施態様を提供し得ることは明らかである。従って、本発明の範囲は、例示のために上に提示した特定の実施態様によって定義されるのではなく、添付の請求の範囲によって定義されることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に記載されるような、架橋タンパク質結晶処方物、およびその有機溶媒中での触媒としての使用。

【公開番号】特開2008−61652(P2008−61652A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305136(P2007−305136)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【分割の表示】特願平9−542648の分割
【原出願日】平成9年5月20日(1997.5.20)
【出願人】(500498730)アルタス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】