説明

架橋ヒアルロン酸およびこれを製造するための方法

本発明は、(a)ヒアルロン酸を活性化するステップと、(b)活性化されたヒアルロン酸を、pH8〜12の反応媒質中でオリゴペプチドまたはポリペプチドを含む架橋剤と反応させ、架橋ヒアルロン酸を得るステップと、(c)反応媒質のpHを5〜7に調整するステップと、(d)架橋ヒアルロン酸を有機溶媒中で沈澱させるステップとを含む方法により生成することができる架橋ヒアルロン酸に関する。本発明はまた、上記方法、上記架橋ヒアルロン酸から得られるヒドロゲル、および形成外科において本質的に用いられ得るインプラントの製造のための架橋ヒアルロン酸の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の架橋ヒアルロン酸、ならびにその製造方法およびその使用(詳細には美容用途)に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、D-グルクロン酸単位とN-アセチル-D-グルコサミン単位とからなる多糖類であり、特に、再建手術(chirurgie reparatrice; repair surgery)もしくは眼科手術で用いられたり、またはその他、美容分野においてシワ充填剤として用いられたりすることが知られている。後者の適用において特に、ヒアルロン酸は、その生体適合性および物理化学的特性のために他の充填剤よりも好ましい。しかしながら、急速に分解するという欠点があり、そのために繰り返し注入する必要がある。この欠点を改善するために、様々な分解要因(例えば酵素による攻撃および/または細菌による攻撃、温度、ならびにフリーラジカル)に対してより影響を受けにくいようにし、それによってin vivoでの分解に対する耐性を改善し、その結果としてその作用持続時間を改善することを目的として、ヒアルロン酸を架橋するための様々な方法が提案されてきた。これらの方法には、具体的には、天然ヒアルロン酸のヒドロキシル基および/もしくは酸官能基のエーテル化、エステル化、またはアミド化が含まれる。
【0003】
しかしながら、ヒアルロン酸を架橋するための先行技術の方法は、具体的にはアミド化によるものだが、これらの方法には、水性媒質中での製剤化および注射が困難であり、かつ/または、特に製品の滅菌後において、分解要因に対する耐性が不十分であるヒアルロン酸誘導体が得られるという欠点がある。
【0004】
このことは、米国特許出願2001/0393369号に従って、例えば1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などの活性化剤と求核剤(ポリリジンであって良い)とを用いてヒアルロン酸を酸性媒質中で反応させることにより調製された、水に不溶性のヒアルロン酸について当てはまる。
【0005】
実際に、pH7以下では、期待されるアミド化反応が分子内エステル化反応と競合し、その結果として、ヒアルロン酸が有する第1級アルコールと活性化されたヒアルロン酸エステルとが自己架橋すると考えられる。このような寄生反応は、詳細には、反応混合物の粘度がかなり増加(凝固)して乳濁化することによって、反応混合物が水と不溶性ポリマーとの不均質な混合物の形態となることによってもたらされる。したがって、得られたヒアルロン酸を製剤化することは不可能になる。
【0006】
また、欧州特許出願1 535 952号は、pH2〜9、好ましくはpH4〜7.5においてEDCおよびNHSの存在下でポリリジンをヒアルロン酸と反応させることによりin situで形成された架橋ヒアルロン酸からなるコーティングについて開示している。このようなコーティングを施された部材は、特に、美容外科において用いられる人工的補充物(prothese; prosthesis)となり得る。この文献は、乾燥形態で入手可能でヒドロゲルとして用時調製することができるようにするための、有機溶媒中で沈澱させた架橋ヒアルロン酸については開示していない。
【0007】
さらに、米国特許6,630,457号は、pH7.0〜8.5において、例えばEDCなどのカルボジイミドおよび例えばNHSなどのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド誘導体により活性化されたヒアルロン酸と第1級アミンとを反応させることにより調製された、修飾ヒアルロン酸について記載している。得られた化合物は、生理学的条件下において、例えばグルタルアルデヒドと架橋することができ、それによって、グリコシダーゼに対しては感受性であり続けるが50時間未満の間に実質的にすべてが分解するヒドロゲルを得ることができる。このような分解速度論は、細胞へのベクターおよび増殖因子として考慮する使用には適合するが、例えば美容外科における充填材料としての使用には適していない。
【0008】
最後に、WO 2006/021644は、例えばEDCなどのカップリング剤および例えばNHSなどの触媒を用いてヒアルロン酸を活性化し、その後pH4〜10(例えばpH4〜6)において例えばジリジンなどのポリペプチドと反応させることにより、架橋ヒアルロン酸を調製する方法について記載している。pHは、反応終了時にpH6〜7にまで任意に増加させることができ、それによって沈澱段階の間における抽出収量を増加させることができる。したがって、架橋反応は、酸性媒質中で実施され、その後媒質を任意に中性にするか、あるいは、塩基性媒質中で実施され、その後に媒質のpHの変更は行わないかのいずれかである。
【0009】
本出願人は、反応段階中において酸性pHを用いることが、アミド化反応にとって必ずしも好ましくなく、上述したように、結果として寄生反応(詳細には、分子内エステル化反応)を生じる可能性があり、得られる生成物の物理化学的特性に影響を及ぼし得ることを発見した。
【0010】
したがって、乾燥形態で得ることができ、その後水性媒質中で容易に再調製して、適切な物理化学的特性(詳細には、弾性率Gおよび30未満の損失角δによって表される)を有するヒドロゲルを作製することができる架橋ヒアルロン酸を提供する必要性が依然として存在し、上記ヒドロゲルは、それ自体が熱処理(特に、滅菌処理)されてよく、例えば酵素による攻撃および/または細菌による攻撃、温度、ならびにフリーラジカルなどの様々な分解要因に関してそれ自体が十分に安定であるようなインプラントを製造するために使用できるようにし、4ヶ月未満の間にin vivoで完全には吸収されないようにする。
【0011】
今般、本出願人は全く偶然に、ポリペプチドと架橋するヒアルロン酸の有機溶媒中における沈澱の際のpHが、その流動特性、ならびに例えば温度、フリーラジカル、およびヒアルロニダーゼなどの酵素などの分解要因に対するその感受性を決定することを発見した。多くの実験を実施した後、本出願人は、温度分解に対して比較的非感受性(すなわち、沈澱化合物を溶解して滅菌した後、その流動特性を維持する)である架橋ヒアルロン酸を得るための沈澱の至適条件を特定した。したがって、これはあたかも、架橋ヒアルロン酸が、一旦再調製されると、沈澱時のその分子機構の「記憶」を保存しているかのようである。さらに、この分子配置はまた、ポリマーの溶解能に影響を及ぼすことが証明された。
【0012】
この理論に必ずしも拘泥するわけではないが、上述の方法は、架橋剤との共有結合を介するのみならず、イオン間相互作用および/または沈澱時に生じる水素結合によってもまた、ヒアルロン酸の高分子ネットワークを緻密にし強固にすることができると考えられる。
【0013】
したがって本発明は、
カップリング剤およびカップリング補助剤を用いてヒアルロン酸を活性化して、活性化ヒアルロン酸を得るステップと、
上記活性化ヒアルロン酸を、pHを8〜12に調整した反応媒質中で、少なくとも50重量%のオリゴペプチドまたはポリペプチドを含む架橋剤と反応させ、架橋ヒアルロン酸を得るステップと、
反応媒質のpHを5〜7に調整するステップと、
架橋ヒアルロン酸を有機溶媒中で沈澱させて、架橋ヒアルロン酸繊維を得るステップと、
任意に、得られた架橋ヒアルロン酸繊維を乾燥させるステップ
とを含む方法により得ることができる架橋ヒアルロン酸を対象とする。
【0014】
本発明に従って得られる架橋ヒアルロン酸は、水溶性である。この表現は、上述のようにして得られる上記の脱水繊維1gが、数分のうちに解離し、数時間後には1リットルの生理食塩水中に、撹拌せずに完全に溶解することを意味することを意図する。
【0015】
上述の方法において用いられるヒアルロン酸は一般的に、天然の状態、すなわち生体に天然に存在する状態か、または細菌発酵により産生される場合に細菌によって排出される状態である。したがって一般的に、ヒアルロン酸は、500,000〜7,000,000ダルトンの分子量を有し、通常ナトリウム塩の形態で用いられる。
【0016】
ヒアルロン酸は、架橋する前に、カップリング剤とカップリング補助剤とを用いて活性化される。
【0017】
カップリング剤の例には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1-エチル-3-(3-トリメチルアミノプロピル)カルボジイミド(ETC)、および1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド(CMC)などの水溶性カルボジイミド、ならびにその塩および混合物がある。EDCは、好ましくは本発明で用いられる。
【0018】
カップリング補助剤の例には、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアゾール(HOOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HAt)、およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ならびにその混合物がある。NHSを選択することに限定されるわけではないが、NHSは好ましくは本発明に用いられる。
【0019】
カップリング剤およぎカップリング補助剤の役割は、後述の実施例1において説明される。
【0020】
本発明によれば、ヒアルロン酸のカルボン酸単位に対するカップリング剤のモル比は、好ましくは2%〜200%、より好ましくは5%〜100%である。
【0021】
また、カップリング補助剤とカップリング剤とのモル比は、好都合には1:1〜3:1、好ましくは1.5:1〜2.5:1(境界値を含む)、より好ましくはカップリング剤に対するカップリング補助剤のモル比は2である。
【0022】
カップリング剤を用いてヒアルロン酸を活性化する反応は、例えばpH3〜6,好ましくはpH4〜5で実施することができる。
【0023】
反応媒質におけるヒアルロン酸の濃度は、例えば0.1重量%〜5重量%、例えば0.1重量%〜1重量%(境界値を含む)である。
【0024】
架橋剤は、少なくとも50重量%の、好都合にはオリゴペプチドまたはポリペプチドを含み、これらのオリゴペプチドまたはポリペプチドは、ランダム、ブロック、断片化、融合(greffe; grafted)、もしくは星形(etoile; star)のホモポリペプチドまたはコポリペプチドであって良い。架橋剤は一般的に塩、詳細には塩酸塩もしくは任意に臭化水素酸塩、または特にトリフルオロ酢酸塩である。
【0025】
本発明に利用可能なポリペプチドの例には、リジン、ヒスチジン、および/またはアルギニンのホモポリマーならびにコポリマー、詳細には少なくとも2つまたは少なくとも5つでさえもリジン単位を有するポリリジンがあり、例えばジリジン、ポリヒスチジン、およびポリアルギニンがあるが、これらに限定されない。これらのアミノ酸は、D型および/またはL型であり得る。ジリジンおよびその塩、およびその誘導体は、本発明において用いるのに好ましい。
【0026】
本発明によれば、関係するポリペプチドのアミン官能基の数は、関係するヒアルロン酸のカルボン酸官能基の数の1%〜100%、好ましくは10%〜50%に相当する。
【0027】
本発明の第1の好ましい変形では、カップリング剤は、架橋剤のアミン官能基に対して化学量論量で用いられる。この方法では、本発明の方法の第1ステップの最後において、活性化されたヒアルロン酸のカルボン酸官能基の量は、第2ステップにおいて添加されるアミン官能基の量に等しい。
【0028】
本発明の第2の変形では、カップリング剤は、ヒアルロン酸のカルボン酸官能基に対して化学量論量で用いられる。この場合には、本発明の方法の第1ステップの最後において、ヒアルロン酸のすべてのカルボン酸官能基が活性化され、第2ステップで用いられる架橋剤の量は、例えば(カルボン酸官能基のモル数に対する架橋剤のモル数で)30%未満、好ましくは10%未満、または約5%でさえあり得る。
【0029】
架橋反応は一般的に、当業者にとって全くありふれた温度条件および時間、例えば温度0〜45℃、好ましくは5〜25℃において1〜10時間、好ましくは1〜6時間で実施される。アミド結合の形成を促進するために、反応のpHは8〜12、好ましくは8〜10(境界値を含む)の範囲である。上記のpHは、任意の塩基、好ましくは弱い求核塩基、例えばジイソプロピルエチルアミン(DIEA)などのアミンを用いて調整することができる。
【0030】
この反応は通常、例えば塩化ナトリウム水溶液などの溶媒中で実施される。
【0031】
反応媒質中のヒアルロン酸濃度は、例えば0.01重量%〜5重量%、例えば0.1重量%〜1重量%(境界値を含む)である。
【0032】
反応の後、反応媒質のpHは、例えば塩酸などの任意の酸を用いて5〜7、好ましくは5.5〜7に調整され、得られた架橋ヒアルロン酸はその後沈澱する。沈澱ステップは、例えばエタノール、イソプロパノール、エーテル、もしくはアセトン、またはその混合物などの有機溶媒中で実施され、例えばエタノールが本発明において好ましい。溶媒は、反応媒質の体積の5〜20倍、例えば約10倍に相当する量で用いるのが好都合である。
【0033】
任意の乾燥ステップはその後好ましくは実施され、取り扱いが容易で、かつ、より首尾よく保管することができる架橋ヒアルロン酸の脱水形態が得られる。保管は、詳細には、氷点下温度条件下で(etre effectuee en froid negatif; under negative cold conditions)行われる。
【0034】
本発明の対象はまた、上述のように、架橋ヒアルロン酸を製造する方法である。
【0035】
この方法はまた、明確に言及したステップ以外のステップを含んでもよく、詳細には、例えば塩化ナトリウム溶液、生理食塩水、または注入可能な緩衝溶液(特にリン酸緩衝生理食塩水)などの水性溶媒を用いて、上記脱水した架橋ヒアルロン酸を混合し、ヒドロゲルを作製するステップを含んでもよい。上記ヒドロゲル中のヒアルロン酸濃度は、1w/v%〜4w/v%、好ましくは1.5w/v%〜3w/v%の範囲であり得る。
【0036】
したがって、本発明はまた、上述のような架橋ヒアルロン酸を水性溶媒中に含むヒドロゲルを対象とする。
【0037】
このようにして得られたヒドロゲルは、本発明に従って滅菌(例えば118〜130℃で2〜30分間)した後、弾性率G’が少なくとも100(例えば200〜600Pa(境界値を含む))であり、93℃で1時間の熱処理(etuvage; stoving)の後に示す弾性率の変化が少なくとも30%未満、好ましくは20%未満である。ヒドロゲルはまた、好都合なことには、粘性率G”が50〜200Paであり、損失角δ [=Inv tan (G”/G’)]が15〜35°、および粘度ηが1000〜3000Pa・sである。弾性率、粘性率、および損失角の測定は下記のようにして実施することができる。すなわち、ヒドロゲルは、25℃の温度で、4cmおよび4°の円錐平板粘度計(geometrie cone-plan; a cone-plate geometry)を用いて取り扱う。これを、1%の負荷変形(deformation imposee; imposed deformation)、1Hzで非破壊的粘弾性試験した。弾性率の測定は、TA Instruments company製のAR 1000レオメーターを用いて行われる。同じ装置が、粘度の測定について、せん断勾配5×10−2 −1を用いて使用することができる。
【0038】
したがって、本発明はまた、少なくとも50重量%のオリゴペプチドまたはポリペプチドを含む架橋剤で架橋されたヒアルロン酸を含む滅菌ヒドロゲルであって、93℃で1時間の熱処理の後に示す弾性率の変化が少なくとも30%未満であることを特徴とする滅菌ヒドロゲルを対象とする。
【0039】
このヒドロゲルは、好都合なことには、インプラントの製造に用いられる。
【0040】
このようなインプラントは、詳細には、皮下(sous-cutanee (hypodermique); subcutaneously (hypodermally))注射または線維性組織内へと皮内注射することができる。
【0041】
インプラントは、上述のヒドロゲルに加えて、少なくとも1つの多糖類(例えば、カルボキシメチルセルロースなどの少なくとも1つのセルロース誘導体、および/もしくは例えばヒアルロン酸ナトリウムなどのグリコサミノグリカン)、ならびに/または生体適合性の生体吸収性材料の粒子(例えばポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、リン酸三カルシウム(TCP)、もしくはヒドロキシアパタイト(HAP)、およびその混合物)を含むベクター流体を含み得る。
【0042】
これらを含むインプラントの無機物質(mineraux; minerals)の例は、WO 2004/069090に詳細に記載されている。
【0043】
本発明のインプラントは、生体内で6〜18ヶ月後に分解することができるという意味において、生体吸収性である。
【0044】
インプラントは、詳細には、
(典型的には、皮膚科学、美容医学、または整形外科治療において)ヒアルロン酸が不足した体腔または器官に補充すること;
外科的治療処置中に(典型的には眼科手術において)滲出した容積を再構成すること;あるいは
(典型的には、美容および皮膚科学において)正常な皮膚または損傷を受けた皮膚に局所適用すること
のために用いられ得る。
【0045】
上述のインプラントは、顔のシワおよびちりめんジワ、ならびに/または人体の瘢痕に充填するのに用いるために特に適している。
【0046】
したがって、本発明はまた、美容外科手術および/もしくは再建手術に用いられ得る注入可能なインプラントの製造のための、または充填剤(詳細には、シワ、ちりめんジワ、瘢痕、もしくは皮膚陥没(例えばリポジストロフィー)の充填剤)の製造のための、上述した架橋ヒアルロン酸の使用を対象とする。
【0047】
本発明は次に、下記の非限定的な実施例によって説明される。
【実施例】
【0048】
実施例1:本発明にしたがってポリペプチドを用いて架橋されたヒアルロン酸の合成
1.反応スキーム
下記の反応スキームは、(ジリジンを例として挙げて)次のように説明することができる。
【化1】

【0049】
架橋反応(スキーム1)は、2つのヒアルロン酸鎖のカルボン酸官能基とジリジンのアミン官能基との間の2つのペプチド結合からなる。用いられるカップリング試薬は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)である。
【0050】
カップリング反応の機構は、次のように説明することができる。
【化2】

【0051】
第1のステップは、ヒアルロン酸のカルボン酸官能基による、EDCカップリング剤のカルボジイミド官能基に対する求核攻撃からなる。得られるO-アシルウレアはその後、NHSで置換され、より安定な活性化エステルを形成する(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)ウレアを生成する)。実際のところ、O-アシルウレアは、微酸性水性媒質中で長い反応時間の間に、不活性のN-アシルウレアに再変換することができる。最終ステップは、ジリジンのアミン官能基の1つ(好ましくは、末端の、立体的に好ましいアミン官能基)による、活性化エステルに対する求核攻撃からなり、NHSが放出されると共にアミド結合を形成する。
【0052】
2.プロトコール
第1ステップ:膨潤(gonflement; swelling)期
3gの塩化ナトリウムを、500mlのガラス反応器中の300mlのミリQ水(milliQ water)に連続して加える。超音波処理器にて塩化ナトリウムを溶解した後、2gのヒアルロン酸(HTL Sarl、バッチ番号 PH 1016、Mw=2.6×106 ダルトン、以下HAと称する)を、HA繊維を注意深く手動でできるだけほぐしながら、塩溶液を含む反応器中に導入する。不均質な媒質をスパーテルで1分間撹拌した後、反応器を4℃で15時間、撹拌せずに静置し、アルミニウムホイルで覆って反応媒質を保護する。
【0053】
第2ステップ:架橋期
反応混合物を冷蔵装置から出した後、周囲温度(18〜25℃)で10分間撹拌する(視覚的には、溶液は完全に清澄で均質であり、多少粘性があって、液状のハチミツのような感じである)。
【0054】
撹拌は、半月状のテフロン(登録商標)攪拌器を備える機械式のもので行う。回転速度は60rpmである。
【0055】
次に、5mlのミリQ水中464mg(4.03mmol)のN-ヒドロキシスクシンイミド(ACROS、純度98%、以下NHSと称する)の溶液を溶血チューブ中に調製し、その後ボルテックスで撹拌(vortex; vortexed)してすべてのNHSを溶解する。この溶液を、5ml/分の速度で反応媒質に滴下して加える。
【0056】
混合物を5分間撹拌させておいた後、4mlのミリQ水中313mg(2.02mmol)のN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミド 塩酸塩溶液(Sigma-Aldrich、商品番号 03450-5G、以下EDCと称する)を添加する。ボルテックスで撹拌して溶解した後、5ml/分の速度で滴下して加える。
【0057】
混合物を30分間撹拌させておいた後、ジリジン水溶液を、1ml/分の速度で反応媒質に添加する。この溶液は、1mlのミリQ水中に、ボルッテックス撹拌しながら、233mg(0.67mmol)のジリジン塩酸塩(BACHEM、商品番号 G2675)、その後1302μl(10.08mmol)のジイソプロピルエチルアミン(ACROS、商品番号 115225000、以下DIEAと称する)を加え、すべてを溶血チューブ中で溶解することにより調製する。この混合物は、激しく撹拌した後に転相可能なエマルション(emulsion reversible; reversible emulsion)を形成する2つの別個の相を呈する。エマルションを反応媒質に添加する間、できるだけ多くのエマルションを混ぜるように試みる。反応媒質のpHは、8.5〜10.5でなければならない。
【0058】
全体を3時間撹拌させておく。
【0059】
第3ステップ:精製期
撹拌を止めた後、沈澱させる前に、溶液のpHを1M HClで調整し、pHを5.7まで下げた。
【0060】
その後、機械式撹拌器と熊手状の(en forme de rateau; rake-shaped)撹拌棒とを備える1リットルの反応器を用意する。420mlの95°エタノールを上記反応器に注ぎ入れ、機械式撹拌器のスイッチを入れて非常に速い速度(およそ1000rpm)で回転させる。
【0061】
架橋ヒアルロン酸を含む42mlの反応混合物をその後、50mlのシリンジを用いて吸引し、その後薄片(filet; lamina)として、反応器へと連続して導入する。溶液は、清澄、無色、かつ高粘性でなければならない。
【0062】
添加が完了し次第、さらに2分間撹拌し続けた。その後撹拌棒を反応器から取り除き、得られたポリマーはその後、有孔度IIのフリット上にピンセットを用いて広げる。ポリマーは、減圧フラスコ中で最長15秒間急速乾燥させ、その後減圧下で少なくとも12時間デシケーター中で乾燥させておく。
【0063】
最終生成物は、完全に白色でなければならない。
【0064】
第4ステップ:再調製期
2.4%のゲルを10ml調製するために、240mgの乾燥架橋ポリマーを、(シリンジの排出口に)キャップを備える標準的なポリプロピレン製シリンジに導入する。その後10mlの緩衝**溶液を固体に添加し、全体をその後4℃で12〜15時間ふやかせておいた。
【0065】
冷蔵装置からシリンジを出した後、生成物を、機械式撹拌器を用いて1000rpmの速度で急速撹拌する。用いられる撹拌棒は、ステンレス鋼製のスプーン状の実験室用スパーテルである。この生成物については、撹拌時間は約5分間であるが、撹拌時間は粘度によって変更され得る。最終生成物のゲルは、無色で完全に均質でなければならない。
【0066】
実施例2:分解試験すなわち持続性試験
原則:
当業者であれば、in vivoにおける様々な分解要因に対する耐性を予測する加速分解試験を実施することに慣れている(詳細にはFR 2861 734を参照のこと)。
【0067】
この実施例では、このような試験の1つが実施され、これは、予め滅菌された後に93℃で1時間加熱した架橋生成物の流動特性を測定することにあった。加熱中の弾性率(G’)の低下の割合をその後算出する。この割合が低ければ低いほど、熱に対する生成物の耐性がより高く、かつ他の分解要因に対してもより耐えることができると考えられる。したがって、この試験は、架橋ヒアルロン酸のin vivoにおける分解速度に関して予測するものであり、得ることができるシワ充填剤の持続性に関して予測するものである。
【0068】
試験した製品:
試験したすべての製品は、滅菌製品である。
下記:
生成物1(実施例1に記載されるようにして得られたヒアルロン酸)ならびに
生成物2(ヒアルロン酸のCOOH単位のモル数に対して45mol%のEDC、90mol%のNHS、および15mol%のジリジンを用いてDIEA/NHSの比が2.22であったことを除き、実施例1に記載されるようにして得られたヒアルロン酸)
に加えて、いくつかの市販で入手可能な製品を試験した。
【0069】
結果:
下記の表1は、試験した様々な架橋ヒアルロン酸について得られた結果を示す。
【表1】

【0070】
この表から、本発明の修飾ヒアルロン酸が、市販で入手可能な架橋ヒアルロン酸に比べてその弾性率の低下が小さいことを示すことが明らかになり、これは、本発明の修飾ヒアルロン酸が分解要因に対してより耐性であることを証明するものである。
【0071】
実施例3:沈澱の際のpHの影響
実質的に実施例1に記載されているように合成され、エタノール中で様々なpHにおいて沈澱した架橋ヒアルロン酸の物理化学的特性を比較した。このような化合物を合成する方法のパラメーターを下記の表2に示す。
【表2】

【0072】
上記の生成物の物理化学的特性は、実施例1に記載されているように一旦再調製し、90℃で1時間のインキュベーションの前後に評価した。より詳細には、ヒドロゲルの粘度を評価し、その弾性率を測定した。結果を下記の表3に示す。
ゲルの弾性および粘度を考慮した総合的スコアを示す、1〜5の等級を用いた。ゲルの弾性が大きいと考えられるほど、スコアはより高くなる。逆に、非均質および/または流動性のゲルには低いスコアが付けられる。
【表3】

【0073】
この表から、塩基性pHで沈澱した架橋ヒアルロン酸は、ヒドロゲルとして再調製するのは容易であるが、シワ充填に適用する製品に適するヒドロゲルを提供しないことがわかる。このような現象は、沈澱する間のイオン結合の形成が不十分であることに因ると思われる。
【0074】
さらに、酸性度が高すぎるpHで沈澱した架橋ヒアルロン酸は、(必ずしも可能であるとは限らないが、再調製することができるのであれば)十分な粘弾性を有するヒドロゲルを提供するが、インキュベーター中に置くと明らかに分解し、したがって内因性の分解要因に感受性である。
【0075】
実際、沈澱の際のpHを5〜7とする場合にのみ、非常に満足のいく粘弾性を有し、この粘弾性が分解試験の後において実質的に低下しない、均質のヒドロゲルを容易に調製することができることが明らかである。このことは、このpH範囲内において、静電結合および共有結合によって形成される高分子メッシュが充填剤として適用するのに最適であることを確証するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング剤およびカップリング補助剤を用いてヒアルロン酸を活性化して、活性化ヒアルロン酸を得るステップと、
前記活性化ヒアルロン酸を、pHを8〜12に調整した反応媒質中で、少なくとも50重量%のオリゴペプチドまたはポリペプチドを含む架橋剤と反応させ、架橋ヒアルロン酸を得るステップと、
反応媒質のpHを5〜7に調整するステップと、
架橋ヒアルロン酸を有機溶媒中で沈澱させて、架橋ヒアルロン酸繊維を得るステップと、
任意に、得られた架橋ヒアルロン酸繊維を乾燥させるステップ
とを含む方法により得ることができる架橋ヒアルロン酸。
【請求項2】
前記カップリング剤が、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、1-エチル-3-(3-トリメチルアミノプロピル)カルボジイミド(ETC)、および1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド(CMC)、ならびにその塩および混合物から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のヒアルロン酸。
【請求項3】
前記カップリング補助剤が、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、N-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3,4-ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアゾール(HOOBt)、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾール(HAt)、およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(スルホ-NHS)、ならびにその混合物から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載のヒアルロン酸。
【請求項4】
ヒアルロン酸のカルボン酸単位に対するカップリング剤のモル比が5%〜100%であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項5】
カップリング補助剤とカップリング剤とのモル比が1:1〜3:1であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項6】
カップリング剤を用いたヒアルロン酸の活性化の反応がpH3〜6で行われることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項7】
前記ポリペプチドがリジンのホモポリマーまたはコポリマーであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項8】
前記リジンホモポリマーがジリジンであることを特徴とする、請求項7に記載のヒアルロン酸。
【請求項9】
前記カップリング剤が、前記架橋剤のアミン官能基に対して化学量論量で用いられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項10】
前記カップリング剤が、前記ヒアルロン酸のカルボン酸官能基に対して化学量論量で用いられることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項11】
第2のステップで用いられる架橋剤の量が、カルボン酸官能基のモル数に対する架橋剤のモル数で30%未満であることを特徴とする、請求項10に記載のヒアルロン酸。
【請求項12】
架橋反応がpH8〜10で行われることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項13】
沈澱のpHが5〜7であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項14】
前記有機溶媒がエタノールまたはイソプロパノールであることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載のヒアルロン酸。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載されているように実施されることを特徴とする、架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の架橋ヒアルロン酸を水性溶媒中に含有することを特徴とするヒドロゲル。
【請求項17】
93℃で1時間の熱処理の後に示す弾性率の変化が30%未満であることを特徴とする、少なくとも50重量%のオリゴペプチドまたはポリペプチドを含む架橋剤で架橋されたヒアルロン酸を含む滅菌ヒドロゲル。
【請求項18】
美容外科手術および/もしくは再建手術で用いる注入可能なインプラントを製造するための、または充填剤(特にシワ、ちりめんジワ、瘢痕、もしくは皮膚陥没の充填剤)を製造するための、請求項1〜14のいずれか1項に記載の架橋ヒアルロン酸の使用。

【公表番号】特表2010−509425(P2010−509425A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535775(P2009−535775)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際出願番号】PCT/FR2007/052245
【国際公開番号】WO2008/056069
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(505437103)スティーフェル ラボラトリーズ インコーポレイテッド (9)
【Fターム(参考)】