説明

架橋ヒアルロン酸の製造方法

【課題】特に減量された架橋剤により、架橋ヒアルロン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】アルカリ条件において、セ氏10〜30度の低温で、48時間以上の反応時間をかけて一種類又は複種類のポリマーと架橋剤とを架橋結合させることにより、架橋ヒアルロン酸を形成させるステップを有し、該ポリマーは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に減量した架橋剤により、架橋ヒアルロン酸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
架橋ヒアルロン酸は、二糖類からなる、分子量が400Dの多糖類であり、この二糖類は、β−1,4−グルコシド結合により架橋結合されたβ−1,4−グルクロン酸とβ−1,3−アセチルグルコサミンを含むものである。さらにβ−1,3−グルコシド結合によれば、前記二糖類と他の二糖類とを架橋結合させることにより、線状多糖類を形成されることができる。現在のヒアルロン酸は、例えば、Streptococcusなどの細菌により合成してなるもの又は例えば、ニワトリのトサカなど動物組織からの抽出してなるものが一般的である。
【0003】
ヒアルロン酸塩とその誘導体であるヒアルロン酸は、生体適合性、生物分解性及び粘弾性に優れ、化粧品、生体臨床医学、医療品及び製薬工業における応用に好適なものである。また、有機体内の線状ヒアルロン酸は、例えばヒアルロニダーゼなどの酵素又はフリーラジカルにより簡単に分解されることから、有機体内に線状ヒアルロン酸として維持できる時間は非常に短く、さらに、線状ヒアルロン酸は機械強度に弱いものであるので、線状ヒアルロン酸の応用は限られている。故に、現在では架橋ヒアルロン酸が最も広く用いられている。
【0004】
実際に応用の目的に適用するための方法には、例えば、溶液形態、ヒドロゲル形態、溶液とヒドロゲルの特性を併せて持つ形態、混合された溶液とヒドロゲルとからなる形態など多様な形態の前記架橋ヒアルロン酸が用いられている。その架橋ヒアルロン酸の製造方法は、架橋剤とヒアルロン酸とを混合させて架橋結合反応を発生させ、架橋ヒアルロン酸を得るステップと、余分な架橋剤を除去するために架橋ヒアルロン酸を精製するステップとを有し、その内、架橋ヒアルロン酸を精製するステップは、例えば、透析手段又は水や緩衝溶液による洗浄手段により行っても構わない。しかしながら、前記透析手段又は洗浄手段は、特に結合状態端と自由状態端とを有する余分な架橋剤を完全に除去することができなく、下記特許文献1に示すように、前記架橋剤の自由状態端はまだ活性を有しているので、動物に適用すると副作用を起こす恐れがある。
【0005】
また、前記透析手段又は洗浄手段により架橋ヒアルロン酸を精製する製造方法には、以下に示すような欠点を有する。
1.工業規模での精錬が容易ではない。
2.滅菌条件を用いない場合、前記架橋ヒアルロン酸の最終生成物に汚染物が容易に混入してしまう。しかしながら、前記透析手段又は洗浄手段により架橋ヒアルロン酸を精製する製造方法は、中性状態又は略中性状態にて行われるものであるので、滅菌条件の維持が容易ではない。
3.架橋結合が不十分なヒドロゲル形態の架橋ヒアルロン酸は著しく膨張するものであり、この膨張する架橋ヒアルロン酸を洗浄すると、大量の架橋ヒアルロン酸が失われ易いので、この膨張する架橋ヒアルロン酸の洗浄は容易ではない。これに対して、高度に架橋結合が行われた架橋ヒアルロン酸はあまり膨張しないものであるので、余分な架橋剤を除去することが難しい。
4.さらに、架橋結合が不十分な架橋ヒアルロン酸は、洗浄すると容易に流失してしまうので、残留する架橋ヒアルロン酸の潤滑性が低下することから、架橋ヒアルロン酸の注射を行うに足りる潤滑性を得るために、前記残留の架橋ヒアルロン酸に直鎖又は架橋ヒアルロン酸溶液を添加しなくてはならない。
【0006】
下記特許文献2に開示される、硝子体液の代用品として応用される架橋ヒアルロン酸ゲルの製造方法は、セ氏50度のアルカリ状態において、多官能性架橋剤を用い、ヒアルロン酸塩を2時間架橋結合させた後、室温で一晩静置させることにより、ゲルを得るステップと、未反応の架橋剤を除去するため、ゲルを千切りにし、蒸留水で徹底洗浄を24時間行った後、さらに煮沸した塩水で8時間洗浄を行うことにより、0.23%〜1.2%固形分を有するゲルを得るステップとを有するものである。しかしながら、前記方法には、以下に示すような欠点を有する。
(1)複雑な精製ステップが必要となる。
(2)煮沸した塩水で架橋剤を除去すると、ゲルが膨張し、固形分が低下したゲルしか得られないことから、前記固形分を増大させるた、さらに他のステップが必要となる。
(3)浸透圧の調整及びpH値の調整をするためには、前記架橋ヒアルロン酸をバッファーで再び膨張させなくてはならないので、工業生産に適用することができない。
【0007】
下記特許文献3には、低分子量又は高分子量のヒアルロン酸を架橋結合させることにより、単相のゲルを得る方法が記載され、該単相ゲルは、十分な機械強度及び注射に好適な性質を有するものである。しかしながら、セ氏50度で架橋結合反応後、該単相ゲルには、300ppm以上の架橋剤が残留し、透析手段を行ってもこの残留した架橋剤を完全に除去することができない。即ち、透析手段又は洗浄手段では、両端が共に自由状態端である架橋剤及び両端が夫々結合状態端と自由状態端である架橋剤を除去することはできない。
【0008】
下記特許文献4に開示される、注射可能な重合体のヒドロゲルの製造方法は、(a)1種類又は複数種類の重合体を架橋結合させることにより、ゲルを形成させるステップと、(b)前記ゲルを洗浄するステップと、(c)前記ゲルを精製するステップと、(d)ヒドロゲルを製造するために前記ゲルを均一化させるステップとを有し、この方法は、二官能性又は多官能性の高濃度の架橋剤を用いてヒドロゲルを製造するので、架橋剤が前記ヒドロゲルに残留してしまい、また、前記ヒドロゲルを洗浄及び精製するためには、2〜3日が必要となる。故に、この洗浄及び精製されたヒドロゲルは、略中性状態のものであるので、微生物に汚染され易いという問題がある。
【0009】
下記特許文献5に開示される、架橋多糖類組成物の製造方法は、(a)アルカリ溶液において、多糖類と二官能性又は多官能性のエポキシドとを互いに接触させ、実質的にエーテル結合で前記多糖類と結合される該エポキシドにより架橋結合される多糖類を提供するステップと、(b)実質的にアルカリ溶液からエポキシドを除去せずに、該エポキシドで架橋結合される多糖類を乾燥させることにより、架橋多糖類基質を形成させるステップと、(c)水溶性の溶剤で前記架橋多糖類基質を洗浄するステップと、(d)酸性基質で前記架橋多糖類基質を中和させることにより、架橋多糖類ゲルを得るステップとを有するものであるので、この方法による生成物には、架橋剤が残留するといった問題がある。
【0010】
下記特許文献6には、沈殿手段による架橋剤を除去する架橋ヒアルロン酸の製造方法が記載されるが、この方法により製造されるヒアルロン酸にも架橋剤が残留するといった問題がある。
【0011】
下記非特許文献1に示すように、アルカリ条件においてポリマーを架橋結合させることによりゲルを形成させる時、架橋結合反応と加水分解反応とが互いに競合し、反応の進行の初期段階においては、架橋剤の濃度が高いので、主に架橋結合反応が行われるが、一定量の架橋剤が消費されると、加水分解反応が行われ、ゲルの分解及び劣化が促進される。この副作用を防ぐためには、アルカリ条件において架橋結合反応を行う時、ゲルにまだ大量の架橋剤が残留しているにもかかわらす、反応を中止しなくてはならない。
【0012】
この製造方法は、アルカリ条件においてセ氏25〜60度で10分間〜24時間ヒアルロン酸と二官能性又は多官能性の架橋剤による架橋結合反応を行うことにより、ゲルを得るステップと、前記ゲルを精製することにより架橋剤を除去するステップとにより行われるものであるが、完全に前記架橋剤を除去することができないのみならず、温度及びアルカリ性により反応を行う時間が変動する。故に、前記方法により得られた架橋ヒアルロン酸には、相当な又は著しい程度の架橋剤が残留してしまうといった問題があった。
【0013】
本発明は、前記従来技術の欠点を改善するために、従来技術の問題を軽減又は解消することができる架橋ヒアルロン酸の製造方法を提供するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許5,808,050号
【特許文献2】米国特許4,716,154号
【特許文献3】米国特許出願公開2006/0194758A1号公報
【特許文献4】米国特許出願公開2005/0281880A1号公報
【特許文献5】米国特許出願公開2007/0026070A1号公報
【特許文献6】米国特許4,716,224号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Y. Tokita and A. Okamoto, "Hydrolytic Degradation of Hyaluronic Acid", Polymer Degradation and Stability, 48:269-273 (1995)
【非特許文献2】Nelis and Sinsheimer, "A sensitive Fluorimetric for the Determination of Aliphatic Epoxides under Physiological Conditions", Anal. Biochem., 115:151-157 (1981)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、前記従来技術の欠点を改善すると共に、前記従来の技術の問題を軽減又は解消することを課題とする。
【0017】
そこで、出願されたのが本発明であって、減量された架橋剤により、架橋ヒアルロン酸を製造する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願の請求項1の発明は、アルカリ条件において、セ氏10〜30度の低温で、48時間以上の反応時間をかけて1種類又は複数種類のポリマーと架橋剤とを架橋結合させることにより、架橋ヒアルロン酸を形成させるステップを有し、該ポリマーは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0019】
本願の請求項2の発明は、前記ヒアルロン酸塩がヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0020】
本願の請求項3の発明は、前記アルカリ条件が0.05〜1.5N’であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0021】
本願の請求項4の発明は、前記アルカリ条件が無機酸によるものであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0022】
本願の請求項5の発明は、前記無機酸が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項4に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0023】
本願の請求項6の発明は、前記架橋剤が多官能性エポキシド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0024】
本願の請求項7の発明は、前記架橋剤が二官能性エポキシド化合物であることを特徴とする請求項6に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0025】
本願の請求項8の発明は、前記架橋剤が1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリポロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,3−ブタジエンジエポキシド、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項7に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0026】
本願の請求項9の発明は、前記架橋剤の濃度が0.05〜2w/v%であることを特徴とする請求項6に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0027】
本願の請求項10の発明は、前記低温がセ氏15〜30度であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0028】
本願の請求項11の発明は、前記低温がセ氏20〜30度であることを特徴とする請求項10に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0029】
本願の請求項12の発明は、前記反応時間が3〜28日間であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0030】
本願の請求項13の発明は、前記ポリマーの濃度が2〜40w/v%であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0031】
本願の請求項14の発明は、前記低温で架橋結合を行うステップの前に、さらに、セ氏35〜60度の高温で架橋結合反応を行うステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0032】
本願の請求項15の発明は、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋ヒアルロン酸に透析手段を施すステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0033】
本願の請求項16の発明は、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋結合反応を行うことにより、非中性の元の反応環境を中和させるためのステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0034】
本願の請求項17の発明は、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋ヒアルロン酸を均一化させるステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0035】
本願の請求項18の発明は、前記架橋ヒアルロン酸において、自由状態の官能基を有する架橋剤の含量が20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0036】
本願の請求項19の発明は、前記ポリマーの含量が、5〜60mg/mL以下であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0037】
本願の請求項20の発明は、前記誘導体がカルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸塩、コンドロイチン−4−サルフェート、コンドロイチン−6−サルフェート、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、寒天、カラギーナン、グアールガムからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【0038】
本願の請求項21の発明は、前記反応時間が3〜28日間であることを特徴とする請求項3に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0039】
本発明は上記の課題を解決するものであり、アルカリ条件において、セ氏10〜30度の低温で、48時間以上の反応時間をかけて一種類又は複数種類のポリマーと架橋剤とを架橋結合させることにより、架橋ヒアルロン酸を形成させるステップを有し、該ポリマーは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする架橋ヒアルロン酸の製造方法、を提供する。本発明に係る方法は、自由状態の官能基を有する架橋剤の濃度を低減させることにより、精製工程に対する必要性を低減させるものである。
また、本発明に係る他の材料、効果及び新規の性質は、以下にて明確且つ詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の好適な実施の形態を詳細に説明するために、用語の定義を行う。
【0041】
ヒアルロン酸塩(hyaluronate)とは、金属イオンと結合したヒアルロン酸である。
即ち、本発明は、ヒアルロン酸の分子量、ヒアルロン酸塩の分子量、それらの誘導体の分子量及びそれらの混合物の分子量に限られないので、低分子量又は高分子量を有するヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩及びそれらの誘導体、又は低分子量又は高分子量を有するヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩及びそれらの誘導体からなる混合物をであってもよく、ヒアルロン酸の分子量、ヒアルロン酸塩の分子量、それらの誘導体の分子量及びそれらの混合物の分子量は、例えば、100,000D以下、100,000D〜500,000D、500,000D〜1,000,000D、1,000,000D〜1,500,000D、1,500,000D〜2,000,000D、2,000,000D〜2,500,000D、2,500,000D〜3,000,000Dであってもよい。
【0042】
架橋ヒアルロン酸(cross-linked hyaluronic acid)は、架橋剤により、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体及びそれらの混合物を、部分的又は完全に架橋結合させてなるネットワーク構造を有するポリマーであり、この架橋ヒアルロン酸は、固体、液体(該架橋ヒアルロン酸が水又はバッファー溶液に溶解される場合)、ヒドロゲル(該架橋ヒアルロン酸が水又はバッファー溶液に膨張させられる場合)、又は液体とヒドロゲル又は不溶性の固体とからなる混合物であっても構わない。また、この架橋ヒアルロン酸は、使用される架橋剤及びこの架橋ヒアルロン酸の製造方法により、その状態が異なるが、本発明においての架橋ヒアルロン酸は、固体、液体、ヒドロゲル、又は前記固体と液体とからなる混合物であり、粒状、海綿状、細長形状、球状、楕円状、またはそれらに類似したものであっても構わない。
また、本発明に係る架橋結合反応においては、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体及びそれらの混合物からなる群より選択された2つの反応物の間において、例えば2つの直鎖の間におけるエーテル結合など化学結合が形成させるように、副産物が生じることなく、架橋結合反応が完全に行われる。
【0043】
自由状態の官能基を有する架橋剤(cross-linking agent with a free-state functional group)は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体及びそれらの混合物と未反応な少なくとも1つの官能基を有する架橋剤である。
【0044】
本発明に係る方法は、例えば滅菌条件などの特殊条件、又は一般条件において行っても構わなく、例えば、ヒドロゲル洗浄する時に発生し易い汚染を防止するため、細菌の生長を防ぐことができるアルカリ条件を用い、本発明に係る方法を行ってもよい。
【0045】
本発明に係る架橋ヒアルロン酸の製造方法は、アルカリ条件において、セ氏10〜30度の低温で、48時間以上の反応時間をかけて一種類又は複種類のポリマーと架橋剤とを架橋結合させることにより、架橋ヒアルロン酸を形成させるステップを有し、該ポリマーは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、それらの混合物からなる群より選択されるものである。
【0046】
本発明に係る架橋ヒアルロン酸の製造方法においては、前記低温で架橋結合を行うステップの前に、さらに、セ氏35〜60度の高温で架橋結合反応を行うステップ、或いはセ氏35〜50度の高温で架橋結合反応を行うステップ、或いはセ氏35〜40度の高温で架橋結合反応を行うステップとを有し、これにより、劣化が始まる前に、部分ポリマーを架橋結合させることができる。
【0047】
前記ステップのうち、温度がセ氏35度である場合には、前記架橋結合反応が72時間以下、或いは4〜48時間、或いは、6〜12時間であることが好ましい。
【0048】
前記温度がセ氏40度である場合には、前記架橋結合反応が48時間以下、或いは2〜24時間、或いは3〜6時間であることが好ましい。
【0049】
前記温度がセ氏50度である場合には、前記架橋結合反応が8時間以下、或いは0.1〜2時間、或いは0.2〜1時間であることが好ましい。
【0050】
前記温度がセ氏60度である場合には、前記架橋結合反応が2時間以下、或いは0.1〜0.5時間、或いは0.2〜0.3時間であることが好ましい。
【0051】
また、本発明に係る架橋ヒアルロン酸の製造方法においては、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、該架橋ヒアルロン酸を希釈させるステップを有し、これにより、該ヒアルロン酸の濃度を所望の濃度に調整できると共に、浸透圧及びpH値を動物の生理条件に好適な程度に調整することができる。尚、前記希釈を行う工程においては、水、中和溶液、バッファー溶液、食塩水、又はそれらの混合物を用いてもよい。
【0052】
尚、前記架橋ヒアルロン酸の濃度は、5〜60mg/mL、或いは10〜40mg/mL、或いは20〜30mg/mLであることが好ましく、浸透圧は、280〜340mOsm/kgであることが好ましい。
【0053】
本発明に係る架橋ヒアルロン酸の製造方法においては、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋結合反応が行うことにより、非中性の元の反応環境を中和させるためのステップを有し、これにより、非中性の元の反応環境を、動物に好適な例えば6.5〜7.5のpH値を有する中性環境となるように中和させることができる。なお、架橋結合反応の反応環境を中和させるステップ及び架橋ヒアルロン酸を希釈させるステップを同時に行っても構わない。
【0054】
更に、本発明に係る架橋ヒアルロン酸の製造方法においては、前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋ヒアルロン酸を均一化させるステップを有する。
【0055】
尚、前記ヒアルロン酸塩が、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛からなる群より選択されるものであることが好ましい。
【0056】
また、前記アルカリ条件は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選択される無機酸によるものであることが好ましい。
【0057】
本明細書において、「N」は、1リットルの溶液における塩基のモル当量とする。
【0058】
本明細書において、「N’」は、溶剤、塩基、及び架橋剤を溶液の一部とすると共に、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸金属塩、ヒアルロン酸の誘導体、及びヒアルロン酸の混合物を溶液から除外するように計算した1リットルの溶液における塩基のモル当量とする。
【0059】
尚、前記アルカリ条件は、0.05〜1.5N’、或いは0.05〜1N’、或いは0.2〜0.5N’であることが好ましく、0.25〜0.5N’であることがより好ましい。
【0060】
更に、前記ヒアルロン酸又はヒアルロン酸誘導体は、ヒドロキシ基を有するものであり、また、該ヒアルロン酸塩誘導体が、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸塩、コンドロイチン−4−サルフェート、コンドロイチン−6−サルフェート、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、寒天、カラギーナン、グアールガムからなる群より選択されるものであることが好ましい。
【0061】
また、前記架橋剤が多官能性エポキシド化合物、或いは二官能性エポキシド化合物であることが好ましい。
【0062】
前記架橋剤が1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリポロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,3−ブタジエンジエポキシド、それらの混合物からなる群より選択されるものであることが好ましい。
【0063】
一方、前記架橋剤の濃度は、0.05〜2w/v%、或いは0.1〜1.5w/v%、或いは0.1〜1。0w/v%であることが好ましく、0.6〜1.0w/v%であることがより好ましい。
【0064】
前記低温は、セ氏10〜30度、或いはセ氏15〜30度、或いはセ氏20〜30度であることが好ましい。また、低温のアルカリ条件においては、架橋ヒアルロン酸の加水分解がなされないので、架橋ヒアルロン酸の急速な劣化が起こらないと共に、架橋剤が合理的な濃度以下まで消費されると前記架橋結合反応が停止する。
【0065】
前記架橋ヒアルロン酸の劣化においては、架橋結合反応の後、アルカリ条件にて起こる加水分解により、前記架橋ヒアルロン酸が深黄色又は深褐色となり、最終生成物を著しく壊滅させるてしまう。尚、この発明においては、僅かに黄色又は褐色がかった架橋ヒアルロン酸が使用可能なものとする。、即ち、この発明においては、架橋ヒアルロン酸を僅かな黄色又は僅かな褐色を帯びるものにする反応は、前記架橋ヒアルロン酸の劣化と定義したものではない。
【0066】
前記「架橋剤が合理的な濃度以下まで消費される」とは、架橋剤が例えば、1ppm以下、2ppm以下、3ppm以下、4ppm以下、5ppm以下、10ppm以下、15ppm以下又は20ppm以下など、この後の工程に適用できる濃度まで消費されることである。しかしながら、前記消費濃度は、本発明の範囲を制限するためのものではないと共に、本発明における架橋剤は、架橋結合反応のみにより消費されるものではなく、例えば、加水分解反応など他の反応により消費されることもある。尚、本発明の実施例においては、未反応な架橋剤の濃度を1ppm以下、2ppm以下、2〜5ppm以下、10ppm以下、10〜15ppm以下又は15〜20ppm以下に制御することができる。
【0067】
前記反応時間は、3〜28日間、或いは3〜11日間、或いは3〜7日間であることが好ましい。尚、前記反応時間は、前記架橋剤の濃度、塩基の濃度及び反応温度により影響されるものである。
【0068】
更に、前記ポリマーの初期濃度は、2〜40w/v%、或いは10〜30w/v%、或いは15〜20w/v%であることが好ましい。
【0069】
下記の実施例は、さらに本発明を詳細に説明するためのものであり、本発明の請求項の範囲を制限するためのものではない。
【実施例1】
【0070】
実施例1においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.5N’であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,2,7,8−ジエポキシオクタン)の濃度が1v/v%である。
【0071】
工程においては、8.9mLの脱イオン水と、1mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,2,7,8−ジエポキシオクタンと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による2gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌した後、セ氏30度の恒温容器において下記表1に記載される反応時間に従って保存する。
【0072】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.2mLのpH値が7.0±0.2の0.073Mのリン酸緩衝溶液及び0.8mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0073】
また、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を測定する方法は、ヒアルロニダーゼを用いる加水分解反応ステップと、前記非特許文献2による方法を用いるステップとを有し、架橋ヒアルロン酸において自由状態の官能基を有する架橋剤の総量が1〜300ppmである場合においては、上述の方法に対して校正を行うと、良い線形関係を示す。
【0074】
その後、0.1gの架橋ヒアルロン酸を50mLの容量のフラスコに入れ、架橋ヒアルロン酸を溶解させるために、3mLの6Nの硫酸溶液をさらに加え、架橋ヒアルロン酸が溶解した時、さらに脱イオン水を前記用量フラスコの目盛りまで加え、第4.0版ヨーロッパ薬局方(2002)に記載の方法を用いてグルクロン酸を測定し、架橋ヒアルロン酸の含量を算出する。尚、異なる反応時間に対する架橋ヒアルロン酸の含量と、自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【実施例2】
【0075】
実施例2においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.5N’であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,3−ブタジエンジエポキシド)の濃度が1v/v%である。
【0076】
実施例2においては前記実施例1の方法が適用されるが、架橋剤に1,3−ブタジエンジエポキシドが用いられる。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【実施例3】
【0077】
実施例3においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.25N’であり、低反応温度がセ氏10度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0078】
工程においては、9.4mLの脱イオン水と、0.5mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による2gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏10度の恒温容器において下記表1に記載される反応時間に従って保存する。
【0079】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.6mLのpH値が7.0±0.2の0.1Mのリン酸緩衝溶液及び0.4mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0080】
その後、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【実施例4】
【0081】
実施例4においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.25N’であり、低反応温度がセ氏20度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0082】
実施例4においては前記実施例3の方法が適用されるが、実施例3とは異なる温度が低反応温度として設定される。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【実施例5】
【0083】
実施例5においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.25N’であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0084】
実施例5においては前記実施例3の方法が適用されるが、実施例3とは異なる温度が低反応温度として設定される。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【実施例6】
【0085】
実施例6においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.2N’であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0086】
工程においては、9.5mLの脱イオン水と、0.4mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による2gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏30度の恒温容器において下記表1に記載される反応時間に従って保存する。その後、前記架橋ヒアルロン酸を、79.68mLのpH値が7.0±0.2の0.1Mのリン酸緩衝溶液及び0.32mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0087】
その後、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表1に記載される通りである。
【0088】
【表1】

備考:アステリスクは、校正範囲(1〜300ppm)を逸脱していることを示す。
【実施例7】
【0089】
実施例7においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が10w/v%であり、塩基の濃度が0.05N’であり、高反応温度がセ氏50度であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0090】
工程においては、9.8mLの脱イオン水と、0.1mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による1gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏50度の恒温容器において7時間保存すると共に、セ氏30度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0091】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、9.87mLの脱イオン水、20mLのpH値が7.0±0.2の0.15Mのリン酸緩衝溶液及び0.13mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を、動物の生理条件に好適な程度に調整してから、架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0092】
その後、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例8】
【0093】
実施例8においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.5N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏25度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0094】
工程においては、8.9mLの脱イオン水と、1mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による2.0gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において3時間保存すると共に、セ氏25度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0095】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.2mLのpH値が7.0±0.2の0.073Mのリン酸緩衝溶液及び0.8mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0096】
その後、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例9】
【0097】
実施例9においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.5N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏25度であり、架橋剤(1,2,7,8−ジエポキシオクタン)の濃度が1v/v%である。
【0098】
実施例9においては、前記実施例8の方法が適用されるが、架橋剤に1,2,7,8−ジエポキシオクタンが用いられる。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例10】
【0099】
実施例10においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%(10w/v%のHHA及び10w/v%のLHA)であり、塩基の濃度が0.25N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏10度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が0.6v/v%である。
【0100】
工程においては、9.44mLの脱イオン水と、0.5mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.06mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による1gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)と、低分子量ヒアルロン酸(LHA,平均分子量が440,000であるもの)による1gの低分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において4時間保存すると共に、セ氏10度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0101】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.6mLのpH値が7.0±0.2の0.1Mのリン酸緩衝溶液及び0.4mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0102】
更に、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例11】
【0103】
実施例11においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が30w/v%(15w/v%のHHA及び15w/v%のLHA)であり、塩基の濃度が0.25N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏25度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が0.6v/v%である。
【0104】
工程においては、9.44mLの脱イオン水と、0.5mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.06mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による1.5gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)と、低分子量ヒアルロン酸(LHA,平均分子量が440,000であるもの)による1.5gの低分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において4時間保存すると共に、セ氏25度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0105】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.6mLのpH値が7.0±0.2の0.10Mのリン酸緩衝溶液及び0.4mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0106】
更に、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例12】
【0107】
実施例12においては、低分子量ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.25N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏25度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0108】
実施例12においては、前記実施例11の方法が適用されるが、2g(乾燥重量)の低分子量ヒアルロン酸ナトリウムが用いられる。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例13】
【0109】
実施例13においては、ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%(10w/v%のHHA及び10w/v%のLHA)であり、塩基の濃度が0.25N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏25度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が0.1v/v%である。
【0110】
工程においては、9.49mLの脱イオン水と、0.5mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.01mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による1.0gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)と、低分子量ヒアルロン酸(LHA,平均分子量が440,000であるもの)による1.0gの低分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において4時間保存すると共に、セ氏25度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0111】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.6mLのpH値が7.0±0.2の0.10Mのリン酸緩衝溶液及び0.4mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0112】
更に、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例14】
【0113】
実施例14においては、低分子量ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が20w/v%であり、塩基の濃度が0.2N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏30度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が1v/v%である。
【0114】
工程においては、9.5mLの脱イオン水と、0.4mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、低分子量ヒアルロン酸(LHA,平均分子量が440,000であるもの)による2.0gの低分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において4時間保存すると共に、セ氏30度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0115】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.68mLのpH値が7.0±0.2の0.10Mのリン酸緩衝溶液及び0.32mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0116】
更に、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【実施例15】
【0117】
実施例15においては、高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が10w/v%であり、カルボキシメチルセルロース(CMC、ナトリウム塩)の濃度が10w/v%、塩基の濃度が0.3N’であり、高反応温度がセ氏40度であり、低反応温度がセ氏20度であり、架橋剤(1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル)の濃度が0.6v/v%である。
【0118】
工程においては、9.34mLの脱イオン水と、0.6mLの5Nの水酸化ナトリウム溶液と、0.4gの塩化ナトリウムと、0.1mLの1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテルと、高分子量ヒアルロン酸(HHA,平均分子量が1,350,000であるもの)による1.0gの高分子量ヒアルロン酸ナトリウム(乾燥重量)と、1.0g(乾燥重量)のカルボキシメチルセルロース(ナトリウム塩)とを、室温で電磁撹拌機により5分間持続的に撹拌してから、セ氏40度の恒温容器において4時間保存すると共に、セ氏20度の恒温容器において下記表2に記載される反応時間に従って保存する。
【0119】
そして、前記架橋ヒアルロン酸を、79.50mLのpH値が7.0±0.2の0.01Mのリン酸緩衝溶液及び0.5mLの6Nの塩化水素溶液に加え、pH値及び浸透圧を動物の生理条件に好適な程度に調整してから、この架橋ヒアルロン酸を均一化させる。
【0120】
更に、自由状態の官能基を有する架橋剤の総量を、前記実施例1と同様の方法により測定する。但し、加水分解酵素には、ヒアルロニダーゼとセルラーゼ(celluclast 1.5L、Novo Nordisk Ferment Ltd.)とからなる混合物が用いられる。尚、異なる反応時間に対応する架橋ヒアルロン酸の含量及び自由状態の官能基を有する残留の架橋剤の含量は夫々、下記表2に記載される通りである。
【0121】
また、架橋結合反応の反応時間が2日を越える場合には、前記架橋ヒアルロン酸を動物に応用することができる。
【0122】
【表2】


備考:アステリスクは、校正範囲(1〜300ppm)を逸脱していることを示す。
【0123】
実施例15においては、前記架橋ヒアルロン酸における高分子量ヒアルロン酸ナトリウムの濃度が1w/v%、カルボキシメチルセルロースの濃度が1w/v%である。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明は上記の構成を有することから、自由状態の官能基を有する架橋剤の濃度を低減させることにより、精製工程の必要性を低減させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ条件において、セ氏10〜30度の低温で、48時間以上の反応時間をかけて1種類又は複数種類のポリマーと架橋剤とを架橋結合させることにより、架橋ヒアルロン酸を形成させるステップを有し、該ポリマーは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、それらの誘導体、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項2】
前記ヒアルロン酸塩がヒアルロン酸ナトリウム、ヒアルロン酸カリウム、ヒアルロン酸亜鉛からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ条件が0.05〜1.5N’であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ条件が無機酸によるものであることを特徴とする請求項1に記載の 架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項5】
前記無機酸が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項4に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項6】
前記架橋剤が多官能性エポキシド化合物であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項7】
前記架橋剤が二官能性エポキシド化合物であることを特徴とする請求項6に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項8】
前記架橋剤が1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリポロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,3−ブタジエンジエポキシド、それらの混合物からなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項7に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項9】
前記架橋剤の濃度が0.05〜2w/v%であることを特徴とする請求項6に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項10】
前記低温がセ氏15〜30度であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項11】
前記低温がセ氏20〜30度であることを特徴とする請求項10に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項12】
前記反応時間が3〜28日間であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項13】
前記ポリマーの濃度が2〜40w/v%であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項14】
前記低温で架橋結合を行うステップの前に、さらに、セ氏35〜60度の高温で架橋結合反応を行うステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項15】
前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋ヒアルロン酸に透析手段を施すステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項16】
前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋結合反応を行うことにより、非中性の元の反応環境を中和させるためのステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項17】
前記低温で架橋結合を行うステップの後に、さらに、前記架橋ヒアルロン酸を均一化させるステップを有することを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項18】
前記架橋ヒアルロン酸において、自由状態の官能基を有する架橋剤の含量が20ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項19】
前記ポリマーの含量が、5〜60mg/mL以下であることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項20】
前記誘導体がカルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸塩、コンドロイチン−4−サルフェート、コンドロイチン−6−サルフェート、キサンタンガム、キトサン、ペクチン、寒天、カラギーナン、グアールガムからなる群より選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。
【請求項21】
前記反応時間が3〜28日間であることを特徴とする請求項3に記載の架橋ヒアルロン酸の製造方法。

【公開番号】特開2010−77434(P2010−77434A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−219164(P2009−219164)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(509265450)科妍生物科技股▲分▼有限公司 (1)
【Fターム(参考)】