説明

架橋フルオロポリマー網目構造

開示されているのは、ジアクリレートフルオロポリマーのフリーラジカル開始架橋により形成される架橋フルオロポリマー網目構造である。ジアクリレートコポリマーは、式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCR’=CH2のものであり、式中、Rは、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択され、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4であり、このオリゴマーは、1000〜25,000ダルトンの数平均分子量を有する。フリーラジカル源は、光開始剤または有機過酸化物であってよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリレート基をポリマー主鎖の両端に有するフルオロポリマーのフリーラジカル開始反応により形成される架橋フルオロポリマー網目構造に関する。
【背景技術】
【0002】
エラストマーフルオロポリマー(すなわち、フルオロエラストマー)は、熱、気候、油、溶剤および化学薬品の影響に対して優れた抵抗性を示す。かかる材料は、市販されており、最も一般的には、フッ化ビニリデン(VF2)と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)のコポリマーか、VF2、HFPおよびテトラフルオロエチレン(TFE)のコポリマーである。
【0003】
その他の一般的なフルオロエラストマーとしては、TEFと、エチレン(E)またはプロピレン(P)等の1種類以上の炭化水素オレフィンのコポリマー、同じく、TFEと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)等のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)のコポリマーが挙げられる。
【0004】
多くのフルオロエラストマーは、効率的に架橋するために、そのポリマー鎖に硬化部位モノマーを組み込むことを必要とする(Logothetis,A.L.,Prog.Polym.Sci.,Vol.14,251−296頁(1989年);A.Taguetら、Advances in Polymer Science,Vol.184、127−211頁(2005年))。かかる硬化部位モノマーなしでは、フルオロエラストマーは、硬化剤と全く反応しない、部分的にのみしか反応しない、あるいは、工業規模で用いるには反応が遅すぎる恐れがある。架橋の十分でないエラストマーから作製されたシールは、そうでない場合に予期されるよりも早期に破損してしまうことが多い。残念ながら、現在用いられている硬化部位モノマーおよび硬化剤の多くは不利なことに結び付いている。例えば、ある硬化剤(例えば、ジアミン)は毒性である。反応性臭素またはヨウ素原子を含有する硬化部位モノマーは、環境に有害な副生成物を硬化反応中に放出する可能性がある。他の硬化部位モノマー(例えば、分子の両端に二重結合を含有するもの)は、あまりにも反応性で、重合速度を変える、重合を終わらせる、または望ましくない鎖の分岐を生じさせる、あるいは、ゲル化さえ生じさせることにより、フルオロエラストマーの重合を妨げる恐れがある。最後に、硬化部位モノマーを、フルオロエラストマーポリマー鎖へ組み込むことは、フルオロエラストマーの特性(物理的特性と耐化学性の両方)に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0005】
環境に優しく、重合を妨害せず、フルオロエラストマーの特性を損なわない新たなフルオロエラストマー硬化系が当該技術分野において必要とされている。
【0006】
フッ化ビニリデン(VF2)と、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)のテレケリック(telechelic)二官能性低分子量(数平均分子量1000〜25,000ダルトン)のコポリマーおよびテトラフルオロエチレン(TFE)とPMVEの二官能性コポリマーは、米国特許出願公開第20090105435A1号明細書に開示されている。官能基は、コポリマーの主鎖の各端部に位置している。開示された官能基としては、ヨウ素、アリル、ヒドロキシル、カルボキシルおよびニトリルが挙げられる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アクリレート基をそのポリマー主鎖の各端部に有するフルオロポリマーのフリーラジカル開始反応により形成される架橋フルオロポリマー網目構造である。
【0008】
従って、本発明の態様は、
A)式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2(式中、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4、Rは、1000〜25,000ダルトンの数平均分子量を有し、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択されるオリゴマー)のテレケリックジアクリレートコポリマーを提供し、
B)前記ジアクリレートコポリマーを、光開始剤および有機過酸化物からなる群から選択されるフリーラジカル源と混合して、硬化性組成物を形成し、かつ
C)フリーラジカルを生成して、架橋フルオロポリマー網目構造を形成すること
を含む、架橋フルオロポリマー網目構造を製造する方法である。
【0009】
本発明の他の態様は、
A)式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2(式中、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4、Rは、1000〜25,000ダルトンの数平均分子量を有し、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択されるオリゴマー)のジアクリレートコポリマーを提供し、
B)前記ジアクリレートコポリマーを、光開始剤および有機過酸化物からなる群から選択されるフリーラジカル源と混合して、硬化性組成物を形成し、かつ
C)フリーラジカルを生成して、架橋フルオロポリマー網目構造を形成すること
を含む方法により製造された架橋フルオロポリマー網目構造である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、架橋フルオロポリマー網目構造、および前記網目構造の製造方法に関する。
【0011】
本発明の架橋網目構造を製造するのに用いるフルオロポリマーは、ポリマー主鎖の各端部にアクリレートまたはメタクリレート基を有する。「主鎖」とは、共重合モノマー単位の最長鎖を意味し、すなわち、側鎖や分岐ではない。
【0012】
本発明で用いるテレケリックジアクリレートフルオロポリマーは、式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2を有し、式中、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4(好ましくは、2または3)、Rは、1000〜25,000ダルトン、好ましくは、1200〜12,000ダルトン、最も好ましくは、1500〜5000ダルトンの数平均分子量を有するオリゴマーである。オリゴマーRは、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択される。炭化水素オレフィンとしては、エチレン(E)およびプロピレン(P)が挙げられる。任意で、オリゴマーRは、他の2つのコモノマーとは異なる少なくとも1つの追加のコモノマーをさらに含んでいてよい。かかる追加のコモノマーとしては、これらに限られるものではないが、フッ化ビニリデン(VF2)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)が例示される。
【0013】
フルオロポリマー(およびそれらを製造するのに用いられるジオール)に用いてよいオリゴマーの具体例としては、これらに限られるものではないが、TFE/PMVE、VF2/PMVE、VF2/TFE/PMVE、TFE/PMVE/E、VF2/HFP、VF2/HFP/TFE、TFE/PおよびTFE/P/VF2が挙げられる。
【0014】
本発明で用いるテレケリックジアクリレートフルオロポリマーは、A)式HO−(CH2n−R−(CH2n−OH(式中、nおよびRは、上記に定義したとおり)のジオールを提供し、かつB)前記ジオールを、アクリロイルハロゲン化物またはメタクリロイルハロゲン化物(例えば、塩化アクリロイルまたは塩化メタクリロイル)と反応させて、式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2(式中、R’は、H(アクリロイルハロゲン化物を用いる場合)または−CH3(メタクリロイルハロゲン化物を用いる場合)のジアクリレートコポリマーを形成することを含む方法により製造してよい。
【0015】
式HO−(CH2n−R−(CH2n−OHのジオールは、米国特許出願公開第20090105435A1号明細書に一般的に記載されているようにして調製される式I−R−Iの対応のα,ω−ジヨードオリゴマーで始まる多工程プロセスから製造してもよい。テレケリックジヨードオリゴマーは、ラジカル開始剤を存在させたエチレン(またはアリルアルコール、続いてヨウ素原子の選択的還元)との反応により、エチレン化(またはアリル化)してもよい。その後、得られるオリゴマーを加水分解してジオールを形成してよい。
【0016】
本発明の架橋フルオロポリマー網目構造は、フルオロポリマーの末端アクリレート基によるラジカル架橋反応を開始するために、ジアクリレートフルオロポリマーを、フリーラジカル源に露出することにより製造される。フリーラジカル源は、UV感光性ラジカル開始剤(すなわち、光開始剤またはUV開始剤)または有機過酸化物の熱分解物であってよい。好適な光開始剤および有機過酸化物は、フルオロエラストマー業界で周知されている。
【0017】
光開始剤の具体例としては、これらに限られるものではないが、Darocur(登録商標)1173、Irgacure(登録商標)819およびIrgacure(登録商標)907(Ciba Specialty Chemicalsより入手可能)が挙げられる。
【0018】
有機過酸化物の具体例としては、これに限られるものではないが、t−ブチルパーオキシピバレートが挙げられる。
【0019】
任意で、ジアクリレートフルオロポリマーおよびフリーラジカル源を含有する組成物は、フリーラジカル生成前に成形してもよい。
【0020】
ジアクリレートフルオロポリマーおよびフリーラジカル源を含有する組成物は、フルオロポリマーとラジカル源を、2本ロールミルや内部ミキサー等の通常のゴム業界のミキサーで混合することにより製造してよい。任意で、ゴム業界で一般的に用いられるフィラー(例えば、カーボンブラック、ミネラルフィラー、フルオロポリマー微粉末等)、着色剤、加工助剤等のその他の成分を組成物に含めてよい。
【0021】
架橋は、フルオロポリマー組成物を、UV放射線に露光する(光開始剤を用いる場合)、または過酸化物を分解するのに十分な熱に露出する(有機過酸化物を用いる場合)ことによりなされる。任意で、フルオロポリマー組成物は、光開始剤と有機過酸化物の両方を含有していてよく、すると、UV放射線と熱の両方を用いて、フルオロポリマーが架橋される。
【0022】
本発明の架橋フルオロポリマー網目構造は、良好な可撓性、耐化学性および熱特性を有する耐久性のあるコーティングおよびフィルムとして有用である。
【実施例】
【0023】
試験方法
非架橋テレケリックフルオロポリマーの数平均分子量(Mn)は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により求めた。試料をTHFに溶解した。Polymer Laboratories製の2つのPLgel 5μm Mixed−Cカラムを備えたSpectra−PhysicsクロマトグラフおよびSpectra Physics SP8430屈折率(RI)およびUV検出器で分析を行った。テトラヒドロフラン(THF)を、溶離剤として、0.8mL分-1の流速で用いた。基準は、Polymer Laboratoriesまたは他の供給業者から購入した単分散ポリ(スチレン)(PS)またはポリ(メチルメタクリレート)であった。
【0024】
フルオロポリマーおよびオリゴマー組成および微細構造を、F19および1H NMRスペクトル分析により求めた。NMRスペクトルは、重水素化アセトンを溶媒として、テトラメチルシラン(TMS)(またはCFCl3)を1H(または19F)核のリファレンスとして用いて、Bruker AC400(400MHz)機器で記録した。結合定数および化学シフトを、それぞれ、Hzとppmで示す。1H(または19F)NMRスペクトルの実験条件は次のとおりであった。フリップ角90°(または30°)、収集時間4.5秒(または0.7秒)、パルス遅延2秒(または5秒)、スキャン回数16(または64)および19F NMRについてパルス幅5μs。
【0025】
実施例で用いたテレケリックジアクリレートフルオロポリマーは、以下の手順により製造した。
FP1、CH2=CHCOO−(CH22−R−(CH22−OOCCH=CH2(式中、Rは、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[すなわち、ポリ(VF2−コ−PMVE)]
【0026】
フルオロポリマー製造方法で用いたジオールオリゴマーは、式I−(VF2−コ−PMVE)−Iのテレケリックジヨードオリゴマーで始まる多工程プロセスから製造した。後者は、米国特許出願公開第20090105435A1号明細書に開示されたプロセスにより製造された。このジヨードオリゴマーは、71.5モル%のVF2および28.5モル%のPMVEを含有し、2500ダルトンの数平均分子量を有していた。
【0027】
ジヨードオリゴマーのエチレン化:
入口および出口バルブ、マノメータおよび大気放出板を備えた160mLのHastelloy(HC−276)オートクレーブを脱気し、30バールの窒素で加圧して、漏れを確認した。次に、0.5mmHgの真空で、5分間操作した後、アルゴン雰囲気を適用した。オートクレーブ脱気のかかる手順を5回繰り返した。真空下、5.0g(2.87×10-2モル)のt−ブチルパーオキシピバレート(TBPPi)、50mLのt−ブタノールおよび100.0g(0.077モル)の上述したテレケリックジヨードオリゴマーをオートクレーブに移した。6.0gのエチレン(0.214モル)をオートクレーブに入れた。次に、オートクレーブを75℃まで徐々に加熱した。発熱を、約10℃、15バールから18バールへの圧力上昇、続いて、14バールまでの16時間にわたる圧力降下で観察した。反応後、オートクレーブを氷浴に、約60分間入れ、0.5gの未反応のエチレンを徐々に放出した。オートクレーブを開いた後、反応混合物を100mlのブタノンに溶解し、それぞれ分液漏斗において蒸留水(2×100ml)、Na225溶液(100ml)および塩水(100ml)で洗った。次に、有機相を、MgSO4で乾燥し、焼結ガラス(G4)を通してろ過した。有機溶媒を、ロータリ真空エバポレータにより、40℃で、10mmHgまで圧力を減じて除去した。得られた淡黄色の粘性液体を40℃で、0.01ミリバールの真空で一定重量になるまで乾燥した。反応収率は91%であった。生成物を、1H NMRおよび19F NMRスペクトル分析により分析した。末端−CF2I(約−39ppm)に対応するシグナルがないということは、テレケリックジヨードポリ(VF2−コ−PMVE)のエチレン化オリゴマーへの定量的変換を示していた。
【0028】
エチレン化コポリマーの加水分解:
還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた250mlの2口丸底フラスコに、61.6g(0.044モル)の上記したとおりに合成したエチレン化生成物および80.4g(1.1モル)のDMFを入れた。次に、混合物を窒素で20分間パージし、4.0gの水を、隔壁を通して加えた。反応物を120℃まで加熱し、一晩攪拌した。14時間後、粗生成物(反応混合物)を室温まで冷やし、メタノール(70g)中H2SO4(25g)の混合物を滴下して加えた。反応物を室温で24時間保った。次に、反応混合物を、蒸留水(3×100ml)および酢酸エチル(200ml)で分液漏斗において洗った。有機相を、MgSO4で乾燥し、焼結ガラス(G4)を通してろ過した。酢酸エチルおよび微量のDMFを、ロータリ真空エバポレータ(40℃/20mmHg)により除去した。得られた褐色の粘性液体を40℃で、0.01ミリバールで一定重量になるまで乾燥した。生成物(収率74%)を、1H NMRおよび19F NMRスペクトル分析により分析した。
【0029】
アクリレートへの変換:
還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた250mlの2口丸底フラスコに、100mlのTHF(乾燥)に溶解した25.0g(19.2ミリモル)の上記したとおりに合成したジオールおよび12gのポリ(ビニルピリジン)を入れた。反応混合物を窒素雰囲気下、0℃まで冷却し、20mg(0.18ミリモル)のヒドロキノンを加えた。塩化アクリロイルを、隔壁を通して、シリンジにより、6時間の間隔で、次の4回の投与量(それぞれ4g、4g、2g、4g)で加えた。追加の10gのポリ(ビニルピリジン)を反応混合物に添加した。1回目の投与量で塩化アクリロイルを添加後、反応温度を40℃で48時間の間にわたって保った。ポリ(ビニルピリジン)を、焼結ガラスG4を通してろ過することによって除去した。次に、ブタノン/水(1/1)混合物を加えてから、水で洗った。有機層を、MgSO4で乾燥してから、焼結ガラス(G4)を通してろ過した。溶媒および過剰の塩化アクリロイルを、ロータリ真空エバポレータ(40℃/20mmHg)を用いて除去した。得られた褐色の粘性液体を40℃で、0.01ミリバールの真空で一定重量になるまで乾燥した。生成物(収率81%)を、1Hおよび19F NMRスペクトル分析により分析した。
【0030】
FP2、CH2=CHCOO−(CH23−R−(CH23−OOCH=CH2(式中、Rは、ポリ(フッ化ビニリデン−コ−パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[すなわち、ポリ(VF2−コ−PMVE)コポリマー]
【0031】
テレケリックビス−ヨードヒドリンへの変換:
還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた100mlの2口丸底フラスコに、10.5g(6ミリモル)の上記したテレケリックI−(VF2−コ−PMVE)−I、2.05g(34.4ミリモル)のアリルアルコールおよび50mlのCH3CNを入れた。次に、フラスコを80℃まで加熱した。AIBN(2,2’アゾビスイソブチロニトリル)を、30分の添加間隔で、10回の投与量(それぞれ20mg)で加えた。窒素雰囲気下、80℃で21時間、反応を行った。室温(約25℃)まで冷やした後、反応混合物を、綿を通してろ過してから、溶媒および過剰のアリルアルコールを、ロータリ真空エバポレータ(40℃/20mmHg)で除去した。得られた黄みがかった粘性液体を一定重量になるまで乾燥した(40℃/0.01ミリバール)。生成物(収率93%)を、1Hおよび19F NMR、ならびにFT−IRスペクトル分析により分析した。
【0032】
フッ素化テレケリックジ−ヨードヒドリンのビス(プロピルアルコール)への還元:
還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた250mlの3口丸底フラスコに、11.5g(6.6ミリモル)の上記したとおりに調製したテレケリックビス−ヨードヒドリン、4.8g(16.5ミリモル)のBu3SnHおよび50mlのCH3CNを入れた。次に、フラスコを70℃まで加熱した。AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)を、60分の添加間隔で、10回の投与量(それぞれ55mg)で加えた。窒素雰囲気下、70℃で12時間、反応を行った。室温まで冷やした後、0.6gのKFを50mlのEt2Oと共に加えた。次に、反応物を約25℃で24時間攪拌した。反応混合物を、焼結ガラス(G5)を通してろ過し、Bu3SnK、Bu3SnFまたはBu3SnI等の白色固体を除去した。溶媒を、ロータリ真空エバポレータ(40℃/20mmHg)で除去した。粗生成物を50mlのブタノンに溶解し、水(2×50ml)で洗った。有機層をMgSO4で乾燥し、焼結ガラス(G4)を通してろ過した。ブタノンがロータリ真空エバポレータにより部分的に除去され、残渣はペンタンから沈殿した。12時間4℃で冷却した後、沈殿した生成物から、ペンタンをデカンテーションにより慎重に除去した。残渣溶媒を、ロータリ真空蒸発装置(40℃/20mmHg)により除去した。得られた淡黄色の粘性液体を一定重量になるまで乾燥した(40℃/0.01ミリバール)。生成物(全体収率91%)を、1Hおよび19F NMR、ならびにFT−IRスペクトル分析により分析した。デカンテーションしたペンタンもまた蒸発させて、低分子量分画の所望のポリマーを得た。
【0033】
ジオールのアクリル化:
還流冷却器およびマグネチックスターラーを備えた100mlの3口丸底フラスコに、5.03g(3.33ミリモル)の上記したとおりに調製したテレケリックビス(プロピルアルコール)−ポリ(VF2−コ−PMVE)、25mlのTHF、4.5gのポリ(ビニルポリピロリドン)、5mg(0.045ミリモル)のヒドロキノンを入れ、0℃まで冷却した。次に、塩化アクリロイル(4.456g、4ml、50ミリモル)を、3回の投与量(2ml、1mlおよび1ml)で滴下して加えた。塩化アクリロイルの1回目の添加後、反応温度を40℃まで上げ、2回の続く添加は、5および22時間の経過時間後に完了した。次に、添加量のポリ(ビニルポリピロリドン)(4.5g)を反応混合物に加えた。窒素雰囲気下、40℃で48時間、反応を行った。室温まで冷やした後、反応混合物を、焼結ガラス(G4)を通してろ過し、ポリ(ビニルポリピロリドン)を除去した。ろ過したポリ(ビニルポリピロリドン)をTHFで洗った。溶媒がロータリ蒸発装置で部分的に除去され、残渣はペンタン中で沈殿した。4℃で12時間後、ペンタンを慎重にデカンテーションしたところ、沈殿生成物が残った。残渣溶媒を、ロータリ蒸発装置(40℃/20mmHg)により除去した。得られた淡黄色の粘性液体を一定重量になるまで乾燥した(40℃/0.01ミリバール)。生成物(全体収率91%)を、1Hおよび19F NMRにより分析した。デカンテーションしたペンタンもまた蒸発したところ、低収率(7%)の低分子量分画の所望のポリマーが戻った。
【0034】
実施例1
架橋フルオロポリマー網目構造を形成するためのジアクリル化フルオロポリマーFP1のUV硬化を、Applied Curing Technology Ltd.,UKより入手可能な「UV−系」を用いて行った。用いた条件は、コンベヤー速度10cm/分、UVランプHおよびD、コンベヤーからのランプ距離=10cm、λ=220〜320nm、パラボリックビーム、ビーム密度ρ=240W/cm2、1パス=2.2秒であった。
【0035】
ジアクリル化フルオロポリマーおよび光開始剤をバルクで混合することにより、FP1および光開始剤を含有する硬化性組成物を製造した。試験するFP1および光開始剤の混合物をアルミニウムパンで鋳造することにより、試験用の異なる厚さのフィルムを作製した。処方、フィルム厚、硬化条件および得られるフィルムにおける架橋度の目視評価を表Iに示す。「良」、「可」および「不可」という用語は、それぞれ、非常に良好に架橋した、好適に架橋した、および架橋が乏しいことを指す。非架橋フィルムは、オクタンに完全に可溶であるが、高架橋フィルムはそうではない。UV放射線で処理したフィルムにおける架橋度は、16時間攪拌後、25℃、オクタン中で処理したフィルムの溶解度を評価することにより求めた。完全に可溶なフィルムは、架橋不可、部分可溶フィルムは架橋可および不溶フィルムは架橋良と表Iに示されている。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2
架橋フルオロポリマー網目構造を形成するためのジアクリル化フルオロポリマーFP2のUV硬化を、F300S/F300SQ UV機(Fusion UV Systems Inc.,USA)を用いて行った。用いた条件は、200〜600nmのUV範囲および700Wの出力、コンベヤーベルトを備えていた(1パス=1.1秒)。
【0038】
ジアクリル化フルオロポリマーおよび光開始剤をバルクで混合することにより、FP2および光開始剤を含有する硬化性組成物を製造した。試験するFP2および光開始剤の混合物をアルミニウムパンで鋳造することにより、試験用の異なる厚さのフィルムを作製した。処方、フィルム厚、硬化条件および得られるフィルムにおける架橋度の目視評価(実施例1で用いたのと同じ試験)を表IIに示す。表IIには、オクタン中の架橋フィルムの膨潤についてのデータ(パーセント重量変化)も含まれている。用いた膨潤試験方法は、1cm2の表面積および2mmの厚さの架橋フィルム試料を、10mlのオクタンに浸漬するものであった。フィルムを、表IIに示した温度および指定した時間で浸漬した。パーセント重量(wt.)変化は、100(m1−m2)/m2で定義された。式中、m1およびm2は、それぞれ、膨潤試料のwt.および乾燥試料のwt.である。
【0039】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2(式中、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4、Rは、1000〜25,000ダルトンの数平均分子量を有し、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択されるオリゴマー)のテレケリックジアクリレートコポリマーを提供し、
B)前記ジアクリレートコポリマーを、光開始剤および有機過酸化物からなる群から選択されるフリーラジカル源と混合して、硬化性組成物を形成し、かつ
C)フリーラジカルを生成して、架橋フルオロポリマー網目構造を形成すること
を含む、架橋フルオロポリマー網目構造を製造する方法。
【請求項2】
nが、2または3である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オリゴマーが、1200〜12,000ダルトンの数平均分子量を有する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記オリゴマーが、1500〜5000ダルトンの数平均分子量を有する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴマーが、i)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ii)テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびエチレン、iii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレン、ならびにiv)テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびプロピレン、からなる群から選択される共重合単位を含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記フリーラジカル源が、光開始剤であり、フリーラジカルが、前記硬化性組成物をUV光に露光することにより生成される請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フリーラジカル源が、有機過酸化物であり、フリーラジカルが、前記硬化性組成物を加熱して、前記有機過酸化物を分解することにより生成される請求項1に記載の方法。
【請求項8】
A)式CH2=CR’COO−(CH2n−R−(CH2n−OOCCR’=CH2(式中、R’は、Hまたは−CH3、nは、1〜4、Rは、1000〜25,000ダルトンの数平均分子量を有し、i)フッ化ビニリデンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ii)フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの共重合単位を含むオリゴマー、iii)テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)の共重合単位を含むオリゴマー、ならびにiv)テトラフルオロエチレンおよび炭化水素オレフィンの共重合単位を含むオリゴマーからなる群から選択されるオリゴマー)のジアクリレートコポリマーを提供し、
B)前記ジアクリレートコポリマーを、光開始剤および有機過酸化物からなる群から選択されるフリーラジカル源と混合して、硬化性組成物を形成し、かつ
C)フリーラジカルを生成して、架橋フルオロポリマー網目構造を形成すること
を含む方法により製造された架橋フルオロポリマー網目構造。
【請求項9】
nが、2または3である請求項8に記載の架橋フルオロポリマー網目構造。
【請求項10】
前記オリゴマーが、1200〜12,000ダルトンの数平均分子量を有する請求項8に記載の架橋フルオロポリマー網目構造。
【請求項11】
前記オリゴマーが、1500〜5000ダルトンの数平均分子量を有する請求項10に記載の架橋フルオロポリマー網目構造。
【請求項12】
前記オリゴマーが、i)フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンおよびパーフルオロ(メチルビニルエーテル)、ii)テトラフルオロエチレン、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)およびエチレン、iii)フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンおよびテトラフルオロエチレン、ならびにiv)テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびプロピレン、からなる群から選択される共重合単位を含む請求項8に記載の架橋フルオロポリマー網目構造。

【公表番号】特表2012−533644(P2012−533644A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520634(P2012−520634)
【出願日】平成22年4月21日(2010.4.21)
【国際出願番号】PCT/US2010/031831
【国際公開番号】WO2011/008320
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【出願人】(511304822)ル ソントル ナショナル ドゥ ラ リシェルシュ シアンティフィーク (5)
【Fターム(参考)】