説明

架橋ポリエチレンを用いた成形物及び電線・ケーブル

【課題】 クローズドサイクルを実現できる架橋ポリエチレンを用いた成形物及び電線・ケーブルを提供する
【解決手段】 架橋ポリエチレンを超臨界アルコール等によって得られた再生ポリエチレンに、ベースポリエチレンに酸化防止剤、銅害防止剤、架橋触媒を加えたマスタバッチを混合した成形物を導体に押出被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋ポリエチレンを超臨界アルコールで低分子化した再生ポリエチレンを再度成形する架橋ポリエチレンを用いた成形物及び電線・ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シラングラフト・水架橋法は、有機過酸化物を用いて架橋を行う化学架橋方式よりも低コストの架橋ポリオレフィン材料として広く用いられている。
【0003】
これは、高温の成形加工機(例えば押出機)中で、少量の有機過酸化物をグラフト反応開始剤として用い、ポリマにビニルアルコキシシランをグラフト共重合した後、高温高湿度雰囲気(または温水中)に電線ケーブルをさらし、ポリマにグラフトしたアルコキシシランの加水分解及び縮合を起こして架橋するものである。
【0004】
このシラン架橋ポリエチレン(XLPE)は、巨大な三次元網目構造をとるため、融点以上に加熱しても形状を保持する耐熱性があり、優れた電気特性を有する材料であるが、反面リサイクルの面からすると、通常の熱可塑性樹脂のように加熱溶融成形ができない問題がある。
【0005】
そこで、架橋ポリマーを超臨界、亜臨界のアルコールを用いて架橋ポリマーのシロキサン結合を切断して低分子化し、これを再生材ペレットとし、この再生PEを用いて絶縁材に再利用することが試みられている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−187976号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、超臨界メタノール中の反応は、シロキサン結合の分解の他に、酸化防止剤のエステル結合の分解やベンゼン環へのメトキシ基付加、ヒドロキシ基のメトキシ化(−OCH3 )も起こるため、架橋ポリマーを低分子化すると同時に添加した酸化防止剤や銅害防止剤等の添加剤も構造が変わる可能性が大きい。このため、得られたXLPE再生材を用いて新たに元の用途である成形物や電線・ケーブルを作製しても使用に耐えうる電線・ケーブルとすることはできず、クローズドサイクルを実現できない問題がある。
【0008】
本発明の目的は、クローズドサイクルを実現できる架橋ポリエチレンを用いた成形物及び電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、架橋ポリエチレンを超臨界アルコール等によって処理して得られた再生ポリエチレンに、酸化防止剤または/及び銅害防止剤を加え、これに架橋触媒を加えた架橋ポリエチレンを用いた成形物である。
【0010】
請求項2の発明は、再生ポリエチレン100重量部に酸化防止剤と銅害防止剤、架橋触媒をそれぞれ0.03重量部以上加えた請求項1記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物である。
【0011】
請求項3の発明は、バージンのポリエチレン100重量部に、酸化防止剤、銅害防止剤、架橋触媒をそれぞれ1重量部以上加えてマスタバッチとし、上記再生ポリエチレン80〜100重量部に、上記マスタバッチを約20〜3重量部加えた請求項1記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物である。
【0012】
請求項4の発明は、再生ポリエチレン20〜95重量部に対し、バージンのポリエチレンを80〜5重量部加えたものを再生ポリエチレンとし、これに酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒とを加えたことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物である。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4いずれかに記載の成形物を、導体に押出被覆したことを特徴とする架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、再生ポリエチレンを用い、これに酸化防止剤または/及び銅害防止剤と、架橋触媒とを加えることで、電線・ケーブル用の材料など元の用途に適した良好な特性を持つ材料を得ることができ、架橋ポリエチレン(XLPE)のクローズドサイクルを実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明の実施形態を説明する。
【0016】
本発明は、架橋ポリエチレンを超臨界アルコール等によって処理して得られた再生ポリエチレンに、酸化防止剤または/及び銅害防止剤を加え、これに架橋触媒を加えて成形物とするものである。
【0017】
再生ポリエチレンは、特許文献1に記載されるようにリサイクルする架橋ポリエチレンをペレット状に加工し、これをメチルアルコールやエチルアルコールと共に超臨界,亜臨界状態にして、シロキサン結合を分解して低分子化して得られるもので、二軸押出機に架橋ポリエチレンのペレットを投入し、二軸押出機の途中からアルコールを注入し、これをアルコールの臨界温度と臨界圧力以上(例えばメチルアルコールの臨界温度239.6℃と臨界圧力8.09MPa、エチルアルコールの臨界温度240.9℃と臨界圧力6.14MPa、n−プロパノールの臨界温度263.7℃と臨界圧力5.1MPa)、或いはその近傍の亜臨界温度、亜臨界圧力として架橋ポリエチレンを低分子化して再生ポリエチレンとする。
【0018】
この超臨界、亜臨界処理を行うと、ベンゼン環へのメトキシ基付加、ヒドロキシ基のメトキシ化(−OCH3 )も起こるため、架橋ポリエチレンに加えられていた酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒の構造が変わってしまい、再生ポリエチレンで押出成形しても諸特性を満たし、かつ外観の良い再生ケーブルを作製することが難しい。
【0019】
そこで、再生ポリエチレンに酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒とを加えることで、再生ケーブルの絶縁材料に元の架橋ポリエチレンと同等の特性を持たせることができる。
【0020】
本発明においては、再生ポリエチレン100重量部に対して酸化防止剤と銅害防止剤、架橋触媒をそれぞれ0.03重量部程度添加する。
【0021】
酸化防止剤としては、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラエキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキル(C12またはC14)チオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)あるいは、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネート、テトラキス(メチレンドデシルチオプロピオネート)メタンなどから選ばれる1種類または2種類以上を混合して用いるが、これに限るものではなく、フェノール系、イオウ系、アミン系、りん系の酸化防止剤を単独または併用して用いることができる。
【0022】
銅害防止剤としては、2,6-Di-tert-butyl-p-cresol(2,6−ジ−ターシャル−ブチル−p−クレゾール)、2,6-Di-tert-butyl-4-methylphenol(2,6−ジ−ターシャル−ブチル−4−メチルフェノール)、3,5-Di-tert-butyl-4-hydroxytoluene(3,5−ジ−ターシャル−ブチル−4−ヒドロキシトルエン)、2,6−Di-tert-butyl-p-cresol(2,6−ジ−ターシャル−ブチル−p−クレゾール)などのフェノール系化合物や、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N-Phenyl-N'-1(N−フェニル−N’−1)、3−dimethylbutyl-p-phenylenediamine(3−ジメチルブチル−p−pフェニレンジアミン)、N-Isopropyl-N'-phenyl-p-phenylenediamine(N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)などのアミン系化合物、イソフタル酸ビス(2フェノキシプロピオニル ヒドラジン)などのヒドラジド、アルコールカルボン酸エステルなどが挙げられる。
【0023】
架橋触媒としては、マグネシウムやカルシウムなどのII族、コバルト、鉄などのVIII族の元素、もしくは亜鉛、Ti等の金属化合物、オクチル酸またはアジピン酸の金属塩、アミン系化合物、酸などが挙げられる。より具体的には、ジブチル錫ジラウリレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクタエート、酢酸第一錫、カブリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、カブリル酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸などの無機酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などの有機酸が使用される。
【0024】
具体的な製造法としては、再生ポリエチレンに、酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒をそれぞれ0.03重量部以上加える代わりに、バージンポリエチレンにあらかじめ酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒を加えてマスタバッチを作製し、再生ポリエチレンに、酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒が、それぞれ0.03重量部以上となるようにマスタバッチを加える。また、再生ポリエチレンには適宜バージンPEを混ぜて用いてもよい。
【0025】
マスタバッチを用いて、酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒を再生ポリエチレンに混合する方法を用いれば分散性が良好となり、再生ポリエチレンで押出成形しても諸特性を満たし、かつ外観の良い再生ケーブルを作製することができる。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を比較例と共に説明する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1の実施例1〜6及び比較例1〜5に示す絶縁組成物を、38mm2 の軟銅撚線上にそれぞれ1.2mm厚さに押し出した。この時の詳細は次の通りである。
【0029】
始めに、ロール混練によって表1に示す配合剤のマスタバッチを作製した。
【0030】
すなわち、ベースPEとしてLLDPE(低密度ポリエチレン)100重量部に酸化防止剤(ペンタエリスリチル−テトラエキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート])、銅害防止剤(イソフタル酸ビス(2フェノキシプロピオニル ヒドラジン))、架橋触媒(ジブチル錫ラウリレート)を混合し、ロール混練にてマスタバッチ(実施例2〜6)とした。但し、実施例1は、マスタバッチを作らず、再生ポリエチレンに酸化防止剤、銅害防止剤、架橋触媒を直接添加し、実施例6は、マスタバッチを作らず、さらに銅害防止剤を添加しない例を示している。
【0031】
また、比較例1〜5として、マスタバッチを作らず再生PEのみ(比較例1)、LLDPEに架橋触媒のみを添加してマスタバッチとしたもの(比較例2、4)、LLDPEに架橋触媒を添加しないでマスタバッチとしたもの(比較例3、5)を用意した。
【0032】
次に、再生PE、または再生PEとベースPEを所定の割合でブレンドして再生PEとしたものに対して、実施例1〜6,比較例1〜5に示すようにマスタバッチを、0,5,20重量部の割合で混合し、これを200℃の130mm押出機に投入した。
【0033】
これをストランド状に押し出してペレタイズした後に、150℃のロール混練機でシート状にし、180℃で5分間のプレス成形を行って材料評価用のシートを作製した。その後、80℃、95%水蒸気の雰囲気に24時間放置して架橋させて試料とした。
【0034】
これらの各試料について、酸化劣化の指標である酸素指数(OIT;酸化誘導期)測定と劣化試験(老化試験)を行った。またゲル分率を測定し、再生配合が架橋ポリエチレンになっているかどうかを確認した。
【0035】
OIT測定は、DSC(示差走査型熱量計)を用い、材料が180℃の酸素雰囲気下で酸化による発熱が始まるまでの時間を測定した。
【0036】
また、老化試験用のサンプルは、プレス成形の際に、1mmシートに成形してJIS C3605の引張試験方法に記載のダンベル3号で打ち抜いて引張試験を行った。
【0037】
老化試験のTS残率(引張強度残率)およびTE残率の合格基準は電線用の絶縁材料として使用することを考慮に入れて設定した。老化試験の残率Rとは老化試験前の特性Sbと老化試験後の特性値Saから以下の式で与えられる。
【0038】
R=Sa/Sb × 100
120℃老化試験後のTS算後のTS残率、TE残率がそれぞれ80%以上、65%以上のものを○、未満のものを×とした。また、135℃老化試験後のTS算後のTS残率、TE残率ともに75〜125%のものを○、それ以外のものを×とした。
【0039】
ゲル分率は110℃キシレン中で24時間抽出した後、80℃で4時間真空乾燥し、抽出乾燥後の重量と抽出前の重量から次式を用いてゲル分率を計算した。
【0040】
ゲル分率(%)=(乾燥後重量/抽出前重量)×100
この結果、ゲル分率20%以上を○、それ以下を×とした。
【0041】
実施例1〜6では全ての特性において合格したが、比較例1〜5では、いずれかの特性において不合格となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリエチレンを超臨界アルコール等によって処理して得られた再生ポリエチレンに、酸化防止剤または/及び銅害防止剤を加え、これに架橋触媒を加えたことを特徴とする架橋ポリエチレンを用いた成形物。
【請求項2】
再生ポリエチレン100重量部に酸化防止剤と銅害防止剤、架橋触媒をそれぞれ0.03重量部以上加えた請求項1記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物。
【請求項3】
バージンのポリエチレン100重量部に、酸化防止剤、銅害防止剤、架橋触媒をそれぞれ1重量部以上加えてマスタバッチとし、上記再生ポリエチレン80〜100重量部に、上記マスタバッチを約20〜3重量部加えた請求項1記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物。
【請求項4】
再生ポリエチレン20〜95重量部に対し、バージンのポリエチレンを80〜5重量部加えたものを再生ポリエチレンとし、これに酸化防止剤と銅害防止剤と架橋触媒とを加えた請求項1〜3いずれかに記載の架橋ポリエチレンを用いた成形物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれかに記載の成形物を、導体に押出被覆したことを特徴とする架橋ポリエチレンを用いた電線・ケーブル。

【公開番号】特開2006−241235(P2006−241235A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56111(P2005−56111)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】