説明

架橋ポリエチレン管の製造方法及びこの製造方法に用いる架橋処理装置

【課題】短時間で未架橋ポリエチレン管を熱水架橋させて架橋ポリエチレン管とすることができるとともに、エネルギーコストも削減できる架橋ポリエチレン管の製造方法及びこの製造方法に用いる架橋処理装置を提供することを目的としている。
【解決手段】熱風装置31から供給される熱風によって加熱空気雰囲気とされた処理槽2内のラック6に未架橋ポリエチレン管Pを載置するとともに、未架橋ポリエチレン管P内に蒸気供給配管4から水蒸気を間欠的に供給して架橋させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給水、給湯用配管材として適した架橋ポリエチレン管の製造方法及びこの製造方法に用いる架橋処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
架橋ポリエチレン管の製造方法として、ポリエチレン系樹脂及び抗酸化剤からなる混合物を押出機に供給し、可塑化した樹脂を、ラジカル発生剤の存在下でシラン化合物をグラフト反応させるとともに、シラノール触媒の存在下でシラノール化促進させ管状に押出成形した後に、得られた未架橋ポリエチレン管を熱水架橋させる方法がある。
そして、従来、この熱水架橋工程においては、未架橋ポリエチレン管に温水を通す方法、得られた未架橋ポリエチレン管を沸点に近い温水内に浸漬させる方法、水蒸気雰囲気中に曝す方法などが行われている(特許文献1,2参照)。
しかし、上記従来の熱水架橋方法では、いずれにしても性能を満たす反応完了まで長時間を要し生産性低下、熱エネルギーが多大となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−84332号公報
【特許文献2】特開平4−292630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みて、短時間で未架橋ポリエチレン管を熱水架橋させて架橋ポリエチレン管とすることができるとともに、エネルギーコストも削減できる架橋ポリエチレン管の製造方法及びこの製造方法に用いる架橋処理装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明にかかる架橋ポリエチレン管の製造方法は、ポリエチレン系樹脂、ビニルシラン化合物、酸化防止剤、シラノール縮合触媒及びラジカル重合開始剤を含む樹脂組成物を押出成形して得られた未架橋ポリエチレン管中に、水蒸気を通して、ポリエチレン系樹脂を架橋する架橋工程を備えることを特徴としている。
【0006】
水蒸気の温度(処理槽の蒸気入口温度)は、95〜120℃が好ましく、100〜110℃がより好ましく、100〜107℃が特に好ましい。
すなわち、水蒸気の温度が低すぎると、管内の蒸気が結露(ドレン化)することにより、管内に結露水が溜まり、管内への蒸気通気不足が発生して均一な火曜が行えなくなるおそれがある。また、架橋時間が長くなるとともに、エネルギー削減効果も不十分なものとなるおそれがある。一方、水蒸気の温度が、高すぎると熱変形などによって得られる架橋ポリエチレン管の寸法精度に問題がでるおそれがある。
【0007】
また、水蒸気は、間欠的に未架橋ポリエチレン管中に供給し、非供給状態のとき水蒸気の出口を封止する供給方法を採ることが好ましい。
すなわち、熱水架橋に必要な水分量の水蒸気のみを供給することが好ましい。
【0008】
水蒸気の圧力(処理槽の蒸気入口の圧力)は、0.1MPa以下が好ましい。
すなわち、水蒸気の圧力は、熱水架橋が行われれば、できるだけ低いことがこのましい。
一方、水蒸気の圧力が高すぎると、得られる架橋ポリエチレン管の寸法精度に問題がでるおそれがある。
【0009】
また、本発明の架橋ポリエチレン管の製造方法において、架橋工程を、処理槽内に未架橋ポリエチレン管を加熱空気雰囲気に保持した状態で行うことが好ましい。
【0010】
加熱空気雰囲気の温度は、特に限定されないが、あまり温度が低すぎると、架橋処理に用いられる水蒸気が管内で結露してしまい、均一な架橋処理が行えなくなるおそれがあり、
高すぎると熱変形などによって得られる架橋ポリエチレン管の寸法精度に問題がでるおそれがあるので、水蒸気温度より1〜3℃程度低い温度に保つことが好ましい。
加熱空気雰囲気の形成方法は、処理槽内をできるだけ均一に加熱できれば、特に限定されないが、例えば、熱風発生装置から供給された熱風を未架橋ポリエチレン管の下方にメッシュ状の吹き出し口を設け、この吹き出し口から上方に向かって加熱空気を吹き出させる方法が挙げられる。
また、熱風発生装置への空気の供給は、特に限定されないが、エネルギー効率を考慮すると、処理槽内の上部に吸引口を設け、この吸引口から吸引された加熱空気を再び供給するようにすることが好ましい。
【0011】
本発明の架橋ポリエチレン管の原料となる樹脂組成物は、ポリエチレン系樹脂、ビニルシラン化合物、酸化防止剤、シラノール縮合触媒及びラジカル重合開始剤を含む。
上記ポリエチレン系樹脂としては、特に限定されないが、重合触媒としてメタロセン化合物を用いて重合されたポリエチレン系樹脂であることが好ましい。
【0012】
一般に、メタロセン化合物とは、遷移金属を、π電子系の不飽和化合物で挟んだ構造の
化合物であり、チタン、ジルコニウム、ニッケル、パラジウム、ハフニウム、白金等の四
価の遷移金属に、1つ又は2つ以上のシクロペンタジエン環又はその類縁体がリガンド(配位子)として存在する化合物である。
【0013】
上記リガンドとしては、例えば、シクロペンタジエニル環、インデニル環、炭化水素基
、置換炭化水素基又は炭化水素一置換メタロイド基により置換されたシクロペンタジエニ
ル環及びインデニル環、シクロペンタジエニルオリゴマー環等が挙げられる。
【0014】
これらのπ電子系の不飽和化合物以外に、例えば、塩素、臭素等の一価のアニオン又は
二価のアニオンキレート、炭化水素基、アルコキシド、アミド、ホスフィド、アリールア
ルコシキド、アリールアミド、アリールホスフィド、アリールオキシド等が遷移金属に配
位結合されていてもよい。
【0015】
上記シクロペンタジエニル環およびインデニル環と置換される炭化水素基としては、例
えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、ヘキシル
、2−エチルヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、セチル、フェニル等が挙
げられる。
【0016】
このようなメタロセン化合物としては、例えば、シクロペンタジエニルチタニウムトリ
ス(ジメチルアミド) 、メチルシクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル) チタニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−tert−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−tert−ブチルアミドハフニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−p−n−ブチルフェニルアミドジルコニウムジクロリド、メチルフェニルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−tert− ブチルアミドハフニウムジクロリド、インデニルチタニウムトリス(ジメチルアミド) 、インデニルチタニウムトリス(ジエチルアミド)、インデニルチタニウムトリス(ジ−n −プロピルアミド)、インデニルチタニウムビス(ジ−n−ブチルアミド)(ジ−n−プロピルアミド)等が挙げられる。
【0017】
これらのメタロセン化合物は、金属の種類や配位子の構造を変え、特定の共触媒(助触
媒)と組み合わせることにより、エチレン等のオレフィンの重合の際に触媒として働く。
具体的には、重合は、メタロセン化合物に共触媒としてメチルアルミノキサン(MAO)、ホウ素化合物等を添加した系で行われる。メタロセン化合物に対する共触媒の使用割合は、10〜1,000,000モル倍、好ましくは50〜5,000モル倍である。
【0018】
上記重合条件については特に制限はなく、例えば、不活性媒体を用いる溶液重合法、実
質的に不活性媒体の存在しない塊状重合法、気相重合法等が利用できる。通常、重合温度
は−100〜300℃ 、重合圧力は常圧〜100kg/cm2であるのが一般的である。
【0019】
また、上記したポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンとα−
オレフィンの共重合体等が挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、
1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、
1−オクテン等が挙げられる。
【0020】
上記ビニルシラン化合物としては、例えば、ビニルトリスアルコキシランが挙げられ、中でも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シランが好ましい。また、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルフェニルジメトキシシラン等でもよい。
【0021】
上記ビニルシラン化合物の不飽和結合部位は、樹脂組成物中で発生した遊離ラジカル部位と反応する。
そのラジカルを発生させ、しかも本発明に好ましいラジカル重合開始剤としては、例えば、有機ペルオキシド、有機ペルエステル等があり、中でも、ベンゾイルペルオキシド、ジクロルベンゾイルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)ヘキシン−3、1,4−ビス(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、tert−ブチルペルフェニルアセテート、tert−ブチルペルイソブチレート、tert−ブチルペル−sec−オクトエート、tert− ブチルペルピバレート、クミルペルピバレート、tert− ブチルペルジエチルアセテート等が好ましく、その他にも、アゾ化合物があり、例えば、アゾビス− イソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられるシラノール縮合触媒は、シラノール間の脱水縮合を促進する触媒と
して一般的に用いられる任意の化合物であればよく、例えば、ジブチル錫ジラウレート、
ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエート、酢酸第一錫、ナフテン酸コバルト
、ナフテン酸鉛、エチルアミン、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン等の化合物
、硫酸、塩酸等の無機塩、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸等が挙げられ、これらの1種もしくは2種以上が好適に用いられるが、中でもジブチル錫ジラウレートがより好適に用いられる。
【0023】
上記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられ、併用されることが好ましい。フェノール系抗酸化剤とリン系抗酸化剤が併用されることで、破壊寿命の長期化とクリープ性能の確保を両立が可能となる。
併用するフェノール系抗酸化剤とリン系抗酸化剤の含有量は、ポリエチレン系樹脂に対
して0.3〜1.5 重量%であることが好ましい。含有量が0.3重量%に満たない場合
は特に破壊寿命が不十分になりやすく、1.5 重量% を超える場合は架橋度の確保が不十分になることがある。
【0024】
また、フェノール系抗酸化剤とリン系抗酸化剤との比率が1:3〜3:1の範囲で併用
された場合には、破壊寿命とクリープ特性のバランスに優れる点で好ましい。フェノール
系抗酸化剤の比率が小さすぎる場合は、破壊寿命が不十分になりやすく、逆にリン系抗酸
化剤の比率が小さすぎる場合は、架橋度の確保が不十分になることがある。
【0025】
更に、フェノール系抗酸化剤の融点が100℃ 以上であることが好ましい。融点が10
0℃ に未満では拡散速度が速くなりすぎて、破壊寿命が短くなることがある。
【0026】
本発明にかかる架橋処理装置は、未架橋ポリエチレン管を支持するラックを内部に上下方向に多段に備える処理槽と、熱風を送り出す熱風装置と、この熱風装置から送り出された熱風を処理槽内に送る熱風供給ダクトと、前記処理槽内の空気を吸引して熱風装置へ送る吸引ダクトと、処理槽内へ水蒸気を送る蒸気供給配管と、処理槽内から蒸気ドレンを排出する蒸気ドレン配管と、を備えることを特徴としている。
また、本発明の架橋処理装置は、例えば、処理槽の底に上面にメッシュ状の吹き出し口を備えた整流ボックスを有し、熱風供給ダクトの熱風出口が前記整流ボックス内に臨んでいる構成、吸引ダクトの吸引口が処理槽の上部に設けられている構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる架橋ポリエチレン管の製造方法は、以上のように、ポリエチレン系樹脂、ビニルシラン化合物、酸化防止剤、シラノール縮合触媒及びラジカル重合開始剤を含む樹脂組成物を押出成形して得られた未架橋ポリエチレン管中に、水蒸気を通して、ポリエチレン系樹脂を架橋する架橋工程を備えるので、短時間で未架橋管状体を熱水架橋させることができるとともに、エネルギーコストも削減できる。
しかも、水蒸気を未架橋ポリエチレン管中に通すようにしてので、架橋残渣も水蒸気のドレンとともに排出されるため、その後の架橋ポリエチレン管内の架橋残渣を除去する作業を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明にかかる架橋ポリエチレン管の製造方法に用いる架橋処理装置の1つの実施の形態を模式的にあらわす斜視図である。
【図2】図1のX−X線断面図である。
【図3】図2のY−Y線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明を、その実施の形態をあらわす図面を参照しつつ詳しく説明する。
図1は、本発明の架橋処理装置の1つの実施の形態を模式的にあらわしている。
【0030】
図1に示すように、この架橋処理装置1は、処理槽2と、熱風供給装置3と、蒸気供給配管4と、蒸気ドレン配管5とを備えている。
処理槽2は、図示していないが、観音開きの前扉を備えていると共に、壁面が断熱材層を備える断熱構造になっている。
また、処理槽2内は、ラック6によって多段に仕切られている。
【0031】
各ラック6は、図2に示すように、複数のバー61を上記前扉に平行となるように水平かつ等ピッチで処理槽2の側壁面に支持固定させることで形成されている。
各バー61は、その周面が架橋ポリエチレンなどの架橋処理時の高温に耐える強度を有する合成樹脂で形成されている。
【0032】
熱風供給装置3は、熱風発生装置31と、熱風供給ダクト32と、吸引ダクト33と、整流ボックス34と、を備えている。
熱風発生装置31は、処理槽2の天板の上に固定されていて、図示していないが、電気ヒータとブロアーとを備え、空気を電気ヒータで加熱して、ブロアーで送気するようになっている。
【0033】
熱風供給ダクト32は、一端が熱風発生装置31のブロアーの吹き出し口に接続され、図2及び図3に示すように、他端が処理槽2の底に設けられた整流ボックス34内に臨んでいる。
整流ボックス34は、図1〜図3に示すように、天板に多数の吹き出し孔34aが穿設されていて、熱風供給ダクト32から供給される熱風が整流ボックス34内に一旦入った後、吹き出し孔34aから1m〜2m/分の速度に整流して分散状態で処理槽2内に吹き出させるようになっている。
吸引ダクト33は、一端が熱風発生装置31のブロアーの吸引口に接続されていて、他端が処理槽2内に臨むとともに、処理槽2に上部で上下方向に並ぶ3つの吸引口33aを備えている。
【0034】
蒸気供給配管4は、本管41と、分岐管42とを備え、各ラック6に対応する部分で分岐していて、各分岐管42毎に電磁バルブ43が設けられている。
蒸気ドレン配管5は、各ラック6に対応する部分に分岐管52が設けられ、各分岐管52が電磁バルブ53を介してドレン本管51に接続されたのち、処理槽2外に蒸気ドレンを排出するようになっている。
【0035】
つぎに、この架橋処理装置1を用いた架橋ポリエチレン管の製造方法を説明する。
(1)押出成形によって得られた未架橋ポリエチレン管Pを50〜100mの長さ毎に直径1〜1.2m程度のコイル状に巻回し、このコイル状をした未架橋ポリエチレン管Pを処理槽2の前扉を開けて各ラック6上に載置する。
(2)未架橋ポリエチレン管Pの一端に、各ラック6に臨む蒸気供給配管4の分岐管42を接続するとともに、未架橋ポリエチレン管Pの他端に蒸気ドレン配管5の分岐管52を接続する。
(3)処理槽2の前扉を閉じて、電磁弁43,53を開けて水蒸気を未架橋ポリエチレン管P内に送り込み未架橋ポリエチレン管P内に水蒸気を充満させるとともに、熱風発生装置31を稼動させて、処理槽2内の温度を水蒸気の温度より1〜3℃低い温度に保持する。
(4)未架橋ポリエチレン管P内が水蒸気で充満すれば、電磁弁43,53を一旦閉じて充満状態に保ち、所定時間経過後、再び電磁弁43,53を開放して新しい水蒸気に入れ替え、入れ替えが終わると、再び電磁弁43,53を閉じるという動作を設定された処理時間内に繰り返す。
なお、電磁弁43,53が閉じている時間は、未架橋ポリエチレン管P内に充満した水蒸気、すなわち、水分が架橋反応によって消費されてなくなる時間より少し短い時間に設定され、得ようとする架橋ポリエチレン管の口径、長さによって経験的に求められる。
(5)架橋完了後、電磁弁43,53を開放して、水蒸気で架橋ポリエチレン管の内部の架橋残差を洗い流したのち、水蒸気の供給を停止し、得られた架橋ポリエチレン管を、前扉を開けて処理槽2から取り出す。なお、このとき、熱風発生装置31は稼働させた状態、停止状態のいずれでも構わないが、続けて架橋処理を行う場合は、稼働させた状態にしておクことが好ましい。
【0036】
この架橋ポリエチレン管の製造方法は、以上のように、未架橋ポリエチレン管P内に水蒸気を通し、水蒸気の少ない水分で加熱するとともに、水架橋させるようになっているので、従来の熱水を用いたものに比べ、短時間で架橋が完了する。
また、処理槽2内に熱風を吹き込んで処理槽2内を加熱空気雰囲気として、未架橋ポリエチレン管Pの外部からも加熱するようにしたので、未架橋ポリエチレン管内で水蒸気が凝集して水滴化することがなく、より架橋反応が効率よく進み、水蒸気単独の場合に比べ、さらに短時間で架橋を完了させることができる。
また、熱風発生装置31から熱風供給ダクト32によって供給される熱風を、一旦処理槽2の底に設けられた整流ボックス34内に供給し、その天板に設けられた多数の吹き出し孔34aから分散させながら上方に吹き出すようにしたので、処理槽2内を均一な温度分布とすることができる。
【0037】
そして、水蒸気を間欠的に供給するようにしたので、水架橋に必要な水分量に近い最小限の水蒸気の消費に止めることができて、エネルギーコストを低減できる。
また、熱風発生装置31が処理槽2内の加熱空気を吸引し、この加熱空気を加熱ヒータで加熱して再び処理槽2内に供給するようにしたので、よりエネルギーコストを低減できる。
【0038】
さらに、架橋完了後に、蒸気を架橋ポリエチレン管内に通し、架橋ポリエチレン管の架橋残渣を洗い流すようにしたので、処理槽2内から取り出した架橋ポリエチレン管の内部に架橋残渣がなく、給水、給湯管として直ちに使用できる。
【0039】
つぎに、本発明の具体的な実施例を説明する。
【0040】
(実施例1)
押出成形して得られた口径13mm、長さ100mの未架橋ポリエチレン管Pをコイル状に巻回した状態で、処理槽2のラック6上に載置した。
そして、蒸気供給配管4の分岐管42を未架橋ポリエチレン管Pの一端に接続し、蒸気ドレン配管5の分岐管52を未架橋ポリエチレン管Pの他端に接続した。
処理槽2の前扉を閉めて上記熱風発生装置31を止めて熱風を供給しない状態で、7時間の架橋処理時間中、連続的に95〜105℃に保持した水蒸気を供給して架橋ポリエチレン管を得た。また、水蒸気の蒸気圧は、0.05±0.01MPaに設定した。
【0041】
(実施例2)
熱風発生装置31を稼働させて処理槽2内を108℃に保つように設定すると共に、架橋処理時間を6時間と設定し、電磁弁43,53を開閉して未架橋ポリエチレン管Pへの水蒸気供給を間欠的(一回の開放時間5.3分)に行い、架橋ポリエチレン管を得た。なお、6時間の架橋処理時間中、電磁弁43,53が開放されて、水蒸気が通気されているトータル時間は3.2時間であった。
【0042】
(実施例3)
架橋処理時間を5時間とするとともに、水蒸気が通気されているトータル時間を2.6時間とした以外は、上記実施例2と同様にして架橋ポリエチレン管を得た。また、電磁弁43,53の一回の開放時間は、5.2分であった。
【0043】
(実施例4)
水蒸気が通気されているトータル時間を2.2時間とした以外は、上記実施例3と同様にして架橋ポリエチレン管を得た。また、電磁弁43,53の一回の開放時間は、4.4分であった。
【0044】
(比較例1)
実施例1と同様の未架橋ポリエチレン管内に95℃の熱水を12時間連続的に通水して、架橋ポリエチレン管を得た。
【0045】
(比較例2)
実施例1と同様の未架橋ポリエチレン管を95℃の熱水中に12時間連続的に浸漬して、架橋ポリエチレン管を得た。
【0046】
上記実施例1〜4及び比較例1,2で得られた架橋ポリエチレン管のゲル分率、熱間クリープ性能を調べその結果を処理条件とともに表1に示した。また、実施例1〜4については実施例1の水蒸気使用量を100%としたときの水蒸気使用比率を調べ、表1に併せて示した。
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1から水蒸気を未架橋ポリエチレン管内に供給して熱水架橋によって架橋ポリエチレン管を製造すれば、従来の方法に比べて短時間で架橋が完了し、エネルギーコストを低減できることがわかる。しかも、未架橋ポリエチレン管の周囲を加熱空気雰囲気に保つとともに、水蒸気を間欠的に供給すれば、より短時間で架橋を完了させることができる上、水蒸気の使用量を低減でき、よりエネルギーコストを低減できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法によって得られる架橋ポリエチレン管は、給水、給湯用の配管材として適する。勿論、床暖房用など他の用途にも使用することができる。
【符号の説明】
【0050】
P 未架橋ポリエチレン管
1 架橋処理装置
2 処理槽
3 熱風供給装置
31 熱風装置
32 熱風供給ダクト
33 吸引ダクト
33a 吸引口
34 整流ボックス
34a 吹き出し口
4 蒸気供給配管
41 本管
42 分岐管
43 電磁バルブ
5 蒸気ドレン配管
51 ドレン本管
52 分岐管
53 電磁バルブ
6 ラック
61 バー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂、ビニルシラン化合物、酸化防止剤、シラノール縮合触媒及びラジカル重合開始剤を含む樹脂組成物を押出成形して得られた未架橋ポリエチレン管中に、水蒸気を通して、ポリエチレン系樹脂を架橋する架橋工程を備えることを特徴とする架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項2】
間欠的に水蒸気を未架橋ポリエチレン管中に供給し、水蒸気非供給状態のとき水蒸気の出口を封止する請求項1に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項3】
架橋工程を、処理槽内に未架橋ポリエチレン管を加熱空気雰囲気に保持した状態で行う請求項1または請求項2に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項4】
未架橋ポリエチレン管の下方にメッシュ状の吹き出し口を設け、この吹き出し口から上方に向かって加熱空気を吹き出させ、加熱空気雰囲気を形成する請求項3に記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項5】
未架橋ポリエチレン管をコイル状にして、処理槽内の高さ方向に多段に並べる請求項1〜請求項4のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項6】
架橋工程完了後、さらに水蒸気を架橋ポリエチレン管内に通し、架橋ポリエチレン管の架橋残渣を洗い流す工程を備える請求項1〜請求項5のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法。
【請求項7】
未架橋ポリエチレン管を支持するラックを内部に上下方向に多段に備える処理槽と、
熱風を送り出す熱風装置と、
この熱風装置から送り出された熱風を処理槽内に送る熱風供給ダクトと、
前記処理槽内の空気を吸引して熱風装置へ送る吸引ダクトと、
処理槽内へ水蒸気を送る蒸気供給配管と、
処理槽内から水蒸気ドレンを排出する蒸気ドレン配管と、
を備えることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の架橋ポリエチレン管の製造方法に用いる架橋処理装置。
【請求項8】
処理槽の底に上面にメッシュ状の吹き出し口を備えた整流ボックスを有し、熱風供給ダクトの熱風出口が前記整流ボックス内に臨んでいる請求項7に記載の架橋処理装置。
【請求項9】
吸引ダクトの吸引口が処理槽の上部に設けられている請求項7または請求項8に記載の架橋処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−254834(P2010−254834A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107560(P2009−107560)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】