説明

架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法

【課題】低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂に発泡剤と架橋剤等を添加混練し、得られた架橋性発泡性組成物を加圧下にて加熱して中間発泡体を生成させる第一工程と、次いで、該中間発泡体を加熱して未分解で残存する発泡剤を分解する第二工程からなる架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法において、ポリオレフィン系樹脂100重量部に炭酸水素ナトリウム5〜20重量部を添加し、第一工程のプレス圧が5〜30kg/cm、温度が150〜170℃であり、第二工程の温度が第一工程より20℃以上低い、低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系発泡体は、断熱性、緩衝性、耐候性、耐薬品性等の物性に優れ、緩衝材、目地材、雑貨等の各種用途に広く利用されている。
【0003】
従来、ポリオレフィン系発泡体の製造に際しては、発泡剤として熱分解型の発泡剤が用いられ、その分解ガスによってポリオレフィン系樹脂を発泡させ発泡体を得ている。発泡剤としてはアゾジカルボンアミドが一般的であるが、その分解ガスに少量のアンモニアが含まれ、臭いの原因になっている。分解ガスが炭酸ガスと水蒸気のみで、アンモニアを含まない発泡剤として炭酸水素ナトリウムがあるが、発泡後に収縮が起きることが知られている。収縮を防止するために、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物を添加する方法(特開2007−217505号公報)や吸水性樹脂を添加する方法(特開2007−217639号公報)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−217505号公報
【特許文献2】特開2007−217639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法に使用するアルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物は吸湿性が高いため、保存が難しく、発泡体にピンホールが発生しやすい。特許文献2記載の製造方法に使用する吸水性樹脂は、架橋を阻害して高倍率の発泡体を得るのが難しい。
【0006】
本発明者らは、ポリオレフィン系樹脂に発泡剤、架橋剤、発泡助剤以外特別なものを添加せずに加熱、発泡させ、低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体を開発した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明の第一の方法は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に発泡剤として炭酸水素ナトリウム5〜20重量部、架橋剤を添加混練し、得られた架橋性発泡性組成物をプレス圧5〜30kg/cm下、150〜170℃で加熱した後、除圧し、発泡体を生成させることを特徴とする架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法である。
【0008】
本発明の第二の方法は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に発泡剤として炭酸水素ナトリウム5〜20重量部及び架橋剤を添加混練し、得られた架橋性発泡性組成物をプレス圧5〜30kg/cm下、150〜170℃で加熱し、組成物中の発泡剤を部分的に分解させた状態で除圧して、中間発泡体を生成させる第一工程と、次いで、該中間発泡体を第一工程よりも20℃以上低い温度で加熱して、未分解で残存する発泡剤を分解する第二工程からなることを特徴とする架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法である。
【0009】
本発明の製造方法において、発泡剤添加量は5〜20重量部であることが好ましい。発泡剤の添加量が5重量部未満の場合は、発泡体が硬く従来の架橋ポリオレフィン系発泡体より緩衝性に劣る。20重量部を超える場合は、発泡体の形状がいびつになるとともに気泡径もバラツキ、満足な発泡体が得られない。
【0010】
本発明の製造方法において、炭酸水素ナトリウムの粒径が20μm以上であることが好ましい。粒径が20μm未満の場合は、気泡の保持力が低く、発泡後に収縮が起こってしまう。
【0011】
本発明の第二の方法において、第二工程の加熱温度は第一工程の加熱温度より20℃以上低いことが好ましい。第二工程の加熱温度が高いか同じ場合、発泡後に収縮が起こってしまう。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法によれば、低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明でいうポリオレフィンとは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリ−4−メチル−1−ペンテン、ポリビニルクロライド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、エチレン共重合体を挙げることができる。
【0014】
本発明でいう発泡剤とは、加熱時に分解して炭酸ガスと水蒸気を発生する化合物をいい、特に炭酸水素ナトリウムが好ましい。
【0015】
本発明でいう架橋剤とは、ポリエチレン系樹脂中において少なくともポリエチレン樹脂の流動開始温度以上の分解温度を有するものであって、加熱により分解され、遊離ラジカルを発生してその分子間もしくは分子内に架橋結合を生じせしめるラジカル発生剤であるところの有機過酸化物、例えばジクミルパーオキサイド、1,1−ジターシャリーブチルパーオキサイド、1,1−ジターシャリーブチルパーオキシー3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルー2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキサン、2,5−ジメチルー2,5−ジターシャリーブチルパーオキシヘキシン、α、α―ジターシャリーブチルパーオキシイソプロピルベンゼン、ターシャリーブチルパーオキシケトン、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエートなどがあるが、その時に使用される樹脂によって最適な有機過酸化物を選択しなければならない。
【0016】
本発明において、発泡助剤を発泡剤の種類に応じて添加することができる。発泡助剤としては尿素を主成分とした化合物、酸化亜鉛、酸化鉛等の金属酸化物、サリチル酸、ステアリン酸等を主成分とする化合物、即ち高級脂肪酸あるいは高級脂肪酸の金属化合物などがある。
【0017】
本発明においては、使用する組成物の物性の改良或いは価格の低下を目的として、架橋結合に著しい悪影響を与えない配合剤(充填剤)、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素等の金属酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の炭酸塩、あるいはパルプ等の繊維物質、又は各種染料、顔料並びに蛍光物質、その他常用の配合剤等を必要に応じて添加することができる。
【0018】
次に、本発明の低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法について説明する。
【0019】
発明の第一の方法は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に粒径20μm以上の炭酸水素ナトリウム5〜20重量部、架橋剤、発泡助剤を添加し、これをミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機等によって練和する。次いで、得られた発泡性架橋性組成物をプレス中の金型に充填し、一定時間5〜30kg/cmの圧力下で150〜170℃で加熱した後除圧し、発泡体を生成させる方法である。
【0020】
発明の第二の方法は、ポリオレフィン系樹脂100重量部に粒径20μm以上の炭酸水素ナトリウム5〜20重量部、架橋剤、発泡助剤を添加し、これをミキシングロール、加圧式ニーダー、押出機等によって練和し、得られた発泡性架橋性組成物をプレス中の金型に充填し、一定時間5〜30kg/cmの圧力下に150〜170℃で加熱して発泡剤を部分的に分解した後、除圧して中間発泡体を得る。
【0021】
次いで、該中間発泡体を密閉系でない直方体型などの所望の形状の型内に入れ、プレスの温度よりも20℃以上低い温度で所定時間加熱した後取り出して発泡体を生成させる方法である。
【0022】
収縮の評価
本発明で得られた発泡体の収縮は、取り出した直後のサイズ(L0)と常温に1時間放置した後のサイズ(L1)を測定し、収縮率を下記の式にて算出し、−5%以下の場合、収縮なしと判定した。
収縮率=(L1−L0)×100/L0
【0023】
臭気(アンモニア濃度)の評価
本発明で得られた発泡体のアンモニア濃度を下記の方法にて測定した。
発泡体0.2gを200ccのフラスコに入れ、80℃のオーブン中に2時間放置した後取り出して放冷し、アンモニア検知管(株式会社ガステック製)にて測定した。アンモニア濃度10ppm以下を低臭気と判定した。
【実施例】
【0024】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1〜18及び比較例1〜15)
まず、各実施例及び比較例で用いた架橋ポリオレフィン系発泡体の原料を以下に示す。
【0025】
低密度ポリエチレン(商品名:ノバテックLF441、密度0.924g/cm、メルトフローレート2.0g/10min、三菱化学株式会社製)
発泡剤1:炭酸水素ナトリウム(商品名:セルボンFE−507R、粒径25〜30μm、永和化成工業株式会社製)
発泡剤2:炭酸水素ナトリウム(商品名:セルボンFE−507、粒径10〜15μm、永和化成工業株式会社製)
架橋剤1:ジクミルパーオキサイド(商品名:パークミルD、日本油脂株式会社製)
架橋剤2:n−ブチル−4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレエート(商品名:パーヘキサV−40、日本油脂株式会社製)
【0026】
表1〜表7において、架橋ポリオレフィン系発泡体の配合及び発泡条件を示す。
【0027】
低密度ポリエチレンと発泡剤1,2、架橋剤1,2からなる組成物を100℃のロールにて混練し、プレス内の金型(24×160×160mm)に練和物を充填し、所定の圧力、温度で60分間加熱した後除圧し、発泡体を得た。
得られた発泡体を放置して冷却し、収縮の有無を確認した。収縮しなかった発泡体は、見掛け密度とアンモニア濃度を測定した。それらの結果も表1、表2及び表3に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表1、表2に示したように、実施例1〜9においては、収縮は見られず、アンモニア濃度も10ppm以下で、人間の鼻では感知できないほどの低濃度であった。
【0032】
一方、比較例1〜7においては、発泡剤1の添加量が3重量部の比較例1は、発泡体が硬く従来の架橋ポリオレフィン系発泡体より緩衝性に劣っており、添加量が30重量部の比較例2は、発泡体の形状がいびつで気泡径もバラツキ、満足な発泡体が得られなかった。また、プレス温度を140℃に変えた比較例5は、発泡倍率が低くて硬く、緩衝性に劣り、満足な発泡体が得られなかった。
【0033】
プレス圧を3kg/cmに変えた比較例3、40kg/cmに変えた比較例4及びプレス温度を180℃に変えた比較例6の発泡体は、冷却後収縮した。
【0034】
発泡剤1を粒径10〜15μmの発泡剤2に変えた比較例7は、発泡体が冷却後収縮した。
【0035】
低密度ポリエチレンと発泡剤1,2、架橋剤1,2からなる組成物を100℃のロールにて混練し、プレス内の金型(24×160×160mm)に練和物を充填し、所定の温度、圧力で加熱する第一工程にて発泡性架橋組成物を成形した。
【0036】
次いで、中間発泡体をプレス内の金型(60×500×500mm)に入れ、所定の温度にて30分間加熱して残存する発泡剤及び架橋剤を分解する第二工程の後冷却し、発泡体を得た。
得られた発泡体を放置して収縮の有無を確認した。収縮しなかった発泡体は、見掛け密度とアンモニア濃度を測定した。それらの結果を表4〜表7に示す。
【0037】
【表4】

【0038】
【表5】

【0039】
【表6】

【0040】
【表7】

【0041】
表4、表5に示したように、実施例10〜18においては、収縮は見られず、アンモニア濃度も10ppm以下で、人間の鼻では感知できないほどの低濃度であった。
【0042】
一方、比較例8〜15において、第二工程温度を第一工程より10℃低くした比較例8の発泡体は、冷却後収縮した。
【0043】
発泡剤1の添加量が3重量部の比較例9は、発泡体が硬く従来の架橋ポリオレフィン系発泡体より緩衝性に劣っており、添加量が30重量部の比較例10は、発泡体の形状がいびつで気泡径もバラツキ、満足な発泡体が得られなかった。また、第一工程プレス圧を3kg/cmに変えた比較例11は、プレスからのバリが多く、発泡体が得られなかった。
【0044】
第一工程プレス圧を40kg/cmに変えた比較例12の発泡体は、冷却後収縮した。
【0045】
第一工程温度を140℃に変えた比較例13の発泡体は、発泡倍率が低くて硬く、緩衝性に劣り、満足な発泡体が得られなかった。
第一工程温度を180℃に変えた比較例14の発泡体は、冷却後収縮した。
【0046】
発泡剤1を発泡剤2に変えた比較例15の発泡体は、冷却後収縮した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明の方法によれば、低臭気で発泡後の収縮のない架橋ポリオレフィン系発泡体を製造できる。本発明の方法によって製造された架橋ポリオレフィン系発泡体は、断熱性、緩衝性、耐候性、耐薬品性等の物性に優れ、緩衝材、目地材、雑貨等の各種用途に広く適用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に発泡剤として炭酸水素ナトリウム5〜20重量部及び架橋剤等を添加混練し、得られた架橋性発泡性組成物をプレス圧5〜30kg/cm下、150〜170℃で加熱した後、除圧し、発泡体を生成させることを特徴とする架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂100重量部に発泡剤として炭酸水素ナトリウム5〜20重量部及び架橋剤等を添加混練し、得られた架橋性発泡性組成物をプレス圧5〜30kg/cm下、150〜170℃で加熱し、組成物中の発泡剤を部分的に分解させた状態で除圧して、中間発泡体を生成させる第一工程と、次いで、該中間発泡体を第一工程よりも20℃以上低い温度で加熱して、未分解で残存する発泡剤を分解する第二工程からなることを特徴とする架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法。
【請求項3】
炭酸水素ナトリウムの粒径が、20μm以上である請求項1及び2記載の架橋ポリオレフィン系発泡体の製造方法。


【公開番号】特開2012−224751(P2012−224751A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93766(P2011−93766)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000177380)三和化工株式会社 (21)
【Fターム(参考)】