説明

架橋ポリビニルアルコールをマトリックスとするイオン伝導性固体高分子電解質膜の製造方法およびこの製造法によって製造された固体高分子電解質膜、およびそれを用いた膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】強度およびイオン伝導性および安定性に優れる燃料電池用固体高分子電解質膜を提供する。
【解決手段】高度ケン化ポリビニルアルコールおよびプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体およびジカルボン酸を用いるかあるいは使用せずに、これらを共に溶解する有機溶媒に均一に溶解する。この溶液を用いて製膜して固体高分子電解質膜の前駆体を製造する。この前駆体を加熱して、有機溶媒を除去するとともに、ジカルボン酸を用いた場合はジカルボン酸により高度ケン化ポリビニルアルコールを架橋し、ジカルボン酸により架橋された高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散する固体高分子電解質膜を製造するか、ジカルボン酸を用いない場合は高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶媒中で混合し、成膜する、架橋ポリビニルアルコールをマトリックスとするイオン伝導性固体高分子電解質膜の製造方法およびこの製造法によって製造された固体高分子電解質膜、おとびそれを用いた膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(以下、PEFC)は、環境負荷ガスの放出を削減できる動力源として、燃料電池自動車、定置用コジェネレーション、携帯電話の電源として研究開発が進められている。PEFCでは、電池内でプロトンの伝導が起こることによって発電反応が進行する。PEFCの中枢部分は、白金を含む触媒電極と高分子電解質膜から構成される膜電極接合体(MEA)で構成される。この高分子電解質膜は、主にナフィオン(登録商標、デュポン社製)が用いられる。
【0003】
しかしながら、現在主流のフッ素系電解質膜は、合成ルートが複雑であり、コスト高になりやすく、炭化水素系電解質膜は、フッ素系電解質膜に比較すると、コスト安になると言われているが、不透明な状況である。
【0004】
高分子電解質膜のコストを下げる手段として、スルホン化コハク酸を用いて水系で架橋反応を行うポリビニルアルコールをマトリックスとし、スルホン化ポリスチレンを用いた高分子電解質膜が非特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C.W.Lin等、J.Power Sources、164巻、449(2007)
【非特許文献2】T.Yamamoto等、Macromolecules、40巻、5504(2007)
【非特許文献3】マーチ有機化学・上(山本嘉則監訳者)、丸善、485貢
【非特許文献4】F.Trotta等、J.Appl.Polym.Sci.,70巻、477(1988)
【非特許文献5】H.E.Ulery,J.Org.Chem.,30巻、2464(1965)
【非特許文献6】J. Qiao 等、Polymer, 46 巻、10809 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プロトン伝導性基を有する高分子やその前駆体には、水に難溶性のものもあるので、さまざまなプロトン伝導体を使用することができないという問題があった。
また、ポリビニルアルコールをマトリックスとする高分子電解質の作製に水溶液を用いて行うと、得られたフィルム等の可撓性が劣る場合があるという問題があった。
また、ジカルボン酸を架橋剤とするポリビニルアルコールの架橋反応は脱水によるエステル結合を形成させるものであり、水が生成する反応(2 ROH + R'(COOH)2 → ROCOR'COOR + 2 H2O)であるので、水系で架橋反応を行うと化学平衡の観点から不利であった。
そのため、非特許文献1で使用する高分子電解質膜を水が発生する燃料電池の高分子電解質膜として使用していると、スルホン化コハク酸近傍に水が集まり、平衡反応が崩れ、架橋が崩れ、ポルスチレンスルホン酸が溶出する課題があった。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するものである。
本発明の第1の目的は、水系の溶媒を使用せず、有機溶媒を成形溶媒とするので、燃料電池の作動中に発生する水を集めにくいコハク酸を使用しているため、加水分解しにくく、さまざまなプロトン伝導体を使用して、プロトン伝導体が溶出せず、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価な固体高分子電解質膜を容易に製造する方法を提供することである。
本発明の第2の目的は、この製造法によって製造された、イオン伝導性および安定性に優れるとともに安価な固体高分子電解質膜を提供することである。
本発明の第3の目的は、このイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価な固体高分子電解質膜を用いた信頼性の高い膜電極接合体および固体高分子形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための本発明の請求項1は、下記工程(1)〜(3)を含む工程により固体高分子電解質膜を製造することを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法である。
(1)高度ケン化ポリビニルアルコールおよびプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体を用い、さらにジカルボン酸を使用するかあるいは使用せずに、これらを共に溶解する有機溶媒に均一に溶解する。
(2)この溶液を用いて製膜して固体高分子電解質膜の前駆体を製造する。
(3)得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去するとともに、ジカルボン酸を使用した場合はジカルボン酸により高度ケン化ポリビニルアルコールを架橋し、ジカルボン酸により架橋された高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造するか、ジカルボン酸を用いない場合は高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造する。
【0009】
本発明の請求項2は、請求項1記載の製造方法において、前記ジカルボン酸がコハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸から選択される少なくとも1つであることを特徴とする。
【0010】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、
前記プロトン解離性基が、スルホン酸基(-SO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、スルホンアミド基(-SO2NH2)、カルボキシル基(-COOH)からなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法において、前記プロトンジンのいずれかで解離性基を有する高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリピリあることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項5は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法において、イオン交換容量(酸価)が1.5〜5ミリ当量/gであることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項6は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の製造方法において、前記高度ケン化ポリビニルアルコールの−OH基のモル数に対して、コハク酸の―COOH基のモル数が2〜25%であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の製造方法において、プロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体の高度ケン化ポリビニルアルコールに対する割合が20〜150質量%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項8は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の製造方法において、前記工程(3)において得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去する際の加熱温度が50〜200℃であることを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項9は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする固体高分子電解質膜である。
【0017】
本発明の請求項10は、請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする膜電極接合体である。
【0018】
本発明の請求項11は、請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1は、前記工程(1)〜(3)を含む工程により固体高分子電解質膜を製造することを特徴とする、ジカルボン酸により架橋された高度ケン化ポリビニルアルコールあるいはジカルボン酸により架橋されていない高度ケン化ポリビニルアルコール中に、プロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散していることを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法であり、
水系の溶媒を使用せず、有機溶媒を成形溶媒として使用して製造された、プロトン伝導体が溶出せず、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価である固体高分子電解質膜を容易に製造でき、電気自動車、燃料電池自動車などの自動車、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器、家庭用発電装置などの発電源として用いられる固体高分子形燃料電池を構成する高分子電解質膜として利用できるという顕著な効果を奏する。
【0020】
本発明の請求項2は、請求項1記載の製造方法において、前記ジカルボン酸がコハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸から選択される少なくとも1つであることを特徴とするものであり、この中でもコハク酸が最も好ましい。
その理由は、コハク酸は安価であり、有機溶媒に溶け易く、また単位重量当り多くのカルボン酸を有し、架橋反応を行えるという顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項3は、請求項1あるいは請求項2記載の製造方法において、前記プロトン解離性基が、スルホン酸基(-SO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、スルホンアミド基(-SO2NH2)、カルボキシル基(-COOH)からなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とするものであり、この中でもスルホン酸基が好ましい。
その理由は、スルホン酸基は酸解離を起こし易い強い酸であり、プロトン伝導体を与えるのに適しているからである。
【0022】
本発明の請求項4は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法において、前記プロトン解離性基を有する高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリピリジンのいずれかであることを特徴とするものであり、
例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸は、高酸価のため、プロトン伝導体として好ましいが、単独では水溶性のため使用できず、また、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリピリジンは、水溶性、脆弱性のものもあるため、高分子のマトリックスに混合し、架橋することにより上記の問題を解決するという顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項5は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法において、イオン交換容量(酸価)が1.5〜5ミリ当量/gであることを特徴とするものであり、
その理由は、分散状態によっては、1.5ミリ当量/g未満であるとプロトン伝導性が低下する可能性があるためであり、一方、5ミリ当量/gを超えると、高分子マトリックス内であっても、プロトン伝導体が膨潤し、ガスリークしやすくなるためである。
【0024】
本発明の請求項6は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の製造方法において、前記高度ケン化ポリビニルアルコールの−OH基のモル数に対して、コハク酸の―COOH基のモル数が2〜25%であることを特徴とするものであり、
2%未満であると、架橋密度が低く、プロトン伝導体が溶出しやすくなり、一方、25%を超えると、膜が硬くなり、ハンドリング性が低下するためである。
【0025】
本発明の請求項7は、請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の製造方法において、プロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体の高度ケン化ポリビニルアルコールに対する割合が20〜150質量%であることを特徴とするものであり、
この理由は、20質量%未満であると、プロトン伝導体が少なく、十分なプロトン伝導性が得られない可能性があり、また150質量%を超えると、脆弱なプロトン伝導体の場合、膜強度が不十分になる可能性があるためである。
【0026】
本発明の請求項8は、前記工程(3)において得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去する際の加熱温度が50〜200℃であることを特徴とするものであり、
50〜200℃の温度範囲であると、溶媒が実質的に除去され、また架橋反応が進行する
という顕著な効果を奏する。
【0027】
本発明の請求項9は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする固体高分子電解質膜であり、プロトン伝導体が溶出せず、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価であり、電気自動車、燃料電池自動車などの自動車、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器、家庭用発電装置などの発電源として用いられる固体高分子形燃料電池を構成する高分子電解質膜として利用できるというという顕著な効果を奏する。
【0028】
本発明の請求項10は、請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする膜電極接合体であり、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価である固体高分子電解質膜を用いたので、信頼性が高く、電気自動車、燃料電池自動車などの自動車、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器、家庭用発電装置などの発電源として用いられる燃料電池に用いることができるという顕著な効果を奏する。
【0029】
本発明の請求項11は、請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする固体高分子形燃料電池であり、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価である固体高分子電解質膜を用いたので、安定して高い発電効率を期待でき、電気自動車、燃料電池自動車などの自動車、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器、家庭用発電装置などの発電源として用いられるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の固体高分子電解質膜の両面に電極触媒層を形成した膜電極接合体を用いた固体高分子形燃料電池の単セル構成概略図である。
【図2】スルホン化ポリフェニレンの合成例―その1で得られた高分子P1のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で用いる高度ケン化ポリビニルアルコールマトリックスについて記載する。
本発明で用いる高分子マトリックスとしては、安価なポリビニルアルコールが挙げられる。ポリビニルアルコールには特に制限がないが、ケン化率が70%以上である高度ケン化ポリビニルアルコールが望ましく、さらに85%以上の高度ケン化ポリビニルアルコールがより望ましい。
工業用ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルの加水分解によって得られるので、ケン化率が低いと水に溶解し、ポリビニルアルコール本来のマトリックスとしての機能が低下するからである。
高度ケン化ポリビニルアルコールの分子量は1000以上であることが望ましく、さらに望ましくは、10、000から1、000、000の間であることが望ましい。
分子量が1000未満と小さすぎると、成膜時の粘度が低く、成膜が困難であり、また得られた固体高分子電解質膜の機械強度が劣る可能性があるためである。一方,1、000、000を超えて分子量が大きすぎると、塗工溶液の粘度が高すぎてしまい、成形困難になるためである。
【0032】
本発明で用いる架橋剤としてのジカルボン酸について記載する。
本発明の固体高分子電解質膜は、高分子マトリックスとプロトン伝導体で構成されるが、プロトン伝導体の発電時の溶出を抑えるために、ジカルボン酸にて架橋することもできる。
この中でもジカルボン酸は、安全性が高く、安価であるため好ましい。
また、ジカルボン酸を用いない場合でも、例えば、ポリスチレンスルホン酸は、酸として機能し、ポリビニルアルコールが酸触媒存在下において、そのヒドロキシル基同士で脱水反応により架橋されるため、ジカルボン酸がなくともプロトン伝導体が溶出しない。
【0033】
ジカルボン酸の中でもコハク酸が望ましい。その理由は、コハク酸は非常に安価であり、有機溶媒に容易に溶解するためである。
コハク酸を加える量は、高度ケン化ポリビニルアルコールの-OH基のモル数に対してコハク酸の-COOH基のモル数が2〜25%であることが望ましく、さらに望ましくは5〜15%が望ましい。
コハク酸の量が2%未満と少なすぎると架橋反応が不十分であり、プロトン伝導体が溶出する可能性が高く、また25%を超えると、架橋反応が進行し過ぎて、膜が硬くなり、ハンドリング性が低下するためである。
【0034】
本発明で用いるプロトン伝導体およびその前駆体について記載する。
プロトン解離性基としては、スルホン酸基(-SO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、スルホンアミド基(-SO2NH2)、カルボキシル基(-COOH)からなる群のうち少なくとも1種であることが望ましい。
プロトン伝導体としては、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリピリジンなどの電解質を挙げることができる。
これらのプロトン解離性基を有する高分子は、入手が容易で安価であり、またイオン交換容量が高いため、プロトン伝導性が高いため、好ましく使用できる。
【0035】
前記スルホン化ポリフェニレンは、ポリパラフェニレンやパラフェニレンとメタフェニレンの共重合体(非特許文献2を参照)を濃硫酸やクロロスルホン酸ClSO3Hを用いて得られる。
【0036】
プロトン伝導体あるいはその前駆体の、高度ケン化ポリビニルアルコールに対する比率は、望ましくは20〜150質量%であり、さらに望ましくは30〜100質量%である。
この理由は、20質量%未満であると、プロトン伝導体が少なく、十分なプロトン伝導性が得られない可能性があり、また75質量%を超えると、脆弱なプロトン伝導体の場合、膜強度が不十分になる可能性があるためである。
【0037】
本発明で用いるプロトン伝導体の前駆体とは、化学反応によりプロトン伝導体に変換されるものを言う。例えば、−COOCH3基を有する前駆体は、加水分解によって−COOHなるプロトン伝導性を付与する基へと変換される。また、−SO2Cl基は水との長時間反応や、後述のN,N-ジメチルホルムアミドとの反応を経由することにより、プロトン酸性を示す−SO3H基に変換される。このように-SO2Cl基を有する高分子はプロトン伝導体の前駆体となる高分子である。
【0038】
ポリフェニレンへのスルホン酸基の導入は、濃硫酸を用いる時には、直接スルホン化が進行するが、クロロスルホン酸ClSO3Hを用いる時には、ベンゼン環に直接スルホン化が進行する場合とスルホン酸基の前駆体としてのSO2Cl基がベンゼン環に導入される場合がある。
すなわち、ベンゼンのような芳香族炭化水素とクロロスルホン酸の反応においては、下記反応式(1)のベンゼンとクロロスルホン酸の反応の例で示すように、芳香族炭化水素に-SO3H基または-SO2Cl基が導入される。
+ClSOH→C−SOH+C―SOCl・・反応式(1)
【0039】
そして一般に、ClSO3Hの濃度が低い時にはスルホン酸基-SO3Hが導入されやすく、ClSO3Hの濃度が高い時には-SO2Cl基が導入されやすい。
-SO2Cl基は水に対して室温、短時間では安定であり、-SO2Cl基は疎水性を持つために-SO2Cl基が導入された芳香族炭化水素には水に溶けにくく、有機溶媒に溶けやすいものが多い。
この-SO2Cl基は、N,N-ジメチルホルムアミド(以下DMFと略)との反応(例えば、下記式(2)の反応)により、-SO3-(Me2N-CH=NMe2)+基に変換することができる(式(1)、(2)の反応については、非特許文献3〜5参照)。
―SOCl+DMF→C−SO(MeN―CH=NMe
・・・反応式(2)
【0040】
前記反応式(2)で生成する化合物はスルホン酸の塩と考えられ、塩酸等の酸との反応により、スルホン酸C−SOHに変換することができる。
従って、例えば、クロロスルホン酸と芳香族炭化水素基を含む高分子との反応を行う時には、反応条件によっては水に対する溶解性の低い―SOCl誘導体を得ることができると考えられる。
そして、この誘導体をDMFと反応させた後に、有機溶媒中でポリビニルアルコール及びジカルボン酸と混合し加熱して得られる複合体を塩酸等の酸と反応させてスルホン酸に変換してプロトン解離性基を有する電解質を得ることができる。
【0041】
高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとする本発明の固体高分子電解質膜において、イオン交換容量(酸価)が1.5〜5ミリ当量/gであると、高い酸価により、プロトン伝導度を向上させることができるので好ましい。
その理由は、分散状態によっては、1.5ミリ当量/g未満であるとプロトン伝導性が低下する可能性があるためであり、一方、5ミリ当量/gを超えると、高分子マトリックス内であっても、プロトン伝導体が膨潤し、ガスリークしやすくなるためである。
【0042】
本発明で使用する製膜方法の一例を説明する。
成膜用の有機溶媒としては、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略)、γ-ブチロラクトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが好ましい。成膜溶液の濃度としては、30質量%未満であることが望ましい。その理由は、30質量%以上になると、粘度が高くなり過ぎてしまい、塗工性が低下するためである。
【0043】
成膜には、具体的には、例えば、キャストによる塗工、ダイコーターによる塗工、アプリケータによる塗工が挙げられる。
【0044】
本発明においては先ず、工程(1)において、高度ケン化ポリビニルアルコールおよびプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体およびジカルボン酸を用いるかあるいは使用せずに、これらを共に溶解する有機溶媒に均一に溶解する。そして、
工程(2)において、この溶液を用いて製膜して固体高分子電解質膜の前駆体を製造する。そして、
工程(3)において、得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去するとともに、ジカルボン酸を用いた場合はジカルボン酸により高度ケン化ポリビニルアルコールを架橋し、ジカルボン酸により架橋された高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造するか、ジカルボン酸を用いない場合は高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造する。
【0045】
前記加熱の温度としては、50〜200℃の範囲であることが望ましく、さらに望ましくは70〜180℃の範囲にあることが望ましい。
この理由としては、50〜200℃の範囲であると、高沸点溶剤の除去と架橋反応を同時に進行することができるためである。
【0046】
本発明の膜電極接合体および固体高分子形燃料電池の作製方法について記載する。
図1に示した膜電極接合体11は、具体的には、例えば、白金が担持されたカーボン粒子とナフィオンからなる触媒層2、3と本発明の固体高分子電解質膜1をホットプレス法、もしくは膜に直接塗工することによって、固体高分子電解質膜1の両面に電極触媒層2、3を形成した膜電極接合体11を作製する例を挙げることができる。
図1に示すように、電極触媒層2、3上にガス拡散層4、5を配置して空気極(カソード)6および燃料極(アノード)7を作製し、セパレータ10や図示しない補助的な装置(ガス供給装置、冷却装置など)を装着して組み立て、単一あるいは積層することにより燃料電池を作製することができる。
図1において、8はガス流路、9は冷却水流路を示す。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化された高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜の作製―その1)
市販のポリスチレンスルホン酸(平均分子量75000)の水溶液を110℃で減圧乾燥して、ポリスチレンスルホン酸の粉末を得た。
このポリスチレンスルホン酸の粉末0.5gを10gのDMSOに溶解させた。
次いで、このDMSO溶液に(株)クラレ製のポリビニルアルコール(番号124。ケン化率98〜99%、重合度は2400。以下PVA−124と略)0.5gを加えた。
さらに、コハク酸0.06gを含む2gのDMSO溶液を加えて60℃で撹拌した。
このようにして得たDMSO溶液をポリエチレンテレフタレート(以下PETと略)の容器に入れて、大気圧下140℃でほぼDMSOを除いた後に減圧下140℃で乾燥してフィルムを得た。
得られたこのフィルムは80℃、95%の環境下で0.21 S cm-1 の伝導性を示した。この時、イオン交換容量(酸価)は、2.5ミリ当量/gであった。
コハク酸を添加せず、ポリビニルアルコールを0.5gのみをDMSO溶液に加えて撹拌し、60℃で撹拌させ、さらに140℃で真空乾燥したフィルムは、80℃の熱水に98%以上溶解した。
このことから、コハク酸がポリビニルアルコールを架橋し、耐水性が向上していることが確認できた。
また、このフィルムは、乾燥状態において可撓性があり90°曲げにも耐えられ、膜電極接合体の作製が容易であった。
なお、比較のために行なったポリスチレンスルホン酸を加えることなく、PVA−124とコハク酸のみを含むDMSO溶液から同様にして得たフィルムは、80℃、95%の環境下で10−4S cm-1 以下の低い伝導性(伝導率)のみを示した。
本発明のポリスチレンスルホン酸を含むフィルムが0.21 S cm-1 という高い伝導性を示すのは、ポリスチレンスルホン酸に基づくものであることが分かる。
【0049】
(比較例1)
DMSOの代わりに水を用いた他は実施例1と同様にして、ポリスチレンスルホン酸、PVA−124、コハク酸から比較のためのフィルムを得た。
この比較のためのフィルムは、乾燥時に曲げ応力に弱く機械的強度が不足しており、ハンドリングが極めて困難であった。
【0050】
(実施例2)
(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜の作製―その2)
旭ファインケム(株)社製のポリビニルスルホン酸(平均分子量13000)の水溶液を減圧乾燥して得られるポリビニルスルホン酸の粉末を用いた他は、DMSOを用いて実施例1と同様にして、室温で水に不溶のフィルムを得た。
このフィルムは、80℃、95%の環境下で0.10 S cm-1の伝導性を示した。
平均分子量が57000と118000の他の2種類のポリビニルスルホン酸を用いて実施例2と同様にして同様のフィルムを得た。
各々のフィルムは、80℃、95%の環境下で0.10 S cm-1、0.18 S cm-1の伝導性を示した。この時、このフィルムの酸価は、4.4ミリ当量/gであった。
また、これらのフィルムは、乾燥状態において可撓性があり90°曲げにも耐えられ、膜電極接合体の作製が容易であった。
【0051】
(実施例3)
(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜の作製―その3)
市販のポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)(平均分子量2000000)の水溶液を減圧乾燥して得られるポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)の粉末を用いる他は、DMSOを用いて実施例1と同様にして、室温で水に不溶のフィルムを得た。
但し、この実施例においては、フィルムの可撓性を向上させるために、PVA−124に対して同重量の市販のポリビニルピロリドン(平均分子量630000)をDMSO溶液に加えて、乾燥、真空加熱を行った。
ポリビニルピロリドンがグルタルアルデヒドを架橋剤とするPVAとポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)の複合フィルムにおいて可塑剤として機能することが報告されている(非特許文献6を参照)。
この複合フィルムは、80℃、95%の環境下で0.083 S cm-1の伝導性を示した。このフィルムの酸価は、2.3ミリ当量/gであった。
また、このフィルムは、乾燥状態において可撓性があり90°曲げにも耐えられ、膜電極接合体の作製が容易であった。
【0052】
(スルホン化ポリフェニレンの合成例―その1)
下記式(3)で表されるパラフェニレンとメタフェニレンの2:8共重合体(以下PPと称す)(数平均分子量5400、前記の非特許文献2を参照。高分子末端に基づく臭素を一部含む)1.0 gを3.15g(2.0mL)の1,1,2,2−テトラクロロエタンに加え分散させた。
【0053】
【化1】

【0054】
一部のPPは1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解した。この系に、クロロスルホン酸5.36g(46mmol)を室温で加えて撹拌した。この後、3.0g(1.9mL)の1,1,2,2−テトラクロロエタンを追加して(合計の1,1,2,2−テトラクロロエタン1mLに対して、クロロスルホン酸は約12mmolとなる)約8時間撹拌した。
その後酢酸2mLと水を加えて、クロロスルホン酸を分解した。この様にして、水層の他に灰色の粉末状粉体を得た。水層を除き、粉末状粉体をよく水洗いしてから真空乾燥して灰色〜薄茶色の粉末状高分子1.61gを得た。この高分子を空気中に放置すると重量は1.74gに増加してある程度の吸湿性を有することが分かった。この様にして得た高分子P1の元素分析値はC:48.08%、H:2.92%、Cl:11.53%、S:13.27%、Br:0.98%であり、フェニレン基の16%に−SOH基が導入され48%に−SOCl基が導入された(前記反応式(1)を参照)高分子の組成「(C0.36(CSOH)0.16(CSOCl)0.480.6HOとしての計算値C:49.02%、H:3.24%、Cl:11.58%、S:13.96%」
とほぼ一致した。
高分子P1のIRスペクトルを図2に示す。図2中の、1163 cm−1に−SOH基、−SOCl基に基づく吸収を示す。
得られた高分子P1は水、NaOH水溶液、アンモニア水に不溶であったが、DMFには加熱下に溶解した。
そして、DMF中で115℃、45分間の加熱により溶解させた後に真空乾燥してフィルム状の高分子P2を得た。
この高分子P2の元素分析値はC:50.82%、H:5.02%、N:4.87%、Cl:2.18%;S:11.58%、Br:0.91%であり、P1のCH3−SOCl単位のかなりの部分がC−SO(MeN―CH=NMe単位に変換されて生成する(前記反応式(2)を参照)高分子の組成「(C0.36(CSOH)0.16(CH(MeN―CH=NMe0.32(CSOCl)0.160.7HOとしての計算値C:52.18%、H:5.23%、N:5.12%、Cl:3.24%、S:11.73%」
とほぼ一致した。
この様にして得られたフィルム状の高分子P2を2Mの希塩酸中に室温で48時間浸した後に真空乾燥して、高分子P3を得た。
この高分子P3の元素分析値はC:46.16%、H:3.89%、N:0.22%、Cl:0.35、%;S:12.68%であり、P2のCH3−SOCl単位とC−SO(MeN―CH=NMe単位のかなりの部分がCH−SOH単位に変換されて生成する高分子の組成「(C0.36(CSOH)0.61(CH(MeN―CH=NMe0.01(CSOCl)0.021.3HOとしての計算値C:47.77%、H:4.44%、N:0.18%、Cl:0.47%、S:13.49%」
とほぼ一致した。
芳香族化合物中の−SOCl基が水との反応により−SOH基に変換されることは知られており、高分子P2中の−SOCl基の多くも−SOH基に変換されたと考えられる。
また、高分子P2中の−SO(MeN―CH=NMe基もイオン交換により−SOH基に変換されたと考えられる。
【0055】
(実施例4)
(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜の作製―その4)
上記のスルホン化ポリフェニレンの合成例―その1の結果を基に、高分子P1を原料として用いて、P3型高分子とPVA−124との複合フィルムを作成した。
すなわち、P1(100mg)を3.5mLのDMF中に加えて115 ℃で約50分間加熱してDMF溶液Aを得た。
この溶液中では、高分子P1はP2型高分子に変換されていると考えられる。
そして、このDMF溶液Aに、100 mgのPVA−124を2mLのDMFと1 mLのDMSOの混合溶媒に加熱下溶解させて得られる溶液(溶液B)を加えて、115 ℃で30分間加熱撹拌した。
このようにして得られた混合溶液にコハク酸12mgを加えて115℃で約10分間撹拌した後に、約半分の溶液を耐熱性高分子膜で作成したセル中に流し込み、85 ℃で真空乾燥してフィルムを得た。
このフィルムを2 Mの希塩酸中に2日間浸した。この際、フィルムの溶解は認められず、高ケン化ポリビニルアルコールの架橋が進んでいることを示していた。この希塩酸中に浸す処理により、高分子P1からDMFとの反応により生成したP2型高分子は、高分子P3と同様のCSOH単位を多く含む高分子に変換されたものと考えられる。
したがって、得られたフィルムは高分子P3型の高分子がコハク酸で架橋した高ケン化ポリビニルアルコール中に分散したものであると考えられる。
フィルムには目立った濁りはなくほぼ均一であり、高分子P3型の高分子と高ケン化ポリビニルアルコールは分子レベルでほぼ均一に混ざり合っていると考えられる。また、上記の仮定に基づく酸価は1.8ミリ当量/gとなる。
この様にして得られたフィルムを短時間水に浸し、水を拭取った後のサンプルは室温で約0.07 S cm−1の伝導性を示した。
【0056】
(スルホン化ポリフェニレンの合成―その2)
前記式(3)で示したパラフェニレンとメタフェニレンの2:8共重合体PPとクロロスルホン酸の反応を前記合成−その1の場合よりも薄い濃度のクロロスルホン酸溶液を用いて行った。
すなわち、上記のパラフェニレンとメタフェニレンの2:8共重合体PP1.0gを70mLの1,1,2,2−テトラクロロエタンに溶解させた。この溶液に、室温で4.19gのクロロスルホン酸(36mmol)を加えて(得られた溶液においては、1,1,2,2−テトラクロロエタン1mLに対して、クロロスルホン酸は約0.5mmolとなる)撹拌した。
そして、5時間40分後に水を加えて反応を止めた。反応系を300mLの水中に加えて撹拌後に吸引ろ過を行い茶褐色の粉状固体を得た。この粉状固体を吸引ろ過装置上で水で洗い、80℃で真空乾燥して0.45gの高分子P4を得た。
この高分子P4はDMF、DMSOには可溶であったが、アセトン、エタノールには不溶でN-メチルピロリドンには一部可溶であった。
また、水中では膨潤し3日後には溶解した。この高分子P4の元素分析値はC:49.92%、H:4.03%、Cl:1.45%、S:13.62%、Br:0.39%であり、フェニレン基の53%に−SOH基が導入され7%に−SOCl基が導入された(前記反応式(1)を参照)高分子の組成「(C0.40(CSOH)0.53(CSOCl)0.07Oとしての計算値C:50.24%、H:4.17%、Cl:1.73%、S:13.41%」
とほぼ一致した。
【0057】
(実施例5)
(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜の作製―その5)
合成―その2で得られた高分子P4の250mgを5.0gのDMSOに70℃で溶解させた。そして、得られた溶液にPVA―124のDMSO溶液(1.0gのPVA−124を30gのDMSOに75℃で溶解させて得られる溶液)を7.75g加えた。
この結果得られたDMSO溶液には、高分子P4が250mg、PVA―124が250mg(= 1000 × (7.75/31))含まれる。この溶液を約50分間70℃で撹拌した後に、この溶液にコハク酸30mgを加えて約10分間撹拌した。
得られた溶液を耐熱性高分子膜で作成したセル中に流し込み、90 ℃で真空乾燥して薄褐色のフィルムを得た。
このフィルムは水に不溶であり、コハク酸によるPVA―124の架橋が進行していることが分かった。このフィルムについての酸価は1.8ミリ当量/gと計算される。
また、このフィルムは見た目に濁りがなくPVA−124と高分子P4はほぼ均一に混合していると考えられる。
そして、このフィルムは80℃、95%の環境下で0.21 S cm-1の伝導性を示した。
【0058】
(実施例6)
実施例5に記載の方法で作成した、高分子P4、PVA−124及びコハク酸から作製したフィルム(コハク酸により架橋した高ケン化ポリビニルアルコールをマトリックスとしてスルホン化高分子を分散した複合体からなる固体高分子電解質膜)1の両面に対して、白金触媒とナフィオンから成る触媒層2、3を転写法により印刷して図1に示した膜電極接合体11を容易に作製することができた。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の固体高分子電解質膜の製造方法により、水系の溶媒を使用せず、有機溶媒を成形溶媒として使用して、強度およびイオン伝導性および安定性に優れるとともに安価である固体高分子電解質膜を容易に製造でき、電気自動車、燃料電池自動車などの自動車、ノートパソコン、携帯電話、携帯情報端末などのモバイル機器、家庭用発電装置などの発電源として用いられる固体高分子形燃料電池を構成する高分子電解質膜として利用できるという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が高い。
【符号の説明】
【0060】
1 高分子電解質膜
2 電極触媒層
3 電極触媒層
4 ガス拡散層
5 ガス拡散層
6 空気極(カソード)
7 燃料極(アノード)
8 ガス流路
9 冷却水流路
10 セパレータ
11 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(3)を含む工程により固体高分子電解質膜を製造することを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
(1)高度ケン化ポリビニルアルコールおよびプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体およびジカルボン酸を用いるかあるいは使用せずに、これらを共に溶解する有機溶媒に均一に溶解する。
(2)この溶液を用いて製膜して固体高分子電解質膜の前駆体を製造する。
(3)得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去するとともに、ジカルボン酸を用いた場合はジカルボン酸により高度ケン化ポリビニルアルコールを架橋し、ジカルボン酸により架橋された高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造するか、ジカルボン酸を用いない場合は高度ケン化ポリビニルアルコール中にプロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体が分散している固体高分子電解質膜を製造する。
【請求項2】
前記ジカルボン酸がコハク酸、シュウ酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、テレフタル酸から選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記プロトン解離性基が、スルホン酸基(-SO3H)、ホスホン酸基(-PO(OH)2)、スルホンアミド基(-SO2NH2)、カルボキシル基(-COOH)からなる群のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記プロトン解離性基を有する高分子が、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリ(2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸)、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリピリジンのいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
イオン交換容量(酸価)が1.5〜5ミリ当量/gであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記高度ケン化ポリビニルアルコールの−OH基のモル数に対して、コハク酸の―COOH基のモル数が2〜25%であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
プロトン解離性基を有する高分子および/またはその前駆体の高度ケン化ポリビニルアルコールに対する割合が20〜150質量%であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程(3)において得られた固体高分子電解質膜の前駆体を加熱して、前記有機溶媒を除去する際の加熱温度が50〜200℃であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の製造方法によって製造されたことを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項10】
請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項11】
請求項9記載の固体高分子電解質膜を用いたことを特徴とする固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−174529(P2012−174529A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36046(P2011−36046)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】