説明

架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法

【課題】高いラジカル濃度を有する架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物を安価で容易に製造する方法であって、酸化剤の使用量が比較的少量である架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法を提供すること。
【解決手段】ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物が架橋されてなる架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物と酸化剤とを、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物を含む触媒の存在下で反応させることを特徴とする、架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー密度が高く大容量の二次電池の電極材料として用いられる架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、小型ゲーム機、ノート型パソコン等、個人用端末機器の急速な市場拡大に伴い、これらに用いられるエネルギー密度の高い小型大容量二次電池への要求が高まっている。この要求に応えるために、リチウムイオン等のアルカリ金属イオンを荷電担体としてその電荷授受に伴う電気化学反応を利用した二次電池が開発されている。中でもリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高く、安定性に優れた大容量二次電池として種々の電子機器に利用されている。このようなリチウムイオン二次電池は、一般に、活物質として正極にリチウム含有遷移金属酸化物を、負極に炭素を用いたものであり、これら活物質へのリチウムイオンの挿入、脱離反応を利用して充放電を行っている。
【0003】
近年、より大容量化を目的に、電極反応に直接寄与する電極活物質としてラジカル化合物を利用した二次電池が有用とされ、酸化状態においてニトロキシルカチオン部分構造をとり、還元状態においてニトロキシルラジカル部分構造をとるニトロキシル化合物を正極中に含有する蓄電デバイスが提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、当該ニトロキシル化合物の製造方法として、特定の環状イミノ基を側鎖に有するポリメタクリレートをジクロロメタンに溶解しメタクロロ過安息香酸を用いて酸化する方法が開示されている。しかしながら、メタクロロ過安息香酸は高価で、危険性が高く、生成物の精製に煩雑な工程を要するといった問題がある。
【0005】
より安価でより安全にニトロキシル化合物を製造する方法としては、過酸化水素を用いて相当するイミノ化合物を酸化する方法が知られている(非特許文献1、特許文献2参照)。
【0006】
非特許文献1には、例えば、ポリメタクリル酸イミノ化合物を、当該ポリメタクリル酸イミノ化合物の良溶媒であるメタノール溶媒中で、タングステン酸ナトリウムの存在下、過酸化水素水によって酸化した後、エーテルを加えて析出させることにより製造する方法が開示されている。また、特許文献2には、2級アミン構造を側鎖に持つ高分子を、水への溶解度が低くかつ水と2相系を形成する有機溶媒に溶解し、水溶性酸化触媒の存在下、過酸化水素によって酸化する方法が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの製造方法には種々の不具合な点がある。例えば、非特許文献1に記載の製造方法によると、反応に長時間を要し、その後の精製工程において触媒が高分子に混入するといった問題がある。また、特許文献2に記載の製造方法によると、良溶媒である有機溶媒を併用するために分離工程を要するだけでなく、反応率が不十分で十分なラジカル転化率が得られないといった問題がある。さらには、製造時の作業環境や、廃水が引き起こす環境汚染等の観点から、より安全な製造方法の提案が望まれている。
【0008】
加えて、二次電池の性能安定性を向上させる要求から、電解液を構成する溶媒への溶出を抑制した電極活物質の提案が望まれるところ、前記従来技術によると、対溶媒安定性に優れていると見込まれる架橋体にニトロキシルラジカル構造を効率よく付与することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明者らはこのような従来の問題点を解決すべく研究した結果、ニトロキシルラジカル構造を有し、対溶媒安定性に優れた架橋体である架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物を安価で容易に製造する方法を提案した(特許文献3参照)。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載の製造方法は、高い酸化率を達成するためには比較的多量の酸化剤を使用する必要があるという問題があった。
【0011】
【特許文献1】特開2002−304996号公報
【特許文献2】特開2005−97409号公報
【特許文献3】特開2007−45856号公報
【非特許文献1】J.Polym.Sci.Polym.Chem.Ed.,10,3295(1972)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、高いラジカル濃度を有する架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物を安価で容易に製造する方法であって、酸化剤の使用量が比較的少量である架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下に示すとおりの、架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法に関する。
【0014】
すなわち、本発明は、式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Rは、水素原子またはメチル基を示す。)で表される繰り返し単位からなるポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物が架橋されてなる架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物と酸化剤とを、式(2):
【0017】
【化2】

【0018】
(式中、Xは、水素原子、アセトアミノ基またはビニルオキシ基を示す。)で表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物を含む触媒の存在下で反応させることを特徴とする、式(3):
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Rは、前記式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表される繰り返し単位を含む架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法に関する。
【0021】
本発明に用いられる前記酸化剤は、例えば、過酸化水素である。
【0022】
また、本発明に用いられる前記触媒は、過タングステン酸をさらに含むものであってもよい。
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0024】
なお、本発明において、アクリル酸およびメタクリル酸を(メタ)アクリル酸といい、アクリレートおよびメタクリレートを(メタ)アクリレートという。
【0025】
本発明に用いられる架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位からなるポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を架橋してなるものである。
【0026】
【化4】

【0027】
式(1)において、Rは、水素原子またはメチル基を示す。
【0028】
本発明において、前記架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物における、上記式(1)で表される繰り返し単位の含有率は、特に限定されるものではないが、架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を構成しているすべての繰り返し単位に対して60モル%以上100モル%未満であることが好ましく、80モル%以上100モル%未満であることがさらに好ましい。
【0029】
架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を製造する方法としては、例えば、(メタ)アクリル酸イミノ化合物を重合させる際に架橋剤を添加して架橋させる方法や、ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を放射線等により架橋させる方法等を挙げることができる。
【0030】
(メタ)アクリル酸イミノ化合物を重合させる際に架橋剤を添加して架橋させる方法において、より具体的には、例えば、撹拌機、温度計、窒素ガス導入管および冷却管を備えた反応器を用いて、所定量の(メタ)アクリル酸イミノ化合物、架橋剤および油溶性ラジカル重合開始剤を不活性炭化水素系溶媒に混合したものを、界面活性剤や分散剤等の安定化剤を含んだ水に混合した後、窒素ガスにより脱酸素し、撹拌下で加熱する懸濁重合法を用いることができる。
【0031】
架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を製造するための(メタ)アクリル酸イミノ化合物は市販のものを用いることができる。
【0032】
(メタ)アクリル酸イミノ化合物を重合させる際に添加する架橋剤としては、重合性不飽和基を分子内に複数有する化合物であれば特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸系多官能化合物、アリルエーテル系多官能化合物およびビニル系多官能化合物等が挙げられる。(メタ)アクリル酸系多官能化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,7−ヘプタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−(メタ)アクリロイロキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。アリルエーテル系多官能化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジアリルエーテルおよびジブチレングリコールジアリルエーテル等が挙げられる。ビニル系多官能化合物としては、例えば、ジビニルベンゼン等が挙げられる。なお、これら架橋剤は、1種単独で、あるいは2種以上を併用して用いることができる。
【0033】
懸濁重合法に用いられる油溶性ラジカル重合開始剤としては特に限定されず、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ジ−tert−ブチル、ラウロイルパーオキシド、ジイソプロピルペルオキシジカルボナート、ジシクロヘキシルペルオキシジカルボナート等の過酸化物系重合開始剤;α,α’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系重合開始剤;過酸化ベンゾイル/ジメチルアニリン、過酸化ジ−tert−ブチル/ジメチルアニリン、ラウロイルパーオキシド/ジメチルアニリン等のレドックス系重合開始剤等が挙げられる。なかでも、安価であり取り扱いが簡便なα,α’−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ系重合開始剤が好適に用いられる。
【0034】
懸濁重合法に用いられる不活性炭化水素系溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、n−ヘキサン、n−ヘプタン、リグロイン等の非環式飽和炭化水素系溶媒、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の環式飽和炭化水素系溶媒およびジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒等が挙げられる。
【0035】
懸濁重合法に用いられる界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれをも用いることができる。これらの中でも、工業的に入手が容易で、安価であり、得られる化合物の品質が安定する観点から、アニオン性界面活性剤のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ジメチルスルホコハク酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等が好適に用いられる。また、分散剤としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物、ゼラチン、デンプン、スチレン−マレイン酸共重合体、並びに、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、およびその塩等のセルロース誘導体等の水溶性高分子が好適に用いられる。
【0036】
反応温度としては、30〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。反応時間は、反応温度により異なるため一概には言えないが、通常、0.5〜10時間である。
【0037】
かくして得られた反応生成物である架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物は、反応溶液中に粒子状態で存在するため、該反応液をろ過することにより単離することができる。さらに、水、ヘキサン等を用いて、未反応物等を除去、洗浄し、乾燥することにより精製することができる。
【0038】
本発明において、前記架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物の形状は、なんら限定されるものではないが、酸化剤との反応を円滑に進行させるという観点から、中位粒径が1mm以下の粉粒体であることが好ましく、中位粒径が0.5mm以下の粉粒体であることがより好ましい。粉粒体の架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を得る方法としては、例えば、一般に使用されるミキサーやブレンダー等を用いて粉砕する方法等が挙げられる。
【0039】
ここで中位粒径とは、標準ふるいを用いて分級した後、各ふるい上に残存した粉粒体の重量について粗目側から積算した合計値が、測定に供した重量の50%を超えた際の目開きを指す。
【0040】
本発明に係る架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法は、前記架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物と酸化剤とを特定の触媒の存在下で反応させることを特徴とする。
【0041】
本発明に用いられる酸化剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム等の無機系過酸化物;塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン;硝酸、亜硝酸等の硝酸系化合物;酸化銅、酸化鉛等の金属酸化物;塩化第2鉄等の金属塩化物;フェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物;過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩;過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過炭酸ナトリウム、過炭酸アンモニウム等の過炭酸塩;過ホウ酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム等の過ホウ酸塩;過リン酸カリウム等の過リン酸塩;クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウム等のクロム酸塩;塩素酸ナトリウム等の塩素酸塩;亜塩素酸ニッケル、亜塩素酸アンモニウム等の亜塩素酸塩;次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸ナトリウム等の次亜塩素酸塩;臭素酸カリウム等の臭素酸塩;過酢酸、過酢酸tert−ブチル、過安息香酸、過安息香酸tert−ブチルベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、キュメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド等の有機系過酸化物等およびこれらの混合物を挙げることができる。これらの中でも、経済性と副生成物の安全性などを考慮して、過酸化水素が好適に用いられる。
【0042】
酸化剤の使用量は、反応を安全で円滑に進行させる観点および使用量に見合うだけの効果を得る観点から、架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物の製造に用いた(メタ)アクリル酸イミノ化合物1モルに対して1.5〜10モルであることが好ましく、2〜8モルであることがより好ましい。
【0043】
なお前記反応において、酸化剤の分解を防止する目的で、必要に応じて酸を加えてもよい。添加する酸としては、例えば、塩酸、硝酸および硫酸等を使用することができる。酸の使用量は、酸化剤1モルに対して0.00001〜0.15モルであることが好ましく、0.0001〜0.1モルであることがより好ましい。
【0044】
本発明に用いられる触媒は、下記式(2)で表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物を含むものである。
【0045】
【化5】

【0046】
式(2)において、Xは、水素原子、アセトアミノ基またはビニルオキシ基を示す。
【0047】
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルおよび4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等を挙げることができる。これらの中でも、入手しやすく経済的である観点から、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルおよび4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルが好適に用いられ、昇華性がなく熱安定性に優れる観点から、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルがより好適に用いられる。
【0048】
本発明において、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物は、市販のものを用いてもよいし、あるいは適宜製造したものを用いてもよい。例えば4−ビニルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルを製造する方法としては、市販の4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシルと酢酸ビニルとをイリジウム触媒の存在下で反応させた後、単離、精製する方法等を挙げることができる。
【0049】
本発明に用いられる触媒は、前記2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物に加え、さらに過タングステン酸を含むものであってもよい。
【0050】
2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物に加えてさらに過タングステン酸を含む触媒を用いることにより、酸化剤の使用量の更なる低減およびニトロキシド化率の向上を実現することができる。なお、本発明において、過タングステン酸は、例えば、タングステン酸と過酸化水素等の酸化剤とを反応させて得られるものを用いることができる。
【0051】
前記触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、酸化剤1モルに対して0.00001〜0.15モルであることが好ましく、0.0001〜0.1モルであることがより好ましい。前記触媒が2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物に加えてさらに過タングステン酸を含む場合の過タングステン酸の使用割合は、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物1モルに対して5モル以下であることが好ましい。
【0052】
本発明に係る製造方法に用いられる反応溶媒としては、水、並びに、水と、メタノール、エタノール、tert−ブチルアルコールおよびアセトニトリル等の水溶性有機溶剤との混合溶液等を挙げることができる。
【0053】
反応溶媒の使用量は、特に限定されるものではないが、例えば、反応を円滑に進行させる観点から、架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物100重量部に対して100〜10000重量部であることが好ましく、2000〜5000重量部であることがより好ましい。
【0054】
本発明において、前記架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物と酸化剤とを触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されるものではないが、安全で容易に効率よく反応させる観点から、例えば、所定量の前記反応溶媒を撹拌しながら架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を徐々に添加して調製した架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物の分散液に、あらかじめ調製していた前記酸化剤と触媒との混合溶液を添加する方法が好適に用いられる。
【0055】
反応温度としては、0〜90℃が好ましく、20〜80℃がより好ましい。反応時間は、反応温度により異なるために一概には言えないが、通常、1〜24時間であり、好ましくは3〜12時間である。なお、酸化剤を添加しながら反応させる場合は、酸化剤の添加を終了した後、さらに、撹拌しながら反応液の温度を1〜10時間保持することが好ましい。
【0056】
かくして得られた架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物は、ろ過や乾燥等の単位操作を組み合わせて反応液から容易に単離することができる。
なお、本発明は、二次電池に好適に用いられる、対溶媒安定性に優れた電極活物質としての架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物について記載したものであるが、架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物に代えてポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物を用いた場合においても、本発明と同様にして、ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物を容易に効率よく製造することができる。
【発明の効果】
【0057】
本発明によると、対溶媒安定性に優れ、二次電池の電極活物質として有用な架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法であって、酸化剤の使用量が少量である製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0058】
以下に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
製造例1
内容積200mLの三角フラスコに2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニルメタクリレート13.75g(61ミリモル)、架橋剤としてエチレングリコールジメタクリレート0.25g(1.2ミリモル)、重合開始剤として2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル0.21g(0.8ミリモル)およびヘプタン42mLを仕込み、混合して均一溶液を得た。
【0060】
次に、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた500mL容の4つ口フラスコに、水200mLおよび界面活性剤としてポリビニルアルコール(重合度:2000)5.0gを仕込み、混合し、この溶液を25℃に保持して、撹拌下、前記均一溶液を加えて分散させた。引き続き、窒素ガスを通じて反応系内の酸素を除去した後、撹拌下、60℃にて6時間反応させた。反応終了後、反応液を室温まで冷却し、ろ過した後、水500mL、次いでヘキサン500mLで洗浄し、減圧乾燥したものをワンダーブレンダー(大阪ケミカル株式会社製)で粉砕して中位粒径が63μmである白色粉体の架橋ポリメタアクリル酸イミノ化合物13.1gを得た(収率93.6%)。
【0061】
実施例1
試験管に4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.095g(0.44ミリモル)、タングステン酸0.11g(0.44ミリモル)および60%過酸化水素水6.3g(111ミリモル)を仕込み、40℃にて15分間撹拌して混合溶液を調製した。これとは別に、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管および滴下ロートを備えた500mL容の4つ口フラスコに、87%tert−ブチルアルコール水溶液50gを仕込み、製造例1と同様にして得られた架橋ポリメタアクリル酸イミノ化合物5gを加えて分散させた。これを50℃に保持しながら前記混合溶液を1時間かけて徐々に添加し、さらに撹拌下、同温度にて6時間保持した。反応終了後、反応液をろ過し、水500mLで3回洗浄した後、減圧乾燥して赤褐色粉体の架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物5.1gを得た(収率95.9%)。
【0062】
なお、得られた架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物のラジカル転化率を測定したところ、96.0%であった。なお、ラジカル転化率は、JEOL−JES−FR30EX型フリーラジカルモニタ(日本電子株式会社製)を用い、マイクロ波出力4mW、変調周波数100kHz、変調幅79μTの条件下で335.9mT±5mTの範囲で測定して得た一次微分型のESRスペクトルを2回積分して吸収面積強度を求め、同一条件で測定した既知試料(4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピぺリジン−1−オキシル)の吸収面積強度と比較することにより算出した。
【0063】
実施例2
試験管に4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.095g(0.44ミリモル)および60%過酸化水素水6.3g(111ミリモル)を仕込み、40℃にて15分間撹拌して混合溶液を調製した。これとは別に、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管および滴下ロートを備えた500mL容の4つ口フラスコに、87%tert−ブチルアルコール水溶液50gを仕込み、製造例1と同様にして得られた架橋ポリメタアクリル酸イミノ化合物5gを加えて分散させた。これを50℃に保持しながら前記混合溶液を1時間かけて徐々に添加し、さらに撹拌下、同温度にて10時間保持した。反応終了後、反応液をろ過し、水500mLで3回洗浄した後、減圧乾燥して赤褐色粉体の架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物5.2gを得た(収率98.2%)。
【0064】
なお、得られた架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物について、実施例1と同様にしてラジカル転化率を求めたところ88.1%であった。
【0065】
実施例3
実施例1において、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.095g(0.44ミリモル)に代えて、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル0.069g(0.44ミリモル)を用いた以外は、実施例1と同様にして、赤褐色粉体の架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物5.2gを得た(収率97.8%)。
【0066】
なお、得られた架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物について、実施例1と同様にしてラジカル転化率を求めたところ95.1%であった。
【0067】
比較例1
試験管にタングステン酸ナトリウム2水和物0.73g(2.2ミリモル)および60%過酸化水素水6.3g(111ミリモル)を仕込み、40℃にて15分間撹拌して混合溶液を調製した。これとは別に、撹拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管および滴下ロートを備えた500mL容の4つ口フラスコに、87%tert−ブチルアルコール水溶液50gを仕込み、製造例1と同様にして得られた架橋ポリメタアクリル酸イミノ化合物5gを加えて分散させた。これを50℃に保持しながら前記混合溶液を1時間かけて徐々に添加し、さらに撹拌下、同温度にて6時間保持した。反応終了後、反応液をろ過し、水500mLで3回洗浄した後、減圧乾燥して赤褐色粉体の架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物5.2gを得た(収率97.6%)。
【0068】
なお、得られた架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物について、実施例1と同様にしてラジカル転化率を求めたところ40.2%であった。
【0069】
比較例2
比較例1において、60%過酸化水素水6.3g(111ミリモル)に代えて、60%過酸化水素水37.8g(667ミリモル)を用いた以外は、比較例1と同様にして、赤褐色粉体の架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物5.1gを得た(収率96.6%)。
【0070】
なお、得られた架橋ポリメタクリル酸ニトロキシド化合物について、比較例1と同様にしてラジカル転化率を求めたところ90.2%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

(式中、Rは、水素原子またはメチル基を示す。)で表される繰り返し単位からなるポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物が架橋されてなる架橋ポリ(メタ)アクリル酸イミノ化合物と酸化剤とを、式(2):
【化2】

(式中、Xは、水素原子、アセトアミノ基またはビニルオキシ基を示す。)で表される2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル化合物を含む触媒の存在下で反応させることを特徴とする、式(3):
【化3】

(式中、Rは、前記式(1)におけるRと同じ基を示す。)で表される繰り返し単位を含む架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法。
【請求項2】
酸化剤が、過酸化水素である請求項1に記載の架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法。
【請求項3】
触媒が、過タングステン酸をさらに含む、請求項1または2に記載の架橋ポリ(メタ)アクリル酸ニトロキシド化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−1725(P2009−1725A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165683(P2007−165683)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】