説明

架橋剤

【課題】架橋剤としての性能に優れるとともに、配合後に系外へ揮発しにくい架橋剤の提供。
【解決手段】下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物を含む架橋剤。
【化1】


[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋剤としての性能に優れる、特定の有機ホウ素化合物を含む架橋剤、当該架橋剤と活性水素含有官能基を有する重合体とを混合してなる混合物、当該混合物からなる塗工液やそれを塗工してなる塗膜、上記有機ホウ素化合物と活性水素含有官能基を有する重合体とが反応してなる架橋物、当該架橋物を含む樹脂組成物、当該架橋物または当該樹脂組成物からなる成形体および架橋剤を構成する成分として有用な特定の有機ホウ素化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ酸やその塩は、配位交換によって水酸基と配位結合を形成し易いことから、例えばバインダーのような用途において、水酸基含有重合体に対する硬化剤や架橋剤として古くから利用されてきた(特許文献1および2などを参照)。しかしながら、これら従来のホウ酸系化合物は、所望の物性を有する架橋物が得られないなど、架橋剤としての性能が充分でない場合があった。また、従来のホウ酸系化合物は前述のような配位交換性から、溶媒など、反応系における環境の影響を受け易く、配位交換によってホウ酸系化合物の物性が変化するといった潜在的な欠点を有している。例えば、置換基がすべてメタノールで置換されたホウ酸トリメチルの場合、その沸点は68℃まで低下する。そのため、メタノールを含む水酸基含有重合体に従来のホウ酸系化合物を配合しこれを成形する際などにおいて、その成形条件によっては、加工中にホウ酸系化合物が系外へ揮発してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−27093号公報
【特許文献2】特開2006−137078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、架橋剤としての性能に優れるとともに、配合後に系外へ揮発しにくい架橋剤、当該架橋剤と活性水素含有官能基を有する重合体とを混合してなる混合物、当該混合物からなる塗工液やそれを塗工してなる塗膜、上記有機ホウ素化合物と活性水素含有官能基を有する重合体とが反応してなる架橋物、当該架橋物を含む樹脂組成物、当該架橋物または当該樹脂組成物からなる成形体および架橋剤を構成する成分として有用な有機ホウ素化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは架橋剤について種々検討をしている中で、ホウ素原子を含む特定の部分構造を3つ以上有する有機ホウ素化合物が架橋剤としての性能に優れるとともに、配位交換が起こっても系外への揮発が抑制されることを見出し、これらの知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1]下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物を含む架橋剤、
【0007】
【化1】

【0008】
[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]
[2]前記有機ホウ素化合物が前記部分構造(I)を分子内に3〜6個有する、上記[1]の架橋剤、
[3]前記部分構造(I)におけるmが1であり、nが3である、上記[1]または[2]の架橋剤、
[4]前記有機ホウ素化合物が、下記式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)で示される有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]の架橋剤、
【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
【化5】

【0013】
[5]上記[1]〜[4]のいずれか1つの架橋剤と、活性水素含有官能基を有する重合体とを混合してなる混合物、
[6]前記活性水素含有官能基が水酸基である、上記[5]の混合物、
[7]前記活性水素含有官能基を有する重合体が、ビニルアルコール単位の含有率が80モル%以上のポリビニルアルコール、エチレン含量が20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[5]の混合物、
[8]前記活性水素含有官能基を有する重合体が、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールである、上記[5]の混合物、
[9]前記活性水素含有官能基を有する重合体100質量部に対する前記有機ホウ素化合物の混合割合が0.1〜30質量部である、上記[5]〜[8]のいずれか1つの混合物、
[10]液体媒体を含む、上記[5]〜[9]のいずれか1つの混合物、
[11]上記[10]の混合物からなる塗工液、
[12]上記[11]の塗工液を塗工してなる塗膜、
[13]上記[1]〜[4]のいずれか1つの架橋剤に含まれる前記有機ホウ素化合物と、活性水素含有官能基を有する重合体とが反応してなる架橋物、
[14]前記活性水素含有官能基が水酸基である、上記[13]の架橋物、
[15]前記活性水素含有官能基を有する重合体が、ビニルアルコール単位の含有率が80モル%以上のポリビニルアルコール、エチレン含量が20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[13]の架橋物、
[16]前記活性水素含有官能基を有する重合体が、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールである、上記[13]の架橋物、
[17]前記活性水素含有官能基を有する重合体100質量部と、前記有機ホウ素化合物0.1〜30質量部とが反応してなる、上記[13]〜[16]のいずれか1つの架橋物、
[18]上記[13]〜[17]のいずれか1つの架橋物を含む樹脂組成物、
[19]上記[13]〜[17]のいずれか1つの架橋物または上記[18]の樹脂組成物からなる成形体、
[20]下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物、
【0014】
【化6】

【0015】
[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]
[21]前記部分構造(I)を分子内に3〜6個有する、上記[20]の有機ホウ素化合物、
[22]前記部分構造(I)におけるmが1であり、nが3である、上記[20]または[21]の有機ホウ素化合物、
[23]下記式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)で示される有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)のうちのいずれかである、上記[20]の有機ホウ素化合物、
【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】


に関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、架橋剤としての性能に優れるとともに、配合後に系外へ揮発しにくい架橋剤、当該架橋剤と活性水素含有官能基を有する重合体とを混合してなる混合物、当該混合物からなる塗工液やそれを塗工してなる塗膜、上記有機ホウ素化合物と活性水素含有官能基を有する重合体とが反応してなる架橋物、当該架橋物を含む樹脂組成物、当該架橋物または当該樹脂組成物からなる成形体および架橋剤を構成する成分として有用な有機ホウ素化合物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本明細書の実施例1および2ならびに比較例1および2において得られたフィルムの粘弾性の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[架橋剤]
本発明の架橋剤は下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物を含む。以下、当該有機ホウ素化合物を「化合物(a)」と称する場合がある。
【0023】
【化11】

【0024】
[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]
【0025】
上記部分構造(I)において、RおよびRがそれぞれ表す「置換されていてもよいアルキル基」における置換される前のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−デシル基、n−ドデシル基等の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられ、配位置換後の脱離物(代表的にはR−OHおよびR−OH)の揮発性(揮発による除去の容易性)の観点から、炭素数1〜8のアルキル基が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましく、メチル基、エチル基、イソプロピル基がさらに好ましい。
【0026】
また、RおよびRがそれぞれ表す「置換されていてもよいアルキル基」における置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等のアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。「置換されていてもよいアルキル基」における置換基の数は、0〜3個の範囲内であることが好ましく、0個または1個であることがより好ましく、0個(すなわち、置換基を有さないアルキル基)であることがさらに好ましい。
【0027】
また、RとRは互いに結合していてもよい。RとRが互いに結合することにより、RおよびRがそれぞれ結合している2つの酸素原子および当該2つの酸素原子が結合しているホウ素原子とともに環構造を形成することができる。部分構造(I)がこのような環構造を形成すると、得られる架橋剤の熱的安定性が向上するため、取り扱い性に優れたものとなる。RおよびRの結合形態に特に制限はないが、例えば、RおよびRが共に「置換されていてもよいアルキル基」である場合に、これらの「置換されていてもよいアルキル基」から水素原子をそれぞれ1つずつ取り除き、当該水素原子が結合していた部分同士で結合した構造に相当する形態などが挙げられる。
【0028】
部分構造(I)において、mが0または1であって、nが1〜3の整数である限り、mおよびnの組み合わせに特に制限はないが、化合物(a)の調製が容易なことから、mが1であり、nが3であるか、または、mが0であり、nが2であることが好ましく、mが1であり、nが3であることがより好ましい。
【0029】
部分構造(I)の具体例としては、例えば、下記式(I−1)〜(I−12)で示される部分構造(I−1)〜(I−12)が挙げられる。
【0030】
【化12】

【0031】
上記の部分構造(I)の中でも、化合物(a)の調製が容易であるとともに、溶液にした際の溶液安定性および架橋剤としての性能により優れる架橋剤が得られることから、部分構造(I−9)、部分構造(I−10)が好ましい。
【0032】
化合物(a)は部分構造(I)を分子内に3つ以上有する。部分構造(I)の数が2個以下である場合には、架橋剤としての性能が不十分となる。架橋剤としての性能の観点から、化合物(a)は部分構造(I)を分子内に3〜6個の範囲内で有することが好ましく、3個または4個有することがより好ましい。なお、化合物(a)が複数有する部分構造(I)は、全てが同じ構造であっても、一部または全部が互いに異なる構造であってもよいが、製造が容易であることから全てが同じ構造であることが好ましい。
【0033】
化合物(a)において、部分構造(I)以外の部分(以下、「母核」と称する場合がある)の構造に特に制限はないが、母核としては、例えば、部分構造(I)が結合する部分の全てに水素原子を結合させた場合に、置換されていてもよい脂肪族炭化水素となる母核(置換されていてもよい脂環式炭化水素となる母核を含む)、置換されていてもよい芳香族炭化水素となる母核などが挙げられる。
【0034】
上記「置換されていてもよい脂肪族炭化水素となる母核」および「置換されていてもよい芳香族炭化水素となる母核」における置換基としては、例えば、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、メルカプト基などが挙げられる。「置換されていてもよい脂肪族炭化水素となる母核」および「置換されていてもよい芳香族炭化水素となる母核」における置換基の数は、0〜3個の範囲内であることが好ましく、0個または1個であることがより好ましい。
【0035】
上記の母核の炭素数は1〜10の範囲内であることが好ましく、2〜6の範囲内であることがより好ましい。
【0036】
母核の具体例としては、例えば、下記式(II−1)〜(II−5)で示される母核(II−1)〜(II−5)が挙げられる。
【0037】
【化13】

【0038】
[式(II−1)〜(II−5)中、*は部分構造(I)が結合する部分を表す。]
【0039】
上記の母核の中でも、所望の物性を有する化合物(a)を安価に製造することができることから、母核(II−1)が好ましい。
【0040】
化合物(a)の分子量は、あまりに小さすぎると、ホウ素原子上の置換基が低級アルコールなどで配位交換された後の沸点が低下して成形中に揮発しやすくなる傾向があり、またあまりに大きすぎると、溶解性、樹脂との相溶性が低下する傾向があることから、200〜5000の範囲内であることが好ましく、300〜2500の範囲内であることがより好ましく、500〜1500の範囲内であることがさらに好ましい。
【0041】
また、化合物(a)におけるホウ素原子の含有率[化合物(a)の質量に対する、化合物(a)が有する全てのホウ素原子の質量の割合]は、あまりに低すぎると架橋剤としての性能が低下する傾向があり、またあまりに高すぎると溶液にした際の溶液安定性が悪くなる傾向があることから、1〜15質量%の範囲内であることが好ましく、2〜10質量%の範囲内であることがより好ましく、3〜7質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0042】
化合物(a)の好ましい具体例としては、例えば、下記式(a−1)〜(a−15)で示される有機ホウ素化合物(a−1)〜(a−15)が挙げられる。
【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
【化19】

【0049】
【化20】

【0050】
【化21】

【0051】
【化22】

【0052】
【化23】

【0053】
【化24】

【0054】
【化25】

【0055】
【化26】

【0056】
【化27】

【0057】
【化28】

【0058】
上記の部分構造(I)の中でも、化合物(a)の調製が容易であるとともに、溶液にした際の溶液安定性および架橋剤としての性能により優れる架橋剤が得られることから、有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)、(a−12)、(a−15)が好ましく、有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)、(a−12)がより好ましい。
【0059】
化合物(a)の製造方法に特に制限はなく、公知の反応を適用して適宜製造することができる。例えば、部分構造(I)においてmが1であり、nが3である化合物(a)は、部分構造(I)の結合部分の全てにアリルオキシ基が結合された合成前駆体を予め準備し、これにピナコールボラン等のホウ素化合物を用いてヒドロホウ素化反応させることにより容易に製造することができる。また、例えば、部分構造(I)においてmが0であり、nが2である化合物(a)は、部分構造(I)の結合部分の全てにビニル基が結合された合成前駆体を予め準備し、これにピナコールボラン等のホウ素化合物を用いてヒドロホウ素化反応させることにより容易に製造することができる。製造後の化合物(a)は、必要に応じて、蒸留などの手法により精製することができる。
【0060】
本発明の架橋剤は上記の化合物(a)を含む。本発明の架橋剤において化合物(a)は1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。また、本発明の架橋剤における化合物(a)の含有率に特に制限はなく、用途などに応じて適宜調整することができるが、50〜100質量%の範囲内であることが好ましく、80〜100質量%の範囲内であることがより好ましく、95〜100質量%の範囲内であることがさらに好ましく、架橋剤が化合物(a)のみからなっていてもよい。架橋剤における化合物(a)以外の成分としては、例えば、ホウ酸やその塩等の化合物(a)以外の他の架橋性化合物;充填剤;安定剤;着色剤;溶剤などが挙げられる。
【0061】
本発明の架橋剤は、化合物を架橋する用途に使用される限りその具体的な用途に特に制限はないが、重合体を架橋する用途に使用することが好ましい。
【0062】
[混合物および架橋物]
本発明は上記の架橋剤と、活性水素含有官能基を有する重合体[以下、「重合体(b)」と称する場合がある]とを混合してなる混合物を包含する。当該混合物は、混合条件、後述する液体媒体の有無、使用する架橋剤や重合体(b)の種類などの影響によって、架橋剤に含まれる化合物(a)と重合体(b)とが反応せずにそのまま存在している態様;一部の化合物(a)と一部の重合体(b)とが反応して架橋物を形成している態様;化合物(a)および重合体(b)の全てが反応して架橋物を形成している態様などの態様を取り得る。特に、混合物が後述する液体媒体を含む場合には、化合物(a)および重合体(b)のうちの少なくとも一部が反応せずにそのまま存在している場合が多い。このような混合物は後述するように塗工液として好ましく使用することができる。当該塗工液は、例えば、基材等の塗工対象物に塗工し、必要に応じてさらに乾燥することにより、化合物(a)と重合体(b)とが反応し、当該反応によって得られる架橋物を含む塗膜を容易に形成することができる。架橋剤と重合体(b)とを混合し、場合によっては上記のようにさらに塗工や乾燥等の処理をすることにより、架橋剤に含まれる化合物(a)における部分構造(I)中のホウ素原子に、重合体(b)中の活性水素含有官能基から活性水素に対応する水素原子が外れた官能基が配位交換によって結合し、結果として、重合体(b)の分子同士が架橋して架橋物が形成されるものと考えられる。
【0063】
上記の架橋剤と重合体(b)とを混合する際における混合方法に特に制限はなく、例えば、架橋剤を液体媒体に溶解してなる溶液と重合体(b)を液体媒体に溶解してなる溶液とを混合する方法;架橋剤を液体媒体に溶解してなる溶液と重合体(b)のペレットとを混合する方法;架橋剤と重合体(b)を液体媒体に溶解してなる溶液とを混合する方法;架橋剤と重合体(b)(重合体(b)のペレット等)とを、必要に応じて可塑剤の存在下に押出機などを用いて溶融混練する方法などが挙げられ、重合体(b)の種類や得られる混合物の用途などに応じて適宜選択することができる。
【0064】
上記の液体媒体の種類に特に制限はなく、水や汎用の有機溶媒などを用いることができる。汎用の有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサン、トルエン、アセトニトリル等が挙げられる。液体媒体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、上記の混合物を塗工液として使用する際に塗工後の乾燥が容易であることから、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、トルエン、アセトニトリルが好ましい。
【0065】
上記の架橋剤と重合体(b)との混合割合は上記の塗膜や後述する成形体といった最終物の使用目的などに応じて適宜調整することができるが、得られる混合物や最終物の安定性などの観点から、重合体(b)100質量部に対する上記の架橋剤に含まれる化合物(a)の割合が0.1〜30質量部の範囲内であることが好ましく、0.2〜20質量部の範囲内であることがより好ましく、0.5〜10質量部の範囲内であることがさらに好ましい。上記の混合割合によって架橋剤と重合体(b)とを混合することにより、化合物(a)と重合体(b)とが上記の割合で反応してなる架橋物が容易に得られる。
【0066】
重合体(b)が有する活性水素含有官能基の種類に特に制限はなく、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、メルカプト基などが挙げられ、重合体(b)は1種の活性水素含有官能基のみを有していても、2種以上の活性水素含有官能基を有していてもよい。上記の活性水素含有官能基は、容易に架橋物を与えることができることから、水酸基、アミノ基、カルボキシル基であることが好ましく、水酸基、カルボキシル基であることがより好ましく、水酸基であることが特に好ましい。
【0067】
重合体(b)において、活性水素含有官能基は、重合体(b)を構成する繰り返し単位の少なくとも一部が有していても、重合体(b)の末端が有していてもよいが、重合体(b)を構成する繰り返し単位の少なくとも一部が有していることが、容易に架橋物を与えることができることから好ましい。重合体(b)を構成する繰り返し単位の少なくとも一部が有している場合、活性水素含有官能基は、それを有する繰り返し単位の側鎖中に含まれていても[側鎖の全体が活性水素含有官能基である場合を含む]、繰り返し単位の主鎖中に含まれていてもよいが、側鎖中に含まれていることが、容易に架橋物を与えることができることから好ましい。
【0068】
重合体(b)の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール系重合体、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリウレタン、アイオノマーなどが挙げられる。重合体(b)は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの重合体(b)の中でもポリビニルアルコール系重合体が好ましく、特に、ビニルアルコール単位の含有率が80モル%以上のポリビニルアルコール[以下、重合体(b−1)と称する場合がある]、エチレン含量が20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体[以下、重合体(b−2)と称する場合がある]、および、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタール[以下、重合体(b−3)と称する場合がある]からなる群より選ばれる少なくとも1種がより好ましく、重合体(b−3)がさらに好ましい。
【0069】
ポリビニルアルコール系重合体は、通常、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルを単独で重合するかまたは必要に応じてビニルエステル以外の他の単量体と共に共重合し、得られたポリビニルエステル系重合体を酸性物質またはアルカリ性物質によりけん化することによって製造することができる。ここで、上記他の単量体の使用量やけん化の程度を調整することにより、ビニルアルコール単位の含有率を所望の範囲にすることができる。また、上記他の単量体の少なくとも一部としてエチレンを適当量使用すれば、所望のエチレン含量を有するエチレン−ビニルアルコール共重合体が得られる。さらに、けん化によって生じた水酸基の一部をアルデヒドまたはその誘導体によってアセタール化すれば、所望のアセタール化度を有するポリビニルアセタールが得られる。
【0070】
重合体(b−1)におけるビニルアルコール単位の含有率[重合体(b−1)を構成する全構造単位のモル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合]は、得られる架橋物の加工性の観点から、80モル%以上であり、90モル%以上であることが好ましく、95モル%以上であることがより好ましい。重合体(b−1)のビニルアルコール単位の含有率の上限に特に制限はないが、重合体(b−1)の調製の容易さなどの観点から、当該含有率は99.9モル%以下であることが好ましい。
【0071】
また、重合体(b−1)の重合度は、溶液にした際の粘度安定性の観点から、300〜5000の範囲内であることが好ましく、400〜3000の範囲内であることがより好ましく、500〜2500の範囲内であることがさらに好ましい。なお本明細書において、重合体(b−1)の重合度とはJIS K6726−1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、重合体(b−1)を再けん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0072】
重合体(b−2)におけるエチレン含量[重合体(b−2)を構成する全構造単位のモル数に対するエチレン単位のモル数の割合]は、得られる架橋物の加工性の観点から、20〜50モル%の範囲内であり、25〜45モル%の範囲内であることが好ましく、30〜40モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0073】
重合体(b−2)におけるビニルアルコール単位の含有率[重合体(b−2)を構成する全構造単位のモル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合]は、得られる架橋物の加工性の観点から、40〜80モル%の範囲内であることが好ましく、45〜75モル%の範囲内であることがより好ましく、50〜70モル%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0074】
また、重合体(b−2)のメルトフローレート(温度190℃、荷重2.16kgの条件下にASTM D1238の記載に準じて測定)は、0.1〜100g/10分の範囲内であることが好ましく、0.2〜50g/10分の範囲内であることがより好ましく、0.5〜20g/10分の範囲内であることがさらに好ましい。
【0075】
重合体(b−3)の製造に使用されるアルデヒドまたはその誘導体としては、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等のアルデヒド;これらのアルデヒドのアセタール;これらのアルデヒドから調製されるビニルエーテルなどが挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、重合体(b−3)の製造が容易であることから、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、n−ブチルアルデヒドが好ましく、n−ブチルアルデヒドがより好ましい。
【0076】
重合体(b−3)のアセタール化度は、あまりに低すぎると入手性が困難になったり溶融加工性に劣ったりする傾向があり、一方、あまりに高すぎても入手性が困難になる傾向があることから、50〜95モル%の範囲内であり、55〜90モル%の範囲内であることが好ましく、60〜85モル%の範囲内であることがより好ましい。なお本明細書において、アセタール化度とは、アセタール単位を構成する構造単位、ビニルアルコール単位およびビニルエステル単位の合計モル数に対するアセタール単位を構成する構造単位のモル数の割合を意味する。ここで、1つのアセタール単位は2つの構造単位から形成されると考えられることから、アセタール単位を構成する構造単位のモル数は、通常、アセタール単位のモル数の2倍になる。
【0077】
重合体(b−3)におけるビニルアルコール単位の含有率[重合体(b−3)を構成する全構造単位のモル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合]は、生産性の観点から、3〜50モル%の範囲内であることが好ましく、5〜45モル%の範囲内であることがより好ましく、10〜40モル%の範囲内であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、重合体がアセタール単位を含む場合における重合体の全構造単位のモル数は、アセタール単位についてはそれを構成する構造単位の数を基準として求めるものとする。すなわち、1つのアセタール単位が2つのビニルアルコール単位から構成されている場合における重合体の全構造単位のモル数は、当該アセタール単位についてはそれを構成するビニルアルコール単位のモル数を基準として求めるものとする。
【0078】
重合体(b−3)の重合度は、成形性、力学物性の観点から、アセタール化する前の状態において、300〜4000の範囲内であることが好ましく、400〜3000の範囲内であることがより好ましく、500〜2500の範囲内であることがさらに好ましい。なお本明細書において、アセタール化する前の状態における重合体(b−3)の重合度とはJIS K6726−1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味し、アセタール化する前の重合体(b−3)を再けん化し、精製した後に30℃の水中で測定した極限粘度から求めることができる。
【0079】
[塗工液および塗膜]
上記のように、液体媒体を含む混合物は塗工液として好ましく使用することができる。当該塗工液としては、上記の可塑剤、重合体(b)、これらが反応してなる架橋物など、液体媒体以外の成分が液体媒体中に完全に溶解している溶液や、液体媒体以外の成分のうちの少なくとも一部が液体媒体に分散している分散体などが挙げられる。これらのうちでも、均一な塗工が可能になることから液体媒体以外の成分が液体媒体中に溶解している溶液であることが好ましい。
【0080】
上記の塗工液は、得られる塗膜の使用目的などに応じて、化合物(a)、重合体(b)、これらが反応してなる架橋物および液体媒体以外に、さらに他の成分を含むことができる。このような他の成分としては、例えば、酸化防止剤、安定剤、滑剤、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、熱線反射剤、熱線吸収剤、耐衝撃助剤、充填剤、耐湿剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、重合体(b)以外の重合体などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。塗工液に含まれる液体媒体以外の成分の合計質量に対して、化合物(a)、重合体(b)およびこれらが反応してなる架橋物の合計質量が占める割合は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、100質量%であってもよい。
【0081】
また、塗工液の全質量に対して、塗工液が含む液体媒体以外の成分の合計質量が占める割合は、用途によっても異なるが、あまりに低すぎると塗工後の乾燥に長時間を要する傾向があり、またあまりに高すぎると粘度が高くなって塗工の際の作業性が低下する傾向があることから、1〜40質量%の範囲内であることが好ましく、2〜30質量%の範囲内であることがより好ましく、2.5〜20質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0082】
塗工液の調製方法に特に制限はなく、上記のように架橋剤と重合体(b)とを混合してなる液体媒体を含む混合物をそのまま塗工液としてもよいし、必要に応じて、得られた混合物に液体媒体などをさらに添加したり、あるいは、得られた混合物から液体媒体の一部を蒸発などによって除去したりしたものを塗工液としてもよい。
【0083】
塗工液の用途に特に制限はないが、例えば、セラミックバインダー、インクなどが挙げられる。塗工液が塗工される塗工対象物は用途にもよるが、セラミック、合成樹脂シートなどが挙げられる。
【0084】
[樹脂組成物]
上記した架橋物はそれ単独で用いてもよいが、用途などによっては、架橋物とそれ以外の成分を含む樹脂組成物として使用してもよい。また、架橋剤と重合体(b)とを混合して架橋物を得る際に、架橋物の他に、未反応の化合物(a)、未反応の重合体(b)、架橋剤の分解物などが混入した粗生成物が得られることがあるが、これらの成分を除去せずに用いれば架橋物の精製作業が不要となる。
上記の樹脂組成物における架橋物以外の成分としては、例えば、液体媒体、酸化防止剤、安定剤、滑剤、難燃剤、加工助剤、帯電防止剤、着色剤、熱線反射剤、熱線吸収剤、耐衝撃助剤、充填剤、耐湿剤、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、重合体(b)以外の重合体、上記した未反応の化合物(a)、上記した未反応の重合体(b)、上記した架橋剤の分解物などが挙げられ、用途などに応じて、これらのうちの1種または2種以上を含むことができる。
【0085】
[成形体]
上記の架橋物またはそれを含む樹脂組成物の好ましい形態の一例としては、上記の架橋物またはそれを含む樹脂組成物からなる成形体が挙げられる。成形体の具体的な形態に特に制限はなく、例えば、フィルム、シート、繊維、各種立体構造体などが挙げられる。また、別の成形体を製造するために使用されるペレットの形態であってもよい。
【0086】
成形体の製造方法に特に制限はなく、例えば、上記の塗工液を基材等の塗工対象物に塗工し、必要に応じてさらに乾燥することにより塗膜としての成形体を得る方法;架橋剤と重合体(b)(重合体(b)のペレット等)とを、必要に応じて可塑剤の存在下に押出機を用いて溶融混練後、各種ダイから押し出して押出成形体を得る方法;架橋剤と重合体(b)(重合体(b)のペレット等)とを、必要に応じて可塑剤とともに射出成形機に供給して射出成形体を得る方法;架橋剤と重合体(b)とを、必要に応じて可塑剤とともに混合してなる混合物を熱プレスしてフィルム状またはシート状の成形体を得る方法などが挙げられる。特に上記した架橋物は、より高い温度に加熱した場合であっても架橋物が流動的であることから、溶融混練する工程を含む方法により成形体を製造した場合であっても、目的とする成形体を容易に製造することが可能となる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用されたフィルムの粘弾性の測定方法を以下に示した。
【0088】
[フィルムの粘弾性の測定方法]
以下の実施例または比較例で得られたフィルムから30mm×5mmのサイズの測定サンプルを切り出し、株式会社ユービーエム製 動的粘弾性測定装置「DVE−V4」を用いて、その貯蔵弾性率E’を測定した。測定は−35℃〜220℃の温度範囲で、昇温速度3℃/分、周波数10Hzの条件で行った。
【0089】
[実施例1]
有機ホウ素化合物(a−3)の合成
【0090】
【化29】

【0091】
反応器にグリセリン4.6質量部、水酸化ナトリウム20質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド5.8質量部および水20質量部を入れて攪拌後、これに塩化アリル27.6質量部を添加し、60℃で12時間攪拌した。得られた混合物に酢酸エチルおよび飽和食塩水を加えて攪拌後分液し、有機層を濃縮後、減圧蒸留してグリセリントリアリルエーテルを得た。得られたグリセリントリアリルエーテルのH−NMRの解析結果を以下に示した。
【0092】
H−NMR(270MHz、CDCl、TMS) δ(ppm):3.5−3.6(4H、OCHCO)、3.65−3.75(1H、OCCHO)、4.0−4.1(4H、CHOCCH=CH)、4.1−4.2(2H、CHOCCH=CH)、5.1−5.3(6H、OCHCH=C)、5.8−6.0(3H、OCH=CH
【0093】
別の反応器に塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム1.75質量部、テトラヒドロフラン84質量部およびピナコールボラン8.7質量部を入れ、ここに上記のグリセリントリアリルエーテル4.0質量部を添加し、室温で1時間攪拌した後、さらに1時間加熱還流した。得られた混合物に酢酸エチルおよび水を加えて攪拌後分液し、有機層を濃縮後、減圧蒸留して有機ホウ素化合物(a−3)を得た。得られた有機ホウ素化合物(a−3)のH−NMRの解析結果を以下に示した。
【0094】
H−NMR(270MHz、DMSO−d、TMS) δ(ppm):0.9−1.0(6H、CHB)、1.27(36H、BOCC)、1.5−1.7(6H、OCHCHB)、3.3−3.6(11H、OCCHCHB、OCHCO、OCCHO)
【0095】
塗工液の調製
上記の有機ホウ素化合物(a−3)を架橋剤として用いて、これとポリビニルブチラールとを混合してなる塗工液を調製した。すなわち、ポリビニルブチラール(重合度600のポリビニルアルコールをn−ブチルアルデヒドによりアセタール化したもの。アセタール化度:63.5モル%、ビニルアルコール単位の含有率:35モル%、ビニルアセテート単位の含有率:1.5モル%)の10質量%エタノール溶液8.5質量部に、上記の有機ホウ素化合物(a−3)が0.026質量部溶解したエタノール溶液8.5質量部を添加し、十分に攪拌して均一な塗工液を得た。
【0096】
フィルムの作製
10cm×10cmのサイズに加工したPETフィルムの型枠に上記の塗工液を流し込み、溶媒を十分に揮発させた後、室温で24時間真空乾燥してフィルムを作製した。得られたフィルムを用いて上記の方法によって粘弾性を評価した。結果を図1に示した。
【0097】
[実施例2]
有機ホウ素化合物(a−12)の合成
【0098】
【化30】

【0099】
反応器にペンタエリスリトールトリアリルエーテル50質量部、水酸化ナトリウム36質量部、テトラブチルアンモニウムブロミド7.0質量部、水36質量部を入れて攪拌後、これに塩化アリル27.7質量部を添加し、60℃で9時間攪拌した。得られた混合物に酢酸エチルおよび飽和食塩水を加えて攪拌後分液し、有機層を濃縮後、減圧蒸留してペンタエリスリトールテトラアリルエーテルを得た。得られたペンタエリスリトールテトラアリルエーテルのH−NMRの解析結果を以下に示した。
【0100】
H−NMR(270MHz、CDCl、TMS) δ(ppm):3.47(8H、CCO)、3.9−4.0(8H、OCCH=CH)、5.1−5.3(8H、OCHCH=C)、5.8−6.0(4H、OCH=CH
【0101】
別の反応器に塩化トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム1.5質量部、テトラヒドロフラン88.4質量部およびピナコールボラン17.7質量部を入れ、ここに上記のペンタエリスリトールテトラアリルエーテル10.0質量部を添加し、室温で1時間攪拌した後、さらに1時間加熱還流した。得られた混合物に酢酸エチルおよび水を加えて攪拌後分液し、有機層を濃縮後、減圧蒸留して有機ホウ素化合物(a−12)を得た。得られた有機ホウ素化合物(a−12)のH−NMRの解析結果を以下に示した。
【0102】
H−NMR(270MHz、DMSO−d、TMS): 0.85−0.95(8H、CHB)、1.27(48H、BOCC)、1.5−1.7(8H、OCHCHB)、3.3−3.5(16H、CCO、OCCHCHB)
【0103】
塗工液の調製およびフィルムの作製
実施例1において、有機ホウ素化合物(a−3)0.026質量部の代わりに有機ホウ素化合物(a−12)0.026質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして塗工液を調製した。この塗工液を用いて実施例1と同様にしてフィルムを作製し、上記の方法によって粘弾性を評価した。結果を図1に示した。
【0104】
[比較例1]
実施例1において、有機ホウ素化合物(a−3)が溶解したエタノール溶液8.5質量部の代わりに、有機ホウ素化合物が溶解していないエタノール8.5質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして塗工液を調製した。この塗工液を用いて、実施例1と同様にしてフィルムを作製し、上記の方法によって粘弾性を評価した。結果を図1に示した。
【0105】
[比較例2]
実施例1において、有機ホウ素化合物(a−3)0.026質量部の代わりにホウ酸0.026質量部を使用したこと以外は実施例1と同様にして塗工液を調製した。この塗工液を用いて実施例1と同様にしてフィルムを作製し、上記の方法によって粘弾性を評価した。結果を図1に示した。
【0106】
図1から明らかなように、本発明の架橋剤を用いて得られたフィルムは、高温ゴム領域での貯蔵弾性率の低下が小さくて、架橋剤としての性能に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物を含む架橋剤。
【化1】


[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]
【請求項2】
前記有機ホウ素化合物が前記部分構造(I)を分子内に3〜6個有する、請求項1に記載の架橋剤。
【請求項3】
前記部分構造(I)におけるmが1であり、nが3である、請求項1または2に記載の架橋剤。
【請求項4】
前記有機ホウ素化合物が、下記式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)で示される有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の架橋剤。
【化2】


【化3】


【化4】


【化5】

【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋剤と、活性水素含有官能基を有する重合体とを混合してなる混合物。
【請求項6】
前記活性水素含有官能基が水酸基である、請求項5に記載の混合物。
【請求項7】
前記活性水素含有官能基を有する重合体が、ビニルアルコール単位の含有率が80モル%以上のポリビニルアルコール、エチレン含量が20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の混合物。
【請求項8】
前記活性水素含有官能基を有する重合体が、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールである、請求項5に記載の混合物。
【請求項9】
前記活性水素含有官能基を有する重合体100質量部に対する前記有機ホウ素化合物の混合割合が0.1〜30質量部である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項10】
液体媒体を含む、請求項5〜9のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項11】
請求項10に記載の混合物からなる塗工液。
【請求項12】
請求項11の塗工液を塗工してなる塗膜。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋剤に含まれる前記有機ホウ素化合物と、活性水素含有官能基を有する重合体とが反応してなる架橋物。
【請求項14】
前記活性水素含有官能基が水酸基である、請求項13に記載の架橋物。
【請求項15】
前記活性水素含有官能基を有する重合体が、ビニルアルコール単位の含有率が80モル%以上のポリビニルアルコール、エチレン含量が20〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体、および、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項13に記載の架橋物。
【請求項16】
前記活性水素含有官能基を有する重合体が、アセタール化度が50〜95モル%のポリビニルアセタールである、請求項13に記載の架橋物。
【請求項17】
前記活性水素含有官能基を有する重合体100質量部と、前記有機ホウ素化合物0.1〜30質量部とが反応してなる、請求項13〜16のいずれか1項に記載の架橋物。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか1項に記載の架橋物を含む樹脂組成物。
【請求項19】
請求項13〜17のいずれか1項に記載の架橋物または請求項18に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項20】
下記式(I)で示される部分構造(I)を分子内に3つ以上有する有機ホウ素化合物。
【化6】


[式(I)中、mは0または1を表し、nは1〜3の整数を表し、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子または置換されていてもよいアルキル基を表し、RとRは互いに結合していてもよい。]
【請求項21】
前記部分構造(I)を分子内に3〜6個有する、請求項20に記載の有機ホウ素化合物。
【請求項22】
前記部分構造(I)におけるmが1であり、nが3である、請求項20または21に記載の有機ホウ素化合物。
【請求項23】
下記式(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)で示される有機ホウ素化合物(a−3)、(a−6)、(a−9)および(a−12)のうちのいずれかである、請求項20に記載の有機ホウ素化合物。
【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【図1】
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【公開番号】特開2012−184198(P2012−184198A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48641(P2011−48641)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】