説明

架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料並びにこれらの製造方法

【課題】ニトリルオキシドで変性したNR等の高分子材料をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋できるようにした架橋可能な高分子材料、及びこの架橋可能な高分子をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋した架橋高分子材料、並びにこの架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料の製造方法を提供する。
【解決手段】ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させる付加過程と、前記付加過程の後に、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋する架橋過程とを備えることを特徴とする架橋高分子材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニトリルオキシドを付加反応させた高分子材料及びこの高分子材料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EPDM、NR、NBR等のように分子内に炭素−炭素二重結合を有する高分子材料は、太陽光(特に紫外線)やオゾンにより劣化し易いため、用途によっては耐候性に問題が生じることがあった。また、これらの高分子材料は、特定の有機溶媒等に対しては溶解することがあり、そのような有機溶媒等と接触するおそれがある部位にも用いることができなかった。そのため、これらの高分子材料の用途を広げる一策として、ニトリルオキシドでの変性(化学修飾)が考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、天然ゴムや合成ジエン系ゴムに、4−(2−オキサゾリル)−フェニル−ニトリルオキシドや4−(2−チアゾリル)−フェニル−ニトリルオキシドを攪拌処理又は混練処理することで、天然ゴム等を変性して、カーボンブラック等の充填剤等の分散性と反応性を向上させる技術が記載されている。
【0004】
しかし、EPDM、NR、NBR等の高分子材料を、ニトリルオキシドで変性してしまうと、分子内の炭素−炭素二重結合が少なくなり、場合によっては、なくなってしまうことから、硫黄等による架橋ができなくなるおそれがあった。
【0005】
なお、特許文献2には、メシチレンジニトリルオキシド(MDNO)等の二官能性ニトリルオキシドでジエン系エラストマーを架橋する技術が記載されている。しかし、このような二官能性ニトリルオキシドは反応性が著しく高いことから、比較的低温で混練及び加工を行わなくてはならず、加工特性が劣っていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−163232号公報
【特許文献2】特開平11−180943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、ニトリルオキシドで変性したNR等の高分子材料をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋できるようにした架橋可能な高分子材料、及びこの架橋可能な高分子をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋した架橋高分子材料、並びにこの架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドのように、2位に置換基を有する1−ナフトニトリルオキシド誘導体は、安定性が比較的高いことから二量化しにくく、室温等において取り扱うことができ、その上、比較的温和な条件下でNR等に付加反応することができた(表1の比較例D1参照)。
そこで、グリシジル基又はエトキシカルボニル基を有する置換基を1−ナフトニトリルオキシドの2位に導入した、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドをNR等に付加反応させることで、分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入することができ、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋できる架橋可能なNR等になることを見出した。
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の架橋可能な高分子材料の製造方法は、ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させる付加過程によりグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入することを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の架橋高分子材料の製造方法は、ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させる付加過程と、前記付加過程の後に、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋する架橋過程とを備えることを特徴とする。
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の架橋可能な高分子材料は、分子内にニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させることにより分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入してなる。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の架橋高分子材料は、前記架橋可能な高分子材料をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋してなる。
【0013】
本発明の架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料並びに架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料の製造方法における各要素の態様を以下に例示する。
【0014】
1.高分子材料
高分子材料の多重結合としては、特に限定はされないが、C=S(炭素−硫黄二重結合)、N=N(窒素−窒素二重結合)、P(V)=C(5価のリン−炭素二重結合)、C=P(III)(炭素−3価のリン二重結合)、C=As(炭素−ヒ素二重結合)、C=C(炭素−炭素二重結合)、C=N(炭素−窒素二重結合)、C=Se(炭素−セレン二重結合)、B=N(ホウ素−窒素二重結合)、C≡P(炭素−リン三重結合)、C≡C(炭素−炭素三重結合)、P(V)=N(5価のリン−窒素二重結合)、C≡N(炭素−窒素三重結合)、C=O(炭素−酸素二重結合)等が例示できる。
高分子材料としては、特に限定はされないが、炭素−窒素三重結合を有するニトリル基を分子内に有するPAN(ポリアクリロニトリル)、炭素−炭素二重結合を分子内に有するNR(天然ゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)、炭素−窒素三重結合を有するニトリル基及び炭素−炭素二重結合を分子内に有するNBR(ニトリルゴム)等が例示できる。
【0015】
2.2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドの添加量
2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドの添加量としては、架橋高分子材料等の用途等によっても異なり、特に限定はされないが、敢えていうならば、高分子材料中のニトリルオキシドが付加反応する多重結合に対して、0.1〜1.0当量であることが好ましい。
【0016】
3.付加過程
付加過程としては、特に限定はされないが、有機溶媒中又は無溶媒(有機溶媒を用いない)で行うことが好ましい。
有機溶媒としては、特に限定はされないが、高分子材料と2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は高分子材料と2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが共に溶解し易いものであることが好ましい。具体的には、クロロホルム、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)等が例示できる。
また、付加過程を無溶媒で行う場合に、混練装置で行うことが好ましい。
混練装置としては、特に限定はされないが、二軸混練機、密閉式混練機、バンバリーミキサー、インターミックス等の混練機や二軸押出機、単軸押出機、多軸押出機等の押出機等が例示できる。
付加過程の温度としては、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが高分子材料に付加反応する温度であれば、特に限定はされない。敢えていうならば、化学反応であることから温度が高ければ反応が促進され、また加熱等の温度調節を行わなければ付加過程の管理が容易になることから、0℃〜200℃であることが好ましい。より好ましくは、50〜100℃である。
【0017】
4.架橋過程
架橋過程としては、特に限定はされないが、有機溶媒中又は無溶媒(有機溶媒を用いない)で行うことが好ましい。
有機溶媒としては、特に限定はされないが、架橋可能な高分子材料とジアミン化合物の架橋剤又は架橋可能な高分子材料とジヒドラジド化合物の架橋剤が共に溶解し易いものであることが好ましい。具体的には、クロロホルム、DMF等が例示できる。
架橋過程の温度としては、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤が架橋可能な高分子材料と架橋反応する温度であれば、特に限定はされない。敢えていうならば、40〜200℃であることが好ましい。
【0018】
5.架橋剤
架橋剤の添加量としては、架橋高分子材料の用途等によっても異なり、特に限定はされないが、敢えていうならば、付加過程により高分子材料に導入されたグリシジル基又はエトキシカルボニル基に対して、1〜50mol%であることが好ましい。
【0019】
5−1.ジアミン化合物
架橋剤のジアミン化合物としては、活性水素を一つ又は二つ有するアミノ基を二つ有するものであれば、特に限定はされない。具体的には、エチレンジアミン、プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン等の活性水素を二つ有するアミノ基を二つ有するジアミン化合物や、N−メチルエチレンジアミン、N−メチルプロパンジアミン、N−メチルテトラメチレンジアミン、N−メチルペンタメチレンジアミン、N−メチルヘキサメチレンジアミン、N−メチルフェニレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−エチルプロパンジアミン、N−エチルテトラメチレンジアミン、N−エチルペンタメチレンジアミン、N−エチルヘキサメチレンジアミン、N−エチルフェニレンジアミン等の活性水素を一つ有するアミノ基と活性水素を二つ有するアミノ基とを有するジアミン化合物や、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルプロパンジアミン、N,N’−ジメチルテトラメチレンジアミン、N,N’−ジメチルペンタメチレンジアミン、N,N’−ジメチルヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジメチルフェニレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルプロパンジアミン、N,N’−ジエチルテトラメチレンジアミン、N,N’−ジエチルペンタメチレンジアミン、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジエチルフェニレンジアミン等の活性水素を一つ有するアミノ基を二つ有するジアミン化合物等が例示できる。
【0020】
5−2.ジヒドラジド化合物
架橋剤のジヒドラジド化合物としては、特に限定はされない。具体的には、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、こはく酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、オクタン二酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド 、イソフタル酸ジヒドラジド 、テレフタル酸ジヒドラジド等が例示できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ニトリルオキシドで変性したNR等の高分子材料をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋できるようにした架橋可能な高分子材料、及びこの架橋可能な高分子をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤で架橋した架橋高分子材料、並びにこの架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ひずみと引張応力との関係のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0023】
<1>2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド及び2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドの合成
本発明に使用した、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド(化1参照)及び2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシド(化3参照)の合成方法について説明する。
【0024】
〈1〉2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシドの構造式を次(化1)に示す。
【化1】

【0025】
この2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシドは、次のようなステップで合成した。
【化2】

【0026】
《ステップ1》2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒド(化2の(3))の合成
化2に示すように、エピクロロヒドリン(2)196mL(2.47mol)中に、2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド(1)17.1g(99.0mmol)を溶解させ、ここにベンジルトリエチルアンモニウムクロライド2.26g(9.92mmol)を加え15分間還流して反応させた。そして、この反応液をクロロホルム200mLに溶解させ、水150mLで3回洗浄した後、有機相をMgSO(硫酸マグネシウム)で乾燥後、溶媒を減圧濃縮した。残渣をイソプロピルアルコールで再結晶し、得られた針状結晶をイソプロピルアルコールで洗浄することにより、16.1g (収率71%)の針状結晶である2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒド(3)を得た。
【0027】
《ステップ2》2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒドオキシム(化2の(4))の合成
化2に示すように、エタノール110mLに、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒド(3)5.03g(22.0mmol)を十分に溶解させたエタノール溶液を調整した。別に、水110mLに酢酸ナトリウム三水和物4.48g(32.9mmol)とヒドロキシルアミン塩酸塩2.29g(32.9mmol)とを溶解させた水溶液を調整し、この水溶液を前記エタノール溶液中に加え、室温で4時間攪拌して反応させた。そして、この反応液に水を加え、沈殿物をろ過によって回収し、真空乾燥して5.36g(収率100%)の白色粉末である2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒドオキシム(4)を得た。
【0028】
《ステップ3》2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド(化2のB)の合成
化2に示すように、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトアルデヒドオキシム(4)3.00g(12.3mmol)を氷浴下でクロロホルム66mLに溶解させ、N−クロロスクシンイミド(NCS)1.84g(13.5mmol)を加え攪拌しているところに、トリエチルアミン1.63mL(16.0mmol)を加えた後、6時間攪拌して反応させた。そして、この反応溶液を純水50mL及びBrine(ブライン)50mLで3回ずつ洗浄し、有機相をMgSOで乾燥後、溶媒を減圧濃縮することで収率79%で2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシドBを得た
【0029】
〈2〉2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドの構造式を次(化3)に示す。
【化3】

【0030】
この2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドは、次のようなステップで合成した。
【化4】

【0031】
《ステップ1》2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒド(化4の(6))の合成
化4に示すように、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)20mL中に2−ヒドロキシ−1−ナフトアルデヒド(1)1.09g(6.33mmol)及び炭酸カリウム1.22g(8.86mmol)を溶解させて1時間攪拌した後、6−ブロモへキサン酸エチル(5)1.94g(8.72mmol)を加えて100℃で13時間攪拌して反応させた。そして、この反応液に水50mLを加え酢酸エチル50mLで抽出した後、純水50mL及びBrine(ブライン)50mLで3回ずつ洗浄し、有機相をMgSOで乾燥後、溶媒を減圧濃縮した。得られた緑色粗生成物をhexane−AcOEt(ヘキサン−酢酸エチル)で再結晶し、1.67g(収率84%)の板状結晶である2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒド(6)を得た。
【0032】
《ステップ2》2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒドオキシム(化4の(7))の合成
化4に示すように、エタノール2mLと水1mLとの混合液に、2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒド(6)0.206g(0.654mmol)を溶解させた混合溶液を調整した。別に、水1mLに水酸化ナトリウム25.1mg(0.628mmol)とヒドロキシルアミン塩酸塩68.7mg(0.994mmol)とを氷浴中で溶解させた水溶液を調整し、この水溶液を前記混合溶液中に加え、室温で30分間攪拌して反応させた。しかし、サンプリングによって原料の残留が確認されたため、同様に水酸化ナトリウム27.3mg(0.683mmol)とヒドロキシルアミン塩酸塩55.8mg(0.803mmol)とを加え、室温で1時間攪拌して反応させた。得られた固体をろ過によって回収し、粗生成物をhexane−EtOH(ヘキサン−エタノール)で再結晶し、127mg(収率59%)の無色結晶である2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒドオキシム(7)を得た。
【0033】
《ステップ3》2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシド(化4のC)の合成
化4に示すように、2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトアルデヒドオキシム(7)88.2mg(0.268mmol)をクロロホルム30mLに溶解させ、氷浴下でN−クロロスクシンイミド(NCS)38.2mg(0.325mmol)とトリエチルアミン48.3μL(0.348mmol)とを加えた後、10分間攪拌して反応させた。そして、この反応溶液を純水10mLで洗浄し、有機相をMgSOで乾燥後、溶媒を減圧濃縮することで十分に使用可能な粗生成物の2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドCを81.9mg得た。
【0034】
<2>架橋可能な高分子材料の製造
この2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを高分子材料に付加反応させ、高分子材料にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入して、本発明の実施例の架橋可能な高分子材料を製造した。
【0035】
また、比較例として、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドをNRに付加反応させたものを製造した。なお、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドの構造式を次(化5)に示す。
【化5】

【0036】
それぞれの実施例及び比較例の製造(反応)条件を次の表1に示すとともに、それぞれの収率及び修飾率も表1に示す。なお、表1の試薬の欄は、付加反応に用いた、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド(表中Bと表示)、2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシド(表中Cと表示)及び2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシド(表中Aと表示)を示している。また、括弧内の数字は、添加量(各高分子材料中の多重結合(炭素−炭素二重結合及びニトリル基)に対する当量)である。
【0037】
【表1】

【0038】
本実施例及び比較例には、次のものを用いた。
高分子材料としては、NR(天然ゴム)、PAN(ポリアクリロニトリル)、NBR(ニトリルゴム)、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)を用いた。この内、NBRはアクリロニトリルの質量比が33%のものを、EPDMはジエンの質量比が10%のものを用いた。
【0039】
実施例D1〜D11について説明する。
実施例D1は、CHCl(クロロホルム)の溶媒中にNRを溶解させ、そこに、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド(以下、ニトリルオキシドBと省略することがある)を0.1当量添加し、70℃の温度で24時間攪拌して付加反応を行った。また、この反応式を次(化6)に示す。
【0040】
【化6】

【0041】
実施例D2は、ニトリルオキシドBの替わりに2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシド(以下、ニトリルオキシドCと省略することがある)を1.0当量添加した以外は実施例D1と同じ条件で付加反応を行った。
実施例D3は、有機溶媒を用いず(無溶媒)、乳鉢中で、NRにニトリルオキシドCを1.0当量添加し、70℃の温度で1時間加圧混合して付加反応を行った。
【0042】
実施例D4は、DMF(N,N−ジメチルホルムアミド)の溶媒中にPANを溶解させ、そこに、ニトリルオキシドBを1.0当量添加し、90℃の温度で24時間攪拌して付加反応を行った。
実施例D5は、ニトリルオキシドBの替わりにニトリルオキシドCを1.0当量添加した以外は実施例D4と同じ条件で付加反応を行った。
【0043】
実施例D6は、CHClの溶媒中にNBRを溶解させ、そこに、ニトリルオキシドBを1.0当量添加し、70℃の温度で24時間攪拌して付加反応を行った。
実施例D7は、ニトリルオキシドBの替わりにニトリルオキシドCを1.0当量添加した以外は実施例D6と同じ条件で付加反応を行った。
実施例D8は、有機溶媒を用いず(無溶媒)、乳鉢中で、NBRにニトリルオキシドCを1.0当量添加し、70℃の温度で1時間加圧混合して付加反応を行った。
【0044】
実施例D9は、CHClの溶媒中にEPDMを溶解させ、そこに、ニトリルオキシドBを1.0当量添加し、70℃の温度で24時間攪拌して付加反応を行った。
実施例D10は、ニトリルオキシドBの替わりにニトリルオキシドCを1.0当量添加した以外は実施例D9と同じ条件で付加反応を行った。
実施例D11は、有機溶媒を用いず(無溶媒)、乳鉢中で、EPDMにニトリルオキシドCを1.0当量添加し、70℃の温度で1時間加圧混合して付加反応を行った。
【0045】
比較例D1について説明する。
比較例D1は、CHClの溶媒中にNRを溶解させ、そこに、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシド(以下、ニトリルオキシドAと省略することがある)を1.0当量添加し、70℃の温度で48時間攪拌して付加反応を行った。
【0046】
このようにして製造したものの、収率及び修飾率は、次のようにして求めた。
(1)修飾率
修飾率、即ち、高分子材料中の炭素−炭素二重結合及びニトリル基に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド、2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシド又は2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加した割合を、IR測定、1HNMR測定及び13CNMR測定により算出した。なお、NBRは、炭素−炭素二重結合及びニトリル基にそれぞれ付加するため、修飾率は、炭素−炭素二重結合(表中olefinと表示)とニトリル基(表中CNと表示)のそれぞれについて算出した。
【0047】
(2)収率
上記のようにして求められた修飾率による理論収量を求め、その理論収量に対する実際の収量の割合を次の式(数1)により算出し、その値を収率とした。
【数1】

【0048】
表1に示すように、実施例D1〜D11は、修飾率が0%ではないことから、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが70〜90℃の温度で付加反応して、グリシジル基又はエトキシカルボニル基が導入され、分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を有する架橋可能なNR、PAN、NBR又はEPDMを製造することができた。
一方、比較例D1は、修飾率が39%であったことから、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNRを製造することができた。
【0049】
<3>架橋高分子材料の製造
実施例D1、実施例D2又は実施例D7で製造された架橋可能な高分子材料(架橋可能なNR、NBR)をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋した本発明の実施例の架橋高分子材料を製造した。
また、比較例として、比較例D1で製造され、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNRについて、ジアミン化合物の架橋剤によって架橋を行った。
【0050】
本実施例及び比較例には、次の架橋剤を用いた。
ジアミン化合物の架橋剤には、次(化7)に構造式を示すN,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミンを用いた。
【化7】

【0051】
ジヒドラジド化合物の架橋剤には、次(化8)に構造式を示すアジピン酸ジヒドラジドを用いた。
【化8】

【0052】
それぞれの実施例及び比較例の架橋条件を次の表2に示すとともに、それぞれの収率も表2に示す。また、それぞれの架橋構造生成の有無は、ゲル化で判別し、その結果も表2に示す。なお、表2の架橋剤の欄は、架橋に用いた、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン(表中Dと表示)と、アジピン酸ジヒドラジド(表中Eと表示)を示している。また、架橋剤の添加量は、実施例については、架橋可能なNR又は架橋可能なNBRの製造時の付加過程により、NR又はNBRに導入されたグリシジル基又はエトキシカルボニル基に対するmol%であり、比較例は、試料(2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNR)に対する質量%である。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例C1〜C6について説明する。
実施例C1は、実施例D1で製造され、グリシジル基を有する架橋可能なNR(2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNR)をCHClの溶媒中に溶解させ、そこに、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン(以下架橋剤Dと省略することがある)を5mol%添加し、40℃の温度で24時間攪拌して架橋を行った。また、この架橋の反応式を次(化9)に示す。
【化9】

【0055】
実施例C2は、架橋剤Dの添加量を25mol%に変更した以外は実施例C1と同じ条件で架橋を行った。
実施例C3は、架橋剤Dの添加量を50mol%に変更した以外は実施例C1と同じ条件で架橋を行った。
【0056】
実施例C4は、実施例D2で製造され、エトキシカルボニル基を有する架橋可能なNR(2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNR)をDMFの溶媒中に溶解させ、そこに、アジピン酸ジヒドラジド(以下架橋剤Eと省略することがある)を50mol%添加し、還流温度(約180℃)で3時間攪拌して架橋を行った。
【0057】
実施例C5は、実施例D2で製造され、エトキシカルボニル基を有する架橋可能なNRに架橋剤Eを50mol%添加し、それを加熱プレス機を用い180℃で10気圧の条件で20分間加熱プレスして架橋を行った。
【0058】
実施例C6は、実施例D7で製造され、エトキシカルボニル基を有する架橋可能なNBR(2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNBR)に架橋剤Eを50mol%添加し、それを加熱プレス機を用い180℃で10気圧の条件で20分間加熱プレスして架橋を行った。
【0059】
比較例C1、C2について説明する。
比較例C1は、比較例D1で製造され、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNRをCHClの溶媒中に溶解させ、そこに、架橋剤Dを4質量%添加し、40℃の温度で24時間攪拌して架橋を行った。
比較例C2は、比較例D1で製造され、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNRに、架橋剤Dを4質量%添加し、それを加熱プレス機を用い180℃で10気圧の条件で20分間加熱プレスして架橋を行った。
【0060】
(3)ゲル化
前記の架橋により、架橋高分子材料が生成されている否かを、有機溶媒(トルエン)中に浸漬したときの状態によって確認した。
具体的には、前記の架橋によって作製したものをシート状にし、それをトルエンに浸漬した。
そして、トルエンに浸漬したときに、ゲル化した(溶解しなかった)ものは、架橋高分子材料が生成されているものと判断し、○と判定した。
一方、トルエンに浸漬したときに、溶解した(ゲル化しなかった)ものは、架橋高分子材料が生成されていないものと判断し、×と判定した。
【0061】
表2に示すように、実施例C1〜C6は、トルエンに浸漬したときに、ゲル化したことから、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが付加されて、分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を有する架橋可能なNR又は架橋可能なNBRは、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン又はアジピン酸ジヒドラジドにより架橋することができ、架橋NR又は架橋NBRを製造することができた。
また、実施例C5、C6は、無溶媒(有機溶媒を用いない)で、架橋することができた。
一方、2−メトキシ−1−ナフトニトリルオキシドが付加されたNRは、分子内にグリシジル基及びエトキシカルボニル基を有しないことから、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミンにより架橋することができなかった。
【0062】
(4)物性測定
次に、実施例C2、実施例C3の架橋高分子材料(架橋NR)のフィルムを作製し、このフィルムを用いて膨潤試験及び引張試験を行い、その結果を表3に示す。
また、NR(未架橋)についてもフィルムを作製し、このフィルムを用いて引張試験を行い、その結果を表3に示す。
これらのひずみと引張応力との関係のグラフを図1に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
(a)膨潤試験
各フィルムから1辺が1.0cmの正方形状の試験片を作成した。この試験片を洗浄し、よく乾燥させた後、有機溶媒(トルエン)中に浸漬させ、1日間静置して試験を行った。
このように、有機溶媒に浸漬させた試験片について、試験(浸漬)直後の重量から試験(浸漬)前の重量を引いた値を試験前の重量で割って、膨潤度を算出した。
また、次に示す修正Flory−Rehnerの式(数2)を用いて、網目鎖濃度vを算出した。
【数2】


V :有機溶媒(トルエン)の分子容
g :試験前における試験片中の架橋高分子材料の容積分率
μ :有機溶媒と試料(NR)との相互作用定数
:膨潤した試験片中の架橋高分子材料の容積分率
【0065】
(b)引張試験
引張試験は、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準拠し、幅2.00mmで試験を行った。
【0066】
表3及び図1のグラフに示すように、架橋剤(N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン)の添加量が多いものほど、網目鎖濃度及び引張応力が大きくなり、膨潤度が小さくなった。
【0067】
以上より、NR、PAN、NBR又はEPDMの高分子材料に、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させることにより、分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニルが導入され、分子内にグリシジル基又はエトキシカルボニルを有する架橋可能な高分子材料(架橋可能なNR、PAN、NBR又はEPDM)を製造することができた。
これら架橋可能な高分子材料は、N,N’−ジエチルヘキサメチレンジアミン又はアジピン酸ジヒドラジドにより架橋して架橋高分子材料とすることができた。
また、本発明の架橋可能な高分子材料及び架橋高分子材料は、2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドが付加することで、分子内の炭素−炭素二重結合がなくなり又は少なくなり、耐候性等を向上させることができた。
【0068】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、
2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は
2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させる付加過程により前記高分子材料にグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入することを特徴とする架橋可能な高分子材料の製造方法。
【請求項2】
前記高分子材料は、NR、PAN、NBR又はEPDMである請求項1記載の架橋可能な高分子材料の製造方法。
【請求項3】
前記付加過程は、有機溶媒中又は無溶媒で行う請求項1又は2記載の架橋可能な高分子材料の製造方法。
【請求項4】
ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、
2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は
2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させる付加過程と、
前記付加過程の後に、ジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋する架橋過程とを備えることを特徴とする架橋高分子材料の製造方法。
【請求項5】
前記高分子材料は、NR、PAN、NBR又はEPDMである請求項4記載の架橋高分子材料の製造方法。
【請求項6】
前記付加過程は、有機溶媒中又は無溶媒で行う請求項4又は5記載の架橋高分子材料の製造方法。
【請求項7】
前記架橋過程は、有機溶媒中又は無溶媒で行う請求項4〜6のいずれか一項に記載の架橋高分子材料の製造方法。
【請求項8】
ニトリルオキシドが付加反応する多重結合を有する高分子材料に、
2−(グリシジルオキシ)−1−ナフトニトリルオキシド又は
2−[5−(エトキシカルボニル)ペンチルオキシ]−1−ナフトニトリルオキシドを付加反応させることによりグリシジル基又はエトキシカルボニル基を導入してなる架橋可能な高分子材料。
【請求項9】
前記高分子材料は、NR、PAN、NBR又はEPDMである請求項8記載の架橋可能な高分子材料。
【請求項10】
請求項8又は9記載の架橋可能な高分子材料をジアミン化合物又はジヒドラジド化合物の架橋剤によって架橋してなる架橋高分子材料。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−41447(P2012−41447A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183979(P2010−183979)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 社団法人高分子学会 刊行物名 精密ネットワークポリマー研究会 第3回若手シンポジウム講演要旨集 発行日 平成22年3月4日(2010年3月4日) 研究集会名 精密ネットワークポリマー研究会 第3回若手シンポジウム 主催者名 社団法人高分子学会 開催日 平成22年3月11日(2010年3月11日)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】