説明

架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物

【課題】耐ブリード性に優れたゴム架橋物を提供でき、かつ、射出成形に用いた場合の流動性にも優れた架橋性ゴム組成物を提供する。
【解決手段】
(i)カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部、
(ii)炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物(D)2〜20重量部、並びに
(iii)ポリアミン架橋剤(E)0.1〜10重量部、
を含有してなる架橋性ゴム組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐ブリード性に優れたゴム架橋物を提供でき、かつ、射出成形に用いた場合の流動性にも優れた架橋性ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ニトリルゴム(NBR)は、耐油性、機械的特性、耐薬品性等を活かして、ホースやチューブなどの自動車用ゴム部品の材料として使用されており、また、ニトリルゴム(NBR)のポリマー鎖中の炭素−炭素二重結合を水素添加した水素化ニトリルゴム(高飽和ニトリルゴム)はさらに耐熱性に優れるため、ホース、シール等のゴム部品に使用されている。
【0003】
このような水素化ニトリルゴムにおいて、耐圧縮永久歪み性を改善するために、特許文献1には、カルボキシル基含有水素化ニトリルゴム、多価アミン架橋剤および塩基性架橋促進剤を添加した架橋性ゴム組成物が開示されている。しかしながら、この特許文献1に記載の架橋性ゴム組成物はムーニー粘度が高いため、射出成形によって成形する場合に、高シェアーのせん断領域での流動性が十分ではないという問題があり、この流動性を改善するためにステアリルアミン等のアミン化合物を添加すると、流動性は改善されるものの得られるゴム架橋物の耐ブリード性や耐圧縮永久歪み性が不十分になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−55471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、射出成形に用いた場合の流動性に優れ、耐ブリード性に優れたゴム架橋物を提供できる架橋性ゴム組成物、および、該架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム、水酸基を有する特定の化合物およびポリアミン架橋剤を、特定量含有する架橋性ゴム組成物を用いることで、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば、(i)カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部、(ii)炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物(D)2〜20重量部、並びに(iii)ポリアミン架橋剤(E)0.1〜10重量部、を含有してなる架橋性ゴム組成物が提供される。
なお、上記水酸基を有する化合物(D)は、炭素数10〜20のアルコール(C)であることが好ましく、炭素数が10〜20の飽和アルコールであることがより好ましい。
【0008】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜60重量%、共役ジエン単量体単位39.5〜80重量%、および、カルボキシル基含有単量体単位0.5〜15重量%の割合で含有することが好ましく、該カルボキシル基含有単量体単位が、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体単位であることがより好ましい。
【0009】
そして、上記の架橋性ゴム組成物が、射出成形用の架橋性ゴム組成物であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上記架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、射出成形に用いた場合の流動性に優れ、耐ブリード性に優れたゴム架橋物を提供できる架橋性ゴム組成物、および、該架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の架橋性ゴム組成物は、(i)カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部、(ii)炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物(D)2〜20重量部、並びに(iii)ポリアミン架橋剤(E)0.1〜10重量部、を含有してなる。
【0013】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体および必要に応じて加えられる、上記各単量体と共重合可能な単量体を共重合して得られる、ヨウ素価が120以下のゴムである。
【0014】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されず、たとえば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリルなどが挙げられる。これらのなかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体は、1種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量は、高飽和ニトリルゴム(A)を構成する全単量体単位に対して、好ましくは5〜60重量%、より好ましくは10〜55重量%、さらに好ましくは15〜50重量%である。α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の耐油性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐寒性が低下する可能性がある。
【0016】
カルボキシル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能であり、かつ、エステル化されていない無置換の(フリーの)カルボキシル基を1個以上有する単量体であれば特に限定されない。このようなカルボキシ基含有単量体としては、たとえば、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体、およびα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体などが挙げられる。また、カルボキシル基含有単量体には、これらの単量体のカルボキシル基がカルボン酸塩を形成している単量体も含まれる。さらに、α,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の無水物も、共重合後に酸無水物基を開裂させてカルボキシル基を形成するので、カルボキシル基含有単量体として用いることができる。
【0017】
α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などが挙げられる。
【0018】
α,β−不飽和多価カルボン酸単量体としては、フマル酸やマレイン酸などのブテンジオン酸、イタコン酸、シトラコン酸などが挙げられる。また、α,β−不飽和多価カルボン酸の無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0019】
α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノn−ブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノn−ブチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、イタコン酸モノn−ブチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、シトラコン酸モノn−ブチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体;マレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、マレイン酸モノシクロヘプチル、フマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸モノシクロヘプチル、イタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、イタコン酸モノシクロヘプチル、シトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、シトラコン酸モノシクロヘプチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノシクロアルキルエステル単量体;マレイン酸モノメチルシクロペンチル、マレイン酸モノエチルシクロヘキシル、フマル酸モノメチルシクロペンチル、フマル酸モノエチルシクロヘキシル、イタコン酸モノメチルシクロペンチル、イタコン酸モノエチルシクロヘキシル、シトラコン酸モノメチルシクロペンチル、シトラコン酸モノエチルシクロヘキシルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルシクロアルキルエステル単量体;マレイン酸モノ2−ヒドロキシエチル、マレイン酸モノ3−ヒドロキシプロピル、フマル酸モノ2−ヒドロキシエチル、フマル酸モノ2−ヒドロキシプロピル、イタコン酸モノ2−ヒドロキシエチル、イタコン酸モノ3−ヒドロキシプロピル、シトラコン酸モノ2−ヒドロキシエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノヒドロキシアルキルエステル単量体;マレイン酸モノシクロヘキセニル、フマル酸モノシクロヘキセニルなどの、脂環構造を有するα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体;などが挙げられる。
【0020】
カルボキシル基含有単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
これらの中でも、本発明の効果がより一層顕著になることから、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノエステル単量体が好ましく、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体がより好ましく、マレイン酸モノアルキルエステルがさらに好ましく、マレイン酸モノn−ブチルが特に好ましい。なお、上記アルキルエステルのアルキル基の炭素数は、2〜8が好ましい。
【0021】
カルボキシル基含有単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは0.5〜15重量%、より好ましくは1〜12重量%、さらに好ましくは2〜10重量%である。カルボキシル基含有単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度および耐圧縮永久歪み性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると、架橋性ゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が低下するおそれがある。
【0022】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、およびカルボキシル基含有単量体とともに、得られる架橋物がゴム弾性を発現するという点より、共役ジエン単量体を共重合したものが好ましい。
【0023】
共役ジエン単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、およびカルボキシル基含有単量体と共重合可能なものであれば特に限定されないが、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4〜6の共役ジエン単量体が好ましく、1,3−ブタジエンおよびイソプレンがより好ましく、1,3−ブタジエンが特に好ましい。共役ジエン単量体は、一種単独でも、複数種を併用してもよい。
【0024】
共役ジエン単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは39.5〜80重量%、より好ましくは44〜78重量%、さらに好ましくは48〜75重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量が少なすぎると、得られるゴム架橋物のゴム弾性が低下するおそれがあり、逆に、多すぎると耐熱性や耐化学的安定性が損なわれる可能性がある。
【0025】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)は、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体、カルボキシル基含有単量体、および共役ジエン単量体とともに、これらと共重合可能なその他の単量体を共重合したものであってもよい。このようなその他の単量体としては、エチレン、α−オレフィン単量体、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(カルボキシル基含有単量体に該当するものは除く)、フッ素含有ビニル単量体、共重合性老化防止剤などが例示される。
【0026】
α−オレフィン単量体としては、炭素数が2〜12のものが好ましく、たとえば、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。
【0027】
芳香族ビニル単量体としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルピリジンなどが挙げられる。
【0028】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体(カルボキシル基含有単量体に該当するものは除く)としては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどの炭素数1〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル(「メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステル」の略記。以下同様。);アクリル酸メトキシメチル、メタクリル酸メトキシエチルなどの炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸α−シアノエチル、メタクリル酸シアノブチルなどの炭素数2〜12のシアノアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの炭素数1〜12のヒドロキシアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;アクリル酸トリフルオロエチル、メタクリル酸テトラフルオロプロピルなどの炭素数1〜12のフルオロアルキル基を有する(メタ) アクリル酸エステル;マレイン酸ジメチル、フマル酸ジメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチルなどのα,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;ジメチルアミノメチルアクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレートなどのアミノ基含有α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル;などが挙げられる。
【0029】
フッ素含有ビニル単量体としては、たとえば、フルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−トリフルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
【0030】
共重合性老化防止剤としては、たとえば、N−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナムアミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、 N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、N−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリンなどが挙げられる。
【0031】
これらの共重合可能なその他の単量体は、1種単独でも複数種類を併用してもよい。
その他の単量体の単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは50重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
【0032】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のヨウ素価は、120以下であり、好ましくは80以下、より好ましくは25以下、特に好ましくは15以下である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のヨウ素価が高すぎると、得られるゴム架橋物の耐熱性および耐オゾン性が低下するおそれがある。
【0033】
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは15〜200、より好ましくは20〜150、特に好ましくは30〜120である。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のポリマームーニー粘度が低すぎると、得られるゴム架橋物の機械的強度が低下するおそれがあり、逆に、高すぎると、架橋性ゴム組成物の流動性が低下する可能性がある。
【0034】
また、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)におけるカルボキシル基の含有量、すなわち、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100g当たりのカルボキシル基のモル数は、好ましくは5×10−4〜5×10−1ephr、より好ましくは1×10−3〜1×10−1ephr、さらに好ましくは5×10−3〜6×10−2ephrである。カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)のカルボキシル基含有量が少なすぎると得られるゴム架橋物の機械的強度および耐圧縮永久歪み性が低下するおそれがあり、多すぎると、架橋性ゴム組成物のスコーチ安定性が悪化したり、得られるゴム架橋物の耐疲労性が低下する可能性がある。
【0035】
本発明で用いるカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)の製造方法は、特に限定されないが、乳化剤を用いた乳化重合により上述の単量体を共重合して共重合体ゴムのラテックスを調製し、これを水素化し、その後、凝固および乾燥することにより製造することが好ましい。乳化重合に際しては、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の通常用いられる重合副資材を使用することができる。
【0036】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸及びリノレン酸等の脂肪酸の塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;α,β−不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β−不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤;などが挙げられる。乳化剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部である。
【0037】
重合開始剤としては、ラジカル開始剤であれば特に限定されないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;t−ブチルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、単独でまたは2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤としては、無機または有機の過酸化物が好ましい。重合開始剤として過酸化物を用いる場合には、重亜硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄等の還元剤と組み合わせて、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。重合開始剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.001〜2重量部、より好ましくは0.01〜2重量部である。
【0038】
分子量調整剤としては、特に限定されないが、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン等のメルカプタン類;四塩化炭素、塩化メチレン、臭化メチレン等のハロゲン化炭化水素;α−メチルスチレンダイマー;テトラエチルチウラムダイサルファイド、ジペンタメチレンチウラムダイサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンダイサルファイド等の含硫黄化合物等が挙げられる。これらは単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、メルカプタン類が好ましく、t−ドデシルメルカプタンがより好ましい。分子量調整剤の使用量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは0.1〜1.5重量部である。
【0039】
乳化重合の媒体には、通常、水が使用される。水の量は、全単量体100重量部に対して、好ましくは80〜500重量部である。
【0040】
乳化重合に際しては、さらに、必要に応じて安定剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができる。これらを用いる場合においては、その種類、使用量とも特に限定されない。
【0041】
そして、得られた共重合体のヨウ素価が120を超える場合には、共役ジエン単量体単位の二重結合を選択的に水素化することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を製造することができる。なお、水素化に用いる水素化触媒の種類と量、水素化温度などは、公知の方法に準じて決めればよい。なお、水素化は、ラテックス状態のまま行っても良く、共重合体を単離した後に、溶液中などで行っても良い。水素化の後に、凝固、乾燥を行うことにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)を単離することができる。
【0042】
水酸基を有する化合物(D)
本発明の架橋性ゴム組成物は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対し、炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物(D)2〜20重量部を含有する。
【0043】
水酸基を有する化合物(D)は、炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれるものであれば特に限定されないが、得られるゴム架橋物の耐ブリード性および耐圧縮永久歪み性向上の観点から、炭素数10〜20のアルコール(C)が好ましい。
【0044】
水酸基を有する化合物(D)の使用量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対し、2〜20重量部、好ましくは2〜15重量部である。水酸基を有する化合物(D)の使用量が少なすぎると、架橋性ゴム組成物の流動性が悪化するおそれがある。また、水酸基を有する化合物(D)の使用量が多すぎると、得られるゴム架橋物の耐ブリード性および耐圧縮永久歪み性が悪化する可能性がある。
【0045】
炭素数が10〜20の脂肪酸(B)の具体例としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの炭素数が10〜20の飽和脂肪酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの炭素数が10〜20の不飽和脂肪酸;などが挙げられるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、炭素数が10〜20の飽和脂肪酸が好ましく、炭素数が15〜20の飽和脂肪酸がより好ましく、ステアリン酸が特に好ましい。
【0046】
炭素数10〜20のアルコール(C)の具体例としては、ラウリルアルコール、トリデカノール、ミリスチルアルコール、パルミチルアルコール、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、エイコサノールなどの炭素数が10〜20の飽和アルコール;2、4−ドデカジエン−1−オール、2−ドデセノール、オレイルアルコール、リノレイルアルコールなどの炭素数が10〜20の不飽和アルコール;などが挙げられるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、炭素数が10〜20の飽和アルコールが好ましく、末端炭素原子に結合した水酸基を一つ有する炭素数が10〜20の直鎖飽和アルコールがより好ましく、ラウリルアルコールおよびステアリルアルコールが特に好ましい。
【0047】
ポリアミン架橋剤(E)
本発明の架橋性ゴム組成物は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対し、ポリアミン架橋剤(E)0.1〜10重量部、好ましくは0.2〜5重量部、特に好ましくは0.5〜5重量部を含有する。ポリアミン架橋剤(E)の含有量が少な過ぎると、得られるゴム架橋物の機械的特性および耐圧縮永久歪み性が悪化するおそれがある。一方、多過ぎると、得られるゴム架橋物の耐屈曲疲労性が悪化する可能性がある。
【0048】
本発明で用いるポリアミン架橋剤(E)としては、2つ以上のアミノ基を有する化合物、または、架橋時に2つ以上のアミノ基を有する化合物の形態になるもの、であれば特に限定されないが、脂肪族炭化水素や芳香族炭化水素の複数の水素原子が、アミノ基またはヒドラジド構造(−CONHNHで表される構造、COはカルボニル基を表す。)で置換された化合物および架橋時にその化合物の形態になるものが好ましい。その具体例として、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、テトラメチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンシンナムアルデヒド付加物、ヘキサメチレンジアミンジベンゾエート塩などの脂肪族多価アミン類;2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、4,4’−メチレンジアニリン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)などの芳香族多価アミン類;イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジドなどのヒドラジド構造を2つ以上有する化合物;などが挙げられる。これらのなかでも、脂肪族多価アミン類が好ましく、ヘキサメチレンジアミンカルバメートが特に好ましい。
【0049】
また、本発明の架橋性ゴム組成物は、塩基性架橋促進剤をさらに含有していることが好ましい。塩基性架橋促進剤をさらに含有させることにより、本発明の効果がより一層顕著になる。
【0050】
塩基性架橋促進剤の具体例としては、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7(以下「DBU」と略す場合がある)および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5(以下「DBN」と略す場合がある)、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−メトキシエチルイミダゾール、1−フェニル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−2−フェニルイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリメチルイミダゾール、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−エトキシイミダゾール、1−メチル−4−メトキシイミダゾール、1−メチル−2−メトキシイミダゾール、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾール、1−メチル−4−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−ニトロイミダゾール、1,2−ジメチル−5−アミノイミダゾール、1−メチル−4−(2−アミノエチル)イミダゾール、1−メチルベンゾイミダゾール、1−メチル−2−ベンジルベンゾイミダゾール、1−メチル−5−ニトロベンゾイミダゾール、1−メチルイミダゾリン、1,2−ジメチルイミダゾリン、1,2,4−トリメチルイミダゾリン、1,4−ジメチル−2−エチルイミダゾリン、1−メチル−フェニルイミダゾリン、1−メチル−2−ベンジルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプチルイミダゾリン、1−メチル−2−ウンデシルイミダゾリン、1−メチル−2−ヘプタデシルイミダゾリン、1−メチル−2−エトキシメチルイミダゾリン、1−エトキシメチル−2−メチルイミダゾリンなどの環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤;テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、1,3−ジ−オルト−トリルグアニジン、オルトトリルビグアニドなどのグアニジン系塩基性架橋促進剤;n−ブチルアルデヒドアニリン、アセトアルデヒドアンモニアなどのアルデヒドアミン系塩基性架橋促進剤;などが挙げられる。これらのなかでも、グアニジン系塩基性架橋促進剤および環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤が好ましく、環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤がより好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7および1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]ノネン−5がさらに好ましく、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7が特に好ましい。なお、上記環状アミジン構造を有する塩基性架橋促進剤は、有機カルボン酸やアルキルリン酸などと塩を形成していてもよい。
【0051】
本発明の架橋性ゴム組成物中における、塩基性架橋促進剤の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1〜20重量部であり、より好ましくは0.2〜15重量部、さらに好ましくは0.5〜10重量部である。塩基性架橋促進剤の配合量が少なすぎると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が遅過ぎて架橋密度が低下する場合がある。一方、配合量が多すぎると、架橋性ゴム組成物の架橋速度が速すぎてスコーチを起こしたり、貯蔵安定性が損なわれる場合がある。
【0052】
なお、本発明の架橋性ゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で上述したカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)以外のゴムを配合してもよい。
このようなゴムとしては、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン共重合体ゴム、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴムなどが挙げられる。
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)以外のゴムの、架橋性ゴム組成物中の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、好ましくは60重量部以下、より好ましくは30重量部以下、さらに好ましくは10重量部以下である。
【0053】
また、本発明の架橋性ゴム組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、可塑剤を配合してもよい。可塑剤としては、特に限定されず、ゴム加工分野において通常使用されている可塑剤を用いることもできる。可塑剤の配合量は、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部に対して、1〜20重量部が好ましく、1〜10重量部が特に好ましい。
【0054】
また、本発明の架橋性ゴム組成物には、上述した各成分に加えて、ゴム加工分野において通常使用されるその他の配合剤を配合してもよい。このような配合剤としては、たとえば、補強剤、充填材、酸化防止剤、光安定剤、スコーチ防止剤、加工助剤、滑剤、粘着剤、潤滑剤、難燃剤、防黴剤、帯電防止剤、着色剤、シランカップリング剤、架橋助剤、架橋遅延剤、発泡剤などが挙げられる。これらの配合剤の配合量は、配合目的に応じた量を適宜使用することができる。
【0055】
本発明の架橋性ゴム組成物は、上記各成分を好ましくは非水系で混合することで調製される。本発明の架橋性ゴム組成物を好適に調製する方法としては、架橋剤など熱に不安定な成分を除いた成分を、バンバリーミキサ、インターミキサ、ニーダなどの混合機で一次混練した後、オープンロールなどに移して架橋剤など熱に不安定な成分を加えて二次混練することなどが挙げられる。なお、一次混練は、通常、10〜200℃、好ましくは30〜180℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行い、二次混練は、通常、10〜100℃、好ましくは20〜60℃の温度で、1分間〜1時間、好ましくは1分間〜30分間行う。
【0056】
本発明の架橋性ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、好ましくは5〜200、より好ましくは10〜150、さらに好ましくは20〜100、特に好ましくは40〜90である。
【0057】
本発明の架橋性ゴム組成物の成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、ロール成形などが挙げられるが、本発明の架橋性ゴム組成物が流動性に優れることから、射出成形が好ましい。すなわち、本発明の架橋性ゴム組成物は、射出成形用の架橋性ゴム組成物として、好適に用いられる。
【0058】
本発明のゴム架橋物は、上述した本発明の架橋性ゴム組成物を架橋してなるものである。
本発明のゴム架橋物は、本発明の架橋性ゴム組成物を用い、たとえば、所望の形状に対応した成形方法により成形を行い、加熱することにより架橋反応を行い、架橋物として形状を固定化することにより製造することができる。
【0059】
この場合においては、予め成形した後に架橋しても、成形と同時に架橋を行ってもよい。成形温度は、通常、10〜200℃、好ましくは25〜120℃である。架橋温度は、通常、100〜250℃、好ましくは110〜220℃、より好ましくは120〜200℃であり、架橋時間は、通常、1分〜24時間、好ましくは2分〜12時間、特に好ましくは3分〜6時間である。
【0060】
また、ゴム架橋物の形状、大きさなどによっては、表面が架橋していても内部まで十分に架橋していない場合があるので、さらに加熱して二次架橋を行ってもよい。
【0061】
加熱方法としては、プレス加熱、スチーム加熱、オーブン加熱、熱風加熱などのゴムの架橋に用いられる一般的な方法を適宜選択すればよい。
【0062】
このようにして得られる本発明のゴム架橋物は、機械的強度、耐熱性および耐油性に優れる高飽和ニトリルゴム架橋物の特性に加え、耐ブリード性に優れる。
【0063】
このため、本発明のゴム架橋物は、O−リング、パッキン、ダイアフラム、オイルシール、シャフトシール、ベアリングシール、ウェルヘッドシール、空気圧機器用シール、エアコンディショナの冷却装置や空調装置の冷凍機用コンプレッサに使用されるフロン若しくはフルオロ炭化水素または二酸化炭素の密封用シール、精密洗浄の洗浄媒体に使用される超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素の密封用シール、転動装置(転がり軸受、自動車用ハブユニット、自動車用ウォーターポンプ、リニアガイド装置およびボールねじ等)用のシール、バルブおよびバルブシート、BOP(Blow Out Preventar)、プラターなどの各種シール材;インテークマニホールドとシリンダヘッドとの連接部に装着されるインテークマニホールドガスケット、シリンダブロックとシリンダヘッドとの連接部に装着されるシリンダヘッドガスケット、ロッカーカバーとシリンダヘッドとの連接部に装着されるロッカーカバーガスケット、オイルパンとシリンダブロックあるいはトランスミッションケースとの連接部に装着されるオイルパンガスケット、正極、電解質板および負極を備えた単位セルを挟み込む一対のハウジング間に装着される燃料電池セパレーター用ガスケット、ハードディスクドライブのトップカバー用ガスケットなどの各種ガスケット;印刷用ロール、製鉄用ロール、製紙用ロール、工業用ロール、事務機用ロールなどの各種ロール;平ベルト(フィルムコア平ベルト、コード平ベルト、積層式平ベルト、単体式平ベルト等)、Vベルト(ラップドVベルト、ローエッジVベルト等)、Vリブドベルト(シングルVリブドベルト、ダブルVリブドベルト、ラップドVリブドベルト、背面ゴムVリブドベルト、上コグVリブドベルト等)、CVT用ベルト、タイミングベルト、歯付ベルト、コンベアーベルト、などの各種ベルト;燃料ホース、ターボエアーホース、オイルホース、ラジェターホース、ヒーターホース、ウォーターホース、バキュームブレーキホース、コントロールホース、エアコンホース、ブレーキホース、パワーステアリングホース、エアーホース、マリンホース、ライザー、フローラインなどの各種ホース;CVJブーツ、プロペラシャフトブーツ、等速ジョイントブーツ、ラックアンドピニオンブーツなどの各種ブーツ;クッション材、ダイナミックダンパ、ゴムカップリング、空気バネ、防振材などの減衰材ゴム部品;ダストカバー、自動車内装部材、タイヤ、被覆ケーブル、靴底、電磁波シールド、フレキシブルプリント基板用接着剤等の接着剤、燃料電池セパレーターの他、エレクトロニクス分野など幅広い用途に使用することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験および評価は下記によった。
【0065】
ヨウ素価
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのヨウ素価は、JIS K6235に準じて、測定した。
【0066】
カルボキシル基含有量
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのカルボキシル基含有量は、次の方法により測定した。すなわち、2mm角のカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム0.2gに、2−ブタノン100mlを加えて16時間攪拌して溶解させた後、エタノール20mlおよび水10mlを加え、攪拌しながら水酸化カリウムの0.02N含水エタノール溶液を用いて、25℃でチモールフタレインを指示薬とする滴定を行なうことにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム100gに対するカルボキシル基のモル数として求めた(単位はephr)。
【0067】
ムーニー粘度
カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴムのムーニー粘度(ポリマームーニー)および架橋性ゴム組成物のムーニー粘度(コンパウンドムーニー)をJIS K6300に従って測定した(単位は(ML1+4、100℃))。
【0068】
常態物性(引張強さ、伸び、硬さ)
架橋性ゴム組成物を、縦15cm、横15cm、深さ0.2cmの金型に入れ、プレス圧10MPaで加圧しながら170℃で20分間プレスすることにより一次架橋し、次いで、得られた一次架橋物を、ギヤー式オーブンにて、さらに170℃、4時間の条件で加熱して二次架橋させることにより、シート状のゴム架橋物を得た。得られたシート状のゴム架橋物を3号形ダンベルで打ち抜いて試験片を作製した。次に、この試験片を用いて、JIS K6251に従い、引張強さ、および伸びを、また、JIS K6253に従い、デュロメータ硬さ試験機(タイプA)を用いて硬さを、それぞれ測定した。
【0069】
圧縮永久歪み試験
内径30mm、リング径3mmの金型を用いて、架橋性ゴム組成物を170℃で20分間、プレス圧10MPaで架橋した後、170℃で4時間二次架橋を行うことにより、O−リング状の試験片を得た。そして、得られたO−リング状の試験片を用いて、O−リング状の試験片を挟んだ二つの平面間の距離をリング厚み方向に25%圧縮した状態で150℃にて168時間保持する条件で、JIS K6262に従って、O−リング圧縮永久歪みを測定した。この値が小さいほど、耐圧縮永久歪み性に優れる。
【0070】
耐油浸漬試験
JIS K6258に従い、耐油浸漬試験を行った。
すなわち、上述した常態物性の場合と同様にして、シート状のゴム架橋物を得て、得られたシート状のゴム架橋物を、縦25mm、横20mmの形状に打ち抜いて、耐油浸漬試験用の試験片を作成した。次に、この試験片を、温度150℃、168時間の条件で、試験用潤滑油IRM901オイル中に浸漬させた。そして、オイル中に浸漬させたゴム架橋物について、浸漬前後の体積の変化率(単位:%)を測定することにより、耐油性を評価した。浸漬前後の体積の変化率の絶対値が小さいほど、耐油性に優れる。
【0071】
架橋シートの貯蔵性(耐ブリード性)
上述した常態物性の評価と同様にして、シート状のゴム架橋物を得て、得られたシート状のゴム架橋物を、縦40mm、横30mmの形状に打ち抜いて、架橋シート(シート状のゴム架橋物)の貯蔵性試験用の試験片を作成した。次に、この試験片を、温度40℃、湿度80%の恒温恒湿機の中に入れ、168時間放置した。次に、取り出した試験片の表面状態を観察し、架橋シートの貯蔵性の評価を行った。評価は、以下の基準によって行った。
○:架橋シート表面に白い濁りが見られず、ブリード物も観察されない
×:架橋シート表面が白く濁り、ブリード物が観察される
なお、ブリード物の有無の判断は、架橋シート表面を金属製へらで引っ掻いたときに、ブリード物(架橋シートから分離して表面に浮き出た固形物)が剥ぎ取られるかどうかで判断した。
【0072】
合成例1(カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)の製造)
金属製ボトルに、イオン交換水180部、濃度10重量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、アクリロニトリル37部、マレイン酸モノn−ブチル6部、t−ドデシルメルカプタン(分子量調整剤)0.75部の順に仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、1,3−ブタジエン57部を仕込んだ。金属製ボトルを5℃に保ち、クメンハイドロパーオキサイド(重合開始剤)0.1部を仕込み、金属製ボトルを回転させながら16時間重合反応した。その後、濃度10重量%のハイドロキノン水溶液(重合停止剤)0.1部を加えて重合反応を停止し、金属製ボトルの内容物をガラス製フラスコに移し、引き続いて、水温60℃のロータリーエバポレータを用いて減圧下で残留単量体を除去し、アクリロニトリル−ブタジエン−マレイン酸モノn−ブチル共重合体ゴムのラテックス(固形分濃度約30重量%)を得た。
次に、該ラテックスに含有されるゴム重量に対してパラジウム含有量が1000ppmになるようにオートクレーブにパラジウム触媒(1重量%酢酸パラジウムアセトン溶液と等重量のイオン交換水を混合した溶液)を添加して、水素圧3MPa、温度50℃で6時間水素添加反応を行い、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)のラテックスを得た。
そして、得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)のラテックスに2倍容量のメタノールを加えて凝固した後、60℃で12時間真空乾燥することにより、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)を得た。得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)は、ヨウ素価が10、カルボキシル基含有量は3.2×10−2ephr、ポリマームーニー粘度(ML1+4、100℃)は45であった。
なお、ケルダール法でアクリロニトリル単位含有量を求め、カルボキシル基含有量からマレイン酸モノn−ブチル単位含有量を求め、残部を1,3−ブタジエン単位として計算により求めたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)の組成は、アクリロニトリル単位36重量%、ブタジエン単位(水素化されたものも含む)58.5重量%、マレイン酸モノn−ブチル単位5.5重量%であった。
【0073】
実施例1
バンバリーミキサを用いて、合成例1で得られたカルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)100部に、FEFカーボンブラック(商品名「シーストSO」、東海カーボン社製)40部、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)5部、4,4’−ジ−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(商品名「ノクラックCD」、大内新興化学社製、老化防止剤)1.5部、ステアリン酸1部、さらにステアリルアルコール(和光純薬工業社製、炭素数18の飽和アルコール)4部を添加して、50℃で5分間混合した。次いで、得られた混合物を50℃のロールに移して、ヘキサメチレンジアミンカルバメート(商品名「Diak#1」、デュポンダウエラストマー社製、脂肪族多価アミン類に属するポリアミン架橋剤)2.6部、および1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−ウンデセン−7(DBU)(商品名「RHENOGRAN XLA−60(GE2014)」、RheinChemie社製、DBU60%(ジンクジアルキルジフォスフェイト塩になっている部分も含む)、塩基性架橋促進剤)4部を配合して、混練することにより、架橋性ゴム組成物を得た。
【0074】
そして、得られた架橋性ゴム組成物を用いて、上述した方法により、コンパウンドムーニー粘度、常態物性、耐油浸漬試験、圧縮永久歪み試験および架橋シートの貯蔵性(耐ブリード性)の各評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
実施例2
実施例1において、ステアリルアルコール4部の代わりに、ステアリルアルコール8部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
実施例3
実施例1において、ステアリルアルコール4部の代わりに、ステアリルアルコール12部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
実施例4
実施例1において、ステアリルアルコール4部とステアリン酸1部を用いた代わりに、ステアリン酸(炭素数18の飽和脂肪酸)を6部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
実施例5
実施例1において、ステアリルアルコール4部の代わりに、ラウリルアルコール(和光純薬工業社製、炭素数12の飽和アルコール)6部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
比較例1
実施例1において、ステアリン酸1部およびステアリルアルコール4部を用いなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
比較例2
実施例1において、ステアリルアルコール4部を用いなかった以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
比較例3
実施例1において、ステアリルアルコール4部の代わりに、ステアリルアミン(商品名「ファーミン80」、花王社製、炭素数18のアミン化合物)8部を用いた以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
比較例4
実施例1において、ステアリルアルコール4部を用いず、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル(商品名「アデカサイザーC−8」、ADEKA社製、可塑剤)の添加量を15部に増量した以外は、実施例1と同様にして架橋性ゴム組成物を得て、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1より、カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(a)に、本願で規定する量の炭素数が10〜20の脂肪酸および炭素数10〜20のアルコールからなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物を配合し、さらに本願で規定する量のポリアミン架橋剤を配合した場合には、得られるゴム架橋物は架橋シートの貯蔵性(耐ブリード性)に優れ、強度および耐油性も良好であり、架橋性ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度が低いことから、射出成形時の架橋性ゴム組成物の流れ性を改善することができるものであった(実施例1〜5)。なお、水酸基を有する化合物として、炭素数10〜20のアルコールを用いた場合には、得られるゴム架橋物が、耐圧縮永久歪み性にも優れたものであった(実施例1〜3および実施例5)。
【0085】
一方、炭素数が10〜20の脂肪酸および炭素数10〜20のアルコールのいずれも使用しなかった場合(比較例1)、および、炭素数が10〜20の脂肪酸を使用しても、その使用量が本願で規定する量に満たない場合(比較例2)には、架橋性ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度が高く、射出成形時の流動性に劣る結果となった。
また、炭素数が10〜20の脂肪酸や炭素数10〜20のアルコールに代えて、ステアリルアミン(アミン化合物)を用いた場合には、架橋性ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度を下げることはできたが、得られるゴム架橋物の架橋シートの貯蔵性(耐ブリード性)および耐圧縮永久歪み性に劣る結果となった(比較例3)。
また、炭素数が10〜20の脂肪酸や炭素数10〜20のアルコールを用いずに、可塑剤の添加量を多くして、架橋性ゴム組成物のコンパウンドムーニー粘度を下げた場合には、耐油性に劣る結果となった(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)100重量部、
(ii)炭素数が10〜20の脂肪酸(B)および炭素数10〜20のアルコール(C)からなる群より選ばれる、少なくとも1種の水酸基を有する化合物(D)2〜20重量部、並びに
(iii)ポリアミン架橋剤(E)0.1〜10重量部、
を含有してなる架橋性ゴム組成物。
【請求項2】
前記水酸基を有する化合物(D)が、炭素数10〜20のアルコール(C)である請求項1に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項3】
前記アルコール(C)が、炭素数10〜20の飽和アルコールである請求項2に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項4】
前記カルボキシル基含有高飽和ニトリルゴム(A)が、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体単位を5〜60重量%、共役ジエン単量体単位39.5〜80重量%、および、カルボキシル基含有単量体単位0.5〜15重量%の割合で含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有単量体単位が、α,β−エチレン性不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル単量体単位である請求項4に記載の架橋性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物からなる射出成形用の架橋性ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物。

【公開番号】特開2013−18936(P2013−18936A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155598(P2011−155598)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】